ふと、地面しか見ていなかった視線を上げてみる。
葉が無くなり、少ししょげている木々の間。そんな薄闇に包まれた世界の中に、ぽつぽつと明りが灯っていた。
それは何だろうか、いつも見ている光景かもしれないけど、今日は何か違う気がする。
どこか暖かくて、賑やかな光だ。
今はまだ遠目にしか見ていないけれど。あの光をじっと眺めていたら、ふらふらとそちらに向かってしまいそうになる。
「……そんなわけ、ないか」
何を馬鹿げたことを思っているのだろう。
自分はそんな誘蛾燈に集まる羽虫ではないのだから。仮にも人の形をしている以上、そんなことはあり得ないはずだ。
―――でも、何だろう。本当に綺麗な光だと、そう感じた。
思わずチャームポイントの一つでもある猫目も細くなってしまうというものである。
師走に入ってから段々と気温も一桁近くまで低下してきている、幻想郷の冬。
果たして今年の秋は一体どこに行ってしまったのか。というかあったのか? 誰もがそう思うくらい、最近急激な冷え込みを見せていた。
今回の話は、そんな冬真っ盛りなおはなし。
◆◆◆お燐ちゃんタ!◆◆◆
「はあ……それにしてもこの時期が死体が少なくてやだね。地底も地上もそこだけは変わらないのかなぁ」
がらがら。がらがらがら。
耳を澄ませば何も聞こえないような森の中、お燐は一人ぶつぶつ呟いていた。
今日の死体の数はぼちぼちではあったが、ここ数日に比べたらやけに少ない気がする。
特に、人間がやけに少ないのだ。
そして、生き物の気配が極端に少ない。やっぱり外がこんなにも寒いからだろうか。
時々きんとした風が吹きつけると、耳がちょっとだけ痛くなる。猫の耳も、人の耳もだ。
こうして愛用の猫車をひき、死体を探している間も自分のはいた白い息が良く見える。頬もじんわりと赤みを帯びていることだろう。
自分がこうして、生きている証でもある。
「はは。なーに考えてるのかな、あたいは。あんたもそう思うだろう?」
自分はこんな感傷的な妖怪じゃあない。そう思いながらも、猫車の中に入っている人物に声をかける。
……いや、人物ではない。妖精である。地底に住まう妖精、ゾンビフェアリーだ。
とはいっても、実際に死んでいるわけではない。実際はゾンビの真似をしている妖精なだけである。
お燐は何の気まぐれか、今回たまたま一匹だけ地上に連れてきていたのだ。
彼女は動いている猫車の振動が心地良かったのか、すやすやと眠ってしまっていた。
「……おーい。寝てるんじゃないよ。そんなとこで寝てたら文字通り揺りかごから墓場まで連れていっちゃうよ?」
がこん、と猫車を止めて、中ですやすや眠っているゾンビフェアリーのほっぺをぷにぷにとする。
ひんやりとした、雪見大福のような感触。妖精は大体子供みたいな柔肌をしているのだ。羨ましい限りである。
そのまま何回かつついてると、彼女の両目がぱっちりと開いた。急に目が覚めた人みたいに、左右をきょろきょろ見回しているようだ。
お燐はそんな光景を微笑ましく思いながら、また猫車を前へと動かした。今度は急に動いたからか、小さな彼女がころんと前のめりにこける。
かわいいものである。
「目が覚めたかい?」
お燐の声に気づいた妖精は向きを彼女の方に変えると、ぷくーっと小さい頬を膨らませた。
どうやら自分の眠りを邪魔するな、と出張しているようで。
数あるゾンビフェアリーの中でも彼女は無口な方で、感情の波が小さい。普段騒がしいのが多い妖精の中でも珍しい存在だ。
そんなご機嫌ななめな妖精に苦笑しながら、お燐は車を進めていく。
この森の中も大分探し回ったし、そろそろ地霊殿の方に戻ってもいい頃合いだろう。収穫は少なかったけれど。
がらら。がこん。
「っとと。あれ? ここはー……」
少しぼーっとしていたら大きめの石に車が当たったので、慌ててバランスを取りなおす。
その時、お燐は自分が今どこにいるのかようやく分かったのだった。
「ありゃ。どうやら大分神社から離れてしまったみたいだねぇ」
目の前には自分の目と同様、紅色に染まった御屋敷が聳え立っていた。
博麗神社からでもちらりと見えるので気にはなっていたが、森の中を適当に探索していたらたまたまここに来てしまっていたらしい。
辺りが暗くても、この屋敷だけは認識出来るものだ。それくらい目立つ色をしている。
一体この中の主人はどんな姿をしているのやら。地底の住人であるお燐は、その姿を全く知らないのだった。
「折角だし、ちょっとだけ見て回るとしますか」
勿論その恐ろしさも知らない。無知とは時として危険なこともある。
そんなことも露知らず、お燐は車の中のゾンビフェアリーに確認をとってから、館の周りを見て行くことにした。
とはいっても妖精は本来好奇心の塊だ。もう寒いから帰ろうというより、ここには何があるのだろうという興味が強い。
要は念のための確認ということである。
くるくると車を回しながら、お燐は館を足早に見物していく。見たところ中々ご立派な建物のようだった。
ぽつぽつとある窓からは黄色い明かりが見えており、何やら中でどたばた音がしている。
……まあ、貴族みたいな佇まいの人たちがどんちゃん騒ぎをしていることであろう。
「あ、むしろお酒一気飲みとかして誰かぶっ倒れたりしてくれないかなぁ……」
そんな物騒なことも呟きながらも、館の角を曲がっていく。もう角を二回ほど曲がっただろうか。
さっきはこの館の裏側、そして側面。となれば、次は正門だろう。
流石に正面からとなれば何かしらいるだろうと思いつつも、お燐は敢えて無警戒に角を曲がる。
まあ中でこんだけ騒がしいのだ。きっと無礼講みたいなことになっていることだろう。
もしかしたら何かしらの食べ物にありつけるかも……と思いつつも、ざっと館の正面を見据えてみた。
「はー。こうして見ると立派なものだね、このお屋敷」
改めて正面から館を見てみると、そこらの建物とはスケールが全く違うのがよく分かる。
時計塔みたいなものがついているし、大きな空間を伴った部屋も幾つか点在しているようだ。
ここだけ何か違うような、別の場所から切り取ってきたのをそっくりそのまま持って来たような。そんな感覚をお燐は覚えた。
まあ地霊殿も似たようなものだろうと一人で納得していると、唐突に声をかけられた。
どうやら見張り的な人がいたようだ。
「……もし、ちょっといいかな」
「ん? 何だいお姉さん。あたいに何か用かい?」
「いや、いや。そそそのですね。あなたは今からこの館に入ろうとしてます?」
「おやまあ」
少し目を細めて見ると、こちらに声をかけてきた人物が姿を現していく。
見ると、何やら星に龍の一文字が入った特徴的な中華帽を被り、中華風味の衣装を纏っている少女だった。
が、同時にかちかちと寒さに小さく歯を鳴らしている。きっと彼女もこの寒さの犠牲者なのだ。
台詞は噛み噛みになってるし、やや頼りないけども懸命にもお燐の前に立ちはだかっている。
彼女はこの館の門番的なものなのだろうか。
だが、こんな夜にそんな大きめのスリットが入ったチャイナドレスを着ていても、全然温かくは無いだろう。
思わずズボンでも穿いて来たらどうかと提案したくなったが、お燐にとっては全くの赤の他人でもあるため下手に口を出すわけにはいかなかった。
もしかしたら何らかの事情があるのかもしれないし。その、中華風のコスプレをずっとしていろとか、そういう注文を受けているのかもしれない。
少しだけ探りを入れることにした。
「うんにゃ、入るつもりはないよ。というかお姉さん、随分と寒そうだねぇ」
「ああそうでしたか! いやー良かった、こんな時に侵入者とか来られたらがちがちで止めることなんか出来っこないですって。おお、さむぅっ」
その言葉を聞いたお燐は、すかさず門番にアタックを仕掛けてみる。
勿論、自分のお仕事のために。ちょっとした時でも機会があればすぐにでも試してみるのだ。
もしかしたらまぐれ当たりで上手くいくかもしれないからである。
お燐はにこにことした笑顔で、一つこの少女に問うてみた。
「じゃあさ。その体あっためてあげよっか?」
「えぅー……えっ。何かいい方法でもあるんですかっ!?」
「この車に乗れば体はぽっかぽか、もう永遠に寒さとか空腹とかとおさらば出来ちゃうよ! どうする? 試してみるかい?」
「……わ、私車酔いするんで、遠慮しときます……」
「ちぇー。ここにずっといればすっごくあったまるのに残念だねぇ」
しかしこの結果である。どうやら勘はいい方らしく、丁重に断られてしまった。
一度断られた場合はもう一度誘うのは困難を極める為、すっぱりと諦めるお燐。ただし強さが別格な場合はたまに無理をする。
今回はそこまで強引にすることはないだろう。
「そういえば、さっきこの館の周辺を周っていたんだけどさ。やけに騒がしいみたいだねぇ」
「え? ああ、はい。大分音響いてました?」
「まあ、妖精が何してるのかとそわそわしてるくらいには」
と、猫車の中のゾンビフェアリーをちょいちょい指さす。
見たところ少し興奮しているのか、中の彼女は館のあちこちを瞳を輝かせながら見ていた。
きっと同族のにおいを嗅ぎ取ったのだろう。この館の中にはきっとたくさんの妖精がいるのだ。
「わぁ、ここらへんでは見ない珍しい妖精ですねー……へぷし!」
「お姉さん、ホント大丈夫かい? ……まあこの妖精は地底の妖精だからね。珍しいどころか本邦初公開のシロモノさ」
「地底ですかぁ……」
地底、というワードを聞くと、赤髪の門番さんはむむむと顎に手を当てて思案している。
一体どういうスケールで、またどういった世界か分からないのだろう。
お燐はそう簡潔にまとめると、ついでに自己紹介もしておくことにした。このお姉さんは多分悪者ではないだろう、という動物の直感である。
「というかあたいは地底の生まれなんだよ」
「えっ」
「たまーに向こうの神社にいるんだけどさ、呼ぶ時はお燐って呼んでくれ」
「そ、そうなんですか。もしかしたら地底にあの太歳星君が隠れてるのかも……」
「お姉さん?」
「あ、はいっ? えーと、私は紅美鈴といいます。一応職業はここの門番、なのかな」
やっぱり門番だったらしい。こんななりとはいえ、きっとそれなりに強いのだろう。
暇があったら少し手合わせして貰いたいものだと頭の隅に置きながらも、お燐は言葉を続ける。
「こんな寒い中御苦労さまだねぇ、お姉さん。中に入ったりはしないのかい?」
「いえいえ、私は門番ですからっ。いつどんな時でも門くらいは守らないといけないのですよ。……あんまり守れてないけど」
「……」
何かこう、居た堪れないなあ。
そう思っていた頃には、いつの間にか手が伸びていた。見えない無意識の力である。
ぽふ、と帽子が地面に落ちる音がした気がした。
「ん……ってな、何で頭を撫でてるんですっ?」
「いやぁ、何となくお姉さんとあたい、似てる気がしてさ。あ、髪の色とかそういうのじゃないよ」
「は、はあ。ふに、そうなんですか……」
なでなで。なでりこなでりこ。
自分がいつもペットの頭を撫でている時、或いは主のさとりに撫でられてる時のように、丁寧に撫でる。
しかし身長が足りないので、お燐の方が若干背伸びしている形となっているが気にしない。意外と彼女、背が高いようだ。
美鈴は最初はやや恥ずかしがっていたものの、少し時間がたてばもうお燐の手の虜だった。
彼女も時々親友のおくうを撫でたりしているので、それなりに慣れた手つきをしているのだ。地霊殿の皆は撫でるのが上手いのである。
……が、しばらくそのままにしていると何やら様子がおかしい。先ほどから美鈴が一言も発さないのだ。
ちょっとだけ、悪寒が走る。
「……お姉さん?」
「ふぁ……目の前に、目の前に四川省が見える……」
「お、お姉さんっ?」
「あそこに見えるのはえーと何だっけ、黄河? あそこでは雷魚が釣れるんですよね。あ、パンダさんとか懐かしいなぁ。一緒に笹とかたべ」
「わー!? 起きて、起きてお姉さんっ!?」
ぺちぺちぺちぺち。
「は、あ、ふぁい。……あ、危なかった。つい思い出に浸ってしまいました」
「いや、あの。別にあたいお姉さんを殺そうとはしたわけじゃないからね!?」
「あはは、分かってますよ。お燐ちゃんはいい子です」
「お、お燐ちゃんって。うー……」
なでこなでこ。
今度は撫で返されてしまった。美鈴の方が見下ろしながら撫でる形である。
こうして撫でられると、自分の耳と頬がかぁぁと熱くなっていく。何か恥ずかしいとこを指摘されたのと、同じ感じ。
……うん、これは寒さ。きっとそうに違いない。お燐はそう思い込むことにした。
「にゃ、にゃ。それはともかく! この中では一体何があってるんだい?」
「ああ。何でもこの日限定のお祭り? みたいなのがあるみたいです」
「ふーん。お祭り……」
要は宴会みたいなことが中で起こっているのだろうか。少し鼻をひくひくすると、中から様々なにおいがする。
やや葡萄の香りに混じって、お酒の香り。後は食材だろうか。中では肉類が一番目立つようで、大半がローストされているようだ。
……少しだけ、くうとおなかが鳴った。とはいえもう夕食は済ませていたし、帰ったら少し何かしらつまむことにしよう。
もう大分夜分遅いし、さとり様もちょっとくらいは許してくれるはずだ。
「うーん、そろそろ戻るとしようかなあ。大分冷えてきたし」
「あ、そうなんですか。それでは一つ、私からお土産をあげますね」
「うん?」
「私と話してくれたのと、撫でてくれたお礼です」
美鈴がそう言いながら、お燐の頭にぽんと何かを乗せる。
それが何かは分からなかったものの、猫耳の冷たさがほんのりと和らいだ気がした。
ぽんぽんと触ると、ふんわりとした感触。これは何だろうかと外すとすると、美鈴がぴたりと手で制止してきた。
「あ、ダメですよ。あなたの家につくまでこれは外しちゃいけません」
「ええ? なんでさお姉さん。確かに耳はあったまるけど、少し音が聞こえづらいよ」
「いえいえ、今日くらいは着けといてください。きっとあなたの主人なら気が付くはずです」
「そういうものなのかねぇ?」
「そういうものです。それに、お燐ちゃんにお似合いの色ですから」
うんうんと頷く美鈴に、どういうことなのか分からず首を傾げるお燐。
いきなりよく分からないものを被せられ、何が何やら分からないものをそのまま着けていろと言われた。
となれば、着けておくしかないわけで。しかも今日中である。
笑顔でいる彼女をやや怪訝そうに見ながら、猫車をごろごろと動かし始める。また眠りかかっていたゾンビフェアリーが前のめりにこけた。
「あはは。それじゃあねお姉さん。かなり寒くなるみたいだけど、体には気をつけるんだよ」
「ああはい、ありがとうございます。お燐ちゃんもそれ外しちゃいけませんよー」
「分かってるよ。あ、あと一つだけ」
「なんでしょうか?」
軽く美鈴に会釈をしながら、紅色の館から踵を返しがらがらと猫車をひいて行く。
車はそのまま動き続いていたが、その帰り路の森の目の前で不意に止まり、くるっと振り返る。
振り向きざまにお燐は笑う。にかっとした明るい笑顔で。
「この寒さでもし死んじゃったら、あたいが地底まで運んだげるよ!」
「うう……あながちお世話になっちゃうかもしれません。その時はよろしくお願いしておきますね」
ふふふと笑いながら、再び帰り道を歩き始めるお燐。
そんな上機嫌な猫の背中を微笑ましく思いながら、美鈴は一つ小さく呟いた。
その言葉は帽子のせいかお燐にはよく聞こえなかったもの、どこか温かい言葉を貰った気がしたのだった。
「ふぅっ。やっぱり寒かったなぁ……。あんたも御苦労さま、仲間のとこにお帰り」
普段よりもちょっとだけ長い道のりを歩いた後、お燐は家である地霊殿に戻ってきた。
地底自体も結構冷え込んでいたようで、少し体をぶるぶるさせながらも帰ってこれたのだ。
あの地上にいた美鈴というお姉さんはどうなっただろうか。多少心配にはなるものの、また何れは話してみたいものだ。
とりあえずゾンビフェアリーを猫車から解放し、今ちょうど寝床につこうとしているところである。
もふもふのベッドに腰掛けながら、今日あったことを思い出していく。
「そういえば結局今日中は着けておけと言われたけど、なんだろ……」
お燐がつんつんしているのは、帰り際に貰ったあの帽子である。
帰り道でもたまに気になって触ってはみたものの、丸いぽんぽんが先端についているのは分かった。
後は特に分からないものの、別段気にすることは無い。どんなデザインかが気になるが、取ってはいけないという言葉が引っかかる。
こう見えてもお燐は何かしら言われたことには忠実なのだった。
「まあ……これで耳の寒さが紛れるんだし、これはこのままでいっか」
これはこれで、ちょっぴり新鮮なんだし。
それに美鈴にお似合いの色だと言われたこともちょっと気にかかっていた。今日外すのは彼女の約束を破ってしまうことになる。
折角似合ってると言われてる以上、さとりたちにも見せてみたいと思っていたのだ。
今からでも見せてみたいとも思ったものの、夜遅い上に眠気も来ている。見せるのは明日でもいいだろう。
「んー……じゃあ、このまま寝ちゃおうかな……あふ」
そうと分かった瞬間、まぶたがずんずん重くなる。頭が眠い寝かせろと告げているのだろう。
多分だけども世界で一番重い物体、それはまぶたなのだ。お燐はそんな気がしてならないのである。
その力は誰にも抗えない。特に、睡眠欲という三大欲求の一つには。
お燐もまた普通の人間同様、瞬く間に暗闇の世界へと誘われていくのだった。
またいつもと同じように、明日があると信じながら。
夜がさらに深まり、丑三つ時。地上も地底も天界も、一部の妖怪を除いて静寂に包まれる時間帯。
ちょっとした裏話が、今始まろうとしていた。
地霊殿の火車でありペットでもあるお燐の部屋に、忍び足で迫り来る一つの影。
物音を極力殺した上で、控えめに扉をきいと開ける。それはさながら既に幻想と化した忍者の動きだった。
部屋の中を見渡す影。基本シンプルだが、ところどころに猫関連の装飾が目立つかわいらしい部屋である。
そしてそのベッドの中で、すやすやと眠っている少女。ベッドからはみ出ている二つの尻尾が、また無防備なものだ。
―――が、その少女が被っている帽子を見た瞬間、影の動きが止まった。
しばしの間、音という概念が無くなる。ぴんとした独特の音が辺りに張りつめる。
そんな雰囲気を破ったのは、小さな影の笑い声だった。
「……ふふっ」
一度噴き出したものは抑えられず、声を押し殺しながらも笑い声が漏れている。
チャームポイントの猫耳が隠れているのはともかく、その帽子が少しだけツボに入ってしまったのだ。
その帽子とは。
白いぽんぽんがついた、赤いナイトキャップ。
「全く。……どこから拾ったのか知らないけど、配る方が寝てしまってはダメじゃないですか」
笑いの波が収まった後、がさがさと純白の袋から箱を一つ取り出す影。
赤いリボンでくるくるとラッピングされている、小さな箱である。
それを起こさないようにそっと枕元に置くと、ぽんとお燐の頭に手を置く。
彼女を見るその目は、とっても優しい目だった。
「んにゃ、ん……」
「ふふ。まだ後二人いますし、私はこれで失礼させてもらいますね?」
ほんの少しだけの時間ではあったものの、影はゆっくりとベッドで眠るお燐から離れていく。
そして部屋の外で扉を閉める際、一言呟いたのだった。
「メリークリスマス、お燐サンタさん」
さて地霊殿のみんなはいったい何をプレゼントされたのかな。
追記に泣いた
レアなこの二人の組み合わせが見れただけでも良かった