寒くなってきたある日の夕方。
霖之助は悩んでいた。
目の前にある物は二本のお酒。
先程紫がプレゼントとして持ってきた物だ。
瓶に付いている銘柄を書かれている物は外され、箱には空とだけ書かれている。
悩み事とはいかにこのお酒を美味しく飲むかだ。
夕御飯と一緒に飲んでも良いが、勿体無い気がする。
何か良い飲み方は無いか霖之助は考える。
そしてある一つのアイデアが浮かぶ。
「そうだ、季節は遅いが月見をしよう。」
言うが早いか霖之助はおつまみを作り始めた。
冬の夜は早い。
おつまみを作り終えた霖之助は早速お酒とおつまみを持って屋根へと上る。
上り切った霖之助の目に映る光景は満月と星々が輝く見事な夜空。
屋根に座り、杯にお酒を注ぎ、月に乾杯する。
そしてゆっくりとお酒を飲み、しっかりと味わう。
うまい。
こんな言葉しか出せない自分の口を霖之助は悔やんだ。
お酒を飲み、体が温まってきた霖之助はしみじみ言う。
「やはり月見は静かに嗜む程度に飲むのが良いね。」
ふと目線を博麗神社へと向ける。
今宵も宴会があるらしい。
空が仄かに明るくなっている。
耳を澄ますと今にも少女達の楽しそうな声が聞こえてきそうだ。
(僕としては霊夢達も偶には静かに飲んでみてもらいたいね。)
と、考えていると不意に目を塞がれた。
「誰でしょう?」
声の主はとても楽しそうな声で聞いてきた。
「幽香だろう?」
それくらいは目を塞がれても分かる。
やがて塞いでいたものは外され、後ろを見ると笑顔の幽香がいた。
「御久し振りね、霖之助。」
「久し振りだね、幽香。君は神社の宴会に行っていたんじゃ無いのかい?」
一応の為用意していた杯にお酒を注ぎ、幽香に渡そうとする……が幽香は既に霖之助の杯を奪い、既にお酒を飲んでいた。
「行ったけど、夕方に霖之助がおつまみを作っているのが見えたから途中で抜けてこっちにきたのよ……あら、普段のよりも美味しいわね。」
「普段のものと違うからね。」
仕方なく新しく注いだ杯で飲む。
うん、何口飲んでも美味しい。
ゆっくり味わい、杯の中身を飲み干す。
そして零れない様に再びお酒を注ぐ。
と、横からもスッと杯が差し出される。
「私にも下さいな。」
顔を向けると顔を仄かに赤く染めた幽香が笑顔でおねだりしてきた。
仕方が無いと霖之助は幽香の杯にもお酒を注ぐ。
そして二人は静かに飲み、食べる。
どちらかのお酒が無くなればもう一方が注ぎ、その逆もしかり。
とても心地の良い静かさが空間を支配していた。
その様な空間でゆっくりと、一口一口お酒を味わい、おつまみも味わう。
一種の贅沢を霖之助は幽香と二人で楽しんでいた。
しかし楽しい時というものは呆気無い事で終わるものだ。
そう、お酒が尽きたのだ。
「おや、お酒が尽きてしまったね。新しい物を持って来るよ。」
霖之助が気付き、立ち上がろうとする……が幽香に抑えられた。
「あら、霖之助は月見は静かに嗜む程度に飲むんじゃなかったのかしら?」
「僕はもう十分飲んだが君は飲み足りないんじゃないのかい?」
しかし幽香は首を横に振る。
「私は只の客。主催者様がお飲みにならないなら私も従うまで。でもその代わりに……。」
幽香が妖艶に笑い頭を横に傾けながら言う。
「膝枕位はしてくださってね。」
言い終わるが早いか幽香は霖之助の膝に頭をのせる。
「仕方が無いね。」
霖之助は少し呆れた様に幽香の髪を優しく撫でる。
念入りに手入れしているのだろう、とても手触りが良い。
幽香も気持ちが良いのか目を細めたりしている。
ふと、顔を神社へと向けると紅色の大玉と陰陽玉が上空で入り混じっていた。
多分満月で気分が昂ぶったレミリアが霊夢と弾幕ごっこをしているのだろう。
星々の輝く夜空に紅と白が映える。
「綺麗ね。」
「ああ、そうだね。」
段々がむしゃらに紅色の弾幕が撒かれだした。
レミリアに余裕が無くなってきたのだろう。
「ねぇ霖之助?」
「如何したんだい?」
顔を幽香へと向ける。
「偶にはこんな月見も良いでしょう?」
そう言う幽香の顔はとても楽しそうに、美しく笑っていた。
「ああ、偶にはね。」
もう一度神社へと顔を向けると紅色がたった今消えてしまった。
レミリアが負けてしまったのだろう。
すると別の二人が高速で飛び出してきた。
今度は誰だろうか?
霖之助と幽香は二人で笑いながらその美しい勝負を観戦する。
彼等の夜はまだまだ終わる事を知らない……。
撒けて→負けて、でしょうか
あと続き物でしたら表記したほうがいいと思います