0.
二人の男女が鬱蒼と茂る森の中を当てもなく彷徨い続けている。
季節は夏。お昼には自己主張の強かった太陽も、いまでは西へと沈みかけていて、さらには頭上に広がる無数の木の葉達が日差しから彼らを守ってくれているので、直接二人の身を焼くことはなかった。が、それでも空気はじめっと湿っていて暑く、背中から出てくる不快な汗は止まることをしらない。体の中の水分がどんどん蒸発していくようだ。
二人の外敵は気温だけで無い。ときおり聞こえて来る野生動物の暴力的な鳴き声に怯える女を、男は庇うようにそっと抱く。
「ヘイ! 女の子を泣かすなんて最低のファッキンクズ野郎ばかりだなこの森の奴らは! それいじょう僕の愛しいこの子を苛めるなら、その雑音しか出せないガラクタみたいな口にお母さんのクソ不味いパンをたっぷり詰め込んで、手前らの脳をガタガタに言わせるぞ!」
しかし虚勢を張るも、彼もまた目に見えない脅威に慄然としているようである。ぬかるんで水糊のようになった地面は震える二人の足を掴み、か細い体力や気力を容赦なく奪い去っていく。
早く戻らないと、このままでは野垂れ死にしてしまう。いや、それどころか真夜中になったら一寸先も見えない。そうなったらいよいよおしまいだ。
「ねぇ、私達帰れるかな?」
女のほうが尋ねてきた。その顔は疲労と不安で疲れきっていた。
男は口を真一文字に結びながら、女が森に喰われてしまわないように、彼女の手をしっかりと握る。
しばらく歩き続けていると、やがてどこからか悲壮感漂う泣き声と、それ宥める優しい女の人の声が聞こえてきた。どうやら人間がいるようだ。
二人は目を合わせ、希望を求めるかのように声のする方向へ棒となった足を使いとにかく地面を蹴りまくった。ドロが跳ねて服は汚れていくが、心に積もった靄はどんどん晴れていくようであった。
広場のような場所には、二人の女性がいた。
「あら、こんにちはお二人さん。待っていたのよ」
大きな日傘を持ったお姉さんが口元に笑みを浮かべた。その隣では顔をしわくちゃにしながら泣いてる女性が、「私のお家を返してー。お話を返してー」っと喚いている。
お家に帰して欲しいのは私達の方だと二人は思った。
1.
八雲紫は眼前にあるいささか現実離れした状況に戦慄を覚えた。持っているフォークはアル中のように震え、口の中はカラカラに乾き、目の水分はすべて蒸発していく。一瞬脳の中にサハラ砂漠が手を振ってきたことは言うまでも無い。部屋にある豪華絢爛な飾り付けやピカピカと光るツリーも視界の端から消え去り、まだ部屋の窓からは、太陽の光がどんどん不法侵入して来ているというのに、突然なにものかに握りつぶされてしまったように目の前が真っ暗になった。
(そんなはずが無い、そんな馬鹿な料理がこの世にあるわけが無い。)
自分の中で何度も復誦した後、テーブルの上に載っているショートケーキを確認してみた。
一番上には親指サイズの真っ赤な苺が乗っている。次の段には白いクリームがふかふかなスポンジをコーティングしている。ここまでは誰もが思い浮かべる、一般的なショートケーキの構図である。
問題はここからであった。通常であればこの次は、平らにカットされた苺がホイップクリームに包まれながら、まるで物語の主役が登場したみたいに威風堂々と出てくるはずである。
紫は息を飲みながら、真ん中の層を穿ってみた。しょうゆに包まれた納豆が出てきた。
「このケーキを作ったのは誰だぁ! めっちゃネバネバしてる。イチゴじゃなくて納豆入ってるわよこれ! スポンジ、クリーム、納豆、クリーム、スポンジって間に不審者混ざってる! ウェイターは責任者呼んで来なさい」
「紫様落ち着いてください。ウェイターはあなたです」
紫が生意気な藍の胸倉を掴んでいる横で、ぬえとこいしもお互いに、このケーキと呼ぶにはおこがましい産業廃棄物のような食べ物の責任を押し付けあっていた。
「ぬぅ、まさかこのケーキ作ったのこいしではないよね?」とぬえが怪訝な顔でこいしに質問を投げる。
「もー、私の所為にしないでよねー。どうせぬえがケーキにイタズラしたんでしょ」頬を膨らましながらこいしがそれを打ち返す。
「違う違う私じゃぬぇよ。どうせこいしが無意識に入れたんでしょ? ちゃんと食べなさい」
「えー、ずるーい。こんな凄い料理口の中に入れたくないよぅ。正体不明繋がりで、ちゃーんとぬえが食べてよね!」
ぬえとこいしは自分の食べる分の納豆ケーキをなんとか相手に押し付けようと、持っているフォークをフェンシングのように刺しあった。「食べ物で遊んじゃ駄目」、っていつもぬえとフランに口を酸っぱくしながら怒るこいしでさえ、目の縁に涙を浮かべながら必死に食べ物で遊んでいる。よほどあのケーキを口に入れるのが嫌なご様子だ。
「ふん、やるじゃんこいし。だけど私のアンデファインドケーキデスから逃れられた奴はいないよ。正体不明のケーキを食らえ!」とぬえが暗雲を携えながら突撃。
「えへへ、私だって負けないよ♪ こっちだって、ナンダコノケーキハローズはぬえを捕らえては離さない。無意識の力を思い知るといいよ!」それをこいしが真っ向から受ける。
ケーキがお互いの頬をグレイズする度に、納豆のネバネバした糸が可愛い小顔を汚くデコレーションしていく。
ぬえも普段なら、彼女が好き嫌いを言うたびに、「子供っぽいなこいしは」なんてお姉さんな顔を見せるくせに、無邪気にこいしとケーキを押し付け合いながら、正体不明の羽をぴょこぴょことはばたかせる姿は、ここにいる誰よりも幼く見える。
とそこで姿だけは幼く見える神様が口を開いた。
「あーうー。みんな長生きしてる癖に好き嫌いはよくないよ? ホイップクリームの甘さと納豆のネバネバが調和して案外なかなかおいしいよこれ」
口から出てくる納豆の糸をまるでスパゲッティーのようにくるくると器用に巻く諏訪子に、みんなの視線が集まった。
さっきまで争いに夢中だったぬえとこいしでさえ、目を剥いてその異様な光景をただ眺めている。場の空気がお葬式のように静かになった。
我らが神さまは味覚まで狂っているのかと紫は眉をひそめる。しかし納豆ケーキを食しているのはどうやら彼女だけでは無い様だ。
「ごちそうさん。なかなかおいしかったわよこのケーキ。焼鳥と一緒にお酒のつまみにしたいくらいだよ」
藤原妹紅もケーキの置かれていた食器を綺麗に平らげられていた。まさか私達が見ていない間に燃やしたのではないか? と紫は怪しんだが、残念なことに彼女の口元には納豆がついていた。
もんぺ姿にくっきりとした目と鼻の所為でただでさえ顔立ちの良い美少年に見えるのに、納豆を指で取る男勝りな仕草のせいでさらにそれが際立った。
「紫様達も早く食べてください。次のケーキがあるんですから」
目を離した隙に藍も食していた。おのれ主人を裏切ったなこの女狐め、と紫は彼女を睨んだ。が、裏切り者はどうやら彼女達だけではないようだ。
「うん、小娘の癖に正体不明なケーキ作っちゃって。なんて思ってたけど、ちゃんと美味しいよ。凄いよフラン」憎まれ口を叩きながらも褒めるぬえ。
「ほんとだー。甘さの中に納豆の独特なネバネバがこびり付いて、口の中に味が纏わり付いて来るよ♪」自然な笑顔を顔に浮かべるこいし。
そんな馬鹿な。ただでさえ納豆の匂いに頭がクラクラしているのに、さらに理解に苦しむ奴らを前にして、紫は立ちくらみに似た眩暈を覚えた。椅子が不良品なのかと思ったが、堂々と四足で立つそれはなんの問題もなかった。
紫の口から思わず溜息が出た。流れ的に自分も食べなければならないのだろうか。額から流れ落ちた汗を拭うと、ふいに藍が合図をするかのようにフランの方へ顎を向ける。
なるほど。このケーキを作ったはフランだと、彼女の顔を見た瞬間わかった。フランは涙を堪えるかのように下唇を噛んでいて、スカートの裾は悔しさを我慢した証拠のように皺がそこらに出来ていた。
そして何より問題だったのは、紫がケーキを食べてくれるのを期待するかのような瞳で、フランが真っ直ぐこっちを見つめていることだ。
「うーむ、これは不味いわね」
紫は口元を歪めた。フランはお嬢様特有のプライド高い気質の所為で、素直に食べてと言えないようだ。しかも彼女は自分の胸の前で、祈るように手を組んでいる。
「運命なんてお姉さまが煙を巻くためにあるような言葉よね。さっさと辞書から抹消するべきだわ。きゅっとしてどかーんってね」と口癖のようにレミリアを馬鹿にしていたから、神にお願いしているわけでもなさそうだ。
自分の作ったケーキを悔しさのあまり破壊しないよう我慢しているのかな、フランの頬がほんのりと湿っているのを見て紫は思った。
「別に食べたくなかったら、食べなくてもいいわよ……」とフランが口から漏らした。
「い、いえ。そういうわけじゃないのよ」
言葉とは裏腹なフランの弱々しい口調に、紫の心臓は握り締められたような痛みを覚えた。これがいけ好かない天人のセリフなら墓石の雨でも降らしてこの地をあいつのお墓にしようと思ったが、目に大粒の涙を溜めた子供によりにもよってクリスマスの真昼間にそんな物をプレゼントしたら、非難轟々弾幕の嵐に違いない。
自分を咎めるかのような、他のメンバーの視線も気になって来る。ここで自分が食べ無くてもフランは我慢して泣かないかもしれない、けれど落ち込みはするだろう。トラウマさえ出来るだろう。
それどころか天狗の新聞に「幻想郷の大賢者・子供を苛める!」なんてデカデカと掲載されるかもしれない。紫は先日藍を傘で叩いた所為で、動物愛護団体――主に地霊殿、最近命蓮寺も連盟に入ってさらに厄介になった――から注意を受けたことを思い出した。
仕方ない、紫は場を和ませようと顔に笑顔を作りながらため息を吐く。
冷や汗が頬を伝わるのを感じながら、紫は瞳を閉じケーキを口の中へと一気放り込んだ。そしてフランへ向けて一言。
「あらま、意外と美味しいじゃないの」
2.
今日は優雅なクリスマス。キリスト教徒がいるのかどうか怪しいここ幻想郷でも、飲んで騒げればノープロブレムと些細な事は気にしないようで、この季節は妖怪や人間達は酒屋の懐を暖めるのに没頭している。
最強最愛のExメンバーが経営している料理店でも、身内の奴らを呼んでパーティーでもやろうという流れになった。
経理の藍によると経営も順調で黒字ということなので、珍しく紫が幹事となり率先して皆を集ったのだ。
こうでもしないと、どこの勢力も呼んでくれないから寂しいんだもん、というのは自分だけの秘密である。賢者と言えどもクリスマスはみんなで祝いたいのだ。しかも現在紫の家の冷蔵庫はカラッポと来ている。
ただしいま紫達がいるこの場所は料理店ではなく、紫がクリスマスのために急遽とある婆さんから貰ってきた大きめの家であった。
机を持ってくれば慧音が歴史の授業を行えるくらいの広く、独りでいると時計のカチコチという音が妙に五月蝿いくらいの狭さである。
部屋の端っこにあるやや大きめな暖炉のおかげで木枯らしが砂埃を舞い上げる日でも暖かく、釜戸もあるから世界中のありとあらゆる料理だった作ることが出来る。そして地下には牢もある、ほどほどに便利な家であった。
唯一紫が心配なのは、建築基準法を大幅に違法しているためちょっとでも暴れたらジェンガのように簡単に崩れかねないところだ。
「ほ、本当に美味しいの? 無理してないわよね?」
フランは目を輝かせながら紫に向かって何度も尋ねた。
夕立が突然の嵐で吹き飛びそして青天になったかのようなフランの変わりように、紫達はくすりと微笑む。秋の夜空と乙女の心は変わりやすいと言うが、吸血鬼の心はそれ以上なようだ。
そんなに心配だったらケーキに納豆を入れるなんて危ない橋を渡らなければいいのに、と思ったが、フランそれくらい真剣に勝ちに来ているようだ。
「うん♪ とーってもおいしかったよ♪」
こいしが陶器を思わせる歯並びのいい白い歯を光らせたのを合図に、みんなの拍手の音が豪雨のように店へ響いた。
フランはほっと胸を撫で、ピンクに染まった顔を恥ずかしそうに伏せてしまった。彼女の作ったケーキの試食会が終わったのだ。
だがこれでめでたしでめたしというわけではない。紫達が座る中華に使われるような丸いテーブルの上には、まだ三種類もの箱が乗っかっているのだ。
これらの箱の中にどんな爆弾が入っているのかを予想するのは、推理小説の帯を見ただけで犯人の名前と動機とトリックを特定出来る紫でさえ困難であった。
この類まれ無い頭脳を使って、藍が読んでいる本のネタバレをするのが最近の趣味である。だいたい半分くらい読んだところで言うのが一番面白い。
3.
このケーキが作られたそもそものきっかけは、本日の早朝にまで遡らなければならない。
夜のパーティーに備えて準備をしようと、ふららんゆかもこすわこいぬえ、の五妖で集まったときの事である。
料理もだいたい終えて、クリスマスのための飾りつけも終わったところで、ぬえがボソリと呟いたのだ。
「このままクリスマスを祝うのもつまらないよぬぇ」
イタズラ好きの料理長ぬえが発言したことで、紫の遊び心が再点火するのを感じた。全身の血液がニトロになって爆発するようだ。
他にも自分のようにクリスマスを少しでも面白くしようと燃える奴はいないかと見渡したら、妹紅は夜のために焼き鳥を焼いている真っ最中であった。醤油ダレの香ばしい匂いが甘ったるい匂いと混ざり合い、鼻の奥を刺激する。
あのタレを、妹紅がホイップクリームの代わりに使った時は、黄色い救急車を呼んで妹紅をあの世に送りつけようかと紫は思った。白いはずのケーキがドス黒く染まっていたのを見たら、誰だってパニック状態になるはずだ。オマケにスポンジとスポンジの間には焼鳥がビッシリと詰まっていた。
一口食べたとき思わず「美味しい」と漏らしてしまったとき、今度は自分の舌を疑った。分厚いスポンジが濃厚な焼鳥のタレをしっかりと吸い込むから、割と相性がいいらしい。
「つまらない、と言ってもどうするつもりよ? 聖なる夜にパイ投げパーティーでも始めるつもりかしら?」
フランは唇の端を意地悪く吊り上げながら笑う。仮にパイ投げパーティーが開催されたとしても、喜んでぬえを攻撃しそうだと紫は思った。
「うん、パイもおいしそうだね♪ お姉ちゃんがケーキを作ってくれるみたいだから、その前に食べて見たいよ!」
ふと真横を見たらこいしがピザをつまみ食いしていた。それを咎めるために彼女の頬を摘むとかなり柔らかい。正月にお餅の用意をしなくてもこいしちゃんの頭の上にミカンでも置けばいいかな、なんて紫は思った。
ごめんなしゃい、ってこいしが謝るまで頬をこねくりまわした。
「私達は料理店の経営者でしょ? ならばやるのは一つだよ!」
諏訪子は自前の帽子から牛乳パックや小麦粉などの材料を取り出した。なるほど、と紫は頷いた。他のメンバーも諏訪子の行動を理解したようだ。
妖しい笑みを浮かべながら、気合を入れるように指をポキパキと鳴らす音が聞こえてきた。
「いいですね。料理バトルでしたら紫さまにだって負けませんよ」
気合を入れた藍のアホが尻尾を大回転させたせいで毛テロが起こり、まずは掃除を先にすることになった。優秀な部下にも一つや二つくらい厄介な癖はあるものだ。
そんな彼女の作ったケーキは、なぜかスポンジの代わりに焼いた油揚げが使われている斬新な料理であった。不二家に土下座しろ、と藍に文句を言いつつ食べてみたら薄い煎餅みたいな食感でなかなか美味であった。
「よし、じゃあ始めるか。正体不明のケーキを食わされてみんなSI・NE!」
4.
そんなわけで、レミリアやさとり・ムラサや慧音に早苗など、Exメンバーの身内が来る前に、みんな競ってケーキバトルを始めることにしたのだ。バトルと言ってもパイ投げみたいに相手の顔面にケーキをぶつけるのではなく、Exメンバーでケーキを作って、誰が一番美味しく出来るか競うだけの単純なルールだ。杞憂だったのは、お昼からケーキなんて食べてたら、パーティー本番の前にお腹が膨れちゃうのではないか、という些細な問題だけのはずであったが、個性が裸足で逃げ出すようなこのメンツではそう簡単にはいかないようだった。
まだ太陽は中天に浮かんでいて眩しい光を地上へと送ってくれている。西に沈まないうちにこのゲームを終わらせたいものだ。
「さてと、フランのケーキも食べ終わったことだし。次のケーキはこれにしようか」
次にぬえが手にしたのは青い色をした箱であった。いちおう公正を期すために、箱を開けるまでは誰のケーキかわからないようになっている。一番駄目なケーキを自作してしまった者は、みんなにプレゼントをしなければいけないからだ。とうぜん、自作ではないケーキをさも自分が作ったかのように出したら反則負けである。
現在、妹紅・藍のケーキは食べ終わっていて、先ほどフランのケーキも平らげたから、残る候補は諏訪子・こいし・ぬえとなる。どいつもこいつも、履歴書の特技の欄に「大異変」と書けそうな奴らばかりだ。
「正体不明の箱を開けるのは私としては不本意だけど、正体不明のケーキの味はもっと気になる」出来たてほやほやの我が子を愛でるように、ぬえは箱の頭を撫でた。
「いいから早く開けなさいよ。どっかーんするわよ。どっかーん」じれったくなったフランが急かした。
「せっかちだなぁ。前口上くらいは言わせてよね」
「待ってくれるのは紳士的なスポーツのときだけよ」
「わかったわかった、じゃあ開けるよ。ぬぇいっ!」とぬえが嬉しそうに箱を開けたが「……えぇ……嘘でしょ……なにこれ……?」次の瞬間、訃報を受けたかのように顔が暗くなった。
青い箱の中身がわかったとたん、海の底に沈んでしまったかのように場が静かになった。暖炉の炎が薪をパチパチと散らす音がやけに大きく聞こえる。
誰も声を発しない。かろうじでぬえが隙間風みたいに頼りない音を出せただけだ。正体不明のエキスパートでさえこの有様なら、自分達のようなか弱い乙女がこの不快極まりないケーキに向かって、何を言えるというのだろうか?
「ね、燃やしていいわよねこれ? 燃やしていいよね?」
妹紅は両手を広げながら、キャンドルサービスにはいささか強すぎる炎を、十本の指に灯した。あれは自らの寿命を削る禁術のはずだが、彼女は不死なので関係ないようだ。
テーブルにある歪なケーキに怯えながらも憤る容姿をみると、もんぺ姿とは裏腹にやはり女の子だということがわかる。
「えっと……、なんでみんな怒っているのかしら?」
フランはこのケーキが何を象徴しているのかイマイチわかっていないようだ。自宅に巨大図書館があるからか下手な賢者よりも幅広い知識を披露するときもあるが、やはりお嬢様な所為でそっちの方面には疎いようである。
フランは自分だけテーブルの上にあるものが何かわからないのが悔しいのか、ぬえの短いスカートを引っ張りながら犯人に罪を問う刑事のように質問を投げかけている。
「やめろフランっ。私のスカートを引っ張るなっ。パンツ見えちゃうだろっ」とぬえは顔を真っ赤にしながらフランを睨んだ
「じゃあこれは何なのか教えて頂戴よ」
「いや、それはちょっと……」
「脱がすわよ?」
「ぬぇえん!」
小さめなお尻の形がくっきりと浮かんだぬえに対して、紫は哀れみの目を向ける。可愛そうに、きっとコウノトリの説明をしなければいけない母の気持ちに彼女はなっているだろう。
「紫様―、どうするんですかこれー。悪ふざけの範疇を越えてますよー」
藍までもが私の服を駄々っ子のように握り締めている。予想外の物を見てしまった所為で、式がシステムエラーを起こしているようだ。こういうときだけ年配を頼るのはやめて欲しい、と依然ぬえのスカートを降ろそうと頑張るフランを見ながら、紫は自重気味に笑った
自分にだってどうしようもないのだ。胃から込み上げてくる悲鳴を、喉から出てこないように抑えるだけで妖力を使い果たしてしまったのだから。
「ねーねー、これってさぁ……」
と、突然こいしが口を開くと、十二もの瞳が彼女へ視線を送った。こいしはそのプレッシャー耐えられなかったのか、「うぅ……」とうろたえ小さい悲鳴を漏らす。が、彼女は纏わり付くような視線を払いのけるかのように、テーブルの上にある穢れた白い巨頭を指差した。
まさか、言うつもりなのだろうかこいしは。言ったところで、「さすがこいしっ!私たちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!」なんてことにはならないから、ぜひやめて欲しいと紫は思った。
「これってどう見ても、ちんち……」
「こいしストップ!!! それ以上は子供が言っちゃ駄目だ!」
ぬえが後ろからこいしの口を押さえた。
そのせいでフランにスカートを脱がされてしまったが――黒だった――、それでもこいしの発言は妨害することには成功した。脱げた瞬間フランの口から「あっ……」と声が洩れたのがまた面白かった。
「よくやったわぬえ!」
紫が褒めるようにぬえの髪を撫でると、皆もパンツ丸だしの彼女に向かってグッと親指を立てた。ぬえは自分の功績をもっと褒めてと言わんばかりに、顎をグイっと上に向けながら、背中に付いている羽をパタパタと動かし空気を躍らせる。そんなことよりはやくスカートをフランから取り返せばいいのに、と肉付きのいいプリっとしたお尻の格好が露になったぬえを見ながら思った。
こいしは最後まで言い切れないのが不満だったようで、「むー! むー!」とぬえが塞いでる口から抗議の声を出しているが、乙女の言うべき言葉ではないのだ、我慢して欲しい。
しかし、ぬえの身を犠牲にした行動をあざ笑うかのように神は唇に笑みを浮かべる。
「うん、そうだよこいしちゃん。ミジャクジさま名物の男性器。私が作ったんだけど、どうかな?」
邪神洩矢・サノバビッチ諏訪子に殺意が沸いたのは初めてかもしれない、とこいし・フランを除く皆が思った。
あの子供みたいにぷっくらとした張りのある唇を動かして生まれる言葉とは、とてもじゃないけど信じられなかった。
5.
諏訪子の作った異物なケーキは、原形がなんだか分からないくらいグチャグチャに潰してから食べてみたら案外味はまろやかで悪くは無かった。
潰したときケーキの先端から飛び出たクリームが顔に付いたときは、諏訪子の憎たらしい顔面を床に擦り付けど根性ガエルにしてやろうかと紫は思ったが、派手に争うと家ごと破壊しかねないので、茹った頭を深呼吸でなんとか沈める。
「どう、おいしいでしょ? カナコエキスも配合してるから、力もみなぎると思うよ」
ケロケロと諏訪子が戯言を口走っても我慢我慢、賢者は怒らないのだ。
「へぇ、凄いわねぇ。じゃあこの溢れんばかりの力で、お姉さまをシッチャカメッチャカにしてあげようかしら」
生まれたての子猫よりも邪気の無い笑顔で、フランが嬉しそうに打倒レミリアを誓った。フランが食べている穢れた神の巨頭が何を意味するのか教えたら、さぞや取り乱すことだろう。だけど紫達は、コウノトリを信じる子供にBL同人誌を見せ付けるような下卑た趣味は無いのだ。
「えへへ♪ 私もお姉ちゃんに、日ごろから溜まったイドをブレイクしちゃおー♪」
こいしは誰かを抱きかかえるように、両腕で目の前にある空間を包み込んだ。
彼女にいたっては、狙ってるのか無意識なのかすらわからない。
みんなケーキを食べるのに脳をフル回転させた所為で、突っ込む気力も飛んでいた。
「ぬえ、そろそろ次のケーキに行って貰っていい? もう時間も無さそうよ」
妹紅が窓の外を指差した。さっきまで空は透き通るように青かったはずなのに、いまはキャンパスにオレンジのペンキを溢してしまったかのような色彩を描いている。レミリア達が来るまであと二時間弱と言った所だろうか。
「あいよわかった。それじゃあ黄色い箱を開くね」
もはやぬえは前口上を言う気力も無いらしい。彼女はパンドラもクーリングオフしたくなるような妖しい赤い箱を気だるそうに開けた。カナコエキスで元気いっぱいなフランが、恍惚とした表情でそれを見詰める。妹紅達も、さすがにもう変なケーキは無いだろう、といったような気の抜けたような表情でたたずんでいる。
しかしぬえが箱を開けた瞬間、沼の底に沈んでしまったかのように場が沈黙した。
「わーお……」
箱を開けた瞬間、どこからか魂の抜けたようなか細い声が耳の奥に浸透していった。
この時点で諏訪子の番が終わったので、紫を除けば残るケーキの製作者はぬえかこいしのはずである。が、ぬえがこいしに向かって怒りを顕にしているのを見ると、誰がこのケーキを作ったかはすぐに一目瞭然となった。
「こいし! なんだよこれ説明しろ!」とぬえが声を荒げる
「むぅ、なんで怒ってるのぬえ? そんなに変だったかなぁ……」
こいしが悲しそうに顔を伏せる。どうやら本人は自分達を喜ばすため、一生懸命作ってくれたようだ。
アスファルトの上に舞い落ちた雪の結晶みたいなこいしの儚げな姿に、みんなは何も文句を言えなくなった。
「ぬぇ、悪かったよ怒鳴って。もう私は怒ってないよ。だから、これが何か説明して。おねがいこいし」
ぬえも泣く子には弱いらしく、悲しみ震えるこいしの肩を抱きながら慰めている。するとこいしも落ち着いたのか了解するように頭を縦に振った。
箱の中から現れたケーキは、製作者であるこいしを除く六妖分あった。どれも形状が異なっている上に、一見しただけではなんだか分かり辛いケーキばかりである。
こいしの説明によると右から順に、「三妖怪が添い寝している所を表現したケーキ」「二人の妖怪が、一人の妖怪の頭を撫でている所を表現したケーキ」「月の後ろに巨大な角が刺さっているケーキ」「家族が炬燵でミカンを食べている場面のケーキ」そして「月が真っ二つに割れているケーキ」のようだ。
後の、月が惨めに壊れている光景はどこかで見たことがあると紫は思ったが、あのいけ好かない月人の住まいが破壊されたなんていう素敵過ぎる歴史など記憶に無い。
「うーん。だけど、やっぱりどっかで見た事あるのよねぇ」
こういうのをデジャブと言うのだろうか、と紫は頭を傾げた。
「それでねー、後一つがねー」
紫が思案を廻らしている間に、こいしが六個目にして最大の問題である、再び現れた白い巨頭のケーキを指差した。
「あ、もういいよこいし。だいたいわかったよ」
今度は妹紅がこいしの口を素早く塞いだ。
こいし係であるぬえは何をしているのだろうと家を見渡すと、彼女はこいしをそっちのけでフランと口げんかを始めている。興奮しているのかどちらも顔が真っ赤だ。
次から次へと問題が雪だるま式に降り積もって行く。
頼もしき我が従者は何をしているのかと紫は藍を横目に見たが、彼女は問題のケーキに触れようとすらせず、ひたすら無視を決め込んでいるようだ。緊張したかのように、瞼の筋肉をピクピクと痙攣させているだけである。
しかし我らが頼りになる神様は、今回も空気を読まず白い巨頭のケーキを指差した。
「あーうー。最後のこれって男性器だよね、こいしちゃん?」
ファッキン諏訪子が首を傾げると、こいしは嬉しそうに何度も頭を振った。純粋に自分の作った物を評価されて喜んでいるのだろうけど、どうしてもこの歪な物体を見ると邪な想像をしてしまう。「私の太くて長い棒をお姉ちゃんに食べて貰うんだよ♪」とかなんとか。
「あんまり卑猥な言葉を、お嬢ちゃんの前で言うのは良くないと思うよ」
妹紅の頬をほんのりと赤く染めながら、ぎょろりと諏訪子を責めるように睨んだ。が、我らが全能なる神はまったく気にせずこいしとY話を進めている。
二人の異なった反応を見て、もしも母親にするのならはたしてどっちがいいのかなと、紫は二人の家事姿を思い描きながら考えてみた。妹紅は割烹着で小言は五月蝿いが面倒身のいい母になれそうだ。諏訪子はだぼだぼのワイシャツを身に纏った、母というよりはエロイ女友達のような親しみやすい親になりそうだ
甲乙付けがたい。
しかしやはり、なんでも言うことを聞いてくれる美人な藍ママが一番だろう。だけどそうなると、紫は母を傘で殴るヴァイオレンスな娘となるのか。家庭内暴力という言葉が頭を横切った。
対岸で、学校帰りに喫茶店に寄って紅茶を嗜むかのような当たり前の感覚で口ケンカを続けているぬえとフランは、オモチャを取り合う姉妹と言ったところだろうか。いつもだったらこの中にこいしも混ざるのだが、いまは諏訪子と会話をするのに夢中なようだ。
「だよねーだよねー! 一目見た時からあれだと思ったんだよ私は。さすがこいしちゃんはわかってるねー」
「えへへ♪ 諏訪子さんも凄いですよー」
諏訪子が飛翔するかのようにパタパタと両手を上下に動かし空気を揺らすと、こいしは天使のように純白な笑顔を浮かべた。卑猥な話とは対照的にこいしの艶やかな黒い瞳を見ていると、ヘドロの底に沈んだ心が雪解けの水で洗浄されるようだ。
これで白い巨頭さえ無かったらどんなに良かったことか、それを考えるともはや溜息すらも出ない。
彷徨哀れな子羊のように頭の中を空っぽにして、神に向かって平和の祈りを捧げられたらどんなに楽なことか。口に出したくない白い棒のケーキを指差しながら、テンションが上がった邪神を見ながら紫はかぶりを振った。
オマケに意味のよくわからないケーキがまだ五つも残っている。
結局なんなのだろうかこの変わったケーキ達は。
6.
「えっ、私達の夢の中の内容をケーキにしたの!?」
紫が上擦った声で尋ねてみると、こいしは驚いてくれたのが嬉しかったのか、白い歯を光らせながら頷いた。どうやら彼女の作ったケーキは、紫達が最近見た中で一番楽しかった夢、または安らいだ夢をモチーフにして作ってくれたようだ。
なぜそんなことがこいしに分かるのかと尋ねると、記憶の片隅に残った本人でさえ覚えていない内容を底から掬い上げ、精密に映像として具現化することが彼女には出来るらしい。とくに感情によって脳波から出る波長や分泌液も違うので、楽しかった夢などの捜すのは天の川に落とした星の砂を捜すのよりは簡単とのことだ。
無意識の使い方にもいろんなのがあるのねと、紫は感心して拍手を送った。
しかしなるほど、それならあの二人が真っ赤な顔をしながら口喧嘩をしているのにも合点が行く。
「あはは、フランは夢の中だと私達にこうやって抱かれるのが楽しかったんだ。素直なお嬢様じゃないんだから」ぬえが――三妖怪が添い寝している所を表現したケーキ――をおもむろに指差し笑った。目を凝らして見ると、真ん中の妖怪の羽はフランに似た羽を付けている。両隣は言うまでも無い。
「う、うるさい。あれは油断を誘ったのよ。最後にはぬえもこいしちゃんもどっかーんして夢が終わったのよ! あ、あんただって嬉しそうに私達に撫でられて、目が蕩けてるじゃないのかしら?」フランが――二人の妖怪が、一人の妖怪の頭を撫でている所を表現したケーキ――を指差しながら口元を吊り上げる。
「違うよ。あれは私に似ているけど爆弾です。夢の中でフランとこいしを爆破して終わったんです」
ぬえがすました顔をすると、フランはいまから肺活量の検査をするかのように、大きく深呼吸を始めた。それにぬえも続く。そして……、
「嘘つけ!」
「嘘つけ! あとフランは私のスカートさっさと返せ!」
息がピッタリだ。まったく、羨ましいくらい仲がいい。
一方妹紅は悪霊に憑りつかれたように――月の後ろに巨大な角が刺さっているケーキ――を無我夢中に胃の中に捻じ込んでいる。あれで味がわかるのだろうか。しかも運の悪い事に、悪霊よりも性質の悪い奴に纏わりつかれていた
「ねーねー妹紅、それどんな夢だったの? 小さい子供に分かるように教えて欲しいなー」諏訪子が無我夢中でケーキを食べている妹紅をちゃかし出した。「あーうー、無視しないで教えて欲しいなー」
「うるさいっ。食事中はしゃべらないのが礼儀よ!」
「おおっと、口にクリーム塗りたくっている癖に良く言うよ。だいたい焼鳥屋の主人をやっているときは、頼まなくても話しかけてくるじゃないか」
長生きしている分、諏訪子のほうが一枚上手なのだろうかと紫は笑った
「さて、私もケーキを食べるか。観察するのも飽きてきたしね」
紫の分のケーキは説明するまでも無く「月が真っ二つに割れているケーキ」である。月が粉々になって月人が涙目になりながら紫に「紫様―、どうか私達の月を直してくださいー」なんて土下座された夢を見れたときは、千年分のストレスが泡のように消えて行ったような気がした。不思議と肩や腰の疲れもすっきり落ちている。あまりにも気持ち良かったから、外に出てジョギングでもしようと思ったくらいだ。
調子に乗って庭に出て見たら丁度真夜中で、しかも頭上に憎たらしい満月が太陽よりもさんさんと妖しく輝いて紫を見下ろしていたときは、もう生きるのが嫌になって二度寝してしまったくらい悔しかったけれども。
「さてと。そんなことよりも、問題はこのケーキよねぇ……」
紫は腫れ物を触るかのように残る二つのケーキを見た。一方は家族団欒の微笑ましい場面を模ったケーキ、もう一方は生命を産む穢れたバベルの塔。こいしは製作者なのだから、残る候補は藍と諏訪子。
このときばかりは紫も神に祈った。どうか、どうか家の狐が発情期に入っていないようにと。あの家族で炬燵に入っているのは私達八雲一家である――このさい橙にだって八雲の性をくれてやる――ことを。
家族団欒を表現したケーキにいる人物が、カエルボーシとオンバシラと邪悪な黒いオーラが自己主張する三人組であっても、一パーセントの可能性をかけて、紫は両手を胸の前で組んで祈った。
「紫さま、安心してください」ふいに藍から肩を叩かれた
「ああ、藍。やっぱりそうなのね、信じていたわよ」紫は硬く結んだ唇を緩め、組まれた両手を解いた。
「ええ、そうです。なんたって九尾の狐は絶世の美人なんですよ。ライフゲームでは一度だって負けた事はないんです」
藍は棒状のケーキを鷲づかみしたかと思うと、それを一気に食して私に向かって親指を立てた。神話のバベルの塔があっけなく崩された記念すべき日だ。
「美味いよこいしちゃん!」
藍はこいしに向かって激励を飛ばした。こいしもそれに答えるかのように満面の笑みを浮かべ「ありがとう♪」と言って藍と抱き合い喜びを分かち合った。
そのときの彼女達の笑顔を私は一生涯忘れられないことだろう。
「はぁ……そうですか。良かったですね藍さん」
なんで従者に向かってうやうやしく敬語を使っただろうか。理由を考えて見たけど、答えは固まらず水泡のように淡く消えて行った。
今度さとりかこいしにこのときの自分の心理状態を診断して貰おうか、と紫は悄然たる笑みを浮かべる。
「んー、おいしいよこれ。こいしちゃんもやるねぇ。早苗と神奈子も良く出来ているよ」
隣では神様が実に嬉しそうに自分のケーキを食していた。蜘蛛の網目よりも、複雑で奇抜な神々のライフゲームを勝ち得た幸福。あの拙い棒もゲームにベッドするための、世界中のどこにでもありそうなちっぽけなコインだと思うと、奇妙な歪さはどこかへ乖離していった。
そんなくだらないことを思いながら、てくてくと歩いて来たこいしのはにかんだ顔を見る。
「ねー紫さん、私のケーキどうでした?」こいしが心配そうな色を浮かべながら尋ねてきた。
「美味しかったわ。フロイト食べさせたくなるくらい、芸術的で素敵な味だったわよ」
ゆかりはこいしの髪を指に記録させるかのように丁寧に撫でる。彼女の桃の匂いが家に染み付いた甘ったるい匂いと上手く混ざり合い、それが少女達の戦いによる熱気に焦がされ脳を刺激する幻想的な香りになった。紫はいつでも取り出せるように記憶の中の小さな瓶に保存する。
7.
もう太陽は完全に西へ落ちて、あたりは真っ黒なペンキで塗りつぶされた。分厚い雲が空を覆い、月明かりも期待出来ない。
だがしかし、紫たちのいるこの家は照明設備がバッチリなので、お客として招かれるレミリア達も、遠い宇宙からでも自分の存在を強く主張する一番星を簡単に見つけられるように、私達のいる場所をすぐに発見することが出来るだろう。だいたい地図もあらかじめ送ってある。
念のためラプラスの魔でレミリア達を確認してみると、やはり順調にこの場所まで向かって入るようだ。到着まであと三十分と行ったところか。
パーティーのための飾り付けや料理はとっくに作り終わっているけど、ケーキバトルはまだまだ時間がかかりそうである。そろそろだな、と紫は思った。
「さて、最後は私のケーキだね。正体不明のケーキを食ってみんなSI・NE!」とぬえが残った箱を勢いよく開けた。
「あら、意外と普通のケーキなのね」フランが箱に入っていたケーキを見るやいなや、きょとんとした顔を見せる。「ぬえのことだからモザイクを贅沢に使った、変なケーキでも作ったのかと思ったわよ」
テーブルの上に現れたケーキは、どこかの工場で大量生産されているようないたって普通のチョコレートケーキであった。納豆も入っていなければ、スポンジの部分も油揚げではなさそうだ。
「うーん、あなたにしては随分置きに行ったね。鵺の名が泣くよ?」
諏訪子は鼻白んだように肩をすかした。どうせまた禁止ワードを言いたかっただけでしょ、というような悪態を紫はあえてしなかった。
「まぁまぁ、とりあえず食べてみようよ。それにまた卑猥なケーキが出て来たら、焼鳥の材料を増やそうと思ったところだよ、私は」
と妹紅は人差し指に火を灯しながらぬえを横目に見た。部屋の空気が少しばかり夏に近づいた気がする。いっぽう、挑発されたぬえは慄然とするどころか、「いつでもどうぞ」と言いたげに奥歯を光らせながら妹紅に微笑みかけた。
妹紅もぬえも伊達にExボスを担当していない。どちらの肝も食べたら胃がもたれそうだ。
「あぢゅぅっ!」
そのとき、身を引き裂くような悲鳴がどこからか聞こえてきた。妹紅は慌てて火を消し、まさか私の所為じゃないよね? と確認するようにまわりをキョロキョロとあたりを見渡している。何事かと紫も音の発生したほうへ顔を向けると、こいしが瞳に涙を溜めながら口を押さえていた。どうやらチョコレートケーキを一口で食べようとしたせいで、口の中が火傷をしてしまったようである。
「大丈夫、こいちゃん?」藍がこいしの口についた涎を拭う。「火傷すると危ないから、ケーキはゆっくり食べなさいってあれほど言っただろ」
「むぅ、ごめんなしゃい……」
とこいしは謝り、水で口のケガを癒そうとうがいをしている。その頬を動かす仕草が食べ物を口の中に溜め込むリスのようで、なんとも微笑ましかった。そしてそれを飲み込むと、何事もなかったようにまたケーキに口をつけた。どうやら大事にはいたらなかったようである。
さて、安心したことだし私も食べようか、と紫もケーキにフォークを入れる
と、中から肉の甘い油の匂いが立ち込める湯気と共に上ってきた。肉汁のようなものも皿に上に滴り落ち、地底から湧き出てきた温泉のように旨みをこれでもかと見せつけてくる。
溢れ出す涎を抑えながらケーキを一口食べて見ると、あっさりとした肉の旨みが口の中に広がった。この舌で解けるような味わいは普通の食材とは違うようだ。ぬえお得意の大豆料理、おそらく新発売の(ゆうかりんマジ乙女大豆)を使用してるに違いない。脂っこい肉と違って胃がもたれる心配も無さそうだ、と思った。
そんなまったりとした紫のお食事タイムを妨害するかのように、向こうの方で喧騒の声が聞こえてきた。
「ちょっとぬえ! なんでケーキにこんな危ない物仕込んでるのよ!」フランがぬえにクレームをつけている。
「危なく無いよ。だって中身ハンバーグだよこれ?」とぬえは慌てて弁解する。
「こいしちゃんがすでに被害に遭っているでしょうがっ」フランはこいしに目を向けたが、すでに彼女は何事もなかった様にケーキをモグモグと頬張っていた。「えへへ、私ならもう大丈夫だよフランちゃん♪ ちょっと驚いちゃっただけだもん」と言われる始末である。
「ほら、こいしも平気そうだよ」とぬえは笑った。「ところで、フランなんで目を濡らしてるの? もしかして熱くてビックリしちゃったの? 地獄の業火も平気な悪魔なのに? あとそろそろスカート返して?」
「うるさいっ! そんなわけないでしょうが。私の顔を見て笑ってるんじゃないわよ!」
ケンカになりそうなところで藍が仲裁に入ってくれた。こいしも同伴である。やはり母にするなら我が従者が一番だな、と思いながら紫はまたケーキを口に含んだ。
8、
「さて、最後は紫の番だけど、ちゃんと用意出来てるの?」
ぬえが心配そうに眉間に皺を寄せた。周りの奴らも紫に向けて苦笑いをするか、哀れんだような顔している。まるで罰ゲームを受ける敗者を見るような目つきだ。
……さてはあいつら私が何も用意してないと思ってるんだな。紫は不満そうに口元をゆがめたが、しかし好都合でもあった。
紫はほくそ笑みながら、ラプラスの魔で再度外の状況を確認。お客さんはもうすぐくる、目的の物も見つかった。準備がカンペキな事を胸の内で悟る。
「愚問ねぇ、この超賢者である私が何も用意してないと思ったの?」
紫は頬ほころばせると、スキマからそれぞれ五つのショートケーキを取り出した。形は先ほどのぬえのケーキとはなんら変わりないくらいシンプルなものであったが、色は積もったばかりの雪を思わせるくらい白く、見る物を魅了するような輝きに帯びていた。市販のショートケーキと比べると、模造品のダイヤと本物のダイヤくらいの差があるに違い無い。
たとえ星の光すらない夜道を歩かされたとしても、このケーキさえあれば月明かり代わりになる、それくらいに神々しい光を帯びていた。
思わずみんなの口から感嘆の声が洩れ出す。
「あーうー……、紫のケーキ、かなりおいしいね。ちょっと侮っていたよ」
もっとも厄介な諏訪子にはやくも賞賛の言葉を送られたので、思わず紫はタップダンスを踊りたくなった。
藍も、まさかぐうたら主がきちんと準備をしていたとは思わなかったようで、目を見開きながら黙々とケーキを食べている。
やるときはやるのよ、と紫は腰に手を当て胸を大きく張った。
「何か裏でもあるんじゃないの? 長生きしてる奴に碌な奴はいないからね。どうなのよ、紫?」
妹紅は紫を揶揄するように、クリームで白く彩られたフォークを突きつけた。自分だって充分すぎるほど長生きしてるくせに、と紫は眉をひそめたが、妹紅の言っていることは西から昇ったウツホが東に沈むくらい常識的なことで、反論が出来なかった。自嘲の意味も含まれているのだろうか。
「美味しいんだけど、これどっかで食べたことあるような気がするんだよぬぇ」ぬえが頬をもぐもぐと動かしながら首を傾げる。「どこだっけ、覚えてる?」
と尋ねるようにフランに視線を送った。
フランはすでに食べ終わっており、食後のトマトジュースを細いストローでちゅーちゅーと美味しそうに吸っている。
「あら、奇遇じゃない。私もどこかで食べたことあるのと思ったところ」フランが考え込むように宙を見つめた。「でも咲夜のケーキにしては鉄の味が薄いから、家のケーキとは違う感じなのよね」
「あーうー、そういうことなら紫に聞けばいいと思うよ。もちろん教えてくれるよね?」諏訪子はつぶらな瞳にドス黒い光を携えながら、蛙を追い詰めた蛇のように紫へ視線を送った。
「ええ、当然教えるわよ」
紫は自分の額に汗が滴るのを感じた。部屋は頬を染めるほど暖かいはずなのに、全身を巡る血液はチルノに抱き絞められたように冷めていった。心臓の高鳴る音が、周りに聞こえないか不安になる。
「むぅ、私このケーキがなんだかわかったよ♪」こいしは白いひげの付いた口を上下に動かす。フラン達の好奇の目が彼女へと向けられた。「うーんとね、これはね……」
とこいしが言い終わらないうちに、入り口の方から錆びたノコギリで身を切り裂くような冷風が彼女たちを襲った。突然の出来事に紫達は身を震えさせながら風が進入してくる方向へと顔を向けると、どうやらお客が到着したようである。
こいしの話は北風のおかげで、みんなの頭から吹き飛んでしまったようだ。
9、
「今晩はご招待頂きありがとうございます。あらあら、部屋の中は随分暖かいのですね」と恭しくお辞儀をしながら聖が家に入ってきた、と思えば、「まったく、仏教がクリスマスを祝うなんてどうなの? どうなの?」とレミリアが悪態をつくと「お嬢様、それを言ったら悪魔がクリスマスを祝うなんてどうかと思いますよ。そこの神様も、ですけど」と咲夜が鼻を鳴らし、「別に私はクリスマスを祝いたいわけじゃないよ。飲んで騒げれば神様はそれで満足なのさ」と神奈子が仰々しい注連縄を携えて部屋へと足を踏み入れ、「私達が現役だった頃は、こんなイベントなかったねぇ。あの頃は何をやっていたっけ?」と一輪が言って、「さぁ、船でも沈めてたんじゃないんですか。ところでぬえはなんでスカートを穿いていないんです? わたしがぬれ場は得意だからって、そんな大胆にならなくても」とムラサに返され、「変態を駆除する方法なら家の蔵書にあった」とパチュリーが無表情な顔で淡々と告げた。
「うにゅー、寒かったぁ。こいしさまー、私とフュージョンしましょうよー」とお空がこいしに頬をすり合わせるながら包み込むように抱きつき、「私もご一緒しますね!」とお燐も便乗しながらお空と一緒にこいしをサンドウィッチのように挟み込み、「もこー、寒いから殺し合いでもしましょうよー」などと輝夜は物騒な事を言って、その隣で腕を組んでいる慧音と永琳の頭を悩ませ、「やはり幻想郷のクリスマスは常識に囚われないんですね」と早苗が両手を広げて目を輝かせ、「寅年も終わりですかぁ」と星が溜息をつきナズーリンや美鈴、うどんげやてゐに横っ腹を突かれていた。
やっとお客さんが到着した様子だ。他にもExメンバーの知人がどかどかと部屋に足を踏み入れてきた。
外はよっぽど寒かったらしく、みんな磁石のSとNが引き寄せられるように暖炉の方へと集まって行く。その光景がまるでケーキに群がる蟻のようで、赤橙黄緑青藍紫といろんな服の色が錯綜としている姿は、虹をミキサーでメチャクチャかき混ぜたように見えて、まるでそれ自体がクリスマスを彩る飾りのようであった。
しかもどこからか嗅ぎ付けたのか、霊夢と魔理沙もいつのまにか暖炉の傍で暖まっている。まったくあいつらは、と紫は唇の端に苦笑を滲ませた。人数が増えると自然と場の空気も暖められるから、とくに悪い気もしなかった。
やがて、机でたむろしていたExメンバーも知人の方へと足を進めた。
「お姉さま来るのが遅いわよー」とフランが文句を言うと、「ムラサも来るの遅いぞ」とぬえも眉を寄せ、「一人で大丈夫だったか?」などと藍は橙の頭を撫で、「ありがたい神様がいなかったおかげで、そっちの神社も大変だったでしょ」と諏訪子が冗談を言い、「えへへ、くすぐったいよー♪」とこいしは肌を摺り寄せてくるおくうとお燐に微笑みかけている。妹紅達はすでに外で、季節はずれの大きな花火を散らせていた。
みんなもうケーキバトルの勝敗のことなんて、忘れてしまったようだ。それはそれでかまわないと思った。みんな過程が楽しめればそれでよかったのだし、どうせ結果は最初から予定されていたのだから。
「今晩は八雲紫、地上は随分寒いんですね」
ふいに地霊殿の主である、古明地さとりが目の前に腰を下ろした。わずかに開けられた瞳から覗く、細く鋭い三白眼が紫を射る様に見つめたが、怒っているようではなさそうだ。
「今晩は古明地さとり。あなたのおかげで助かったわ」
さとり相手に手札の読み合いをしても仕方ないので、紫はさっそくジョーカーを切り出した。
「やはり、私が作ったケーキを奪ったのはあなたでしたか。まぁいいですけどね、どっちみちみんなには食べて貰ったようですし」さとりは飽きれるように両腕を横に広げた。
「心が読めるのってやっぱり便利ねぇ」
「嫌味ですか? それよりもし私がケーキを作らなかったらどうするつもりだったんです?」
「私は幻想郷の全てを知るウルトラ賢者なのよ? 失敗はありえないわ。先週のあなた達の夕飯だって、私の計算で割り出せるんだから。ずばり、鳥のから揚げでしょ?」紫はさとりの胸に人差し指を突きつけた。
「おくうが泣いて喜びそうですね。まぁそんなことはどうでもいいんです。それで、あなたはケーキバトルとやらにわざと負けるわけですか。ずいぶん面倒な事をするんですね。素直に言えばいいのに。こいし達にプレゼントを用意したわよ! って。わざわざ自作じゃないケーキを出したものは反則負けなんて分かりきったルールまで作って」さとりは肩をすくめた。
「分かってるくせに、やっぱりあなたは意地悪いねぇ。」と紫はくすりと笑った。
「ええ、意地悪ですよ。意地悪なので、あなたが私のケーキを奪ったことをみんなに告げ口しますね。ケーキバトルはあなたは反則負けですってね」
さとりゆっくりと立ち上がり、みんなのいる暖炉の方へと歩いていった。ペタペタペタ、とサンダルのような彼女の靴が地面を蹴るたびに音を鳴らす。
彼女が数歩進んだところで、紫はふと気がついたようにちいさな声で呼びとめた。
さとりは何も言わないでこちらに顔を向ける。
「ねぇさとり。クリスマスで一番楽しんでいるのは誰だと思う? キリスト? カップル? 子供? ケーキ屋の親父? オモチャ屋の店主?
いいえ、サンタよ。だいたいプレゼントなんて直接本人に渡しちゃえばいいじゃない。――俺がサンタだ!感謝して敬え!クリスマスの王者は俺だ!ガハハハハ……って言えば誰かしらは泣いて土下座するに違いないわ。ありがとうサンター!来年もよろしくー!次はもっと高いの頂戴ねー! って
でもそんな野暮なことサンタがしないのは、こそこそと隠れてプレゼントを渡した方が何億倍も楽しいからよ。誰にも正体をばらさないで、こっそりと子供の枕元にプレゼントを置くスリルはイタズラをしているときのドキドキ感に似ていると思わない? その全身の毛を逆立てるような快感のために、わざわざ夜の寒い中あちこちを回り面倒な仕事をしてまわるの。それって子供みたいだと思わない? 結局、一番サンタという夢や幻想を信じているのは子供じゃなくて、プレゼントを渡す奴らなのよ。人間に幻想を与える妖怪みたいなものよね」
巻くし立てるように紫が言う。他の奴らに聞かれたかなと思ったけど、みんな身体を暖めるのに夢中なようだ。メラメラと燃える暖炉の前で、石のように固まっている。
さとりはやはり紫に対して何も言わなかった。第三の目がぎょろりとこちらを見る動作をしたくらいだ。さとりの目は、嵐が過ぎ去った後の海面のように優しく穏やかだった。
そしてさとりは唇を緩め、また暖炉の方へと足を進めて行った。ぺたぺたぺたぺた。と思ったら、とつぜん思い出したかのように踵を返し、紫に声をかけた。
「ああ、思い出しました。先週の夕飯はたぬきそばでした」
さとりは意地悪そうに口元を吊り上げながら、またメラメラと炎が逆立つ暖炉へと向かって行った。
暖炉で暖まっていたフラン達他数十名のボスたちも、体の氷を溶かしきったのかこちらへ向かってきた。
そして、さっそくパーティーの準備をしだすようだ。
「はぁ、この幻想郷には素直な奴がいないわねぇ」
この家が紫からのプレゼントと言ったら、あいつらはどんな顔をするだろうか。怒るだろうか、呆然とするだろうか、それとも素直に喜んでくれるだろうか。それをおかずに想像するだけで、紫はワインで一杯やりたい気分になった。
そういえば、あの二人の子供はどうしているだろうか。お話しどおりにこの家までやってきた子供たち。彼らにこのお菓子の家を上げる事は出来なかったけれど、代わりに大量の食料をあげてお家には帰してあげたから、いまごろは父親と楽しくやっているのだろうか。
あの母親は改心したのだろうか? 家を取り上げたときは老婆のように泣いていたあの女性。一年に一度くらい、憎まれない役をやってもいいんじゃないだろうか。貧困から掬われてもいいんじゃないだろうか。
紫はスキマから一冊の童話を取り出して、最後のページを捲り、そして唇を緩めた。
「メリークリスマス。まぁ、季節は全然違うようだけれどね」
最後のさとり様の言うことにはなるほど納得しました。確かに子供の喜ぶ顔が見たい大人が一番楽しんでるんだなと。
途中途中で色々笑わせてもらいました。
ところで細かいですが、何時間も経ってたのにハンバーグが火傷するほど熱々だったのがちょっと(?)って思いました。あとぬえの服ってワンピースだから引っ張ってもスカート脱げないんじゃ……
西へ落ちて?
クリスマスに素敵な姦しいお話をありがとうございました
なんにせよごちそうさまでした
さるお方は不死鳥が座薬を打たれる夢を・・・
そろそろ一周年おめでとうございます
知ったのは最近ですが全部読ませてもらいました
三人娘バンザイ!!
私的には1年しかたってないんだなあって感じ…
来年も是非楽しませてもらいたいです
ぬえがワンピースだとするとskmdyなことになってそうだw
ハンバーグは言われて見れば確かに……。
ぬえちゃんの服はいままでずっとミニスカ派として書いてました。
でも急いで星起動して確認したら、確かにワンピースにも見えてきた……。
ぬえちゃんの服装の可能性が広がったと前向きに考えます!
なんにせよ一年って短いものですねぇ。
この一年間、誤字修正本当に感謝です。ありがとうございました。
>>奇声を発する程度の能力さん
コメントありがとうございます。笑って頂けて何よりです。
>>9さん
西ですね。指摘ありがとうございます。修正させて頂きます
>>11さん
短いですねぇ、もうすぐ新年です
>>15さん
来年もまた頑張りたいと思います。
全部見てくださって本当に感謝です
>>16さん
ありがとうございます、来年も引き続きやっていきたいと思います
そろそろ真面目に出会い編などの長編も完成していんですけどね……。
ぬえちゃんワンピースだとかなりskmdyですね……w
それとも、これが聞くところの「別腹」ってやつでしょうか?w