霊夢は思う。
自分から人を招く、なんてことは珍しいのではないかと。
しかも、その人を頼り相談するためだなんて。
もしかすると初ではないだろうか。
もっとも、呼ばれた側にしてみればそんなことは知る由も無い。
勝手に遊びに来るときのように、コタツで温まっている。
いつもの位置、霊夢の反対側で。
「それで、相談ってなんでしょう?」
お茶を一口啜ってから、呼び出された人物、早苗がそう言った。
こんなことを相談できるのは、彼女しか居ない。
そう思ったから呼び出したのだが、それでも、恥ずかしくてなかなか言葉にならない。
「霊夢さん?」
「なんていうか、その」
一度口を開きかけた霊夢だが、また口ごもってしまう。
「ゆっくりで、大丈夫ですよ」
早苗はそう微笑んでもう一度お茶を啜った。
おいしいお茶ですね、などと呟いている。
そのゆっくりのんびりとした早苗の様子が、今の霊夢にはありがたかった。
早苗につられるように霊夢の心も落ち着いていく。
「その、ね、気になるの・・・」
「え」
「気になる人がいるの!」
「えええ!」
恥ずかしかった。
ただひたすらに恥ずかしかった。
気になる、ということを暴露するだけでここまで恥ずかしいとは。
「く、詳しく聞かせてください!」
早苗が急に意気込んだ。
「え」
霊夢は戦慄する。
これ以上恥ずかしい思いをしろというのか。
だが相談に乗ってもらうという目的がある以上は、早苗に一部始終を説明せねばなるまい。
「今朝、朝市に行ったんだけど」
曲がり角で青年とぶつかったのだ。
そして、ドロワが見えた見えないですったもんだしたあげく、手を引いて起こしてもらった。
そのときの青年がどうにも気になる。
特に彼から漂った甘い香りが。
「ひとめぼれ、なのかしら」
霊夢はそう締めくくると、ため息をついてコタツに張り付いた。
今朝の出来事を考えるとどうにも胸がモヤモヤとしてくる。
そうして、そのモヤモヤがいっぱいになると、ほぅ、とため息になって出てくるのだ。
「れ、霊夢さん?」
「ねぇ早苗。私、どうしたらいい?」
「今すぐ会いに行くべきです!」
先手必勝です!
そう断言する早苗には、幻想郷にくる直前まで付き合っていた男の子がいたらしい。
奥行きが無い、薄っぺらな男の子だったそうだが、それでも愛していたのだという。
けれど、電気というものの無いところでは生きていけないため、幻想郷に来る際に泣く泣く別れたのだとか。
それ以外のことは語ってくれないけれど、どうやら絵描きの彼氏だったようだ。
「最後の一枚絵、見てないんですよねぇ」と早苗が言っていたのだから。
彼氏の作品が完成するのを見ることなく別れなければならなかったとは。
霊夢はちょっぴり同情した。
「いいですか、霊夢さん」
早苗は身を乗り出してコタツの天板を叩く。
バン。
お茶が少し零れた。
「会えなくなってからでは、遅いんですよ?」
「早苗・・・」
早苗が大きく息を吸い込む。
「クリアするのもったいなぁって」
早苗の瞳。
そこに、哀しみの粒がにじむ。
「先にギャラリー埋めようって」
長い睫毛の堤防。
その水位がどんどん上がっていく。
「本命は最後にしようって」
ついに決壊した。
涙が、溢れる。
「でも、もう、二度と、会えないんです」
早苗は、そう言った。
言い切った。
かなしそうに。
綺麗だと思った。
後悔にまみれて、ずっと引きずっていて。
それでも強く強く想う早苗は、とても綺麗だった。
「さぁ、霊夢さん」
早苗が障子を開け放つ。
一気に寒風が流れ込んできて、湿った空気を吹き飛ばす。
流石は風祝、風の使い方を心得ている。
「もう一度言いますよ?」
早苗が、庭の向こう、空の彼方を指差す。
「先手必勝です!」
「行ってくる」
霊夢は飛び出した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
人間の里は相変わらず賑やかだった。
その中でも、農民と工人そして商人が集う昼の市は一層賑やかである。
うるさいと言ってもいいかもしれない。
だが、そのうるさいほどの喧騒の真っ只中でも、霊夢はあの声を聞き分けることが出来る。
ちょっと低いが、そのおかげでよく通るあの声。
今朝の曲がり角にいるようだ。
霊夢は、ともすれば逃げ出しそうになる己の脚を必死で前に進ませる。
少しずつあの甘い香りが近くなってくる。
あと三歩。
二歩。
一歩。
さぁ、目の前だ。
目が合った。
今朝の青年がにっこりと微笑む。
霊夢も、ぎこちなく微笑んで、
「甘酒くださいな!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「やっぱり美味しい。私の勘は当たってたわ」
「たしかに美味しいですけど」
神社のコタツで霊夢と早苗が甘酒を啜る。
「原料はやっぱりひとめぼれだったわ」
「お米の、ですか」
寒冷である幻想郷に適しているのだとかで、スキマ妖怪が導入したらしい。
「それなら、何故あそこまで恥ずかしそうに?」
「辛党の私が甘酒好きなんて、恥ずかしいじゃない」
大福だろうと道明寺だろうと好んで食べているのに、いまさら辛党などと。
早苗はそう思ったが口には出さないでおく。
「私はてっきり霊夢さんが屋台のご主人に恋したものだと」
(だからあんなに恥ずかしい過去話も喋ったというのに)
「私が男に? ないない」
霊夢はそう言って手をひらひらと振った後、急にコタツに潜り込んだ。
「だって・・・」
にょきっと、早苗の胸の辺りに出てきた。
そのまま顔を埋める。
「だって、私は、女の子のほうが・・・」
「え!? えっと、アッー!!」
自分から人を招く、なんてことは珍しいのではないかと。
しかも、その人を頼り相談するためだなんて。
もしかすると初ではないだろうか。
もっとも、呼ばれた側にしてみればそんなことは知る由も無い。
勝手に遊びに来るときのように、コタツで温まっている。
いつもの位置、霊夢の反対側で。
「それで、相談ってなんでしょう?」
お茶を一口啜ってから、呼び出された人物、早苗がそう言った。
こんなことを相談できるのは、彼女しか居ない。
そう思ったから呼び出したのだが、それでも、恥ずかしくてなかなか言葉にならない。
「霊夢さん?」
「なんていうか、その」
一度口を開きかけた霊夢だが、また口ごもってしまう。
「ゆっくりで、大丈夫ですよ」
早苗はそう微笑んでもう一度お茶を啜った。
おいしいお茶ですね、などと呟いている。
そのゆっくりのんびりとした早苗の様子が、今の霊夢にはありがたかった。
早苗につられるように霊夢の心も落ち着いていく。
「その、ね、気になるの・・・」
「え」
「気になる人がいるの!」
「えええ!」
恥ずかしかった。
ただひたすらに恥ずかしかった。
気になる、ということを暴露するだけでここまで恥ずかしいとは。
「く、詳しく聞かせてください!」
早苗が急に意気込んだ。
「え」
霊夢は戦慄する。
これ以上恥ずかしい思いをしろというのか。
だが相談に乗ってもらうという目的がある以上は、早苗に一部始終を説明せねばなるまい。
「今朝、朝市に行ったんだけど」
曲がり角で青年とぶつかったのだ。
そして、ドロワが見えた見えないですったもんだしたあげく、手を引いて起こしてもらった。
そのときの青年がどうにも気になる。
特に彼から漂った甘い香りが。
「ひとめぼれ、なのかしら」
霊夢はそう締めくくると、ため息をついてコタツに張り付いた。
今朝の出来事を考えるとどうにも胸がモヤモヤとしてくる。
そうして、そのモヤモヤがいっぱいになると、ほぅ、とため息になって出てくるのだ。
「れ、霊夢さん?」
「ねぇ早苗。私、どうしたらいい?」
「今すぐ会いに行くべきです!」
先手必勝です!
そう断言する早苗には、幻想郷にくる直前まで付き合っていた男の子がいたらしい。
奥行きが無い、薄っぺらな男の子だったそうだが、それでも愛していたのだという。
けれど、電気というものの無いところでは生きていけないため、幻想郷に来る際に泣く泣く別れたのだとか。
それ以外のことは語ってくれないけれど、どうやら絵描きの彼氏だったようだ。
「最後の一枚絵、見てないんですよねぇ」と早苗が言っていたのだから。
彼氏の作品が完成するのを見ることなく別れなければならなかったとは。
霊夢はちょっぴり同情した。
「いいですか、霊夢さん」
早苗は身を乗り出してコタツの天板を叩く。
バン。
お茶が少し零れた。
「会えなくなってからでは、遅いんですよ?」
「早苗・・・」
早苗が大きく息を吸い込む。
「クリアするのもったいなぁって」
早苗の瞳。
そこに、哀しみの粒がにじむ。
「先にギャラリー埋めようって」
長い睫毛の堤防。
その水位がどんどん上がっていく。
「本命は最後にしようって」
ついに決壊した。
涙が、溢れる。
「でも、もう、二度と、会えないんです」
早苗は、そう言った。
言い切った。
かなしそうに。
綺麗だと思った。
後悔にまみれて、ずっと引きずっていて。
それでも強く強く想う早苗は、とても綺麗だった。
「さぁ、霊夢さん」
早苗が障子を開け放つ。
一気に寒風が流れ込んできて、湿った空気を吹き飛ばす。
流石は風祝、風の使い方を心得ている。
「もう一度言いますよ?」
早苗が、庭の向こう、空の彼方を指差す。
「先手必勝です!」
「行ってくる」
霊夢は飛び出した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
人間の里は相変わらず賑やかだった。
その中でも、農民と工人そして商人が集う昼の市は一層賑やかである。
うるさいと言ってもいいかもしれない。
だが、そのうるさいほどの喧騒の真っ只中でも、霊夢はあの声を聞き分けることが出来る。
ちょっと低いが、そのおかげでよく通るあの声。
今朝の曲がり角にいるようだ。
霊夢は、ともすれば逃げ出しそうになる己の脚を必死で前に進ませる。
少しずつあの甘い香りが近くなってくる。
あと三歩。
二歩。
一歩。
さぁ、目の前だ。
目が合った。
今朝の青年がにっこりと微笑む。
霊夢も、ぎこちなく微笑んで、
「甘酒くださいな!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「やっぱり美味しい。私の勘は当たってたわ」
「たしかに美味しいですけど」
神社のコタツで霊夢と早苗が甘酒を啜る。
「原料はやっぱりひとめぼれだったわ」
「お米の、ですか」
寒冷である幻想郷に適しているのだとかで、スキマ妖怪が導入したらしい。
「それなら、何故あそこまで恥ずかしそうに?」
「辛党の私が甘酒好きなんて、恥ずかしいじゃない」
大福だろうと道明寺だろうと好んで食べているのに、いまさら辛党などと。
早苗はそう思ったが口には出さないでおく。
「私はてっきり霊夢さんが屋台のご主人に恋したものだと」
(だからあんなに恥ずかしい過去話も喋ったというのに)
「私が男に? ないない」
霊夢はそう言って手をひらひらと振った後、急にコタツに潜り込んだ。
「だって・・・」
にょきっと、早苗の胸の辺りに出てきた。
そのまま顔を埋める。
「だって、私は、女の子のほうが・・・」
「え!? えっと、アッー!!」
飽きた小町
どうみても二次元です、本当にありがとうございました。