Coolier - 新生・東方創想話

羽衣は想いの如く

2010/12/18 19:11:35
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 三途の河には魚がいない。

 川面を覗けば大きな魚影を拝めるものの、それは全て触れることの出来ない幽霊である。
 命の息吹く余地は無し。
 彼岸と此岸の境界別つ、三途の河には鎮魂の、霧の沈黙こそが相応しい……

「――そんなわけで、ようやく総領娘様を連れ戻したのですけれど」

 ……相応しい、はずであるが。
 今、その河に生きた魚の影があった。
 三途の渡し守、船頭死神・小野塚小町は、仕事道具の舟に腰を下ろしてその魚を見る。

「相変わらずの不良天人だねえ。懲りる頭を持ってないわけじゃないだろうに」
「頑丈な御方ですから」

 フォローしているのかいないのか。
 そもそも微妙にピントのずれた答えを返して、川辺の岩に腰掛けた魚は穏やかに微笑んだ。

 美しい、緋い魚であった。

 その身に纏う、ふわふわ宙に舞う羽衣と同じくらい掴み所のない笑みを浮かべる様は、月すら霞む美貌の淑女。
 彼女こそは雲海に棲み、龍神の意志を伝える竜宮の使い。妖怪、と呼ばれる存在だ。
 その魚妖怪に笑み返し、ふと、小町は怪訝な顔をする。

「ところで……お前さん」
「衣玖です。永江の」
「知ってるけどね」

 やはりずれた答えを返す竜宮の使い――永江衣玖は、首をすくめる彼女を不思議そうに見つめていた。

「この頃よく河へ来るじゃないか。これだけしょっちゅう来られちゃ、名前も覚えるさ」
「おや。お邪魔ですか」
「自殺する気でなけりゃ、あたいは構わないよ」

 目を丸くする衣玖に、小町はひらひらと手を振ってみせる。

 ――過日、幻想郷中の気質が乱れる「異変」が起きた。
 ある天人の娘が黒幕だったのだが、その天人に灸を据えた者の一人が小町であり、天人のお目付役として派遣されたのが衣玖である。
 事件の渦中で顔を合わせることはなかったが、何の因果か、勤め人同士に通じる気質を感じたか。
 神社の宴で知り合ってこちら、何かと話す機会が増えてはいた。

 小町の答えに、衣玖がほっと息をつく。
 嬉しげに微笑む彼女の頭上で羽衣もぱたぱた踊っていた。何故。

「……神経とか通ってるのかい、その羽衣」
「考えたこともありませんね」
「考えなきゃ分からないのがもう問題なんじゃないかと、小町さんは思うんだ」
「そう言えば、今日は小町さんに相談したいことがあって来たのですが」
「マイペース甚だしいなこの深海魚」

 竜宮の使いという連中は皆こうなのだろうか。
 だとすれば、わざわざ衣玖が三途の河まで話し相手を捜しに来るのも頷ける――つまり、同族同志では会話にならないので。
 嫌な仮説に気勢を落とす小町に気付かず、衣玖は言葉を噛み潰す。
 もじもじとつつく指先に合わせて、羽衣も複雑に蠢いていた。ちょっと気持ち悪い。

「少し――あの。聞きにくい、と言うか……なんですが」
「うん?」
「小町さんは、その…………こ、恋をなさったことはありますかっ……?」

 間。

 ガチガチに角張った羽衣を掴み(もう形は気にしないことにする)真っ赤な顔で訊く竜宮の使いの気迫に呑まれ、一瞬ならず言葉を失う。
 しばしの沈黙の後、衣玖が改めて声を張り上げる。

「つまり特定の個人に、強烈な、退っ引きならない懸想の念を」
「恋でいいよそこは」

 生々しいわ、と水竿で帽子の頭を引っぱたき。
 ころころ岩を転げ落ちる衣玖を見送りながら、小町は困惑顔をした。

「相談したいことってのは、その手の話かい」
「恥ずかしながらこの永江衣玖、色の道には滅法疎く」

 何事もなかったようにふよふよと飛んで岩の上に戻り、衣玖は大きく頷いた。

「なにかアドバイスを頂ければ、と」
「あたいも月並みのことしか言えないけどねえ」

 いまいち気合の入りきらない顔を深刻に引き締める衣玖から目を外し、小町は河の向こうを見る。
 こういう話は彼岸の上司、四季映姫・ヤマザナドゥが明るい所だ。閻魔は伊達に長く生きていない。
 とはいえ私事で彼女に手間をかけさせるのも如何なものか。
 そも、今は勤務時間だ。
 ……うむ。勤務時間だ。
 忘れた訳じゃないからいいだろうと大雑把に割り切り、小町は竜宮の使いへ意識を戻す。

「ま、話してみなよ。それだけで腹が決まるってこともあるかもだ」
「是非、是非」

 感極まったように両手を握り、衣玖はいそいそとその場へ座り直した。
 犬の尻尾じみて揺れる羽衣はなるべく見ないように努め、小町は顎に手をやる。

「お相手は、あたいも知ってる奴かい?」
「はい。異変の折、なにかと有名になられた御方ですから」

 そうだろうね、と息一つ。
 衣玖とて、まったく相手と関わりのない相手へ相談には来るまい。

(さて、さて――)

 永江衣玖――黒の雲海をたゆたう、美しき緋の衣。
 龍魚の化身に相応しい流麗な線を描く体躯は、大概にスタイルが良いと言われる小町に引けを取らない。
 以前、紹介した四季映姫をして『なんですかそれ大きい人の友達は大きいんですか解せません納得いきません縮みなさいあなたたち縮みなさいよきしゃー』と言わしめ、泣かせた実績の持ち主である。
 不安げに羽衣を掴む衣玖に、小町は静かに微笑んだ。

「誰にせよ、お前さんに見初められるとは幸せ者だ」
「もうっ、おだてても球電しか出ませんよ」
「それは素直に迷惑だけど」

 本当に照れてはいるらしく、頬を朱に染める衣玖の羽衣から撒き散らされるプラズマ球が身体を掠めていく。危ねぇ。
 直撃しそうな球電を水竿で弾いてから、小町はふむ、と腕を組み。

「で、お相手は――例の頑丈な御方かい?」
「……わ、わかりますか?」
「何となくね」

 掴めない性格のくせに、こんな所だけは分かりやすい。
 片目を瞑る小町に、衣玖は羽衣を弄りながらほう、と息をつく。

「最初は仕事でご一緒していただけなのですけど……今では、気が付くとあの御方のことを考えている有り様で」
「乙女だねえ。もう気持ちは伝えたのかい?」
「いえ、いえ! そ、それが出来ればどんなに――!」

 ぶんぶん手と首を振る竜宮の使いが、悔しげに声を押し殺す。
 なるほど。一介の妖怪が、天人に懸想するのは分不相応ということか。
 さて……得てして身分違いの恋は、悲恋に通ずるものだが。
 への字に口を曲げ、小町は鼻を鳴らした。

「やっこさん自身は、身分やらを気にするタマじゃないんだろうがねえ」
「身分? いえ、ただ言葉が届かなくて」
「? あ。遊び回ってて掴まらない、てぇことか」
「え? あの御方、今はほとんど動けませんが」
「うん?」
「さすがに大きすぎるでしょう?」
「はあ?」

 さあ、こじれてきた。
 困惑顔をつき合わせ、二人、しばし無言。
 ……あの不良天人娘のことではないのか?
 思わず、小町は舳先から身を乗り出し、


「永江の。お前さんの思い人ってのは、」
「ああ。今頃、何をしていらっしゃるのでしょう――――――非想天則さん」


 舟から落ちた。



       『羽衣は想いの如く ~Farewell,My Super Robot~』



 非想天則。

 その巨人はかつて妖怪の山に姿を現し、遍く幻想郷中に知れ渡った。
 天衝く巨影の正体が、さてもさてとて河童の手になる「張り子」、超弩級のアドバルーンであったという事件は大いに人々の関心を引いたものである――

「――で。その風船魔人が、なんだってこうなってるのよ」
「総領娘様。風船魔人ではなく非想天則さんです」

 指を立て、衣玖は咎めるように眉根を寄せた。
 彼女の言葉に肩をすくめ、半眼で頭上を見上げていた少女が振り向いてくる。
 特徴的な桃の装飾をあしらった帽子を直す彼女は、比那名居天子。
 天界の神官筋・比那名居の総領が一子にして、衣玖がお目付役を仰せつかった「不良天人」だ。
 自分の胸までしかない背丈で尊大にふんぞり返る天人娘に、衣玖は慣れた様子で答える。

「山の巫女の企画らしいですよ。全人類の浪漫を打ち立てるのだとか」
「……『これ』が、全人類の浪漫?」
「かっこいいですよね」

 胡乱げな天子に倣い、衣玖も羽衣をふりふり『これ』を見上げる。

 それは、要塞だった。

 少なくとも二人の立つ場所からは全容を把握できない。
 鉄とも赤銅ともつかない不思議な色味の金属で組まれた巨大な人型の骨組みに、得体の知れない機械部品がパズルのように詰め込まれている。
 視界を一杯に塞ぐその威容は、正に機械の砦と呼ぶべき有り様。
 しかし。
 山の巫女――東風谷早苗は満を持して、この建造計画に相応しい名を発表したのであった。
 即ち、

「『当たれ鉄拳! 驚天必殺無敵ロボ・非想天則プロジェクト』。雄大です」
「なんで企画名にアオリが入ってるのか分からないけど」

 拳すら握り締める衣玖に、天子が面倒臭そうに指摘する。

「あの巫女、戦争でも起こすつもりなの?」
「異変解決用究極決戦装備、と企画書には書いてありますが」
「……こんなモンが悠々と練り歩くほうが問題じゃないかしら」
「ふっふっふ――お気に召しましたか」

 ふと。
 背後からいかにも得意げな含み笑いが浴びせられる。

 振り返れば、一人の腋が立っていた。

 なんだ腋かと侮るなかれ、ただの腋とは腋が違う。
 彼女こそは、東風谷早苗。
 守矢神社の乾坤神に仕え、また自らも現人神として奇跡を示す、それはそれはありがたい腋なのだ。
 優雅に羽衣をひと振りし、衣玖がぺこりと頭を下げる。

「おはようございます、リーダー」
「おはようございます衣玖さん。なにやら珍しい人も」
「本日は、総領娘様がラボを見学なさりたいと仰るのでお連れした次第です」
「そうでしたか。ご感想は如何ですか、てんこさん」
「てんこ言うな下界の神」

 嫌味なく微笑む早苗に口を尖らせ、天子はぐるりと辺りを見回す。
 ラボ、と呼ばれたそこは確かに、いかにも「研究所」の趣だった。
 山の麓の大洞窟を改造したドーム状の空間は、中央に鎮座する非想天則を初めとする機械の数々で手狭なくらい。
 計器の類からコンソールパネル、重機に組み上げ途中のパーツらしきものまでが雑多に転がっている。その合間を、プロジェクトに賛同する河童達がせわしなく動き回っていた。傍目には、装置の半分くらいはインテリア目的で置かれているようにも思えたが。
 ともあれ天子は、誇らしげな様子の早苗に肩をすくめてみせる。

「ま、大したもんじゃない? こんなデカブツ、妖怪にだってそういないものね」
「んふふー。お褒めに与りまして」
「総領娘様、私も。私もお手伝いしているんですよ」
「わーかったってば」

 満足そうに鼻息を噴き出す早苗の隣で、衣玖も手を挙げて主張する。無論、羽衣も大いに波打っていた。
 ぞんざいに天子が頷くのにとりあえず満足し、彼女が改めて非想天則を見上げた、その時。

「……あ。いたいた、衣玖さーん」
「おや、おはようございます」

 水色のコートを翻し、ぺたぺた走ってくる河童の少女に気付いて、衣玖は丁寧にお辞儀をした。
 小脇に抱えた河童らしい――と思うのは偏見かも知れないが――緑色の工具箱を鳴らして、河童少女はぐるりと一同を見回す。

「珍しい組み合わせだなあ。悪巧みでもしてるの?」
「こんな所に秘密基地造ってるあんたらに言われたくないわよ」
「秘密基地……ッ!」

 何かが琴線に触れたのか、鬱陶しいくらい目を輝かせる早苗は渾身の力で無視し。
 腰に手を当てふんぞり返る天子に、河童の少女、河城にとりは屈託なく笑い返した。

「冗談だよ。ようこそ天人、ここから始まる科学の最先端へ」
「……科学、ねえ」
「おん? どうしたの、表情だけでびしばし伝わるその不信感」
「天界には、科学技術が殆ど伝わっておりませんので」
「うん。正直このでっかいのも、どんだけ凄いのか良くわかんない」

 衣玖が捕捉すると、天子は悪びれた様子もなく頷く。
 包み隠さないその態度に、にとりはむしろ笑みを深めた。工具箱を置き、天子の肩をぱしっと叩く。

「完成品で驚かすのが技術屋の仕事さ。こいつがばっちり仕上がった暁には、間違いなく度肝を抜いて見せるよ」
「ふーん……ま、せいぜい努力しなさいよ」
「ところで、どうして急にラボの見学に?」

 怪訝そうに訊ねる早苗に、天子はぐ、と言葉を詰まらせた。
 羽衣をくるりと回し、衣玖も首を傾げる。

「私も伺っていませんね。どうしてです、総領娘様?」
「……暇つぶしよ、暇つぶし」
「にひひー。寂しかったんだよねえ」 
「ちょ――!?」

 頭の後ろで手を組み笑うにとりに、天子が慌てて掴みかかった。
 襟首をがくがく揺さぶられながらも、河童は実に愉快げに、悪戯っぽく笑う。

「衣玖さん、ここしばらくラボへ詰めっきりだもんな。構って貰えなくて拗ねてたんだろう? 可愛いなあ」
「……うるさい! なんで馴れ馴れしいのよ河童っ!」
「河童は人間の盟友さ。人間と天人なんて、キュウリとモロキュウリほどにも違わない」
「それはそもそも同じキュウリでしょ!?」
「総領娘様――お気持ちは嬉しいのですが、衣玖にはもう心に決めた御方が」
「あんたはまずそういうリアクションだと思ったから言いたくなかったんだってばッ!」

 神妙に頭を振る衣玖を適当に掴んで投げ飛ばし、天子は騒がしく地団駄を踏む。
 ふよふよ宙を舞う竜宮の使いを見送り、早苗が苦笑を浮かべた。

「確かに、ご友人をお借りし続けですからね。御迷惑をおかけします」
「ふん。……ところであいつ、ここで何の仕事してるわけ?」

 一通り騒ぎ終え、天子は声を低める。
 天子が聞いているのは、衣玖が、山の巫女と河童の依頼で協力しているという事だけだ。それ以上のことは何も知らない。
 ひょっとしたら、なにか危ない事をさせられているのではあるまいか――邪推と分かってはいるものの、視線に険が混じってしまう。
 ぼこぼこと床から要石を覗かせる天子に、早苗とにとりはそれぞれ肩をすくめる。

「大丈夫、危険はありませんよ。守矢の名に懸けて請け合います」
「そうそう。安全第一がモットーのにとりんラボだい」
「……その安全の根拠が『アレ』なら、金輪際河童は信用しないことにするけど」

 にとりに向けた半眼を、そのまま真横へスライドさせる。
 ラボの片隅、「安全装置」とぞんざいに書かれた戸板の隣でくるくる回っている赤いドレスの少女を見やってから、にとりは溜め息をついた。

「霊験あらたかな秘神・流し雛だぞ。彼女が厄を流してくれるおかげで、ラボで起こった事故は早苗がボルトにスカート引っ掛けて転んだことくらいだ」
「むしろそれは事故にカウントするのね」
「無論です。思いきりひっくり返って鼻まで打ったというのに、夜中で誰もいなかったのが逆に惨めだったあの空気は筆舌に尽くしがたい」
「……誰もいなかったのに河童は知ってるわけ?」
「……あまりのおいしさに、ついカミングアウトを」

 真顔で親指を立てる早苗はもう相手にしないことにして、天子はにとりと、ようやく向こうから戻ってきた衣玖に視線を向けた。
 羽衣を掴んで引っ張り、耳元に素早く囁く。

「衣玖も。無茶させられてるんなら言いなさいよ」
「いえいえ、総領娘様。私の仕事は、これですから」

 羽衣を一打ちし、衣玖は幽かな、青白い電光を放つ。
 怪訝そうに眉根を寄せる天子の背を叩き、にとりが言葉を補足した。

「ラボの電源になってもらってるんだ。山の風力発電より安定した、大きな電力が必要なんでね」
「それじゃ、ここの機械全部、衣玖が動かしてるわけ? こんなにいっぱいあるのに?」
「非想天則さんのためならえんやこらです」

 疑わしげに見る天子に、衣玖はむん、とガッツポーズをとってみせる。
 ついでに羽衣を放電させていると、河童がへにゃりと顔をほころばせた。

「そこまで気に入って貰えりゃ、私たちも造り甲斐があるよ」
「及ばずながら微力を尽くします。ええ、死を賭してでも」
「どこからその情熱が出てくるのよ」
「分かります……あなたの気持ちは分かりますよ、衣玖さん!」
「リーダーっ!!」

 胸焼けがするほど熱い抱擁を交わす衣玖と早苗をじっとり睨み。
 先ほど噴出した要石へ乱暴に腰を落とし、天子は大きく溜め息をつく。

「勝手にしなさいよ、ったく。どうしたらこんな鉄塊に恋が出来るのかしら」
「私たちも最初に聞かされたときにはびっくりしたもんさ」
「河童はどう思うのよ。この……何。巨大ロボに恋する妖怪って」

 苦笑するにとりと非想天則の頭(らしき部位)を見比べ、半眼で訊ねる。
 そうだねえ、と天井を睨み。
 さして間を置くこともなく、彼女は首をすくめて答えた。

「技術屋としちゃナンセンスだ。妖怪としちゃ、ロマンチックだ。ただし」
「ただし?」
「衣玖さんが本気でコイツに恋してるのは分かるから。――乙女としては、憬れちゃうね」

 組み上げ途中の非想天則を叩き。
 臆面無く白い歯を見せる河童に、天子は理解できぬと頭を振る。
 
(……やっぱり、私が認めたくないだけなのかな)

 永江衣玖。
 とぼけたお目付役にして、誰もが自分を天人崩れと嘲笑う天界で「比那名居天子」の傍にいてくれる、唯一の存在。
 衣玖は仕事で自分に構っているだけかもしれないが。
 それでもこの竜宮の使いが自分にとって特別な存在であるとは、朧気ながら自覚していた。
 彼女が恋をしたというのなら、それを応援してやるべきなのだとも分かっていた。
 分かっては、いた。

 ただ心が納得できない。

 べっとりと、腹の底にこびりついたように重い、気持ちの悪い感覚。
 嫌悪感を捻り潰すように服を掴み、天子は音もなく歯を軋らせる。
 駄目だ。
 やはり、この恋を祝福する事はできそうもない。

(そりゃ、衣玖が誰を好きになろうが知ったこっちゃないけど、さ――)


 ――でもロボじゃん。

 巨大ロボじゃんこれ。


 ……うん、無理。
 おかしいじゃん。絶対おかしいじゃん。
 河童のせいでちょっといい話かなー、とか思ったけど、あり得ないもん。
 どんなロマンスに仕立てた所で「ロボ」二文字が根こそぎ持ってっちゃうもん。
 変わった奴だと知ってはいたが、無機物に恋するほど変人だとは思わなかった。まあ、ちょっとしか。

(せめて生き物の範疇で留めなさいよね)

 天の法則想うに非ず――
 故にその名は、非想天則。

 科学だロボだと言ったとて、本質は同じ張り子のまま。魂を持たない、木偶だ。
 魂無き物は考えない。
 想わない。
 恋も、しない。
 
 ならば。
 衣玖の想いが報われる目がないのであれば。
 やはり天子は、この滑稽な懸想を祝福する気にはなれないのであった。

「……ふん。だ」
 
 鼻を鳴らす天子を余所に、三人は熱心な話し合いを繰り広げている。

「技術主任、飛行ユニットの方はどうなっていますか?」
「それだがリーダー、やっぱり現状じゃ無理がある。出力バランスがうまくないよ」
「無念ですね……仕方ありません、スクランダー・オンバシラ計画は一時凍結としましょう」
「なに、将来的には実現可能なはずさ。焦らず一歩ずつ積み重ねていけばいいんだよ」
「そうですよリーダー。果報は寝て待てという事もあります」
「積み重ねる気ゼロじゃない」

 とりあえず、明らかに間違えている衣玖には指摘しておいて。
 要石を飛び降りると、天子は早苗に指を突きつける。

「一足飛びに成そうとすれば事を必ず仕損じる。あなたは天道を目指すより、まず大地に影を立てて見せよ」
「うん? 意味がわかりません」
「あんた天人の忠言を何だと……空を飛ばす前に、そもそも歩けるのかって訊いてるのよ。衣玖だって、こんなデカブツを動かそうとしたら干物になっちゃうわ」
「あ、大丈夫。非想天則の動力は別に用意するから」

 早苗を蹴飛ばす天子に、にとりがぱたぱた手を振る。

「旧地獄の協力を取りつけてあってね。地獄鴉の核融合エネルギーを提供してくれる約束だ」
「そんな物騒なモン、よく貸してくれたわね」
「元々は守矢が与えた力ですから。駄々こねて神奈子様に口を利いて貰いました」
「こねたんだ、駄々」
「でんぐり返ってマジ泣きです」

 それは乾の神こそ泣きたかったのではなかろうか。
 頑張れ天つ神。こんど桃をお供えしておこう。

「可能ならば、私も自分の力で非想天則さんを動かして差し上げたかったのですが」
「衣玖さんの力だって相当なもんだよ? 何せラボの電源を一人で賄ってる。コイツが規格外ってだけさ」
「そうですよ。衣玖さんの協力をいただけなければ、そもそもプロジェクトが始動しなかったかも知れないのですから」
「リーダー、技術主任……!」
「なんなのこの結束力」

 固く手を握り合う三人に様々な意味で引いて、ぽつりと呟く。
 冷めた目でそちらを見つめながら、ふと気が付き、天子はしかめ面を造る。

「……にしても、あんた馴染んでるわね。衣玖さん、衣玖さんって」
「皆さんフランクな御方ばかりで」
「気さくなのと変人なのは違うからね。あんた含めて」
「お。そうそう、衣玖さんで思い出した」

 にこやかに微笑む衣玖とそれを睨む天子の横で変人、もといにとりが手を打った。
 床に置いていた工具箱を開け、中から金属の箱を取り出す。
 饅頭箱程度の大きさのそれをよっ、と重そうに持ち上げると、河童は衣玖を手招きする。
 そして首を捻る衣玖の帽子、そのリボンの先に饅頭箱から伸びるクリップを繋いだ。
 掛け値無しに電池扱いらしい。

「ようやく試作品が組み上がったんだ。ちょっと動作試験させてね」
「……なんか、つくづくこの程度のもんなの? 河童の技術って」
「ふふん。減らず口はこいつを見てから叩いて貰おうか」
「なんでしょう? 初めて見る装置ですが」

 にとりの手元を覗き込み、衣玖はクリップに挟まれたリボンを揺らす。ちょっと触覚っぽい。
 飾り気のないスイッチやらダイヤルやらを手早く弄り、河童はそれを衣玖の顔の前まで掲げて見せた。

「こいつは、オペレーションサポートシステムのコアさ」
「おぺれーそん……なんなの、つまり」
「非想天則の操縦を助ける装置です。流行りの音声入力式を採用してみました」
「どこのどんな界隈で流行ってるの、それは」
「――非想天則さんと、お話できるようになったと言うことですか?」

 感慨深そうな早苗に訊ね、衣玖はぎゅっと胸に拳を当てる。
 声こそ抑えていたが、羽衣は風を巻き起こすほど羽ばたいていた。ついでに触覚リボンも激しく揺れる。
 いいから落ち着け深海魚。痛いってば羽衣羽衣羽衣。

「一定のアクションを、キーワードに応じて出力するだけだからね。残念ながら会話とは少し違うかな」

 ぴしぴし顔面をぶっ叩く羽衣にもめげず説明し、にとりは装置の上部を蓋のように開いた。
 蓋の裏には窓のような物が設けられている。ただし硝子板の向こうは真っ黒だ。
 随分と強引にとりつけられているように見えた。元々こういう装置なのではなく、動作試験とやらのために急遽くっつけたのかも知れない。

「衣玖さん、マイクに向かってあいつの名前を呼んでみてよ」
「! 名前を、ですかっ……心得ました、頑張ります」

 横目に非想天則を見やるにとりの言葉に、衣玖は声を上ずらせながらも頷いた。
 胸を押さえて大きく深呼吸をし、両目を伏せる。
 ややあって、リボンと羽衣が大人しくなってきた頃。
 意を決したように目を見開き、衣玖は、形の良い唇を開いた。

「――ひ、非想天則しゃんっ!!」 
「噛んだ」
「噛みましたね」

 真っ赤に紅潮した顔を決死の表情に固めた衣玖には、天子と早苗の囁きは届かなかった。
 それでも、とりあえず。
 名前はきちんと発音できたからだろうか、黒一色だった装置の窓がぼんやりと発光し始め、思わず天子も衣玖の後ろへ回る。
 また暴れ出そうとする羽衣を絞め殺す勢いで取り押さえながら、彼女の肩越しに装置を覗き込む。

 大きな変化ではなかった。
 しかし明白な変化ではあった。

 明るくなった窓に、光で記された文字が浮かぶ。
 腋と河童の言い分を信じるならば、衣玖の呼びかけが引き出したその言葉。
 曰く、


【キャーイクサーン】


「ブラヴォーっ!」
「ミッションコンプリートですね!」
「待て待て待て待て、待てっ!」

 手を打ち合わせて快哉を叫ぶにとりと早苗、それぞれの襟首を引っ掴み。
 自分の顔の高さまで屈ませると、天子は唸るように喉を鳴らす。

「……いっぱい訊きたいことあるんだけど」
「訊きなさい、訊きなさい。科学の門戸は万人に開かれる」
「あれだけ?」
「確かに、今は小さな一歩を踏み出しただけかも知れません」

 明確に非難の色を込めて睨みつけるも、守矢の腋は動じない。
 強く、強く拳を固め、見上げた眼は何処を見ゆる――天井か、空か、それとも明日か。
 なんにせよ此処ではない遠くに焦点を合わせ、早苗は拳を突き上げた。

「しかしてんこさん!」
「天子」
「てんこさん! 確かに天人の貴女の目には、私たちの行いがいじましく映るのかも知れません――でも、努力とは積み重ねることが出来るもの! どんな小さな一歩とて、とりあえず一歩には違いなく、基本的には達成への礎と言い張れるのです! お得!」
「後半一気に残念になったわね」

 無用に雄々しく宣言する早苗に、天子は半眼を向けた。
 にとりは機械を掲げたまま、ややばつが悪そうに笑う。

「あくまで動作試験だからね、本当は人様に見せられる段階じゃない。今は『キーワードに反応して画面に文字を出力する』……これを実行するだけなんだよ。ゆくゆくは、指示するだけで歩いたり停まったり出来るようになるのさ」
「試験は分かったけど、なんで衣玖の名前が出るの」
「喜ぶかなって」

 言い切るにとりに頭を振ってから、天子は感極まったように口元を抑えている衣玖へ目を向ける。
 気質を見定める竜宮の使いは、今やその目に星屑じみた薔薇色の煌めきを散りばめて、もういいや。好きにしろ。

「…………ついてけない私が悪いと思う?」

 肩を落とし、何となく隅の厄神の方を見る。
 口の中で呟いた声が届くわけもなく、安全装置は黙ってくるくる回っていた。
 その事に理不尽な不満を覚えつつ。
 天子はここを訪れてから間違いなく最大、最長の溜め息を押し出した。





 交わされただけの言葉であった。
 土地を言祝ぐ祝詞でも、妖魔調伏の呪言でもない。
 それはただ、交わされただけの言葉。

「――いま、どのくらい?」
「…………二十四億、四千二百万……とんで、九重目」
「正直、ヤバい?」
「……楽勝」
「ヤバいのね。面倒くさいから素直に吐け」
「うん」
「しょうがない、早苗を呼び戻そう。最近楽しそうだし、もう少し遊ばせてやりたかったなあ」
「ごめんな」
「なに、あれは分別のつく子だ。あんたが一番知ってるだろう」
「うん。あんたにも」
「なにを謝る」
「察せ」
「応。……さしもの私も、空の上にゃ手が出せん。できるのは、このクソ重たい天を支え続けているあんたに力を融通してやることくらいだ。できることをするだけなのに、謝られる筋はないね」
「ふん。ロリババア」
「黙れ。そのまんまババア」
「年下だもん」
「あーうー」
「…………」
「神奈子?」
「突破された。――八雲、聞こえるか。二十四億四千二百万、とんで十重目の乾を敷く」
「うお、こりゃいかん。急ぎ早苗を連れてくる、まだ干涸らびるなよ」
「諏訪子」
「あーん?」
「ありがとな」
「応」

 ただただ、交わされただけの言葉であった。

 しかし。
 言葉を紡いだ者達の瞳と声音を勘定に入れるのなら。

 それは、遠からぬ絶望を語る言葉だった。





「――ところで総領娘様、退屈ではありませんか?」
「退屈だけどさ」

 衣玖の問いかけに、即座に答え。
 どこから出したのか大きな要石に腰掛けた比那名居天子は、自分の膝へ器用に頬杖を突く。

「天界に戻ったら退屈な上に苛々するもん。だったら衣玖の仕事ぶりでも見てる方がマシ」
「おや」
「神社にケンカしに行こうかとも思ったけど……ここのところ、巫女も賢者も居ないから張り合い無いのよね」
「ご自愛下さいませ」

 心底残念そうに肩をすくめる天子へ苦笑を溢し、衣玖は気付かれない程度に頭を振った。
 巫女は即ち、境界の巫女・博麗霊夢。
 賢者は即ち、隙間の妖怪・八雲紫。
 いずれ劣らぬ幻想郷の守護者であり、過日の気質異変の折、天子に強烈な折檻を下した相手である。
 以来、天子は「逆襲だ、復讐劇だ」と息巻いて二人へ弾幕勝負を挑んでは、負けたり敗れたりしていた。

(――総領娘様はお変わりになった)

 異変以前の天子は、ひたすらに我が儘で癇癪持ちの子供であった。
「不良天人」の蔑称をむしろ自ら証明するように、やりたい放題に暴れ、撥ね付け、かき回し……気付けば彼女の周りには、誰もいなくなっていた。
 なによりも、彼女自身がそれを良しとしていたから。

 しかし今、天子は自ら誰かへ歩み寄ろうとし始めている。
 やり方は、拙い。
 変化はあまりに微々たるものかもしれない。
 それでも彼女は、変わろうとしているのだ。

 変化――成長。

 天人には無縁であるはずのそれは、しかし、「不良天人」である天子だからこそ掴み得た徳に違いない。
 それを傍で見守る役を仰せつかった事は、衣玖の密かな誇りであった。
 頬に触れ、感慨深く吐息一つ。

「手の掛かる子ほど可愛い、とはよく言ったものです」
「……なんか失礼なこと考えてるでしょ」
「ご明察」
「否定はしなさいよ電撃深海魚」

 ぷく、と頬を膨らませ、天子が小さな要石を投げてくる。
 それを羽衣でやんわり受け止め、衣玖は柔らかく微笑み返した。

「総領娘様には嘘をつかない、と決めておりますので」

 天子はまず、きょとんとして。
 目を丸くしてぷいっと顔を背けると、乱暴に頭を掻く。その頬がほのかに赤くなっていたのを衣玖は見逃さなかった。
 照れておられる。
 ああ可愛い。
 ああもう可愛い。
 総領娘様かーわーいーいー。

 思わず抱きしめたくなるほどに愛くるしさ迸る少女に、自然こちらの頬も緩む。
 しかしこの永江衣玖、龍宮ではデキる女で通す者。
 空気を読み、穏やかな微笑を浮かべ直す。

「衣玖はいつでもお側にいます。総領娘様が問われれば、いつ何時でもお答えいたしましょう」
「……うん。……それはそうと、羽衣怖いんだけど」
「おや」

 迂闊。
 わさわさと蜘蛛の足じみて天子の方へ伸びていく羽衣をつまみ上げる。我慢しきれなかったらしい。
 衣玖に掴まれびちびち揺れている羽衣を怯え顔で睨んでいた天子は、やがてふと表情を緩めた。
 要石の上へ胡座に座り直し、ブーツの先を掴んで声を弾ませる。

「衣玖は、さ。私に嘘つかないんだ?」
「はい」
「じゃ、ひとつ訊きたいんだけど」
「スリーサイズは真ん中から」
「訊いてない。……真ん中からどこに行く気よ」

 半眼で、即座に言葉を打ち切る天子に、衣玖はにっこり笑顔を返す。
 なにか辛いことでもあったのか大きく嘆息し、天子は改めてこちらを向いた。
 視線が若干冷めていた気がするが、空気を読んで気にしない。

「訊きたいのは、アレよ」
「あれ?」
「なんでロボに恋しちゃったわけ?」

 ……それは。
 いかにも子供じみた質問だったかもしれない。
 とはいえ、思わず顔を真っ赤にしてしまった自分が言えた義理ではないなぁ、と衣玖はぼんやり考えた。
 口を噤んだ衣玖に、天子は期待と好奇の入り交じった眼差しを向ける。

「理由もなく、こんなのに惚れ込めないでしょ。聞きたいなー二人の馴れ初め」
「馴れッ――ええと、ですね。総領娘様、」
「衣玖は、嘘つかないもん。さっき言ってたもん」

 にぱ。
 無邪気に花咲くその笑みの、可憐なること限りなく――――それはもう、鬼の首でも取ったよう。
 胡座のまま脚をばたつかせる天子にぐうの音も出ず、竜宮の使いは黙り込む。羽衣もがびがびに引きつっていた。
 この輝く天人の瞳を前に、折れずに居ることが出来ようか?
 答えはとうに出ているが。

「……誰にも言わないでくださいますか?」
「うん、うん」

 即座に頷く天子に若干の不安を覚えながら、衣玖は素早く辺りを見回す。

 じきに陽の落ちる時間だが、河童印のナガエ・バッテリーを採用するにとりんラボは、昼間と変わらぬ光量の照明が焚かれている。
 にとりと早苗は、少し前に別セクションの応援に向かっており――ロケットパンチの開発遅延が云々、と早苗がぼやいていた。何のことか分からないが心配だ――この場にいるのは自分と天子と非想天則のみ。あとは、遠くでくるくる回っている厄神様くらいだ。

 はあ、と観念の嘆息ひとつ。
 喋る前から熱を持つ頬を手で扇ぎ、衣玖は小さく声を絞り出した。

「――リーダーから協力の申し入れがあったのが夏の頃ですが」
「それはもう聞いたけど」
「始めは、本当にバッテリーへ電気を送るだけだったのですよ。……少しして、技術主任にもう一つ仕事を頼まれまして」
「どんな?」
「既に組み込んだ部品のプログラミング調整、と仰っていました」
「……わかんない」
「実は、私も。非想天則さんの奥の部品に、言われた通りに電流を流しただけですから」

 口を尖らせる天子へ、苦笑混じりに頭を振る。
 実際、あの時流した微電流が何の役に立ったのか、衣玖は今でも分かっていない。
 が。

「その時が初めて、でした」
「なにが?」
「初めて、非想天則さんの『声』が聞こえたんです」

 かくん。
 何とも言えない表情で顎を落とす天子にもう一度微笑んで。
 揺らめく羽衣の上から胸を押さえると、衣玖はそっと瞼を伏せた。

「もちろん言葉を話した訳ではありませんよ。ただ……その。私も、なんと言えばいいか分からないのですが――私の電流に、なにかが触れてくる感覚があったのです」
「……漏電、ってやつ?」
「かも知れません」

 技術主任は、あり得ない、と主張していましたけれど。
 そこだけ補足してから後を続ける。

「最初は勘違いと思いました。でも、その感覚が気になって……次の日、もう一度『話しかけ』てみたのです」
「応えたの?」
「はい。前と同じ――いえ、それよりもほんの少しだけ強く、はっきりと」

 それからというもの。
 衣玖が電流を流す度、必ずその感覚が返ってきた。
 河童の計器にも微かな電気抵抗が検出され、研究班はその反応を非想天則の『声』と仮称した。

 奇妙な事に、『声』の反応は一定ではなかった。

 新しいパーツが組み上がった日は、わくわく飛び跳ねるように強く。
 皆でフレームを磨き上げた後は、気持ちよく微睡むように柔らかく。
 トラブルで工程が遅れた時は、いじけてしまったようにつんつんと。

 まるで本当に――非想天則が、己の内を語っているかのよう。
 
 知っているのは衣玖だけだ。
 というより、その反応の違いは計器に検出されない。あくまで衣玖の感覚上でしか証明できない事なのだが……
 頭の後ろで手を組んで、天子がぷぅ、と前髪に息を吹きかける。

「人の形をしたものには様々なものが宿る――ってのは、誰の言葉だったかしらね」
「河童の皆さんは、信号伝達タイムラグの範疇だと仰っていますけれど」

 早苗などは落涙すらしながら、彼女の言うことを丸ごと信じてくれたものだった。
 傍らの非想天則を見上げ、無意識に羽衣を掻き寄せる。

「それからは毎日、非想天則さんに『話しかけ』るようにしているんです」
「……本当に話せる訳じゃないんでしょ?」
「はい」

 訝しげな天子に微笑みかけ、衣玖は非想天則のフレームを撫でる指から、微かに電流を走らせた。
 音もなく『話しかけ』る電流が、無数の機械を駆け抜けて非想天則の一番奥へ届く――
 その手応えを感じた。
 同時に、そこから返ってくる『声』も。
 仄かに暖かな感覚が、子犬のように電流にじゃれついてくる。

「でも、毎日『話しかけ』ていると分かるんです――この人は、昨日とは違うのだと」
「人って。……いいけどさ」
「一日、作業が進んだ分だけこの人は強くなります。いえ、それだけではない。河童さんたちや私たちの言葉、感情、想い……何かに触れる度、『声』はどんどん大きく、明確になっていくのです。まるで――――自分が生まれてくる、この幻想郷という世界を知りたくてたまらないというように」
「……ふーん?」
「非想天則さんはロボットです。魂を持たない、鉄の童子。それでも――」

 とくん。
 確かに感じる『声』が、胸の奥を叩く。
 脈打つ心臓の更に奥。
 恐らくこの世で最も儚く、あるいは最も強靱な。
 それは。
 きっと、心と呼ばれるところ。

「――それでも衣玖は、愛おしく想うのです。変化せんとする彼の傍にありたいと想うのです。それは…………変わることのない妖怪には、適わないことですから」
「それが、このデカブツに恋した理由?」
「これが精一杯の答えですよ」

 苦笑して、衣玖は肩をすくめてみせた。
 天子が不満げなのは、結局話がよく理解できなかったからだろう。
 むべなるかな。
 衣玖自身、上手く言葉にできずやきもきしているのだから。
 
「変わろうと、成長しようとする人は素敵です。……その想いが恋へ変わるか、見守る心へ変わるかは、きっと些細な違いなのですよ」
「ぶぅ。衣玖はすぐ私を煙に巻く」
「嘘はありませんがね」

 屁理屈ー、と下唇を突き出し、ばたばた要石を蹴る天子。
 涼しい顔で抗議を受け流しつつ、衣玖はこっそり彼女と非想天則を見比べた。

 ――変わり、成長しようとする者。
 永い生の果て妖怪となった自分には叶わない、前進の眩しさを体現する子供達。

 幻想の郷よ、どうかこの素晴らしい子らに祝福を。
 そして願わくばこの身から、彼らの傍にある誇りを奪い給うな。
 永江の衣玖が自ら望む、それがただ一つの我儘でありますれば。

 天がその願いを聞き入れたかは分からない。
 少なくとも、要石を尻に敷いた天の子は察した様子もなさそうだ。

「すっきりしないなぁ。恋ってそういうもんなのかな」
「あ、あまり恋、恋と連呼しないでくださいませんか……恥ずかしいんですが」
「やだ。ロボに恋したって言われても、そうそう納得できないわよ」
「はあ。三途の河の友人にも不思議がられました」
「……ああ。おっぱい死神」
「お乳は関係ありませんけど。非想天則さんの事を相談したら舟から落ちてしまいまして」

 先日の小町との一件を思い返し、衣玖は首を捻った。
 三途の河は身体が浮かぶことなく、ただ沈んで行くのみであると聞く。
 引き上げようにも手が出せないので、岸辺にしゃがんでじっと河面を見つめていたのだが、いつまで経っても浮いてこないので諦めて帰ってきたのだっけ。
 しかつめらしい顔で腕を組み、少しだけ背中を丸める。

「死神って、死んじゃうんでしょうかね」
「知らない。閻魔の部下ならその辺、融通効かせてくれるんじゃない?」
「それもそうですね」

 もっとも彼女の上司は、直属の部下だからとて便宜を図ったりはすまいが。
 投網でも持って捜しに行った方がいいかも知れないなあ、などと考えていると。

「――もしもーし。おっ邪魔するよー、と」

 不意に。
 表から声が聞こえ、二人は同時に振り向いた。
 ぺたこらぺたり、と足音響かせ入ってくるのは一人の子供。
 天子よりもなお小さな矮躯に、大きな帽子を載せて丈を稼ぐ彼女は、しかし見た目通りの少女ではない。
 土着神の頂点、祟り神の王。
 守矢神社に祀られる二柱の一、坤神・洩矢諏訪子であった。
 稲穂色の髪を揺らし歩いて――というか跳んで――くる祟り神に、衣玖はぺこりと腰を折る。

「これは坤の神。ご無沙汰しております」
「お、いつぞやのお二人か。元気?」
「天人の健康をナメるんじゃないわよ」

 力こぶを作るように腕を叩き、天子はにっ、と歯を剥いた。
 はち切れんばかりの活力に満ちた仕草に、諏訪子は愉快そうに笑い返す。

「そりゃ結構だ。……へえ。これが、あの非想天則かあ」
「そう言えば、元はあなたの発案なのでしたね」
「ここまで本格的にロボになっちゃうと、もう別物だけどねー」

 見上げた非想天則のフレームをぴたぴた叩きながら、諏訪子は感心した様子でしきりに頷いている。

「具合はどうなのかな?」
「順調ですよ。守矢の神や総領娘様にお会いできて喜んでいるようです」
「お、こいつと話せるの?」
「なんとなく感じる程度のものですけれど」
「へえ――そっかそっか。こいつは幸せ者だね」
「……なんで納得できるわけ?」
「伊達に女をン千年やってるんじゃないよ」

 訝しげな天子の鼻先に、ニタリと底知れない笑顔を突きつけて。
 諏訪子はぴょこん、と飛び跳ねざまに辺りを見回した。

「ま、冗談はさておきだ。……早苗、どこにいるか知ってる? 用事があるんだよ」
「リーダーでしたら、滝の近くの第二ラボへ向かったはずですけれど」
「なんだって? なら通り道にいたんじゃあないか。やれやれ、ケロちゃんもヤキが回ったもんだ」
「とんぼ返りじゃ忙しないでしょ。お茶でも飲んでけば?」

 帽子の目玉飾りをぐりぐり動かし溜め息をつく諏訪子に、天子が肩をすくめて話しかける。
 いつの間にかもう一つ呼び出された要石をテーブル代わりに、ティーセットが用意してあった。ラボの備品を拝借していたらしい。
 椅子代わりの要石もぼこぼこと二つ、衣玖の分も呼び出す天子に、諏訪子は苦笑を浮かべ頭を振った。

「あー、ちょいと急ぎの用事なんだ。すぐ行かないと」
「そう? ま、いいけど」
「ごめんねー。神は多忙でなんぼなのさ」
「その内、また弾幕勝負に付き合いなさいよ。借りを返してやるんだから」

 応、と笑顔で踵を返し。
 ぺたんぺたんと去っていく小さな祟り神を見送り、衣玖も手と羽衣を振り返す。
 同じくひらひら手を振りながら、天子がこちらへ首を向けた。

「あんたは飲むでしょ? 用意しちゃったんだし、そろそろ休憩しなさいよ」
「それでは遠慮無く。総領娘様の立てたお茶を頂くのは初めてです」
「不味くはないはずよ。給湯室で河童に淹れて貰ったやつだし」
「……ご自分で学ぼうという気はないわけですね」
「なあ――竜宮の使い」

 ふと。
 ラボから立ち去ろうとしていた諏訪子が、肩越しにこちらを振り返っていた。
 帽子の下、洩矢神の眼に彼方から見つめられ。
 思わず、衣玖はカップへ伸ばしていた指を止めていた。

「永江、って言ったっけ」
「――は、い。永江の……衣玖です」
「そっか。衣玖、もしもの話をさせてくれないか」

 入り口に立ったまま、諏訪子が言葉を続ける。
 その、小さな身体が。
 なにか亡霊じみた巨影を背負っているように錯覚し、衣玖は息を呑む。

「もしも、そいつ――非想天則が完成しない、なんてことがあったらどうするね」
「……どういうことよ」
「深く考えるな」

 剣呑に声を低める天子を、ぞんざいに手を振って遮り。
 帽子を目深に引き下ろすと、諏訪子は口元だけで笑ってみせる。

「早苗には、ちょっとした仕事を任せるつもりだ。少し、こっちへは顔を出せなくなるだろうからね。先に断っておこうと思ったんだよ」
「仕事?」
「守矢の風祝としての、ね。あの子にしか出来ないことなんだ、悪く思わないでおくれ」
「ふーん……ま、問題ないんじゃない? 今日見てた限り、作業は河童達がやってたみたいだし」
「とにかく、言いたいことはそれだけさ」

 肩をすくめ、背を向けようとする諏訪子に。

「――仕事が終われば!」

 衣玖は立ち上がり、自分でも意外なほどの大声を投げかける。

「……仕事が終われば、リーダーは戻って来るんですよね」
「……」
「だったら完成しないなんて事態は起こらない。……そう、ですよね?」

 語尾は、我知らず震えていた。
 羽衣の裾を掴み呟く衣玖に、諏訪子は答えない。黙ってラボを出て行くのみ。
 ぺたんぺたんと足音、遠のき。
 それが聞こえなくなるまで、二人は身動きをとれずにいた。
 頭の中に響くのは、自分自身が口にした言葉。

(仕事が終われば、リーダーは戻ってくる)

 そして、洩矢神が答えなかった言葉。

(『仕事』は、終わらない…………?)

 憶測。
 それは憶測でしかない、が――

「衣玖」

 不安か、困惑か、憤懣か。
 何とも言えない表情で呟く天子を見るが、何も言葉を返せない。天子も、それ以上言葉を紡ぐことはなかった。

(何か……途轍もない事が起ころうとしている)

 空気を読む程度の能力。
 祟り神の言葉を呼び水に、竜宮の使いの感覚は得体の知れない焦燥を感じていた。
 漠然とした、不吉で、嫌な空気の訪れ。
 
 ラボの空気は変わらない。
 諏訪子が現れる前と後で変わったのは。
 厄神が、回転の速度を僅かに上げたことだけだった。





 翌日。ラボの光景は概ね、いつも通りであった。
 葛籠のような黒い機械を抱えた河城にとりがラボの隅に立ち、大声を張り上げる。

「準備はいいぞ! てんこ、スイッチオンだ!」
『てんこ言うなって言ってるでしょ河童!』

 瞬間。
 中央の非想天則を挟み、反対側の壁際に立っている天子の怒鳴り声が、にとりの耳を叩いた。
 ただし声の出所は、彼女自身が抱えた黒い箱。
 容赦のない声量に耳を押さえてよろめきつつ、にとりはどうにか踏みとどまり。
 傍らで見守っていた衣玖を振り向き、弾けるように笑った。

「やった、衣玖さん! 成功だ!」
「おめでとうございます、技術主任!」
「……結局、なんの実験なのよ」

 手を取り合って飛び跳ねる二人に、はるばるラボを横切って戻ってきた天子が半眼で訊ねる。
 やはり重たげな機械を抱えた彼女を振り向き、にとりは口の端をつり上げた。

「通信機ってやつさ。前に、間欠泉騒ぎのあったときに使った物を改造してみた」
「怒鳴れば聞こえる距離で実験しても意味無いんじゃない?」
「出力を強化して、超長距離でも使えるようにしたからね。逆に近距離での具合も確かめとかなきゃいけないだろう?」
「そんな長距離で通信する予定でもあるわけ?」
「いやほら、空とか。飛ぶかもしんないじゃん」
「……すっごい無駄な改造してない、あんた?」
「未来への投資と言ってくれ」

 自覚はあったのか、指摘された河童はずるずると通信機の上に崩れ落ちた。

「リーダーが居ない間に作業を進めるわけにもいかないじゃん。するとオプションくらいしか弄る場所がないわけで」
「大人しくしてなさいよ、潔く」
「河童は機械を弄っていないと死んでしまうのさ。衣玖さぁーん、手持ちぶさただよぅ」
「よしよし」

 よよよ、と縋り付いてくるにとりの頭を撫でながら、衣玖は天子へ目を向けた。
 視線に気付き、天子は通信機を床に降ろして肩をすくめる。

 早苗が一時的にプロジェクトを離れることは、既に洩矢神から説明があったという。

 それでも河童たちの殆どが今日もラボへ顔を出しているところを見ると、にとりの主張も案外冗談とは言い切れないのかもしれない。
 厄神も相変わらずくるくる回っていた。……ひょっとしてここに棲んでるのだろうか。
 
「リーダーが居ない間は私たちがしっかりしないといけませんよ、技術主任。非想天則さんも不安がってしまいます」
「む、生みの親の情けないところを見せるわけにはいかないね。……よーし非想天則、今日は徹底的に整備してやるぞ! おい、何人か手ぇ貸してくれー!」
「私もお手伝いしましょう。総領娘様はどうなさいます?」
「あー、パス。よく分かんないから壊しちゃいそうだし」

 苦笑いで手を振り、天子は元気よく走り出したにとりの背中を見送る。
 それから衣玖の顔を見上げて、へらりと相好を崩した。

「お茶でも淹れてこよっかな。昨日の河童も来てるみたいだし、教えて貰う」
「……まあ……それは、とても楽しみですね」
「不味くても知らないわよ。焚きつけた衣玖が悪いんだから」
「心待ちにしておりますわ」

 にっこりと。
 心から微笑む衣玖に照れくさそうに鼻を掻き、天子はぱたぱたとラボの奥へ駆けていった。蒼穹の髪から覗く耳が、微かに赤くなっている。
 柔らかな、大いなる暖かさが胸に込み上げてきて、衣玖はそっと目を伏せた。
 ――何を恐れることがあろう。
 諏訪子の言葉がきっかけで感じ始めた不吉の兆候は、今は微塵も感じない。

 大丈夫。
 皆がいるから、きっと大丈夫。
 兆候などより明白な、ラボに満ちる暖かな空気が胸を高揚させていた。

 スゥと目を開け、鋼鉄の巨体を見上げる。
 フレームに指を触れ、衣玖はそっと『話しかけ』てみた。
 心へ直接ノックを返すような、非想天則の『声』は――不安など微塵も抱いていない。
 皆への。そして、
 衣玖への信頼が、伝わってくる。

「……っよし! 頑張りましょう!」
「おおっ? 衣玖さん、張り切ってるね!」

 両手を突き上げ叫ぶ衣玖に、にとりたち河童が愉快そうに笑い声を上げる。
 羽衣もばたばたはためかせながら辺りを見回し、衣玖は皆へ笑い返した。

 ――大丈夫です、非想天則さん。
 あなたは絶対に完成する。そうじゃなきゃ、嘘じゃないですか。
 リーダーだって、きっとすぐに戻ってくる――

「皆さん」

 その時。
 ラボの入り口から聞こえてきた声に、その場の全員が動きを止めた。
 糸で引かれるようにそちらへ集い、交わる視線の先にいたのは。
 守矢の腋。もとい。
 東風谷早苗その人であった。

「リーダーっ!?」

 真っ先に声を上げたのはにとりだった。
 取り上げていた工具箱を放り出すと、天狗もかくやと言わんばかりの速度で早苗に駆け寄りその手を握る。

「なんだよ、早かったじゃないか! もう仕事とやらは終わったのかい?」
「…………いえ。にとりさん」
「なんだ、そっかぁー! ま、顔を出してくれただけでも嬉し――――うん?」

 にとりが、笑みを消した。
 彼女を見下ろす早苗の瞳。そこにはついぞ見たことのない、重たく、暗い影が立ちこめている。
 その影は衣玖に、過日、洩矢神の背後に幻視した闇を想起させた。

 なによりも。
 技術主任、ではなくにとり、と名を呼んだ早苗の態度。

 いっとうの違和感を感じたのは、にとり本人であろう。
 押し黙る河童の後ろから、ふわふわと飛んで来た衣玖が慎重に声をかける。

「リーダー、どうなさったんですか?」
「衣玖さん……皆さんも。聞いてください」

 顔を上げ、早苗は声を大にした。
 握っていた手を力なく離し、にとりが不安げに彼女を見上げる。
 その肩を後ろから支えてやりながら、衣玖は静かに早苗の言葉を待っていた。
 先ほどまでの小さな高揚は、とうに消え去って。
 今は再び、静かに絞め上げるような不吉の予感が鎌首をもたげている。
 衣玖が感じたその空気は、ラボ中に伝播していたのだろうか。河童たちは一様にざわつき顔を見合わせていた。

 そして。

「本日、この時」

 不吉の空気は。

「総責任者、東風谷早苗の布令に於いて」

 硬く、重く押し殺した言葉によって――


「『当たれ鉄拳! 驚天必殺無敵ロボ・非想天則プロジェクト』の、無期限凍結を宣言します」


 ――容易く、現実に織り上げられた。

 
「…………え、っと。冗談、なんだ、よね……リーダー?」

 掠れた声で。
 それでも真っ先に口を開いたのは、今度もにとりだった。
 震える手を伸ばす彼女から――早苗は、一歩退く。
 愕然と目を見開くにとりから顔を背け、唇を噛む風祝。

「――プロジェクトは、停止しました。私はもうリーダーではない」
「だ、って、そんなっ……なんでだよ!?」

 悲鳴。
 早苗の胸ぐらに掴みかかって、にとりは必死に言い募る。

「どうしてさ――約束したじゃないか! 何年かかったって、必ず巨大ロボを完成させるって……あんた、私とそう約束したんじゃないかッ!」
「……約束を果たせなくなってしまったことは、お詫びいたします」
「詫びなんかいらないよ! なんだよ、それ!」

 痛烈な非難であった。
 痛切な懇願であった。

 服を締め上げるにとりに抗わず、早苗はただラボの床を見つめている。
 言葉を発する者はいない。
 憤激が、哀切が、驚愕が、絶望が。
 滅茶苦茶に入り乱れ、混じり合ったにとりの顔を見、誰が、何を言うことが出来よう。

「早苗! あんたが、私と約束したんだ! なのに、そんなことを言うのか……あんたが、そんなことを言うのかッ!」
「…………」
「なんとか言えよ! なにか、言ってくれよ……早苗ぇ…………ッ!」
「――理由を、訊かせては頂けませんか」

 膝をつき、くずおれたにとりの背を抱き。
 衣玖は可能な限り平静を装い、早苗を見上げる。

 早苗が口を開くまで、覚悟していた程の時間はかからなかった――つまり、蹲ったにとりが嗚咽を堪えきれなくなるよりは、早かった。

「守矢神社は今後、一切の支援を停止する。それだけです」
「……ここはどうなってしまうのでしょう」
「ラボは閉鎖されます。今日明日にという話ではありませんが……流石に、彼を運び出すことは出来ないでしょう」

 それは。
 非想天則を打ち棄てる、という宣告に他ならなかった。
 守矢の物資支援が無ければ開発を続けることなど出来ない。

 彼はこのまま朽ち果てていく。
 完成することなく。
 強く焦がれたこの世界、幻想郷に生まれることすら出来ぬまま――

 気付けば衣玖は、ぺたりと床に座り込んでいた。
 目の前にいるはずの早苗の声も、遥か万里の果てから響くよう。

「お話は以上です。……皆さんはプロジェクトのことを忘れ、これまで通りの生活に戻ってください」
「……ふ、っぐ――そッ、そんなの。ないだろぉ…………早苗、なんだよ、そッ――んなの、ないだろ…………ォ!」
「――――確かに、そりゃないわよね」

 ふと。
 今にも決壊しそうに張り詰めたにとりの声を遮り、ラボの奥から声がする。
 いつからいたのだろう。
 茶器を載せた盆を片手に持ち、比那名居天子がそこに立っていた。

 一緒に現れた河童に盆を預け、彼女はつかつかと歩み寄ってくる。
 そして呆然と見上げる衣玖の隣で立ち止まり――ぽん、と軽く帽子を叩き。
 天子は、傲然と腕を組んだ。

「ここまでやらせて、頭ごなしにやめろって話は通らないでしょ」
「……口を挟まないでください。貴女は部外者です」
「そう。部外者なんて問題にしなくていい。身内を思えと言っているのよ、地上の神」

 急激に声を変え。
 双眸を細める天子の声は鋭く、厳しい。

「皆、あんたを信じてついて来たんでしょ。衣玖もにとりも……他の河童たちだって、皆あんたを慕ってる」
「……っ」
「それはあんたの徳だ。応えないなら、あんたの罪だ。――事情があるなら、それを話してもバチは当たるまい」

 天人の忠言。
 そう呼ぶには乱暴に過ぎる言いぐさの天子に、早苗が言葉を返すことはなかった。
 ただ、一度。
 一度だけ、激昂した様子で何かを叫びかけ――結局、何を言うこともなく歯を食いしばる。
 項垂れて押し黙った彼女に、天子も何かを言うことはない。

 早苗が踵を返したのは、一体、どれほどの時間が経ってからだったろうか。
 枷を曳くように緩慢に、さりとて躊躇う素振りもなく飛び立つ風祝を、呼び止める者は誰もいなかった。
 顔料をぶちまけたような深い青空に、その姿が吸い込まれるまで見送って。
 衣玖は、そっと傍らの少女を振り返った。

「……技術主任」

 にとりは、答えない。
 地面に両手の爪を立て、黙って肩を震わせている。時折、震える肩の向こうからしゃくり上げるような微かな音が聞こえてきた。
 瞼を伏せ、衣玖は顔を逸らす――間違っても、彼女の顔を見てはならない。

 他の河童たちは困惑しているようだった。互いに顔を見合わせ、小声で囁き合っている。
 無理もない。あまりにも突然すぎる解散命令だ。
 そう、あまりに。

(突然すぎる――)
「衣玖」

 くい、と。
 誰かに羽衣を引っ張られて、衣玖は回り始めようとしていた思考を止められた。
 力なく萎れた羽衣を掴んでいるのは、天子。
 彼女は無言で入り口へ顎をしゃくり、衣玖を引っ張って行く。
 風船のように抵抗のない竜宮の使いをラボの外へ連れ出すと、天子はすぅ、と小さく息を吸い、

「――山の神社の場所は分かる?」
「ええ。総領娘様」

 間髪入れず頷き返し。
 ラボを振り返り、誰も二人が出て行ったことに気付いていないことを確かめると、ふわりと宙へ舞い上がる。
 高度を上げすぎないよう意識して、衣玖は水底を泳ぐように山道を上っていった。
 向かうは山頂、守矢神社。

(リーダーは、全てを語っていない)

 それは自分が、気質を見極める竜宮の使いだからと言うわけではなく。
 なにかとおおらかで大雑把な天子でも感じ取れる、明らかな不自然さからくる直感だった。

 早苗は非想天則を愛していた。

 衣玖が抱くような恋慕の情ではなかっただろう。どちらかと言えば、彼女が天子に対して感じるような想い。
 慈愛、友情…………あるいは、希望。
 早苗は幻想郷の外から来たと聞く。外の世界では巨大ロボットという存在が幻想となり果ててしまったのだと、寂しげに語ったことがあった。
 そしてその幻想を、非想天則という形で現実にしたいのだとも。
 子供のように無垢な笑顔で、彼女はそう、言ったのだ。
 ならば。

「事情がある、のよね」

 いつの間にか、隣を併走していた天子が呟く。
 天人としては飛行が不得手な天子だが、衣玖とて速度を出しての飛行は本分ではない。
 後から飛び立ったはずなのに難なく追いついてきた天子に、衣玖は即座に頷き返す。

「気まぐれや、些細な困難で折れる方ではない。事情があるのは確実です」
「でもその事情をあんたたちにも告げない。告げぬ事すら、事情の内であるのなら」

 その後を、天子が続けるまでには少しだけ間が開いた。
 それでもはっきりと、風に紛れぬ声で彼女は言う。
 
「衣玖はもう戻りなさい。ここまでくれば、後は一人でも神社へ行ける」
「……総領娘様」
「あのおめでたい巫女が、河童やあんたを突き放してまで隠そうとしてる事情を嗅ぎ回りに行くのよ。バレたらあの巫女は勿論、衣玖だって気分悪いでしょ? もう、一緒にロボ造れなくなっちゃうかも知れないじゃない」
「総領娘様……」
「私は『部外者』だもの。バレたら、そりゃまあ気まずいかも知れないけど、その程度のもんよ。だからあとは任せて、」
「総領娘様」

 三度。
 三度目でようやく天子は口を噤んでくれた。
 溜め息を風に溶かし、衣玖は丸めた羽衣の先で彼女を弾く。
 喰らえ。でこぴん。

「にゃあッ!? なにすんの、衣玖!」
「事情を知りたいのは、私です。私の我が儘です。その責を総領娘様に押しつけて、喜ぶ衣玖とお思いですか?」
「もー、じゃあ勝手にしなさい! ふん、人の親切を無駄にして。……痛ッ、ちょ、ねえ! 一回でよくない!? ねえ!」
「無駄になどしておりません」

 連続して弾かれる羽衣をばたばたと振り払う天子に、衣玖は肩をすくめて見せた。
 そして、にっこり笑いかけ。

「総領娘様が私や、技術主任達のことを想ってくれた……それだけで。衣玖はとても、とても誇らかな心地になれるのですから」
「……あれ。衣玖、耳赤い」
「うふふ」
「あんた、なんでも笑っとけば誤魔化せるとでも、痛っ! 熱っ!?」

 呻きかけた天子を静電気でちくちく攻撃しながら、衣玖はぷいとそっぽを向く。
 永江衣玖は空気の読める女。
 勝手な我が儘で汚れ役につき合わせるというのに、こんな緩んだ顔を見せるわけにはいかないではないか。

 それに。
 そろそろ、気を引き締めなければならない。

 固く拳を握りしめ。
 衣玖は長い長い山道の果てに見えてきた、守矢神社の影を睨みつけた。




 守矢神社。
 かつて、麓の湖ごと幻想郷へ転移して来たのだという。何をどうすればそんな無茶が通るのか想像もつかない。
 祀られるは、八坂、洩矢の乾坤二神。
 八百万の神格を抱えるこの大地においてすら、明確に図抜けた力を持つ神々である。

 そんな有り難い二柱を祀る神社の境内を見回して。
 天子は、侘びしい気持ちで鼻を鳴らした。

(なんか、思ってたより――)

 神の座す社をして「神社」と呼ばわるのであれば。
 今、この場を神社と呼ぶことは不適当なのかも知れない。
 隣で痛ましげに顔をしかめている衣玖に、天子はこっそり耳打ちした。
 
「――深刻な事情っぽいんだけど」
「そのようですね」

 切れ長の眼を細め、衣玖はたった今くぐってきた鳥居から本殿まで、ぐるりと視線を巡らせる。

 守矢神社は荒れ果てていた。
 
 とはいえ、見た目には綺麗な境内である。
 荒んでいるのは物質ではなく、気質――
 本来ここを守護していたはずの力が消え、穢気が境内を侵食している。悪霊や怨霊の類は寄り憑いていないが……少なくとも、神性の宿る場の有り様ではない。
 羽衣を空へ広げ、衣玖が小声で囁く。

「総領娘様、こちらに」
「私の気配も隠れるのかな。これ」

 首を捻りながらも彼女の意図するところを察し、天子はとことこと羽衣の内に入り込む。
 永江衣玖の〝空気を読む程度の能力〟。
 その力は気候を見極めることだけに留まらない。その場の空気を読み、存在を同調させることすら難しくはないのだ。
 何が起こっているか分からない現状、隠密に事を運ぶに越したことはない。
 近寄った天子と自分の周囲に羽衣を漂わせ、衣玖は口元に指を当てる。

「音を立てなければ大丈夫です。……総領娘様は、私に掴まっていてください」

 無言で頷き、衣玖の腰にしがみつく。
 ほどなくして、彼女は静かに浮かび上がった。足が着かない程度の低空を漂いながら、社の縁側を回っていく。
 ……衣玖は空を飛ぶのではなく、泳いでいるんだなあ。
 ふわふわと飛ぶ彼女に合わせ、周囲の羽衣が水のように翻る。
 その動きをぼんやりと目で追っていると、衣玖が急にその場に停止した。
 
「っ……?」
「……、……」

 慌てて彼女に掴まり直し、顔を見上げる。衣玖は視線と指で羽衣の外を示していた。
 神社の裏手、縁側から奥へ向かう廊下。そこから微かな話し声が漏れ出でている。

(早苗だ)

 声の一方は間違えようもない、先刻聞いたばかりの声。
 話している相手の声は、聞いたことがない。
 少女――それも幼い、子供の声。
 無言のまま小さく頷き合い、天子と衣玖は声のする方へ漂っていった。
 縁側にほど近い一室。
 早苗と何者かの会話はそこから聞こえてくる。
 二人は静かに廊下へ降り立つと、そっと襖に耳をつけた。

「では――二柱はもう、決断してくれたのね」

 まず聞こえてきたのは少女の声。
 改めて聞いても、やはり覚えはない。もともと下界での知り合いは多くないけども。
 ただ、何となく。
 その口調だけは、なぜか初めて聞く気がしなかった。

「……神奈子様と諏訪子様は、もとより御心を定めていらっしゃいました」

 硬く、強ばった早苗の返答。
 ラボではしゃいでいた時とはまるで違う声音に、天子は知らず呼吸を止めていた。
 相手を咎めるような節すら窺わせつつ、早苗は語調を強めていく。

「諏訪子様は昨夜。神奈子様も今日未明に……それぞれ、顕現を放棄しています。あとの事は貴女に訊けと言い残し」
「今はこの世に身体を繋ぎ止める力すら惜しい。分かって頂戴としか言えなくて済まないわね」
「お二人のお言葉でなければ貴女を信用はしませんよ――――紫さん」
「え?」

 思わず。
 声がこぼれかけ、天子は咄嗟に口を押さえた。冷や汗を拭い、やはり困惑している様子の衣玖と顔を見合わせる。
 早苗の呼んだ名――紫。
 しかし彼女と話している少女の声はどう聞こうとも妖怪の賢者、八雲紫のそれではない。
 首を捻る廊下の二人に構わず、部屋の中で会話は続く。

「力を貸してくれるならなんだろうと構いませんわ。例の、お友達の河童にはなんと?」
「……御心配なく。今回のことは何も知りません」
「…………そう。さぞ、恨まれてしまったのでしょうね」
「勿論です。何も伝えるなと言うから、私は相棒との約束を踏みにじることになった」

 明確に、きつくなじる言葉が響く。
 少女の声は応えない。

「ここまでしたのです。今度こそ説明して下さい」
 
 居ずまいを正す音。
 そして、早苗は小さく息を溜め。
 訊いた。

「――――幻想郷が消滅するとは、どういう事ですか」


■ 


「消滅する、というと語弊があるのだけれどね」
「流石に余裕がある。こんな時にまで言葉遊びとは」

 煙に巻くような相手の物言いに、早苗は苛立ちを隠さず告げる。
 常々、人を馬鹿にして楽しむ悪癖があるのだ。
 この八雲紫という大妖怪には。

「事実を精確に把握して貰わないと、全てが立ちゆかなくなるのよ」
「尋常な事態でないことは、その姿で現れた時から分かっています」

 あくまで平板な調子を崩さない紫を睨みつける。

 畳の上、座布団にちょこんと正座しているのは早苗の半分も背丈のない少女だった。
 可愛らしい顔立ちの上には三角形の耳が飛び出し、烏瓜の色をした服の裾から二叉の尻尾が覗いている。
 化け猫、と呼ばれる妖獣の姿であった。
 だが八雲紫は本来、妖獣ではない。
 昨日、諏訪子に引き合わされた時は困惑したものだったが……

「私も藍もそちらの神様と同様、身体が空いていないのよ。橙の身体を借りて、ようやく貴女と話している」

 答えて、橙――式神の姿をした紫が肩をすくめた。
 橙は紫が使役する式神、ではなく。紫の式神である八雲藍が、自分で使役する式である。

 式の式までを使って口寄せ――早苗の知識ではそう考えるしかなかった。実際はどんな怪しげな呪法か分かったものではない――を行う。
 隙間の大妖怪が、最強の式神である藍までも動かして当たらねばならない大事が起こっているという事だ。

「幻想郷には、外の世界で忘れ去られた存在が流れ着く……それは知っているわね?」
「ええ。よく」
「過日、ある者が幻想の結界を越えた。あまりに大きな力を持つその者は、ただ侵入しただけで幻想郷全土を灰燼へ帰す」
「……妖怪、なんですか?」
「つまらない石くれよ。……しかし何百年、何千年という歳月をかけ、厄災の象徴として膨大な畏れと凶念を蓄えた……半ば、付喪神のような存在になりかけている石くれ」

 声をひそめる早苗に対し、紫は相変わらず調子を崩さない。
 鈴鳴らすような化け猫少女の声で、朝餉の献立を延べるように淡々と続ける。

「計都、羅星、太歳の神……凶兆として、様々な姿に解釈され信仰された星がある。しかしそれらは化身に過ぎない。全ての大元である星そのものは、忘れ去られた」
「……まさか」
「簡単な話よ。外界のフィクションを知る貴女には、手垢のついた話ですらあるかも知れない。つまり、」



 幻想郷に、星が墜ちてくるのだ



 ――賢者の言葉は、確かに。
 映画や漫画で、しばしば見かけた話ではあった。
 見栄えはするが馬鹿げた話。
 言ってしまえば、陳腐な話。
 だが。

「知ってしまったからには、もう彼を感じられるでしょう――祀られる風の人間。神風を継承する貴女なら」

 膝に当てた拳を震わせる早苗の姿が、何よりも紫の言葉を証明していた。
 確かに感じるのだ。
 遥かな上空から迫りつつある、巨大な凶星の気配を。

「今は、八坂神が創造する幾億重もの乾を通過させることで落下までの時間を稼いでいる」
「っ、そんな……無茶な!」
「無茶よ。だから洩矢神の力までも費やし――それでも間に合わないとなれば、貴女の力も注ぎ込んで貰う。貴女はその為に呼ばれたのだ、東風谷早苗」

 変わらぬ口調で告げられる言葉に、息を呑む。
 八坂神奈子の〝乾を創造する程度の能力〟。
 彼女に仕える風祝である早苗にも計り知れないその神威は乾、即ち、天を新たに創造することすら可能とする。
 紫は幻想郷に落下する隕石を、神奈子が創り上げた空で押しとどめているというのだ。

 考えるまでもない――狂気の沙汰である。

 砲弾を紙で防ごうとするのと変わらない。幾ら重ねても、掲げた傍から吹き散らされていくだけだ。
 それでも神奈子と諏訪子が、存在を放棄してまで重ねた億の紙……並の砲弾ならばあるいは、防ぐことも出来たろう。
 しかし現在、幻想郷に迫る砲弾は並の砲弾ではない。
 頭上に感じる凶星の力は、防ごうなどと考えるのも愚かしいほど圧倒的だった。

「現状、二柱が稼ぐ時間が命綱よ。その時間を使い、私と藍、それに博麗の巫女が結界を用意している」
「結界……?」
「そう、単純な結界。単純で、用意しうる限り最も強力な……防御結界」

 ――その言葉で。
 八雲紫が何をするつもりなのか、早苗は察した。
 察して、しまった。
 顔から血の気が引く音が聞こえた気がする。

「博麗神社を中心に、極小規模へ最大強度の結界を展開――――そこに可能な限りの人妖を集め、災害を凌ぐ。彼の衝突は避けられなくても、衝突によって撒き散らされる被害ならば防げる。……まだしも、防ぎうる」
「そ、れは――っ」
「無論、結界の外は壊滅するでしょう。数値で示すのも馬鹿らしい質量の衝突で地盤は粉砕、発生した熱が全てを灼き払う。蓄えられた凶念と妖力は呪詛となって飛び散り、龍脈を寸断…………幻想郷は、命芽吹かぬ死の世界と化す」
「なぜ皆に知らせないのですかッ!?」

 まるで他人事の体で語る紫の肩へ掴みかかる。
 化け猫の瞳に映った自分は、ひどく怯えた顔をしていた。

「皆で考えれば、なにか、なにか手があるかも知れないじゃないですか! そうだ、レミリアさんッ……彼女の妹は前に、隕石を壊したことがあるって――!」
「知られるわけにはいかないのよ」

 勢い込んで喋り始めた言葉をあっさり遮り。
 紫は肩を掴む手を振り払おうともせず、ただ静かに言葉を紡ぐ。

「完全に結界を越えてはいないから、まだ誰も彼の存在に気付かない。侵入の度合いが深まれば、より多くの者が彼に気付くでしょう。逆もまた然り――誰かが存在を認識する度、彼は結界を越え……確実に『幻想郷の住人』に近付く」
「――だから私は、話を聞くまで、気付けなかった――――ッ」
「呑み込みが良いわね。……そして、吸血鬼に知らせるのは論外。幻想郷のパワーバランスを担う彼女たちに認識されれば、侵入は瞬く間に完了してしまうし、そもそも隕石を破壊したところで、呪詛による龍脈の汚染は避けられない」

 力なく滑り落ちる早苗の手に、紫がそっと手を触れる。
 ……ようやくにして、実感した。
 その平板な口振りは式の式の身体を借りているからと言うだけでなく、純粋な消耗の結果であるのだと。
 自ら築き、守ってきた幻想郷の凄惨な末路を予見しながら、それを避けられない――静かなる悲鳴。

 八雲紫が、絶望しているのだ。

「知っているのは私と藍、博麗の巫女。守矢の二柱……それに、貴女。既にこれだけの人数が彼を認識している。これ以上、彼を識る者を増やしてはならない」
「では、非想天則の開発を停止させたのも――?」
「貴女を通して彼に気付く者がいるかもしれないから……という意図は、あるけれどね。あの巨大な機械を、彼の到達前に完成させることは不可能でしょう。志半ばで折れるなら、早い方が傷は浅い」
「……そう、ですけど……」
「分かれとは言わない。けど、私たちに出来ることはもうこれくらいしかないの。これくらいしか、ないのに――」

 ――不意に。
 強く奥歯を噛みしめる早苗から、紫の視線が逸れた。
 背後の襖を見つめている。否、恐らくはその更に向こうの廊下を……

「……っ!?」

 そちらへ意識を向けて。
 初めて、そこに潜む何者かの気配に気が付いた。紫の視線が無ければまず見逃したであろう、あまりに微かな気配。
 気付いた時、既に早苗は立ち上がっていた。
 己に宿る神性を奮い起こし、指印で鋭く空を薙ぐ。
 颶風一閃。
 風神の奇跡が襖を吹き飛ばし、曲者の姿を暴き出した。

 荒れ狂う風の中、化け猫の式はまるで動じず、ゆっくりと言葉を重ねる。

「――どうして、あなたたちは来てしまったのかしらね」

 ともすれば殺気すら漂う金色の瞳で。
 八雲紫は、まとめて壁に叩きつけられた永江衣玖と比那名居天子を睨みつけた。





「お二人とも、どうして…………!?」
「――っ非難と弾劾は――全て、この衣玖が負いましょう」

 愕然と立ち尽くし、こちらを見下ろす早苗に言い返し。
 衣玖は吹き飛ばされる直前、咄嗟に羽衣で包み込んだ天子を振り返った。

「総領娘様、お怪我は」
「大丈夫。……大丈夫だけど、これ解いて欲しいかなって」
「貴女を責めて収拾の付く話ではないのよ、竜宮の使い」

 妙な具合に羽衣が絡まってしまったらしい天子の声を遮り、冷たい言葉が耳に刺さる。
 化け猫。聞いた話を信じれば、式の式の身体を借りた八雲紫。
 早苗の後ろからこちらを睨みつける大妖怪の眼光に、錯覚でなく心臓が縮み上がるのを感じていた。
 が――
 渾身の力で息を吐き出して、衣玖はゆっくり立ち上がる。
 横で蠢いている羽衣の塊はとりあえず、保留。

「……星が墜ちるまで、どれほどの時間が残されているのですか?」
「二十日と十一時間、残されているはずだった。早苗にしか話していなかったならば」
「私たちが知ってしまったことで、落下が早まったと」
「早まったなどという段では最早ない。猶予はゼロを大きく割り込み、結界の確実化を放棄せざるを得なくなった」

 二叉の尾を揺らす紫は語り口こそ平静なものの、口振りの裏に隠れた焦燥が透けて見えるよう。

「有頂天の天人に、竜宮の使い。貴女たちは、幻想郷へ直に影響を及ぼす存在であることを自覚すべきだ」
「……ご冗談を。私は、地震を伝えるだけの妖怪に過ぎません」
「非想非非想の娘を見続けていれば、己が器を量り違えるも無理はないかもね。成長する天人など規格外も甚だしい」

 だからこそ、その娘に知られたことが悔やまれるけれど。
 羽衣玉と化した天子を見やり、紫が微かに溜め息をついた。

「龍神に仕える貴女たちは、極めて強力な妖怪なのよ。その力の大きさに自覚がないとでも?」
「……だから、衣玖さん。あのラボの電源を、一人で……」

 息を飲む早苗に、衣玖は困惑の眼差しを返すことしかできなかった。
 今度ははっきり嘆息を溢し、紫が縁側へ顎をしゃくった。

「無知は罪悪よ、永江の衣玖――空を見るといい。もう見えてくる頃合いだから」

 眉を顰め。
 それでも衣玖は縁側から境内へ下り、言われるまま空を見上げた。

 見上げて、確かに。
 無知という罪の代償を、そこに見いだす事になった。

「…………………………いつ……なのです、か」
「結果として、早苗を人柱に捧ぐ猶予すら無くなったのは、唯一の僥倖かも知れないわね」

 露骨な皮肉に、言い返す気力は奮い立たず。
 青い、蒼い。不自然に過ぎるほど深く澄んだ空を見上げる、呆然とする衣玖に向け。
 ぴしりと立てられる、化け猫少女の指、三本。

「三日。遅くとも、四日目の暁を迎えるまでに――――彼は、幻想郷への侵入を完了するでしょう」

 何も言えない。
 遥か頭上、不気味なほど深い蒼穹の果てに灯る光を見てしまった衣玖には、何を言うことも出来なかった。

 その存在を仄めかされ初めて気付いた呪詛の隕石…………忘れ去られた、凶星。

 知ってしまえば、重くのしかかるそのプレッシャーに気付かずに居た自分の暢気さが信じられない。
 否。きっと、薄々は感じていたのだ。
 ラボを訪れた洩矢神の背に、プロジェクトの停止を告げる早苗の瞳に、それぞれ感じたあの黒い影――
 竜宮の使いとしての感覚が、迫る破滅の存在を感じ取っていたのだとすれば。
 それに気付かず、むざむざ破滅の時を早めてしまったのは。
 他ならぬ、この、私――――

「あんたのせいじゃないからね。衣玖」

 ――と。
 横から投げつけられた声に、衣玖は遠のきかけていた意識を引き戻された。
 振り向けば、縁側に立った天子が腕組みしてこちらを睨んでいる。
 ようやく解けたらしい羽衣をぺい、と適当に放り投げると、彼女はどかどか足音を立てて詰め寄ってきた。

「総領娘様……?」
「力の強い奴に知られるほど、墜落は早くなるんでしょう。あんなに近付いてるのは、天道掴む私に知られたからに決まってる」

 困惑する衣玖を、天子は傲然と腕を組んで見下ろす――彼女の胸までしかない背丈で、だが確かに見下ろしてくる。
 ふんと鼻を鳴らして空を、その先に微かに臨む凶星を睨み、天子は双眸を細める。

「衣玖なんか、ただのおとぼけ深海魚じゃない。この私に比べたら居るんだか居ないんだかわからないようなモンなんだから。……だから、あんたのせいなんて思い込むな」
「……総領娘様、それは」
「衣玖ばかり責めるなんて、端からお門違いなんだ。そうでしょ、スキマ」

 口を開きかけた衣玖を制して、天子は室内を振り返る。
 相変わらず座布団に座ったままの化け猫は、静かな瞳で彼女を睨み返していた。

「勿論。迂闊をしでかしたのは貴女たち二人なんですから。確実化の手順を省く危険を、ここで説いても分からないでしょうね」
「勿論。お仕置きでもお説教でも受けてやるわよ。全部、片付けてからね」

 まこと、傲岸不遜。
 頭上の凶星など見えてもいないかのように胸を張り、不敵に言い放つ天子に。
 紫は……何も言わなかった。
 おろ、と身じろいで、天子は口を尖らせる。

「なによ。いつもなら『美しく残酷に、ああもういいや帰れ本当帰れバーカ』とか言い返してくる所じゃない」
「いつもなにをなさっているんですか」

 本当にいつも言われているのか淀みなくまくし立てる天子に衣玖が半眼を送る。聞こえないはずも無かろうが、天子はそれを無視していた。
 ともあれ。
 押し黙ったままの紫に代わり、言いにくそうに口を開いたのは、縁側から空を見上げていた早苗であった。

「地域規模での防御結界は、本陣になる結界の外に弱い結界を幾つも重ね、順次それらを対消滅させ威力を殺す構造がスタンダードです。……弾幕勝負に例えれば、『霊撃』を何発も浴びせて被弾を減らすような感覚でしょうか」
「その『霊撃』を準備することが、確実化の手順だと……?」
「はい。あれだけの妖力、凶念――どんなに強力でも、本結界一枚で対処できるものではありません」

 神妙に頷く早苗に、問うた衣玖は勿論、天子ですら息を呑む。
『全部片付いてからね』
 天子の軽口に紫が言い返さなかったのは。
 例え戯れ言であれ、それがどれほど絶望的に遠い未来であるのかを承知していたからか――

「それだけではないわ」

 心を読んだとでも考えるよりほか無い機と言葉が、紫の口から漏れ出でた。
 思わず顔を跳ね上げる衣玖の目を、彼女はじっと無言で見つめ、それから、ゆっくり瞼を伏せる。

「幻想郷は全てを受け入れる。忘れ去られ、幻想と化したはぐれ者が行き着く最後の楽園……そうあろうと、努めてきた」
「…………」
「けれど今、私は彼を排斥しようとしている。幾万、幾億の歳月を災い運ぶ凶星として忌み疎まれ続け、最後に辿り着いたこの地にすら……彼は、拒絶される」
「……しょうがないじゃない、だって」
「ええ、幻想郷の破滅を看過は出来ない。するつもりもない」

 でもね、と反論を遮り。
 化け猫の身体は消え入りそうなほど幽かに、微笑んだ。

「孤独に疲れ、ようやく逃げ込んできた者を排斥して永らえたとして……そこはきっと、幻想郷ではあり得ない。私の愛した幻想郷は、私によって殺されるのだ」

 彼を受け入れれば、誰もが滅亡を逃れ得ぬ。
 彼を排斥するならば、楽園の根本を棄てねばならぬ。
 いずれにせよ彼女の望んだ幻想郷は失われる。永久に、還ること無く。
 
 それは、それは。

「残酷な話、なのですわ」

 八雲紫が沈める、その笑みこそ。
 蒼穹燃やす星よりも遥かに強く、迫る滅びを実感させる凶兆だった。





 妖怪の山の麓。
 大洞窟に築かれた河童科学の最先端――
 にとりんラボ、と人の呼ぶ。
 つい半日前には、数多くの河童で溢れていたラボには、今やたった一人の河童が残っているだけだった。

 組み上げ途中の非想天則の前に、胡座を掻いて座り込み
 何をするでもなく宙を見上げていたにとりに、衣玖はそっと声をかける。

「技術主任」
「――――お。衣玖さん」

 入り口に立つ衣玖を振り向き、にとりはゆっくり立ち上がった。

「一人かい。てんこはどうしたのさ」
「総領娘様は……先に、天界へ戻られました」
「ふうん?」

 ……嘘、ではない。
 凶星の存在を知ってしまった二人に、八雲紫が下した処置は存外に穏やかと呼べる物であった

『比那名居天子は天界で、永江衣玖は玄雲海で、凶星到達の刻まで謹慎せよ』――

 無論、凶星のことを口外しないという条件付きではある。化け猫の身体で即席に作り出した、御幣型式神が衣玖を監視していた。式の式の式、ということになるのだろうか――妖怪の賢者の力の淵は窺い知れぬ。
 天界から使いを呼ばれた天子は即座に連れ戻された(最後までぶちぶちと文句を言っていたものの)が、衣玖は最後に、ラボへ立ち寄ることを望んだ。
 到底分に合わぬその申し出を、紫に承知させたのは早苗であった。
 彼女自身も結界の構築に手を回すことを条件に――彼女は、衣玖にひとつの伝言を託したのである。

『非想天則に……そしてにとりさんに、ごめんなさいと伝えて欲しいんです』

 正しく。無茶な願いを通すに相応しい難題ではあった。
 押し黙る衣玖を、にとりは気にした様子もない。再び非想天則を見上げて、ぽつりと呟く。

「――――さって、と。今日はこの辺にしておくかぁ。それじゃ衣玖さん、戸締まりはよろしくね」
「え? あ、あのッ……技術主任?」
「んふふぅ。河童は人間の盟友で、私は衣玖さんの友達じゃあないか」

 戸惑う衣玖に歩み寄り、背伸びしてその肩を叩き。
 にとりは白い歯を見せ、狐のように目を細めた。

「愛しの非想天則と二人っきりにしてあげようって小粋な計らいさ。今ならいちゃつき放題ですよ?」
「い、いちゃッ……じゃなくて、技術主任、お話が! あなたに、伝言を――――」
「明日から!」

 伸ばされた衣玖の腕をするりと避け。
 その脇を通り過ぎたにとりは、振り返らずに声を張り上げた。
 思わず黙り込み、河童の小さな背中を見つめる。

「明日から、また騒がしくなるから」
「…………え」
「開発、私は、続けるから。二人っきりになれるの、多分、今日だけだから……ゆっくり、していってね」

 きゅ、と。
 被った帽子のつばを引き下げるにとりの声は、途切れ途切れに。

「私が、こいつを完成させてやる。あいつが追えなくなったなら、浪漫は、私が追い続けなくちゃいけないんだ」
「技術主任……あのッ、リーダーは!」
「大丈夫」

 わかってるから。

 僅かに上を見上げ、にとりは大げさに頭を振る。

「あいつ、謝ってるんだろ? きっと、どうしようもない理由があって、非想天則のこと、諦めたんだろうに……どうせ、あいつが悪い訳じゃないのに、謝ってるんだ。あいつバカだもんな。ほんとに――バカなんだ。あいつは」
「……技術主任、どうして……?」
「河童は人間の盟友で」

 呆然と呟く衣玖に、決して顔を見せず。
 夕陽に沈む河童の影が、ぐいと立てる親指のなんと強情で、誇らかな事か。

「私は早苗の相棒だからさ」

 気負いはない。
 衒いもない。
 ちょいと小用を片付けに行くような口振りで言うと、彼女はぱたぱたと河の方へ走り去る。
 頭上に輝く凶星に、気付く素振りは微塵もなかった。

(敵わないな)

 苦笑が零れる。
 彼女は竜宮の使いの自分より、よほど気質を読む事に長けているのではないか。

「あなたも……そう思いますか?」

 無音のラボを振り返り、呟く。
 返事を期待したわけではない。元より言葉は届かない。
 届くのは唯一、微かな電流。想いを伝えるにはか細すぎる糸。
 それでも――

「『彼』のことやら、技術主任のことやら。自分の能力が疑わしくなってしまいます」

 やれやれ、と嘆息ひとつ。
 照明の落ちた薄暗い天井を見上げて、衣玖はとん、と床を蹴った。
 そのままふわふわ宙を舞い、やがて――――そびえ立つ、非想天則の頭部付近まで浮かび上がる。

 そう言えば。
 二人きりで正面から向き合うのは初めてだ。

 なにやら間抜けな気分で、衣玖はくすくすと笑み溢した。

「はじめまして――永江の衣玖と申します」

 スカートの端を摘み、ちょこんとお辞儀をする。
 羽衣にくるまって浮かぶ竜宮の使いを、ぴかぴかに磨かれたセンサー・アイが無音で映し込んでいた。
 少し躊躇ってから、衣玖は彼のフレームに手を触れる。
 暖かくも冷たくもない、超魔導合金・ヒヒイロミスリルコンZの感触。

「御機嫌はいかがですか?」

 そっと、指先から電流を放つ。
 閃光が弾ける――
 脳裏に走ったイメージに、僅かな引っかかりがあった。敷布のほつれに触れるような微細な違和感。

「……そう。不安ですよね」

 感じたイメージに、衣玖は小さく吐息を溢した。

「技術主任が頑張ってくれています。リーダーだって……あなたが嫌いになったわけではないんですよ?」

 祈る。
 信仰はない。何かも分からないものを信じ、電流の言葉を投げかける。
 パチッ、と空気が弾ける音がした。

「……私、ですか?――ふふ。意地悪なことを訊くんですね」

 戸惑い気味に微笑むと、衣玖はふわふわと非想天則の肩に腰を下ろす。
 言葉が通じるわけではない。
 あるのは電流に感じる違和感のみ。それとて勘違い、思い込みでないという保証はない。
 それでも分かる。
 感じている。
 鉄の身体の奥深くから懸命に『声』を投げ返す、
 彼を。

「そんな意地悪をする人には…………答えてあげません」

 こつん――
 もたれかかったヘッドパーツに、自分の頭をぶつける。
 微睡むように瞼を伏せ、衣玖は微かに唇を開いた。

「どうしてあなたはこんなにも、暖かいのでしょうね」

 パチッ
 蒼い火花を視線で追い、彼女は小さく首肯する。

「……そうですよ。胸の奥が暖かくなって、とても、とても幸せになるんです」

 掻き抱いた羽衣で、火照る顔を無理やり隠し。
 仔猫が親に甘えるように、ほんの指一本分だけ、身体を寄せる。

「どうしてでしょう?……どうしてでしょうね」

 鋼鉄の感触。

「総領娘様にも聞かれました。どうして――――私は、あなたに惹かれてしまったのか」

 あの時、天子に答えた言葉に偽りはない。
 自ら幻想郷を知ろうとし、日々変わろうとする非想天則の『声』。変わらぬ妖怪、竜宮の使いである自分には持ち得ぬ意志を眩しく思う気持ちは、確かにある。
 ではそれが、即ち非想天則に恋した理由なのか?
 衣玖は、違うと思うのだ。
 だから。

「せめて、それが分かるまでは…………一緒に、居たかったのですけどね」

 パチンッ

 弾けた空気は、静かなラボに大きく響き渡った。
 驚いて非想天則を見る。
 横顔から覗くセンサー・アイに光はない。
 然れど。

「……もう、私はここへ来られなくなりました」

 その眼差しから逃れるように顔を伏せる。

「理由は、言えません――言えないんです」

 ポケットの中。八雲紫の即席式神が、警告を発するように小さく震えるのを感じ、衣玖は音もなく歯を噛んだ。
 無論言えないことはない。
 だが言ったとして、どうなる?
 まだ動力も接続されず身動きのとれない非想天則に、三日後に迫る幻想郷の破滅を告げて、得られるものはなんだ?
 決まっている――安堵。
 真実を隠す重荷を投げ捨て、後ろめたさから解放され……衣玖が、楽になる。
 その為に、彼に絶望を押しつけることなど、

(許されるものか)

 傷なら負おう。
 彼の信頼を裏切る、それが当然の代償だ。
 触れていた指を離し、衣玖はふわりと宙に浮き上がった。
 そしてもう一度、愛しい鉄塊を振り返る。

「最後に会えてよかった――――どうか健やかに、非想天則さん」

 羽衣でゆるり、空を撫でる。
 精一杯に笑ったつもりだが上手く声を出せた自信はない。視界が滲むのは、もうどうしようもなかった。
 これ以上無様を晒す前に、疾くこの場を去ろうと身を翻した、瞬間。
 突然、仄かな明かりが灯った。

「……?」

 天井の照明ではない。
 ラボに幾つか置かれている、作業台――図面や工具などが雑多に置かれた机の一つが、ぼんやりと光っていた。
 光っていたのは、机に置かれた機械。饅頭箱程度の大きさの装置に取りつけられたパネル。
 最近、どこかで見た覚えのある装置。

 鼓動が止まった気がした。

 思わず呼吸すら呑み込み、衣玖は慌てて装置の前に降り立つ。
 光るパネルにはたった一文、簡素な文字が映し出されているだけだった。


 ――【キャーイクサーン】――


 音声入力式サポートシステム。

 今はまだ、「非想天則」というキーワードに応じ、にとりが戯れに設定したこの言葉を表示するだけの代物。
 衣玖の言葉に反応したのだろう。静かなラボとはいえ、非想天則の頭の高さで発した声を装置が感知するとは思えなかったが、河童の装置の事は他の種族では計り知れぬ。事実こうして起動している以上、そう考えるしかない。そう考えるしかないのだ、が――
 ぎゅ、と羽衣の裾を掴み。
 歯を食いしばる。
 泣き出さずに済んだのは我ながら大した物だ。

「…………っ」

 そして、強く。
 強く固めた拳を胸に当てると、頭上を振り仰ぐ。
 網を張る薄闇に隠れ、非想天則の顔は窺えない。それでもその先にある、彼の目をじっと見つめて。
 衣玖は静かに、

 心を決めた。





 二日の後。
 八雲紫によって、幻想郷全土に凶星墜落の報が放たれる。

 人々は、初めて頭上の驚異に気が付いた。
 既に太陽よりも眩しく空を染める巨星の姿を、皆が愕然と見上げる。
 肝を潰して、泣き出して、余力のある者は憤慨もして。
 それでも終いには避難勧告に従い、燃え上がる空の下を博麗神社に向けて行進することと相成った。

 永江衣玖も勧告のため、幻想郷中を翔る、翔る。
 危機を伝えるが元より本分。事情を承知する竜宮の使いは皮肉にも、紫にとって有用な駒であった

 驚いたのは、布令に応じない者の在ったことである。

 末法の世に忍ぶが僧の務めと、微笑む魔法使い。
 地上へ上がる時こそ滅びぞと、見つめる第三の眼。
 死に場所ならば好きに選ぶと、嘯く蓬莱人。
 此処も賑やかになるわねえと、仄めかす亡霊嬢。
 我等が逃げる道理があるかと、泰然たる吸血鬼。
 その思惑は窺い知れぬ。

 天界にも訪れたが、天人達は無関係を決めこむ腹積もりらしい。比那名居の総領から謹慎を命じられた天子に会うことは、遂に出来なかった。
 にとりは…………黙って、勧告に従った。衣玖にも、神社で顔を合わせた早苗にも何も言わず、仲間の谷河童と共に憔悴した顔を見合わせていたのを覚えている。
 可能な限りの人妖を集めた博麗神社。
 早苗の協力もあって周囲の山まで囲うことの出来た結界は、予想より空間に余裕を残して内外の行き来を封鎖した。


 最早祈るばかり。
 四日目。夜も明け切らぬ刻のことである。





「――――素晴らしく耐えてくれたわね、八坂神は」

 ぽつりと呟き空を睨むは、化け猫の少女。
 式神・橙の姿を借りた八雲紫であった。
 二叉の尻尾を揺らす彼女に続いて、隣で御幣を握りしめた早苗が頷く。

「諏訪子様のお力まで預かり、神奈子様が奮えぬものですか」
「最大の感謝と、詫びを送りましょう。私の身体が保っていたら」

 静かに呟く紫には答えず、風祝は空を見上げる。
 月も掠れる程に眩く輝く凶星は、今や天に蓋をするようであった。二人が立つ博麗神社の境内は避難してきた人妖で混雑しているが、その誰もが静かに息を呑み、もう数刻の先に迫っている破滅を見上げている。
 夜であることを忘れそうな赤い光の下、早苗は痛ましげに目を伏せた。

「……霊夢さんたちは、まだ結界の維持に?」
「私と彼女、藍の三人で陣を張り結界の強化を図っています。確実化の式を組み込めない以上、焼け石に水かもしれないけれどね」
「私も、もっと結界に明るければ――」
「あなたはよくやってくれたわ」

 今更に悔やんでも始まらぬ。星は、手を伸ばせばそこに触れそうな程に近付いてきているのだ。
 やるべきことをやり、尽くせることを尽くした。
 あとは、待つしかない。
 彼女の愛した幻想郷が死滅するその瞬間を。

「避難しなかった方々は……大丈夫、なんでしょうか」
「彼女たちには、彼女たちの考えがあるのでしょう」

 心配げに呟く早苗に答え、紫は神社の石段、その遥か先を見る。
 博麗神社を囲むようにそびえる光の壁――いかにも間に合わせの、不細工な結界だ。
 急造の防御結界は、強度と引き替えに一切の調整が効かない。発動してしまった以上結界の外へは出られないし……外から入ることも、できない。
 外に残ることを決めた幾許かの者たちを思い、紫は早苗に気付かれない程度の溜め息を溢した。
 あるいは。
 彼女たちもまた、この世界を愛してくれていたのか。

(そうであるならば……)

 幻想郷よ。
 せめて誇りを抱き逝くが良い。
 貴様は紛れもなく、はぐれ者達の楽園であった。

 頭を振り、紫は再度空を見上げる。

「あと、半刻と言った所かしら」
「静かですね」

 呟き、早苗が境内を見回す。
 轟く地鳴りはうるさいほどだったが、人々はひと言も発さない。黙って、頭上の凶星を見上げている。

「パニックが起きたら厄介だとは思っていたんですが」
「そうね。……彼女に感謝しなくてはならないわ」
「彼女?」

 首を傾げる早苗を見上げてから、紫は視線である一方を示した。

 鳥居の下。
 不安げに辺りを見回す童の姿。凶星を見上げるその目には、今にもこぼれ落ちそうなほど大粒の涙。
 その童の傍らに、しゃがみこむ妖怪がある。
 気をなだめるように頭を撫で、柔らかく微笑むのは、緋色の羽衣纏う竜宮の使い。
 ふわふわぼんやり、ぷかぷかぽわん。
 張った肩肘から力を抜くような妖怪の笑顔に、子供は次第に落ち着いてきたようだった。そのまま、穏やかな妖怪の話に耳を傾けている。
 ほどなく人混みを掻き分け、子供の両親と思しき男女が二人の元へ駆けてきた。わっと飛びつく子供を抱きしめ深々と頭を下げる彼らに、妖怪は子供と同じような笑顔を見せる。頭上の星の事すら忘れてしまいそうな暢気な笑みに、近くにいた人々の緊張も少しだけ緩んだようだった。

(どこまでも空気を読んでくれる)

 思わず苦笑も零れる。
 両親に抱きしめられた子供に手を振り返し、妖怪――永江衣玖が、するすると人の間を通り抜けこちらへやってきた。

「お疲れ様です、お二人とも」
「衣玖さんも」

 ぺこりと頭を下げる衣玖に、早苗が会釈を返す。
 組んでいた腕を解いて、紫は薄く唇を開いた。

「みんなを励ましてくれていたようね」
「こうなってしまえば、私には話相手くらいしか務まりませんから」
「結界の隙は見つかったかしら」

 沈黙。
 瞬くより短い無言の後、衣玖は頭を振る。

「いいえ」
「外へは出してあげないわ」

 返答に被せるように、断言。
 僅かに動きを固くする羽衣を視線で追い、紫は後を続けた。

「貴女が此処に居るのは……自責、なのかしら」
「……」
「貴女に知られたことで墜落が早まったことは事実。だから貴女は三日もの間、過ちを償うために飛び、翔て、危機を伝えて回った。そして今またここで、怯える皆の心を支えてくれた。赦しましょう、永江衣玖。貴女の献身は確かに受け取った」
「ならばッ、」
「だからこそ」

 決して大きくはないひと言が、衣玖の先を制する。

「出すわけにはいかない。貴女は、あの鉄人形の元へ行くつもりでしょう?」
「っ」
「諦めなさい、永江衣玖。ここまで力を尽くしてくれた貴女に、勝手な話かも知れないけれど………………これ以上、誰も死なせたくないの」

 呟く化け猫の顔に表情は無かったものの。
 有無を言わさぬ口調で、紫は言い放った。
 衣玖は俯き、言葉をなくす。強く噛みしめた唇に滲むのは、血。
 彼女が件の鉄人形、非想天則に懸想しているということは早苗から聞いていた。
 その話を聞いた時、せいぜいがペットやお気に入りの道具を想う程度のものなのではないかと考えていたが――今では、それが合点違いであったと分かる。

 ここにいるのは酔狂な変人などではない。
 いかにも初心で懸命な、恋する乙女そのものであった。

(人の恋路を邪魔する奴は、なんて言うけれど――)

 この無垢なる恋を断つ自分に、良い死に様は訪れまい。
 音のない溜め息が零れた、その時。

「衣玖さん。どうか分かってください」

 それまで、ずっと黙り込んでいた早苗が進み出た。
 訝しげに顔を上げる衣玖へ、風祝は静かに言葉を紡ぐ。

「多くの実力者が結界の外へ残った以上、あなたまでも失うわけにはいかない。幻想郷のためなんです」
「……リーダー?」
「非想天則の事は残念ですが、どうしようもありません。きつい事を言うようですが、あれは……あなたの為に造られた訳では、ない」
「っ、それは」
「どうか、どうか分かってください、衣玖さん。あなたは知っているはず――――――非想天則が、何のために造られたか」

 瞬間。
 衣玖は打ち据えられたように目を見開いた。愕然と見開かれた瞳に映るのは、厳しく表情を引き締めた風祝。
 数秒も、視線を交えていただろうか。
 怪訝に思った紫が声をかけようとした時、早苗がそっと手を伸ばした。
 そして羽衣に触れ、静かに告げる。

「――最期に、舞を贈っていただけませんか」
「……早苗?」
「非想天則はあなたの愛であり、私の夢でした。想いだけでも届くよう、祈らせて欲しいのです」

 眉根を寄せる紫には答えずに、早苗は衣玖を見つめ続ける。
 その目は真摯に、真剣に。
 何かを訴えるように覗き込む彼女に、衣玖は。

「――分かりました」

 静かに頷いた。

 斯くて。緋色の衣を空に泳がせ、竜宮の使いが舞を舞う。
 空気を乱すことのないその舞踏は、確かに鎮魂の祈りを捧ぐには相応しい美しさだ、が……

(おかしい)

 唐突とも言える早苗の申し出を、衣玖は素直に受け入れた。
 あるいは、それも空気を読んだということか? 否。そんなことではない。理屈でなく直感がそう告げていた。
 ざわめく。
 合点が、行かぬ。
 衣玖の舞は重力というものを感じさせない。自由に地を踏み、空へ腕を泳がせて、海流に踊るような螺旋のステップを刻むそれはまるで、

 水を得た、龍魚の舞。
 
(――――っ!?)

 そして気付く。
 ざわめきの、正体。
 次の瞬間、紫に出来たのはただ叫ぶことだけだった。

「やめなさい、永江!」

 悲鳴にすら近かったかもしれない、その声は。
 一陣の風に同化し、瞬く間に彼方――――結界の外へ翔ていった衣玖には届かなかった。
 妖怪の山の方へ飛んでいく緋色の衣を睨み、紫はぎり、と歯を軋らせる。

(迂闊だ、八雲紫……ッ!!)

 風の流れに同化し、あらゆる干渉をすり抜ける舞踏――

 大仰な妖術ですらない、竜宮の使いのお家芸ではないか!
 消耗と緊張のせいでそんなことにも考えが至らなかった。
 
「大丈夫ですよ。結界に一切、影響はありません」

 声をかける早苗は、いっそ飄々としてすらいたかも知れない。
 眼光を隠すこともせず、紫は守矢の風祝を睨みつけた。
 彼女は気圧された風もなく、小さく首をすくめる。

「騙す格好になって申し訳ありません。こうして隙でも突かなければ、衣玖さんでも突破は難しいでしょう?」
「機転を利かせたつもりか、東風谷早苗……!」

 紫の放つ怒気が、化け猫の矮躯をひと回りもふた回りも大きく思わせる。
 式の式の身体を借りてなお衰えぬその妖気に、流石に早苗も黙り込んだ。

「同情か、友情かは知らないけれど、浅薄に過ぎる」
「行かせるべきではなかったと言いたいのですか」
「愛した者と共に死ぬ……貴女はそんなロマンチックの為、救えたかも知れない命を死地へ放りだしたのよ」
「死なせるつもりなんてありませんよ。言ったでしょう?」

 声を低める紫に軽く言い置いて、早苗は結界の方を見やる。
 竜宮の使いはもう見えないが、彼女の瞳は、確かにその背を見送っていた。

「非想天則は衣玖さんの為に造られたわけではない」

 それは誰に向けられた言葉なのか。
 紫か。衣玖か。あるいは、頭上に迫る彼なのか。
 口元に不敵な笑み刻み、紡がれる。

 非想天則は、

「――異変解決用究極決戦装備、なんですよ」





 凶星は、妖怪の山のほぼ真上へ落下してくるようだった。
 迫る焦熱と障気に震える山を駆け抜け、ラボへ辿り着いた衣玖を迎えたのは。

 くるくると回る、赤いドレス。

「あら。お帰りなさい」

 ラボの前。
 入り口で回転していた安全装置、もとい厄神は、目の前に降り立った衣玖へぺこりと頭を下げた。
 全速力で飛んできた為上がった息を整えながら、衣玖も礼を返す。
 それから帽子を正し、流し雛の少女を見て首を捻る。

「……厄神様、喋れたんですね」
「話しかけてくれないんだもの。雛ショック」

 泣き真似までして呟く厄神。回りっぱなしなのでよく見えなかった。
 ともあれ赤いドレスの裾を摘むと、彼女は可愛らしい造作の顔に微笑みを灯し、告げる。

「でも、来てくれて良かった。にとりの言った通り」
「え?」
「神社へ避難する前に、伝言を預かったのよ。『絶対、衣玖さんがラボにくるハズだから。そしたら伝えてやってくれ』……ってね」

 肩をすくめる厄神に、言葉を返せない。
 目を瞬かせる衣玖を余所に、彼女はごそごそとドレスを探り、畳んだ紙片を取り出した。
 それを開き、読むわね、と前置くと。

「『形は整えた。後は任せる』」
「…………、え?」
「以上」

 それだけ。
 ぽかんと口を開ける衣玖を見て、くく、と可愛らしく笑み溢すと、厄神は道を空けるように脇へ退き、
 回転を、止めた。

「中々どうして……大したものよ。河童の意地と底力、見てあげて頂戴な」

 誘うように伸ばされた厄神の腕が示す、ラボの中。
 ふらふらと、熱に浮かされたような足取りで、衣玖はそちらへ歩いて行く。
 暗いラボの中央には、見慣れた巨大な影が鎮座している。三日前、別れを告げたはずの彼の姿。
 しかし、

(違う)

 影の輪郭が、衣玖の知る彼の物とは僅かに異なっている。
『形は整えた』
 先の言葉が胸を騒がせる。
 脚を止めた衣玖の後ろから、厄神がラボに入ってくる。再び回り始めた彼女は、壁の一画に取りつけられた基盤を操作した。
 瞬間、白が視界を塗り潰す。
 突然に焚かれた照明の光は、暗闇に慣れた目には暴力的だ。思わず両手で目を庇ってから、衣玖は恐る恐る目を開いてゆく。
 そして――眩く照らし出された「彼」の姿に呆然と、呟いた。

「非想天則、さん…………っ?」


 スーパーロボット


 眼前に聳える雄姿を、他の言葉で以て表す事は出来なかった。
 最期の逢瀬となるはずだった夜の、未完成の姿ではない。
 剥き出しだったフレームは頑強な装甲板に鎧われ、照明を鈍く照り返す。
 取りつけられた両腕は天を掴み、大地を砕く剛力の化身。
 今は黙するセンサー・アイにすら、滾る闘志の炎が過ぎるよう。

 力無き鉄の童子はもう居ない。
 此処に居るのは、鋼の戦士。
 異変解決用究極決戦装備――スーパーロボット、非想天則である。
 
(技術主任…………あなたという人は、)

 折れなかったのだ。
 挫けなかったのだ。

 早苗が離脱し、衣玖が姿を消して尚。河城にとりは二人を信じ、彼を造り上げたのだ。

 想像を絶する、苦難の道であったろう。
 不休の作業に身を削り、消えた二人に心を焼かれたことだろう。
 それでも。にとりは。やってのけた。
 衣玖がここへ戻ってくることを信じて……彼女が何をするつもりか、全て分かった、その上で。
 
「動力は確保出来ていないわよ」

 くるくる回りながら歩み寄ってきた厄神が、隣に並んで非想天則を見上げる。

「リーダー推薦のロケットパンチも未完成、武装らしい武装は無し……分かってるわね?」
「全て。……それを伝える為に残ってくれたのですか?」
「私は厄を集める流し雛」

 にかっ、と覗くは、白い歯。
 意外なほど生意気そうな笑みを浮かべ、厄神様が回る。

「厄とは即ち、募る想いが負の一面。凶念、怨嗟、孤独……呪詛。たった今、ここより厄い場所は存在しない」
「仕事熱心なのですね」
「生きとし生けるものの想い、厄を流すのが私の仕事。……たまには、こんな『厄』を流す仕事も悪くないわ」

 ひらひらと、振られる手に摘んだ紙片が揺れる。
 そちらに微笑み返してから、衣玖は再び、非想天則を見上げた。

「ありがとうございます。それでは、私は――」
「あ、待って」

 頭を下げかけた衣玖の袖を引っ張り、厄神はおもむろに髪を結んでいたリボンを解く。
 何事かと首を傾げていると、彼女は引っ張った衣玖の腕にそれを器用に巻き付けた。

「腕、怪我してるわよ。どこかに引っ掛けた?」
「え? あ……」

 ぎゅっとリボンを結びつけられ、初めてそこに在る痛みに気が付く。
 防御結界をすり抜けた際に負った怪我だろう――流石に、あの三人が張る結界を越えるのは容易ではなかった。
 即席の包帯を軽く叩き、厄神が片目を瞑ってみせる。

「霊験あらたか、厄神アミュレットってことで。ま、御守り程度にね」
「厄神様……本当に、なにからなにまで」
「口惜しいことに、縁結びのご利益はないの。――『彼』とは、自力でうまくやりなさいな」

 最後に悪戯っぽく笑い。
 解けた髪をくるくる回し、厄神はいつもの定位置……安全装置と書かれた戸板のそばへ下がっていく。
 微苦笑で彼女を見送って、

「――――はい。頑張ります」

 小さく呟き、表情を引き締める。
 とん、と床を蹴り、衣玖は空へ舞い上がった。
 ふわふわと浮かぶ彼女を待っていたかのように、非想天則の胸部装甲が持ち上がっている。
 一度、息を呑み。
 意を決して、衣玖はふわりとコックピットに身体を収めた。無骨な操座が、存外に柔らかく自分を受け止めてくれる。
 機内には何の反応もない。当然だ、動力が繋がっていないのだから。
 だからモニターにも、操縦桿にも触れず。
 衣玖はただ両手で壁に触れ、指先から彼に『話しかけ』た。

「……お久しぶりです。非想天則さん」

 パチンッ

『声』が返る。
 三日ぶりの会話――たった三日だというのに、ひどく永い間離れていた様に思う。
 驚いているらしい彼に、衣玖は僅かに間を置いてから呟いた。

「ごめんなさい。勝手なことを言っておきながら……私は、またあなたに会いに来てしまった」

 電流に触れる彼の『声』に、衣玖や早苗を責める響きは微塵も無い。
 あるのはただ再会への歓喜と……迫る脅威への、不安。
 震えるようにしがみつくその感覚を抱きしめて、目を閉じる。

「……そう。幻想郷は危機に瀕しています。このままでは数刻もせずに、凶星はこの山へ落下するでしょう」

 パチッ
 跳ね返すように強い『声』に顔をしかめる。
 壁についた手をゆっくりと滑らせて、衣玖は懸命に『話しかけ』た。

「落ち着いて――そう、ですよね。怖いですよね、悔しいですよね。やっと身体が完成して、これからラボの外へ行けるという時なのに」

 俯き、吐息を溢す。
 電流は届いても言葉は届かない。
 だからせめて。初めての脅威に怯える彼を宥める為に。

 ――最大の力で、電流を放つ。

「ッく、うぁ…………ッ!!」

 全身の血が逆流する。少なくとも、衣玖はそう錯覚した。 
 制御しきれずに漏れ出た電光がコクピットを跳ね回る。妖力が絞り出されているかの如く、全身で刺すような痛みが弾けていた。
 仰天したように『声』を投げ返してくる非想天則に、掠れた声で答える。

「……力を、貸してください。あなたの、力を……!」

 ばちっ
 音を鳴らすのは電流ではなく、衣玖の腕――限界を超えた超々高電圧に皮膚が弾けたのだ。
 次々と身体中で弾ける激痛に気が遠くなる。
 悲鳴じみた非想天則の『声』が、衣玖の電流に響き返してきた。
 心配してくれている。
 なんの疑問も抱かずそう確信できた事が嬉しくて、衣玖は胸中だけで微笑んだ。

「このままでいいのですか……! あんなに、あなたは望んでいたのに……この世界のことを知りたいと、成長することを望んでいたのに!」

 絶叫。
 稲妻に紛れないよう、引きつる喉から声を振り絞る。

「あなたはまだ、生まれてすらいない! あなたが愛するはずだった……あなたを愛するはずだった、この幻想郷に!!」

 電流を緩めることはない。肌が焼け、血が滲み服を緋く染めていく。

「このまま終わっていいのですか!? あれほど望んだ世界の事を、何も知らないまま滅びを迎えていいのですか!? 私は――――嫌ですッ!!」

『声』が泣く。
 叫ぶ、喚く。
 過電流に焼かれる衣玖にしがみつき、非想天則の言葉が暴れている。

「でも……駄目なんです! 私だけでは、あなたに世界を見せてあげられないんです! だから、力を貸してッ――」

 反応。
 天蓋すら砕けそうな雷の奔流に呼び起こされ、コックピットの機器に光が灯り出した。
 駆動音が響く。腕部の、脚部の、各部のモーターが竜宮の電流に叱咤され、目を覚まし始めていた。
 共鳴している。妖怪と機械、二つの意志。
 自分と彼の想い。
 闘志。


「私と一緒に…………戦ってください、非想天則さんッ!!」


 ――答えた『声』は、獅子吼とも区別が付かなかった。

 暗く沈んでいたセンサー・アイは、今や眩い真紅の光を燃やしている。
 うねる力と昂ぶりを押さえきれぬとばかりに、鋼の豪腕は作業用の足場を引きちぎった。動力炉を介さずに直接電流を流しているための予期せぬ動作だったが、衣玖にはそれが非想天則の雄叫びに思えた。
 彼は答えてくれたのだ。
 自分と共に、戦ってくれると。

(ありがとう)

 言葉は届かない。想いだけでも、電流に載せる。
 目を伏せてから、衣玖はコックピットの外へ呼びかけた。

「厄神様、ドームを開けて下さい!」
「上手くやったのね。吹き飛ばされないでよ……!」

 まるで様子を覗いていたとでもいう風情で、返事は返ってくる。
 その後に続いた変化はより唐突だった。細かな震動がラボに走ったかと思うと――
 天井が、割れた。
 卵から孵る雛鳥の目は、こんな光景を見ているのかも知れない。
 モーターの力で左右に開いていく天井の隙間から、天から生えた山のような凶星が見えた。大量の障気がラボに吹き込んで、代わりに空気を空へ巻き上げていく。
 豪風に攫われぬよう操座に掴まる衣玖の耳に、叫び声が聞こえた。

『――止めなさい、永江衣玖! 死ぬつもり!?』

 八雲紫。化け猫少女のものでなく、妖怪の賢者本来の声。
 出所を捜そうと辺りを見回しかけ、この場で彼女との接点など一つしかないと思い直す。
 スカートに入れたままにしていた監視用式神が、切羽詰まった怒声を伝えていた。

『あの星は、もう壊す壊さないという次元で語る物ではない! 否、万一破壊できたとして、溜め込まれた呪詛の拡散を防がなければ同じ事だ!』
「だから、戦うんです……」

 存外と静かに答えられたのは、衣玖自身にも意外だった。
 掴んだ操座に、確かに幼い鼓動を感じて、ゆっくり言葉を紡いでいく。

「……自分を破壊する、明確な『敵』を作れたのなら。呪詛はすべてそちらへ誘導できる」
『正気じゃないッ――数億年集め、溜め続けた呪詛よ! 一人ですべて呑み込めば、死ぬ程度では済まされない! 転生の輪からすら弾き出され、完全に消滅する!!』
「一人じゃありません。……一緒に、戦ってくれます」

 誰がとは告げない。
 ただ、非想天則の機関部が駆動音を一層高めていた。
 鬨の声にも思えるその音に言葉を止めたものの、八雲紫はすぐに後を続ける。

『非想天則に武装は無いはず。空も飛べず、如何に星を迎え撃つ』
「それも。大丈夫、です――っ」

 答えながら、衣玖は周囲へ放つ電流を更に加速させた。
 迸る雷光は非想天則の内部にすら留まらない。渦を描いて、竜巻の如く空へ切り込んでゆく。
 その稲妻の道が導く先は無論、迫り来る凶星。

「電気の回廊は鋼鉄を弾いて、加速させる……非想天則さんを『撃ち上げる』ことだって、できますッ……!」
『電磁誘導路ッ……レールガンのつもり!? 馬鹿げてる、そんな電力はもう貴女の身体では――――』

 言葉の後半は聞き取れない。
 膨れ上がる磁場と電流の嵐の中、衣玖は千切れ飛びそうな意識を必死に繋ぎ止めていた。

「ぎ、……っく、が……ァ!」

 湿った破裂音。
 指先から肩口まで、斬り裂かれたように一気に腕が弾けた。
 眉間の奥にぶん殴られたような激痛。少しして、鉄臭い熱を口元に感じる。
 元より、非想天則の動力を代行するだけでも無茶な話――更に、その巨体を空へ撃ち出すだけの電磁回廊を造ろうというのだ。
 非想天則の『声』に答える余裕すら、今は無い。

(まずい)

 覚悟していた以上の負荷に焦り始める。
 凶星との距離は、もう目測では測れない。少なくとも衝突までに電磁回廊を造りきるほどの時間は残されていまいが。
 悪い推測ばかりは良く当たる。そういうものだ。

『駄目、電圧が上がっていない――逃げなさい、永江!』
「っ、ぃ……い、やで…………すッ……!」
『もういい、あなたは最善を尽くした! ほんの数十秒猶予が在れば、あるいは空へ上がることは出来たでしょう! 星の熱が、あなたと非想天則を蒸発させるのには充分すぎる数十秒よ! お願い、早くそこから――』
『――それ、具体的に何秒なの』 

 突然。
 誰かの声が割り込んできた。紫の式神からですらない、コックピットの外から。
 厄神様かとも思ったが、違う。
 もっと聞き慣れた、身近で、小喧しくも愛おしい声――

「…………総領娘、様……?」
『頑張ってるみたいね深海魚。天界からでもあんたのカミナリ、見えてるわよ』
『比那名居天子!? どうして貴女がそこにいる!』
『「そこ」には居ないわよ。言ったでしょ、天界にいる』

 愕然とする衣玖と紫にそれぞれ答える天子の声は、確実にラボの中から聞こえてきていた。
 しかし声の調子がおかしい。言葉の端々に、時折ざわつくような雑音も混じっている。
 困惑する彼女たちに、天子は悪戯っぽい声で続けた。

『超長距離、とは言ったものね。天界からそこまで通じるんだから大したもんじゃないの』
「! 技術主任の、通信機……!?」
『正解。三日前、河童が比那名居の家まで運ばせてくれたの。そこの受信機にしか繋がらないらしいけど』

 天子の声はあくまで明るく、爛漫だ。
 人によっては神経を逆撫でしかねないその磊落さも、今は泣きたくなるほど嬉しく思う。
 それを素直に口に出すのが悔しい気がして、衣玖は下手くそな笑顔を造った。

「……また謹慎を破られて。いい加減、比那名居の総領もお許しにならないのでは?」
『怒ってるでしょうね。一発どついて逃げてきたし』

 悪びれた様子もなく肩をすくめる彼女の姿が容易に想像でき、思わず噴き出してしまう。
 焼き切れた唇の端をそっと吊り上げる衣玖に、天子はぞんざいな口振りで言った。

『衣玖も一緒に謝ってよね。こればっかりはあんたのせいだもの』
「承知。首を剥製にして供ぜよと言われても従いましょう」
『……夜中に目とか光りそうだから、それはいいや』
『なんのつもりなの、天人』

 げんなり呟く天子に、紫が低い声を上げる。
 再び通信機が鳴る前に、彼女は更に言葉を続けた。

『緋想の剣を使うつもりなら論外よ。大量の気質を集めていた異変当時の力でも、あの星を討つには及ばない』
『そんなことしないわよ。アレ壊したら、呪いがどうとかでマズいんでしょ』
『なら、あなたに何が出来るというの』
『時間を稼ぐに決まってるじゃない。鈍いわね、衣玖はもう気付いてるわよ』

 面倒臭そうなその言葉に。
 天子の意図を読み取ったらしく、紫は黙り込む…………否。ただ、絶句する。
 無理もない。
 こんなことを考えるのは幻想郷広しといえどあの天人だけだろうし、それを察することが出来るのは、きっとこの世で自分くらいだ。
 その事に密かな満足を覚えていると、通信機から天子の声がする。

『だから教えなさい。妖怪の賢者』

 傲然と、せっつくように、然れど焦らず泰然と。
 天の子供が、笑う。

『私は、何秒稼げばいい』





 二十秒。
 八雲紫が仕方なしに示したその時間は、それでも控えめに見積もったものなのだろう。
 雲間に覗く地上の稲妻……永江衣玖が放つ雷光は先ほどよりも眩く見えるが、あくまで微々たる変化だ。

「要するに、やれるだけやっとけってことよね」

 重たい通信機を適当に投げ落とし、ふん、と自分の掌を殴る。
 雲すら見下ろす高空に天子は浮遊していた。夜明けを待つ空は嫌いではないが、今は辺り構わず照らし出す赤光のせいで風情も何もない。
 間近に接近した星は、もはや壁が降ってくるようにしか見えなかった。
 放射される高熱が忌々しい。天人の身体はこの程度で滅ぶものではないが、熱いものは熱いのだ。

「熱いなー。ったく、この貸しは高いんだからね。衣玖の奴」

 下界のあんみつ程度で許すと思うな。
 アイスクリームも奢らせてやる。しかも三つ載せだ、恐れ入ったか。
 素直に奢るなら飲茶は勘弁してやろうかな、と寛大な処置も考えながら、天子は頭上の凶星を見上げる。

「……ふん」

 何気なく零した舌打ちは、思った以上に苦く響いた。
 数億年、凶念を集め続けたという話は伊達ではないようだ。それだけで何もかも蹴散らして行きそうな威容のプレッシャーの只中で、天子は奥歯を噛んだ。
 その硬直を振り解くように、ふうっ、と大きく息をついて。

「舐めるな凶星。天道は私の手にある」

 広げた両手を高く掲げる。
 集めるのは霊力でも、気質でもない。そんなものが何の役に立つ。
 こんな時、役に立つのはいつだって、気合だけだ。

 さあ、ぶっ魂消ろ。有頂天が目に物見せるぞ。
 凡夫には理解も及ぶまい。如何なる痛苦もねじ伏せ、耐え抜き、堪えきる。
 これこそ天人の徳。

 無念無想の、境地というものだ。
 
「……っだああああッしゃあああぁぁぁ!!」

 破壊的な衝撃を撒き散らし。
 比那名居天子は、燃え盛る隕石を「受け止めた」。

「ああぁぁあぁああぁぉおおおオォォォオッ!」

 想像を絶する激痛と灼熱が、掌から全身を貫いていく。
 悲鳴は早々に搾り尽くされて、後は無言の絶叫がこぼれ落ちるのみ。

 ――天人の身体は頑強である。
 その頑健さに任せて強引に被弾を無視するという手を、天子は下界での弾幕勝負にしばしば使っていた。
 当然、痛い。あたかも攻撃の通じない風を装ってはいるが、実は頑張って我慢しているのだ。

 今押しとどめている星は、当たり前だがどんな弾幕よりも大きく、強い。大地が丸ごと降ってきているような物だ。
 少しでも気合負けすれば天人といえど消し飛びかねない。

(両腕じゃ足りない)

 本能で察するや、天子は、躊躇いなく岩塊に頭突きを喰らわせた。
 ……だからとて劇的に状況が変わるわけもない。おでこが景気よく火傷しただけである。
 それでも、押さえ続ける。
 全身を炎に焼かれ、空の咆吼を上げながら堪え続けている。
 傍から見たらさぞ面白い光景だろう。思わず苦笑して、天子は両目を伏せた。

(――見えるか、鉄クズ。うすらデッカイ木偶の坊)

 想うは遥か足の下。地上にいるはずの機械人形。
 
(私はあんたが気に入らない。早苗のロマンってのは分からないし、にとりの情熱も理解できない)

 額と掌を灼く熱が意識を摩耗させる。
 いつの間にか食い縛っていた歯は、砕けそうなほど軋んでいた。

(衣玖は、あんたが好きなんだってさ。恋してるんだってさ。あんたのことで悩んで、あんたの為に苦しんでさ。バカみたい)

 熱と衝撃。
 身体のどこかで骨が折れたかも知れない。
 ――我慢しろ、私。すっごい我慢しろ。
 無様はさらせない。奴にだけは笑われてなるものか。
 地上の木偶の坊への意地だけで、天子は更に全身へ力を込める。

(でも、あんたのこと話すとき、衣玖は嬉しそうなんだ。……本当に、嬉しそうなんだ)
 
 だから。
 私はあんたが気に入らない。

 自分が落下し始めていることには薄々感づいていた。
 全身の力という力をかき集めてぶつけた凶星は、傷一つなく空に留まっている。落下する自分から遠ざかっていく所を見るに、ある程度は速度を殺してやったのだろう。
 二十秒を持ち堪えたかどうかは分からないが、痛快な心地で口の端を歪める。

「……大事な友達、預けてやるんだ」

 全身を襲う激痛と虚脱感を強引に振り切って。
 自分と入れ違うように空を駆け上っていく巨影を指差し、笑う。

「しくじったら泣かすわよ――――この、木偶の坊」

 答えの返る道理もなく、影は再び落下を始めた星へ向かい飛翔していった。
 まるで無用な警告をしたと確信してしまったのは悔しいが、不思議と悪くはない。力が抜けるに任せて目を閉じる。
 やるべき事はやった。後はもう、

(……とにかく、なるたけ柔らかい地面に落っこちますよーに)

 最後の力で適当に祈りを捧げ。
 地上めがけて一直線に落下しながら、比那名居天子は気を失った。





 広域モニターに一瞬だけ、煙を曳いて落下していく影が横切って行くのを確認し、思わず衣玖は呟いた。

「総領娘様」

 感謝か、詫びか、他の何かか。
 とにかく詰め込めるだけの全てを詰め込んだその声も、彼女には届かないだろう。
 頑丈な御方だが、大丈夫だろうか。焦げてないといいけれど。
 心配は尽きないが、だからこそ振り向いてはいられない。
 彼女が稼いでくれたこの時間、無為に費やすわけにはいかないのだ。
 未練を断ち切るように頭を振り、衣玖は計器に目を走らせた。

 飛翔による加速の熱と衝撃は、コックピットの内では微塵も感じられなかった。超魔導合金の装甲板にも損害はない。
 全て順調。河童の技術は完璧な仕上がりだ。
 問題があるとすれば、

(……私の身体が保つかどうか)

 電磁回廊を維持しつつ、非想天則の動力を確保する程の大電力など本来、一介の妖怪が操る代物ではない。
 既に電流を伝える両腕は幾度となく灼け、弾けて鮮血に染まっている。止血のつもりで巻き付けた羽衣も包帯の役を成していなかった。
 命そのものを削って電力を絞り出している有り様だ。戦う事はおろか、凶星の元へ辿り着けるかどうか。
 歯を食いしばる余力もなく、衣玖はただ吐息を溢した。
 と。

「――っ?」

 正面モニターが突然、明るくなる。
 夜空と、その中心に凶星を映していただけの画面が真っ赤に染まっていた。無数の小さな赤い光が行く手を塞いでいる。
 隕石の欠片――
 ひび割れた岩殻が弾け飛び、抵抗の大きな本体に先駆けて降り注いで来ていた。
 欠片とはいえ、元は山のような巨大隕石。水樽程度の物から非想天測よりも巨大な岩塊までが、二人に向かい放射される。

「こ、の…………ぉ!!」

 自分らしくない声を絞り出し、衣玖は指先から放つ電流のパターンを微細に変えた。
 確信があってした事ではない。
 だが。彼は、応える。

 電磁回廊を真っ直ぐに上昇していただけの非想天則が、ぐるりと機体を回転させた。角度を合わせた肩部装甲が岩を弾く。
 コックピットを襲う衝撃に意識を持って行かれそうになりながら、衣玖はそれでも、非想天則に触れる指を離さなかった。
 指を離せば電流が途切れる。
 彼に、伝わらなくなる。

「ッ、くぅ……!」

 伝えるのは恐ろしく緻密で、気が遠くなるほど精確で、そのくせ時にひどく強引で危なっかしい計算式。非想天則は頼もしい駆動音を響かせて、衣玖に教えられたとおりのマニューバーを開始した。
 緻密で、精確で、時に強引で危なっかしい。この世界では必須とも言える飛翔理念。
 ――それは、弾幕の避け方であった。

 右へ、左へ。
 廻る、曲がる。
 身体を捻り。仰け反って。
 避けきれない岩は振り上げた腕で強引に突き飛ばした。

 掠る。

 掠る。

 弾幕が掠る。

 暴力的で、圧倒的な弾幕であった。
 生身で受ければ影も残らぬような呪念の弾丸の中、衣玖は空気の流れを読み解き、ほんの僅かな抜け道を見いだす。
 彼女が『話しかけ』るのに応え、非想天則がその空隙へ滑り込めば、更に膨大な数の岩が行く先に立ち塞がる。
 極限の集中と緊張を絶やさず、緩ませず。
 発狂への誘惑を振り払い飛び続け――それでも。
 目指す凶星は未だ、遥か彼方。

(あと……どれだけ保つ!?)

 何百、何千と非想天則を掠めた星の欠片は装甲板を削り、広域モニターを始めセンサー類の殆どを破壊していた。生まれて初めての超高速マニューバーも、各機関部に作動不良を引き起こし始めている。
 衣玖自身については問題にするのも愚かしい。
 全身の裂傷は更に数を増している。右眼が見えなくなったのは、ほんの数秒前からだ。
 遠近感を失った薄暗い視界で正面モニターを睨み、巨大な岩塊の横を滑るように駆け抜ける――

 その瞬間。
 突如岩塊の一部が弾け飛び、破片が非想天則を直撃した。

「――――!?」

 巨大な手に、くしゃくしゃに握り潰されている――
 朦朧とした意識の中、衣玖はそう錯覚した。
 身体がコックピットの内で跳ね回り、短い気絶を何度も繰り返す。
 一瞬か、それとも数分か分からない空白を越えて、ようやく意識が繋がった時……頭上に、真っ赤な夜空が広がっていた。
 ハッチが弾き飛ばされたのだ。
 飛翔の加速度と風圧が直に襲いかかり、衣玖を押し潰そうとする。

「っ……、非想天則さん!」

 再び刈り取られそうな意識を叱咤し、衣玖は懸命に『話しかけ』た。
 非想天則は軌道を大きく揺さぶられながらも、まだ飛び続けている。直撃の被害がハッチだけで済んだのは幸運だったが……

「落ち着いて! 大丈夫、大丈夫ですから……!」

 彼にとって初めての、「被弾」。
 驚き、怯えるのは当然と言えた。
 もう感覚のない指を必死に壁に押しつけ、衣玖は懸命に『話しかけ』続ける。

「大丈夫、あなたはまだ飛べています! 私も、あなたも、まだ戦える――――!」

 だが彼は鎮まらない。
 衣玖が呼びかけていなければ電磁回廊の外まで飛び出して行きかねなかった。
 被弾のショックに捕らわれてしまったか、星の弾丸を避ける機動が極端に大きくなっている。

(駄目、このままじゃ……!)

 頭が灼き切れそうな集中力で回避軌道を見出し、なんとかそちらへ彼を導こうとする。だがもう、その程度の力すら残っていない。
 微電流が空しく弾ける指先で縋るように彼に掴まり、衣玖はそれでも呟き続ける。
 言葉では届かないと知っていても、そうせずに居られなかった。

「お願い、落ち着いてくだ、さ――――?」

 瞬間。
 衣玖は弾かれたように顔を上げ、反射的に自分の口を押さえる。 
 ――声が、聞こえた気がした。
 空耳だと思った。こんな高空にいったい誰の声が届くというのか。
 しかし。
 声は余りにも強く、明確で。
 半ば以上泣き声になりながら、それでも渾身の力を込めて。

 叫ぶ、その名は――





「――ひそーてんそくー!」

 始まりは、童の声。

 博麗神社の境内。避難してきた人妖が落下しつつある凶星と、その星へ向かって飛翔する巨影を見守っている。降り注ぐ星の合間をくぐり抜けていくその姿は夏のバザーで有名になったせいもあり、誰もが知るところではあった。
 突然その名を叫ぶ童へ、皆の視線が集中した。

「がんッ……がんばれ、ひそーてんそくー!」

 しゃくり上げながら叫ぶその童に、ごく一部の者は見覚えがあった。先刻、緋色の羽衣を纏った妖怪になぐさめられていた童だ。
 迫る星を見ていただけで泣き出しそうだった子供が。
 今や誰もが息を呑むしかないこの状況で、必死に声を張り上げている。

「ひそーてんそくッ、ひそーてんそくー!」

 懇願ではない。
 応援ですらない。

 子供は戦っていた。

 涙で顔をべたべたにして、泣き喚くのと変わらない声を張り上げながら。
 すぐ間近に近付いた絶望に屈せず、その機械人形の名に全部詰め込んで。
 叫ぶ。
 縋るのではなく。
 想いを共に、戦う――
 
「……非想天則……」

 初めに続いたのは、一体誰か。
 ――誰だって構わないのだ。
 その名を呼び、共に戦う。
 そう決意し声を上げ始めたのは、一人や二人では無かったのだから。

「非想天則……!」
「非想天則!」
「非想天則ッ――!」

 次々に弾ける声、声、声。
 想いが唱和し、空気を震わせる。

「頑張って……非想天則ー!」
「頑張れっ、頑張れー! 頑張ったら鰻おごってあげるぞー!」
「そーなのかー!」
「あんたじゃないッ!」

 人だけではない。
 妖怪、妖獣、妖精……その場に集う全ての者が同じ名を呼んでいた。
 言葉に託すは、闘志。
 凶星に挑む鋼鉄の戦士へ、想い寄り添い、戦うため。
 ただ、その名を。叫ぶ!


 非想天則!!





 人々が掲げた戦いの烽火。
 それはいかにもちっぽけで、天をも貫いた凶星の焔とは比べものにならない。
 しかし。
 上がった烽火は、博麗神社だけではなかったのだ。



 ――人里近くの寺で。

「ああ。幻想の郷に、想いが満ちる!」
「姐さん。雲山がテンション上がりすぎて先に叫んでるんですが」
「入道は君の管轄じゃないか」
「隣で吼えてる虎はあんたの管轄だけどね」
「私の力で押さえられるわけないだろう、あんなレッサー毘沙門天」
「いいじゃん、叫びたい奴から叫んどけば。そら続け、ぬえ!」
「ムラサがいいこと言った。うりゃー! ひそーてんそくー!!」
「ふふ。私たちも負けてられませんね」
「聖、君まで……まあいいか。同志達も血気盛っているようだし」
「柄じゃないんだけどねぇ。……雲山、みんなを持ち上げて! 出来るだけ高くねッ!」
「仏よ、人よ、妖怪よ。焔の空征く、戦士の名を呼べ! 彼こそは……誠に雄々しき、非想天則であるッ! いざ、南無三――――――!」



 ――地底の旧都で。

「ずるいよずるいよお燐、アレずるいよ! アレ、私が動かすはずだったのに!」
「痛い、痛いって! あたいに言ったってどうにもなんないってば!」
「さとり様ー! なんで私を出してくれなかったんですか!?」
「あなたじゃ駄目、だからよ。あの機械人形と竜宮の使いの二人でなくては――星の呪詛に、勝り得ない。今回ばかりは覚り妖怪の言葉より信用できるものはないわ」
「わかんないです!」
「……。あなたじゃ心の機微なんかさっぱりでしょ、ってことよ」
「お燐! 褒められたよ!」
「よかったね。……しかし綺麗に外が映るもんですねぇ。てれびじょん、でしたっけ?」
「おかげで地上に出なくて済むわ。ありがとうね、こいし」
「あ、ばれた」
「人の膝の上で何を言っているのやら」
「んふふー。お姉ちゃんと一緒に叫びたくて、河童のとこから持ってきたんだ」
「……え、私もやるの? あれ」
「当然。お燐とお空も一緒にね! 非想天則ーっ!」
「ああもう。仕方ない――!」



 ――何処とも知れぬ空の上で。

「『私(射命丸文)はその時一人、危険を省みずこの闘いを見守り続けた! 幻想の郷、赤く燃える夜空を翔る一陣の鋼鉄!』――」
「鴉天狗さまー。いつまでここに居る気ですかー」
「うるさいですよ白狼天狗、私は真実を記録しているのです!」
「『一人』言ってる時点で嘘じゃないですか。三文小説なんか書いてないで避難しましょうって」
「こきゃーがれ、ですね! この空前絶後の大異変に背を向けて、鴉天狗が名乗れますかッ!」
「はいはい。幸せそうでなによりです、と」
「ほとほと忌々しいワンころですね……大体、なんで避難しなかったんですか。神社の結界なんてとっくに閉じてますよ」
「答える必要がありますか?」
「あーもうムカつく。こっちは忙しいんです、白狼なんかに構ってられません!」
「ご自由に。私も勝手に、居ますから」
「『一瞬の後に二人を待つのは生か! 死か!』 私は……私達は――――」
「……?」
「私達は今――――伝説の中に居る…………!!」



 ――迷いの竹林で。

「うおおおッ! 非想ぉッ天ッ則ううゥゥ――――ッ!!」
「……見て見て。知らない人がいる」
「うん、気持ちは分かるけど現実は受け入れよう。あの屋根に上って両腕振り回して、血管切れそうな勢いで叫んでるのが悲しいかな、アンタの師匠だ」
「意外とああいうノリ好きなのよねー、永琳ってば」
「姫様ー。師匠が壊れたー」
「なら私たちも壊れましょう、月イナバ」
「あれ、伏兵?」
「滾れッ、轟けッ、燃え上がれッ! 非想天則ぅぅうううりゃぁぁぁああああッ!」
「……なんか、へんな毒素でも出てるの? 月面で」
「一緒にしないでよ…………でも、あれ? この胸の高鳴りは何?」
「あ、ゴメン。私ちょっと用事を思い出、」
「ふおお燃えてきたあぁぁッ! てゐ、あなたも一緒に叫ぶのよッ!」
「うッわ瞳ぇ赤、ってちょ、待ってよ鈴せ――」
『非想天則ゥゥゥゥッ!!』



 ――幽冥の楼閣で。

「……?」
「どうかした、妖夢?」
「なにか聞こえませんでしたか?」
「ずっと聞こえているわよ。幻想郷中に想いが溢れているのだから」
「はあ」
「紫はねぇ、心配性すぎるのよ。そう思わない?」
「あんまり神経の細い印象はありませんね。……幽々子様?」
「なあに?」
「なにか起こっているのですか? その、異変とか」
「……それはあなた、ちょっと鈍すぎるわねぇ」
「しばらく顕界へ出るなとおっしゃったのは幽々子様じゃないですか」
「今更説明してもねー。大人しく天狗の号外でも待ちなさい。今は叫んでおけばいい」
「叫ぶ?」
「そう。――ゴニョゴニョ――ってね」
「……それ、いつだったか河童が造ったアドバルーンの名前でしたっけ? なんでまた」
「いいからいいから。私も一緒に叫んであげる。さん、はいっ――――」



 ――紅魔の館で。

「行けー! だいだらぼっちぃぃぃ!」
「チルノちゃん。だいだらぼっちじゃなくて非想天則だよ」
「そうそれ! それのアレぇぇぇ!!」
「……チルノちゃーん」

「……なんでウチで妖精がはしゃいでるのかしら」
「美鈴が『あれは太歳星君の凶星! 今こそやったりゃー!』と叫んで持ち場をすっぽかしたせいかと。……ところで、今回のこともお嬢様は、全て?」
「ん、知っていたよ。知っていたから、知らないことにした。私が知れば運命は悪い方にしか紡がれないようだったしね」
「パチェー。お姉様がわけわかんない」
「電波よ。気にしなくていいわ」
「おい親友」
「ふーん。……あの隕石を、私がきゅっとしちゃえば解決なのかな?」
「それでは駄目ね。あれは凶事の象徴として恐れられ、忌避され続けてきた星……破壊しただけでは、数億年に渡る孤独の中で練り上げた呪詛が撒き散らされて、私たちを呪い殺すでしょう」
「つつがなく流すな。フランも」
「あれ? でもそれって、あのロボが隕石を壊しても変わらないんじゃない?」
「そうね。そこに関しては……正直、賭けなのだけれど」
「案ずるな二人とも。私が見た運命によれば、こn」
「でも、一つだけ確かなことがある。――私たちも、彼と共に戦わなければならないということ」
「戦う……あの妖精達みたいに?」
「そう。私は大声を出せないけれど……想い、私の分まで預けていいかしら? 妹様」
「よし分かった。これ以上無視するなら私はアレだ、泣くぞ。すごい泣くぞ」
「いいよ。パチェの分まで、届けてあげる!」
「……良い子ね。フラン」
「えへへ。頑張れー! 非想天則ー!!」
「うわーん! 咲夜ぁー!」




「頑張れ……頑張れよ! 非想天則!」

 博麗神社の屋根の上。
 仲間達に支えられた河城にとりの叫び声が、赤い空に響き渡る。

「衣玖さんが一緒なんだぞ! お前の大切な……大好きな人が一緒に戦ってくれてるんだぞ! 護って見せろよ、男の子だろう!?」

 隈の浮いた目に、大粒の涙が溢れる。
 彼女を支える河童達も、連日連夜の作業による疲労でぼろぼろの有り様だ。
 それでも。
 星へ挑む非想天則を――愛しい子供を呼ぶ声は一様に、強い。

「お前ほど幸せなロボがいるもんか! みんな、こんなにお前を想ってくれてるんだ! だからッ――負けちゃ、駄目だよォ…………ッ!!」
「……どうして」

 にとりたちを見上げていた視線を下げ。
 八雲紫は、呆然と境内を見回していた。
 人が、妖怪が、誰もが彼を呼んでいる。絶望に折れる事なく、戦っている。
 何故だ?
 この上なく明確な死を前に、どうして折れない?
 どうして――

「――ここが」

 ふと。
 隣に立っていた早苗が口を開く。

「幻想郷だから」

 思わず見つめ返す紫に、彼女は、静かに微笑んだ。

「大好きな楽園の危機だから、私たちは戦える。紫さん……あなたの愛した幻想郷は、私たちの愛した幻想郷なんですから」

 その笑顔に全て語られた気がして。
 立ち尽くした紫の耳に、誰かの小さな笑い声が聞こえる。
 それが自分の口から漏れているのだと気付くまで、少しだけ時間が必要だった。

「最後まで、この楽園を信じてやれなかったのは――私だけだったということね」
「心配性なんです、紫さんは。子供って案外強いものですよ?」
「そうみたいね」

 境内の人妖を見回し、紫は腕を組む。
 何度となく上がる声。
 幾度となく呼ぶ名前。
 想いは一つ。

 愛するこの郷を、護る。

「さあ、私たちも戦いましょう――――幻想の、お母さん?」
「こんなに大きな娘を持った覚えは無いわ」

 微笑と苦笑。
 打ち合わせる、拳と拳。
 暁が近付いていた。
 目覚め始めた空を馳せる、一人と一機を見上げて。
 高らかに、叫ぶ!





 回る。
 廻る。
 巡り。寄り添い。幻想郷の想いが一つに集う。

「人の想い。妖怪の想い。生きとし生けるもの全ての想い――」

 凶星の真下。赤い光を全身に浴び、解けた長い髪が弧を描く。
 小さな身体に集束する、人々の想いを慈しむように。
 少女は、微笑んだ。

「高まり、募り、力を宿したそのときに…………人は想いを、厄と呼ぶ」

 くるくる、くるり。
 がらんとしたラボの中心で一人、厄神が回る。
 その身に流れ込むのは幻想郷中の想い。とても抱えきれるものではない。
 だが厄神は、さも嬉しそうに、笑っている。
 この想いは、彼女が溜め込むのではないのだから。

「負の想いは昂ぶり易く、正の想いは儚く脆い。たまには、こんな眩しい厄も悪くないかな」

 彼女は秘神・流し雛。
 厄を集めて。
 それを、流す。

「届いている? 聞こえている? 皆の厄が。幻想郷の、この想いが」

 つい、と顔を上げる。
 遥か上空に居るはずの、鋼鉄の戦士とその伴侶を見上げて。
 厄神は歯を剥き、にかっと笑った。


「――とても、厄いわね」





「ッ…………!!」

 涙――
 込み上げてくる感情、言葉、行動、全てをその雫が流れるに任せ、衣玖は自分の腕に手を触れる。
 今となっては包帯の意味もないレースのリボンの感触。
 霊験あらたか、厄神アミュレット。

(私は莫迦だ)

 想いが溢れていた。
 リボンを通じて厄神の、早苗の、にとりの、紫の……幻想郷中の想いが、衣玖と非想天則の中を駆け抜けていく。
 誰もが二人を見つめていた。
 誰もが二人を呼んでいた。
 誰もが――二人と、共に戦っていた。

(当たり前じゃないですか)

 この世界を。
 幻想郷を愛しているのは、自分たちだけではないのだから。

「……聞こえていますか? みんなの、声が」

 一度流れ出してしまえば、涙は止めどなく溢れ出してくる。
 頬を伝う熱を拭いもせず、衣玖はもたれるようにコックピットの壁に触れた。
 非想天則は震えていた。
 それは、ともすれば泣いているように思えたかも知れない。厄神のリボンから衣玖を通し、伝わる想いの奔流に打ち震えている。

「見てください――私たちと一緒に、戦ってくれる世界です」

 広域モニターは機能していない。
 それでもきっと非想天則には、見えていたに違いなかった。

 ようやく生まれることが出来た、強く優しい、楽園の姿が。

 悪戯っぽく笑い、衣玖は囁く。
 
「カッコ悪いところなんて、見せられないですよね……?」

 応えるのは、気炎万丈の駆動音。
 泣き崩れたかった。
 叫び出したかった。
 浮かぶ笑みを堪えることが出来ない。ただただ胸に込み上げ、突き上げてくる熱を解き放つように――
 電流を、放つ。

「――行きましょう!!」

 二人が翔ぶ。

 降り注ぐ星の欠片は、一層その数を増していた。
 目も眩むような弾幕の狭間へ、非想天則は鋭く、精緻に、勇敢に切り込んで征く。衣玖の回避軌道をベースに、時に予期せぬ方向へ身をかわす、これが。
 非想天則の、翔び方なのだ。

「非想天則さん……!」

 声は出ているだろうか?
 吐息と変わらない絶叫を振り絞り、衣玖は上空を睨んだ。
 凶星まであと少し。破片の弾幕はもはや、避ける事の出来る密度ではない。
 
「非想天則さん……ッ!」

 だから。
 衣玖は傷に巻き付けていた羽衣を解き、吹き飛んだハッチからコックピットの外へ踊らせた。
 盾のように広がった羽衣は降り注ぐ弾幕を受け止めると、水面を斬る魚の尾のように空を一閃。弾幕の壁に突破口を穿つ。

 ――自在に形を変え、脅威をいなして機を掴む。
 ――その羽衣は、水の如く。

「非想天則さんッ!」

 迫る二人を振り払おうとするように、凶星から焔が噴き上がる。
 素早く、衣玖は羽衣で円を切った。生まれた磁場と気流の渦が二人を包み、灼熱の焔すらも寄せ付けない。

 ――鋭く吹き抜け、如何なる害意も退ける。
 ――その羽衣は、風の如く。

「大好きですッ…………非想天則さん!!」

 叫びと駆動音が、一つに重なった。
 硬く握りしめた彼の鉄拳に、寄り添うように羽衣が巻き付いていく。
 螺旋を纏い研ぎ上げられた腕を振り上げ、非想天則は凶星の表面へ飛び込んでいった。

 ――強く。鋭く。焦がれて。貫く。脆く儚く、しかし疑いようのない、最強の武器。
 ――ならば、

 ――――その羽衣は、想いの如く。


 螺旋の先端が星に触れた時。
 衣玖と非想天則に流れ込んできたのは、啜り泣くか細い意志だった。

(あなたは)

 あまりに巨大なその身体が最初に放ったのは、呪詛でも怨念でもない。

 悲鳴だった。
 凶つ星は泣いていた。

 無限の闇と孤独から救ってくれる存在……自分を知ってくれる世界に恋焦がれ、絶望の狭間で救いを求め、最後の楽園へ逃げ込んで来た。
 呪いを含んだ身と自覚して。
 侵入が、楽園を滅ぼすのだと知りながら。
 孤独に負けた、凶兆の王。

(寂しかったのですね)

 想いの穂先を、そっと抱きしめる。
 だが――この老いた寂しがりが望むままを行えば、全てが灰燼の彼方へ消えてしまう。
 看過は、できない。

 コックピットに触れた指を僅かにたわめ。
 衣玖は無意識に、言葉に出して呟いた。

「この世界には……ルールが、あります」

 非想天則に『話しかけ』ようとするが、もう電流が生み出せない。
 もし許されるなら、

(最後に「告白」……応えて欲しかった、かな)

 笑う。
 少なくともそのつもりで、息を吐く。
 伝えなくてはいけなかった。
 目の前の新参者たち――老いた王と鋼鉄の童子に、この楽園のルールというものを。
 大丈夫、簡単なこと。
 あなたたちはもう分かっているはずだから。

 非想天則に触れた指に力を込める。
 精一杯。口付けるように優しく、強く。
 吸い込まれるように薄れていく意識の中、指に残った鋼鉄の感触は。
 思った通りに、暖かかった。




「――――――ようこそ。幻想郷へ」


 






 一週間が経っていた。


 妖怪の山の頂に、威風示すは神の坐す。
 守矢神社と名を聞けば人妖遍く、知らぬ所は無し。
 信仰の篤きは言うに及ばず。押しも押されぬ大神社である。
 その境内。
 神社の威厳にそぐわぬとっちらかった縁側に腰掛ける姿有り。
 道服を纏い、傍らには可愛らしい日傘が一本、畳んだまま置かれている。
 いかにも人間離れした美貌を惜しげもなく陽の下にさらす、金糸の髪の美女であった。

「……『流星雨は七日七晩、幻想郷中で観測され続けた。幾許かの小隕石が落下したとの報もあるが、死傷者は無し。懸念されていた呪的災害も確認されず、博麗の巫女は、凶星異変はひとまず落着を見たとの見解を示している』……なに勝手なこと言ってるのかしら、あの子」

 片手に持った新聞を読み上げながら眉根を寄せ。
 ほう、と息をつくと、八雲紫は空を見上げた。
 真夏の空。
 太陽と雲に彩られた青空を見て、紫は瞼を伏せる。

「妥当な見解だけれどね。――これで、一件落着」
「なぁにが落着したってのよ、スキマっ!」

 ふと。
 神社の中から聞こえてきた怒声に、彼女は笑みすら浮かべながらそちらを振り向いた。
 どすどすと床板を踏みつけやってくるのは、肩をいからせた比那名居天子。
 いつも過剰なくらいの活力を漲らせていた顔にはほつれた髪がかかっている。
 呼吸も荒く傍へ来た彼女へ、紫はきょとん、と目を丸くし、

「まあ。まるで疲れているみたい」
「疲れてんのよ! 何時間ぶっ通しで働かせるつもり!?」
「知るもんですか。早苗に訊きなさい」
「丁度、お茶にしようと思ったところですよー」

 鼻を鳴らす紫に応え。
 台所の方から、盆を携えた東風谷早苗がやってくる。
 冷えた麦茶と練り菓子を載せた盆を縁側に置き、早苗は巫女服にかけていた襷を解いた。

「紫さんも、よかったらご一緒に」
「頂こうかしら。出来た娘でお母さん幸せですわ」
「よく言うわ……」

 嘯く紫と、ぐったり座り込む天子に、早苗がそれぞれ麦茶を注いだグラスを渡す。
 冷たいお茶を一口飲むと、紫は横目に早苗を見た。

「引き継ぎは順調?」
「準備は完了、ですかね。どうにか明日から動き出せそうです」
「良かったわ。なんにしろ、乾坤の加護は人々の支えになる」
「……ねえ、本当に大丈夫かな。私が神様代理なんて」

 麦茶を置き、天子が不安げに呻く。
 楊枝で切り分けた練り菓子を口へ運んだばかりの紫に代わり、早苗がぱたぱたと手を振った。

「心配なんてらしくないですよ? てんこさん」
「……あんた、そろそろ引っぱたくわよ」
「あなたが最適任なのよ、比那名居の娘」

 練り菓子を呑み込んで、険悪に歯ぎしりする天子の眼前に扇子を突き出す。
 鼻白む彼女に肩をすくめ、紫はぱっと扇子を開いた。

「大地を操るあなたでなくては、坤神に代わって地脈を管理することなんてできないわ」
「だからってさあ。本来、天人の私がそんなことする義理は、」
「空から落っこちたあなたが、わざわざ霊穴に突き刺さって龍脈を寸断したのが今回の被害トップだったんじゃない」
「おかげで秋神様がてんやわんやです。神奈子様と諏訪子様が回復されるまで頑張りましょう、てんこさん!」
「あー、うー……」

 そんなところばかり坤の神に似せて呻き、天子が床に沈む。
 丸まったその背を早苗が無用に力強く叩いているのを眺めながら、紫は涼しい顔で麦茶をすすった。

(実際……よく、その程度で済んだもの)

 七日前。
 間違いなく歴史に刻まれる赤い夜を思い返し、紫は軽く溜め息をつく。

 凶星が墜落していれば、幻想郷は焦土と化していた。
 破壊しただけならば、大地に二度と消えない呪詛が刻まれていた。

 天子のもたらした被害など微々たるもの。
 龍脈が麻痺し土地が痩せたのは事実だが、秋神姉妹が季節を外れて頑張ってくれたため復旧は早い。天子が坤神、早苗が乾神、それぞれの加護を代行すれば数日内に豊穣な土地が戻ってくる見込みだ。
 暢気に。悠長に。だが、着実に。
 楽園は在るべき姿に戻りつつある。

 景観深き山を見下ろす妖怪の賢者に、微笑み一滴。

「想いを封じるは、想い。厄神の中継を通し、幻想郷のあらゆる人妖の想いが彼の呪詛を受け止め、癒し、受け入れた……これも、あなたお得意の奇跡かしら」
「……いえ。皆で戦ったからこその、皆の奇跡です」
「で、砕けた隕石は欠片を残して流れ星に…………凶星は無事、『幻想入り』しました、と」

 言葉の後を引き取って。
 ふん、と鼻を鳴らすと、天子は胡座を掻いて座り直した。

「ちょっと出来すぎじゃない? 数億年ひがみ続けた石コロが、そんなに易々善玉に翻るかしら」
「そこは彼女の大金星だったわね」

 天子が手を伸ばした練り菓子を紙一重の差で奪い取って、紫は呟いた。
 彼女――竜宮の使い、永江衣玖。
 掴み所のない笑顔を思い浮かべながら、なにやら怒鳴っている天子に淡々と続けてやる。

「あの場にいたのが彼女でなければ、これほど綺麗に終わりはしなかった。――本当に、どこまでも空気を読んでくれること」
「……? どういうことでしょうか」
「『弾幕ごっこ』だったのよ」

 ぱちくり、と。
 目を瞬かせる二人を愉快そうに見やり、紫は扇子で口元を隠した。
 驚きもするだろう――斯く言う自分も、思い至った時には顎が外れるかと思ったのだ。

「知っているでしょう? スペルカードルール、命名決闘法……色んな呼び方をするけど」
「そりゃまあね」
「永江は降り注ぐ星の欠片を弾幕に見立て、それを乗り越えて見せた。そして彼にルールを伝えた上で、報酬を要求したのよ」

 ――ようこそ。幻想郷へ――

「敗者である彼は、要求に従い『幻想郷へ招かれ』なければならなかった。その為には、自分の侵入で幻想郷を破壊してはならない。だから大人しく、小さな欠片となって降りてきた……まったく、恐れ入るわ。考えられる? あの状況で、相手を歓迎しようなんて」
「あんたがそれ言っちゃお終いじゃない。幻想の母」

 呆れ顔で言い放ち、天子はぐびぐび麦茶を飲み干す。
 そのグラスに甲斐甲斐しくおかわりを注ぎながら、早苗が首を傾げた。

「凶星はルールに従ったんですか?」
「幻想郷のルール、だもの。従うわ。……元々、寂しがりなだけの素直な子。何百年かすれば凶星妖怪なんてものに成っているかもしれないわね」
「その時はおでこの借りを返してやるまでよ」

 麦茶のおかわりを半分ほど空け、天子がにやりと歯を覗かせる。額には七日前に隕石を受け止めた火傷がまだ微かに残っていた。
 半眼でそちらを見やり、紫が頭を振った、その時。

「――お。だらけてるねえ、相棒」
「おや。一緒にだらけますか? 相棒」

 いったいどこから湧いて出たのか。
 ひょっこりと縁の下から顔を出した河城にとりに、早苗が驚いた風もなく麦茶のグラスを勧める。
 是非ともだらけよう、相棒。と応えて縁側によじ登り、河童はぐるりと一同を見回した。

「吉報、なのかな。報告することがあって」
「……まさか?」
「ご明察。ようやく、見つかった」

 グラスを置く紫に頷き返すと、にとりはレインコートのポケットを探る。
 そこから取り出された物を見て――三人は、息を呑んだ。

「今朝方、仲間が川底で拾ったんだけど」

 にとりがつまみ出したのは、小さな金属プレート。
 ひどく焼け焦げたそれは塗装が剥げ、鉄とも赤銅とも付かない地金の色味を晒している。
 超魔導合金・ヒヒイロミスリルコンZ。
 非想天則の、メインフレームに使われていた金属だ。

 日差しが強くなってきた。
 押し黙る皆の前にその金属片を置き、にとりは麦茶を一口呷る。

「辺りを探し回ったけど、見つかったのはこれだけだ」
「……非想天則は……」
「……あいつは立派だった。そうだろ、てんこ?」
「そうね」

 呼び方を指摘することもせず、天子は頷く。

 凶星との弾幕勝負を、衣玖と非想天則は制してのけた。
 無尽の弾幕をかいくぐり、必殺の一撃を持って隕石を粉砕した。それこそ、刃の上を歩くような奇跡の連続を渡りきり。
 だが……奇跡の代償は安くはなかった。

 紫はそっとプレートを取り上げ、それをにとりに握らせる。

「非想天則は幻想郷を護り、その身を挺して永江衣玖を地上に帰してくれた。慰めではないけれど――あれほど誇り高い最期を、私は知らない」

 にとりが黙ってプレートを受け取り、何かを言いかけた早苗が言葉を呑み込む。
 太陽が眩しい。
 うるさいくらいの沈黙が辺りを閉ざす。

 一週間が、経っていた。
 凶星の墜落が回避され――
 ――非想天則が、暁に燃え尽きてから。

 星を砕いた直後、衣玖の作り出した電磁誘導路は解除された。機体を押し上げていた力を失い、彼は無数の星屑と共に夜空を滑り落ちていったのである。
 炎を曳き、彼が落着したのは妖怪の山の麓。
 防御結界を解除した紫達が駆けつけた時、そこに非想天則の機影はなかった。

 そこにあったのは、地面に残る燃え尽きたような焦げ跡と。
 その痕跡の中心に、護られるように横たわる永江衣玖だった。
 全身重度の火傷と出血で、妖力すら枯渇した衰弱状態であったというのに……ひどく穏やかな面持ちで気を失っていたのを、今でも強く覚えている。

 かろん、と誰かのグラスで氷が鳴った。
 それを契機にした訳では無かろうが、にとりがよいしょ、とわざとらしく座り直す。

「こないだ、魔術顧問のところへ行ったんだ」
「誰よ」
「森の人形遣い。フレームや装甲板の開発でお世話になった」

 目を瞬かせる天子へ適当に手を振り、にとりは後を続けた。

「魔導合金ってのは、活性状態でなければ通常の金属と性質は変わらないんだそうだ。……燃え尽きちまったと考えるのが妥当だろうって」
「そう、なんですか……」
「――それから、あんたと同じことを言っていたよ」
「私?」

 不意にぐりっ、と首を巡らせてくる河童に、紫は首を傾げて見せる。
 にとりは大きく頷いてから、グラスの麦茶を飲み干して――
 笑った。
 
「衣玖さんが生きて帰ってこれたのは、コックピットが最期まで熱を遮断していたからだろう、って。非想天則が、衣玖さんを護ってくれたんだろうって」
「……!」
「衣玖さん、あんなに傷ついて、空っぽになって……! そこまで自分を愛してくれた人に、人形が報いない訳がないって――あの人形遣いは、そう言ってたんだよっ!」
「で、でもそれって……?」
「人の形をした物には、心が宿る」

 瞳を潤ませ力強く叫ぶにとりと、顔を見合わせる代理神二人を見比べる。
 ぱっと扇子を開き。
 紫は、微笑んだ。

「それは人と、妖怪と。なんら変わるところはありませんわ」
「…………ま、そうかもね」

 ぷぅ、と前髪を吹き上げて。
 グラスを置いた天子が、腕組みしてにやりと口の端を歪ませる。

「気に入らない木偶の坊だったけど。あの超弩級隕石とやり合った気合だけは、この私が認めてやるわ」
「……んんんッ、燃えてきたぞぉー! 非想天則、やっぱりお前は自慢の子供だーっ!」

 がばっ、と。
 にとりは勢いよく立ち上がると、境内に飛び降りて両腕を空に突き上げる。

「あいつの残したデータを無駄にはしない! 相棒、さっそく打ち合わせだ!」
「はい! 今度こそ合体を、合体機能を!」
「ちょ、こっちの仕事はどうすんのよ!?」

 天子の悲鳴は取り合いもせず。
 早苗は猫のように境内へ飛び降りて、にとりと一緒に地面にがりがりと何かを描き始めた。
 活き活きと輝く彼女の笑顔を見ていると、あの二人が護ってくれた物の大きさを改めて思い知る……が、御幣を使うのは如何なものか、巫女よ。
 真昼の日差しの下ではしゃぐ二人と対照的に、ぐったりと縁側に寝そべった天子がぼやく。

「ったく、本気で造るつもり? 二機目のロボ」
「地獄鴉から『今度は絶対自分をパイロットに』って、全面協力の申し入れがあってね。これでエネルギー問題は一挙に解決するぞー」
「と、いうことは……まさかッ!?」
「そう――――二号は、飛ぶぜ! リーダーッ!」
「技術主任ッ!!」
「……好きにすれば」

 夏の暑さを熱さで吹き飛ばす二人に、心底鬱陶しそうに言い捨てて。
 寝そべる天子を横目に苦笑して、紫は地面に描かれた図面を見下ろした。

「見た目は、あの子と随分違うのね」
「まだ発案の段階さ。こうなるかもしれないし、また同じになるかも知れない。どっちとも全然違うデザインになるっていうのが、今は一番有力だ」
「飛行ユニットとの兼ね合いもありますし。合体まで考えるとまだまだ決定稿は出せませんよ」
「手間だこと。……、ねえ。きっと、完成までは時間が掛かるのよね?」
「まあね。新ユニットの開発と調整はあるが、地底の援助も得られるとして…………五十年は見ておきたいな」
「五十年、かあ――しっかり修行しないと、私はおばあちゃんになっちゃいますね」
「諦める気はないんだろう? 相棒」
「訊くまでもないでしょう? 相棒」

 いぇいっ。
 高らかに手を打ち鳴らす二人にうんうん、と頷いて、紫は満足して微笑んだ。

「五十年。……まさか、ねぇ?」
「なに笑ってるのよ」
「なんでもないわ。それより、永江はまだ来ないの?」
「そういや遅いわね。昼過ぎには来るって言ってたのに」

 言われると、天子は寝ころんでいた顔を上げて境内へ目を向けた。神社の鳥居。石段の方からは誰かがやってくる気配もない。
 わざとらしく溜め息をついて境内へ飛び降り、彼女は面倒臭そうに頭を掻く。

「あの電撃ドリル深海魚め。ちょっと迎えに行ってくるわ」
「有頂天ともあろう方が、お優しいこと」
「毎日、儀式と祈祷ばっかりでうんざりなの。散歩にも行きたくなるってもんよ」

 からかう紫に肩をすくめ。
 長い髪を尻尾のように跳ねさせながら、天子はぱたぱた石段を駆け下りて行った。……足取りは、どう控えめに見ても浮かれた調子だったが。
 苦笑混じりにその背を見送ってから、紫は空間に隙間を開いた。
 衣玖が来る前に、我が家の式達の様子でも見てくるとしようか。

(今回は藍もフル稼働させちゃったしね)

 結界敷設の無理がたたって伏せっ放しになっている九尾を思い出し、頭を振る。彼女と同等か、それ以上に奔走した博麗の巫女は三日後には快復していたのだが
 図面越しに白熱した議論を交わす早苗たちを振り返り……ふと思いついて、紫は声をかけた。

「ところで、永江は参加しているの? それの――非想天則二号の開発に」
「半分は応。半分は否」
「……どういうこと?」
「彼女には、とっくに協力をお願いしていますよ」

 即座に答えたにとりに続き、早苗が肩をすくめた。
 首を傾げて隙間を閉じる紫に、彼女は当たり前の口調で言い放つ。

「衣玖さんのいないにとりんラボなんて、考えられません」
「――――そう。安心したわ」
「んでもって。こいつは非想天則二号じゃない」

 鼻息荒く胸を張ったにとりが、ペン代わりにしていたスパナで地面の絵を示した。
 きょとんとしていると、彼女はポケットから取り出した何かを指で弾く。
 陽の光をきらきらと反射して宙を舞う、焦げた金属プレート。

「この欠片も部品に使う。あいつの血も力も受け継ぐけれど――こいつは、あいつと違うから」
「あら…………それじゃ、私にも教えてくださる? この楽園に新たに生まれる、鋼鉄の子供の名前を」
「おうさ。いい名前なんだ、史上最高のロボから名前を貰った」
「いい名前ですよ。誰より強く優しい方から名前を頂きました」
「だから」
「その名は」

 がりがりがりっ
 二人がそれぞれ、図面の傍らに巨大な文字を書き付けていく。息のあったその作業を眺めながら、紫は声を上げて笑った。
 大きく書けばいい。
 空の果て、星の海からでも見えるくらい大きく書けば、届くかも知れない。


「――緋想天則!!」


 彼のところまで。





 三途の河には魚がいない。

 生き物は身体の浮かぬこの河には、だから落ちればまず助からない。
 這い上がれるのは自分のような、死神くらいのものだろうなぁと小野塚小町はぼんやり考える。
 少し前、不注意で河に落ちて以来「うっかり小町」の異名を欲しいままにしている彼女であったが、その名で自分を呼ぶ上司が妙に楽しそうなので是としている。

(平和だねぇ)

 川縁に停めた舟に寝ころび、高い空を眺めて目を細める。夏も本番だ。
 そのまま、うとうとと睡魔の忍び寄るに任せて瞼を閉じる……と。
 河原に、誰かの足音。
 認識した次の瞬間、小町は既に傍らの水竿を掴み、背筋だけで跳び起きていた。

「今日も仕事だ昼寝がウマい! じゃないご飯が旨い! それも違うか、ええと! とにかく四季様ぶたないでホント痛いんですよその棒ッ!?」
「…………ええと?」
「おや」

 最終的に頭を抱えた防御姿勢で泣き叫んでいた小町は、やって来たのが上司の閻魔でないらしい事に気付いて顔を上げる。
 そこに立っていたのは、

「永江の」
「衣玖です」

 知ってるけどね。
 笑う小町の目に映るのは、美しき緋の衣。竜宮の使い、永江衣玖がにっこり微笑んでいた。

「御無事で何よりです。網が無駄になってしまいました」
「ふふん、聞きたいかい。うっかり小町の大脱出ヒガンルトゥール」
「いえ。特に」
「あそ」

 何を考えていたのか抱えて来た地引き網を適当に放り棄てる衣玖に、多少は残念な気持ちで顎を突き出す。
 舟底に胡座を掻いて座り、小町は眉根を寄せた。

「しかし冷たいじゃないか。心配ならもっと早く来てくれても良さそうなもんだ」
「申し訳ありません。ちょっと、幻想郷規模でドタバタしていまして」
「お。異変かい?」
「そのような」

 頷く衣玖に、小町はふーん、とだけ返した。
 異変も近頃は珍しくない。大規模な死者の発生も無かったし、巫女かスキマ辺りが上手く片付けたのだろう。
 後で様子を見に行こうかなと考え……不意に思い当たり。
 小町は首を捻って衣玖を見つめた。

「時に、どうかしたのかい。いつもふわふわ漂ってるお前さんが、歩いてくるなんて」
「クラゲのように生きていけたら、と思いませんか」
「たまに思う。……あいや。ちょっと待ちな」

 心底から頷きつつ、じっと目を細める。
 居心地悪そうに身を捩る衣玖をしばし睨み続け――気付く。
 鉄を噛んだような顔をして、小町は小さく呟いた。

「飛べないのかい」
「……、はい」

 力無く、肩に掛かるだけの羽衣に触れ、衣玖は少しだけ目を伏せた。
 死神の目は生物の魂を覗く。
 この間会った時より、彼女の魂は明らかに衰弱していた。

「異変の折、少し無茶をしまして。妖力を使い果たしてしまいました」
「無茶も無茶だ」

 妖怪にとって、妖力の枯渇は存在の消滅にも繋がる危機である。
 渋い顔で唸る小町に、衣玖は苦笑して自分の右眼を指した。

「実は、目も片方見えなくて。妖力は長い時間をかければ回復するらしいのですが……こちらは、もう」
「ドタバタしてたってのは、そういうことか」

 頷いて。
 小町はだん、と強く舟底を踏みつけた。
 そして跳び上がった大鎌の柄を蹴り上げ、くるりと肩に担ぎ上げると、低い声で呟く。

「首謀者は誰だい。あたいが礼を言ってやる」
「いえあの。私のせいですから。妖力のことも、目が見えなくなったのも」
「べらんめえ、ダチのカタキだ。この大鎌は伊達じゃないってトコを思い知らせてやる」

 実際は伊達そのものの大鎌を振り回し、小町は河原に飛び降りた。
 どこのどいつか知らないが、ここまでする事ぁないだろう――永江の衣玖は変な奴だが悪い奴じゃないんだ。
 当てもなく歩き出そうとする小町の帯を掴み、衣玖が必死に言い募る。

「どうか落ち着いてください。全部、弾幕勝負での結果です。異変の首謀者はきちんと懲らしめられて、大人しくしていますから」
「……そうかい? お前さんがいいってんなら、そりゃあたいの出る幕じゃあないんだが……」

 しばらく衣玖を引き摺り歩いてから、小町はしぶしぶ足を止めた。腰にしがみついた衣玖の身体はぬいぐるみのように、軽い。
 安堵の息をつき胸を撫で下ろす衣玖の帽子に、ぽんと手を載せる。

「なにか、面倒に巻き込まれたらあたいに言いな。そうさね、あの天人娘でもいい」
「大丈夫ですよ。二、三百年もすれば妖力も回復するでしょうし。片眼が見えないので、弾幕勝負は厳しいかもしれませんがね」
「暢気なもんだ」

 本当に、気にもしていないという風に笑う衣玖に毒気を抜かれて、小町は大鎌を放りだした。
 そして癖の強い赤毛を乱暴に掻き、肩をすくめて話題を変えようとする。

「そういえばお前さん、例の話はどうなってるんだい?」
「例の?」
「あいさ。この前来たとき、ロボに恋したと言ってたじゃあないか」

 こちらでは忘れるわけがない。なにせそのせいで、今やうっかり小町呼ばわりなのだ。
 存分に聞かせていただこうじゃないかとほくそ笑んでいると、衣玖はああ、と頷いて。
 苦笑する。

「――失恋、しちゃいました」
「――――」

 ……この、うっかり小町。

 頭の中で、迂闊な自分を力一杯ぶん殴る。
 妖力や視力を失ったというのに、辛そうでないのは、道理だ。
 それより遥かに辛いことがあったのだから。
 単純に想い実らず、という事ではあるまい。もっと手酷い、残酷な形で恋敗れてしまったのだろう。
 彼女の衰弱がその証左――精神的な生き物である妖怪は、その心の在り様が肉体に大きく影響を及ぼす。

「ごめんなさい。相談まで持ち掛けておいて」
「う、その……あの」
「……おや、いけない。じきにお昼ですね」

 言い淀む小町からふと視線を外し、衣玖が空を見上げた。
 太陽は南天高く昇り、燦々と地上に光を投げ落としている。
 ぺこりと腰を折ると、衣玖は残念そうに眉を下げた。

「すみません、これから山の神社まで行かないといけないのです。総領娘様が、代理神様は暇だから遊びに来いと望まれまして」
「……だ、代理神様? あの天人娘がかい?」
「色々あったのですよ、おでこに火傷したり。……それでは小町さん、また近く」

 様々な謎を残して微笑むと、衣玖は踵を返しててくてくと歩いて行く。
 力をなくした羽衣が、ただ揺れるだけのその背中に。
 気付けば、小町は声を上げていた。

「永江の!」

 足を止め、竜宮の使いが振り返る。
 そのとぼけた顔に、何か言ってやりたくて――

(駄目だ)

 ――何も言ってやれなくて。
 不思議そうに首を捻る彼女へしてやれた事は、結局、いつも通りに笑ってやる事だけだった。

「今日はずっと神社に?」
「そのつもりですが」
「夜中に、ちょいと抜け出せないかね」

 目を瞬かせる衣玖に、酌の手付きを見せ。

「仕事ハネたら、付き合いなよ。三途河脱出譚を聞かせてやらにゃ今日のあたいはおさまらん」

 にぃ、と笑う小町を。
 衣玖はしばし呆然とした様子で見つめていた。それから、何かを隠すようにぱっと顔を伏せ――
 もう一度こちらを見た時。

「――――はい。是非とも」

 衣玖は綺麗な笑顔を浮かべていた。
 正視に耐えない程に、綺麗な。

 ありがとうございます、と言い残し歩いていく彼女を見送って、小町は苦い思いで口を歪めた。
 自分に出来るのは、せめて自棄酒に付き合ってやる事くらい。
 その思惑も、衣玖は汲んでくれたのだろう。空気を読む程度の能力とは言った物だ。

(……あの子を、救ってやれる奴がいるとすれば)

 それはきっと彼女が恋した、あいつだけ。
 そのあいつに、もう想いが届かないから――彼女は、あれほど衰弱してしまったのだろうけど。
 まったく、ままならん。
 鼻を鳴らし、ふて腐れて寝転がろうとした時。
 視界の端に何かがちらついて、小町は慌てて踏みとどまった。

「っと……なんだ。お客さんかい?」

 慌てて大鎌を掴み、小町は大股にそちらへ歩いていく。
 死者の魂。
 彼らを彼岸へ渡すのが、船頭死神である自分の仕事だ。

 丁度良い、仕事でもしていれば気分も紛れる。
 大鎌を肩に担いだ死神は、その小さな小さな魂に向かって、空元気ながらに笑いかけた。

「いらっしゃい。あたいは三途の渡し守、小野塚小町ってぇモンだ。そら、舟に乗んな。今ならなんと一割引で、彼岸帰航へご招待だ――」


 ――うん? お前さん、少し前に死んだようだねえ。七日間もどこをふらついてた?

 ――現世に未練を残してきたか、未熟者め。ま、自力で思い直したなら大したもんだ。誰もが出来ることじゃない。

 ――しかし、変な魂だな。人でも妖怪でもないようだ、あたいもちょいと見たことがない。

 ――魂の形が定まらないのは大抵、子供の霊さ。しかもその小ささと来た。きっと、生まれたばかりで死んじまったんだな。

 ――参ったねぇ。三途の渡し賃は生前の徳に左右される。子供の霊が彼岸へ渡れないのは、渡し賃に充分な徳を積む前に死んでしまったからなのさ。

 ――せっかく働こうてェんだ。どうにか渡してやりたいが、さて……ん?

 ――なんだい、お前さん渡し賃を持っているのか。やや。それも、べらぼうな額じゃないか!

 ――イヤハヤ驚いた。この大量の銭はね、お前さんがこれだけ大勢の人に想われてたってェ証なんだ。どういう訳か知らないが、ちょっと見られる額じゃあない。

 ――これなら話は早い。さあ乗った乗った。星が流れるより早く閻魔様の所へ送ってやるよ。

 ――ああ。閻魔様は、お前さんを地獄へ落とすか冥界に送るかを決める偉ーい御方さ。ナリは小っちゃいが、お前さんよりは大きい。

 ――怖がる事ぁない、チョイト説教臭いが立派な方だ。これだけの銭を持ってきたお前さんを、地獄へ落としやしないよ。

 ――親より早く死んじまった罪は重いが、なに。それ以上の徳を積んできたようだ。まず冥界で転生を待つことになるさ。それも、きっと順番は早い。

 ――そうさね…………五十年も待てば、きっと転生が認められるな。あたいの勘は当たるんだ、なにせあの人の裁きをずっと見てる。

 ――ん? 何だい、まだ未練が断ち切れていないのか! この甘ったれめ。

 ――泣くなってば。……ここから先は彼岸の領分。現世に繋がる最後の境界だ。

 ――なにか抱えてきちまったなら、此処で吐き出しておくんだね。想いが繋がっているのなら届くかも知れん。途切れていたなら、そこまでさ。

 ――迷いは無い、か。甘ったれなのか根性があるのか分からん奴だな。酒の肴に、いい話題が見つかった。

 ――こっちの話だよ。そら。その根性に敬意を表して、あたいは耳は塞いでおこう。思いっきり伝えてやりな。

 ――お前さんの想いを、さ。









   キャーイクサーン









「――?」

 風が吹く。

 鴉天狗の住む妖怪の山にはいつも風が吹いている。もっとも、それはこの山に限ったことではないかも知れないが。
 それでも衣玖が山道の半ばで立ち止まったのは。
 聞こえた気がしたから。

「………………非想天則、さん?」

 馬鹿げたことだが。
 あり得ないことだが。

 彼の声が聞こえた。

 電流へ応える『声』でなく。
 聞いたこともない彼の、声が。
 風は下生えの草を掻き鳴らし、頭上の枝葉を揺らして通り過ぎていく。
 後にはただ自然のざわめきと、その中に立ち尽くす衣玖が残される。
 呆然と。
 ただ呆然と、半分しか見えない目で世界を見つめて。

(そうか)

 唐突に理解した。
 ずっと己に問い続けてきた疑問。
 どうして自分は、彼に恋をしたのか――


 彼に、恋をしたからだ。


 ずっと目の前にあったのだろうその答えに、思わず笑みがこぼれる。
 永く生きた竜宮の使いではなく。
 ただの純朴な、少女の笑み。

(小町さん…………やっぱり、)

 この永江衣玖。
 色の道には、疎いままです。

(私は非想天則さんに、恋をした)

 理屈だけでは、想いは安い。
 本能だけでは、想いは軽い。
 理屈と本能が均等なら、想いは何処へも根を下ろさない。

 成長する彼の強さに惹かれたのは嘘ではない。
 だがそれは自分が――恋の機微など知らずに生きてきた永江衣玖が、自分の感情に納得するため見つけ出した方便にすぎなかったのだ。

(だって――私は、非想天則さんに恋をしたから)

 恋は焦がれるもの
 恋は落ちるもの。
 抗える訳がない――恋に気付いた時、心は既に恋に捕らわれている。

 まるで弾幕勝負。

 ルナティック、狂気の沙汰。
 馬鹿な真似だと知って尚、人は飛び込んで行く。恋に溺れ、弾幕に翻弄される。
 時に想いは揺らぐだろう。
 しかし恋は、弾幕は人の想いを裏切らない。

 理屈で一息入れる程度の余地は、いつでも不思議と、残っているものだ。

(だから、大丈夫)

 そうだとも。
 いつまでも無様は晒していられない。
 彼に恋した永江衣玖は、きっと。恐らく。


 彼が恋した、永江衣玖なのだから。


「…………なーんちゃって。なんちゃって、ね?」

 言っちゃった。
 言っちゃいました、すごい独り言来ましたよちょっと。
 彼が恋し、こ――うわー。うわーうわー。
 真っ赤な顔で一人地団駄を踏み、衣玖はぱたぱたと誰もいない山道に視線を配った。
 だが。
 溢した言葉に、確信があった。
 想いはきっと繋がっている。
 こんなにも胸が暖かく、幸せな気持ちなのだから。

 真っ赤に火照った顔を、再び風が撫でていく。
 もう、その中に声が聞こえはしなかったが、衣玖の心は高揚していた。

「ありがとう」 

 言葉は、自然に口をついた。
 いつまでも沈んでいる甘ったれな自分を、彼が心配してくれたのかも知れない。
 なら、自分も伝えなくてはいけない。
 もう大丈夫。
 あなたの想いが、一緒だから。

「あなたが大好きです――――非想天則さん」

 微笑めば、風は歓声を上げて、吹き抜ける。
 何処かへと言葉を運び去る風を見送る衣玖の背に、誰かの声が投げかけられた。
 振り向けば、山道の上に天子の姿。迎えに来てくれたらしい。
 遠くから自分に感謝しろと要求してくる天人に苦笑を溢し、衣玖はそっと目を伏せた。

(強くなろう)

 この想いに恥じないくらい強く、強く。

 まずは総領娘様やリーダーたちのお手伝いが出来るよう力を回復させなければ。
 竹林の薬師は三百年かかると診断したが、なにするものぞ。
 妖怪の身体は、心に左右されるもの。
 今の自分ならば、そう…………五十年もあれば、元の妖力を取り戻せるに違いなかった。

(二号機ロボとも、お話出来るかも知れませんね)

 もしそうなれば、『話しかけ』るつもりだ。
 この幻想郷を護るため戦った――――愛しい、スーパーロボットの物語を。

「忙しくなりますね」

 嬉しさを隠しきれずに呟いて。
 衣玖はゆっくり、だが力強く山道を登り始めた。
 行く先で待つ天子に応えて大きく腕を振り返した時。


 羽衣が、ほんのちょっぴり。
 微笑むように跳ね上がった。
1.人もすなる「いくてん」と言ふものを、私もしてみむとてするなり
2.先達の容赦ない傑作群を見て完全にビビる
3.『「いくてん」の「てん」はッ……天子だけの「てん」じゃないんだぜ!!』

どの時点での自分を殴ればいいのか分りません。二度目の二度手間です。
「オリ隕石」タグをつけるかどうか丸一日悩みました。

長いお話、お付き合いいただきありがとうございます!
「いくてん」……みんなのおっぱい・衣玖さんと、幻想郷最大バスト・非想天則のお話です(萃香と雲山はレギュレーション違反)。
ほとんどタグ詐欺みたいな話ですが、土下座ポイントはとどまるところを知らず……

・衣玖さんを始め、能力の拡大解釈が後を絶たず。殊に厄神様。あんた何者だ。
・緋or非のスキルカードは伝わらない方もいるかも。誰得フィーバー。
・あややのセリフは悪ノリです。大好きなんですあの漫画。
・長い。ほんとすみません……

そんな全方位無差別土下座でお送りしました。
ほんの少しでも楽しんでいただければ泣いて喜びます。草葉の陰で。

読了、本当にありがとうございました!
※12/22追記
数多くのコメントに評価、ありがとうございます。
お褒めの言葉に狂喜して、鋭い指摘に冷や汗が止まらず、叫んで頂いた時は思わずガッツポーズでした。
うちのデカブツは本当に幸せ者です! ありがとうございます!
二度手間
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コメント



0.7410簡易評価
4.100玖爾削除
超ド級ストレートしかもルナティック。
え、もうこれ叫ぶしかないよね? ね?
ひそおてんそくうううううううううううううっ!
・・・ふう。
いやいや。タグで気づかなかったのはむしろ幸でした。
てか、てっきり「依玖天子」だと思っていたもので、珍カップルとは「早苗 にとり」のことかと。
殴るとすれば「幻想郷最大バスト」のあたりだと見ますが、騙してくれてありがとうというか、むしろ土下座させてくださいというかああもう自分の言いたいことが分からなくなってきたので以上。
十分に傑作の資格を持った大作であると感じました。
6.無評価名前が無い程度の能力削除
最高だよ!タグに引っ掛けられたと思ったらなんという王道超大作。
ありがとうございました!
7.100名前が無い程度の能力削除
点数入れ忘れました
8.80名前が無い程度の能力削除
キャーヒソーテンソーク!
9.100奇声を発する程度の能力削除
最高でした!!!
10.100名前が無い程度の能力削除
人の想いが力になる、まさにスーパーロボットの鏡のようなお話でした。
最後のキャーイクサーンは反則ですよ……
11.100名前が無い程度の能力削除
胸熱
12.100アン・シャーリー削除
涙が止まらない
私も叫びたい
13.100這い寄る妖怪削除
ああ、タグはそういうw

しかしいい。『眼前に聳える雄姿を、他の言葉で以て表す事は出来なかった。』
この一文がとてもいい。
16.100コチドリ削除
衣玖さん&羽衣さんがすっげぇ可愛いかったです。以上!


ってな訳にはいかないよね、これだけ作者様に男の浪漫を乱れ撃ちされちゃ。

幻想郷の全ての願い
乙女が伝える祈りのパルス
愛と電磁のカタパルト
鋼の巨人が翔け登る
轟く叫びは星をも穿つ
キャーイクサンの想いと共に

俺の魂の奥底に沈めたはずの正しき厨二マインドが、非想天則と共に眩き光となって天に打ち出されたぜ。
ありがとう衣玖さん、ありがとう作者様、ありがとうスーパーロボット非想天則!!
18.100名前が無い程度の能力削除
俺が読んだ東方SSの中で、本年度MVP作になりました。
19.100名前が無い程度の能力削除
もう本当に最高でした。キャーイクサーンで泣かされるとは思わなかった。
ひそうてんそくうううぅっ!!!!
20.100名前が無い程度の能力削除
ギャグかと思いきやこんなに良い話で終わるとは…
まさに脱帽

でも、でいだらぼっちで全部持っていかれた
21.90名前が無い程度の能力削除
燃えた
22.100モブ削除
王道も王道!久しぶりに胸が熱くなりました!
25.100名前が無い程度の能力削除
非想天則非想天則
26.100名前が無い程度の能力削除
衣玖さんの右目の回復をお祈りしておきます。

永琳が「ひそうてんそくぅぅぅぅ!!」って叫んでるところ、最高だった。
27.100名前が無い程度の能力削除
これはアツイ。熱すぎる。
でも、恋の話なんだ!
29.100名前が無い程度の能力削除
モノが言葉を持つことで、ヒトとの間に強い繋がりを得られるのなら、それはとても素敵な話に違いない
31.100名前が無い程度の能力削除
なんという衣玖天。
超胸熱。
32.100名前が無い程度の能力削除
なんだかんだ言ってあやもみが成立してるんですねwww
34.100桜田ぴよこ削除
場面場面で非想天則BGM流しながらじっくり読みました。SSで泣きそうになったのは初めてですよこんちくしょう!
長編傑作おつかれさまでした。非想天則×衣玖さんが僕らの緋想天!
35.100名前が無い程度の能力削除
最後まで読んだ俺、マジ涙目
非想天則とかタグ詐欺かと思いつつ「どうせギャグメインで最後ちょいシリアスで締めるんだろ?」とかひねたこと考えてゴメンなさい

これはまごうことなきスーパーロボット
キャーヒソーテンソーク!
38.100名前が無い程度の能力削除
なんだこれは…熱い、熱すぎる
序盤てっきりギャグ物かと思ってたら、終盤以降では涙が溢れて止まらなかった
名作をありがとうございました
39.100名前が無い程度の能力削除
やられた。。。
40.100名前が無い程度の能力削除
こんな「いくてん」があったなんて……。
作者さんの才能には嫉妬せざるをえません。
次回作を心待ちにしています。
41.100すねいく削除
キャーイクサンカッコイイー
42.100名前が無い程度の能力削除
キャーイクサーンで笑ってたのに最後は泣かされてしまった

素晴らしい物語をありがとうございます。
43.100名前が無い程度の能力削除
何も言うことはない
47.100名前が無い程度の能力削除
幻想郷らしさとスーパーロボットへの憧れを合わせつつ、
あたかも、アクシズ落下の阻止のような懐かしさも秘めている……!
つまり、まさしく、これは、すーーーーごーーーーいーーーーぞーーーー!!!!!!

と、某味皇様みたいな反応をしたくなる位には衝撃でした。
一歩間違えれば、ここでやるようなネタじゃない要素を、
見事にまとめて一つのssに落とし込んでいました。
個人的には今年一番の快作です。
48.100名前が無い程度の能力削除
笑って、泣いて熱くて泣いて、涙が止まらなくって、最後で良かったと思えた。
良かった。
最高に良かった。
大好きです。
50.100うー削除
皆が名前を叫ぶ所で涙が止まらなくなりました ガチでないた・・・
メカ系はあまり好きじゃなく、ガンダ●とかも見てないし、、、でもすごく熱い展開でした
これはいくさんが恋をしちゃうのも仕方ないですね 面白かったです!
51.100名前が無い程度の能力削除
なんというギガドリルブレ衣玖!!

終盤の闘いでキングゲイナーのラストを想起しました、聞こえるか!この俺の声が!
スーパーロボットを出してここまで幻想郷を書けるなんて、すごいとしか言えない。
今度はBGMをかけながら読んでみよう!
53.100名前が無い程度の能力削除
う…うおおおおおおおお!!!非想ォ…天則ウウウウウウウウウ!!!!
熱かった…!超弩級変則カップリングですね!この量でもあっという間に読みきってしまいました。凄まじく楽しませて頂きました!それより俺はこのどうしようもなく迸る何かをどうすれば良いんだ!?
55.100八雲連狐削除
これは・・・なんと熱い・・・!
これがいくてんなのか・・・!
文句なし、100点持って行っちゃって下さい!
57.100名前が無い程度の能力削除
非想天則に嫉妬しちゃうよ。
粋すぎる。
60.100電気羊削除
これちょー面白い 何が面白いっ若干容量不足だったなって思うけど(もう100kbぐらいあってもよかったぐらい)
必要な要素は全部入ってたし衣玖さん可愛いし衣玖さん可愛いしあと衣玖さんがすげー可愛いしあと衣玖さんが最高だし
天子がイヤミなく天子やってるのも珍しいし格好も良いし

にとりが三日で仕上げたときは「精神と時の部屋でも発動したのかよ」って携帯持ちながら吹き出してたけど
うーん、これが今年一番楽しめた創想話の作品かも

ただあえて難点を言うとこの子はこういう子です! っていう立ち位置の示唆に頼りきりで(もちろんそれをやってしまうと物語のテンポが喪われてしまうンだけど)
いい意味でキャラ小説だしエンタメをやってはいるものの、提示されたこの子はロボが好きです愛してます! っていう設定のにとりであったり早苗であったりに感情移入しきれなかったのが残念。
そこの描写の殆どが準主人公である天子へと割かれていたから仕方ないとは思うんだけどね!

しかしヒソウテンソクは衣玖さんを対等なパートナーとして好きだったんじゃなくて、慕っていたお姉さんなのかもと思った。
最期に守ったのも、愛情とはまた違う感情が芽生えかけていたんじゃないかーって思わせるのもニクい演出だったかな。
年上のお姉さん相手に格好つけたい生まれたてのロボットとかもう、サイコーのシチュエーションですね本当に。

次回作にはもっと骨太のエンタメが読めるんじゃないかと期待してます。
がんばってください。

いま凄く酔っ払いなので、もしかするとこのコメントは消滅するかもしれないです。
61.100名前が無い程度の能力削除
昔とあるゲームでレールガン特攻したヒーローの話を思い出しました。
痛快なお話でした。
超機神 非想天則 最ッ高ッッ!
63.100名前が無い程度の能力削除
キャーヒソーテンソクー
キャーイクサーン
こんなにも胸が熱くなるなんて!
嗚呼僕らの非想天則!
64.100名前が無い程度の能力削除
最初はただのギャグかと思ってた。

終わってみたら、どんなに泣ける!と評判のSSを読んでも
泣かなかった私がうるっとしていた。

50年後、転生する幸福者な木偶の坊を拝めるように、
私も強くなる
65.100名前が無い程度の能力削除
この作品はこれから「非想天則タグ」の代表作となるでしょう。
東方でロボットものといったら、コレだと、語り継がれることでしょう。
理想的な、スーパーロボットものでした。
66.100名前が無い程度の能力削除
五十年って言うのは二号機に転生するかもってことか!

いや~久しぶりに熱い話だった
67.100可南削除
胸の奥が情熱で燃え上がり、灰になってもまた感動で燃え上がる。
私はこの作品が好きになり、ずっと好きでいるでしょう。
とても良い作品でした。ありがとうございました。
68.100名前が無い程度の能力削除
よいいくてんでした! 最初珍カップルタグに首をひねったのは内緒
描写の丁寧さや張り巡らされた伏線の巧妙さ、そして熱く燃えるストーリー。
語るべきところはたくさんありますが一言で言うとやはりこれですね
キャーイクサーン
69.100SAS削除
こういう話には弱いのです
70.無評価名前が無い程度の能力削除
なんという超幻想級変則カップリング。
ああもう、熱くなりすぎて落ち着いて言葉にできん。
今年の終わりにふさわしい、今年最高の作品を見させてもらった!
ともかく叫ばせてもらおう、

非ィ想ゥゥゥ天則ゥゥゥゥゥ!!!キャーイクサーン!!!!
71.100名前が無い程度の能力削除
しまった熱くなるばかり点数を忘れたorz
72.100名前が無い程度の能力削除
なんだこれ…ギャグかと思ったら震えが止まらない
76.100名前が無い程度の能力削除
非想天則さんはスーパーロボット大戦に出張るべき。傑作でした。
79.100名前が無い程度の能力削除
日常パートのほのぼのさやギャグが怒涛の熱いシリアス展開を引き立ててると思うんですよね
みんなかっこいいなぁ ひそうてんそくうううううううううう
80.100名前が無い程度の能力削除
ウォォォォオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああ!!!!!!!!ただただ叫ばせてくれぇええええええええ1!!!!ひっそそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうううううううううううううううううううううううううううてんっそkっくうううううううううううううううううううう!!!!!!!!
83.90名前が無い程度の能力削除
もう今年も終わろうかというときにこんなに素敵でこんなにも熱い話を読めたことは凄く幸せでした。感想をいい意味で言いがたいのですが、読めてよかったです。ありがとう

ひそおおおおおおおおおおてんっそくううううううう!!
84.100名前が無い程度の能力削除
ひそうてんそくうううう!!
男の子だったのかあああ
85.100名前が無い程度の能力削除
普通に…、普通にギャグだと思って軽い気持ちで読み始めたのに…っ!
蓋を開けてみれば何ですかこの感動大作は!
王道シリアス恋愛ロボット物って浪漫ですね浪漫
もう何言えばいいのかわからないので100点だけ置いていきます。
87.100名前が無い程度の能力削除
ありがとう
本当にありがとう
91.100名前が無い程度の能力削除
なんだこれ
邪道かと思ったら、超王道じゃないか
92.100名前が無い程度の能力削除
これはいいものだ……。
この分量を一気に読まされてしまいました。素晴らしい力量。
雛が何事もなかったかのように会話に入ってきたあたりは何故か微笑ましくなりました。
93.100ちとせ削除
久しぶりにグレートな物語でした
キャーイクサーン
94.100名前が無い程度の能力削除
今年最後にこの物語に出会えた幸運に感謝したい。
めちゃくちゃ感動しました。
95.無評価名前が無い程度の能力削除
161KBという容量を全く感じさせることなく読み切らせていただきましたこれはもう間違いなく恋の話でした。
ありがとうございます。
96.100名前が無い程度の能力削除
点忘れ
97.100名前が無い程度の能力削除
燃えた!
皆が格好良すぎる物語でした。
98.100名前が無い程度の能力削除
大変美味しく頂きました。ごちそうさま。
99.100名前が無い程度の能力削除
ちょっと待て100点じゃ足らないんだけど。
100.100名前が無い程度の能力削除
展開が熱すぎる。大好きです。
102.100名前が無い程度の能力削除
コメントするのが苦手なので点数だけ。
素晴らしい作品をありがとうございました。
104.100名前が無い程度の能力削除
初めはギャグと思っていたのに
段々涙腺が緩んでしまう。
感情を揺さぶられて
ところどころ読むのを中断しないといけないほどでした
いい作品をありがとうございます
105.100名前が無い程度の能力削除
「非想天則、男の子だろ!」
泣いた。超泣いた。
間違いなく今年の創想話作品で三本の指に入る作品。
うあああああ、スーパーロボットってなぁこーじゃねぇと!!!!!
106.100名前が無い程度の能力削除
これは素晴らしくもまた熱い恋物語
107.100名前が無い程度の能力削除
グゥゥゥレイトォォォォォォッ!!!
もうそれしか言えない。
こんなにも鳥肌が立つSSは久しぶりに読みました!
非想天則……お前は世界、いや宇宙一かっこいい機械だぜ!

良いお話をありがとう!
108.100電動ドリル削除
何この傑作、冬で寒いはずなのに熱い。
天子も衣玖さんもかっこいい、そして非想天則もカッコイイ!!!
良い作品を読ましてくれて、ありがとう御座いました。
109.100名前が無い程度の能力削除
何度鳥肌を立てたことか。何度この熱さにやられたことか。
ただただ、コメントさえできないほどに素晴らしい作品でした。
110.100名前が無い程度の能力削除
燃えた、久方ぶりに王道スパロボ物で燃えた。
111.100名前が無い程度の能力削除
サンライZUN テレビ東方
113.100名前が無い程度の能力削除
通勤の電車で読み始めたのがまずかった。仕事中に続きが気になって仕方ありませんでした。

熱いです、イクさんが天則を起動させるシーンが最高に熱いです!

電車の中で涙目でした。

日頃は簡易得点でしたが、100点をいれさせて下さい!
115.90名前が無い程度の能力削除
王道を行く素晴らしい作品でした。
ただ天子が序盤から他人を想って行動できるいい子だったので特に成長や変化といったものが見当たらなかったこと、
衣玖さんも二人の成長を見守りたいと言っていた割に中盤からヒソウテンソクに掛かりきりで最後まで天子スルーだったのが少し気になりました。
116.100名前が無い程度の能力削除
スーパーロボットの定義とは何か?
大きいこと。違う。
硬いこと。違う。
強いこと。違う。
それは
人の想いに応えることだッッ!!!!!!
ひそォーーーーてェんそくゥーーーーーーー!!!!!!!!!
117.100名前が無い程度の能力削除
なぜ俺はこんな作品を三日も見落としていたのか
素晴らしかったです
118.100名前が無い程度の能力削除
泣いたぜ…
119.100名前が無い程度の能力削除
非想天則、あんた真の漢だぜ…!

思わず涙腺緩みました。
今年最後の傑作に出逢った気分です。
120.50名前が無い程度の能力削除
話は面白いんだけど星が落ちてくる展開が無茶過ぎるw
幻想卿の住人だったらいくらでも対処できるだろうに、その対処させない
ための縛りをつけまくってるせいで「この話を書きたいから制約付けました」
ってのが見て取れて読んでてちょっと冷めた。
122.100名前が無い程度の能力削除
ワアアアァァァァ!非想天則ー!!!
123.100名前が無い程度の能力削除
純度100パーセントの王道エンターテイメントでした。まるで公開から20年たっても色あせずゴールデンで再放送されているハリウッド映画を見たような感覚です。
シリアスの色が段々強くなっていったり、途中でロボット物だと示されたおかげで、最後まで白けることなく読めました。
ここまで面白いエンターテイメントは、商業の文章・映像含めてそうそう無いと思います。素晴らしい作品でした。
124.100名前が無い程度の能力削除
久々に創想話に来ていきなり凄いものを読ませていただきました!
これはもう全力で叫ぶしかない!
ひそーてんそくぅぅぅぅぅ!!!
125.100名前が無い程度の能力削除
これはいい話だ……!

ところで飛び出してった美鈴はどこでなにしてたんだww
126.100名前が無い程度の能力削除
キャーイクサーン!

最初はギャグのようだったのに、とんとん拍子で事態が悪化するけれど、最後に大逆転。
この流れ、大好きです。

逆転の説得力も十分だったと思いましたし、解決策も東方らしくて爽やかに楽しく読めました。
しれっとおぜうも可愛くて、満足です。

とにかく、お疲れ様でした。
128.100名前が無い程度の能力削除
お前らみんな大好きだ!
132.70名前が無い程度の能力削除
おもしろかったです
タグ詐欺につきマイナス10点しました
133.100名前が無い程度の能力削除
これがいくてんかぁ…
まあとにかく、ありがとう非想天則!さようなら非想天則!!
かっこよかったぜ!!!
135.100名前が無い程度の能力削除
大きな熱を感じた。なんという王道。

もう少しシリアスへの展開に間を持たせて溜めがあるとよかったですが、それを補って余りあるほどの熱さ。
139.100SPII削除
なにこの……なに?
ひとつ言えることはそう
キャーイクサーン

素晴らしかったです
142.100名前が無い程度の能力削除
長く利用させてもらっていますが初めて得点と感想をいれてしまいました。
本年度の一番熱かったやつだとおもいます。
途中からすかさずSKILLとかいろいろとガンガンにならしながら涙腺が震えておりました。ありがとうございます。

キャーーーーーイクサーーーーーーン!!!!!!
キャーーーーーーーー!ひそおおおおおおおおおおおおおおてんそくぅぅぅぅぅっぅぅぅう!!!
143.100名前が無い程度の能力削除
もうぽろぽろ泣きました。可笑しくて笑いました。総じて衣玖と非想天則の物語に、心が熱くなりました。
突如湧いて出たような隕石の存在が気になりましたが(前半、守屋の二柱による匂わせ方とは別に、物語そのものへの絡め方。何か元ねたがあるならば、単純に私の知識不足かも)、
そんな隕石さえ単純な悪役には落とさず、弾幕勝負で快く幻想郷に迎え入れる。作者様の綴る温かなこの世界に、心底惚れ込みました。
素敵な物語を有難う御座います。100点じゃ足りない。


一点、少しだけ気になった箇所を。

> 三日前、河童が比那名居の家まで運ばせてくれたの。
「運んでくれたの」或いは「運ばせたの」かな。
144.無評価名前が無い程度の能力削除
なんだこの熱量ッ! すべてのツボを押さえ、なお上を往くか!!
今年最高のいくてんをありがとう!
いま、俺の脳裏であのBGMが無限リピートだッッッ!!!
145.100名前が無い程度の能力削除
想創話コメント史上初めて点数を入れ忘れた…ッ!
147.100名前が無い程度の能力削除
泣けた。
いわゆる泣きポイントではなく、クライマックスのカタルシスというか熱さで泣ける話は久しぶりでした。
素晴らしい作品をありがとうございました!
149.100名前が無い程度の能力削除
アツすぎる!ハートも目頭も両方がッ!

で、数百年後、緋想天則をめぐる衣玖さんと寂しがり屋の凶星の化身の幼女の恋の鞘当てが始まるんですね。
150.100名前が無い程度の能力削除
ああ… 恋だな…
胸が熱くなりました。
151.100名前が無い程度の能力削除
何で100点までしか無いんだ・・・!
152.100名前が無い程度の能力削除
足りん...100ではこの作品には足りん...ッ!
153.100Rスキー削除
熱い!
熱いです!!

ひそーてんそくー!
155.100名前が無い程度の能力削除
これはやばい
心ふるえるとはこういうことか!
156.100名前が無い程度の能力削除
キャーイクサーン

大ピンチに子供の声援で奇跡を起こすとか王道過ぎて涙がちょちょ切れました。
157.100名前が無い程度の能力削除
ひそぉぉぉぉてんそくぅぅぅぅぅッッ!!!!
160.100名前が無い程度の能力削除
熱い!熱い!
50年後に何が起こるかみたいです!
162.100名前が無い程度の能力削除
50年後に何が起こるか見てみたいけど
このままきれいにおわった方がかっこいい
けど50年後も見て(ry
163.100名前が無い程度の能力削除
夢中で読んでしまいました。素晴らしい作品をありがとう。
167.100名前が無い程度の能力削除
50年後に続き書いてくれ・・・!
168.無評価名前が無い程度の能力削除
なにこれギャグと思って読んでたのにめっちゃガチだったでござる
170.100名前が無い程度の能力削除
映画化決定(←俺の脳内で
171.100名前が無い程度の能力削除
天子ちゃん出撃からの流れは、外の雪も熔けて沸騰するんじゃないかってぐらい浪漫回路全開になりました。
今年のラストそそわがこの作品で本当に良かったと心から思いつつ、来年の作品楽しみにしています。
173.100名前が無い程度の能力削除
キャーイクサーン
ギャグだと思って見たら、王道だったwいい意味で裏切られましたw
174.100名前が無い程度の能力削除
なにこれかっこいい
文句なしの100点でした
177.100名前が無い程度の能力削除
文句なしの長編傑作
178.100名前が無い程度の能力削除
ごめんガチ泣きした
180.100名前が無い程度の能力削除
うおおおおおおおお非想天則ぅぅぅぅぅぅ
182.100名前が無い程度の能力削除
kanndousita
183.100名前が無い程度の能力削除
笑えて‥燃えて‥泣けて‥心底打ち震えちまったよw
作者様ありがとう!
184.100シルバー削除
これは、頭痛のせいだよね…なんか涙出てきたんだけど…文句なしに面白かった!スーパーロボットの名に相応しい作品でした!!
186.100名前が無い程度の能力削除
今まで創想話で数々のSSを読んで、腹抱えて笑って、ボロボロ泣いて来ました。中にはやっぱり自分の中にある幻想郷のイメージを広げてくれる作品があって、これも自分にとってそのような作品になったと思います。
最初の辺りのやり取りでは「ギャグかな?」と思っていました。
でも早苗さんとにとりの非想天則への熱意、紫の幻想郷への愛、そして非想天則が幻想郷の皆の思いに応えて振り絞った勇気とか、そういったものを読み進めていくたびに何か熱いものが胸の中にこみ上げて来ました。
目に映るのはただの文章なのに、手のひらには汗が滲み心の中では叫んでいました。長々と申し訳ありませんが結局何が言いたかったのかと言うと、
「ひぃそぉおうぅてんそぉくうぅううーーーーーーっっ!!」これに尽きます。
189.100名前が無い程度の能力削除
なんだそりゃ!と思うブッ飛んだ展開に私も三途に沈みそうになりました。
しかしいいですね。久しぶりに熱い涙をこぼしてしまいました。
いい作品をありがとうございました。
190.100図書屋he-suke削除
怪作にして傑作…!
ご都合主義な展開に見せかけてよく読むとちゃんと筋が通っているのも良かったです。
何よりかつてこんなにも熱いいくさんがいただろうかと。

劇場版Coming soon,,,
…え、やらないんですか?
194.100名前が無い程度の能力削除
まさかキャーイクサーンで泣くことになろうとは。
195.100名前が無い程度の能力削除
ベルスタアは熱い漫画。
> あややのセリフ
196.100名前が無い程度の能力削除
序盤でどたばたギャグかと思いきや、まさかこんなに熱い作品になろうとはッ!
最初から最後まで、本当に面白かったです。
素敵な時間を、ありがとうございました!
198.100名前が無い程度の能力削除
キャーイクサーン!!!
最高に面白かった。感謝、感謝です。
199.100名前が無い程度の能力削除
すごく面白かった!
笑いあり涙ありのいい話でした!!
200.100名前が無い程度の能力削除
最高でした、誰か絵が描ける人に漫画にしてほしいぐらいです
201.100名前が無い程度の能力削除
衣玖さんの愛情が心に沁みました。
この読後感。良い作品をありがとうございます。
205.100名前が無い程度の能力削除
正直泣いた…
劇場版のアニメ映画を観終わった後のような満足感
すがすがしくも熱いものの残る読後感
非常にすばらしい作品でした 
207.100名前が無い程度の能力削除
映像で見たいねぇ
209.100名前が無い程度の能力削除
SSで泣いたのなんていつ以来でしょうか。幻想郷の人々が非想天則の名前を呼ぶシーンでは思わず涙が零れました
50年後に再会したとき、彼らは一体どんな言葉を交わすのか、できればその場に居合わせたいものです
210.無評価名前が無い程度の能力削除
前半の掛け合い、キャラの見せ場、熱い展開。文句なしの100点!
212.100euclid削除
行け! ボクらの非想天則!!
がんばれ! ボクらの非想天則!!
214.100名前が無い程度の能力削除
久しぶりに脊髄反射で100点入れたくなる作品に出会えた。
どこまでも熱い男のロマンが、どこまでも純粋な恋心がこの作品に溢れている。

つまりは非想ぉッ天ッ則ううゥゥ――――ッ!! でキャーイクサーンなんだよ!!!
最高に面白かったです! ありがとうございました!!
217.100名前が無い程度の能力削除
最高だ!この野郎!千点はあげたいぐらいだ!!!!!

非想天則!!!!!!!!!!!
220.100名前が無い程度の能力削除
あんなスチャラカで狂った導入がこんな熱い物語になるなんて……!
あんたすげえよ!
キャーイクサーンで人を感動させるストーリーも全部すげえよ!
221.100名前が無い程度の能力削除
この作品の素晴らしさを形容する言葉がないので100点だけ入れておきますね。
222.100名前が無い程度の能力削除
いや断言するけどキャーイクサーンで人を泣かせたのはアンタが初めてだよ本当。
223.100名前が無い程度の能力削除
これはすごい。うん、すごいよな。

ティッシュ足りなくなったじゃねえか!

ひそおおおてんそくううううぅぁぁぁあああ!!
224.100名前が無い程度の能力削除
長いこと創想話見させて頂かせているですが始めて感想を書いた&泣きました。
随分前に失ってしまった想いを呼び覚まさせて頂けました…
最後に
ひそぉぉぉおおおおおてんそくぅうっぅぅぅぅぅ!!!
225.100名前が無い程度の能力削除
新作読んで面白かったんでこちらも読みに来たのですが……

こんな名作を読み逃していたとは不覚!
236.100名前が無い程度の能力削除
SS読んでガチで泣いたのは初めてかもです。
アンタのせいで今日も寝不足だよ!

最高でした
237.100名前が無い程度の能力削除
奇を衒ったギャグかと思いきや(ギャグ部分も非常に面白い)、王道中の王道とは!王道展開で魅せるのは実は難しい気がしますが、この作品はとてもいい演出だったと思います。
242.100名前が無い程度の能力削除
いやぁ・・・すごい作品でした。
243.100名前が無い程度の能力削除
二度手間さんを今、思いっきり抱きしめてやりたい気分だああああああああああああああああああああああ!!
素晴らしい作品をありがとう!
246.100名前が無い程度の能力削除
早苗が深刻な顔をした辺りで

『何か幻想郷にとてつもない異変が起きてみんなが一度は絶望するけど土壇場で皆の想いを集めた非想天則がイクサンと幻想郷を守るけどその代償として壊れてしまって破片だけが残るんだろうな』

まで完璧に読み切れたにも関わらず感動した。

やっぱ王道最高だ。あんた最高だ。
249.100小鳥削除
また泣かせてくれるなんて…ありがとうございました!
253.100名前が無い程度の能力削除
あかん、顔がぐちゃぐちゃや。
アメリカンな映画を見てるような感じ。素晴らしかった。
感動に感動が超感動。今まで小説から参考書までたくさんよんできたけど、一番の感動だった。

この作品に、ありがとう。
261.100名前が無い程度の能力削除
色々と書きたいことはあったはずなのに、今はこんな言葉しか浮かんでこない。

最高でした!
262.100名前が無い程度の能力削除
キャーイクサーン
263.100名前が無い程度の能力削除
勇者してるなぁw
268.100名前が無い程度の能力削除
これぞ物の王道、真骨頂
269.100名前が無い程度の能力削除
熱い
熱すぎる
271.100名前が無い程度の能力削除
一年ぶりぐらいによみに来て展開わかってるのに熱く
ただ熱くなれる作品です
278.100名前が無い程度の能力削除
非想天則に敬礼
280.70名前が無い程度の能力削除
いい話だったんだけど、「認識されると近づく隕石」ってどういうことだってばよ?
隕石が近づけば認識されるのはいいとして、隕石を認識したら幻想郷との距離が縮まるの?
んじゃ、幻想郷のみんなが隕石を認識したら隕石衝突済みになるんじゃ?
ぼくちんの頭では理解できないっす(^q^)
284.100白銀狼削除
最初で油断してたら最後は泣いていた。
こんなにも素晴らしいお話をありがとうございます。
290.100名前が無い程度の能力削除
ただただ良かった!
291.100 削除
泣きながら読んでた
このSSと出会えたことを誇りに思います
295.60名前が無い程度の能力削除
読んでて目頭が熱くなりました。落とし所も素晴らしかったです。
だから、この未曽有に龍神様が出て来なかったことだけがどうしても納得できませんでした。
幻想郷ではない、別の世界で起きた珠玉のストーリーとしか読めなかったのです。
296.100名前が無い程度の能力削除
泣いた。これでまた頑張れる気がします
297.100名前が無い程度の能力削除
今さらと言われてもコメントせずにはいられません二度手間様のお話はどれも読ませて頂いてますがギャグしつつぼろぼろ泣けるなんて、しかも非想天則で泣かされるとは思ってもいませんでした...50年後を楽しみに。
299.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです
303.100pearl削除
いくてんでいいものを~と探していたらまさかの展開!しかもそれが面白い!素晴らしい作品と出会えたことに感謝を。
304.100pearl削除
いくてんでいいものを~と探していたらまさかの展開!しかもそれが面白い!素晴らしい作品と出会えたことに感謝を。
314.100名前が無い程度の能力削除
恋する 女性は 美しい
天則の戦いやそれを愛する幻想郷の皆には大いに熱くさせてもらいましたが、最後は衣玖さんの健気な美しさにがっつり心を持っていかれました…読んでる方の胸が苦しくなるほどに…
これほどの作品に出会えたことに感謝を。
318.100勇者を愛する程度の能力削除
どこぞの魔法使いさんが人形劇にして子供たちに語り継ぐ物語になってたらいいな。
俺が子供の頃に見た勇者ロボたちの物語のように。
それは子供たちが大人になっても決して忘れない、愛と勇気と友情の物語。
321.100あああああ削除
ギャグあり熱血あり切なさあり、最後はすっきりした終わり方
最高です
326.100名前を隠す程度の能力削除
僕は今までいくてんというものを知らなかったのだなぁ。

ひそうてんそくぅぅぅぅ!