ぺりぺり
幻想郷を色鮮やかに染め上げていた紅葉が散りゆき、秋は終わりを告げた。
皆は秋といえば何を思い浮かべるであろうか?
読書の秋、芸術の秋、スポーツの秋、そして食欲の秋。ついでにオリ・・・秋の神々達。
思い浮かべる形は人其々違うであろう。多彩な形を持つ秋が終わり、今は寒く、厳しい環境に多くの生命が息を潜め、何れ訪れる春の為、己の体力を貯蔵する冬である。
では冬と言えば皆は何を思い浮かべるだろうか?
もちろんこの季節においても人によって考えるものは違うと思う。
鍋料理、おでん、餅、うどん、焼き芋、カニ、カニ、カニ、紅くて硬い殻。
・・・思い浮かべると食べたくなってきた。とりあえず思い浮かべるものは色々あるだろう。
他に雪とかももちろんあるが、とりあえず私が言いたい事は、だ。
ぺりぺり
「やっぱり冬と言えばこたつと蜜柑よね」
「・・・私はなんであんたがここにいるのかを言いたいんだけど」
先程から何個も何個も蜜柑を剥いては食べ、剥いては食べているレミリアに向かって霊夢はじとっと目を向ける。
すでにこたつの上には無数の蜜柑の皮が無造作に捨てられている。
「だって紅魔館には置いてないもの、こたつ。いいじゃない、蜜柑は私が持ってきたのだし」
「・・・ま、いいけど」
べりっと蜜柑を新たに剥いて、霊夢はいくつかに分けた後ぱくぱくと食べる。
「変わった食べ方ね。普通は少しづつ取って食べない? それに剥いた皮、綺麗に並べなくともいいじゃない」
「別にいいでしょ。後々楽なんだし、あと皮はこうしないと気がすまないのよ。なんとなくだけど」
霊夢は剥いた蜜柑の皮を丁寧に整列させて置いていたので若干レミリアは気になっていた。
ふーんと、レミリアもまた新たに蜜柑を手に取りべりべりと剥いていく。
ぺりぺり
先程から無言で、真剣に彼女はその作業に熱を上げている。
いつもなら事ある毎に話に割って入るのであるが、それを忘れてしまうほど夢中になっているのであろう。
レミリアの妹であるフランドールが指先に神経を集中させ蜜柑と向き合っている。
何をしているのか? それはつまりあれだ、よくある話。蜜柑の白い筋である食物繊維の塊を丁寧に剥がしていたのだ。
その光景をレミリアは横目で軽く見たが、自身のものに対しての優先順位が働き、気をそちらへと戻す。
しっかりと熟した黄金色に輝く蜜柑、ちなみにこの蜜柑は咲夜が何処かしらからか持ってきたものである。
適当に剥がした蜜柑の皮を置き、その実をたべる。蜜柑特有の甘みがあふれその身は幸福感を満たしていく。
そして改めて横にいるフランドールへと目を移す。
熱心に白い筋を綺麗に剥がすことへと没頭しており、未だみかんを彼女は食べていない
真剣な表情でみかんを剥いており、茶化すかどうか悩んだが気を悪くしても後がよくないので何も言わない。
ぬくぬくと温もりながら、もぐもぐとみかんを口へと放り込み、また新しい蜜柑に手を伸ばしべりべりと皮をむき始める。
そして―――
「ふぅっ・・・」
その手には一筋さえ残っていない、ぴかぴかのつるつるの蜜柑があった。
出来栄えに達成感を成しえたのか、フランドールは感嘆の声をあげながら蜜柑を眺める。
「綺麗にできたわね、1個ちょうだい」
「えっ」
そう無造作にレミリアは一つまみして、ぱくりと口へと放り込む。
「ぉ、やっぱりおいしいわ。ね、フラ・・・」
「・・・で、どうするの? この不貞腐れた吸血鬼」
こたつで温もりながら霊夢はレミリアに問う。
「そんなに怒る事もないでしょうに・・・」
「あんた、同じ事やられたら確実にきれるタイプでしょう」
「うーん」
一生懸命剥いた蜜柑を横取りされ、フランドールは拗ねてしまっていた。
あの後かんかんに怒った後、こたつの中へと引き篭もって篭城してしまっていた。ちなみにこたつから若干彼女の羽がはみ出してしまっている。
フランドールの機嫌をなおそうと色々考えてみたが、なかなか思い浮かばない。
「とりあえず謝っておきなさいよ」
「おいしかったわ、フラン。勝手に食べてごめんね?」
反応は無い。なんというか感情が篭っていないし仕方ないかもしれない。
「・・・あんた謝って相手が機嫌なおした事ないでしょ」
「そんな事無いわよ? 咲夜なんかいつも機嫌よく許してくれるわ」
「苦労してるのね、あのメイドも・・・」
咲夜の苦労を垣間見たような気がして、若干咲夜に対し霊夢は同情してしまう。
やれやれと新しく蜜柑をレミリアは剥いていく。
「それにしてもこんな些細な事が気になるなんてね」
「いやいや、あれは怒るでしょ」
「違うわよ、私は蜜柑の剥き方の話をしてるのよ」
ん? と霊夢は顔を傾げる。
「私が言いたいことはね。私や霊夢、フランの蜜柑の剥き方が一人一人違うって事。こんな些細な事でさえ違いが出てる事が少し面白くてね」
「ま、言われて見ればそうね」
「ちなみに咲夜はりんごみたいに蜜柑を剥いていくわよ。上からぺりぺりと」
「ちょっと意味がわからないわね・・・」
「気になってしまったら口にしたくならないかしら? 今回は言葉じゃなくて食べる形になったけど」
「そういうものかしら」
「そういうものよ・・・っと」
繊維は若干残っているが、比較的綺麗にレミリアは蜜柑を剥くと、それを持ってこたつに引き篭もっているフランドールと向き合うためにこたつをめくる。
身体を折り曲げて包まっているフランドールがそこにいる。
「フラン」
「・・・」
「これはさっきのお詫びよ。これで許してもらえないかしら」
ちらりとフランドールは顔をあげる。
「・・・白いのいっぱい着いてるからやだ。許さない」
「いいじゃない。これはこれで美味しいから食べてみなさい」
むすーっとしたままの顔でフランドールは差し出されていた蜜柑をぱくりと頬張った。
「別にちゃんと許した訳じゃないわよ、姉様」
こたつから這い出て改めて蜜柑を剥き始めたフランドールがそういった。
少し長いあいだこたつの中に引き篭もってしまっていた為か、それとも別の為か彼女の顔は少し紅く染まっている。
「しっかり食べてたじゃない、それで相子よ」
「それじゃ納得できないからいってるの!」
そうフランドールは声を張り上げ、剥いた蜜柑・・・、少し繊維が残ったままの物をぱくぱくと食べる。
それを見てレミリアはくすっと微笑みながらフランに問う。
「じゃあどうすれば許してもらえるかしら」
「それは・・・勝負よ! 姉様!」
「勝負? 弾幕ごっこ?」
「それも魅力的だけど、今はもっといいものがあるわ。・・・雪合戦で勝負よ!」
「ふふ、なかなか面白い事言ってくるわね。以前した雪合戦の内容は覚えてる? 私の圧勝だったと思うのだけれど」
「むー。そのリベンジがしたいの! という事で雪合戦ね!」
「いいわよ。じゃ、ついでに咲夜や美鈴も参加ね。霊夢はどうする?」
「・・・私はこたつで温もっておくわ」
「じゃ、参加ね。さて、面白くなってきたわね。第一次雪合戦戦争、アイスバーンとでも名づけましょうか」
「いや、参加しないからね? それにしてもすっ転びそうな名前ね・・・」
「お姉様ー! 咲夜はこっちサイドだからね! あ、美鈴はそっちでいいよ!」
ばたばたと色々勝手に決め付けていき、レミリア達は颯爽と準備をする為に外へと駆け出していく。
「馬鹿っ、寒いって!」
ちょっとでも隙間をあけると寒いのに、完全に扉を開ききって駆け出していく彼女達を尻目にやれやれと霊夢は腰をあげる。
「ほんと、仲が良いのか悪いのか・・・。わかんないわね」
「霊夢早くきなさいー!」
「はいはい、今いくわ」
こうやって幻想郷の冬を騒がしくもたくましく、彼女達は過ごしていくのであった。
でも咲夜さんみたいな剥き方は珍しいw
表情はあくまでも真剣、唇はちょこっと突き出し気味のアヒル口だと俺は睨んでいるぜ。
個人的には天岩戸状態のフランちゃんとレミ様の駆け引きをもうちょっと堪能したかったです。
せっかく炬燵から羽がはみ出している描写があるのだから、レミリアのアプローチに対して
色々なリアクションをフランがその羽で表現する、みたいなね。
あと気になったのはスカーレット姉妹が雪合戦になだれ込むシーン。咲夜さんと美鈴は外で待機していたのかな?
紅魔館から博麗神社に二人を呼び出すのはお話の流れ的に少し不自然かも。
キャラの表情や何気ない仕草の描写、読者にきちんとその場面を理解、想像させる会話文や丁寧な地の文。
全てのSSに必要なことだとは思うのですが、ほのぼの系ショートストーリーは特にその比重が大きく、
大切になってくるのではないかと愚考します。
長々と書き連ねてきましたが、いい感じに肩の力が抜けたように感じる今作、楽しめましたよ。
慧音先生のお話は焦る必要は全く無いので、作者様のペースでゆっくり頑張っていってね!
ダメだ思い出せないw
冒頭のぺりぺりから和ませてもらい、文章もすごく読みやすいなあと思いました。
いいほのぼのをごちそうさまです。
禁忌「レミリアシールド」を思い出したw
う、嬉しいけどなんか複雑だ(製作時間的な意味で
奇声能力さん>フランちゃんの剥き方はやってる人多いですよねー
コチドリさん>お久しぶりです~ 毎度読んでくださりありがとうございます!
そのフランちゃんかわいくて涙出てきた。今度描くときそういうの入れてみよう・・・
ちょっとラスト駆け足気味になってましたね改めてみると痛感しました。ちなみに脳内では紅魔館に行ってた
慧音は前半あまり変えず済みそうです 若干読みにくいのは変わらなさそうですが・・・
半妖さん>同じ剥き方をしている人がいようとは・・・ ほのぼの読んで下さりありがとうございました(`・ω・´)
ななしさん>咲夜さんはバリアの犠牲となったのだ 咲夜ェ・・・
盾にされた咲夜さんと弾になった美鈴でちゅっちゅですねわかります
やはりその発想をしてくる人がきたか(ガタッ
シルバーさん>こたつはみんなとの触れ合いの場であると思ってます。しかし最近は囲んでなくて寂しいかも
お婆ちゃん・・・(´・ω・`) うちの婆ちゃんは半分にわけてあげるっていってくれたなぁ 爺ちゃんはいなかったけど。 今ではむこうで仲良くこたつを囲んで仲良くしてることを祈ってます。 シルバーさんのお婆ちゃんも天国では元気にしていると思いますよ!
霊夢のスルーっぷりに笑いました。
細かい描写がいいっすね。
霊夢はスルースキルはんぱないとおもうんです^p^
拗ねたフランとなだめるレミリアのやりとりがもっとあれば良いなと思いました