オリジナルな要素有ります。ご注意を。
「うーん……うーん……」
うんうんと魘されるのは緑色の巫女さん。
普段はニコニコしている彼女の魘され顔を見ながら、その枕元に腰を下ろしていた少女はため息を一つ。
「魘されてる早苗も悪くないねー。思わずセクハラしたいぐらい」
「いや、するなよ? したら第二次諏訪大戦入っちゃうからね?」
オンバシラで少女の顔面をグリグリしながら大柄な女性はため息一つ。
彼女――諏訪子には本当に困ってしまう。隙あらば早苗を(ケロンパ)しようとするし。
本当はいいヤツだとはわかっているはずなのに。
「……スゲェ。神奈子、見れ。早苗の勝負ぱんつ……スッケスケやがな……」
「お前はアレか。好きな彼女の部屋に初めて入った男子か?」
「やっべ、めっちゃやっべ。なんか早苗の匂いと言うかバニラの匂い」
ぐしゃりとオンバシラで諏訪子を叩き潰し、もう一度ため息をつくと、早苗の額に乗せられた濡れ手ぬぐいをそっと取る。
早苗が倒れてから、はや二日。
心配で心配で、おかしくなってしまいそうだ。
「――神にでも、縋りたい位……か。皮肉だね。ココには神が二人もいるのに」
無力さに、不甲斐なさに――
神奈子は己の拳をぎゅうっと握り締める。
神は何時だって万能で、いつだって無力なのだ。
――そう。いつだって。
「うーん……うー……ふぇっ……」
奇跡を起こすのは。
「? さな」
「ぶえっくしょいスウィーーッッ!!」
「びゃあああああ!!」
人間なのだから。
「ふぁぁ……うーんっ、はぁ、なんかすっごい寝ていた気がしますねー……ふぇっ!? か、神奈子様!?」
「……大丈夫。鼻水とか、慣れてないけど、大丈夫……」
奇跡の代償として、神奈子はその精悍な顔に大量の唾液と鼻水を受けるも、静かに微笑む。
何よりも、彼女がもう一度目覚めてくれたことが神奈子には嬉しかった。
「……神奈子様。あの、失礼かと思いますが……その、お顔のメンズケフィアを何とかしてください」
「うわぁい。お前のケフィアだよちくしょうめ」
――爆風命蓮寺 聖様が激しく苦労をなさるようです――
所変わって命蓮寺。
当主でもある聖白蓮はしゃんと背筋を伸ばして一人、本尊の前で静かに待つ。
朝のお勤めの時間はとうに過ぎているはずだ。
不真面目なナズーリン、ぬえはともかく。村紗だけでなくあの真面目な一輪と星すらも現れない。
普通の感性から言えば怒りのあまり叩き起こしに行っているはずであろうが、そこはそれ。
――彼女は聖白蓮なのだ。
(きっと、あの子達にも何か事情があるのでしょう)
一人そう結論付けるとこくこくと頷き、朝のお勤めを終える。
こうしていつもと少しだけ違う聖の一日が始まった。
長い廊下を抜け、何時ものように食堂へと足を向ける。
と。食堂からどたばたと何人かの足音。
(……また一輪とぬえが喧嘩でもしているのかしら)
本当は仲がいいはずなのに。何故かいつも喧嘩をしているあの二人の顔を思い浮かべ、思わず苦笑い。
そして、静かに食堂の引き戸を引いた聖の目に。
「わー! おこりんぼいちりんがおこった~!」
「……ばーか」
「ばかじゃないもん! むらさをいじめたしょうがおばかだもん!」
「……ひっく……ひっく……」
「これはわたしの“ぶき”にしてあげる! うれしくおもえ!」
「ひしゃく……かえしてぇ……」
「ひとのものとったらだめなんだもん! うんざんだっていってるもん! そうだよ! いちりんのいうとおりだもん!」
「べーだ! なずーりん! たんけんにいくよ!」
「……だー」
ぱたぱたと二人の子供が食堂から逃げて行くのを見て、聖の頭に浮かぶ?マーク。
思わずここは本当に命蓮寺なのかと確認してしまうほどの混乱ぶりである。
「……うぇっ……うぇぇぇん! むらさのひしゃく! むらさのひしゃくがぁ~!!」
「だ、だいじょうぶだもん! わたしとうんざんでとりかえすもん! うんざんもいってるもん!」
混乱しながらも。聖の目には泣いている少女が映っている。
そしてその少女を慰めながらも、必死に泣きそうなのをガマンしている少女の小さな背中も。
――彼女は聖白蓮なのだ。
聖白蓮なのならば。やる事はたった一つ。
「どうしたの?」
非常に穏やかで、優しい声。
びくっと振り返る少女達の怯えた顔を見て、聖は優しく微笑む。
「ひしゃく~!! むらさのひしゃく~!!」
サイズこそかなり縮んでいるものの、ぎゅうっとセーラー服の裾を握って、ぽろぽろと涙を流しているのは恐らく村紗であると確信する聖。
何故なら小さくなってしまっているが、その顔には間違いなく聖の知っている村紗の面影があるからだ。
「だいじょうぶだもん! むらさ、だからなかないでほしいもん! うんざんもそういってるもん! そうだよ! むらさ、なかないでほしいもん!」
そしてもう一人。だぶだぶの法衣に、ピンク色のあみぐるみを抱きかかえているのは一輪であると確信してしまった。
不安げに揺れながらも、何よりも村紗を心配するその瞳の光は。復活した自分を泣きながら迎えてくれたあの日の一輪と同じだったから。
「……村紗。一輪。何があったのか、教えてくれる?」
二人と視線を合わせる為に、聖はその場にしゃがむ。
そんな聖に、村紗は泣きながら抱きついた。
「ふーんふふーん♪ よーし、これは“しょうさまけん”。さいきょうのけんだ!」
ぶんぶんと柄杓を振り回し、ご機嫌な子虎の少女はでふでふと廊下を歩く。
その後ろを、ちょこちょこと鼠の少女がついていく。
「……ひみつきち、いく」
「よし! ひみつきちでかいぎだ!」
ピスピスと鼻息荒く、前を行く子虎少女は元気良く鼠の少女の言葉に頷く。
程なくして辿り着いたそこは、毘沙門天の弟子が自室として使っていた一室。
からからと軽快な音を立てて引き戸を引くと、部屋に入る。
鼠の少女は引き戸のスキマから顔を出し、きょろきょろと周りを見回してから引き戸を閉めた。
二人は無残に引っ張り出された布団を踏み越え、無地の襖の前に立つ。
「よし! あいことばをいえ!」
「……さいきょうのむてきだん」
「よし!」
うんうんと頷く子虎の少女はすぱんと襖を開け放った。
襖の中は元押入れ、現在は二人の秘密基地。
かつて来客用だった座布団は王様の玉座と参謀の椅子となり、作戦会議用のみかん箱もどこか誇らしげだ。
二人は早速座布団に座り、みかん箱を挟んでご満悦。
「うーん。われながらほれぼれするぞ! この“しょうさまけん”になずーりんのさくせんがあればげんそーきょーせーふくもすぐだ!」
「……ごしゅぢんのぶゆーとなじゅのちぼーがくわわれば……むてき」
花丸をあげたくなるような子虎の少女の笑顔に、鼠の少女も照れた様に笑う。
彼女達の偉大なる計画は、今まさに始まろうとし。
「星。ナズーリン。ここに居るのですね?」
同時に絶体絶命の危機を迎えていた。
「星。ナズーリン。ここに居るのですね?」
聖はいつもの調子で、押入れの中に居る二人に声をかける。
返事はない。が、つい先ほどまで中から二人の声が聞こえていたのだ。
まず間違いはないだろう。
「星。ナズーリン」
もう一度、優しく声をかける。
僅かに中で何かが動く音。
はて、どうしたものか。聖は少し逡巡した後、ふと、ある事を思い立つ。
「ああ、どうやら勘違いだったようですね。多分、猫か何かだったのでしょう」
そしてゆっくりと立ち上がる。
「にゃーん」
あっさりと期待通りの反応が返ってきて、思わず苦笑。
ゆっくりと襖に近づき、静かに襖を開けた。
「にゃー……にゃああ!?」
そこには柄杓を抱きしめた――小さくなってしまった寅丸星と。
「……!」
同じく小さくなってしまったナズーリンが固まっていた。
大事なことなので3回(ry
とりあえず続きが気になり過ぎる
さあ、早く続きを!!
承
転
結