博麗神社の縁側で、黒猫が寝転がっている。
霊夢がそれに気づいたのは、境内の掃除の休憩に来た時だった。
「ふにゃあぁ~…」
日当たりが良い場所を陣取って、日向ぼっこを楽しんでいるようだ。
霊夢は特に気にする事もなく、いつものように黒猫に声をかける。
「なんだ、燐じゃない。また来てたの?」
「にゃ~ん」
名前を呼ばれて、燐が霊夢に返事をするように鳴き声をあげる。
地底での一件以来、燐はよく神社へ遊びに来るようになり、霊夢も気まぐれに面倒を見ていた。
「ほら、とりあえず場所譲りなさい。私が休憩するんだから」
そう言いながら、燐を抱き上げて膝の上に乗せる。
燐も満更ではない様で、気持ち良さそうに丸くなっていた。
「それにしても燐、最近よく来てるけど仕事しなくていいの?」
「うにゃー」
自分の事を棚に上げて、霊夢が燐に尋ねる。
それに対し、燐は問題無いとでも言う様に一声鳴いて答えた。
仮に仕事があったとしても、この様子では帰ろうとはしなかっただろう。
「…ま、いいか…」
猫の言葉は分からないが、別に自分が困る訳でもないのでそれ以上は特に気にしなかった。
そのまま暫く燐と休憩していたが、注いでいたお茶が無くなったので仕方なく掃除を再開する。
膝の上から下ろされた燐は、再び日当たりのいい場所に陣取って寝転がっていた。
「にしても、さとりの奴ホントに放任主義なのねぇ…うちに来てるのも知らないんじゃないかしら」
聞こえているのかいないのか、燐はそんな心配を他所に寝転がったままだった。
それを見ていた霊夢は呆れながら、
「…いっそ、面倒見てる分の礼でも請求してやろうかな」
などと冗談交じりに呟くが、やはり聞こえていないのか燐は先程と変わらず寝転がっている。
「おっと、それより掃除掃除…さっさと済ませて、のんびりしよっと」
燐を眺めて止まっていた手を動かし始め、境内の掃除の仕上げに取り掛かるのだった。
数日後。
霊夢が目覚めると、家の中に誰かの気配を感じた。
霊夢の周りには人の都合などお構いなしに上がり込んで来る輩が多いので、いつもの事と言えばいつもの事だった。
「…うーん…魔理沙辺りが侵入したのかな」
その筆頭である友人の事を考えながら、着替えて気配の感じる方へと向かう。
どうやら気配は調理場にいるようで、料理をする音が聞こえてくる。
「ちょっと魔理沙、人ん家の台所を使うなっていつも…」
魔理沙だと思って声をかけながら調理場に入ると、そこには予想外の人物の姿があった。
「あ、すいません…でも、私は魔理沙さんではありませんよ」
そういって振り返ったのは、割烹着を着たさとりだった。
あまりに予想外の人物だった為、霊夢は状況が飲み込めず戸惑っている。
「…随分と驚いているようですね。無理もありませんが…」
霊夢の心を読むまでもなく、驚いているのが見て取れた。
人を避けるため地底の奥深くに住む様になった妖怪が、こうして突然地上に現れて、
更に自分の家で料理をしているのだ。驚かない方がおかしいとも言える。
「えーと、それで…」
「あぁ、理由ですか。一言で言うと、お礼ですよ」
料理の手を止めて、霊夢の方を見ながら答える。
聞こうとした事を聞く前に答えられ、霊夢は言葉に詰まった。
暫く考えてから、とりあえず思い当たる理由を尋ねてみる。
「あー…お礼ってもしかして、燐の事?」
「はい、どうやら随分とお世話になっているようなので…」
確かに遊びに来たら面倒を見るくらいはしていたが、霊夢も礼が欲しくてやっていた訳ではない。
なので正直、礼と言われても困ってしまうのだった。
「それに、燐の心を読みましたが…礼を請求するつもりだったのでしょう?」
あれは冗談で言ったのだが、恐らく燐の心を読んだ時に冗談かどうかまでは判断できなかったのだろう。
しかしさとりにとっては、あの異変があった後も未だに放任主義のままだと思われたくなかったと言う事もある。
「これでも燐や空に関しては、以前より見ておくようにしてるのですよ」
と、少し得意気にさとりが言う。小柄な身体で胸を張る姿が、なんとも可愛らしかった。
「なら良いんだけど…で、それが何でまた勝手に調理場を使う事になるのかしら」
礼と言うならそもそも勝手に上がり込むのはどうかと思ったし、そもそも家事は一人でもこなせる。
わざわざしてもらう必要もなく、礼ならもっと他の事で良いのだ。お賽銭入れるとか。
「…それは考えておきます」
やはり読まれていたらしく、お賽銭に関してはさりげなく断られてしまった。
そして改めて、さとりの口から理由が語られる。
「…こほん。こうして料理をしているのは、燐の面倒を見て頂いたからで…今日一日私も同じ事をして、返そうと思ったんです。
確か地上では、こういうのを目には目を、と言うんですよね」
「いや、それ全然違うから」
本気なのか冗談なのかもいまいち読み取れなかったが、とりあえずさとりの発言を訂正する。
それはともかく、さとりの話した理由で一応は納得したようで、霊夢も特に異論はないようだった。
「で、何で勝手に上がってるのかも、一応聞いておきましょうか」
と、もう一つの疑問点をさとりに尋ねた。
するとさとりは、少し顔を赤くしながら歯切れが悪そうに答える。
「えーと、それは…恥ずかしかったのと…コレくらい強引でないと、断られた時に…」
それを聞いて、何故さとりが地底に住むようになったのかを思い出す。
嫌われ者だという自覚がある為、拒絶されるのが怖かったのだろうと推測する。
こうして事後承諾という形を取れば、なし崩し的に受け入れられる事もあるからだ。
「…その通りです。本当なら、燐に何かお礼の品を持たせて…と思ったのですが…
以前の一件の事もありますから、ここは私自らが…と」
霊夢は別にそれでも構わなかったのだが、それではさとりの気が済まない、という事だろう。
「はぁ、なるほどねぇ…ま、それならその好意に甘えるとしましょうか」
たまには自分以外が作った料理を食べるのも悪くないし、何よりせっかくの好意を無下にするのは相手にも悪いと思ったからだ。
「……それに、貴方なら……」
「ん、何か言った?」
「あっ、い、いえ、何でも…」
独り言を聞き返され、慌てて何でもない風を装う。
少し怪しむ霊夢だったが、何か企んでるならその時はその時、と思い特に追求はしなかった。
「そ、それでは、もうすぐ出来ますので、それまでお待ちください」
「んー、分かったわ」
そう言うと霊夢は調理場を出て行き、顔を洗いに行く。
それを見送ると、さとりは料理を再開した。
朝食が終わり、二人は食後の休憩を取っていた。
さとりの手料理は中々の物で、霊夢も満足しているようだ。
何より霊夢は、さとりが料理を出来るとは思っていなかったので、
どんな物が出されるのだろうと少し不安だったのだ。
「…私がお料理できる事が、そんなに意外でしたか?」
心を読んださとりが、失礼な事を考えていた霊夢に問いかける。
相変わらず霊夢は慣れていないようで、少し戸惑ってしまう。
「え?…あぁ、読んだのね…そりゃまぁ、意外だったわよ。
どこぞのお嬢様みたいに、てっきりメイドか誰かにやらせてると思ってたし」
「なるほど…まぁ、私も料理以外はペット達に任せているのですが…」
霊夢が良く知る紅い館のお嬢様と、そのメイドを思い出しながら答える。
思い出した光景を読んださとりは、そう思うのも無理はない、と納得した。
「それより、心を読むのはいいけどせめて会話してもらえるかしら。
さすがに言ってない事を言った様に扱われても、対応しきれないわよ?」
と、霊夢が釘を刺しておく。
こんな調子で会話を続けられると、その内無言になってしまいそうだったからだ。
「あ…そうでした、申し訳ありません。つい、癖で…気をつけます」
言われてようやく気付いたらしく、申し訳無さそうに頷いた。
これでとりあえず、普通の会話も成立するだろう。
「そういえば、ここの眼が心を読んでるのよね?」
尋ねながら、興味深そうにさとりの第三の目をつついてみる。
すると第三の目は、それから逃れるように動いた。
「ん…はい、そうですよ。…あの、つつくのは…」
「あ、ごめんごめん」
さとりは少し困った顔をして、第三の目を袖で隠す。
割と嫌がっているようだったので、霊夢もすぐにつつくのをやめた。
「結構気になるけど…ま、いいや。それよりそろそろ、掃除の時間だわ」
目の事を少し気にしながらも、立ち上がると掃除の用意を始める。
「それなら、私もお手伝いさせてください」
と、さとりも協力を申し出た。
これも礼の一環なのだろう、人手が増えると霊夢も楽が出来るので異論はなかった。
「あ、そう?それじゃ、お願いするわ」
「はい、頑張ります」
思ったより気合が入ってるようで、安心して任せられそうだ。
そして掃除に向かおうとした霊夢が、ふと何かを思いついた。
「…そうだ。やっぱりこういうのって、形からよね。えーと、どこにやったかな…」
掃除の用意を止めて、服の入った箪笥を探し始める霊夢。
さとりにも何を考えているのかは分かったが、あえて何も言わなかった。
「あぁ、あったあった。これならさとりにも合うでしょ」
丁度いいサイズの巫女服を見つけ出し、さとりに手渡す。
神社の手伝いをする間は、これを着ておくように、という事だった。
「これが霊夢さんの…分かりました、それでは着替えてきますので…」
「着方が分かんなかったら言いなさい、やってあげるから」
少し顔を赤くしながら、さとりが着替えに行った。
その間に霊夢は、休憩用のお茶を用意するのだった。
お茶の用意が済んで暫く経ってから、着替えたさとりが顔を出した。
形は霊夢と同じ巫女服だが、本来の赤い部分が青くなっている。
「…腋がすーすーします…」
慣れていなくて恥ずかしいのか、顔を赤らめながらさとりが言う。
さとりの体型にも合っていて可愛らしく、霊夢も満足そうだった。
「そんな程度、すぐに慣れるわよ。さ、着替えも済んだし掃除よ、掃除」
その程度の事など気にしていないようで、あっさりと言ってのけた。
着替えた感想は特に聞けなかったが、心を読めるさとりにはしっかりと伝わっている。
それもさとりが恥ずかしがる原因になっているのだが、霊夢はそんな事を知る由もなかった。
「は、はい、分かりました」
霊夢から箒を受け取ると、さとりも掃除に向かう。
それなりの広さてはあるが、二人ならそこまで時間は掛かりそうになかった。
「さとりはそっちをお願いね」
「はい、分かりました」
さとりに指示を出すと、霊夢は掃除に取り掛かる。
どんな風にするかなどは、説明せずとも考えるだけで済むので便利だった。
「こういう時は楽で良いわね」
実際は不便な点の方が多いだろうという事は、さとりを見ていれば容易に想像できたが、
それでも心を読めない霊夢からすれば便利な能力に思えた。
「…心を読まれる事に、抵抗はないんですか?」
さとりの能力をそこまで気にしていない様子の霊夢に、少し躊躇いながら尋ねる。
普通なら、心を読まれると知っただけで距離を置かれてしまうからだ。
「あー、まぁまったく抵抗がないわけじゃないけど。そもそも周りがねぇ…」
自分の周りに集まってくる妖怪やその他の事を思い浮かべて、諦めた表情で答えた。
問答無用で現れるスキマ妖怪や霧の如く侵入してくる鬼、やたら付き纏って来る天狗の新聞記者など、
他にもさとりと同じかそれ以上に厄介な連中がいるのだ。
そこに心を読める妖怪が加わろうと、大した差はなかった。
「つまるところ、今更って感じなのよね。それを悪用する気なら、懲らしめればいい訳だし」
実際に異変を解決してきた巫女の言葉だけあって、心を読まずともそれが本気で言ってる事は分かる。
さとり自身も能力を悪用する気は無かったが、一層気をつけるようにしよう、と思うのだった。
「私が言うのもなんですが…変わっていますね、霊夢さんは」
霊夢の言葉を聞いて、素直な感想を口にする。
「そんな事無いわ、これくらい巫女なら普通よ」
よく分からなかったが、巫女本人が言うならそうなのだろう。
そういう事で納得したさとりは、それ以上特に掘り下げようとはしなかった。
「それより、そんな心配してる暇があったら手を動かすのよ。さっさと済ませてのんびりする為に」
「ふふ、分かりました」
ようやく掃除を始めた霊夢に倣って、さとりも掃除を開始する。
既に緊張も大分解れた様で、霊夢も一安心だった。
「んー、やっぱ二人でやると違うわ…こりゃ楽ね」
大きく伸びをしながら、霊夢が言った。
掃除は思いの外早く終わり、今は二人揃ってのんびり休憩していた。
「そう言って頂けると、お手伝いに来た甲斐もあるというものですね」
「確かに、お陰で楽させてもらったわ」
嬉しそうに言うさとりに答えながら、お茶をすする。
得にする事も無くなったので、お昼御飯の時間まで暇を持て余していた。
「そういえばさとり、地霊殿の方はいいの?」
ふと疑問に思った事を、さとりに聞いてみる。
さとりがここにいるという事は、今の地霊殿は主がいない状態という事になるからだ。
「あぁ、それなら大丈夫です。私がいなくても、問題ありませんから」
「問題ないって…なんでよ?」
予想に反してあっさりと答えるさとりに、不思議そうに尋ねた。
「元々、ペットにほとんどの事を任せていますので…指示さえ出しておけば、混乱も無いのですよ」
相変わらず自分のペット達を信頼しきっているようで、きっぱりとさとりが言った。
その様子に霊夢は少し不安を感じたが、指示を出しているのなら大丈夫だろうと思う事にした。
「なら良いけど…またあんな熱い場所に行くのは御免だから、ちゃんと管理してよね」
と、一応釘を刺しておく。霊夢も地底は嫌いではないが、灼熱地獄は出来れば行きたくなかったからだ。
そしてそれは、さとりにも伝わっている。
「安心してください、ちゃんと管理していますから…それに今はコンガラ様もおられるので、大丈夫です」
さとりの口から意外な人物の名前が出てきて、霊夢が驚愕した。
コンガラといえば、随分と前に退治した事がある妖怪の名前だったからだ。
「…コンガラ様?」
「はい、今の地底における最高権力者ですよ。鬼達のリーダーでもありますし…」
それを聞いて、更に霊夢は驚いていた。
確かに記憶にある姿では、額に角が生えていて鬼に見えなくも無い。
そして遭遇した場所は地獄の一部だったので、一応納得は出来た。
「そりゃ知らなかったわ…で、それなら何でこないだの異変で出てこなかったのよ」
「あぁ、それは地底にいなかったからです」
さとりの話によると、コンガラがいなくなるのは珍しくない事のようだった。
修行だったり銘酒を探しに行ったり、何かと理由をつけては外界を見て回っているらしい。
「…ま、何にせよ問題が無いなら良いのよ」
衝撃的な話に戸惑いながらも、問題はないようなので気にしない事にする。
さとりもそれ以上の事は言わず、のんびりとお茶をすすっていた。
昼御飯も終わった昼下がり、霊夢は出掛ける支度をしている。
「どこか行くんですか?」
丁度洗い物を片付けたさとりが戻ってきて、霊夢に尋ねた。
「うん、ちょっと買い出しへ行ってくるわ」
「でしたら、私が…」
それを聞いたさとりは、思わず自分が変わりに行くと言いそうになった。
しかし、買い出しという事は里へ行く事になり、多くの人間と会う事になる。
「いいわよ、無理しなくて。あんたの能力で行かせるのは逆に心配だしね」
当然霊夢もその事には気づいており、さとりをわざわざ行かせるつもりは無かった。
一緒に行く事も考えてみたが、何かあってからでは遅い。
となると、やはり一緒に行くのも止めておいた方がいいだろう。
「…すいません、お役に立てなくて…」
しゅん、として申し訳無さそうに謝る。
さすがにそこまで気を落とされると、霊夢も少し困ってしまう。
「あーもう、良いのよ、そんな位。それより、留守番頼んだわよ?」
「…は、はい…分かりました」
さとりの頭を撫でながら、言い聞かせるように言った。
撫でられるのは慣れていないようで、少し戸惑っているのが見て取れる。
暫く撫でてから、手を離して玄関へ向かう。
「さて、それじゃあ行ってくるわ」
「あ…いってらっしゃい、霊夢さん。お気をつけて」
少し名残惜しそうだったが、あまり出るのが遅くなっても困る。
さとりもそれを分かっているので、素直に霊夢を見送った。
そして神社には、さとり一人が残される。
「…掃除でもしましょうか」
とりあえず、少し散らかっていた居間などの掃除をする事にした。
「お~い、霊夢ぅ~」
さとりが掃除をしていると、中庭の方から声が聞こえてきた。
明るく少し酔っ払っているその声は、さとりも知っている者の声だった。
「すいません、霊夢さんは出かけていますよ」
霊夢がいない為、変わりにさとりが応対する。
さとりの姿を見て、萃香は驚いていた。
「あれ、さとりんじゃないか。何やってんだい?」
「えーと…色々あって、霊夢さんのお手伝いを」
説明は苦手なので、とりあえず端折って状態を伝える。
萃香もそこまで深く聞いたりはしないので、それで納得していた。
「へぇ、あのさとりんがねぇ…そりゃ珍しい、という訳で記念に一杯」
と言うか、呑む理由さえあればそれで良い様だった。
丁度良い理由も見つかったので、萃香がさとりにもお酒を勧める。
「わ、私は留守番を任されていますから、呑む訳には…」
そう言って断ろうとするが、萃香は引き下がらなかった。
「まぁまぁ、そう言わずに。久しぶりに会うんだしねぇ」
既に酒の注がれた御猪口を差し出しながら、笑顔で萃香が勧めてくる。
やはり、断っても無駄だったようだ。
「はぁ…分かりました。その代わり、萃香さんも一緒に留守番してくださいね?」
という条件をつけて、渋々了解したのだった。
さとりが目を覚ますと、辺りは既に暗くなっていた。
どうやら、萃香と呑んでいてそのまま寝てしまったようだ。
「そういえば、萃香さんは…」
きょろきょろと辺りを見渡すが、萃香の姿は見当たらない。
何を話していたのか思い出そうとしたが、ほとんど記憶に残っていないようだった。
「ふにゃっ…さとり様ーっ!」
「り、燐?どうしてここに…」
丁度さとりの様子を見に来た燐が、さとりに気付いて飛びついてくる。
「あぁ、やっと起きた。おはよ、気分はどう?」
燐の声に気づいて部屋に入ってきた霊夢が、さとりに声を掛ける。
恐らくさとりが寝ている間に帰ってきたのだろう。
「えっと、少し気持ち悪いですけど…特に問題は…」
そこで、霊夢に留守番を任されていた事を思い出した。
留守番の最中にお酒を呑んだ挙句、そのまま寝てしまったのだ。
叱られるのを覚悟して、少し身を強張らせる。
その様子に気付いた燐も、不安そうに霊夢を見つめる。
「あー、別に怒ってないから大丈夫よ。あのバカから話は聞いてるし」
どうやら、ちゃんと萃香が留守番してくれていたようだった。
それを聞いて二人は安心し、緊張を解いた。
「そ、そうですか…すいません…」
「謝らなくていいってば。悪いのは萃香なんだし」
そう言うと、霊夢は毛布を片付ける。
寝てしまったさとりを気遣って、萃香が掛けてくれたようだった。
「そういえば、燐はどうしてここに?」
落ち着いたところで、ようやく燐がいる理由を尋ねる。
「あぁ、萃香に呼びに行かせたのよ」
「お迎えに上がりました、さとり様!」
酔っ払って寝てしまったさとりを、一人で帰らせるのは危険だと判断した霊夢が、
萃香に言って呼びに行かせたようだった。
燐を呼んできたのは、適任だったからだろう。
「そうでしたか…ありがとうございます」
「別に私が呼びに行った訳じゃないし、気にしなくていいわよ」
さとりが礼を言うと、少し照れながら霊夢が言った。
「あのぅ、さとり様、そろそろ帰らないと…」
そこで、燐が少し躊躇いながら進言する。
言われて初めて、帰る予定の時間を過ぎている事に気付く。
「ん、そうね…すいません霊夢さん、私達はそろそろ…」
「そう、また気が向いたら遊びに来なさいな」
名残惜しそうなさとりに対して、霊夢はそうでもないようだった。
霊夢からすれば、これもいつもの日常の出来事とそう変わりはしないからだ。
「遊びに…ですか…」
初めてそんな事を言われて、さとりは少し戸惑っていた。
霊夢の心を読めば、それが言葉だけのものではないと分かる。
「そうよ、礼とかそういう理由はなしでね。お茶くらいは出してあげるわ」
「は、はい…ありがとうございます、霊夢さん…」
その言葉だけで、さとりは嬉しくて泣いてしまいそうになっていた。
勇気を出して霊夢に会いに来て良かったと、心の底から思う。
主の嬉しそうな様子を見て、燐も嬉しそうだった。
「あぁもう、泣かないの」
予想外の反応に少し困りながら、さとりの頭を撫でてなだめる。
子ども扱いをしているようにも見えるが、霊夢が思いついた事はこれくらいしかなかった。
「ほら、顔上げて。燐も待ってるし早く行ってあげなさい」
「は、はい…ありがとうございました、霊夢さん…」
霊夢が早く行ってやるように促すと、礼を言ってから燐が待っている場所へ向かった。
そこでようやく、巫女服を着せたままだった事を思い出した。
「そういえば服…ま、いいか。次遊びに来たときに返してもらえば」
「はい、分かりましたーっ」
どうやら、霊夢の声が届いた…と言うよりは、さとりの能力の範囲内だったようだ。
返事が返ってきた事に少し驚いた霊夢だったが、明るく答えるさとりを見て安心して見送る事が出来た。
「たまには悪くないわね、こういうのも」
二人が帰った事を確認してから、霊夢は少し嬉しそうに呟いた。
ちょっと改行がなさすぎて読みにくいかなあ?
出来れば他のキャラでも書いて欲しいです!
まさかこんなところで東方Project第一作のラスボスに出会えるとはw
そしてさとりん可愛いよさとりん
無碍にする→無下にする、です