「もう駄目。私おかしくなっちゃいます」
誰もが、心の奥底に闇を抱えている。成功者が憎い。怠けたい。ナズーリンを僕っ娘にしたい、など。
そんなよくある煩悩を振り払うべく建てられたのが、ここ命蓮寺。
グラビア体型のマリア様と名高い白蓮から、ウホッいい雲山までバラエティに富んだ美形が揃っており、余計にムラムラしてくると評判である。
「私、変なんです。どうしても、ナズが女装少年もしくは男の娘だったら良かったのに、と考えてしまうんです」
「落ち着いて星。どっちも同じ意味だわ」
特に近頃は、寅丸が酷い。全身からラブコメの空気を漂わせている。これではとらぶるになりかねない。
事態を重く見た聖は、自室に彼女を呼び出したのだ。
説法か鎮静剤で、迷える魂を救うというプラン。めんどうになると後者に頼りがちなのが、聖の悪い癖だったりする。
「あるがままを受け入れるのよ。信じるのです。さすれば救われん」
やば、ちょっと別の宗教っぽくなっちゃった、と聖は焦った。
「そうですね……うん。聖の言う通りだ。私、何悩んでたんだろ。簡単な話だったんですね」
「え?」
「可愛けりゃ別に女の子でもいいよね」
「よくぞ悟ったわ!」
「じゃあさっそく、ナズと一輪とムラサとぬえと雲山に告白してきます!」
「お待ちなさい」
聖はサタンの如き形相で叫ぶ。「どうして雲山まで攻略対象に入ってるのに、私だけハジかれてるのかしら!?」と。
「だって、聖は皆のものだから、私が手を付けちゃいけないと思って」
「まさか。お手付きは大歓迎よ。私も、女なんですから。結婚願望くらいあるわ」
「いや、さすがに結婚はちょっと」
人生観の違いが浮き彫りになる。
籍は入れずに、気楽な人生を楽しみたい星。僧なのに将来の夢が、可愛いお嫁さんの白蓮。
二人の溝は深く、このまま破局した方が人類の為である。
「神父様の祝福の元、教会で素敵な式を挙げたい。それが人間として普通の感覚でしょう!?」
「私、人間じゃないんですけど」
「あれっ。星って妖怪だったっけ……虎柄に髪を染めてるだけの、人間なのかと思ってたわ」
「これは地毛です」
星は不安になってきた、コイツ本当に私のこと好きなのかしらと。
「さては私なんてどうでもいいんでしょう? だからあやふやにしかプロフィールを覚えてないんですね!」
星の嘆きが本堂まで響く。思いっきり悪い噂が広まりそうな声量だが問題無かった。
これより下は無い、というくらいに命蓮寺の評判は下がりきっているため、どんな破廉恥イベントも許容できる者しか訪れないからだ。
「し、星こそ、好きな人が沢山いるじゃないの。貴方にだけは不誠実さを責められたくないわ」
「聞く耳持たないです。もう聖なんて信じられません。また魔界に戻って介護されてりゃいいんですよ」
「なんですって! この受けタイガー! 美少女版しまじろう! ドジまっしぐら!」
「――!? 酷い、気にしてるのに!」
いよいよ口論は激しさを増していく。
互いの人格や外見を貶し、髪を引っ張り合う。続いてビンタ。
宗教施設にあるまじき暴力沙汰だ。
「……くっ。いいわ。今回は私が引いてあげましょう」
三十分ほど経った頃だろうか。
殴られてるうちに、(なんだかSMみたい)と妙な発見をした星が恍惚の顔を浮かべ始めたので、気持ち悪くなった聖が降参した。
「最終的に私が勝ったとはいえ、やりますね聖……ていうか強過ぎです。虎を素手で圧倒する人間の女性なんて初めて見ました」
「ふふ。神様は日頃の行いが良い方を味方するのですよ」
「どうでもいいですけど、神様とか教会とか、さっきから発言がクリスチャンっぽくないですか」
「あっ」
聖の顔色が変わる。実はキリスト教の方が好きな事は、トップシークレットの筈だったのに。知られたからには、生かしておけない。
「ごめんなさいね。これだけは使いたくなかったんだけど」
対ネコ科用決戦兵器――マタタビ。冒頭で名前が出ていた鎮静剤はさっき自分に打ってしまったので、庭でむしってきたこの野草に頼らざるを得ない聖である。
「正気ですか。そんなの使ったら、聖もタダじゃ済まないわ」
「あら、どうなるというの?」
「錯乱状態に陥った私が、いきなり襲い掛かってにゃんにゃんハッスルしちゃうかもしれないんですよ!」
「なにそのご褒美」
バフッ。
好奇心に駆られた聖が、思いっきりマタタビを叩きつける。
「な、なんてことを……うぐ……あれ? 意外と効かな……あハイ、すんません期待させちゃったんで頑張りますグギャオオオオ!」
やや演技が入っているものの、星は前フリ通り豹変した。
その芸人根性に聖は惚れ直し、物陰からこっそり見ていたぬえは震え上がった。
「フハハハ! 覚悟なさい聖、同人誌みたく可愛がってやる!」
聖は、ぬえが覗き見していた事に気付き、自分が新たな性癖に目覚めるのを感じていた。ちょうど可愛いストーカーが欲しかったらしい。
「もう逃げられんぞ!」
「ん? ごめん、ぬえの方に集中してたから忘れてた。何すればいいんだったかしら」
「聖ぃ!」
つれない白蓮だった。天然なのか痴呆なのか年齢的に怪しいところだが、見た目が綺麗なお姉さんなので介護も大歓迎であり問題無い。
どんどん物忘れして欲しい、最終的にはオムツ替えてあげたりしたい、というのが命蓮寺メンバーの本音である。
「あんまりです。酷いです。ここまでの放置プレイは初めてです」
「放置プレイってなあに?」
「え。えっと……大好きな人にして欲しいことかな……」
天然ふわふわ系の聖と、性癖かっ飛び系の星。両者の会話は限度を知らず、聞き過ぎると宇宙が見えると評判だ。
その現象を悟りの境地と勘違いして、入信してしまう可哀想な人がいるのを我々は胸に刻んでおかねばなるまい。
「じゃあ私も、大好きな星に放置プレイして欲しいわ」
「え。それって」
唐突にいい雰囲気にする聖。
そろそろ仲直りがしたくなってきた、という訳ではなく。お腹が空いたのでとっとと星を沈静化させて休息するつもりなのだ。
露骨なご機嫌取り。しかし星は引っかかる。世界はご都合主義で回っていた。
星は深夜アニメでも通用しそうな表情で、聖の胸に飛び込む。
「んもう。星ったら甘えん坊ね……ここじゃ駄目よ、マリア様が見てらっしゃるわ」
「やっぱクリスチャンですよね貴方?」
「間違えた。阿弥陀如来様が見てらっしゃるわ」
やべぇこの寺終わってる。ぬえは実態を知り、脱走を決意した。が、床中に散乱していたマタタビに足を引っ掛け転倒。
もちろんその物音を聞きつけた聖と星に把握され、百合色の罰を受けたのは言うまでも無い。
「ふぅ。ぬえ相手にタイガータイム(隠語)したら、興奮が収まってきました。ありがとう聖、迷惑をかけましたね」
「誰にだって発情期くらいあるもの、気にしないわ。でも、一つだけ教えて」
「はい?」
「どうして最近になって急にラブコメ脳になり始めたの? 以前は真面目だったじゃない貴方」
「そ、それは」
一週間前から聖が服を着忘れてるせいです、なんて言える筈が無い。
「……聖って、最近物忘れが進行してますよね」
「どういう意味?」
指摘したら傷つくだろうし、そもそも目の保養になるので放置が一番である。
聖だけに白薔薇様なんでしょうね。んで、たしか、現白薔薇スールは仏教マニアでしたよね。
……なにかこう、キバヤシ的な香りのする因果を妄視しました。
まぁ自分でも何いってるのか分かりません。
まあ公式でも表記ぶれてますがー
タイトルも面白いですね。
鎮静剤に頼っちゃだめーw
是非入信させて下さい。
作者さま、いざ南無三!
・・・OK、俺に良しだ
この短い中なのになんて濃密なんだ。
この命蓮寺にはまだまだ他の裏ストーリーがありそうだ。
これぞまさに「やおい」小説!
トップ二人がこれだと他の住人も……わくわく。
かくあるべし
ノリの良い文章。勢いのままにスクロールバーを下げるばかりでした。
「つまりどういうことだってばよ!?」みたいな。
これはひどい。(誉め言葉)に尽きますなww
gj
裸足で逃げ出すレベルだwww
間違えたって軽く言ってごっつい名前が登場するギャップがすごい!
そしてオチの壮大さにもまた。
ぬえにとっては裸の白蓮様はノーマルなんですねわかります
悟りの道はまだまだ険しいようです
しかしこれは逃げていい類の変態ではない! 追い縋り追い着き追い越さねばならない。そう思える妙蓮寺でした。