ここ香霖堂に客が訪れることは滅多にない。
その原因として人里から離れているという立地条件の悪さや、店で取り扱っている商品の特異さなどが挙げられる。
人里からわざわざ何時間もかけて店を訪れ、使い方も分からないような道具を購入していく物好きはまずいないだろう。
しかし、店主である森近霖之助は客足の少ない店の現状をそれほど嘆いてはいなかった。
むしろ1人の時間をこよなく愛する彼にとっては、稀にしか客が訪れない今の環境は好ましくさえあった。
その辺、商売人としてどうなのかと思わざるを得ないのだが、霖之助本人は商人として大成したいという願いよりも、自分が気に入った道具や稀少品に囲まれながらのんびり豊かな人生を送りたいという願いのほうが強いため、周りがどうこう口出ししても仕方がない。
そもそも本当に商売をする気があるのなら、こんな辺鄙な場所に店を構えたり用途不明の怪しいアイテムを商品として扱ったりはしないだろう。
そんな訳でこの店に足を運ぶ者といえば、吸血鬼の従者かスキマ妖怪、あとは巫女や魔法使いぐらいのもので(後者3人は客ですらないが)
大抵の場合香霖堂には店主である霖之助しかいないことが多く、必然的に店内は静寂に包まれることになる。
客が訪れない以上霖之助にすることはなく、そういう時は決まってカウンター席に腰掛け、読書に精を出すのが日課となっているのであった。
そう、客が訪れない以上は。
「………………」
静まり返った店内。
いつもの彼なら本に書かれた内容を一文一文噛み締め、まるで風景と一体化してしまったかのように読書という行為に埋没するのだが、どうやら今日の彼はそれどころではないらしい。
一応本を開いて内容に目を通してはいるものの、その様子にはどことなく落ち着きがなく、まるで読書に集中できているようには見えない。
どうやら何かが気になって仕方ないらしく、時折店内の片隅――棚の陰に隠れて薄暗くなっている空間を横目でチラチラと窺っている。
よーく耳を澄ませてみると、いつもなら静まり返った店内には霖之助が本を捲る音しか存在しない……はずなのだが、今日に限ってはその音に加えてもう一つ、サラサラ......というささやかな音が、この空間に同居している。
サラサラサラ......
まるで何か細かいものが、ゆっくりと零れ落ちるかのような音。
その音は先程から霖之助が様子を窺っている一角から聴こえてきている。
薄暗い店の中、目を凝らしてよく見てみると、ストーブの僅かな明かりに照らされて小柄な人影が確認できる。
その人影は椅子に腰掛けて机(というより商品棚に近い)に突っ伏した状態で、先ほどの音の正体――砂時計を、ただぼんやりと眺めている。
人影の背中辺りからは枝のような物が2本生えており、その枝にまるで木の実がなるかのように、きらきらと煌く宝石らしき物体が等間隔に並んでいる。
一見、それが何なのか理解しにくい構造をしているが、位置的に考えてどうやらそれは翼のようだ。
これほど独創的かつ色鮮やかな翼を持つ者など、数多くの魑魅魍魎が跋扈する幻想郷といえど、ただ一人しか存在しない。
悪魔の妹にして大よそ500年もの歳月を生きた吸血鬼――フランドール・スカーレットが、古ぼけた薄暗い道具屋の中で一際異彩を放ちながら存在していた。
今から1週間ほど前のことだっただろうか。
その日、香霖堂には紅魔館に住む吸血鬼、レミリア・スカーレットと、その従者である十六夜咲夜が訪れていた。
彼女たちはいわゆる"お得意様"に当たり、定期的に店を訪れては高価なアンティークや日用品を買っていってくれる。
普段は客が来たとしてもこれといって接客をすることのない霖之助であったが、相手が数少ないお得意様となれば話は別だ。
いくら商売に積極的ではないといっても、店を経営する以上は売り上げも必要になってくる。
そして売り上げを得るためには、彼女たちのような"お金持ちのお得意様"を手放すわけには行かないのだ。
そんなこんなで自身の持つ接客スキルをいかんなく発揮しつつ、自慢の商品たちを、自慢の含蓄と解説で、自慢げに勧めていた霖之助であったが、
「相変わらず、この店にある物はどれもヘンテコで役立ちそうにないものばかりね」
と、目ぼしい商品を一通り紹介し終えたところで、吸血鬼のお嬢様からダメ出しを食らってしまった。
「……いやいや、そんなことはないよ」
自慢の商品の数々をたった一言で一蹴され、思わず頬が引き攣る。
だがここで少しでも憤りを表に出してしまったら、今回の商談はパァになってしまうだろう。
相手はプライドの高いお嬢様だから尚更である。
霖之助はできるだけ平静を保ちつつ、極めてにこやかな営業スマイルでレミリアの言葉に異議を唱えた。
「たしかにここにある物の多くは、使い方も分からないうえ実用性にかけるものがほとんどだが……
そういった物こそ、君のように高貴な人物には必要だと思うんだ」
「どういう意味かしら? 実用性のないガラクタが私にはお似合いだとでも?」
今の言葉を侮辱と取ったのか、レミリアの表情が鋭くなる。
隣に控えていた咲夜からも心なしか敵意のようなものが感じられた。
しかし、この程度で怯んでいては幻想郷で商売などできはしない。
ここ香霖堂には時として、幻想郷のパワーバランスを担う大妖怪や神様ですら訪れることがあるのだ。
もっとも、今目の前にいる吸血鬼もパワーバランスの一角を担う存在なのだけれども。
「いやまさか、そんな意味で言ったんじゃないよ。
実用性がない物……それはつまり、見て楽しんだり聴いて楽しんだりする物……いわゆる芸術品のことだ」
芸術品は実生活において何の役にも立たないが、その存在は決して不要なものではない。
「逆に実用性がある物とは、料理や掃除などの家事・雑務に使われる物……いわゆる日用品のことだね」
それに対して日用品とは普段の生活で役立つ物のことを指すが、言ってしまえばそれ以上でもそれ以下でもない。
「君のように他者を従え、集団の頂点に君臨する者には、そういった日用品は必要ないだろう?
それらを使い、主のために尽くすのは従者や家来たちの役目だからね」
霖之助はできるだけ嘘臭く聞こえないよう、流暢に言葉を紡いでいく。
「はるか昔においては、芸術を理解し楽しむことができるのは上流階級の者たちだけの特権だった。
ゆえに実用性のないもの……すなわちここにある芸術品の数々こそ、君にふさわしいと思ったんだ」
今言ったことは嘘ではない。芸術とは身分の高い者たちの間で生まれ、時代が進むにつれて庶民にも伝わっていったものだ。
昔の庶民たちは支配者や権力者たちのために働くことで精一杯で、芸術を始めとした趣味嗜好を楽しむだけの余裕がなかったのだろう。
「ふぅん……まぁいいわ、許してあげる。
少し弁解臭いけれど、嘘を言っているようには見えないし……
それに元々、こういうガラクタしか置いていない店だと知った上で、暇つぶしに来てるだけだしね」
だからガラクタではないと言うに。
霊夢にしろ魔理沙にしろ、どうして僕の周りの者たちはここにある道具の魅力に気付いてくれないのだろうか。
だがまぁ、レミリアの機嫌を損ねずに済んだようなので良しとしよう。
「はぁ……まぁしかし、こうして店を訪れて商品を見ていってくれるだけでも有難いよ。
君たちはお得意様だからね、多少の冷やかしにも目を瞑るさ」
「別に冷やかしに来てるわけじゃないわ。単なる暇つぶしよ」
それは冷やかしと何か違うのだろうか。きっと違うのだろう。少なくとも彼女の中では。
「どちらでも構わないさ。まぁ、ゆっくり見て行ってくれたまえ。何かお気に召すものがあるかもしれない」
霖之助はそう言ってカウンター席に戻り、読書を再開した。
「お客様が来てるというのに、接客はもうお終いなのかしら?」
「さっきの説明で店主としての役目は果たしたよ。あとは君のセンスで自由に商品を選んでくれればいいさ」
何でもかんでも商品を勧め、強引に売りつければいいというものではない。
中には誰にも邪魔されず、じっくり品定めしたいという客だって存在するのだ。
これ以上商品について語って聞かせても、煩わしく感じられてしまうかもしれないし、さほど購買意欲を刺激できるとも思えない。
だったらここでこうして読書をしていたほうがマシだろう。時間は有限なのだ、無駄なことはしないに限る。
決して商品を馬鹿にされたり、解説を無碍にされたことで拗ねているわけではない。
「そういうところも相変わらずねえ……まぁいいわ、ゆっくり見ていきましょう。
咲夜、あなたも好きにしてるといいわ」
「かしこまりました。では、お言葉に甘えて」
そう言って、彼女たちは思い思いに店内を物色し始めた。
「ちょっと、店主」
数十分後、読書に没頭する霖之助にレミリアの声がかかった。どうやら目ぼしい品を見つけたらしい。
「なにかお気に召すものが見つかったのかい?」
読みかけの本を机の上に置き、レミリアが呼ぶ店の一角へと移動する。
「この宝石だけど、一体どういった代物なのかしら? ただの宝石じゃないんでしょ?」
レミリアが指差す先には、小さなショーケースに収められた、赤い宝石があった。
見た目はただの赤い石だが、その宝石からは僅かながら魔力のようなものを感じる。
レミリアはそのことに気付いたのだろう。
「さすがにお眼が高いね。君の思うとおり、それはただの宝石ではない。名称を血赤珊瑚という」
「けっせきさんご? 珊瑚というと……たしか海の底にあるという石のことだったかしら」
「よく知っているね。正確に言うと石ではないが」
「もう昔のことだけど、私は外の世界から幻想郷にやってきたのよ? 海ぐらい知っているわ。
それに知識の豊富な友人がいてね、暇なときには色々な雑学を吹き込んでくれるものだから、そのときに聞いたのかもしれないわ」
彼女の言う友人とは、紅魔館にある図書館の主、パチュリー・ノーレッジのことだろう。
実際に会ったことは無いが、以前魔理沙から、紅魔館の図書館には博識な魔女がいると聞いた覚えがある。
「まぁ珊瑚についてはともかく、この宝石、名称こそ血赤珊瑚と呼ばれているが、実際には珊瑚ではないんだよ」
「珊瑚ではない?」
「少なくとも、これが本物の"血赤珊瑚"ならね」
霖之助はショーケースの蓋を開け、中から血赤珊瑚を取り出してレミリアに見せた。
「血赤珊瑚にはある伝説があってね……君はメデューサという怪物のことを知っているかな?」
「髪の毛が無数の蛇で出来ていて、目が合った者を石に変えてしまう化け物のことね」
「ご名答。そのメデューサが退治された際、切り落とされた首から滴り落ちた血が海に流れ、血赤珊瑚になったと云われている。
だからもしこれが伝説にある"血赤珊瑚"そのものなら、これは珊瑚ではなくメデューサの血の結晶ということになるね」
血石珊瑚と呼ばれる代物は、外の世界で普通に出回っているらしい。
だがそれは、正真正銘"珊瑚の一種"であり、名称こそ血赤珊瑚であるが、伝説上の"血赤珊瑚"とは全くの別物なのだ。
だが、ここにある血赤珊瑚からは、微量ではあるが魔力を感じる。
もしこの石が、かの怪物が流した血の塊なのだとしたら、魔力を秘めていて当然だろう。
よってこの宝石は、本物の"血赤珊瑚"である可能性が高いと言える。
そんな感じのことをレミリアに説明した霖之助は、手に持った血赤珊瑚をレミリアに手渡した。
貴重な商品には傷が付かないよう、商談が成立するまで極力人の手に触れさせないようにすべきなのだが、彼女に限ってその心配はないだろう。
見た目こそ子供(中身もそれ相応な部分がある)ではあるが、仮にも一国一城の主、誇り高き吸血鬼である。
誤って商品を傷つけるなんてことはないはずだ。
「ふーん……伝説の怪物が流した血の塊ねえ……」
レミリアは何やら呟きながら、しばらくの間手の上の宝石を見つめていたが、やがて一言「これ、頂くわ」と言った。
次の瞬間には咲夜がレミリアの隣に立っており、財布らしきものを取り出していた。さすが瀟洒と呼ばれるだけのことはある。
「で、お幾らかしら?」
「そうだね……本物の血赤珊瑚ともなるとさすがに値は張るが、
普段から君のところには贔屓にさせて貰っているし……これくらいでどうだろう?」
近くにあった算盤で値段を弾き出し、レミリアたちに見せる。
宝石の値段としては可もなく不可もなくといった額であったが、もしこれが本物の血赤珊瑚であった場合、少々安すぎるような値段である。
「思ったより安いのね、本当にこの額でいいのかしら?」
確かにいささか安すぎる気もするが、これが必ずしも本物の血赤珊瑚とは限らない。あくまでその可能性が高いというだけだ。
それに、宝石などという高価な装飾品を買っていってくれる客など、この幻想郷にはレミリアぐらいしかいないだろう。
他にいるとすれば、魔法の森に住むアリス・マーガトロイドや、先ほど話に挙がったパチュリー・ノーレッジなどの魔女たちが、実験に使用するために買っていくか、或いは八雲紫あたりが気まぐれで買っていくか……ぐらいのものであろう。
どちらにせよ、いつまでも店に売れ残って埃を被るぐらいなら、売れるときにそれなりの額で売ってしまったほうがいい。
「その値段で構わないよ。宝石なんて、男の僕が持っていても仕方ないしね。
この血液を凝縮させたように美しく紅い宝石は、スカーレットデビルたる君にこそ相応しいだろう」
「お世辞は結構よ。でも、悪い気はしないわ。その値段で買い取りましょう」
慣れない褒め言葉を使ってみたが、思ったより受けは良かったようだ。
一歩間違えれば、プライドの高い彼女の機嫌を損ねてしまうかとも思ったが、言ってみて正解だった。
支払いを終えたレミリアたちは、すぐに帰ろうとしたため、店の外まで見送りに出て行くことにした。
こういった細かな気遣いやサービスが大事なのだと、修行時代に霧雨の親父さんから教わったからだ。
店の前から飛び去る寸前、レミリアは霖之助を振り返り、こう言った。
、、、、
「それじゃあまた、今後ともよろしく」
気のせいだろうか。何気ない一言のはずなのに、妙な含みがあったような気がする……
だがしかし、これからもウチを贔屓にしてくれるというのなら是非もない。
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。またのご来店をお待ちしております」
そう言って霖之助は軽く頭を下げた。
そのせいで、彼はレミリアの口元に浮かんだ怪しげな笑みを見逃してしまっていた。
、、
レミリアが血赤珊瑚を買っていった翌日の夜。ソレは唐突に、まるで嵐のように訪れた。
いや、この言い方だと嵐に対して失礼かもしれない。
嵐なら、雨戸さえ閉めておけば窓が割れることもないし、家屋の中にいる限り雨風に晒されることもない。
しかし、この度香霖堂に訪れたソレは、窓や雨戸どころか壁そのものをぶち抜き、屋根瓦をまるで紙細工のように容易く破壊してしまう、そんな規格外の存在であった。
というか実際に、香霖堂の壁は窓ごと破壊され、屋根の一部がまるで巨大な生物に食いちぎられたかのように消失している。
「なんだこれは……」
時刻は午前1時を回ったところ。文句なしに深夜と言っていい時間帯である。
霖之助は半人半妖であるものの、基本的には人間と同じく、朝起きて夜に寝るという生活サイクルを送っている。
この日も一日の業務を終え、夕食と風呂を済ませて布団に潜り込み、今まさに眠りに落ちようとしていた……正にその瞬間だった。
突如店内に、何かが爆発するような轟音が響き渡り、霖之助は浅い夢の世界から現実の世界へと、強引に引き戻されたのだ。
何事かと思い布団から飛び起きた霖之助は、薄暗い部屋の中、枕元に置いてあった眼鏡を手探りで探し当て、音のした店内へと急いで向かった。
そうして真っ先に目に飛び込んできたのは、跡形もなく破壊された香霖堂の一角だった。
「なんだこれは……」
あまりのショックで頭の中は真っ白になり、先ほどと全く同じ台詞が、無意識に口からこぼれる。
ほんの数分前まで屋根があったであろう場所からは、見事な丸い月が顔を覗かせている。
霖之助は風情を解し、それを楽しむことができる人物であったが、この時ばかりは月が綺麗だなどという感傷は一切湧いてこなかった。
何が起きたのか、どうしてこうなったのか、これから何が起きようとしているのか。
そんなような思考が浮かんでは消え浮かんでは消え、ひたすら頭の中で堂々巡りを繰り返している。
「誰かいないのー?」
と、唐突にどこからか声が聞こえ、霖之助の意識が思考の泥沼から引きずり出された。
声のした方を見てみると、暗がりの中に誰かがいるようだ。
明かりがないので顔までは窺い知れないが、ぼんやりと人影のようなものが見て取れる。
霖之助はその誰かに声をかけようとし、一瞬悩んだ。
状況的に見て、目の前の誰かは、この惨状を引き起こした張本人である可能性が高い。
これだけの大破壊をやってのける人物(?)だ、危険な妖怪の類かもしれない。
この近辺にこれほどの力を持った妖怪が住んでいるという話は聞いたことがないし、見たこともないが、新たにこの付近に住み着いた妖怪の可能性もある。
霖之助は半妖でこそあるものの、大した戦闘力を持たないため、もしここで相手に気付かれて戦闘にでもなってしまったら、正直勝ち目があるとは思えない。
平和的に話し合いで解決……といきたいところだが、人の店を何の宣言もなくここまで破壊してしまえる相手が、友好的な性格をしているとも思えない。
(ここは一旦気付かれないように避難したほうが得策か……)
そう結論付けて、こっそりとこの場を立ち去ろうとしたとき、
「……そこにいるのはだれ?」
謎の人影がこちらに振り向くのが気配で分かった。
(まずい、気付かれた――!)
「あんなに大きな音がしたのに、誰も出てこないんだもの。てっきり留守かと思っちゃったわ」
人影はそう言うと、1歩1歩こちらに近付いてくる。
自分の存在に気付かれた瞬間こそ、肝を冷やした霖之助だったが、人影の発する声音に敵意や害意が感じ取れないことが分かると、幾分緊張がゆらいだ気がした。
そもそも流暢な人語を話せている時点で、それはある程度の知性が備わっている証拠であり、つい先ほどまで頭の中に浮かんでいた、野蛮で荒々しい妖怪のイメージは消失した。
それによく聞いてみると、その声はまるで幼い少女のように可愛らしく、とてもじゃないが物騒な妖怪が発する声とは思えない。
人影が霖之助に近づくにつれて、壊れた天井から差し込む月明かりが、人影の風貌を少しずつ明るみにしていく。
やがて人影は霖之助の目前にまでたどり着き、彼の顔を間近で認めるとこう言った。
「私はフランドール。ここは"こーりんどう"っていうお店であってるの?」
壊れた屋根の間から差し込んだ月光は、まるでスポットライトのように、幼き吸血鬼のあどけない顔を照らし出した。
「あいつがここで買ったっていう宝石を自慢げに見せびらかすの。だから私も手に入れてやろうと思って来ちゃった」
てへ、などという擬音が似合いそうに、目の前の吸血鬼、フランドール・スカーレットは言った。
ちなみに今の状況はというと、店の奥にある畳の間で卓袱台を挟み、2人して座っている状態だ。
見るも無残になった店先で、軽い自己紹介やらを済ませた後、このまま寒空の下で話し続けるのも何だろうと思い、ひとまず被害の及んでいない店の奥に入ることにした。
あのまま月明かりの下で会話を続けていては風邪をこじらせてしまう。半妖と吸血鬼が風邪を引くなんて話は聞いたことがないが。
「……簡単にまとめるとだ。君はお姉さんがこの店で買っていった宝石が羨ましくて、
自分も同じものが欲しいと思ったからここまでやって来た、と」
「同じものなんかじゃ満足しないわ。あいつのよりもっと凄くて綺麗な宝石が欲しいの!
それでもってあいつに見せびらかしてやるんだから!」
「まぁ……結局は宝石が欲しくてこの店に来たということだね」
なるほど、大体事情は飲み込めた。
レミリアも大人気のないことを……いやまぁ、彼女を大人と判断していいのかどうか迷うが。吸血鬼は何歳以上からが成人なんだ?
ともかくここにやって来た原因は、日常的によくある、姉妹間の張り合いが原因らしい。
喧嘩するほど仲がいいと言うし、吸血鬼といえど、兄弟姉妹というのは人間も妖怪も変わらないなあ。 実に微笑ましい。微笑ましい……が、
「なぜ店を破壊した?」
生憎、そんなどこにでもあるような姉妹愛と引き換えにできるほど、僕の店は安くない。
そもそもこの場合は姉妹"愛"ですらないが。
「え? だってノックしても誰も出てこないし、鍵も開いてなかったから……中に入って直接確かめてみようと思って」
無邪気さを含んだ声でそう答えるフランドール。何かがおかしい。
「扉に鍵がかかっていて、ノックしても誰も出てこなければ、普通は留守か就寝中だと思って諦めるだろう?
もしくはもっと強くノックするとか、裏口に回って声をかけてみるとか……いずれにせよ店を壊すことはないじゃないか」
状況が整理でき、心が落ち着きを取り戻すと、店を壊されたことに対する怒りが静かに湧き上がってきた。そのせいか、語尾が多少強くなってしまう。
構うものか。どうせあの我侭なレミリアの妹のことだ。こっちが怒りを露にしたところで、何食わぬ顔で「私は悪くないもの」などとのたまうに違いない。
そう思ってフランドールの次の言葉を待っていると、
「――ごめんなさい」
という、か細い声が聞こえた。
見ると、フランドールは座布団の上に座ったまま、膝に手を着いて顔を伏せている。
怪訝に思って彼女の顔を覗きこんでみると――その顔には懺悔の色が濃く浮かんでおり、瞳は微かに潤んでいるようにも見えた。
「わたし、どうしても宝石がほしくて……ようやくここまで来たのに誰もいなくて、
ここがこーりんどうっていうお店なのかも分からなくて、それで、それで……っ!」
――見ていられない。これではまるで僕が悪役だ。被害を被ったのは僕のほうだというのに。
「……分かったよ。もういい、もう怒ってないから落ち着くといい。つい言い方がキツくなってしまったね。
暗い森の中、見知らぬ場所に一人で来てしまって不安だったんだろう? もう大丈夫だから……」
「……うん、ほんとにごめんなさい……」
たしかに店の損害は大きい。だが、不幸中の幸いか、店が崩れた一角には商品を並べておらず、破損したのは純粋に家屋だけだった。
貴重な品物やレアアイテムが傷付いたとなると、さすがにショックが大きかっただろうが、壊れたのが店だけならば、また直せばいいだけの話だ。
……とりあえず修理費だけは、後で紅魔館に請求しておこう。
慰めた甲斐があったのか、フランドールは少なからず元気を取り戻したようだった。
(しかし、レミリアの妹というからもっと自分勝手で我侭な性格を想像していたんだが……存外素直でいい子じゃないか)
一応はフランドールの手前、姉であるレミリアを貶めるようなことは口に出さないが、本当に姉と違って、随分としおらしい性格をしている。
店を壊してしまったのも、決して悪意や自分勝手な考えからでなく、あくまで純粋に店に入りたかった、あるいは誰でもいいから人に会いたかったからなのだろう。
行為自体は褒められたものではないが、動機は決して邪なものではない。善悪の判断がつかない子供といったところだろうか。
「それでたしか、宝石を探しに来たんだったね。今取ってくるからここで少し待っていてくれるかい?」
「うん、分かった。大人しく待ってる」
フランドールは元気良く答えると、なぜか背筋をピンと伸ばし、姿勢を正して座布団の上に座りなおした。
そんな様子を見て、思わず頬が緩む。本当にどこまでも純粋なのだろう。
「そんなに畏まって待たなくてもいいさ。楽にしているといい」
僕はそう告げると、店のさらに奥にしまってある宝石箱を取りに向かった。
「そんなに畏まって待たなくてもいいさ。楽にしているといい」
霖之助は口元に笑みを浮かべ、優しい声でそう言うと、店の奥に行ってしまった。
(最初は怖い人かと思ったけど、優しい人で良かったな……)
店を壊したことを霖之助に咎められたとき、フランドールは言い様のない恐怖と不安に駆られた。
そもそも屋敷の外の人間……それも大人の男性と話すこと自体に抵抗があるのだ。
何百年もの間、館の外に出たことがないのだから仕方ない。
普段身内に対しては、溜め込んでいるストレスのせいもあってか、遠慮のない言葉をかけることができる。俗に言う内弁慶というやつだ。
巫女と魔法使いがやってきたときも、恐怖より好奇心のほうが大きかった。見た目が自分と大差ない少女だったからというのもあるかもしれない。
久々に出る屋敷の外、見知らぬ土地と風景、ここ数百年見たことのない大人の男。
これらの要因が重なり、いつもは強気なフランドールが、普段の姿からは想像もつかないほど弱気になってしまっていたのだった。
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彼女の姉やその従者が今のフランドールを見たら、気が狂いすぎて正気になってしまったのかと思うだろう。
あるいは珍しい物を見たと言って笑うだけかもしれないが。
(私らしくないなあ……でも男の人と話すのは久々だし……ええい、こんなこと考えてても仕方ないじゃない!)
彼女は心の中でそう結論付けると、今の自分の態度について、考えるのを放棄した。
(それにしても、見たことないものがいっぱい……)
フランドールが座っている部屋は、香霖堂の居住スペースにある一室であり、いわゆる茶の間にあたる。
彼女は知る由もないが、この部屋では普段、巫女が勝手にお茶を飲んだり、魔法使いが同じく勝手にくつろいだりしている。
用途の分からない小道具や、価値の分からない置物がいくつか目に映るものの、基本的には質素な部屋であり、どこにでもあるただの和室にすぎない。
それでも、館の外の世界を知らないフランドールにとって、ここはまるで異世界のようにさえ思えるのであった。
古びた卓袱台、痛んだ畳、穴の空いた障子。
、、、、、、、、、、、、
この部屋にある、ありとあらゆるありふれた物の数々が、彼女にとっては初めて見る未知のアイテムなのだ。
(紅魔館とはずいぶん違うなあ……ん?)
そのとき、興味深く部屋を見回す彼女の視界に、より一層興味を引かれるものが映った。
(あれ、なんだろう……?)
「やぁ、随分と待たせてしまったね」
数分後、霖之助はやたら高級そうな宝石箱を胸に抱え、部屋に戻ってきた。
「宝石なんて普段は店先に出さないから、どこにやったのか忘れてしまってね……フランドール?」
見ると、フランドールはどこか呆けたような表情で、部屋の隅に目を向けている。
気になってその視線を追ってみると、その先にはとある道具が転がっていた。
「……その道具が気になるのかい?」
霖之助が声をかけると、フランドールはびくっとしてこちらに振り向いた。
どうやら霖之助が戻ってきたことに気付いていなかったらしい。
それほどまでにその道具が気になっているということか。
「えっと……うん、何だか見たことない形をしてるし、キラキラ光ってて綺麗だったから」
フランドールが気になっている道具とは、一般的な形をした、どこにでもあるような砂時計だった。
中に入っている砂は、人工的に作られたものなのか、自然物にはない色彩と輝きを放っている。
それが美しいといえば美しいものの、見る人によっては逆に安っぽい感じがするのも歪めない。
「それは"砂時計"といってね。時間を計るための道具さ」
つい先日、霖之助が無縁塚に道具の仕入れに向かった際、"カップ麺"なる外の世界の食べ物を拾った。
蓋に書かれた説明書きによると、湯を入れてからピッタリ5分後に食さねばならない食べ物らしい。
そこで、5分という時間を正確に計るために、この砂時計にご登場願ったというわけだ。
どうやら使用した後、元の場所にしまい忘れていたらしく、こうして部屋の片隅に転がっていたというわけだ。
「あれが時計なの? 針も数字もないよ?」
「砂時計というのはね、時計という名が付いてこそいるものの、時刻を計ることはできないんだ。だから、時刻を示すための針や数字はいらないのさ」
霖之助は落ちていた砂時計を拾い上げると、卓袱台を挟んでフランドールの正面に座り込んだ。
「これはある一定の時間を計るための道具なんだ。サイズや中に入っている砂の量によって違うんだが……
この砂時計は5分を計るためのものだね。見ててごらん」
そう言って、砂が溜まっていないほうを下に向け、卓袱台の上にそっと置く。
それと同時に、上のほうに溜まっていた砂が、重力にしたがって少しずつ下に落ち始めた。
「わぁ……」
「こうして砂の溜まっていないほうを下に向けると、砂が中央の細い部分を通って少しずつ下に流れていく。
そしてこの砂が全て落ちきったときが、ちょうど5分後というわけさ」
砂時計というのは、とてもシンプルで分かりやすい構造をした道具だ。
それでも大昔の人々にとっては、画期的な発明であったに違いない。
太陽の位置や影の向きでは大雑把な時間しか計ることができないが、砂時計ならば、わずか数分といった微細な時間を計ることができるからだ。
それに、シンプルな造形の中にも、どことなく芸術的な美が備わっていると、霖之助は思う。
一言に砂といっても、ただの砂鉄から貝殻を砕いたもの、人工的に着色された煌びやかな粉末など、中に入れられる"砂"は様々だ。
中の砂自体に細工を施すことで、見るものを飽きさせない工夫がなされている。
ガラスでできた管は緩やかな曲線を描いており、そのラインにはまるで凹凸が見当たらない。
より正確な時間を計るため、より砂が流れやすくするために、その造形には寸分の狂いも許されないのだ。
そういった機能美の数々が、造形美にも繋がっている。
実用性と鑑賞性。この二つが調和され、互いに道具としての完成度を高めあっている砂時計こそ、ある意味究極の道具といえるのかもしれない。
などと、霖之助が益体のない思考に耽っている間も、フランドールは流れ落ちる砂時計に、瞳を輝かせて夢中になっていた。
霖之助が持ってきた宝石箱の中には、これまで彼が採集してきた(といっても拾っただけだが)宝石の数々が収められていた。
それらは価値のあるものからガラス細工のようなものまで、その量はざっと五十を超えている。
この量の中から1つを選ぶのには時間がかかるだろうと、霖之助は踏んでいたが、フランドールは思いのほか迷うこともなく、ある1つの宝石を選び出した。
それは真っ赤に輝くルビーで、宝石の種類こそ違うが、先日レミリアが購入していった血赤珊瑚と類似した色をしている。
「……なるほどね、姉とお揃いというわけか」
「ん? なにか言ったの?」
「いや、なんでもないよ」
この数時間で、何となくフランドールの性格が分かりかけてきた霖之助は、彼女に聞こえないようにこっそりと呟いた。
本人に聞かれたら、恐らくムキになって否定してくるだろう。誰があんなやつとお揃いなんか、と。
「ともあれ、その宝石は結構な値打ちものなんだが……代金はあるのかい?」
「代金? なにそれ?」
おっと、これはどうしたことか。
「なにって……物を買うのにはそれに見合ったお金が必要だろう? 君のお姉さんも、ちゃんと代金を払って宝石を買っていったんだ」
「そっか、そういえばそうだよね。外で買い物なんてしたことないから忘れてたよ」
「思い出してくれたならいいさ。それで、お金はあるのかい?」
「ないよ」
「さぁお帰り」
そう言うと、霖之助はフランドールの手からルビーをひょいっと取り上げ、そのまま流れるような動作で宝石箱にしまい、パタリと箱の蓋を閉じた。
「え~~~っ! なんで!?」
「なんでじゃない。驚きたいのはむしろこっちだよ……」
代金を払って商品を買う、これは当たり前のことであるはずだ。
その当たり前のことができない者が、知り合いに何人かいるが……それはあくまでツケにしているだけであって、決してタダで譲ったわけではない。断じてだ。
いくら健気な少女の頼みとはいえ、ここまで高価な宝石をタダで譲り渡すほど甘くはないし、狂ってもいない。
「いいかい。君が選んだ宝石は"ピジョン・ブラッド"と言って、ルビーの中でも最も高価とされるものなんだ。それをタダで手に入れられるなんて、そんな美味しい話があるわけないだろう」
「でもでも! 私お金なんて持ってないもん!」
「持ってないなら仕方ないさ。残念だが宝石は手に入らない。これは当然の決まりであり、常識だよ。またお金を持って出直してくるといい」
「だから! 私はお金なんて持ってないんだってば!」
「もしかして……今は持っていないという意味ではなく、そもそもお金自体を所有していない、ということかい?」
「だって仕方ないじゃない。外に出ることがないからお金なんて必要ないし、買い物もしたことないって言ったでしょ!」
「ふむ、そいつは困ったね。仕方がない……」
「じゃあ?!」
「ああ、仕方がない。宝石は諦めることだね」
「そんなぁ~……」
ガックリと項垂れるフランドール。
精神的に幼い彼女のことだ。ともすれば逆上して襲いかかってくるか、駄々をこねるかと思っていたが、何だかんだで聞き分けはいいらしく、どうしようもないと分かると、彼女の周りに諦めムードが漂い始めた。
「せっかくここまで来たのに……」
「………………」
駄々をこねるならこねるでまだ良かったのだが、ここまで落ち込まれると逆にやりにくい。
霖之助は自分の中の良心が痛むのを感じた。
かといって、ここで宝石を無償でプレゼントするかと言われれば、それもまたノーである。あそこまで質のいい宝石は滅多に手に入らない。
それに、情に流されてほいほい品物をタダで譲っていたら、ここが店として成り立たなくなる。
これがお茶っ葉や茶菓子、価値のなさそうな道具ならまだいいのだが、あの宝石はタダであげていい物のラインを、遥かに超える高級品だ。
しかしこのまま彼女を追い返すというのも……
「……ねぇ」
「ん?」
うんうんと唸り続ける霖之助を見かねたのか、フランドールが声をかけた。
「お金がないんじゃ仕方ないし……今日は諦める。宝石なんて、別になくたって困らないし。
いきなり押しかけて迷惑だったでしょ? ごめんなさい」
そう言うフランドールの顔には、先ほどまでの落胆の色は見えない。
だが、無理に作り出した笑顔の端には、明らかに陰りが見える。
本当は諦めたくないのだが、自分が霖之助を困らせていることに気付き、潔く身を引くことにしたのだろう。
そんな表情でそんなことを言われては、霖之助も黙っているわけにはいかない。
(悪魔の妹、か)
もし計算してやっているのだとしたら、なるほど確かにこの子はとびきりの悪魔だろう。
「はぁ……分かった。ここで君を追い返したりしたら僕はとんでもない薄情者だ。きっと自分を責め続けて夜も眠れないだろうね」
「え……でも」
「勘違いしないでくれ。別にタダであげるとは言っていないよ」
「けど、私はお金を……」
「たしかに、お金がなければ商品を買うことはできない。だが世の中には出世払いというものがある」
「しゅっせばらい?」
「そうさ。今はお金を持っていなくても、近い将来、君がお金を手にしたときに、ちゃんと代金を支払ってくれると約束できるなら、今商品を渡そうじゃないか」
フランドールと出会ってからまだ数時間しか経っていないが、彼女は一度交わした約束はちゃんと守れる子だと、霖之助は判断した。
それに彼女は吸血鬼――悪魔の妹と呼ばれる存在である。古来から悪魔との契約は絶対だと伝えられてきた。
最悪の場合、彼女の実家である紅魔館の財力に頼ればいい話だ。
これらの判断材料から、霖之助はフランドールに、出世払いを適用しても問題ないだろうと考えたのであった。
最大の理由はやはり、フランドールの人間性を信頼してのことだったが。
「どうだい? いつか必ず代金を払うと約束できるなら、宝石は今この瞬間から君のものだ」
「う~ん……分かった、約束する!」
フランドールは少し悩んでいたようだったが、やがて元気にそう返事をした。
「じゃあ契約成立だ。一応誓約書を書いてもらうよ。といっても簡単なものだけどね」
霖之助は、戸棚から1枚の紙とペンを取り出して、卓袱台の上に置いた。
「この紙に、いつか代金を支払うという旨と、君の名前を書いてくれればそれでいい」
「でも、こういうのってサインとかがいるんじゃないの?」
「よく知ってるね。けどまぁ、今回はいいさ。どうせ判子の類なんて持ってきてないだろう? それに君なら、ちゃんと約束を守ってくれそうだしね」
「えへへ……」
信用されているということが嬉しかったのか、フランドールは恥ずかしそうに笑った。
「えーっと、いつか必ず、宝石のお金を払います、フランドール・スカーレット……っと」
「書けたようだね。それじゃあこの宝石は君のものだ。大切にするんだよ」
先ほど宝石箱にしまった真っ赤なルビーを再び取り出し、フランドールに手渡す。
「わぁ……! ありがとう、霖之助!」
「どういたしまして。お買い上げ頂き、誠にありがとうございます」
そう言って霖之助は恭しく礼をした。
「ぷっ! なにそれー!」
「お客様が商品を買ってくれたときは、こうやってお礼を言うのさ。商売人の基本だよ」
などと言ってみるが、もちろん普段はこんなことをしたりはしない。
ただ、宝石が手に入ったフランドールが、あまりにも嬉しそうだったから、こっちもつい気分が良くなって茶化して言ってみただけである。
フランドールは、霖之助の仕草が可笑しかったらしく、口元を押えてくすくすと笑っている。
「やれやれ、店主を馬鹿にするような子には、商品はあげられないよ?」
「ごめんごめん、だっていきなり態度が変わるから……それに似合ってないし、ぷっ」
「まったく、君といい君の姉といい、目上の人物に対するマナーがなってないんじゃないかな?」
「目上ー? 霖之助って偉いの?」
「もちろんだとも。ここは香霖堂、僕の店だよ? つまり、この店の敷地内にいる限り、僕は誰よりも偉いといえる」
「あいつ……お姉さまよりも?」
「当たり前だろう。レミリアなんて目じゃないさ」
「へぇー、本当かどうか、帰ったらお姉さまに聞いてみるね」
「と、いうのは冗談だよ。お客様は神様だからね」
「もー、言ってることが全然違うよー」
フランドールは悪戯っぽく笑った。その笑顔からは、数時間前まであった不安の色は、すっかり感じ取れない。
天井にぽっかりと穴を空けた、夜の香霖堂からは、店主の苦笑交じりの話し声と、少女の楽しそうな笑い声だけが、静かに聞こえ続けていた。
「あと1時間もしたら夜が明けてしまう。そろそろ帰ったほうがいいだろう」
あれからしばらくの間、霖之助とフランドールは時間が経つのも忘れ、他愛もないことを話し続けた。
フランドールは久々に出会った外の人間(正確には半妖だが)と会話できるのが楽しいらしく、顔を輝かせながら言葉のキャッチボールを続けた。
それに霖之助の話は、彼女が今まで聞いたことのない話ばかりで、聞いていて飽きることがなかった。
霖之助も霖之助で、自分の話を興味津々といった様子で聞き入ってくれるフランドールに対し、ついつい気分が良くなって、延々と語り続けてしまった。
そんなこんなで時間は流れ、気付けば時刻は午前4時を回っていた。夜明けまであと2時間もない。
フランドールは吸血鬼なため、日が昇ってしまっては自力で帰ることが困難になる。
もういい加減帰らなければ、館の人たちも心配することだろう。
「えー、もうそんな時間?」
「あぁ、もう午前4時を過ぎている。君がこの店に来たのが1時頃だから、かれこれ2時間近く話しっぱなしだったということになるね」
「2時間も? いつの間にそんなに経ったんだろう……」
「楽しい時間というのは、あっという間に過ぎ去ってしまうものさ。フランドールは、僕と話していて楽しかったかい?」
「そのフランドールって呼び方、長いからやめにしてよ。フランでいいよ、霖之助」
「そうかい? じゃあそう呼ばせてもらうよ。で、フランは僕と話していて楽しかったかい?」
「うん!」
フランは元気よく頷いた。それを聞いて、霖之助は自分の頬が緩むのを感じた。
「そうか、それは良かった。また気が向いたら来るといい。できればお金を持って、ね」
「お金がないと来ちゃいけないのー?」
「ここはお店だよ。物を買う場所に、お金を持ってこないというのはおかしくないかい?」
「うーん、それもそうかなぁ……じゃあそれも出世払いで!」
「やれやれ、都合のいい言葉を覚えてしまったようだね。一体誰だい? こんな悪魔っ子に出世払いなんて便利な言葉を教えたのは」
「とある森のお店屋さんにだよ」
「ほう、そのお店屋さんは森の中にあるのかい? また随分と変わったところに店を建てたもんだねえ」
「だよねえ。でもね、そのお店の店長はすっごく優しいの!」
「……ほう、それはまた、何というか」
まさかそう返されるとは……
幻想郷の少女たちは、どこか皮肉めいた物言いを好んで使うため、こういった純真な反応には慣れていないのだ。
「……ぷっ、あはははは! なんてね。霖之助ったら困っちゃってさー」
「……店長をからかうと後悔するよ。さっきも言ったように、ここでは僕が一番偉いんだ」
「あれー? お客様は神様なんでしょ?」
「君は神じゃなくて吸血鬼だ。そしてもちろんお客様でもない」
「ぶー、出世払いするって言ったじゃん。ちゃんとお金は払うから、私はお客様だよ。よってイコール神様なのです」
「お金を払って初めてお客様と認められるんだ。今の君はさしずめ、神様候補といったところだよ」
「半分は神で半分は吸血鬼? なんかそれってかっこいいね!」
「半神半吸血鬼だって? とんだ種族がいたものだ……ってまた話し込んでしまったじゃないか。
本当にそろそろ帰らないとまずいんじゃないかい?」
さっき時刻を確認したときから、さらに5分以上が経過している。
まだ日が昇る気配はないものの、夜明けは確実に迫ってきていた。
「わ、またこんなに時間が経ってる! 楽しい時間は過ぎるのが早いってホントなんだ……」
「分かったかい? だから今日のところはもうお帰り。さっきも言ったように、また来たくなったら来ればいいさ」
「……お金がなくても来ていいの?」
どうやら先ほどの霖之助の言葉を気にしているらしい。
ほんの冗談で言ったつもりだったのだが、純粋なフランには本音と受け取られてしまったようだ。
いやはや、小さい子の相手をするのは、思った以上に難しい。
「お金がなくてもいいさ。霊夢と魔理沙なんかはしょっちゅう一文無しの状態でやってくるからね」
そして勝手に店の物を消費したり、持っていったりしてしまうのだ。
それに比べたらフランなんて可愛げがあるほう……いや、店は壊されたが。
「それにお客としてじゃなく、僕の友達として来るのなら、お金がなくても問題ないだろう?」
「友達……うん……うんっ! また来るね、霖之助!」
そう言い残すと、フランはもの凄いスピードで飛び去っていってしまった。ここに来たとき自分で空けた大きな穴から。
彼女が飛び立ったときの風圧で、店内の埃は舞い上げられ、積んであった道具のいくつかが崩れ落ちた。
「……もう少し落ち着きがあれば、本当にいい子なんだがね」
フランが飛び去っていった夜空を、天井の風穴から見上げつつ霖之助は思った。
とまぁ、随分と長い回想になってしまったが、これが今から1週間ほど前に起こった出来事の顛末である。
そしてあれ以来、フランは毎日香霖堂を訪れるようになっていた。
それも真昼間から、たった1人でやってくるのだ。
彼女によれば「日傘さえあれば日光なんてへっちゃらよ!」とのことらしい。
レミリアや咲夜が、彼女の外出を許すとは思えなかったのだが、意外なことにちゃんと許可を貰ってからここへ来ているらしい。
ただし、行き先は香霖堂のみで、日が落ちるまでには帰ってくるという条件付きでだ。
(確かにまた来ていいとは言ったが……何も毎日来ることもないだろうに)
フランは基本的に大人しい子である。
会話するときや遊んでいるときには、見た目相応の元気さとお転婆っぷりを発揮し、周りの者を思う存分振り回すが、常に意味もなくはしゃいだり、霖之助の作業の邪魔をしてまで絡んでくることはない。
彼女は見た目以上に落ち着いていて、聞き分けも良かったのだ。
その点は霊夢や魔理沙よりも評価でき、彼女が伊達に長生きしていないということを実感させてくれる。
そのため、別にフランが香霖堂を訪れたところで、霖之助が迷惑を被ることはほとんどなく、ほんの少し遊び相手になってあげたり、面白い話の1つや2つしてやれば、満足して帰っていくか、今のように一人大人しくしていてくれる。
それでもやはり、こう連日押しかけられると、多少なりとも気疲れしてしまう。
決して悪い子ではないのだが、世間知らず故に突拍子もない行動に出たり、力加減を誤って商品を壊してしまわないか心配なのだ。
たとえば3日前の出来事。
「ねぇねぇ霖之助。この入れ物に入った液体はなに?」
「それはストーブの燃料だよ。ストーブについては昨日教えただろ?」
「あそこにある温まるための道具でしょ。燃料ってことは、すとーぶはこの液体を使って温かくなるの?」
「まぁそうだね。この液体を中に入れることで、燃料を消費し、熱を発するというわけで……ってなぜ飲もうとする!?」
「え? だってこれを飲めば温かくなるんじゃないの?」
「いや、あくまでそれは燃料であって、それ自体を飲んでも体が温かくなるわけではなくてだね……」
たとえばつい昨日の出来事。
「霖之助! これ面白いね! ヨーヨー風船っていったっけ」
「ああ。それは祭りのときなんかによく売られている玩具でね。ヨーヨー釣りという出店があるんだが……
ところでどうして床が濡れているんだい?」
「なんでって、ヨーヨー風船で遊んでたからでしょ? とっても勢い良く破裂するし、水がかかって気持ちいいよ、これ!」
「君は遊び方を間違えている! ヨーヨー風船はこうやって指に紐を通し、手で突いて遊ぶための玩具だ」
「そうなの? でもちょっと掴んだだけですぐ割れちゃうし、てっきり割って遊ぶ玩具なのかと思ったよ」
「………………」
このようなことが度々あったため、彼女がこうして大人しくしている間も、ちょくちょく様子を窺っておかないと心配で心配で仕方がない。
結果、霖之助はいつものように読書に集中することができないのであった。
「………………」
フランは相変わらず机に突っ伏したまま、砂時計をじっと見つめている。
思えば彼女が初めてここを訪れたときも、やたら砂時計に対して興味を示していたような気がする。
そういえばこの1週間、暇な時間さえあれば、彼女は砂時計を見つめてばかりいた。
砂がただひたすら落ち続けるだけの様子を見ていて、いくらなんでも飽きないのだろうか?
そのことが気になった霖之助は、本を読むことを諦め、ふと湧いて出た疑問を解消すべく、この心地の良い沈黙を破ることにした。
「そんなに砂時計ばかり見つめていて飽きないのかい?」
霖之助が急に声を発したことに対し、少し驚いたようなフランだったが、机から上体を起こすと、砂時計を見つめたまま答えた。
「うん、飽きないよ」
短い一言だったが、適当に答えたという感じには聞こえない。恐らく本当に飽きていないのだろう。
「どうしてそんなに飽きないんだい? ただ砂が落ちる様子を見ていても、何も面白くないと思うんだが」
いくら彼女が世間知らずで、砂時計を見るのが初めてだったと言っても、それはもう1週間も前の話だ。
いい加減、砂時計なんか見飽きてもいい頃だろうに。
「うーん、なんて言うのかな。別に見ていて楽しいってわけじゃないんだけど……」
「じゃあなぜそんなに夢中になっているんだ? 他にも珍しい道具はあるだろう」
霖之助は、フランにもっと色んな道具を見て欲しいと思っていた。
自慢のコレクションを人に見せ、含蓄を語り聞かせることは、霖之助の数少ない楽しみの1つと言っていい。
周りからは敬遠されがちで、まともに話を聞いてくれる人物が少ないのが残念だが。
それに何より、未知の道具に目を輝かせるフランの顔は、見ていてとても心が安らいだ。
その顔に、妹分のかつての姿を重ねることもあった。
そんな思いがあるからこそ、彼女が1つの道具、それも砂時計という大して珍しくもない物に対し、なぜそこまで執心するのかが気になったのだ。
その疑問に対し、フランはこう答えた。
「これを見てるとね、ちゃんと時間が進んでいるんだって実感できるから」
「時間が……?」
「うん、今まで私はさ……ずっと地下に籠もりっきりで、遊ぶのも1人で、何をやっても退屈で……時間が流れてるってことが実感できなかったんだ」
「………………」
「ほら、前に霖之助も言ったでしょ? 楽しい時間は過ぎるのが早いって。1人だと何をやってもつまんないし、やることがないからぼーっとしてると、まるで時間が止まったみたいに感じるんだ」
「……それは確かに、そうかもしれないね」
そう返答したが、実際のところ、その感覚が彼にはよく分からなかった。
誰にでも経験があると思うが、時間とは楽しいことをしていればあっという間に過ぎ去り、嫌いなことをしていると長く感じるものだ。
では、何もせずに過ごしていたらどうだろうか?
楽しくも苦しくもない時間。それは時間を消費しているというよりも、時間が勝手に過ぎ去っているというイメージのほうが強い。
時間の流れというのは、何らかの行動によって時間を消費すること――つまりは主観的な位置に立つことで、初めて意識することができる。
しかし、時間が自分とは関係なく過ぎ去っていくだけ――要するに客観的な位置にいたのでは、時間の流れを認識し、実感することは難しいだろう。
何もせず、何も感じず、何も得る物がない時間。それは全く中身のない、虚無の時間と言えるのではないか。
そんな時間を、彼女――フランドール・スカーレットは、実に500年近い間も送ってきたというのか。
その事実に気付いたとき、霖之助は同情や憤りといった感情よりも先に、得体の知れない恐怖を覚えた。
もし自分がそんな環境に置かれたらと思うと、正直ゾッとしてしまう。
地下室に閉じこもり、他人との関わりを避け、何をするでもなく過ごす日々。
もし自分がそんな状況に置かれたら、半年も経たずに発狂してしまうであろう自信が、彼にはあった。
「……その砂時計、良ければ君に譲ろうか?」
「ううん、別にいいや。欲しいってほどでもないし、宝石のお金もまだ払ってないのにこれ以上何か貰うのは悪いよ」
「そうかい? ならいいが、別に遠慮しなくてもいいんだよ?
砂時計ぐらいなら大した価値があるわけでもないし、霊夢や魔理沙なんかは平気で物を持っていってしまうからね。
少しは君を見習って欲しいものだ」
「あの2人は……うん、たしかに勝手に物を持っていっちゃいそう。
パチュリーもたまに本を盗まれてるみたいだし、こないだもそれで怒ってたよ。
めーりんがお仕置きされてたっけ」
「申し訳ない。魔理沙には僕のほうから言っておくよ」
彼女が素直に言う事を聞くとは思えないが。
「まぁとにかくだ。君みたいないい子は、もう少しワガママを言ってみてもいいと思う。君のお姉さんみたいにね」
「私がいい子~? それはないと思うけどなあ」
さり気なく褒めたつもりだったのだが、本人はそれを素直に受け取ろうとしなかった。
「少なくとも僕の知り合いの中では、君は間違いなく"いい子"の部類に入るよ。もっと誇るといい」
「そう……かな? えへへ」
「まぁ、人の店を壊すような子は、いい子とは言えないかもしれないけどね」
「……ぶー。霖之助はしつこいなぁ」
持ち上げられた後に落とされたフランは、口を尖らせて拗ねた。
あれ以来、店を壊したことを持ち出しては、フランをからかうようになっていた。
無論、本当に根に持っているわけではなく、あくまで他愛ないじゃれ合いの一環に過ぎない。
「冗談だよ。しつこい男は嫌われると、外の世界の本に書かれていたからね」
「しつこい女だって嫌われるんじゃないかな」
「そうだろうね。だからそんなにしつこく砂時計ばかり見てないで、居間に上がるといい。おやつの時間にしよう」
「やったー! 今日は何を食べさせてくれるの? 一昨日食べたこあらのまーちっていうのが――」
さっきまでとは打って変わり、快活にはしゃぐフランドール。
その姿を見て、霖之助は今の彼女の時間を、少しでも楽しいものにしてあげたいと、そう思うのであった。
フランが帰った後に店を閉め、早めの夕食を済ませた霖之助は、カウンター席に座りながら考え事をしていた。
営業中や読書をするときなど、一日の大半をカウンター席に座って過ごす彼は、考え事をするときも、この場所が一番落ち着くのであった。
(……時間の流れ、か)
頭の中に思い出されるのは、フランのことについてだ。
『今まで私はさ……ずっと地下に籠もりっきりで、遊ぶのも1人で、何をやっても退屈で……時間が流れてるってことが実感できなかったんだ』
昼間、彼女はそう言っていた。そしてそれは本当のことなのだろう。
人や妖怪は、何らかの目的や娯楽を糧にして生きている。
限られた時間の中で、目的に向かって精一杯努力したり、自分のやりたいことをやって生きていく。
それが人や妖怪を始めとした、知性を持った生き物の在り方というものだろう。
その2つの原動力を持たない彼女は、果たして日々を"生きている"といえるのだろうか?
それはただ単に"死んでいない"だけで、その人生に意味はあるのだろうか?
(……あるに決まっている)
霖之助は思い返す。初めてフランと出会った夜のことを。
(彼女だって、日々を精一杯生きている)
最初は怯えていた彼女だったが、優しい言葉をかけてあげると、すぐに笑顔を取り戻した。
(今までがどうだったかは知らないが……少なくともこれからは、彼女の人生はきっと有意義なものになる)
決して楽しいとは言い難い人生を送ってきた彼女が、霖之助の前ではあんなに楽しそうに振舞っていた。
、、、、、、、、、
(いや、有意義なものにしてやろうじゃないか。それがお客様の望みとあらば、ね)
あんなに楽しそうに笑える子の人生が、無意味なものであっていい筈がない。
「……僕らしくないな」
思考が一通りまとまると、霖之助は誰もいない店内で呟いた。
「あぁまるで僕らしくない。面倒事は好きじゃないんだが……吸血鬼の魔力にでもあてられたかな」
まるで自分に言い聞かせるように漏らすと、カウンター席を立ち、店の裏手にある倉庫へと向かう。
「やれやれ、今夜は徹夜になりそうだ」
翌日、いつもと同じようにフランが店にやってきた。
「こんにちはー、霖之助!――って何それ?」
元気良く扉を開けたフランの目に、真っ先に飛び込んできたのは、彼女の身長ほどの高さまで積み上げられた、数え切れない量の道具の山だった。
「やぁフラン、いらっしゃい」
道具の山の傍らには、霖之助が立っている。この時間にフランが来ると分かっていて、わざわざ出迎えてくれたらしい。
「えっと、お邪魔します……じゃなくて、その道具の山はなに?」
フランはここ1週間、ずっと香霖堂に通い続けているが、今目の前にある道具の数々は、どれも初めて見る物ばかりだ。
「あぁ、これはね、裏の倉庫で眠っていた娯楽品や嗜好品の数々さ」
「娯楽品と嗜好品?」
「そうさ。ここにある道具はどれも皆、遊ぶためや楽しむために用いる道具だよ」
そう言うと、霖之助は山の中から1つの道具を取り出した。
「例えばこれはジグソーパズルと言って、何十個もある欠片を集めて、1つの絵を完成させる娯楽品だ」
「絵を完成? それってお絵描きじゃないの?」
「お絵描きとは、好きなものを描いて絵を完成させることだが、ジグソーパズルというのは既に完成していた絵を、少しずつ復元していく遊びなんだ。
これがまた意外と頭を使う遊びでね……君には少し難しいかもしれないな」
我ながら安い挑発だと思う。思うが
「む、そんなことないわ。簡単よ!」
フランは見事にかかってくれた。安い挑発だけにお買い得だったのだろうか。
「そうかい? なら、今度やってみるといい。きっと熱中すると思うよ」
霖之助は苦笑しながらも、自分の計画が上手く運びそうなことに対し、頭の中で安堵を覚えた。
ジグソーパズルを一旦山の上に戻すと、次はビンのような物をいくつか取り出し、フランに見せる。
「これはコーヒー豆といって、コーヒーという飲み物の原料になる豆だ」
「コーヒーぐらい知ってるよ。ずーっと前に飲んだことがあった……と思う」
彼女の言うずっと前とはいつだろうか。時間の感覚がよく分からない彼女のことだ、数百年前という可能性も否定できない。
「そうか、じゃあどんな味がしたか覚えているかい?」
「あんまり覚えてないけど、たしか美味しくなかったと思うよ。それ以来飲みたいと思ったことがないし」
どうやら彼女の舌は、実年齢ではなく見た目のほうに相応らしい。
「コーヒーが美味しくないだって? それは聞き捨てならないな。コーヒーほど味わい深い飲み物はないと言われているのに」
「えっ、それ本当?」
もちろん今言ったことは出鱈目にすぎない。
コーヒーが味わい深いのは事実だろうが、それを言うなら紅茶や酒だって、十分味わい深い飲み物と言えるだろう。
だがここはあえて出鱈目を言うことで、フランの興味をコーヒーに向かせなければならない。
「あぁ本当だ。もっとも、コーヒーは大人の飲み物だからね。
ジグソーパズルと一緒で、君には向かないかもしれないが」
またしても挑発するような言葉。ともすれば彼女の不興を買いかねないが、今はこれでいい。
「そ、そういえばコーヒーって美味しかった気がする……かも。
ううん、きっと美味しかった。そうよ、美味しかったわ! 昔は毎晩ガブガブ飲んでたもの!」
昔の君はさぞかし寝不足だったことだろう。
いや、吸血鬼だからこの場合は夜が昼に当たるわけで……間違ってはいないのか?
「そうなのかい? 君にもコーヒーの味が分かるとは、恐れ入ったよ。さすがは吸血鬼だね」
何がさすがなのか自分でも分からないが、とりあえず褒めておいた。
褒められたフランは嬉しそうに胸を張っている。
どうやら彼女の中では、昔の自分はコーヒー通だったということが、事実として書き換えられているらしい。
自分の歴史を造り替えるとは、彼女にはハクタクの素質があるのかもしれない。
「ねぇねぇ、他にはどんな道具があるの?」
初めて見る道具の数々にすっかり魅了されたフランは、目を輝かせながら道具の説明を霖之助にせがんできた。
「ねぇこれは何? 見たことない形をしてるけど」
「あぁ、それはね――」
嬉々としてはしゃぐ吸血鬼と、これまた嬉しそうに含蓄を語る店主のやり取りは、おやつの時間も忘れ、何時間にも渡って続いたという。
道具の解説が一通り終わる頃には、空が緋色に染まりかけ、遠くからカラスの鳴き声が聞こえていた。
「もうすっかり夕方か。すまないね、ろくに持て成すこともできなくて」
「いいよそんなの。すっごく楽しかったし!」
予定では、おやつの時間までには道具の解説を終える筈だったのだが、フランが予想以上に興味を示してくれたことと、他人に含蓄を披露するのが久々だったこともあってか、つい長々と喋りすぎてしまった。
しかし、これだけ長い時間話し続けたにもかかわらず、フランはまるで疲れていない様子で、最後まで霖之助の長話に聞き入ってくれていた。
霖之助のほうも、あれだけひたすら喋り続けたというのに、疲れはほとんど感じられなかった。
「でも、どうしてこんなにたくさんの道具を出してきたの?」
それは数時間前、彼女が店に入ってきたときから抱いていた疑問だ。
結局そのときは理由を聞きそびれたが、今になってその疑問が、再びフランの中に湧いてきた。
「なに、大した理由じゃないさ。これらの道具を君に貸そうかと思ってね」
「え?」
その回答は予想だにしていなかったのか、フランは不思議そうな顔で聞き返した。
「勘違いしないでくれよ。貸すだけであって、決してあげるわけじゃない」
「そ、そうじゃなくて! なんで、こんなにたくさんの道具を貸してくれるの?」
フランの疑問はもっともだろう。
どこにでもあるような道具を、1つ2つ貸してくれる程度ならまだ分かる。
しかし、こんなに大量の道具を、それも中には貴重な物だっていくつか混じっているのに、どうしていきなり貸してくれるというのだろうか。
その疑問を解消してあげるべく、霖之助はもう少しだけ、目の前の少女に語ることにした。
「ここにあるのは娯楽品や嗜好品ばかりだと、最初に言ったね。
娯楽品や嗜好品というものは、言い換えれば時間を有意義に過ごすための道具だ」
「時間を、有意義に……?」
「そう。生き物というのは皆、何らかの目的や楽しみを持って生きている。人や妖怪はもちろん、虫や魚だってそうさ」
娯楽を楽しむだけの知性を持たない動物でも、自らの子孫を残すという目的を持って生きている。
人間も究極的に言えばそうだが、動物とは違って娯楽を楽しんだり、各々で趣味を持つことができる。
「目的や楽しみがあるからこそ、生きていく気力が湧いてくるし、過ごす時間には意味が生まれる」
一生をかけて趣味に打ち込む者、崇高な目的のために日々鍛錬する者、快楽を求めて遊び続ける者。
それぞれの生き方に意味があり、彼らの過ごした時間は、とても充実したものだと言えるだろう。
だがフランの生き方はそうではない。否、そうではなかった。
「君は長い間、部屋に篭って何をするでもなく、無意味に時間を過ごしてきたのかもしれない。
だがそれでは駄目だ。君はもっと自分の人生に関心を持ち、過ごす時間を色鮮やかなものにしなければならない」
そう、今ここにある道具は、そのための道具なのだ。
「まずはここにある道具で遊び、学んで、時間の使い方を知るべきだ。
ここにあるゲームや玩具の類なら、自室で1人でもできるし、館の皆とも遊べるだろう」
「………………」
フランは黙って話を聞いている。
その表情からは内心を窺うことはできないが、霖之助の言葉を、一言一言しっかりと噛み締めているように見えた。
「君は砂時計を見つめながら言ったね。時間が止まっているように感じる、と。
そんなことはない、君が何もしていなくても、時間は勝手に流れていってしまうんだ。
だったら時間を無駄にするなんて勿体無いと思わないかい?
どうせなら、楽しいことや意義のあることをして過ごしたほうが良くはないかい?」
「……霖之助の言うことは、何となく分かるよ」
それまで黙って話を聞いていたフランが、そう答えた。
「前も言ったように、私は自分の部屋で何もすることなく過ごしてた。
そこにはきっと意味や意義なんてなかったと思う。退屈で、面白くなくて、だんだん何もする気が起きなくなっていった」
そう語るフランの顔は、少し寂しく、苦しそうにも見えた。
それでも彼女は語り続ける。今まで溜め込んできたものを吐き出すかのように。
「でもそれは仕方のないことで……あいつや紅魔館のみんなだって、好きで私を閉じ込めてたわけじゃないってことぐらい分かる。
だから、私が我慢すれば済む話で……」
「君は何を言っているんだい?」
霖之助は思わず、フランの言葉を遮った。
少し怒っているような、それでいて諭すような霖之助の声音に対し、フランは再び、その顔に疑問を浮かべた。
霖之助はそんな彼女に対し、心に絡まった鎖をゆっくりと紐解くように、優しく語りかけた。
「君が閉じこもっていた理由はおおよそ知っているし、紅魔館の連中が君を監禁して楽しむような、ひどい輩でないということも分かる。
君のお姉さんが君のことをどれだけ想っているかも、ね」
まったく、本当にレミリアは妹想いな姉だと思う。彼女を褒めるのは少し癪だが、その想いだけは間違いなく本物だろう。
「しかしそんなことは関係ない。
君がどこに、どれだけの間閉じこもっていようが、
君の周りの連中が、君のことをどう思っていようが――君が君の人生を無碍にしていい理由にはならない」
「あ……」
たとえどのような境遇にあっても、周りからどのような扱いを受けたとしても、結局のところ自分の"生き方"を決めるのは、自分自身に他ならない。
フランは自分が館の外に出られないことを、仕方がないことだと諦め、受け入れてしまっていた。
自分の持つチカラが危険なものだから、自分の精神が狂っているから、姉や親しい者たちに迷惑をかけたくないから――そういった様々なことを言い訳にして、彼女は自分の人生に見切りをつけてしまっていたのだ。
「君がどんな理由を並べたところで、それは所詮、自分の境遇に対する言い訳にすぎない」
彼女は500年近くもの間、そうやって自分を押し込めて生きてきた。
だから――
「大事なのは――君がどう生きたいか、だよ」
だからもういい加減――その身も心も、解放してやるべきだ。
「……外に出たい」
小さな口から声が零れ落ちる。
「もっと色んなものが見たい……」
そうして少しずつ溢れ出した感情は
「もっと色んなことがしたい……」
まるで小雨が豪雨へと移り変わるかのように
「もっと色んなことが知りたい……!」
500年の時を経て、一気に外へと吐き出された。
「私の時間を、もう無駄にしたくない!!」
そうして感情を解き放った少女を、古道具屋の店主は暖かく迎え入れる。
「だったらこの"香霖堂"にお任せを。古今東西、ありとあらゆる道具を集めたこの店は、世界を知るには最適の場所だ。
今なら店主が語る含蓄も付いて、大変お買い得となっておりますが?」
おどけたような店主の態度に、少女は微かに涙を浮かべながら、嬉しそうに微笑む。
「それはいいことを聞いたわ。それで、お幾らかしら――世界を知るためのお値段は」
砂時計の砂が流れ続けるだけのような、退屈で色褪せた時間はもう終わったのだ。
「ふむ、そういえばまだ値段を決めていませんでしたが……」
これから彼女が過ごす時間はきっと輝かしいものになる。
「まぁ、とりあえずは――出世払いということで」
そのためなら、及ばずながら力になろうと思う霖之助であった。
あれから3日、フランが香霖堂を訪れることはなかった。
あの後館に帰った彼女は、姉と向き合い、自分の想いをぶつけたことだろう。外に出て、世界を知りたい――と。
それに対してあのレミリアがどういった反応を見せたのか、想像するに難くない。
きっと口では渋りながらも、内心では妹の変化に喜んだことだろう。そして最終的には許可を出したに違いない。
館に住む連中も概ね同じなはずだ。彼女たちは皆、少なからずフランに対して負い目を感じていただろうから。
しかしそんな日々も終わりを告げた。これを機に、紅魔館の絆はより一層深まったことだろう。
、、
そして恐らく、そろそろ彼女がこの店を訪れるはずだ。
カランカラン――
昼下がりの店内に、ドアベルの音が鳴り響いた。
噂をすれば……いや、思考をすれば何とやら、だ。
「お邪魔するわよ、店主」
そう言って店内に入ってきたのは、数日前まで香霖堂に入り浸っていた吸血鬼――の姉、レミリア・スカーレットだった。
「いらっしゃい。何をお求めですか?」
「血を一杯ほど」
「ここは喫茶店じゃないよ」
「喫茶店に行けば血が出てくるのかしら?」
出るわけがないだろう。
来店して早々、茶番のようなやり取りを交わすレミリアと霖之助。
どうやら今日はメイド長が一緒ではないようだ。彼女が1人でここを訪ねてくるなんて、初めてのことではなかろうか。
「今日は色々と言いたいことがあって来たの」
「フランのことかい?」
「あら、分かるのね」
「他にないだろう。それに、そろそろ君が来るころじゃないかと思っていたんだ」
「へぇ、それはまたどうして? 運命が見えたとでも言うのかしら?」
カウンター席まで歩み寄った彼女は、口の端を持ち上げて笑みを作り、値踏みするような目で霖之助を見つめた。
「君じゃあるまいし、もっと簡単な話さ……あれからフランはどうだい?」
質問を質問で返すのはいささか失礼かとも思ったが、レミリアは気を悪くすることなく、彼の問いに答えた。
「あの日、帰ってくるなり私のところに飛んできて、色々と話してくれたわ……今までのことと、これからどうしたいかをね」
やはり予想は当たっていたようだ。
そしてそれを語るレミリアの顔には、たしかに喜びの色が浮かんでいた。
「貴方も知っての通り、今まであの子は不遇な人生を送ってきた。いえ、そうさせてしまったのは私だったわね」
「それは――」
それは違う――そう言おうとした霖之助を、レミリアは片手を挙げて制した。
「気休めは結構よ。あの子を閉じ込めるようにしたのは私だし、あの子から色々なものを奪ったのも私。
そのことについて後悔もしているけれど、全てが間違っていたとは思わない。
だから、慰めの言葉は筋違いというものよ」
彼女は彼女なりに、妹のことを想って行動してきたのだ。
フランを館の中に閉じ込めたのも、彼女の心身を守るためだったのだろう。
その能力や噂だけを聞いて、妹を危険視する連中から身を守るために。
精神が不安定な妹が、大事なものを自らの手で壊してしまって、心に深い傷を負わないように。
「フランには、外に出ることを全面的に許可したわ。ただし、最初のうちは誰かが付き添いでね。
あ、もちろんここだけは例外よ」
「そりゃどうも」
お心遣い痛みいる。それだけ信用されているのか、それともこの店でなら問題を起こしても構わないということなのか。できれば前者であって欲しい。
「それから館の中でも笑うことが多くなったわね。
昼食の後は、決まってみんなでゲームをするようになったし」
どうやら彼女に贈った道具の数々は、ちゃんと有効活用されているらしい。これこそ道具屋冥利に尽きるというものだ。
「部屋に1人でいるときも、何かに夢中になっているようだし……なんとかパズル、って言ってたかしら。
夢中になりすぎて夕食の時間になっても中々部屋から出てこないのが問題だけどね」
何度呼んでも出てこないから、しびれを切らした咲夜に叱られてたわね、とレミリアは楽しそうに言った。
「とにかく、あれ以来あの子は生き生きとした姿を見せるようになった。
まるで、生きることが楽しいとでも言わんばかりにね」
、、、、
「それを聞いて安心したよ。どうやら君の思惑は上手くいったみたいだね」
「……やっぱり気付いてたのね」
そう、今回の一件でフランのために実際に動いたのは霖之助だが、そのお膳立てをしたのは他ならない彼女、レミリア・スカーレットだった。
自分が購入した宝石をわざとフランに見せびらかして挑発し、その上で香霖堂への外出許可を出す。
宝石欲しさと姉への対抗心、そして滅多にない外出の許可。
これだけの条件が重なれば、たとえ引き篭もりがちなフランでも、まず間違いなく香霖堂を訪れることだろう。
レミリアはそうやって、フランを香霖堂へ向かわせるように仕組んだのである。
ただ単に外出許可を出すだけでは意味がない。
精神が未熟で外のことを何も知らない彼女が、いきなり館の外に出たところで、その先には良くない結果しか待っていないだろう。
フランが館に閉じこもっていた期間は、あまりにも長すぎたのだ。
そのため、彼女が屋敷の外に出るためには入念な下準備、言い換えればリハビリが必要だった。
それと同時に、フランが自分自身を見つめなおし、変わっていけるように後押ししてやれる存在が欲しかったのだ。
そこで抜擢されたのが霖之助というわけである。
「分からないことがあるんだが……1つ質問してもいいかい?」
「好きにしなさい」
レミリアは不適に笑う。運命を見通せるという彼女には、今からどんな質問をされるかも分かっているのだろうか。
「では聞くが、どうして僕なんだい?」
どうして、というのはもちろん、フランを任せられたことについてだ。
「こう言ってはなんだが、君と僕の接点は限りなくゼロに近い。
君はたしかにお得意様だが、店にやってくるのは大抵君の従者だけで、君自身がこの店に足を運んだ回数は数えるほどしかないはずだ」
たまに店にやってきたときも、これといって雑談に花を咲かせることもなく、あくまで店主と客の関係でしかない。
不仲というわけではないにせよ、大事な妹を任せられるほど信頼されていたとは思えない。
この問いに対し、どのような答えが返ってくるのだろうか。
霖之助はレミリアの言葉を待つ。
「それはね――」
そして数秒の間を置いて、彼女はこう言い放った。
「すべては"運命"で決まっていたからよ!」
「そんな言葉で納得できるか」
「なによ、信じられないって言うの?」
レミリアは腰に手を当て、口を尖らせて睨みをきかせた。
「だって仕方ないじゃない。
私の知り合いで、面倒見が良さそうで、何かあっても簡単に始末できそうなやつが、あんたぐらいしかいなかったんだから」
運命がどうとか言ったのは出任せだったのか。そして何やら聞き捨てならない台詞まで聞こえたような気がする。
「そんな理由で、妹を僕に預けようと思ったのかい?」
呆れのあまり脱力してしまう。もっと何か深い理由があるのかと思っていただけに、その反動は大きかった。
「私には人を見る目があるの。私の眼鏡に適ったんだから、光栄に思いなさい」
何とまあ傲慢なことか。少しは妹の謙虚さを見習ってもらいたい。
「……まぁいいさ。結果的には上手くいったんだしね」
「そういうことにしておきなさい。
それから、今後も定期的にフランが来ると思うから、そのときはよろしくね」
そう言うと、レミリアは踵を返し、店の出口へと歩みを進めた。
「おや、もう帰るのかい。何か買っていってくれると……」
「今日は買い物に来たんじゃないわ。もし何か買う気だったら、咲夜も同伴させてるわよ」
なるほど、財布を持つのは従者の役目らしい。となると紅魔館の家計はメイド長が握っているのだろうか。
レミリアはドアを開けて外に出て行こうとした。
だが、ドアを開きかけた状態で、最後にこちらを振り向いて言った。
「さっきはあんなことを言ったけど……本当に感謝してるわ。ありがとう」
そう言ったレミリアの表情は、今まで霖之助が見たどの顔よりも、威厳と優しさに溢れていた。
「私たちだけではどうすることもできなかった。
あの子を長い間閉じ込めて、手を差し伸べてあげられなかった私たちには……」
「……僕がしたことなんて、大したことじゃないさ。
あの子は……フランはまだ、スタートラインに立ったに過ぎない。
輝かしい人生のスタートラインにね」
彼女の本当の人生は、これからようやく始まるのだ。
「だからこれから先、あの子を支えてあげるのは、君たち家族の仕事だよ」
「……そうね。これから先は、あの子が笑って生きていけるよう、姉として努力するつもりよ」
レミリアは決意に満ちていた。もう二度と、妹の笑顔を奪うようなことはしないと。
そして決意を胸に秘めたのは、霖之助も同じだ。
「そうかい。だがそれでももし、何か困ったり、行き詰ることがあったなら――いずれまた香霖堂へお越しください。
そのときはまた、お客様のご要望を叶えてみせましょう」
霖之助は笑い、レミリアも笑った。
そしてそれ以降は何も言うことなく、彼女は去っていった。
再び静まり返る店内。
だがこの静寂もいつまで続くことやら。
きっと近いうちに、フランがまたここを訪れる。
霖之助はそのときを密かに楽しみにしながらも、今はこの落ち着いた時間を大切にすべく、読みかけの本に手を伸ばした。
心暖まるいい話をありがとうごさいます。
でも初投稿としては非常にレベルの高いものだったと思います。
次回作以降に期待し、この点数とさせていただきます。
面白かったです。
次も楽しみにしてます。
文体が読みやすく、起承転結がしっかりしていたので
すぐに物語に入ることが出来ました。フランに視点が変わる所も面白かったです。
ただ霖之助が良いお兄さんで終わってしまったかなと感じました。
ひねくれ分が足りないとも中々新鮮とも思いました。
ともあれ、面白かったです。
これからのフランの人生に幸あらんことを……
初投稿にしてこの完成度はすごい!
眼福感謝です。
後日談も是非。
高評価を頂き誠にありがとうございます!
これほどまで評価が得られるとは思っていなかったので、大変励みになりました
>24氏、60氏、61氏、
様々なアドバイスを頂き、ありがとうございます!
たしかに霖之助の性格が原作よりも甘すぎたり、展開の都合が良すぎる感じがしました
それらを踏まえて、次回作はもう少し甘さ控えめで書いてみようかと思います
大変参考になりました
>55氏、94氏、97氏、99氏
初の作品でここまで評価を頂けて、本当に嬉しいです!
なので次の作品も頑張って書いていこうと思います
その時は是非また一読して頂ければ幸いです
それ以外はとてもよかった。
ご指摘ありがとうございます
清書段階に傍点の付け方で苦戦していたのですが、rubyタグなるものがあったとは・・・
しかしrubyタグについて色々と調べてみたのですが、どうも対応しているブラウザが限られている(?)ようでして、
実際自分のブラウザでも、rubyタグを使っても傍点が表示されませんでした・・・
なので別のタグを使って傍点を整理してみましたので、恐らくこれで大丈夫だと思います
もし傍点が大幅にズレて見える方がいらっしゃいましたら、お手数ですが指摘して頂けるとありがたいです
初投稿?才能ありますね‥
定期購読したいクオリティですよ
面白かったです
すーみーたんの絵で脳内再生されました
誤字報告をば
>君の周りの連中が、君のことをどう思っていようが――君が君の人生を無碍にしていい理由にはならない」
無碍と無下は違います。無碍は融通無碍を参照され。
>今なら店主が語る含蓄も付いて、大変お買い得となっておりますが?」
>嬉々としてはしゃぐ吸血鬼と、これまた嬉しそうに含蓄を語る店主のやり取りは、
含蓄と蘊蓄は違います。
違いを抑えて尚の語の選択でしたらば、申し訳ありません……