「さあ、メリー。次は何処へ行こうか」
そう言って振り向き、私に手を差し伸ばす蓮子の瞳はいつも澄んでいた。
それはサークル活動が終わる度に繰り返される「おまじない」のようなもので、また明日も二人が共に在る為の、儀式でもあったのだ。
~~~
「ああ、蓮子!また襟元が乱れている。弄っちゃダメって言ったのに」
私は溜息を吐きながら、蓮子にネクタイを結んでやる。
「だって、なんか息苦しいんだもの……って、止めてよ、メリー!そんなにきつく結んだら、窒息しちゃうって」
「我儘言わないで。今日くらいキリッとした格好してよ。ほら、座って」
蓮子はブツブツと文句を言いながらも、大人しく鏡台の前の椅子に腰かける。私は寝癖だらけの蓮子の髪に、櫛を通す。
大学院卒業後、同居を始めてもう二年程になるだろうか。蓮子が朝に弱いのは、今に始まった事ではない。
私は更に、蓮子の髪の毛にスプレーを吹きかける。
「うひゃあ、冷たい、ベトベトする」
「暴れないで、蓮子。急いでいるんだから……よし、ヘアセット完了。さあ、立って」
立ちあがった蓮子に上着を着せてやる。
「あ、カフスボタン付けるの忘れてた!」
「もういいよ、メリー。これ以上飾りつけられると、私デコレーションケーキになっちゃうよ」
「我慢して、蓮子。これで最後よ……ほら、できた。これで」
完成……と言おうとした私の口は、開きはしたものの声が出なかった。
なんて凛々しいんだろう。なんて格好いいんだろう。
普段のラフな服装の蓮子も良いけれど、身なりを整えた彼女の、なんと優美なこと……
自分の頬が耳が、真っ赤に染まっていくのが分かる。
魚の様に口をパクパクとさせる私に向かって、不思議そうに小首を傾げながら、蓮子が言う。
「急いでいるんじゃないの?このままだと間に合わないわよ。私が」
蓮子の一言で、私は正気に返った。
「え、あ、そうよ!えっと、何時までに着けばいいんだっけ?」
「八時半までよ。今は八時十分」
「大変!急がなきゃ!行くわよ」
私は自動車のキーを引っ掴み、急いで駆け出す。蓮子も後ろをパタパタとついてくる。
そう、遅刻常習犯の蓮子ではあるが、今日だけは遅刻させる訳にはいかない。
だって今日は
「事業削減会議」の日なのだから
十一時五十分。
「あと十分か」
「あら、ハーンさん。お昼休みが待ち遠しいなんて、そんなにお腹が空いたの?」
知らず知らずの内に、思っていた事を呟いていたらしい。隣の席の同僚が笑う。
「いや、そんな事は無いんだけれどね」
私も微笑み返して誤魔化す。彼女には、私と蓮子の関係を明かしては居ないのだ。
あと八分。時計を見て、私は溜息を吐く。そして、同僚に聞かれない程の小さな声で、そっと独りごちた。
「今日が休みだったら、絶対見に行ったのに。心配だなあ、蓮子……」
どうせ仕事も手に着かない。状況を整理してみよう。
蓮子の勤め先である国立超統一物理学研究所、今日この機関が事業削減会議の対象となる、いや、今現在なっているのだ。
討論は十一時半に始まるらしく、もう三十分近くが経とうとしている。
事業削減会議とは、日本国政府が現在取り組んでいる支出削減の為の眼玉政策だ。なんでも、二十一世紀初頭にも似たような事が行われたらしい。
この会議の特色は、対象となった公的機関(主に科学技術関連の機関が多い)の代表者と、政府が選定した「削減人」が公開討論を行う処にある。
その様子は直接見に行くこともできるし、テレビでも放送される。
この討論を基に、その場で削減人が事業の存続・縮小・廃止を決定するのである。
そして国立超統一物理学研究所の主任研究員として、蓮子も討論に参加する事になったのである。
そこまでを考えて、私は気が重くなった。
無理だ。
「金食い虫」と揶揄される研究所、そして喧嘩っ早い蓮子。まさに最悪の組み合わせである。
もしもこの会議で良い印象を残せないと、研究所は廃止、蓮子は失職してしまうのに。
「今日だけは大人しく、何を言われても淑女でね」と念を押して置いたが、蓮子は「大丈夫、大丈夫」と聞き流すばかりであった。
応援は出来なくても、せめて休み時間になったら直ぐにテレビをつけよう。そう思い、私は手に持った携帯電話を握りしめる。
その時、壁に掛かった鳩時計がボゥンボゥンと間抜けな音を出した。ピヨピヨと鳴きながら、鳩の模型も飛び出してきた。
「あら、お昼ね」
隣の席の同僚が微笑みかけてくる。
「ねえ、ハーンさん。良かったらお昼、一緒にどうかしら?この前此処のすぐ近くに、美味しそうなフレンチのお店を見つけてね……」
「ごめん、今日は無理!」
私は返事を待たず、飛び出した。
飛び込んだ先は、常時人気のない資料室である。この時も案の定、誰もいなかった。
本棚の一つに寄りかかり、急いで携帯電話を開き、テレビ画面に切り替える。
画面には、討論の様子が映し出された。
「予算の…比重において……としては……」
「……は、極めて短絡的な発想であり……」
「国立超統一物理学研究所 所長」と書かれた札が付けられた席に座った初老の男性と、妙に飾り付けた男性とが、激しく議論を交わしている。
どうやらこの派手な男性が、削減人なのだろう。
よかった。
私は安堵して溜息を吐く。どうやら、三十分持たずに議論終了、ということは無かったらしい。
だが、蓮子の姿が見えない。先程から画面に映るのは、所長と削減人の二人だけである。
「蓮子、何処に行ってしまったのよ……」
ハラハラしながら見守っていると、カメラのアングルが切り替わった。そして
「居た!……って」
所長の陰になる位置の席。「国立超統一物理学研究所 主任研究員」と記されたその席で
「蓮子、貴女何しているのよ……」
蓮子は机に頬杖をついて、口を半開きにしていた。
「宇佐見さん!」
削減人が叫ぶ。
「貴女、先程からそうやってぼうっとして居ますが、何か言うべき事はないのですか」
所長がハッとして蓮子を見遣る。削減人がニヤリと笑う。弁が立つ所長ではなく、蓮子を攻撃の対象にするつもりなのであろう。
最悪だ。
私は頭を抱える。おそらく先程まで蓮子の脳内は、今取り組んでいる研究の事で一杯であったのだろう。完璧に自分の世界に浸っていたはずだ。
そしてその世界から強制的に引き離された蓮子は__とてつもなく機嫌が悪い。
「言うべき事?」
蓮子が低い声で復唱する。
「特にありませんが」
「ならば」
削減人が勝ち誇ったように言う。
「私の方から質問させていただきましょう。
この前代未聞の恐慌による予算不足の中で、何故結果も出ない超統一物理学なんてものに、予算を割かねばならないのか」
「結果は出ています」
蓮子が髪をクシャクシャと掻きまわしながら答える。今朝、私がセットしたヘアスタイルが台無しである。
「それがビジネスに結び付くかどうかは、私の関知するところではありません」
「貴女方科学者はそれで良いのかもしれませんが」
削減人は一層声を大きくする。
「我々一般市民としては、血税が無駄に使われている事に我慢がならないのですよ」
何が「我々一般市民の血税」なのだろうか。
私は憤りを覚える。私が言えた義理ではないが、これだけ着飾っておいて、一般市民も何もないだろう。
それに、何のつもりなのだろうか。男のクセに指輪やネックレス、ピアスまでゴロゴロ着けている。格好いいとでも思っているのか。
「こんな男より私の蓮子の方が百倍も、いえ、千倍も格好いいわよ。……それに、可愛いし」
私が悪態を吐いている間も、討論は進んでゆく。
「血税云々についても、やはり私の関知するところではありません。私は自分の仕事をしているまでです」
「この日本には、今日明日の暮らしにも事欠いている人が大勢いるのですよ。もう少し真剣に考えてみて下さい。
……と、言いましても、貴女には関係ない話かもしれませんね。何しろ」
削減人がわざとらしく肩を竦めて言う。
「貴女のお父様は、K都大学名誉教授の宇佐見博士でいらっしゃる。お金に困ったことなど一度も無いでしょう。
もしかすると、貴女がその若さで主任研究員の地位にいるのも、お父様の取り計らいに因る物ではないのですか?」
なんて男だろうか。
私は自分の怒りを抑えることができない。握りしめた拳はブルブルと震えている。
蓮子のお父さんについては、私でさえ滅多に触れない、言わばタブーである。
それなのにこの男は、全国で中継されているこの状況で、よくもこんな事を……
画面に眼を遣ると、蓮子は軽く微笑んでいた。しかしその眼は笑っていない。
もう駄目だ。
私は溜息を吐く。本当に怒っている時の蓮子は、決して喚き散らしたりはしない。彼女は微笑みながら、丁寧な口調で怒りを爆発させるのだ。
「削減人は」
老齢の司会者が厳しく叱責する。
「主任研究員への個人的な質問を控える様に」
「いいえ、構いませんよ。しかし」
蓮子が軽く手を挙げる。
「父が私に便宜を働いた事など、それこそ私が生まれてから一度もありません。
私が当機関で主任研究員を勤めているのは、専ら私の実力に依らしむるところです。そして」
蓮子は相変わらず、張り付いた笑みを浮かべたまま、削減人を見つめている。
「私自身の研究能力について客観的な評価を欲するなら、私の論文が掲載されている学会雑誌の、インパクトファクターを調べては如何でしょうか。
投稿先は絞っていますから、並みの研究者には引けを取りませんよ。
もっとも、インパクトファクターなんて単純なもので研究者を理解できるはずがありませんけれど。
でもまあ、貴方みたいな『一般市民』にはそれで十分でしょう」
揚げ足をとられたこと事が気に食わないのか、削減人がピクリと眉を動かす。だが、何も反論することは出来ないようだ。
「ああ、思いだしました。私が宇佐見の娘であったことで、得した事が一つだけあります」
「ほう、それは?」
それ見た事か、と言わんばかりに削減人が問う。
「私の頭脳、でしょうかね」
蓮子が脚を組みながら答える。
「こればかりは、どうも父親譲りなようですよ」
「ならば」
削減人が、司会者の制止も無視して椅子から立ちあがる。からかわれた事が、大分頭にきているようだ
「そのお父様譲りの優秀な頭脳で以て私に、いえ、全国民に対して答えて貰いましょうか。何故、超統一物理なんていう役立たずに税金を使わねばならぬのかを!」
「その質問には先程答えた筈ですが……」
蓮子が溜息を吐きながら言う。そして、ゆっくりと立ち上がる。
「お望みならばもう一度お答えしましょう、多少私の見解が入りますが。まず、超統一物理学の有用性について。この学問は必ず役に立ちます。
それこそ、貴方が言う『一般市民』の生活に欠かせないものとなる時代がやってくる筈です。
但しその日は貴方や私、そしてこの放送を見ている全ての人々が生きているうちに来るとは、限らない。いや、おそらく来ないでしょう」
「ならば、そんなもの無駄に……」
「いいや、無駄ではない。」
蓮子が、削減人を遮って言う。その声には、相手に有無を言わせない迫力があった。カメラが寄り、蓮子の顔をアップで映し出す。
「思い出してみるがいい。
十七世紀に産声を上げたコンピュータが、二十世紀に発表された相対性理論が、今この社会にどれ程の恩恵を与えているのか。
そしてそれらが、どれだけの予算・人員を糧に発展してきたのかを。科学、いや、理学とは」
「今日明日の必要性に駆られて行うものであってはならない。そして」
蓮子が一度大きく息を吸い、カメラに正対する。画面越しであるにも関わらず、私は蓮子に見つめられているという錯覚に陥った。
「私がどれ程分かりやすく、丁寧に超統一物理学の有益性について説明しようと、理解を拒む人間に理解させることはできない。
『ケチをつけたい』『どうせ自分には理解できない』そういった意識を持つ限り、学問を理解することはできない。そう」
蓮子が削減人に向き直る。その顔に浮かんでいるのは、最早怒りでは無い。憐憫だ。
「貴方もね」
蓮子の演説が終わり、場が静まり返る。誰も彼も、微動だにしない。先程立ちあがった削減人も中腰になったまま、やはり動くことはない。
老齢の司会者も口を開けたままポカンとしていたが、蓮子の視線を受け、慌てて喋り出した。
「議論が尽くされたようなので、削減人は結論を出して下さい」
その言葉をきっかけに、その場に居た人々が再び動き出した。
削減人は怒りの形相で、手元のボードに何かを書き殴っている。蓮子は欠伸を噛み殺しながら着席し、所長は頭を抱えている。
「廃止だ!国立超統一物理学研究所は廃止です」
削減人が掲げたボードには、でかでかと廃止の二文字が書かれている。
「結論が下りました。国立超統一物理学研究所職員は退席してください。続いての審議は……」
司会者が次の議題を取り上げる。しかしカメラは会議の様子を映さない。
その姿が扉の向こうに消えるまで、ただ颯爽と歩み去る蓮子の後ろ姿を、映し続けていた。
「いやあ、ゴメン!駄目だった。てへへ」
夜、家に帰って来るなり蓮子は私に謝ってきた。
「ゴメンじゃないわよ!もう、本当に頭にきたんだから」
エプロンをつけて台所に立っていた私は、怒りに任せて、パスタを茹でていた大鍋の中を、菜箸でぐるぐると掻きまわす。
「うぅ、そんなに怒らないでよぉ」
蓮子が泣き真似をする。
「違うわ。私が頭にきているのは蓮子にではなく、あの削減人の男よ。チャラチャラしていて気に食わないし、まして蓮子のお父さんの事まで……」
私は怒りを抑えられないまま、茹であがったパスタのお湯を切る。モクモクと昇る湯気は、まるで私の怒りを代弁しているかのようだ。
「ああ、そっち?」
蓮子が笑いながらスーツを脱ぎ始める。脱いだスーツはいつも通り、床に放ったままである。
「許してあげなさいよ、メリー。確かに親父の事を言われた時は、少しだけムカッとしたけれど、相手を怒らせて弱みを引きずり出すことが、あの人の仕事なわけだし」
蓮子がネクタイを外し、やはりそれも後ろに放り投げる。
「イラついてしまった時点で、結局私の負けなのよね……って、あれ?シャツが脱げない」
「ああ、待って、蓮子。無理に引っ張っては駄目。カフスボタンがついているのだから」
私は料理を一時中断して、蓮子のカフスボタンを取り外してやる。
シャツの下からは、蓮子の白く滑らかな二の腕が見え隠れして、私は自分の鼓動が高鳴るのを感じる。
「れ、蓮子の部屋に室内着を用意して置いたわよ。あと、そろそろ晩御飯できるから」
慌てて眼を逸らし、私は再度料理に取り組むことにした。
「ありがとう。あと、メリー」
「ん?」
「前から思っていたんだけど、そのエプロン、凄く似合っているわよ」
「なっ……!」
振り返ると、蓮子は鼻歌を歌いながら自室へと入って行った。
「うわぁ、凄い豪勢じゃない。どうしたの、メリー」
食卓に着くや否や、蓮子が感嘆の声を上げる。私の正面に座る蓮子の顔は、御馳走を前にして綻んでいる。
「海の幸、山の幸、よりどりみどりね」
「まあ、全部合成食料なんだけど」
蓮子の笑顔をそっと見ながら、私はワインの栓を開ける。
「それでも、気分だけでもと思ってね。本当は、蓮子が失職を免れた事を祝おうと思って、用意しておいたんだけど」
「うぅ……ごめんね、メリー。折角応援してくれていたのに」
「済んだことよ。気にしていないわ」
蓮子のグラスに、ワインを注いでやる。その後、自分のグラスにもワインを注ぐ。
「ありがとう。それじゃあ、乾杯」
蓮子がパスタを啜っている。ズルズルと音を立て、口の周りをソースでベトベトにしながら。
桃色の唇が開き、その中に勢いよく麺が吸い込まれてゆく。むぐむぐと咀嚼した後、また控えめに唇が開き……
「うん。おいひい、おいひい。ん?メリー?」
「えっ?」
「お腹、空いていないの?」
「いや、そんなこと無いわよ」
いつの間にか、蓮子に見蕩れていた居たらしい。私も慌ててフォークをとる。
「しかし、メリーの作ってくれる料理はいつだって美味しいわ」
蓮子は相変わらずニコニコと笑いながら、今度は鶏肉のソテーを頬張っている。
「そうだ。ねえ、メリー」
「何かしら?」
「お仕事は順調なの?」
「ああ、私の仕事なら大丈夫よ。順調に進んでいる。前話した通り、来月末には完成して、再来月の頭には公表するはずよ」
「そう、それならいいんだけど。メリーも一応私と同じく、お役所仕事でしょう?予算削減や廃止にならなければいいんだけれど」
「大丈夫よ」
私は眉を曇らせる蓮子に、笑いかける。
「私の仕事は、予算不足と不景気が引き金となってできた仕事だから。そうそう簡単に廃止されないわ。そう」
「私の仕事、『東方Project』は」
今世紀。
二十世紀からの問題であった世界規模の人口爆発は、新興国の驚異的な発展・教育水準の高まりの甲斐があってか、なんとか食い止められた。
しかし一人一人の消費するエネルギー量は増加の一途をたどり、総量で見ると減るどころかむしろ増えてしまった。
こうして今世紀初頭には、世界は深刻なエネルギー不足に悩まされることとなった。
エネルギー不足を受けて、娯楽の在り方も変化を見せた。
大昔には娯楽の王道とされてきたスキー・ゴルフ・マリンスポーツ・ドライブなど、エネルギー効率の悪い遊びはいち早くバーチャル化された。
その成功を受けて他の娯楽も次々とバーチャル化され、「娯楽≒仮想空間での遊び」の図式が成り立つのに、そう長い時間はかからなかった。
多額の費用がかかり、事故の危険もある現実世界での遊びより、ローリスクハイリターンの仮想空間が好まれるのは、考えてみると当たり前なのかもしれない。
仮想空間での遊び方はやがて現実を遥かに超え、自分の好きなイメージソフトをハードに読み込んで、そこで遊べるまでに進化した。
急速な拡大を見せる仮想空間娯楽市場には、当然世界各国が注目した。
インド発の某財閥は、安価で高性能なハード機器で急成長を遂げ、欧州各国では高級感を売りにしたイメージ戦略で、それに対抗している。
日本も遅れをとるまいと参戦したものの、少子高齢化に因る労働力不足・科学振興軽視のツケに因る技術力不足は補えず、ハード面では全く歯が立たなかった。
そんな状況の中で「東方Project」が始動したのは、今から三年ほど前。私や蓮子がまだ院生だった時代にまで遡る。
極めて奇妙な事ではあるが、世界各国の日本に向ける視線は、日本が競争に負け落ちぶれるにつれ、好意的なものへと変化していった。
今までは技術大国として敵視していた日本のことも、その技術力が無くなってしまえば色眼鏡を外して、素直に視ることができる様になったのだろうか。
力を失った日本は古と同じく、オリエンタリズムを満たす格好の材料として注目されるようになった。
日本製の家電の人気が落ちても、武士や忍者・鬼や妖怪といったモノの人気は、世界中で健在していたのだ。
急激な仮想社会化への反発感も、「ファンタジーとしての日本」への需要につながったのかもしれない。
そしてそれは、日本企業にとっても格好のビジネスチャンスとなった。
大規模な施設や人員・高度な技術が必要な仮想現実ハードの開発と違い、人々が望む「日本」のイメージを詰め込むだけの読み込みソフトの作成は比較的容易で、しかも飛ぶように売れた。
そして今や世界中の人々が、仮想空間上で幕末の京都や、伝説の息づく遠野を楽しんでいる。
その現状を受け、粗悪な日本像の流布防止・読み込みソフト開発支援のためとして、日本政府が公式に「ファンタジーとしての日本のイメージ基盤プログラム」通称「幻想郷」を発表することとなった。
その開発・普及計画が「東方Project」なのであった。
「でもまあ、まさかメリーの妄想癖が役に立つ日が来るとは、思っていなかったわ」
蓮子がデザートのイチゴのムースを頬張りながら言う。
「あら、失礼ね。ロマンチストと言って頂戴」
笑いながら言い返すと、蓮子も微笑み返してくる。
「それで、メリーのお仕事は来月末で終わりなんだよね?」
「東方Project」における私の役割は、幻想郷が外国人から見ても魅力あるものになっているかをチェックすること、そして幻想郷の住人の設定を考えることである。
そしてその仕事は幻想郷が完成する来月末で、一段落することになっていた。
「いいえ、まだ終わりはしないわ。幻想郷が飽きられる頃には、また新しいキャラクターを追加する必要があるから。
もっとも、自宅からデータを送るだけでよく成るけど」
「え!キャラ作成は引き続きメリーが担当するの?信じられない」
「蓮子、貴女って本当に失礼な人ね。」
私は腰に手を当て、怒りを表現する。無論、冗談である。
「私の作ったキャラクターは、評判が良いのよ。河童・天狗・鬼・巫女・土着神……皆が『日本』に望む要素をばっちり詰め込んでいるわよ」
「ほとんど皆、女の子だけどね」
蓮子がくすくすと笑う。
「しかもそれに混じって何故か西洋魔法使い・メイドが居るし。なんで?」
「それは、だって、ほら……」
私は口籠る。私の趣味だ、とは言えない。
「むさ苦しい男ばかりより、女の子の方が華があるでしょう?
西洋系のキャラクターが居るのは、多様性を持たせることで、どの民族のユーザーでも容易に感情移入できるようにする為よ。ペルシア系のキャラもそのうち出すわ」
「へえ、意外としっかり考えているのね。私はてっきり、メリーのロリータ嗜好に依るものだとばかり思っていたわ」
「そ、そんな訳無いじゃない……まあ、ともかく」
私は内心を悟れない様に、話題を切り替えることにした。
「今後も私が働くから、収入源はあるわ。蓮子も安心して、職探しに専念して頂戴」
「え?」
蓮子がキョトンとした顔で私を見る。
「えっと、職探しって、私の?」
「そうよ」
「それならもう見つかっているわよ。ほら、メールも来ている」
そういって蓮子は、胸元からもぞもぞと携帯電話をとりだし、画面を表示して私に見せた。
画面には二十件以上のメールが表示されている。
「送り主のアドレスに御注目よ」
蓮子が悪戯っぽく笑う。
「ええと、なになに。日本、アメリカ、インド、中国、朝鮮……あ、私の母国からも来ている。どうしたの?これ」
「仕事の勧誘よ。今日の削減会議が終わってから、どんどん来ているの」
その時、蓮子の携帯電話が鳴った。
「あ、今もう一件来た」
「え?ちょっと、蓮子、それって……」
「何も可笑しい事ではないわ」
蓮子が服の袖口で、口元を拭いながら言う。
「今日の会議でも言ったけれど、研究者としての私は、結構高い評価を受けているのよ。
在職中もポツポツとヘッドハンティング……引き抜きの話はあったんだけど、断っていたの。
で、今回晴れて失職したから、一気にお誘いが来たのよ。いわゆる『頭脳流出』ってヤツね」
頭の中が真っ白になる。
ヘッドハンティング、海外、頭脳流出……予想だにもしていなかった単語が、次々と飛び出してくる。
それってつまり、もう私は、蓮子と一緒に居る事が……
「…リー、メリー?」
「え!?」
「どうしたの?ボオッとしちゃって。私の話聞いてた?」
「あ、ゴメン。ええと、なんの話だったかしら」
「もう……何処の国で働こうか、メリーに相談しようとしていたのよ」
蓮子が不満そうに口を尖らせる。
「何処の国って……あ、そうだ。日本の企業からも勧誘は来ているのよね?」
私は一縷の望みを持って、蓮子に問いかけた。
「国内企業?うぅん」
蓮子が眉を顰める。
「イマイチね。安定はしているけれど、超統一物理を自由に研究できるほどの実験施設を揃えている民間企業なんて、日本には無いわ。
きっと、他分野の研究に回されると思う。そんなの嫌よ。あと、お給料も安いし」
「べ、別に安くても構わないわよ」
私は必死に訴えかける。
「私も働いているんだから。国内の企業なら、幾らほど頂けるの?」
「どれどれちょっと待ってね」
蓮子が携帯電話を操作する。先程のメールの内容を確認しているようだ。
「ええと、~万円だって」
「私の年収と同じ位ね……。あ、でも保険とか組合費とかあるから、トータルで見たらもう少し低いのかな」
「違うわよ、メリー」
蓮子が困ったような顔をして私を見る。
「今言ったのは、月収よ。トータルとしての年収なら、ボーナスや手当がつくから、この額の約十五倍よ」
~万円の十五倍?あれ、それって、つまり……
私は何も言い返すことができない。眼の前に居るこの小柄な女性とその莫大な金額。どう考えても結び付けることができない。
「まあ、私の就職先は後で考えることにしてさ」
蓮子が微笑む。
「メリーのお仕事『東方Project』の話に戻るんだけど」
「うん?何かしら?」
私は水を飲み、どうにか落ち着きを取り戻した。
「思うんだけど、『東方Project』ってさ」
蓮子が呟く。
「ちょっと、卑怯じゃない?」
「え?」
「だってさ、メリー」
蓮子が、デザートスプーンで私を指しながら言う。
「『東方Project』が作る幻想郷って、確かユーザー参加型の構成を売りにしているのよね?」
「まあ、そうだけど……」
確かに幻想郷は蓮子が指摘する通り、ユーザー参加型である事を強調した作りになっている。
完成品として売りだされ、改変の余地が無い市販のソフトとは違い、「東方Project」が提供するのはあくまで基本的な世界観である、幻想郷だけだ。
幻想郷には一応住人がいるが、その住人の性格や能力などは極めて曖昧である。詳細は、ユーザーやメーカーがどのように設定を解釈するのかに掛かっている。
「それの、どこが卑怯なの?私達が手を抜いていると言いたいの?細かい設定をユーザーや企業に投げているってこと?」
「違う違う。メリーを含め『東方Project』のスタッフは、よく頑張っていると思うよ。
この間貰った試供品で遊んでみたけれど、凄くよく出来ていたわ」
「じゃあ、何が卑怯なのよ!?」
思わず、声が大きくなる。しかし蓮子は動揺せず、微笑んでいる。
「うん、私はね」
蓮子が言う。
「幻想郷を改変するメーカーが、卑怯だと思うの」
「どうして?幻想郷はもともと自由な解釈を目指して作ったものなのだから……」
「いや、それはいいのよ。面白い試みだとは思う。でもね」
蓮子が足を組み、顎に手をやる。小首を傾げ、じっと私の眼を見つめながら話す。
「それに乗じて小金を儲ける企業は駄目よ。評価に値しないわ。だって、彼らにはオリジナリティーがないのだもの。
貴女達『東方Project』のスタッフは、民俗学・心理学など各分野で一定以上の功績を残してきた、言わばプロフェッショナルでしょう?
そして、日夜幻想郷の事を考えて懸命に頑張って来た。違う?」
「まあ、その通りだけど」
蓮子は、何を話そうとしているのだろう?貶してみたり、褒めてみたり。
「そうでしょう?だって私は、貴女が頑張って来た様子をこの目で見ている。
自ら進んで深夜まで残業したり、休みの日もキャラの設定を考えて、ウンウンと唸っていたじゃない。
他のスタッフもそうなんでしょう?
割の良い仕事は他に幾らでもある筈なのに、幻想郷をより美しい、より理想的な場所にする為に、まるで子供の様に純粋な気持ちで取り組んできた。
その真摯な態度には、分野こそ大きく異なれど同じ研究者として、共感できる部分があるわ。しかし」
蓮子が一度話を区切り、ギュッと口を結ぶ。言葉に迷っていたようではあったが、暫くして、また口を開いた。
「幻想郷を利用する企業もまた、熱意に溢れているとは限らない。ここから先は私の予想だけど、企業の中にはきっと利潤のみを求めるモノが出てくる。
短絡且つ享楽的なドラマ、下劣で卑猥な性的描写、そういったものを幻想郷で再現し、金儲けを計る団体。
幾ら政府が規制しようと、そんなものはそれこそ蛆虫の様に湧いてくる。他人の純粋な志を、金儲けの為に踏みにじる。そんな奴らを」
「私は許せないわ、一人の研究者としてね。
オリジナリティを捨てて、うわべだけを整えて平気な顔をしている。そんな奴らはどこの業界にもいるけれど、碌なもんじゃないわ。
もっと言わせてもらえば、そもそも私は仮想空間自体があまり好きではないのよ。だってさ」
蓮子は溜息を吐く。
「幾ら丁寧に作られていようと、所詮は嘘の世界よ。私とメリーのサークル活動の様に、外へ飛び出したり、実験してみないと駄目なのよ。
そりゃあ、時には危ないことが在るかもしれないわ。期待はずれの事もある。でも」
蓮子は私を見つめて、微笑む。そしてテーブルの上に置かれた私の手を、両手で包むように握る。
蓮子の絹の様な肌の質感、微かな温もりが伝わってくる。
「思いだしてみてよ。一緒にあの浜辺で見た朝焼けの美しさ、凍えそうな冬の夜に観た流星群の壮大さ。
あの感動は、バーチャルリアリティでは再現できないわ。ね、そうでしょう?」
そのとおりだと思う。
幻想郷は悪用されるかもしれないし、バーチャルリアリティーには限界がある。
しかし……
「……っていないわ」
「え?」
「蓮子は、全然、分かっていないわ!」
私は立ちあがって蓮子の手を振りほどき、テーブルを叩く。軽く叩いたつもりなのに、予想外に大きな音が鳴る。蓮子がビクッと体を竦ませる。
「蓮子が言ったことは正しいわ。でも、大事な事を忘れているのよ。貴女は私達スタッフが、何を願って幻想郷を作ったのか、全然理解していない!」
自分でも、驚くほどの大声が出る。蓮子はポカンとして、私を見るばかりである。
「政策としては確かに蓮子の言う通りよ。幻想郷をユーザー参加型の構成にしたのは、企業の利益に結び付くから。貴女の言う『金儲けを企む下衆』の為よ。
でも、私達の願いはそれだけじゃあない」
自らの声で感情が高ぶる。声が震えているのが分かる。
「私達の願いは、私達が作ったソフトを基として、多くの人々が自分の幻想郷を見つけてくれること、そして自分の想いを表現してくれることなのよ!
確かに蓮子、貴女の様に優秀な科学者なら別よ。研究を通して自由に自分を表現できる。でもね、世の中の人皆がそうだとは限らないの。
世の中には既存の作品を変化させることでしか、自分の作品を作ることが出来ない『普通の』人が大勢いるのよ!」
自分の眼に、涙が溜まっていくのが分かる。
「そしてそんな無名な人々が作る作品の中には、時々宝石の様に輝くモノがあるの。
それは特別な才能の為ではないわ。日々の暮らしの中で育まれた平凡で、けれども純粋で力強い想いの為よ。
それが例え貴女の求める『本物』ではなくたって、十分に価値があるわ。
確かに貴女の危惧する通り、幻想郷が邪な目的の為の媒介となるかもしれない。でもそんな事位、十分覚悟しているわよ!
下らないドラマに使われようが、性欲の捌け口にされようが、そんなことで私達の幻想郷は揺らがない。
寧ろそれをきっかけにして、多くの人が幻想郷に興味を持ってくれるかもしれないわ」
前髪を払った際に、涙が一筋流れた。感情的になってはいけないと、頭では分かっているのに、溢れる涙が止まらない。
私が泣きだしたのを見て、蓮子が動揺するのがわかる。でも、構うものか。どうせこれが、蓮子との最後の喧嘩になるんだ。
俯きながら話すと、涙がボロボロと零れる。
「でも……グス……蓮子には分からないでしょうね。
世界に待ち望まれている優秀な貴女の瞳には、私達がやろうとしている事なんて、下らないオママゴトにしか映らないのかもしれない。
貴女は世界に羽ばたいて、私はこの島国に留まる……ふふ、当然かも知れないわね。
いいのよ、別に驚いた顔をしなくても。私を置いて海外へ行くんでしょう?それがいいのかも知れないわ。
未来志向ではない私に、愛想を尽かしたんでしょう?
ああ、今までが幸せすぎたのかもしれないわ。私、いつまでも蓮子が傍に居てくれるって、錯覚していたの。馬鹿な女でしょう?
捨てられて当然だわ。だって私は、蓮子の足手まといにしかならないもの。
どうせ私は保守的で、頭の堅い懐古主義者よ。貴女の助言を聞き入れず、下らない妄想を抱いているだけよ。才能も無くって……」
その時、急に自分の頬が熱くなるのを感じた。蓮子が立ち上がり、私の頬にビンタをしたのだ。
「ごめんなさい」
蓮子が静かに言う。
「私のことを誤解しても良い。罵っても構わない。
でも貴女が自分の事を貶めるのには、これ以上我慢がならなかった」
蓮子はコップに水を注ぎ、私に差し出してくれた。私は椅子に座り、勢いよくそれを飲み干す。先程まで昂っていた感情は収まり、代わりに深い悲しみが訪れた。
先程よりも激しく、涙が溢れる。
「……落ちついた?まったく、なんでこんなに荒れているのかしら。メリーらしくないわ」
「だって……グス……蓮子が……ヒグ、私を、置いて……エグ……海外に、行っちゃうから。もうこれで……蓮子と一緒に、居られなくなっちゃうから」
「そう、それよ」
蓮子が深い溜息を吐く。
「ねえ、メリー。一つ訊きたいんだけど」
「うん?」
私は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を、蓮子に向ける。蓮子は立ったまま、腕組みをしている。
「貴女もしかして、私について来ないつもりなの?」
「ふぇ?」
「『ふぇ?』じゃないわよ。全く……大体、不思議に思ったことは無いの?どうして私が最初から、海外の研究所に就職しなかったのか、って」
そう言われると、その通りだ。
蓮子は院生、いや、学部生のうちから研究成果を出し、その分野では世界的な名声を得ていた。
オファーが来ていてもおかしくは無い。
「貴女には言っていなかったけれど、国内外を問わず学部一年目から院卒まで、それこそしつこいくらいに勧誘されていたのよ。
どこで私の事を聞き付けたのか、聞いた事も無いような南米の小さな国からも、スカウトが来たわ。
『貴女が契約書にサインしてくれないと、私の帰りの飛行機代が出ず、国に帰れないんです』って泣き付いてきたのよ。困ったものだわ。
結局私が飛行機代を出して、帰国させたけれど」
意識してみると、思い当たる場面は沢山あった。
雨の日も風の日も、理学部棟の前で蓮子を待ち続けていた品の良い老紳士。
いくら拒絶されても、無理矢理蓮子に分厚い封筒(きっと札束が入っていたのだろう)を握らせようとする外国人男性。
蓮子の部屋に、金額欄が空いた小切手が送りつけられたこともあった。蓮子はビリビリに破いて棄てていたが。
「じゃあ……じゃあ、なんで国内に残ったの?海外の方が、国内よりずっと実験設備も待遇も、充実しているというのに」
私が問いかけると、蓮子がムスッとした顔で答えた。
「だって、メリー。貴女が『東方Project』に参加するって言うから……」
そうだ。
私は当時蓮子と喧嘩していて、蓮子に相談せずに、就職先を決めてしまっていたのだ。
仲直りしてから就職先について告げた時の、蓮子のあの表情……
「え、それって、つまり」
「ああ、もうそんなの決まっているじゃない。私が国内の研究所に就職したのなんて」
蓮子が苛立ったように、髪をぐしゃぐしゃと掻きまわした。しかしその頬は、ほんのりと桜色に染まっている。
「メリーと一緒に居る為よ!どうして、今更こんな当たり前のことを言わなくちゃいけないのよ!?」
「じゃあ、研究所が廃止されても平気な顔をしていたのは……」
「メリーの仕事が完了する時期と重なったからよ。仕事が続くって聞いた時は一瞬焦ったけれど、データを送るだけなら、何処からでも可能でしょう?」
「就職先を私に相談してきたのは……」
「これからも一緒に住むんだから、メリーの希望を聞かないわけにはいかないでしょう?」
「私、これからも蓮子と一緒に……?」
「当たり前でしょう?メリーの居ない生活なんて、私には考えられないわ……って、え、あれ?なんで泣いているのよ、メリー!?
もう悲しい事なんて、何もないでしょう?」
「うぅん、悲しくて泣いているんじゃないわよ。全く、蓮子ったら鈍感なんだから」
嬉しさと恥ずかしさの為に蓮子の顔を直視できず、私は下を向いて呟く。私が言い返してきたので安心したのか、蓮子が優しく私の頭を撫でてくれた。
「さて」
蓮子がパンと両手の平を打ち鳴らす。
「色々誤解はあったようだけれど、なんとか解決できて本当に良かったわ。何処に移住するか、早速二人で検討しないとね……ああ、そうだ」
けほん、と蓮子が咳払いをする。
「さあ、メリー」
何かしら?と言おうとして顔をあげた私は、言葉を発することができなかった。
そう、これはずっと前から、そしてこれからも続いてゆく、大事なおまじない。
私は微笑みながら、無言でその手を握り返す。
「次は何処へ行こうか」
なんだ、この、言いようの無い、
…俺は好きだぜ!
序盤のある意味嫌な空気に反して、話の運びは普通に面白い。
初めは「なんだ二次アンチネタか」とも思いましたけど、その作品自体が二次っ気たっぷりな辺り一筋縄じゃないなと。
オチが完全に秘封倶楽部なので、ただ主張したいがためにキャラを使った感バリバリになっていますが、『メタフィクション』と表している所を見るとそれも意図的なものなのでしょうか。
なんやかんや好き勝手言いましたが、実は議論する蓮子が見られた時点で満足。
痛快です。メタフィクションとしての表面"だけ"でこの作品を見ることは、余りにもつまらない読み方でしょう。
作者さんのメッセージ性に心を打たれつつ、100点を入れさせて頂きます。
正直、「うんまあそうだよね、わかってたよ」みたいな感想しか抱けない。
作者さんの主張が全然届いてこなかった
ただ、前半の討論はとても良かったです。
蓮子かっこいいよ蓮子
「ご結婚おめでとうございます!!!」
新婚のようでもありそれでいて昔の秘封倶楽部を今だ維持してる2人のキャラクターが魅力的なのでこの時点でもう100点余裕でしたw
メタ具合も設定もよく考えたな……この発想は無かった、あっても作品にしようなんて人がいるとはな……いろんな意味で脱帽しました
コメントに困るけど高得点は入れたいと思わせる作品だった、というか真に言いたい事をコメント出来る程私の語彙無いのが残念だ
上手いこと政治意見やら東方projectやらを作品に盛り込んであるなと思いましたけどこれはメタなんでしょうか。
それから泣き虫メリーと性格がイケメン蓮子がツボに嵌りつつあるんですけど責任を取って下さ(ry
それでも50点ではあまりにも足りない
素晴らしいです
自分も蓮子みたいな強い意思を持ちたいなぁ。
そう、貴方もね。
なかなかよかったです。すこし自分の中で物足りなかったので90点で
作者様の手腕によるところだと思いますが。
蓮子の研究と仕分けの組み合わせは非常に上手いなあ。
で、なんだかんだいって秘封ちゅっちゅっというのが◎
作者の言ってることは正しいと思うけど、キャラの名前を間違えるような人が言ってもなぁ…ってことで大幅減点
良くて予算の大幅削減、最悪廃止みたいだし路頭に迷わなきゃいいよなぁ、とかね。
俺が削減人なら討論が終わった後下を向きながらこう思うね。「計算通り!」と。
次に思ったのが二人の今後について。
メリーさん、貴女が取り組んでいる『東方Project』ってライフワークとまでは断言できないけど
かなり思い入れのある仕事なんだよね? それをある意味否定されたんだよね、蓮子さんに。
その意見の相違をすり合わせもせずに、「次は何処へ行こうか」の一言でうやむやにしちゃっていいの?
それで本当に二人は幸せになれるのかなぁ。
まあ何が言いたいのかっていうと、「ちょっと女性を軽く視すぎてないですか? 作者様」ってこと。
全ては俺の主観だけどね。
なんというかこういう政治の話って明確な善悪がないから、一方的に(削減人が)悪いような表現されちゃうと違和感感じるんですよね。まあメリー視点なので仕方ないんですが。
長々と見辛い文章書きましたが、結局のところ作者さんと私の考えが合わないだけだと思います。
参考になれず申し訳ありません。
二人の就職についても、同棲までするような間柄になるんだから
恋愛ごっこの延長じゃなく最初に胸の内を曝け出して話し合わなきゃ
2次創作についての考え方は横に置くとして
良い年した大人がままごとをしているようにしか見えませんでした
幻想世界の話ならともかく、現実社会の話を作るのはかなり難しいですね
蓮メリは全を受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ。
具体的にはセカンドライフ級の。
ただ、この直後の場面には不思議に思うことが一つありました。
>私も微笑み返して誤魔化す。彼女には、私と蓮子の関係を明かしては居ないのだ。
関係は秘密。つまり、蓮子が友人であることは説明してあるのかと思いました。
ただの友人関係であっても気になって当たり前の重要な日であるのに、わざわざ誤魔化す意味があったのか疑問です。
二人の関係だけではなくて、そもそも蓮子と知り合いである事を話していないような感じがあって、引っ掛かるものが残りました。
先にあった「事業削減会議」という言葉の説明が回想と共に語られる場面は、かなり不穏な空気ですね。
想像していたのと殆ど同じ政策、失敗を予見させる雰囲気。ここはどちらも躓く要素がないのであっさり先に進めました。
そして、妙に飾り付けた男性と蓮子との対決。きっと負けてでも蓮子の見せ場(という扱い)になるのだと考えていました。
何故なら削除人が完全な悪役になっていて、嫌な笑い方、酷い態度、弱者を狙う、人格攻撃、無駄の多い服飾、大衆の側を名乗る。
どれも不快なもので、科学者として正しい姿勢を持っている蓮子との落差がすごいと感じました。
読みながら考えたのは、この方が話としてはわかりやすいけれど、もし蓮子の敵が善人であったら……という事でした。
彼が悪役として描写されているために、事業削減の正当性と同時に『蓮子の意見の正当性』までもが棚上げされているのです。
悪人と対立しているのだから、蓮子の意見は相対的に正しく見える。しかし、単体の意見としての判断は忘れ去られる。
政府の側として出てきたのが、悪い点を挙げるのが難しいような人物だった場合なら、どうなったのでしょうか?
誰からも善人であると思われていて、蓮子に対しても理解を示しながら、反論もして、規模縮小などの妥協案も出す削除人。
そんな人物によって廃止の決定がされたなら、互いの意見の正当性について考えた上で蓮子を肯定できたように思うのです。
今回の話では結果としては負けていますが、蓮子が論を述べる前から「勝っていた」のがどうしても気になってしまう。
一方通行の言葉だけで「議論」が成立しないまま終わった。負けたけれど、何も反論されずに勝ってしまった。
そのため蓮子の論理を打破する反論が存在するのかどうか不明で、曖昧で、心に小さな不安が残る。
これを解決するには、読み手の内部で対論を完結させる必要が出てくる。
蓮子の語った内容のがいかなる反論にも耐えうると証明するために、不愉快な人物の代理で反論を考えなければならない。
蓮子の味方という視点で読んでいたのに、彼女の論理を肯定するためには一度は敵になることが要求される。
これが蓮子の勝利を素直に感動できなくさせる原因ではないかと思うのです。
もっとも、後で彼女自身が言っているように、彼は見事に役目を果たした。削除人としては、正しいやり方だったのかもしれない。
けれど私には、舞台装置の完成度を気にしたあまり、語りたかった内容と台本とに齟齬が生じてしまったような印象を受けました。
もし蓮子が負けていれば、帰宅した彼女に対するメリーの最初の言葉も違っていたはずです。
非難するための言葉である『頭にきた』ではなく、蓮子の勇姿を讃える『格好良かった』と言えたのではないでしょうか。
――ということで削除人との会話の場面は不満が爆発していたのですが、帰ってからは別の意味で爆発ですね。
蓮子ひとりではシャツさえ脱げず、メリーがカフスボタンを外す(間接的に脱ぐのを手伝う)とか、エプロン姿を褒められるとか。
先程の議論を忘れ、二人がくつろいでいる所で話題に上ったメリーの仕事。
唐突に世界観が滔滔と語られ始めて驚きましたが……なるほど。
蓮子を利用して科学の軽視された国を提示したのには、一応の意味があったんですね。
整然としたわかりやすい解説で、なおかつ興味深いと感心をして、しかしそれが終わると目を疑う発言がありました。
>幻想郷が飽きられる頃には、また新しいキャラクターを追加する必要があるから。
>もっとも、自宅からデータを送るだけでよく成るけど
理解ができず、見なかった事にして最後まで読んで、何度くりかえし読んでも、この箇所を好意的に解釈するのは難しい。
メリーの言葉をそのまま受け取るのなら、住人のみを追加するということになります。
新しい思想や歴史の解釈、価値観などを加えるのではなく、ユーザーが飽きない程度に登場人物を増やしていくだけ。
企業は世界観を追加せず、住人の詳細設定をいじるだけという説明からも『東方Project』が世界観を支配しているのがわかります。
そしてメリーの言によれば彼女は世界観の構築を担っていません。住人の作成を除いた作業は同僚の手によるものでした。
しかし、もう世界観の修正は行われない。こう考えると規模縮小されるべきなのはメリーの職場のほうになる。……。
さすがにこれは間違った解釈だと思います。ありえない。けれど最初に読んだときには世界の更新が停止されると錯覚したのです。
メリーは世界観の更新について触れていないけれど、他の人間の手によって追加や修正も行われるのでしょう。
ただ、彼女の言葉からは、住人の増加が世界観に与える影響を意識していないような印象を受けました。
あるいは最初から存在しないものとして捉えている。
世界というものを必要としていなくて、住人の繋がりだけで『幻想郷』が成立していると思っているかのような……。
滲み出るその雰囲気が世界の死となって、背景を捨てたキャラクター商法による利益の追求行為のように見えたのかもしれません。
自宅で作業できるという発言も、メリーがいい加減な気持ちで仕事をしているようだと感じてしまったもう一つの理由です。
(自宅からデータを送るだけ、というのは情報交換が不足している状態を想像させますが、そこは後述します。)
インターネットを介したチャットやメールのやりとりによって、メリーは世界観についての情報を受け取るのでしょうか?
世界観の構築に携わっていないのに、受け取った情報から魅力的なキャラクターを生み出せるのは稀有な能力だと思います。
しかし、引用文のような言葉を吐いてしまう人物がその仕事に適しているとは、どうしても考えられないのです。
この『幻想郷』は早期の衰退を免れないように感じました。何故ならメリーはこの世界を消耗品として扱っているからです。
延命措置によってソフトウエアが価値を発揮する期限を伸ばしはする。けれど、それだけでは永劫に続くとは期待できない。
後で彼女が熱く語るような「願い」のために努力している印象は皆無でした。発言からは少しの熱意も読み取れなかったのです。
この場面のせいで、すべてを蓮子に吐露する部分までが本心ではないとさえ思えてしまいました。
ユーザーが飽きなければ、二次的、三次的な創作行為で価値ある物が生まれるかもしれない――というただの楽観。
「既存の作品を変化させることでしか、自分の作品を作ることが出来ない『普通の』人」のために、工夫をしようとしていない。
いまの心情はまさに、蓮子が冗談で言った次の一言と一致します。
>「え!キャラ作成は引き続きメリーが担当するの?信じられない」
細部に拘り過ぎていると思われるかもしれませんが、この作品の全てを否定するほどの発言だったと感じました。
メリーが真摯な気持ちで『普通の人』のために幻想郷の住人を創造しているのなら、別の言葉を使うのではないでしょうか?
言い争う時に語った考えに推察で辿り着けそうな言葉か、あるいはその「願い」を聞いた時に納得がいくような言葉を。
たとえば、「幻想郷で新しい遊び方が生まれなくなったら、また新しい世界観や住人を追加する必要があるわ」など。
……他にもありそうですが、代案をあまり多く挙げても長くなってしまうだけなので一つだけで終わりにします。
あまり良い改変とは言えませんが、少なくともメリーが『幻想郷』を単なる商品と見做す雰囲気は消せたのではないかと。
ところで、今までに何度も『世界観』という言葉を使ってきましたが、ふと気づいた事があります。
この『幻想郷』は世界が人物に影響を与えるのではなく、人物が世界に影響を与えている……そんな印象があるのです。
それも逆が無い。世界は住人を認めるために歪められるけれど、世界のために住人が合わせることはない。
完全にキャラクター優位の世界になっているように思えます。世界が住人に奉仕する構図ですね。
メリーと同僚の間で、世界観と住人をすり合わせて同意できる点を見つけようとする雰囲気がないためにそう感じました。
自宅で作業できるとメリーが言った時にも、情報交換については触れられませんでした。
「事業削減会議」についても懇切丁寧に解説していたのを鑑みれば、単なる説明の省略だとは到底思えません。
互いに古いバージョンに合わせて住人や世界を作るのではどうしても齟齬が生まれてしまう。きっと魅力が損なわれる。
けれど、メリーは情報交換の重要性を何も考えていなかった……考える必要が無かった。
これこそが世界よりも住人の存在が優位であるという証左ではないでしょうか。
そうなると両者の力関係はそのまま担当者の権限に直結します。誰もが、住人を創る人間の意見に耳を傾けるようになる。
メリーが住人の設定を決めてからようやく、世界観の担当者はそれに合わせて作業を始める。
こう考えると、メリーが自宅で作業可能だと言っていたのも当たり前だと結論付ける事ができます。
彼女が考案した新規の住人が持つ設定に合わせて、世界観を構築するチームは後から世界を改変するのでしょう。
それまでの世界観に破れをもたらす住人を造形する権限がメリーに与えられているのは間違いないですね。
もし与えられていない場合は、必然的に「小さなキャラクター」だけしか創れないでしょう。それではメリーといえど厳しいはず。
これは私達が東方の二次創作をする際に、魅力的なオリジナルキャラクターを創るのが難しいのと同じですね。
幻想郷の住人を創る人間を重視していくと、最終的にメリーの独擅場になるという疑惑はあります。
しかし、彼女は自分の役割について住人の創造だけだと言っている。
もしかすると彼女は世界観の構築について、間接的に参加している事に対して無自覚なのでしょうか。
世界観と独立した住人を創るというのは不可能で、そして住人同士の関係は世界を新しいものに作り変える。
そもそも世界と住人は不可分で、どちらかを個人に任せる事は全てを委任するのと同義です。
同人活動や民間企業なら、それもありなのでしょう。しかし、現実に国家が運営する企画としては致命的に思えます。
メリーがこの仕事を辞めてしまったら、もう確実に『幻想郷』は衰退する。
住居は移しても仕事は続けるらしいのでそこは安心ですが、それでも個人に依存しすぎているように感じました。
リスクヘッジの概念が無い。そのため最初は現実感が欠けていると思ったのですが、もしかするとそれで正解なのかもしれません。
メリーの作成する住人が『幻想郷』に対して圧倒的な優位になっている事は既に語りました。
そして、この作品の主役である二人と世界との関係もまったく同じ構図になっていたのだと気づいたのです。
メリーと蓮子は互いを除けば誰とも「会話」をしていません。そして二人は能力が突出し過ぎていて他人を必要としていない。
二人にとって、蓮子とメリーだけが『住人』であって、あとは全てが『世界』の領域に属しているに違いありません。
メタフィションを目指したという記述がありましたが、この入れ子の構図は意図して書かれたのでしょうか。
卓越した二人の才能を賛美する世界は極彩色の絵画のようで、あまり好きにはなれませんでしたが……これは好みの問題。
二人を正当化しようとする言葉が少しくどいように感じられても、この作品に一貫性を与えるためには必要だったのでしょう。
世界は秘封倶楽部の二人に追従するだけの存在で、だからこそ他の人物は徹底的に脇役であったわけですね。
さて、蓮子が「幻想郷を改変するメーカー」を非難して、メリーが反論する場面にまで飛びます。
上記の結論に辿り着く前に何十回も通過した遣り取りの内容ですが、タグにあった「東方二次創作について」の話よりも一つ。
とても気になった箇所がありました。蓮子がフィールドワークを重視する一方、機械を通した情報をまったく信じていない事です。
蓮子にこれを語らせたのは失敗だと思いました。共通点はあっても、これらはまったく違う話のはずでしょう。
仮想世界の悪用を否定するために、論理の本筋とは異なる話を使ってしまった。このせいで無関係の反論が混ざります。
仮想空間からの情報は否定するのに、自然からの情報はただ自然のものであるというだけの理由で否定を免れるのは何故なのか?
バーチャルリアリティが現実の出来事を余すところなく再現できるようになったら、蓮子にとって現実の価値は減ってしまうのか?
「つくりもの」の方が現実よりも「現実らしい」と感じられることがあるけれど、その事について蓮子はどう考えているのか?
……次々と浮かぶ疑問に答えが無いまま二次創作についての議論に移ってしまい、それがとても残念でした。
結果として、企業を非難する蓮子の論理の正当性まで揺らいだように感じてしまいました。
メリーの反論は蓮子に受け入れられてお仕舞いで(あるいは涙のために曖昧に流されて)、随分とあっさりとしていたと感じました。
とは言うものの、語られたメリーの言葉は概ね賛成できるものであり「事業削減会議」の時のような不満は殆ど無かったです。
一つだけ挙げるとしたら、蓮子が否定した「利潤を追求するだけの企業」を基にした、三次創作の可能性でしょうか。
正義感の強い人間からは「害悪」と思われるような改変さえも昇華をして、輝きを生み出す表現者の登場。
『幻想郷』に参加する糸口としてだけではなく、粗悪と呼ばれるものを下敷きにして価値あるものを生み出そうとする行為。
それらについてもメリーが語ってくれていたのなら、削除人と対立した時の科学者の言葉に匹敵したのでは、などと思います
政治的な判断を絡めたり、甘すぎる世界があったり、二次創作について、何かに仮託するわけでもなく直接的に語ったり……。
二人に優しすぎる世界は好きではなかったけれど、複数の要素が混ざる事によって生じたノイズは不思議と悪くなかったです。
ところで初回は気がつかなかったのですが、泣き出してからのメリーの語りは全て声に出していたんですね。
発言者の動作や蓮子の反応が挿まれないのに随分と長い発言だったので誤解をしてしまいました。
このときのメリーさんはちょっと怖かったです。
少し長くなってしまいましたが、考えさせられるお話をありがとうございました。
まあそこへの疑問に、削減人を論破するシーンの爽快感が勝っていたので、個人的には良かったです。
好意的なコメントは勿論の事、本作に対する疑問を呈してくれるコメントも多かった事を、非常に嬉しく感じております。
特に優依様のコメントには、大変驚かされました。その量も然ることながら、鋭い問題意識と深い考察には、脱帽するより他ありません。
作者がssの本編以外でその内容を補足するなど、蛇足以外の何物でもないとお怒りに成る方もいらっしゃるかもしれませんが、
疑問を投げかけてくれた方々に応えたいとの想いが抑えがたく、回答及び舞台裏の紹介をさせて頂きます。
疑問の中には重複すると思われるモノもありましたので、勝手ながら私の方で簡単に纏めさせていただきまして、それに答えるという形式をとらせて頂きます。
「そういう意味で残したコメントではない」「自分のコメントに対する回答がないよ」といったお叱りもあるかもしれません。どうかご容赦ください。
また、作中の人間とはいえ、私がその心の内を全て考えてから書いている訳ではなく、回答にも推測・推論が含まれる事をお許しください。
まず本ssの特徴として
A 前作まで引きずっていた終末的世界観を一旦封印し、ssから暗い要素・描写を排除して、読んで気持ちの良いものを作ろうとしたこと。
B 実は本作を書く前に「戦略東方Project(仮)」という蓮子をメインに据えたssを(未投稿ながら)書いており、本ssにはそれに対する伏線が少しだけ仕込まれていること。
(「戦略東方Project(仮)」はできれば年内には投稿したい……)
C 実は、登場人物の行動や環境などは私の知人を一部モデルにしていて、それが結構えげつないこと。
が挙げられます。この三点を中心に据え、個々の疑問に回答させて頂きます。
Q1 何故メリーは蓮子との関係を、同僚に対して秘密にしているの?
A1 よく用いられる嫌な人物のイメージとして「自分の友人(知人)はこんなに有名であると見当違いな自慢をする人間」というものがあります。日本人以上に日本人らしいメリーとしては、著名な科学者である蓮子との関係を明かし、それを自慢ととられる事を懼れていたのではないでしょうか。
また、蓮子を他人に積極的に紹介しない事によって「私だけの蓮子」という歪んだ幻想を抱いていたのでしょう。
Q2 削減人が一方的に悪役なのは変じゃない?
もっと論理的に話のできる善人が相手だったらどうなっていたの?
舞台装置の完成度を気にし過ぎだよ。
A2 削減人は悪役を「演じる」ことのできる評論家(派手なイメージ)と設定しました。メリーはすっかり怒り心頭に達して気付いていませんでしたが、
>相手を怒らせて弱みを引きずり出すことが、あの人の仕事なわけだし
という蓮子の科白にあるように、彼の仕事は憎まれ役になることです。この科白で彼に対するフォローはできているかと思ったのですが、分かりにくかったですね。ごめんなさい。
また、
>事業削減会議とは、日本国政府が現在取り組んでいる支出削減の為の眼玉政策だ。
>この会議の特色は、対象となった公的機関(主に科学技術関連の機関が多い)の代表者
>と、政府が選定した「削減人」が公開討論を行う処にある。
とある様に削減会議には、現実に行われたアレと同じく「気鋭の評論家が無駄な公共事業を一刀両断する」というわかりやすい「パフォーマンス」が必要です。
残念ながら、穏やかで理知的な性格の人物は起用されないでしょうね……
また、この討論が「舞台装置の完成度を気にしすぎ」との意見には、正直胸がときめきました。此処を気にしてくれるなんて……
実はこの討論は、一種の演劇を想定して書きました。
下馬評で廃止が濃厚な研究所を相手にする削減人と、既に海外進出を視野に入れている蓮子。結果が在る程度見えている以上、次に彼が考えるのは、TVという媒体を通して自分自身の価値を上げる事でしょう。
実際アレで憎まれ役ながらも知名度を上げて、色々なメディアや講演に引っ張りダコな議員さんが……いや、何でもないです。
削減人は蓮子について下調べをして置くことで、鋭い質問を繰り広げ「辛口評論家」という称号を手に入れ、尚且つ蓮子を熱くさせることで場を盛り上げたかったのでしょう。
議論は劇的であればある程、価値があったのです。ただ、彼にとって誤算だったのは
>しかしカメラは会議の様子を映さない。>その姿が扉の向こうに消えるまで、ただ颯爽と歩み去る蓮子の後ろ姿を、映し続けてい>た。
とある様に、関心が蓮子にばかり集中してしまったことです。
Q3 メリーがキャラをつくり、そのキャラが幻想郷をつくる。メリーの担う処が大き過ぎないか?
この幻想郷や、それを国家プロジェクトとするこの国に将来性を感じる事ができないよ。
A3 仰る通りです。でもこれがBに示した「伏線」となりますので……
Q4 蓮子がバーチャルリアリティを否定する処で、説明が足りない。蛇足じゃないの?
A4 その通りです。完全に蛇足です。秘封倶楽部のサークル活動の描写、実験の大切さを書きたいが為に、脱線してしまいました。
Q5 研究所の人はどうなってしまうの?
A5 >きっと、他分野の研究に回されると思う。そんなの嫌よ。あと、お給料も安いし
という蓮子の科白と、
>この日本には、今日明日の暮らしにも事欠いている人が大勢いるのですよ。
という削減人の科白、及び必死に研究所を存続させようとした所長が、その答えになるかと思います。
以前物理畑の友人に訊いたところ「正直、○○物理(本当はコレをやり続けたかったらしい。彼女の名誉の為、伏字)は厳しい。けれど実学方面に切り替えた途端、民間企業から引く手あまた」だそうです。
実際「引く手あまた」とまではいかないでしょうが、そこのボスと企業の方との信頼関係によって、まずまずの道が用意されているらしいです。よかったよかった。
蓮子の様に己を貫く研究者、私の友人の様に少しだけ自分を曲げて再就職を果たした研究者、そして夢半ばで散って逝く研究者……いろんな人が居るのでしょうね。
Q6 メリーは自分の仕事を否定されても、蓮子について行くの?
A6 コチドリ様から「ちょっと女性を軽く視すぎてないですか? 作者様」というコメントを頂きましたが、残念ながら全ての女性(時には男性も)が蓮子の様に強く生きられるとは、限らないのです……
馬鹿にされ軽く扱われながらも、それでも恋人について行く、忘れられない、離れられないという人間も少なからず居たわけです。
私には(同情はできても)理解はできませんけどね。
Q7 どうして就職についてちゃんと話合わないの?大人でしょ?ままごとにしか見えないよ。
A7 ssの冒頭及び末尾に在る様に、秘封倶楽部を牽引するのはいつも蓮子です。メリーが「自分は蓮子がいなければ、何も決定することができない」と思い悩んでいた可能性はあります。
そんなメリーならば、蓮子との喧嘩期間中に、咄嗟に就職を決めてしまう事だってあるのではないでしょうか?
人生の大切な決断に限って、その日の気分や他人への「あてつけ」で決めてしまう……そんな経験、ありませんか?
また、蓮子とメリーの関係が「ままごと」であるとの指摘は鋭いな、と感じます。
自分の着衣の始末もままならず、メリーに甘えるより他ない蓮子。そして「自分に依存する蓮子」という存在に依存するメリー。
本文中に示唆した父・宇佐見名誉教授との冷え切った親子関係を持つ蓮子、独り異国で過ごし孤独に苛まれるメリー。
これはもう共依存が起こるべくして起こっているとしか思えないのです。共依存の関係にある二人は、大人ではないのです……
Q8 終盤のメリーの科白が長くて、初回は科白だと気がつかなかったよ。
あと、この時のメリーさん怖いんだけど……
A8 科白だと気付いて頂けなかったのは、私の力不足です。ごめんなさい。
ヒステリーを起こした女性の怖ろしさについては、強く同意します。
以上です。
ただ、私が示した回答はあくまで私の考えにしか過ぎません。
本ssを読んだ皆様が、私が上に示した事と違う事を感じて下さったならば、勿論それが正解です。
色々な解釈をしてそれをコメントして下さると、私は嬉しくなってしまいます。
また、優依様がコメントして下さった
「一つだけ挙げるとしたら、蓮子が否定した「利潤を追求するだけの企業」を基にした、三次創作の可能性でしょうか。正義感の強い人間からは「害悪」と思われるような改変さえも昇華をして、輝きを生み出す表現者の登場。『幻想郷』に参加する糸口としてだけではなく、粗悪と呼ばれるものを下敷きにして価値あるものを生み出そうとする行為。それらについてもメリーが語ってくれていたのなら、削除人と対立した時の科学者の言葉に匹敵したのでは、などと思います」
というこの内容に、私は目から鱗が落ちる思いをしました。恥ずかしながら、この「三次創作」については思いもよらなかったのです。
素晴らしい教えを下さった優依様には、重ねて感謝を申し上げます。
また、今後とも御指導・応援を頂ければ幸いです。
これはあり得る><
学部生のうちからヘッドハンティングとか本当にあるんだろうか。
メリーさんの涙が見れただけでもう満足 そして蓮子格好良い!
二次創作についてなどにも、色々と考えさせられました