「パチュリー様、紅茶をお持ちしました」
小悪魔が、テーブルにティーセットを置く。
広大な図書館に、かちゃり、と陶器がぶつかり合う音が響いた。
「ありがとう」
図書館の主たる魔女、パチュリー・ノーレッジは、読んでいる本から目を離さずに言った。
やはり、そのまま目を離さずにカップを手に取り、紅茶を口にする。
行儀が悪い、とは紅魔館の住人から幾度と無く言われているが、長年に渡って行なってきた
習慣が抜けるはずもなく、遂には周囲が諦める始末だった。
パチュリーはカップをソーサーに置き、何も言わずに読書を続けた。
おいしい、の一言でもあればいいのに、と小悪魔は常々寂しく思うが、それは口に出さない。
普段表情の変化に乏しいパチュリーが、ほんの少し穏やかな顔をする。
彼女に仕える小悪魔としては、それがなによりの喜びなのだった。
小悪魔はそのままパチュリーの向かいに座り、積んであった本の一冊を手にとった。
「『同血縁内における恋愛の成立』…」
口に出してタイトルを読み上げる。なんだかとんでもない本であった。
この図書館の蔵書は、基本的にジャンルに偏りがない。
魔導書はもちろんのこと、普通の学術的な本から果ては童話や官能小説。
当初はパチュリーの所持品のみだったが、外の世界で忘れ去られ、
幻想入りした本を自動転送するという、外の世界が好きな者からすれば憤慨モノな
魔法をパチュリーが編み出したことで、最早図書館の蔵書は当人にも把握しきれないほどまでに
膨らんだ。そこで、司書たる小悪魔が召喚された。
小悪魔が別の山から本を取り出す。
「『偉人における兄妹結婚』…」
小悪魔は思う。これはツッコンでいいのか、悪いのか。
悪魔、それもとびきり力の弱い存在である小悪魔には、魔女の考えることなど分かる由もない。
それを知ってか知らずか、パチュリーは小悪魔を実験台として扱う。
『私は愛をもって小悪魔に接しているわ』などと顔を赤らめて言われようと、
変異魔法で咲夜が大嫌いな台所に出没するあんちきしょうに変化させられては、
忠誠心が揺らぐというものである。
よって、今回のこの本も、ろくな事にならなそうな気がしてならない。
見てみれば、今まさにパチュリーが読んでいる本も近親婚についての本であった。
数瞬、ほんの数瞬迷った小悪魔は、結局席を立ち図書の整理に向かうことにした。
触らぬ神に祟りなし。神が複数顕在している幻想郷に於いても、その諺に偽りはない。
が、小悪魔の運命は既に定まっていた。レミリアあたりが同情する程度には。
「小悪魔」
「は、はいっ!?」
パチュリーの口から紡ぎだされる、非情な死の宣告。
普段物静かなくせに、声をかけられたくないときに限って話しかけてくるこの主が憎い。
「姉妹になりま―」
「言わせませんよッ!!??」
フラグ緊急回避。このスキルは唯一小悪魔が誇れるものである。
「姉妹になりましょう」
「まさか二回言うとは思いませんでした!!」
緊急回避は失敗していた。否、この魔女にはスキル無効化のスキルが付いているのだ。
言葉は矛盾していても、現に小悪魔のスキルは通用しない。
「それくらい大事なことなのよ。だから、なりましょう」
パチュリーは座ったまま、首だけを小悪魔に向けて言う。
その瞳には有無を言わさない強制力があった。多分、この魔女はメドゥーサか何かなのだ。
(あーでもメドゥーサじゃ私死んじゃうな…いやまぁ死ぬようなもんか)
小悪魔は現実を直視することをやめた。
「いい、小悪魔。妹とは…そう、宝よ!」
ガタッ!と遂にパチュリーは立ち上がり、胸に手を当て朗々と演説を始めた。
普段滅多に動かないこの魔女が立ち上がる時は、大抵碌な事がないのである。
「同じ血を分けた存在といえど、父母と比較すれば他人、という認識は強まる。
兄と妹であれば異性、姉と妹であれば同性の、
他人がすぐ身近にいると言っても過言ではないわ。では、他人を身近に置いた時、何が起きるか。
好意をもつ。反発する。無関心になる。そのバリエーションは他人であるがゆえに、
双方の性格や歴史に左右されるわ。そう、なればこそ、『好意をもつ』という結果が
導き出されるのもまた必然。古来より人類は近親婚が一族の破滅につながることを
身を持って体験し、また外の世界の近代医学はそれを遺伝子という形で証明したわ。
そして、子供たちに近親婚はタブーであるという認識を刷り込ませ、『好意をもつ』必然性を
可能なかぎり最小限まで押さえ込んだ。しかし!それゆえにその『タブー』に惹きつけられる―」
パチュリーの演説はその後2時間に及んだ。
小悪魔は考えることをやめた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「レミリアお嬢様…私はどうすれば」
小悪魔は廊下で泣いていた。館の主たるレミリアにすがって泣いていた。
だが、泣きたいのはレミリアも一緒である。妹を持つ彼女の親友のパチュリーが、
近親婚だの、女性同士の近親婚はタブーの相乗効果で云々だの言っているのだ。
友情とは一時の過ちではそう簡単には切れない故、レミリアは大いに悩んでいた。
パチュリーの奇行は今に始まったことではない。
というか、魔女という種族は大概にして変態である。
白黒然り、人形使い然り、あの寺の尼はどうだか知らないが。
「小悪魔、原因は分からないの?」
何も行動しなくば、小悪魔がパチュリーと結ばれてしまう。それも妹として。
そんなわけのわからない連中を置くことは、紅魔館の沽券に関わるし、
なにより500歳独身のレミリアにとっては身を裂くように辛い。
問われた小悪魔は人差し指を顎に当てうんうん唸っていたが、唐突に閃いた。
「そういえば…この間、外の世界の小説が流れてきたんです」
「…小説?」
「はい。最近よく流れてくるので、専用のスペースを設けたのです。
サイズは文庫本と同等なのですが、文字の大きさがやや独特、且つ、
表紙には大抵可愛らしい女の子が描いてあるんです。」
その説明を聞いたレミリアは、官能小説の類かとも考えたが、レディー的にそれを
口にだすのはいただけない。見た目的にもいただけない。心は500歳だけれども。
「それで、そのかんn―文庫本がどうしたのよ」
「かん…?あ、いえ、それがですね、その中にこんなものが…」
ごそごそと懐から取り出したのは一冊の本。表紙にはふてぶてしい顔をした少女と、
冴えない男が描かれていた。
タイトル的に、なんとなく見えてきた。つまり影響されたのである。
「魔女ってこう…ミーハーよね」
「…ですね」
魔女の親友と部下は、お互いの境遇に同情し合った。
互いの苦労が、なんとなく垣間見えた一瞬である。
原因はわかった。では対策はどうすればいいのだろう。
魔術の本舗たるパチュリーに、忘却呪文など唱えたところで意味はない。
そもそもレミリアも小悪魔も、そういった類の呪文は使えない。
頭でも強打して、物理的に忘れさせようかとも考えたが、それがトリガーになって
彼女が溢れ出すリビドーを、ほとばしる熱いパトスを解放させてしまっては本末転倒である。
お前の性欲で宇宙がやばい。
(なんだろう…考えれば考えるほどパチェが変態じみていく…)
そんなつもりはないのだ。友人を更生させてあげたいだけなのだ。
にもかかわらず、彼女への印象が悪くなるだけである。普段は抑えている彼女への不満が、
ここに来て溢れ出しているとでも言うのか。地底の橋姫の様に、普段から不満ダダ漏れ
位のほうがいいのだろうか。実は橋姫って天使級の心の清さを持ってるのではなかろうか。
「そうだ!!」
レミリアが思考のドツボにハマっていると、小悪魔が突然閃いた。
「パチュリー様に、妹を幻滅してもらえばいいんです!」
たしかに、好きなものでも欠点を見出してしまえば、案外印象は変わるものだ。
好きなアイドルがわいせつ物頒布罪で捕まれば、幻滅もするというものだ。
『そこも含めていいッ!!魔理沙ぁぁぁぁぁ!!!!』
…なにか余分な運命が見えたが、レミリアは気にしないことにした。
具体的な作戦はこうだ。
パチュリーが例の文庫本を読んでからというもの、
常々スカーレット姉妹を羨んでいたというのは小悪魔から得られた証言だ。
あいつそんな目で私のこと見てたのか。フランもしばらくは図書館に出入りさせないでおこう。
そのため、スカーレット姉妹で図書館に敢行。
パチュリーの前で、いかに姉妹というものが疎ましく、当人たちにとっては迷惑な関係であるか
ということを見せつけるのである。
隣りの芝は青い。妹がいないものは妹を望み、妹がいるものは妹のいない生活を望むのだ。
かわいい妹なんてものは幻想である。それはつまり、ここ幻想郷にはかわいい妹が
たくさんいるのである。
…あれ、これってパチュリーにとって楽園じゃね。
ともかく、作戦は決まった。厨房で咲夜となにやら作っていたフランを連れ、
一行は敵陣に向かった。
「おねえさま、私はどうすればいいの?」
隣を歩くフランが、小首をかしげてレミリアに尋ねる。
あぁ、なんて可愛いのフラン。それこそ私がフランと結こ―いやいや。
「お嬢様、お顔がお見せ出来ない感じになってますよ~」
小悪魔に控えめに忠告されて、レミリアは我に返る。
恐るべし、妹パワー。妹が可愛すぎて全世界ナイトメア。
すでにひと通り、今回の経緯を説明していたレミリアは、具体的なことを話し始めた。
「そうね…なるべく、私を大っきらいで、話も見たくもない様に思ってほしいの」
すると、突然フランはレミリアの手を取り、声を荒らげた。
「そんな!大好きなおねえさまにそんなこと出来ないよ!!」
鼻から忠誠心が出るという。しかし、今は目から何かが落ちていた。
恋愛の好きとは違う何かが、レミリアを満たしていた。
パシンッ!!
「ど、どうされましたお嬢様!?」
突然、レミリアが両頬を思い切り叩いた。
彼女は吸血鬼。鬼である。その怪力を自身に向ければ、一溜りもなかった。
「お、おねえさま!なんか凄いことに!顔がすごいことになってる!!」
が、やはり吸血鬼である故、ものの数秒で顔が再構築され、もとの姿に戻った。
「やっべ…マジいて…」
が、その顔も涙でカリスマもへったくれもなかった。
「ふたりとも、計画変更よ」
しかし、二人に涙ながらに向けたその顔は、笑顔に溢れていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「パチュリー、単刀直入に言うわ。妹と結婚なんてやめておきなさい」
図書館に入ったレミリアは、挨拶もそこそこにパチュリーの向かいに座ると言った。
妹でもなんでもない小悪魔である。その言葉は最早言ってて訳がわからないが、
事実は事実である。仕方がない。
「…は?」
それに対するパチュリーの反応は、えらく反抗的だった。
魔女は、自らの研究を妨害されることを最も嫌う。己がいくら嫌われようとお構いないだ。
「いくらレミィのお願いとはいえ、聞き入れられないわね」
いつものジト目を、さらに無表情にし、凍てつくような視線でレミリアを見やる。
しかし、その当のレミリアの顔はひどく穏やかである。若干気落ちしたパチュリーだったが、
なおその視線は外さないまま、先を促した。
「パチュリー、妹って、最高よね」
そのレミリアの発言に、ギョッとしたのは被害者の小悪魔と、当の妹であるフランである。
助太刀を頼んで背後を任せたら、後ろからざっくり斬り捨てられた。そんな気分だ。
「そうよねレミィ!分かってるじゃない!!」
先までの無表情はどこへやら。パチュリーは勢い良く立ち上がって、友人の言葉に歓喜した。
しかし、そんな彼女をレミリアは手で制した。
「でもね、パチュリー。違う。違うのよ。たしかに妹は最高。
それは妹を持つ姉として、声を大にして言いたいわ。
おそらく、秋の姉妹とか、地霊の姉妹とか、皆が皆声を揃えてそういうでしょう」
パチュリーの表情が再び、感情を感じさせないものになっていく。
傍から見て小悪魔は泣きたいくらいその顔が怖かったのだが、
弁を進めているレミリアの邪魔は出来なかった。
「けれど、妹はね、恋愛とか、そういった類の情を向ける相手ではないの」
穏やかな表情ながら、はっきりとしたその言葉。
言い聞かせるようにゆっくりとしたそれは、パチュリーに反論の隙を与えない。
「同じ親を持つ、なんだかわからない生き物。それが妹よ。自分と殆ど変わらない
遺伝子を持ちながら、その実全く違う生き物。そんな不思議な生き物。
そんな妹とは、基本的に不仲であると思うの。親の愛を一身に受けれない。
その原因が自分とよく似てるくせに、中身はまるで違う、すぐ隣にいる奴なんですもの。
好きになれる理由なんてあるわけ無いわ」
それを聴いたフランは。少しだけうつむいた。
姉が自分を愛してくれているのは分かっているが、それでも気持ちのいい話ではない。
「でもね、ある時急に感じるの。『あぁ、こいつも私と同じなんだな』って。
あ、中身の話ね。こいつもお母さんの、お父さんの愛が欲しいんだなって。
なんでとかそんなことはファッキンキリストにでも聞きなさい。
けれどもね、そう思った瞬間、すぐ隣りにいるよく分からない奴を、急にこう思うの」
そして、そこで少しだけレミリアは言葉を切った。ほんの少しだけ。
その間は、周りへの配慮か、それとも自分へ言い聞かせるためか。それは本人にも分からない。
「あぁ、この子が、私の妹なんだ…って」
なんてことはないことだった。こんだけ長ったらしい講説垂れておきながら、
ただ事実を述べたまでだった。同じ母親から生まれた年下の人間は妹。
そんなことは、小僧にも分かることだ。
それでも、パチュリーはなんとなく腑に落ちてしまった。
血の繋がっていないご都合な妹でも、そこには確かに、妹たる歴史がある。
だが、自分はどうだろう。確かに小悪魔とは長らく共にいるが、それは姉妹ではない。
主と使い魔。その関係だ。仲が悪いとは思ったことはない。でも、それはそれである。
パチュリーは、目を閉じた。それはまるで、なにかを決意するような動作だった。
「レミィ…。魔女の研究を妨害した罪は、とってくれるんでしょうね?」
次に目を開けたとき、その目は研究意外では珍しく、輝いていた。
仲良く腕を組んで、いずこかに消えて行ったレミリアとパチュリー。
そしてフランと小悪魔は、図書館に取り残されていた。
「…」
「…」
なんというか、なんというか、だ。
訳がわからない。いや、いい話なのか。いい話とは言えないんじゃないか。
一方的にレミリアが捲し立てて、今回の騒動は終わってしまった。
聴いてて小っ恥ずかしかってフランだったが、なんとなく消化不良である。
「はい、どうぞ」
いつの間にやら、小悪魔が紅茶をフランの前に置いていた。
口を付けると、いつもより大分甘い。が、こんな気分の時には丁度良かった。
「ありがとう小悪魔…」
それでも、フランの機嫌はよく成りきらなかった。
「あのさ、小悪魔。私って、ここに必要だった?」
不満げに頬を膨らませるフランに、小悪魔は苦笑しながら答えた。
「あ、いやえと…その、妹様がいることでリアリティが…はい…必要なかったかも…」
取り繕おうとするも、出来なかった。恨むべくは己のボキャ貧。
ますますフランの機嫌はブルーである。姉に頼られる、必要とされる。
それは今のフランにとってこの上ない喜びではあるが、それをひょいと取り上げられた
形の今回の騒動は、なんとも不完全燃焼というものだ。
「ですが…」
しかし、小悪魔は秘密兵器を持っていた。レミリアの話を聞いている途中、感じていた事。
「お嬢様は、妹様に、ご自分の考えを聴いて欲しかったんじゃないでしょうか」
「おねえさまが…私に?」
先程の苦笑とは打って変わって、笑顔で言う小悪魔に、フランは小首を傾げる。
「お嬢様が、妹様に愛を持って接しておられるのはご存知でしょうけれど、それでもやはり、
そういったことは言葉に出してみたいものなのです」
「…そうなの?」
「そうなのです!」
力強く、小悪魔は答える。それは、己にも当てはまるからだ。
あんな変態魔女でも、小悪魔は主を敬愛していた。たまに揺らぐけれども。
「ですが、そういったことを、面と向かって相手に伝えるのは…難しいですよね」
フランに尋ねるも、フランは別段考えることなく。
「ううん。私はおねえさまに、大好き!って言えるよ?」
たしかに、先程の廊下でも、臆面も無く言っていた。
「…む、難しいのです!ええ!それがお嬢様ほどの人となればそれはもう!」
声を張り上げ、無理やり押し通す小悪魔。子供相手になんと大人げない。
実際、フランのほうが年上だったりするのだが、精神面での話である。
「ですから、こうした場に乗じて、その愛情をお伝えしたかったのかなぁ…と」
出だしの勢いはどこへやら。尻すぼみになっていく小悪魔であった。
「…フフッ」
そして、唐突に吹出すフラン。あぁ、バカにされてる…。小悪魔はいっそ死にたかった。
そんな小悪魔の様子を見て、違う違う、とフランは取り繕う。
「なんだかさ、馬鹿らしくなっちゃった。おねえさまは私が好きで、
私もおねえさまを好きで。小悪魔は私を励ましてくれたし、小悪魔はパチュリーが大好き。
それでいいよね。おねえさまも咲夜も美鈴もパチュリーも小悪魔も私も他のみんなも、
みんなが皆大好き。うん、これで万事オールオッケー!」
吹っ切れたような笑顔でまくし立てたフランは、そのまま椅子から勢い良くジャンプした。
「小悪魔!今日はパーティーしよう!」
「は、え?」
急な話題の転換に付いていけなかった。しかし、なんとなくフランの言いたいことが分かった。
それを聞き出すのは野暮というものである。
空気を読める女は、ビリビリフィーバーな龍宮の使いだけではないのだ。
「ええ、壮大にやっちゃいましょう!」
小悪魔はフランを追いかける。図書館を出て向かうは厨房の咲夜のもと。
「おねえさまには内緒にしようよ。私と小悪魔と、美鈴と咲夜で準備するの!」
「サプライズですか?いいですね」
廊下に出た二人は、厨房に向かって歩き出す。
自然と繋がれた手は、二人が仲の良い姉妹かのように思わせた。
妹様の姉はお嬢様だけどいいか、と小悪魔は開き直る。
いまさら、この紅魔館の中で、誰と手をつなごうが、咎めるものもいないのだ。
(家族で手をつないじゃいけないなんて、誰も言ってませんものね)
「ん?なんか言った?」
「いーえ。なんにも言ってませんよー」
そして小悪魔は、今晩のことに想いを馳せる。
食堂に招かれたレミリアとパチュリーの驚く顔。
それを見つめて微笑む咲夜と美鈴の顔。
そして首謀者のフランと小悪魔の、してやったりな顔。
これは、なんてことはない、いつもの紅魔館の日常。
でも、少しだけ、またみんなと仲良くなれた、大切な日。
小悪魔が、テーブルにティーセットを置く。
広大な図書館に、かちゃり、と陶器がぶつかり合う音が響いた。
「ありがとう」
図書館の主たる魔女、パチュリー・ノーレッジは、読んでいる本から目を離さずに言った。
やはり、そのまま目を離さずにカップを手に取り、紅茶を口にする。
行儀が悪い、とは紅魔館の住人から幾度と無く言われているが、長年に渡って行なってきた
習慣が抜けるはずもなく、遂には周囲が諦める始末だった。
パチュリーはカップをソーサーに置き、何も言わずに読書を続けた。
おいしい、の一言でもあればいいのに、と小悪魔は常々寂しく思うが、それは口に出さない。
普段表情の変化に乏しいパチュリーが、ほんの少し穏やかな顔をする。
彼女に仕える小悪魔としては、それがなによりの喜びなのだった。
小悪魔はそのままパチュリーの向かいに座り、積んであった本の一冊を手にとった。
「『同血縁内における恋愛の成立』…」
口に出してタイトルを読み上げる。なんだかとんでもない本であった。
この図書館の蔵書は、基本的にジャンルに偏りがない。
魔導書はもちろんのこと、普通の学術的な本から果ては童話や官能小説。
当初はパチュリーの所持品のみだったが、外の世界で忘れ去られ、
幻想入りした本を自動転送するという、外の世界が好きな者からすれば憤慨モノな
魔法をパチュリーが編み出したことで、最早図書館の蔵書は当人にも把握しきれないほどまでに
膨らんだ。そこで、司書たる小悪魔が召喚された。
小悪魔が別の山から本を取り出す。
「『偉人における兄妹結婚』…」
小悪魔は思う。これはツッコンでいいのか、悪いのか。
悪魔、それもとびきり力の弱い存在である小悪魔には、魔女の考えることなど分かる由もない。
それを知ってか知らずか、パチュリーは小悪魔を実験台として扱う。
『私は愛をもって小悪魔に接しているわ』などと顔を赤らめて言われようと、
変異魔法で咲夜が大嫌いな台所に出没するあんちきしょうに変化させられては、
忠誠心が揺らぐというものである。
よって、今回のこの本も、ろくな事にならなそうな気がしてならない。
見てみれば、今まさにパチュリーが読んでいる本も近親婚についての本であった。
数瞬、ほんの数瞬迷った小悪魔は、結局席を立ち図書の整理に向かうことにした。
触らぬ神に祟りなし。神が複数顕在している幻想郷に於いても、その諺に偽りはない。
が、小悪魔の運命は既に定まっていた。レミリアあたりが同情する程度には。
「小悪魔」
「は、はいっ!?」
パチュリーの口から紡ぎだされる、非情な死の宣告。
普段物静かなくせに、声をかけられたくないときに限って話しかけてくるこの主が憎い。
「姉妹になりま―」
「言わせませんよッ!!??」
フラグ緊急回避。このスキルは唯一小悪魔が誇れるものである。
「姉妹になりましょう」
「まさか二回言うとは思いませんでした!!」
緊急回避は失敗していた。否、この魔女にはスキル無効化のスキルが付いているのだ。
言葉は矛盾していても、現に小悪魔のスキルは通用しない。
「それくらい大事なことなのよ。だから、なりましょう」
パチュリーは座ったまま、首だけを小悪魔に向けて言う。
その瞳には有無を言わさない強制力があった。多分、この魔女はメドゥーサか何かなのだ。
(あーでもメドゥーサじゃ私死んじゃうな…いやまぁ死ぬようなもんか)
小悪魔は現実を直視することをやめた。
「いい、小悪魔。妹とは…そう、宝よ!」
ガタッ!と遂にパチュリーは立ち上がり、胸に手を当て朗々と演説を始めた。
普段滅多に動かないこの魔女が立ち上がる時は、大抵碌な事がないのである。
「同じ血を分けた存在といえど、父母と比較すれば他人、という認識は強まる。
兄と妹であれば異性、姉と妹であれば同性の、
他人がすぐ身近にいると言っても過言ではないわ。では、他人を身近に置いた時、何が起きるか。
好意をもつ。反発する。無関心になる。そのバリエーションは他人であるがゆえに、
双方の性格や歴史に左右されるわ。そう、なればこそ、『好意をもつ』という結果が
導き出されるのもまた必然。古来より人類は近親婚が一族の破滅につながることを
身を持って体験し、また外の世界の近代医学はそれを遺伝子という形で証明したわ。
そして、子供たちに近親婚はタブーであるという認識を刷り込ませ、『好意をもつ』必然性を
可能なかぎり最小限まで押さえ込んだ。しかし!それゆえにその『タブー』に惹きつけられる―」
パチュリーの演説はその後2時間に及んだ。
小悪魔は考えることをやめた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「レミリアお嬢様…私はどうすれば」
小悪魔は廊下で泣いていた。館の主たるレミリアにすがって泣いていた。
だが、泣きたいのはレミリアも一緒である。妹を持つ彼女の親友のパチュリーが、
近親婚だの、女性同士の近親婚はタブーの相乗効果で云々だの言っているのだ。
友情とは一時の過ちではそう簡単には切れない故、レミリアは大いに悩んでいた。
パチュリーの奇行は今に始まったことではない。
というか、魔女という種族は大概にして変態である。
白黒然り、人形使い然り、あの寺の尼はどうだか知らないが。
「小悪魔、原因は分からないの?」
何も行動しなくば、小悪魔がパチュリーと結ばれてしまう。それも妹として。
そんなわけのわからない連中を置くことは、紅魔館の沽券に関わるし、
なにより500歳独身のレミリアにとっては身を裂くように辛い。
問われた小悪魔は人差し指を顎に当てうんうん唸っていたが、唐突に閃いた。
「そういえば…この間、外の世界の小説が流れてきたんです」
「…小説?」
「はい。最近よく流れてくるので、専用のスペースを設けたのです。
サイズは文庫本と同等なのですが、文字の大きさがやや独特、且つ、
表紙には大抵可愛らしい女の子が描いてあるんです。」
その説明を聞いたレミリアは、官能小説の類かとも考えたが、レディー的にそれを
口にだすのはいただけない。見た目的にもいただけない。心は500歳だけれども。
「それで、そのかんn―文庫本がどうしたのよ」
「かん…?あ、いえ、それがですね、その中にこんなものが…」
ごそごそと懐から取り出したのは一冊の本。表紙にはふてぶてしい顔をした少女と、
冴えない男が描かれていた。
タイトル的に、なんとなく見えてきた。つまり影響されたのである。
「魔女ってこう…ミーハーよね」
「…ですね」
魔女の親友と部下は、お互いの境遇に同情し合った。
互いの苦労が、なんとなく垣間見えた一瞬である。
原因はわかった。では対策はどうすればいいのだろう。
魔術の本舗たるパチュリーに、忘却呪文など唱えたところで意味はない。
そもそもレミリアも小悪魔も、そういった類の呪文は使えない。
頭でも強打して、物理的に忘れさせようかとも考えたが、それがトリガーになって
彼女が溢れ出すリビドーを、ほとばしる熱いパトスを解放させてしまっては本末転倒である。
お前の性欲で宇宙がやばい。
(なんだろう…考えれば考えるほどパチェが変態じみていく…)
そんなつもりはないのだ。友人を更生させてあげたいだけなのだ。
にもかかわらず、彼女への印象が悪くなるだけである。普段は抑えている彼女への不満が、
ここに来て溢れ出しているとでも言うのか。地底の橋姫の様に、普段から不満ダダ漏れ
位のほうがいいのだろうか。実は橋姫って天使級の心の清さを持ってるのではなかろうか。
「そうだ!!」
レミリアが思考のドツボにハマっていると、小悪魔が突然閃いた。
「パチュリー様に、妹を幻滅してもらえばいいんです!」
たしかに、好きなものでも欠点を見出してしまえば、案外印象は変わるものだ。
好きなアイドルがわいせつ物頒布罪で捕まれば、幻滅もするというものだ。
『そこも含めていいッ!!魔理沙ぁぁぁぁぁ!!!!』
…なにか余分な運命が見えたが、レミリアは気にしないことにした。
具体的な作戦はこうだ。
パチュリーが例の文庫本を読んでからというもの、
常々スカーレット姉妹を羨んでいたというのは小悪魔から得られた証言だ。
あいつそんな目で私のこと見てたのか。フランもしばらくは図書館に出入りさせないでおこう。
そのため、スカーレット姉妹で図書館に敢行。
パチュリーの前で、いかに姉妹というものが疎ましく、当人たちにとっては迷惑な関係であるか
ということを見せつけるのである。
隣りの芝は青い。妹がいないものは妹を望み、妹がいるものは妹のいない生活を望むのだ。
かわいい妹なんてものは幻想である。それはつまり、ここ幻想郷にはかわいい妹が
たくさんいるのである。
…あれ、これってパチュリーにとって楽園じゃね。
ともかく、作戦は決まった。厨房で咲夜となにやら作っていたフランを連れ、
一行は敵陣に向かった。
「おねえさま、私はどうすればいいの?」
隣を歩くフランが、小首をかしげてレミリアに尋ねる。
あぁ、なんて可愛いのフラン。それこそ私がフランと結こ―いやいや。
「お嬢様、お顔がお見せ出来ない感じになってますよ~」
小悪魔に控えめに忠告されて、レミリアは我に返る。
恐るべし、妹パワー。妹が可愛すぎて全世界ナイトメア。
すでにひと通り、今回の経緯を説明していたレミリアは、具体的なことを話し始めた。
「そうね…なるべく、私を大っきらいで、話も見たくもない様に思ってほしいの」
すると、突然フランはレミリアの手を取り、声を荒らげた。
「そんな!大好きなおねえさまにそんなこと出来ないよ!!」
鼻から忠誠心が出るという。しかし、今は目から何かが落ちていた。
恋愛の好きとは違う何かが、レミリアを満たしていた。
パシンッ!!
「ど、どうされましたお嬢様!?」
突然、レミリアが両頬を思い切り叩いた。
彼女は吸血鬼。鬼である。その怪力を自身に向ければ、一溜りもなかった。
「お、おねえさま!なんか凄いことに!顔がすごいことになってる!!」
が、やはり吸血鬼である故、ものの数秒で顔が再構築され、もとの姿に戻った。
「やっべ…マジいて…」
が、その顔も涙でカリスマもへったくれもなかった。
「ふたりとも、計画変更よ」
しかし、二人に涙ながらに向けたその顔は、笑顔に溢れていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「パチュリー、単刀直入に言うわ。妹と結婚なんてやめておきなさい」
図書館に入ったレミリアは、挨拶もそこそこにパチュリーの向かいに座ると言った。
妹でもなんでもない小悪魔である。その言葉は最早言ってて訳がわからないが、
事実は事実である。仕方がない。
「…は?」
それに対するパチュリーの反応は、えらく反抗的だった。
魔女は、自らの研究を妨害されることを最も嫌う。己がいくら嫌われようとお構いないだ。
「いくらレミィのお願いとはいえ、聞き入れられないわね」
いつものジト目を、さらに無表情にし、凍てつくような視線でレミリアを見やる。
しかし、その当のレミリアの顔はひどく穏やかである。若干気落ちしたパチュリーだったが、
なおその視線は外さないまま、先を促した。
「パチュリー、妹って、最高よね」
そのレミリアの発言に、ギョッとしたのは被害者の小悪魔と、当の妹であるフランである。
助太刀を頼んで背後を任せたら、後ろからざっくり斬り捨てられた。そんな気分だ。
「そうよねレミィ!分かってるじゃない!!」
先までの無表情はどこへやら。パチュリーは勢い良く立ち上がって、友人の言葉に歓喜した。
しかし、そんな彼女をレミリアは手で制した。
「でもね、パチュリー。違う。違うのよ。たしかに妹は最高。
それは妹を持つ姉として、声を大にして言いたいわ。
おそらく、秋の姉妹とか、地霊の姉妹とか、皆が皆声を揃えてそういうでしょう」
パチュリーの表情が再び、感情を感じさせないものになっていく。
傍から見て小悪魔は泣きたいくらいその顔が怖かったのだが、
弁を進めているレミリアの邪魔は出来なかった。
「けれど、妹はね、恋愛とか、そういった類の情を向ける相手ではないの」
穏やかな表情ながら、はっきりとしたその言葉。
言い聞かせるようにゆっくりとしたそれは、パチュリーに反論の隙を与えない。
「同じ親を持つ、なんだかわからない生き物。それが妹よ。自分と殆ど変わらない
遺伝子を持ちながら、その実全く違う生き物。そんな不思議な生き物。
そんな妹とは、基本的に不仲であると思うの。親の愛を一身に受けれない。
その原因が自分とよく似てるくせに、中身はまるで違う、すぐ隣にいる奴なんですもの。
好きになれる理由なんてあるわけ無いわ」
それを聴いたフランは。少しだけうつむいた。
姉が自分を愛してくれているのは分かっているが、それでも気持ちのいい話ではない。
「でもね、ある時急に感じるの。『あぁ、こいつも私と同じなんだな』って。
あ、中身の話ね。こいつもお母さんの、お父さんの愛が欲しいんだなって。
なんでとかそんなことはファッキンキリストにでも聞きなさい。
けれどもね、そう思った瞬間、すぐ隣りにいるよく分からない奴を、急にこう思うの」
そして、そこで少しだけレミリアは言葉を切った。ほんの少しだけ。
その間は、周りへの配慮か、それとも自分へ言い聞かせるためか。それは本人にも分からない。
「あぁ、この子が、私の妹なんだ…って」
なんてことはないことだった。こんだけ長ったらしい講説垂れておきながら、
ただ事実を述べたまでだった。同じ母親から生まれた年下の人間は妹。
そんなことは、小僧にも分かることだ。
それでも、パチュリーはなんとなく腑に落ちてしまった。
血の繋がっていないご都合な妹でも、そこには確かに、妹たる歴史がある。
だが、自分はどうだろう。確かに小悪魔とは長らく共にいるが、それは姉妹ではない。
主と使い魔。その関係だ。仲が悪いとは思ったことはない。でも、それはそれである。
パチュリーは、目を閉じた。それはまるで、なにかを決意するような動作だった。
「レミィ…。魔女の研究を妨害した罪は、とってくれるんでしょうね?」
次に目を開けたとき、その目は研究意外では珍しく、輝いていた。
仲良く腕を組んで、いずこかに消えて行ったレミリアとパチュリー。
そしてフランと小悪魔は、図書館に取り残されていた。
「…」
「…」
なんというか、なんというか、だ。
訳がわからない。いや、いい話なのか。いい話とは言えないんじゃないか。
一方的にレミリアが捲し立てて、今回の騒動は終わってしまった。
聴いてて小っ恥ずかしかってフランだったが、なんとなく消化不良である。
「はい、どうぞ」
いつの間にやら、小悪魔が紅茶をフランの前に置いていた。
口を付けると、いつもより大分甘い。が、こんな気分の時には丁度良かった。
「ありがとう小悪魔…」
それでも、フランの機嫌はよく成りきらなかった。
「あのさ、小悪魔。私って、ここに必要だった?」
不満げに頬を膨らませるフランに、小悪魔は苦笑しながら答えた。
「あ、いやえと…その、妹様がいることでリアリティが…はい…必要なかったかも…」
取り繕おうとするも、出来なかった。恨むべくは己のボキャ貧。
ますますフランの機嫌はブルーである。姉に頼られる、必要とされる。
それは今のフランにとってこの上ない喜びではあるが、それをひょいと取り上げられた
形の今回の騒動は、なんとも不完全燃焼というものだ。
「ですが…」
しかし、小悪魔は秘密兵器を持っていた。レミリアの話を聞いている途中、感じていた事。
「お嬢様は、妹様に、ご自分の考えを聴いて欲しかったんじゃないでしょうか」
「おねえさまが…私に?」
先程の苦笑とは打って変わって、笑顔で言う小悪魔に、フランは小首を傾げる。
「お嬢様が、妹様に愛を持って接しておられるのはご存知でしょうけれど、それでもやはり、
そういったことは言葉に出してみたいものなのです」
「…そうなの?」
「そうなのです!」
力強く、小悪魔は答える。それは、己にも当てはまるからだ。
あんな変態魔女でも、小悪魔は主を敬愛していた。たまに揺らぐけれども。
「ですが、そういったことを、面と向かって相手に伝えるのは…難しいですよね」
フランに尋ねるも、フランは別段考えることなく。
「ううん。私はおねえさまに、大好き!って言えるよ?」
たしかに、先程の廊下でも、臆面も無く言っていた。
「…む、難しいのです!ええ!それがお嬢様ほどの人となればそれはもう!」
声を張り上げ、無理やり押し通す小悪魔。子供相手になんと大人げない。
実際、フランのほうが年上だったりするのだが、精神面での話である。
「ですから、こうした場に乗じて、その愛情をお伝えしたかったのかなぁ…と」
出だしの勢いはどこへやら。尻すぼみになっていく小悪魔であった。
「…フフッ」
そして、唐突に吹出すフラン。あぁ、バカにされてる…。小悪魔はいっそ死にたかった。
そんな小悪魔の様子を見て、違う違う、とフランは取り繕う。
「なんだかさ、馬鹿らしくなっちゃった。おねえさまは私が好きで、
私もおねえさまを好きで。小悪魔は私を励ましてくれたし、小悪魔はパチュリーが大好き。
それでいいよね。おねえさまも咲夜も美鈴もパチュリーも小悪魔も私も他のみんなも、
みんなが皆大好き。うん、これで万事オールオッケー!」
吹っ切れたような笑顔でまくし立てたフランは、そのまま椅子から勢い良くジャンプした。
「小悪魔!今日はパーティーしよう!」
「は、え?」
急な話題の転換に付いていけなかった。しかし、なんとなくフランの言いたいことが分かった。
それを聞き出すのは野暮というものである。
空気を読める女は、ビリビリフィーバーな龍宮の使いだけではないのだ。
「ええ、壮大にやっちゃいましょう!」
小悪魔はフランを追いかける。図書館を出て向かうは厨房の咲夜のもと。
「おねえさまには内緒にしようよ。私と小悪魔と、美鈴と咲夜で準備するの!」
「サプライズですか?いいですね」
廊下に出た二人は、厨房に向かって歩き出す。
自然と繋がれた手は、二人が仲の良い姉妹かのように思わせた。
妹様の姉はお嬢様だけどいいか、と小悪魔は開き直る。
いまさら、この紅魔館の中で、誰と手をつなごうが、咎めるものもいないのだ。
(家族で手をつないじゃいけないなんて、誰も言ってませんものね)
「ん?なんか言った?」
「いーえ。なんにも言ってませんよー」
そして小悪魔は、今晩のことに想いを馳せる。
食堂に招かれたレミリアとパチュリーの驚く顔。
それを見つめて微笑む咲夜と美鈴の顔。
そして首謀者のフランと小悪魔の、してやったりな顔。
これは、なんてことはない、いつもの紅魔館の日常。
でも、少しだけ、またみんなと仲良くなれた、大切な日。
こういう家族家族した紅魔館大好きです。
控えめながらに入れられたギャグも光ってます。
まだ拙いところは見受けられますが期待してます。
と、これだけでは感想になってないので…(笑)
ラノベに思いっきり影響されるパチュリーさん可愛かったですw
実の姉に向かって、臆面もなく「大好き!」と言えるフランちゃんとか、何故かGにされてるこあとかも。紅魔家族はいいなあ。
…関係ないですが、このラノベの元ネタであろう作者も、創想話にて執筆していたことがあるそうな。
何だかすげー話だ。
ギャグながら良い話で。
受験勉強頑張って下さい。
そしてまさかのパチェレミだったww