夕暮れ時の紅魔館のリビング。
窓からはうっすらと赤く染まった空が見えている。
私は外をぼんやりと見ながら、咲夜の作ってくれたクッキーをもぐもぐと食べていた。
「お味の方はどうですか?」
「うん、おいしい! やっぱり咲夜の作ってくれるお菓子はおいしいよ!」
「そ、そうですか。ありがとうございます……」
にっこりと笑いながらそう言ったら、咲夜は真っ赤になっちゃった。
あれ? どうかしたのかな?
「どうしたの?」
「あ、い、いや! 何でもありませんよ!
決して『フラン様が可愛いなぁ』だなんて思ってませんから!
気にしないでください!」
あのー、咲夜……思いっきり口に出してるけど。
ま、別にいいや。ここは聞かなかったことにしよっと。
……でも可愛いって言ってくれて、ちょっと嬉しかったな。
ありがと、咲夜。
「ふーん、何でも無いんならいいよ」
私がそう言うと、咲夜はふぅ、と軽く息を吐いて安心したような顔を見せた。
たぶん心の中で「よし、バレてない」とか思ってるんだろうな。
あのさ、安心するのはいいんだけど、さっき思いっきり口に出してたからね?
ふふ、咲夜は面白いなぁ。
……ん? そういえば何か忘れているような……あ、そうだ!
聞くことがあったんだったよ!
「話は変わっちゃうけどさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい? 聞きたいこと……? なんですか?」
「『口漬け』って何なのかわかる? どんな漬物なの?」
……あれ? なんか咲夜が固まっちゃったんだけど。
さくやー? どうかしたー?
「フラン様、少し聞こえませんでした。失礼ですが、もう一回言ってもらえます?」
「うん、わかった。えっとね、口漬けってどんな漬物かわかる?」
「……は?」
咲夜はぽかん、と口を開けながら私を見つめている。
……おかしなこと言ったかな、私?
「あの、まずお聞かせください。
どこでそのような言葉を知ったんですか?」
「あ、これ?
これはこの前、パチュリーのところに遊びに行ったときにね……」
紅魔館の地下には大きな図書館がある。
その図書館にはいろいろな本があるんだけど……
外の世界の本も結構置いてあったりするんだ。
で、これが結構面白くて、よく遊びに行っては読ませてもらったりしてるんだよね。
「で、その中の本の一つに『口漬け』って言葉が書いてあってさ。
私思ったの。『口漬けってどんな漬物なんだろう?』って」
「は、はぁ……多分それは……」
「それは、何?」
「あ、いえ! なんでもないです!」
そんなに慌ててどうしたんだろ。顔とか真っ赤だし。
でもそんなことは気にしない、気にしない。
「私が思うに口漬けって言うくらいだからさ、
牛とか何かの口の漬物なんじゃないかなぁ、って思うんだ」
「く、口の漬物ですか?」
「うん。口って言うか……唇とかそんなところかな?」
私の考え、当たってるはずだよね! 私の予想が外れていなければ、おいしい食べ物のはず。
……あ、なんかちょっと食べてみたくなってきた。
「いや……流石にそれは違うかと……」
「それじゃあ、咲夜は知っているの?」
「い、いえ! 全然知りませんよ!」
……本当かしら?
なんか知っているけど教えたくないって感じに見えるんだけど。
「本当に……?」
「は、はい、本当ですよ!」
「うーん、それなら別にいいんだけどね」
咲夜も知らないとなると……そうだ! パチュリーなら知っているかも。
お皿の上にはまだ少しクッキーが残っているけど、それよりも今は口漬けの謎を解明しなくちゃ!
ぴょん、と椅子から飛び降りて、図書館へと向かうことにする。
「あ、フラン様、どこに行くんですか?」
「パチュリーのとこ! あ、クッキーはまた後で食べると思うから、しまっておいてね!」
よーし、今日中に口漬けの謎を解明してやるわよ!
そうと決まれば急がなくちゃ!
「あ、行っちゃった……
口漬けって多分『口付け』の誤字だとは思うんだけどねぇ。
うぅ、口付けの意味なんて恥ずかしすぎて私には教えられないわよ……
それにしても、パチュリー様はどうするんだろ。うーん、教えちゃうのかしら?
おっと、そんなことよりお仕事、お仕事!」
さぁ、やってきました大図書館!
どこかにパチュリーがいるはずなんだけど……
「見えないなぁ」
たくさんの本に本棚。それらのせいで遠くが見えない……
うーん、とりあえず先に進もう。
ここのどこかにパチュリーがいるのは間違いないんだし。
「パチュリー、どこー?」
歩きながら、そう叫んでみる。
ただ歩くだけよりもこっちの方が見つけやすいだろうしね。
それにしても……
「本当に凄い量だなぁ。パチュリーってこれを全部読むのかな?」
ほとんどの本は私には読めない本なんだけど、それでも少しは私にも読める本が混じっている。
まぁ、私が読むのは大体が外の世界の本なんだけどね。
意外と面白いんだよ?
特にパチュリーが「絵本」とか「漫画」って言ってた本。
外の世界からやってくる本は香霖堂っていうお店から、この図書館にやってくるってパチュリーが言ってた気がする。
ちなみにここには本を見るために、いろんな人がやってくる。
魔理沙とかアリスとか霊夢とか……その他にもいろんな人が来るかな。
霊夢なんかは私と同じように外の世界の本を読むんだけど、
魔理沙やアリスはいっつも、良く分からないことが書いてある難しそうな本を読んでる。
たまには外の世界の本も読めばいいのに。面白い本ばかりなんだし。
あ、そういえば奥のほうに、パチュリーから「見ちゃいけない」って言われた本棚があったなぁ。
あそこの本棚にはどんな本が置いてあるんだろ?
気にはなるけど……今はそんなことどうでもいいね。
「あれ、フラン様じゃないですか。どうかしました?」
「あ、こあだー」
図書館を歩いていると、とある人物に出会っちゃった。
彼女の名前は小悪魔。私は小悪魔なんて硬すぎるし、呼びにくいから「こあ」って呼んでるけどね。
パチュリーの……えーっと、なんて言ったっけな。
使い魔、だったっけ? まぁ、そんな感じだった気がする。
よく私と一緒に遊んでくれる優しい人なんだ。
いつもはここのお掃除やパチュリーの手伝いをしているんだって。
「今日も本を読みに来たんですか?」
「ううん、今日はパチュリーに聞きたいことがあって……」
「聞きたいこと、ですか?」
「うん」
こくん、と頷くとこあは笑いながら、私の手を握ってくれる。
「それじゃあ、パチュリー様のところまで連れて行ってあげますよ。
ここは広くて迷いやすいところですからね」
「え、本当? ありがとうこあ!」
私はそのままこあに抱きついた。
すると、こあは私の頭を優しく撫でてくれる。
あー、なんだかいい気持ち。
「ふふ、それじゃあ行きましょうか」
「うんっ!」
歩き出す私とこあ。
白くて綺麗な手が優しく私の手を包み込んでくれる。
「それにしても、どんなことを聞きに来たんですか?」
「えへへ、それはあとのお楽しみ」
笑いながらそう言うと、こあは「はぁ……?」と言って小さく首を傾げた。
分からないことがあったら、たくさんの人と一緒に考えた方がいいってどこかで聞いたからね。
だからパチュリー、こあ、私の三人で考えたらきっと謎が解けるはず!
それまでは口漬けのことは秘密。
「あっ、パチュリー様ー!」
こあがそう呼びかけたほうをみると……あ、いたいた。
パチュリーはいつものように椅子に座って、机の上の本を見てる。
「もう、騒がしいわよ小悪魔。
どうしたのよ……ってあら? フランじゃない。今日も本を読みに来たのかしら?」
パチュリーは私達の方を振り返ると、ぱたんと本を閉じて静かに笑った。
いつも図書館に閉じこもっている魔法使いがこの人、パチュリー。
こあのご主人様で、いろんなことを知っている人なんだ。
私もお姉様も分からないことがあったら、よくパチュリーのお世話になる。
「ううん、今日は違うの」
「それじゃ、何の用かしら?」
「今日はパチュリーとこあに聞きたいことがあって来たんだ」
「聞きたいこと、ねぇ……」
「うん。咲夜は分からないみたいだったから、パチュリーに聞こうと思って」
咲夜じゃ分からないことでも、パチュリーなら知っているはずだよね。
「咲夜じゃ分からなかったこと……そんなに難しいことなのかしら?」
「うん、たぶん」
すると、パチュリーは胸をドン、と叩いて笑った。
「よーし、だったらこのパチュリーにお任せあれ!
分かることならどんなことにも答えてみせるわよ!」
わぁ、頼もしいよ、パチュリー!
これだったらあっという間に謎が解けるかも!
「私も微力ながらお手伝いさせていただきますよ」
「こあもありがとうね!」
もしかして、このまま一気に問題解決かな?
それじゃあ早速聞いてみよう!
「それじゃあ……『口漬け』ってどんな漬物か分かる?」
「……は?」
私が笑いながらそう聞くと……
パチュリーもこあも笑顔のままさっきの咲夜みたいに固まっちゃった。
あれ、二人とも?
「え、えーと……口漬けって何か、ってことかしら?」
「うん! 図書館にあった本にそう書いてあってものすごく気になったんだ。
『口漬けってなんなのかなぁ。口の漬物なのかなぁ』って」
「あの……フラン様、一つ聞きたいんですが、その本っていうのはどの本ですか?」
「あ、今持ってくるね」
うん、あの本の場所はちゃんと覚えてる。
急いで取りに行かなくちゃ。
あんまり二人を待たせるわけにもいかないしね。
……というわけで、目的の場所にたどり着いたわ。
駆け足だとあっという間だなぁ。
さっきの場所からはそれほど離れてないしね。
「確か……このあたりだったよね」
えーと、あの本はっと……
お、あった! これだこれ。タイトルも表紙も間違いない。
まぁ、表紙っていってもタイトルが書いてあるだけなんだけど。
よし、持って行こっと。
来た道を二人の待つ場所に向かって駆け足で戻る。
「ふぅ、持って来たよー。はい、どうぞ」
「……え、これ!?」
本を受け取ったパチュリーとこあの顔が凍りついた。
え、私、何かしたかな?
「ねぇ、どうかしたの?」
「い、いや、流石にこの本は……フランには早すぎるというか……ねぇ、小悪魔?」
「で、ですね……」
へ? 早すぎるってどういう意味?
「一つ聞くけど……フラン、この本読んだ?」
「ううん、まだ読んでないよ。
タイトルにあった『口漬け』が気になってしょうがなかったから、中身はまだ読んでないんだ」
うん、これは本当。
タイトルに書いてあった「口漬け」って単語が気になってしょうがなかったから
本は元の場所に戻して、ずっと考え込んでいたんだ。
でも、ご飯を食べたりするうちに、考え込んでいたことも忘れちゃって……
で、さっきクッキーを食べてる途中に思い出したの。
「よ、良かった……」
そう言ってふぅ、と息を吐く二人。
え、良かったって何? 何でそんなに安心したような顔をしてるの?
「この本がどうかしたの?」
「いや! なんでもないわ!」
二人とも慌てているところが怪しいな……
一体どんな本なんだろ。
「とりあえず……
この本はもうちょっとフランが大きくなってから読んでね。いいかしら?」
「それは別にいいけど」
他に読みたい本もあるし、それはどうでもいいんだけどね。
それよりも今は……
「で、口漬けって何なの?」
「……」
なんだろう、今の発言で場の空気が凍りついたような……
「ごめん、知らない。小悪魔、代わりに答えてあげて」
「え!? いや、私に振られても困るんですけど!
パチュリー様が答えてくださいよ!」
「嫌よ……答えにくいじゃない、この質問……」
なんか……二人とも知らないみたい。
うーん、困ったなぁ。まさかパチュリーにも分からないことがあるなんて。
あと聞いてないのは、美鈴とお姉さまだけか……
「知らないんだったらいいよ。ごめんね、困らせちゃったみたいで」
「あ、い、いや、そんなことは無いわよ」
そんなことは無いってしどろもどろに言われても、説得力無いんだけどね。
ひとまず美鈴にでも聞いてこようかな。
なんか意外と知ってそうだし。
「それじゃ、私は美鈴とお姉様にも聞いてくるから、これくらいで失礼するね」
「あ、うん、行ってらっしゃい……」
私に手を振るパチュリーの顔が少し引きつってた気がするんだけど、たぶん気のせいだよね。
それじゃあ次は外だね! よーし、外までダッシュだ!
「……あーあ、行っちゃいましたけどいいんですか?」
「まぁ、大丈夫でしょ。美鈴はどうか分からないけど、レミィならうまくやってくれるわよ」
「そうですかねぇ?」
「さて……そんなことより大人向けのこの本が、何で一般向けの本棚にあったのかを聞きましょうか?」
「あ、いや、それは……」
「まったく、表紙が文字だけだから内容まではバレてなかったから良かったものの……」
「すみません、私が読んでそのまま置いてました……」
「……読んだんだ」
「そういうパチュリー様こそ……読まれたんですよね?」
「まぁ、ね……この本はフランやレミィには見せられないわね。
私にはいろいろと面白かったけど。ただ誤字が多すぎるのが玉に瑕だったかな。
表紙の時点で誤字してるし……
あ、小悪魔、この本は元の場所に戻しておいてよ?」
「わかりました」
「……それと本を戻し終わったら、紅茶を二つ淹れて私の部屋に来なさい。
二人っきりで楽しくお話でもしましょ?」
「……はい! それでは急いで直してきます!」
外に出ると、さっきリビングから見た赤い空は、既に黒く色を変えていた。
もうこんな時間かぁ……
うぅ、昼は暑いくらいに暖かいんだけど、流石に夕暮れ時の外は少し、いや、かなり寒いなぁ……
さっさと美鈴と話して帰ろう。早くしないと凍え死んじゃうよ……
「あれ、フラン様? こんなところで何をやってるんですか?」
美鈴は私を見るなり、駆け寄ってきてくれた。
この人は紅魔館の門番、美鈴。
ずっと門の前で見張りをしてる頑張り屋さんなんだ。
……ほとんどの時間は寝て過ごしているんだけどね。
あ、そうそう、美鈴には友達が多いんだって。
私にも友達をたくさん紹介してくれないかなぁ?
私もたくさんの人と友達になりたいもん!
「あ、いたいた……!」
「いたいたって……あっ! フラン様、震えてるじゃないですか!」
「え、そ、そんなこと無いよ……」
いや、本当のことを言うと、かなり寒いんだけどね……
がたがたと震えていると、美鈴は私の肌を触ってきた。
あ、美鈴の手、暖かいや……
「ほら、こんなに冷たいじゃないですか!
このままだと風邪を引いちゃいますよ!」
「で、でも私、美鈴に聞きたいことが……」
「あー、もう! そろそろ私も部屋に戻りますから、話は屋敷の中で聞きます!
さ、早く戻りますよ!」
そう言って美鈴は私をひょいっと抱えて屋敷の中に戻っていく。
ん? もしかして……
「え、ちょっと……!?」
これって……お姫様抱っこって奴?
なんだろう、ちょっと恥ずかしいような嬉しいような……
そのまま美鈴は屋敷の扉を開けて中に入る。
屋敷の中に入ると暖かい空気が私達を迎えてくれた。
ふぅ、暖かいなぁ。外とは大違いだね。
「ここなら暖かいですよ。
全く、外は寒いんですから。そんな格好で外に出たら風邪を引いちゃいますよ?
外に出るのならもっと暖かい格好をしなくちゃ!」
「あ、ごめん……」
改めて自分の服装を見てみたら……確かに外に出るには危ない服装だなぁ。
短めで風通しのいい夏用スカートの上に半袖だしね。
あのまま外にいたら、本当に風邪を引いてたかもしれない。
うん、反省しなくちゃ。
「それで話ってなんですか?」
「あ、うん。あのさ……『口漬け』ってどんな漬物かわかる?」
そろそろ一人くらい知ってる人が出てきてもいいと思うんだけど……
美鈴は知ってるかな?
「へ? 口漬け……ですか?」
「うん、口漬け」
「口漬け……ねぇ。うーん、口の漬物とか……じゃないですかね?
いや、何の口の漬物かは分かりませんけど」
なんだ、美鈴も私と同じ考えなんじゃない!
……でも私と同じ意見ってだけで、口漬けの真実を知っているわけじゃなさそう。
だけど私と同じ意見が聞けてちょっと嬉しいな。
「美鈴もそう思う!? 私も同じこと考えてたんだ!」
「あれ、そうなんですか。
でも詳しいことも、その答えが合っているどうかも私には分かりませんよ?
ただ私がそう思ったってだけですから」
「だからさ! 今から一緒にお姉様に聞きに行こうよ!
『口漬けって何?』って!」
残るはお姉様だけ。
よーし、これから美鈴と一緒に聞きに行ってみよう!
「残念ですけど……美鈴にはまだお仕事があるからそれは無理ですよ?」
「さ、咲夜さん!? いつの間に!?」
「ふふ、さぁね」
わ、私も少しびっくりしちゃったよ……
咲夜って、いつの間にか後ろに立っていたりするんだよね。
時を止める能力を使っているんだろうけど……
正直なことを言うと、びっくりするから出来ればやめて欲しいかな。
「し、仕事って何?」
ドックンドックンと音を立てる胸を手で軽く押さえながら聞いてみる。
美鈴の仕事はもう終わりのはずだよね? 他になんかあったかな?
ちなみに美鈴はずっと門の前に立っている訳じゃないんだ。
夕方には門の戸締りを済ませて、屋敷の中に戻ってくるんだよね。
「ええ、これから私のお手伝いをしてもらう予定なんですよ。
というわけでフラン様はお一人で行ってください」
「え、ちょっと待ってください! そんなの私は聞いてな、むぐっ……!」
にっこりと笑いながら、美鈴の口を手で押さえる咲夜。
まぁ、仕事があるならしょうがないよね。
でも今、美鈴が何か言いかけたような気もする。
……気のせいかな?
なんにせよ、今日は私だけで聞きに行ったほうがいいみたい。
「仕事があるなら仕方が無いよね。
それじゃあ、美鈴にはまた今度口漬けについて分かったことを教えてあげるよ!
じゃ、行ってくるね、二人とも!」
「はい、行ってらっしゃいませ」
二人に向かって手を振ってから、お姉様を探しに向かう。
よーし、あとはお姉様だけ!
お姉様なら何か知ってるはずよね!
……お姉様も知らなかったら、魔理沙にでも聞いてみよ。
「ぷはぁ! やっと手をどかしてくれましたか……
あの、咲夜さん、一つ聞いていいですか?」
「何かしら?」
「私は残ったお仕事なんて知らないんですけど」
「そりゃ知らなくて当然よ。今追加したんだから」
「い、今追加したって……また働かされるんですか、私?」
「……目をつぶって、うとうとする状態を『働く』とは言わないと思うんだけど?」
「う……」
「まぁ、いいわ。あ、それと、あなたの考えてる口漬けはたぶん間違ってるわよ」
「はい?」
「あのね、口漬けっていうのはね……ごにょごにょ……」
「あ……あー! そういうことですか!」
「うん、そういうこと」
「なるほどー。これはフラン様に伝えなくてもいいんですか?」
「……あなたは馬鹿かしら? そんな恥ずかしいこと、言えるわけが無いでしょうが!」
「あ、それもそうですね」
「ふぅ……やっと分かってくれたか……
実は仕事が残ってるって嘘を言ってフラン様を一人で行かせたのは、
あなたが変なことを言っちゃいそうで怖かったっていう理由があるのよね。
うん、本当に行かせなくてよかったわ」
「え、さっきのは嘘だったんですか? って言うか変なことなんて言いませんよ!」
「ええ、嘘だけど? いや、あなたのことだからポロッというに決まってるわ。
……あ、やっぱり今の発言は取り消し。
今から新しい仕事を命じるわ」
「え、えぇ!? そ、そんなぁ……」
「寝る前に私の部屋に来なさい。
……あなたの今日最後の仕事は『私の話し相手になること』よ。
サボったら……承知しないわよ?」
「え、あ、は、はい……!」
「ふふ、今日は二人で楽しく過ごしましょ!」
「わ、わかりました!」
「……さて、あとはあの二人がどうなるかが楽しみね。
面白いことになりそうな予感がするわ」
「おねーさまっ!」
「きゃっ!」
バタン! と勢いよくドアを開けると、お姉様が小さく驚きの声を上げた。
やってきたのは私達の寝室。あ、言ってなかったかもしれないけど、私達は同じ部屋で寝てるんだ。
だって別々の部屋だと寂しいからね。
それに……私はお姉様のことが……
あ! ううん、なんでもない!
「もう……いきなり、それに勢いよくドアを開けるのはやめてくれない?
びっくりしちゃうじゃないの」
「あ、ごめんなさい」
お姉様は軽く腕組みをして、私に注意してきた。
ちょっと慌てすぎちゃったかもしれない……次は気をつけなきゃ。
「で、何か用でもあるの?」
「あ、うん。ちょっと聞きたいことがあって……」
「それじゃあ、座りなさいよ。立ったままだと疲れるでしょ?」
そう言ってお姉様は私に椅子を勧めてくれた。
それじゃあお言葉に甘えて……よいしょっと!
「それにしてもよく私のいる場所が分かったわね……」
「咲夜に聞いたら教えてくれたよ。『寝室にいますよー』ってね」
咲夜なら知ってるかな、と思ってから引き返して聞いてみたのが正解だったわね。
流石は紅魔館が誇るメイド長。
「ふーん、なるほどね。それで、聞きたいことって何かしら?」
「あ、それはね……『口漬け』ってどんな漬物か分かる?」
「は? 口漬け?」
お姉様は頭の上に?マークを浮かべて少し首を傾げた。
「うん。表紙にそんな言葉が書いてある本が図書館にあって、ものすごく気になったんだ。
中は見てないんだけどね」
「うーん、口漬け……口漬けね……」
今度は腕を組んでうーん、と唸る。
もしかして……これで解決できるのかな?
そう考えるとドキドキしちゃうな。
「あー!」
うわぁ! びっくりした!
いきなり叫んだけど、どうかしたのかな……?
「もう一回確認するけど……あなたが知りたいのは口漬け、よね?」
「え、うん、そうだけど」
「分かった……教えてあげるわ、口漬けの意味を」
「え、知ってるの!? 教えて、教えて!」
流石はお姉様! これでやっと口漬けの秘密が……って、あれ?
お姉様、何でいきなり真面目な顔になってるの?
「……本当に知りたいのね?」
「え、何を言ってるの?」
「いいから答えて。本当に知りたいのかどうか」
も、もしかして口漬けって怖いものか何かなのかな……?
怖くなってきたけど知りたいって気持ちには勝てないよ……
「う、うん、本当に知りたい」
「本当にいいのね?」
「うん」
「後悔しない?」
「う、うん……」
しつこく聞いてくるけどなんでなんだろう。
それほどに危ないものか何かなのかな……
「それならいいわ……ただし教えてあげられるのは今日の夜、寝る前よ」
「ほえ? なんで?」
あ、訳がわからなすぎたせいで変な声出ちゃった。
「いいから! それまで我慢できないのなら教えてあげないわよ?」
「わ、我慢する! だから教えて!」
「うん、それでよし。いい子ね」
お姉様はやっと笑ってくれた。
気のせいか、顔が少し赤いように見えるんだけど。
真面目な顔を作るために、顔に力を入れたせいで赤くなっちゃったとかそんなんだよね。
「それじゃ、そろそろ夜ご飯の時間のはずだから、食べに行きましょうか」
「あ、うん、食べる!」
「決まりね。それじゃあフランは先に行っていて頂戴」
「わかった! じゃあ、先に行ってるね!」
私はお姉様に軽く手を振ってから部屋を出た。
……ふふふ、やっと口漬けがなんなのか分かるのね。
少し怖い気もするけど楽しみだな。
おっと、その前にご飯だね!
「まさかあの本について知ってるとはね……中は見てないみたいだけど。
さて、私もお腹空いたし、ご飯食べてこよっと。
その後はお楽しみタイムね。ふふ、楽しみだわ……」
「さて……あとはベッドに入って寝るだけね。
ふふ、その前に口漬けの意味を聞かなくちゃ!」
食事の後に居間でお茶を飲みながら皆と話していると、あっという間に時間は過ぎた。
というわけでもう寝る時間!
つまり、口漬けについて教えてもらえる時間ってことね!
少し怖かったりはするけど……心の準備は出来たわ!
しっかりパジャマにも着替えて、寝る準備も出来たし。
そろそろトイレに行ったお姉様が帰ってくる時間ね。
あ、私はもう済ませたからね?
そうしないと、またこの前みたいに姉妹揃って……
うぅ、思い出すと恥ずかしい……
「お待たせー」
「あ、お帰りなさい」
やっと帰ってきた!
さぁ、そろそろ聞かせてもらおうかな!
「お姉様、それじゃあ聞かせてもらうわよ。
口漬けについてね!」
「まぁ、落ち着いてフラン。
こっちにも準備って物があるんだから」
……あれ、何で部屋の鍵を閉めてるの?
で、カーテンも閉めて……?
いつもは咲夜がいつでも入れるようにって鍵を開けているのに。
うーん、なんで?
「これでよし。さて、口漬けについて……だったわね?」
「うん!」
「最後にもう一回聞くけど……本当に後悔したりしない?」
「もちろん。後悔なんてしないよ」
ちょっとだけ怖いのは内緒だけど。
「それじゃあ、ベッドの方に行きましょうか」
「え? 話ならそこのテーブルでもいいんじゃ……」
「べ、別にいいじゃない!
それにベッドの方なら、話が終わったらそのまま寝れるから都合もいいし!」
お姉様、声がなんか上ずってるよ?
まぁ、いいか……
「と、とりあえず座りましょうか」
そう言いながらベッドに腰掛けるお姉様。
あ、じゃあ私も。
「それじゃあ準備も出来たし、話しましょうかね」
「待ってました!」
なんかドキドキが止まらない。
一体口漬けってなんだろうね?
「その前に……目をつぶって」
「へっ? 別にいいけど……」
目をつぶる意味はあるのかな……?
よく分からないけど、目をつぶってって言われたからには、つぶるしかないよね。
「じゃ、始めるわよ」
「う、うん」
ぎゅっ、と目に力を入れていると……
唇に柔らかい感触。
ふえっ? な、何これ!?
や、やだ……なんかずっとくっついてるんだけど……
あ、ちょっと甘い、かな?
……お菓子か何か?
少しなら、目を開けてもいいよね?
よし、いち、にの……さん!
「んっ!?」
「えっ!?」と言ったのだけれど、口が塞がれていたのでそんな声が漏れた。
私の口を塞いでいたのは……お姉様!? 一体何してるの!?
私が目を開けたことに気づいたのか、お姉様は口を離す。
「お、お姉様! い、一体何を!?」
「何をって……口漬けについて教えてあげたんじゃないの」
「へ?」
この人は何を言ってるのかしら?
これが口漬け? これって口漬けは口漬けでも「口付け」じゃない……
ん? 「口付け」と「口漬け」……?
あ、もしかして!
「『口漬け』って『口付け』の誤字?」
「ええ、そうよ。あなた、気づかなかったの?」
……ああ、そういうことだったんだ。口漬けってただの誤字だったんだね。
『口漬け』なんて見慣れない単語だったからてっきり漬物か何かなのかと思ってたよ……
こんなことについて聞きまわっていたことを思い出すと、なんだかすごく恥ずかしいなぁ。
「うん、全く気がつかなかった……」
「まぁ、あの本の表紙だけを見たら『口漬けって何?』って思うわよね。
中身を見たら『あぁ、なるほどね』ってなるけど」
ん? 「中身を見たら」? ということは?
「お姉様、あの本を見たことがあるの?」
「ま、まぁ、ちょこっとだけね……」
見たことあるんだ。私はまだ中身までは見てないんだよね。
どんな本だったのかな?
「ねぇ、あれってどんな本だったの?」
「……言いたくない」
「え、なんで?」
「あれは私達には早すぎるわ……
私も最初、面白そうだからって理由で読んでみたけど、
途中から読むのをやめちゃったわよ……あぁ、もう、思い出すだけで恥ずかしくなっちゃうわ!
いい? あれが読みたかったらもっと大きくなってからじゃないとダメよ!
絶対だからね!?」
真っ赤な顔で私の肩をぎゅっ、と掴むお姉様。
どういうことなんだろ……
とりあえず「見ちゃいけない本」ということは分かったけど。
そんなに危ない本なのかな?
興味はあるけど、そこまで言われたら読むのは諦めるしかないよね。
「……この話はやめましょうか。
このままだとこっちがおかしくなっちゃうし。あー、恥ずかし……」
お姉様をあそこまで恥ずかしがらせる本……なんか恐ろしいよ。
「さて、口漬けの意味も分かったことだし……これで満足でしょ?
さ、そろそろ寝ましょうか」
うん、口漬けの謎も解明できたから満足できた。
満足できたんだけど……
「ん? どうかした?」
ベッドの中に潜りながらそう声をかけてくるお姉様。
その姿を見ていると、さっきからずっと我慢していた思いがこみ上げてきた。
「……まだ満足できないよ」
「は? それじゃあどうやったら満足してくれるのかしら?」
「お姉様が嫌じゃなければでいいんだけど……さっきの続き、して……欲しいな」
い、言っちゃった……ものすごく恥ずかしいな……
でもこの気持ち、もう抑えられないよ。
「……それ、本気で言ってるの?」
「うん、本気だよ。
本当のことを言うと、前からお姉様のことが好きだったんだ」
「え……?」
「姉妹だとか女同士だとかそんなものはどうでもいいの。
私は厳しくも、優しいお姉様が大好き。
お姉様はどう? 私のこと……好き?」
胸の中にしまっていた思いを告げると、お姉様の顔がどんどん赤くなっていった。
「……馬鹿。妹のことが大嫌いな姉がどこにいるのよ。
だけど、私も姉妹とか関係無しに、あなたのことが大好き」
……嬉しいな。お姉様も私のこと、好きなんだ。
もう、我慢できないや。お姉様に抱きついちゃえ!
「きゃっ!? い、いきなり何するのよ!?」
「だって我慢できなかったんだもん」
「もう、仕方ない子ね……」
軽く微笑むお姉様におでこを小突かれちゃった。
「へへ、ごめんなさい」
私は舌をペロッと出して謝る。
「それじゃあ、早速続きを始めましょうか」
「……うん」
私もいつものようにベッドに潜ることにしようかな。
ベッドに潜り込むと、お姉様が優しく私を抱きしめてくれる。
それに答えるように私もお姉様の背中に腕を回した。
「あ、お姉様の体、温かい……」
「ちょっと、あなた、こんなに冷たいじゃない!」
「大丈夫だよ、これくらい」
「何言ってるのよ! ほら、私が温めてあげるからもっと近くに寄りなさい」
え、ちょっと……きゃっ!
気がつくとお姉様の顔が目と鼻の先に。
密着しすぎて、小さくはないけど、大きくもない感じの膨らみが私の胸に当たってる。
そして微かに伝わってくるお姉様の鼓動。
「ちょっとくっつきすぎじゃないかな……?」
「何言ってるのよ。さっきは今と同じくらいにくっついたじゃない」
「そ、それはそうだけどさぁ……」
お姉様はいきなりすぎるんだよ、もう……
そんなところも好きだけどさ。
「さてと、やっと落ち着いて続きができるわね」
「あ、うん……」
「それじゃあ、いいかしら?」
「うん、大丈夫だよ」
私がそう言って頷くと、お姉様は唇を私に近づける。
軽く目を閉じて、私はお姉様の唇を受け入れた。
「ん……」
今漏れた声はどっちのなんだろう?
さっきよりも長い口漬け、もとい口付け。
お姉様の唇は……ほんのりと甘かった。
「はぁ……どう、だったかしら……?」
「うん……良かったよ。だけど、まだ満足できないかも」
「ま、まだやらせる気なの? ……いや、でも私もまだ満足できないかもしれないわね」
「え、ということは?」
「こうなったら、お互いに満足するまで徹底的にやりましょ?」
「うん、わかった! あ、でも優しくしてね……?」
「もちろんよ。フランは私の大事な可愛い妹なんだから」
お姉様……私のことを『大事な可愛い妹』だなんて……
なんか、涙が出てきちゃった。
「ど、どうしたの、いきなり泣き出して? 私、何か酷いこと言った……?」
そんな心配そうな顔をしなくてもいいよ、お姉様。
お姉様が悪いわけじゃないんだから。
「ううん、ただお姉様が私のことを『大事な可愛い妹』って言ってくれたことが嬉しくて……
嬉しすぎて涙が出ちゃっただけだよ」
ごしごし、と服の袖で涙を拭いてから笑いかける。
「お姉様も私にとって、大事な頼れるお姉様よ!
これからもよろしくね、お姉様!」
「……ありがとね、フラン。大好き。そして、愛してるわ」
「うん、私もお姉様のことが大好き。こっちも愛してる……」
お互いに目に軽く涙を溜めながら強く抱きしめあう。
お姉様、いつまでも愛してるからね?
私は心の中でそう呟いた。
「さ、それじゃあ、明かりを消してもらえるかしら?」
「わかった」
「ごめん、ありがと」
私がロウソクの火を消すと、部屋は真っ暗になった。
この状態だと、お姉様の顔が微かに見えるくらいね。
「ふふ、それじゃあ続けましょ?
邪魔も入らないし、気が済むまでずっとできるわよ……」
「うん、まだまだ時間はあるし、ゆっくりとしようね……」
私達は暗闇の中で笑いあう。
そのまま私達は夜遅くまで口付けを交わした。
流石に詳しい内容までは教えられないけどね。
だってこれは私とお姉様の二人だけの秘密なんだから。
なんか眩しい。もう朝なの……?
ゆっくりと目を開けてみたら……部屋が明るい。
やっぱり朝みたい。
あ、私達は吸血鬼としては珍しい「夜に寝て朝に起きる」っていう生活をしてるんだ。
皆からもよく「吸血鬼なのに珍しい」とか言われちゃうけど、これが私達の日常なんだから仕方ないよね。
うーん、それにしても、昨日の夜は色々と面白かったなぁ。
あんなに面白くてドキドキした夜は初めてかも。
……よし、起きようかな。
「ふわぁ……おはよう、お姉様……あれ、お姉様?」
あれ? 横で寝ているはずのお姉様がいない。
もしかして、もう食堂にいるのかな?
……うん、そうに違いない。
そうと決まったら急いで食堂に行こう。
パジャマのままだけど……まぁ、いいか!
ドアを開けて、廊下を駆け抜けて……はい、到着!
「おはよー!」
そう言いながら食堂のドアを開けると、いつもどおり皆が椅子に座っている。
皆がおはよう、と返してくるのを聞きながら私は自分の席に座った。
「おはようフラン。よく眠れたかしら?」
「うん、よく眠れたよ」
隣に座ってるお姉様は、パジャマからいつもの服に着替えてる。
……私も朝ごはんが終わったら着替えないと。
「それじゃあみんな揃ったことだし、頂きましょうか?」
「ええ、そうね」
「それでは……頂きます」
「頂きます!」
うん、いつもの朝ごはんの光景だ。
美鈴は豪快に食べているし、パチュリーと小悪魔はゆっくり。
そして咲夜は静かに音もなく食べている。
お姉様は……なんか後ろからオーラが立ち昇ってるんだけど。
これが「かりすま」とかいう物なのかしら?
「ん? どうかしたの?」
「あ、ごめん、ちょっとお姉様に見とれてた」
「み、見とれてたって……恥ずかしいじゃない……」
あ、恥ずかしがるお姉様もすごくいいなぁ。
ものすごく可愛い。
可愛いからもうちょっと見てよっと。
「ちょ、ちょっと! これ以上見つめないでよ! 恥ずかしくてご飯も食べれないわ!」
「えー、別にいいじゃない」
「私が良くない!」
……あーあ、お姉様がそんな風に叫んだせいで、食堂にいた皆が私達の方を見てきたじゃない。
「あ、いきなり叫んでごめん……」
「い、いえいえ、大丈夫ですよ……あぁ、やっぱり照れるお嬢様は可愛いわ……」
咲夜、独り言をするのはいいけど、隣の私にまで聞こえてるよ?
まぁ、お姉様には聞こえてないと思うけどさ。
「はぁ……あなたのおかげで変な空気になっちゃったじゃない……」
「ごめんなさーい」
冗談っぽく笑いながら謝っておく。
「まったく……でも見つめられて、悪い気持ちはしなかったかな」
「え?」
「ううん、なんでもないわ」
よく聞こえなかったけど、なんて言ったのかな?
まぁ、いっか。
「さ、早く食べて着替えてきなさい」
「うん!」
口漬けについてわかったから気分もいいし、今日はいい一日になりそう!
……あ、着替え終わったらお姉様にでも遊んでもらおうかな?
そうだ! それよりもさ、皆でピクニックとかどうだろう?
最近皆で一緒に遊んだり、お出かけしたりとかしなかったしね。
あ、私達なら平気だよ。
日光には負けるほどやわな体じゃないから。
「ねえ、お姉様。今日はいい天気だし、皆でピクニックにでも行こうよ!」
「ピクニック?」
「うん。最近皆でお出かけしたりとか、楽しくお話したりとかしなかったじゃない。
だからたまには皆で一緒にお出かけとかしてみたいなーって」
「うーん……よし、たまにはそんなのもいいわね。
聞いたわね、咲夜。これから皆で外に遊びに行くわよ!」
お姉様の言葉を聞くと、咲夜が立ち上がって軽くお辞儀する。
「ええ、すぐに準備いたします」
咲夜はそのまま音も立てずに食堂を出て行った。
多分準備しに行ったんだろうなぁ。
「パチェも小悪魔も早く準備してきて。
準備が出来次第出発するわよ」
「はいはい、分かったわ。準備に行くわよ、小悪魔」
「分かりました!」
パチュリーもこあも食堂を出て行く。
……お姉様、あそこでオロオロしている人が一人いるんだけど。
「あ、あの、私はどうすれば……」
「あら、もちろん決まってるじゃない」
ふふっ、と軽く笑うお姉様の顔を見て、美鈴ははぁ、とため息をつく。
「で、ですよねぇ……
はい、お嬢様たちがいない間は私がしっかりお留守番をしていますよ……」
「こらこら、話はまだ終わってないわよ」
「は、はい?」
「今日は『皆で』行くって言ったでしょ?
もちろんあなたもそのうちの一人よ」
「お、お嬢様……」
「さ、分かったら早く準備してきなさい」
「は、はい! ありがとうございますっ! それでは失礼します!」
ふふ、良かったね、美鈴。
さて、皆準備しに行っちゃったし、私達も準備をしにいかないと。
「お姉様、私達も準備しに行きましょ」
「そうね。さ、行くわよ、フラン」
「うん!」
うーん、今日はどんな服を着ていこうかな。
あ、お姉様に選んでもらうのも悪くないかも。
「お姉様……出来ればでいいんだけどさ。今日着ていく服を選んで欲しいな……」
「そんなことしなくても大丈夫よ。フランが着る物なら何でも似合うわ」
「ほ、本当に?」
「ええ、もちろん」
うぅ、なんか凄く嬉しいな。
誰も見てないし……こうしちゃえ!
「きゃっ!? い、いきなり何を……」
「え、腕に抱きついちゃ駄目なの?」
「い、いやそうじゃないけど……誰か見てないかしら?」
「大丈夫、大丈夫。誰も見てないよ」
「そ、そう? それなら別に……」
ふふ、お姉様、顔が真っ赤だよ!
……あ、そんなこんなしてるうちに部屋に着いちゃった。
さーてと、どんな服にしようかな?
「あ、フラン……」
「え、何か言った?」
「ねぇ、まだ少し時間があるから……
昨日みたいに『口付け』……しない?」
真っ赤な顔を伏せながらそう呟くお姉さまを見ていると、私も赤くなってしまう。
私も……したくない訳じゃあない。
「……うん、いいよ。でも手短に済ませないとね。早くしないと皆集まってきちゃうよ?」
「もちろん手短に終わらせるつもりよ。それじゃ……早速始めましょうか」
お姉様はそう言って窓際のカーテンを閉める。
よし、それじゃあ私も誰にも見られないように鍵を閉めて、と。
ガチャリ、という鍵の音が静かな部屋に響き渡った。
こんな朝早くからする「口付け」もなかなか面白そうね。
さぁ、これが終わったら皆で楽しい時間を過ごそう。
お姉様に咲夜にパチュリー。そしてこあと美鈴。
皆で楽しくピクニック。
でも皆と色々楽しむ前に……先にお姉様と一緒に楽しい思いをさせてもらおう。
これくらいはいいよね?
「フラン、準備は出来た?」
「うん、大丈夫だよ。鍵も閉めたし」
「それなら大丈夫ね。さ、皆には悪いけど、一足先に楽しませてもらいましょ」
「うん!」
あまり皆を待たせちゃいけないんだけど……もしかしたら待たせちゃうかも。
でも……ちょっとくらいは多めに見て欲しいな。
心の中でそう苦笑しながら、私達は甘くてちょっぴり大人の味がする「口漬け」……じゃなくて「口付け」を交わした。
「あー、楽しかった!」
「ふふ、たくさん遊べてよかったわね」
天気も良かったし、今日は凄く楽しかったよ。
美鈴と咲夜に遊んでもらったり、パチュリーとこあに花を使った遊びを教えてもらったり……
もちろんお姉様ともボール遊びをしたりして遊んだしね。
「今日は疲れたでしょ? お風呂に入って早めに寝ましょうか」
「うん、そうする!」
「それじゃあ、着替えは私が用意するから、フランは先にお風呂に行ってなさい」
「わかった! ……で、お風呂でも口付けするんだよねー?」
「さ、流石にそれは……しないかも……」
「ふふふ、分かってるよ。冗談だよ、じょ・う・だ・ん!」
「もう、からかわないでよ……」
ふぅ、と小さくため息をつくお姉様。
ふふ、お姉様ったら顔真っ赤!
それじゃ、私は先にお風呂に行かせてもらおうかな。
「それじゃあ、先に行ってるから、早く来てねー!」
「できるだけ早く行けるようには努力するわ」
手を振ってお姉様を見送る。
でもお風呂ではしなくても、寝る前にはまたするんだろうなぁ。
まったく「口付け」ってなかなかやめられないわね。
でも別にいいか。嫌な気分はしないし。
おっと、そんなことより早くお風呂に行こうっと。
一緒に入るお風呂ももちろん楽しみだけど、今夜の「口付け」も楽しみだなぁ。
「よーし、今日の夜も期待させてもらおうっと!」
ふふ、お姉様、これからも色々とよろしくね?
姉として、そして……私の大好きな人として。
堪能しました。
小悪魔
とても良いレミフラでした!!面白い誤字もあるもんだw
どうしてくれるwww
ごちそうさまでした。
30作の節目ということでお疲れ様です。これからも頑張ってください。
そして、誤字の指摘ありがとうございます。指摘された部分は直しておきました。
まさか誤字をネタにした小説内で誤字をしてしまうとは……(苦笑)
普段はPCが誤字する度に「またか……」とか思ってしまいますが、
今回ばかりはネタを生み出してくれたPCに感謝ですね。
そして30作目の節目でここまで良い評価を頂いたことは感謝してもしきれないほどです。
これからもよろしくお願いします!
しかしクールにキスするお嬢様というのも良いですね・・・
コメント、点数ありがとうございました。