Coolier - 新生・東方創想話

GIGA BREAK

2010/12/03 23:33:26
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――― ビリビリと痺れちゃうような、そんな悪魔は好きですか?

























「あら、何を読んでいるの?」

唐突に後ろから声を掛けられ、湖の大妖精は活字を追う目を一旦休め、背後を振り返った。
そこにはここ紅魔館内大図書館の主であるパチュリー・ノーレッジが立っている。彼女が誰かの読んでいる本に興味を向けるのは珍しいかも知れない。
というのは他人に興味が無いというのではなくて、単にパチュリー自身が自分の読んでいる本だけに全力を注いでいるからなのだが。
そもそも、ここに並んでいる本は全て彼女の所有物なのであって。

「これですか?雷に関する本です。写真やイラストもあって、とっても分かりやすいなぁって」

読んでいたページに人差し指を挟み、大妖精は笑顔で本の表紙を示した。
”放電現象の全て ~落雷から静電気まで~”というタイトルがでかでかと、電撃をイメージさせる為か黄色い文字で描かれている。
それを見たパチュリーは軽く頷きつつ感心したような顔。

「へぇ、勉強熱心ね。流石は自然の具象たる妖精、自然現象について詳しくなっておかないと、という使命感かしら」

「い、いえ。そういう訳では……ただ、たまたま棚にあったのを見つけて興味がわいたので」

「まあ知の泉を自負している場所ですもの、知識を吸収して帰ってくれるのはこちらとしても嬉しいわね。
 うちの小悪魔は最近どういうワケか絵本ばっか読んでてねぇ。あなたみたいにもう少し勉強家になってくれたら……」

「あれあれ、何のお話ですか?」

褒められて顔を赤らめる大妖精と、苦笑いで語るパチュリーに割って入るが如く、本を数冊抱えて司書見習いの小悪魔が登場。
ちょっとした出来事をきっかけに出会った二人だが、名無し同士というのを筆頭にして気付けば意気投合、すっかり親友の間柄だ。
大妖精がよくここを訪れるようになったのも、本好きは勿論だが、彼女との親交が理由として大きい。
さて、噂をすれば何とやら、を見事なまでに体言してみせた小悪魔の登場に、パチュリーは苦笑のまま手をヒラヒラ。

「この子が勉強熱心で感心するわって話よ」

「そうなんですよ!この間も地質に関する図鑑を読んでましたし、大ちゃんは自然科学に関する知識がすごいんです!
 そりゃあパチュリー様と比べちゃったら厳しいかもしれませんけど、少なくとも私なんかよりずっと詳しいですよ。ね、大ちゃん!」

「や、やめてよもう……」

「後で何か雷に関する面白いこと教えてね!大ちゃんがこういう本読んだ後の知識披露、いつも楽しみにしてるんだから」

笑って大妖精の肩に手を置き、軽く揺すりながら彼女をベタ褒めする小悪魔に、当の大妖精の顔は既に真っ赤だ。

(……自分では読まないのかしら)

一瞬そう思ったパチュリーだが、すぐ頭の中でかぶりを振った。小悪魔にとっては知識の吸収は二の次、重要なのは大妖精からその話を聞く事なのだ。
それを理解し、目を細めてそんな二人を見ていた彼女だったが、ふと視界の端に何かの影を見つけ、鋭い視線を向ける。

「……またあなたね!?」

「おおっと、まさか逃げ出す前に見つかるとはな!」

本棚から本を何冊も抜き取り、片っ端から袋に放り込んでいる真っ最中の白黒魔法使い、霧雨魔理沙がそこにいた。
彼女の貸借と言う名の盗難行為は最早日常チャメシゴト、風景の一部となりつつあったが持ち主パチュリーとしてはそんなの冗談では無い訳で。

「待ちなさい、今日こそは……」

「待てと言われて待つヤツはこんな事しないと思うぜ!あ~ばよとっつぁ~ん!」

「分かってんならやめ……ああんもう!」

追いかける間も無く姿を暗ませた魔理沙に、パチュリーは何とも悔しそうに地団太を踏むしか無かった。
彼女が立っていた辺りに数冊本が散らばっているのを見る限り、慌てて逃げ出したようなので被害は少ないだろう。
だが塵も積もれば山、というかこれまでの分で既にアルピニストがこぞって押しかけるレベルにまで盗まれた本の山は高くなっている。

「……あの……」

「ああ、ごめんなさい。あなたはどうか気にしないで、普通に本を読んで借りて返してくれていいから」

心配そうに声を掛けた大妖精にそう返し、パチュリーはふらふらと散らばった本を戻しに本棚へ。
はっと気付き、小悪魔が先に小走りで本棚へ向かい、本を片付け始める。

「ありがとう」

そう礼を述べるパチュリーの顔は、笑顔だがどこか疲れている。

(………)

疲れた主の横顔を見つめる小悪魔の胸中には、『何とかしたい』という想いが募るばかりであった。











それから二日後、大妖精は再び図書館を訪れた。
いつも通りに小悪魔が出迎え、いつも通りにパチュリーへ挨拶し、いつも通りに彼女は軽く会釈を返してすぐ読書へ戻る。
さて今日の本は、となる前に小悪魔が尋ねた。

「あれ、その本」

「うん、こないだ借りて行ったんだ。全部読みきれなかったから」

今来たばかりである筈の大妖精の手には、先日少し話題に上った放電現象に関する本が。

「調べてみると、雷ってすごく奥深い現象なんだなぁって。理屈はちょっと難しいけど、よくできてるよ」

「ちょっとだけなら知ってるけど、静電気も雷も理屈は同じなんだっけ?」

「うん、そうだよ。規模が違うだけで。静電気なら例えば人とドアノブとかセーターとか、そういうごくごく小さくて短い規模の。
 雷になると、大気中……積乱雲と地表近くという大きな規模の、電荷のやり取りなんだって」

「へぇ、後でもうちょっと詳しく……ん?」

感心した様子で話を聞いていた小悪魔は、不意に話を切った。その視線は大妖精が持つ本の表紙に釘付けだ。

「……?どうかした?」

いきなり黙ってしまった彼女の様子に大妖精は疑問を呈する。と、

「そうだっ!」

黙ったかと思えば突如大声でパチンと指を鳴らす小悪魔に、驚かされる羽目になるのであった。
それは大妖精だけでは無く、

「……ああ、びっくりした。ちょっと、図書館で大声はご法度よ」

「あっ……ごめんなさい」

じとっとした視線を投げつけてくるパチュリーに、小悪魔は慌てて頭を下げた。
程無くしてパチュリーが読書に戻ったのを見ると、彼女は大妖精の手を引いて図書館の奥へ。
人の気配などまるで無い図書館の奥深く、小悪魔は壁際に積んであった椅子を二つ出して向かい合うように並べる。
ここなら、絶叫でもしない限りはパチュリー、並びにその周辺の席に声は届かない。

「こあちゃんどうしたの、いきなり」

先の本を抱えたまま首を傾げ、大妖精は説明を求める。
揃って着席した所で、小悪魔が話を始めた。

「あのさ、こないだからずっと考えてたことなんだけど」

そう前置きすると、彼女はどこか神妙な面持ちで続ける。

「前からもあったけれど、魔理沙さんの盗難被害がここ最近増えてるみたいなの」

「ああ、そう言えばこの間も来てたね」

大妖精は頷く。彼女が自身の目で現場を見たのは初めてであったのだが、その鮮やかな手並みと逃げ足の速さに驚かされていた。
いけない事ではあると知りつつも、思わず感心してしまうくらいに。

「それでね、本を盗まれるたびにパチュリー様が、いつも落ち込んだり、疲れ果てたような顔をしてて……いつも傍で見てると、何だか辛くって」

「うん……」

小悪魔の話はまさにその通りであり。大妖精も、沈んだ様子で無事助かった本を片付けるパチュリーの様子を見ていたのだ。

「パチュリー様が、決して魔理沙さんのことを嫌ってるわけじゃないのは知ってるけど、やっぱりこのままじゃいけないよ。
 だから、何とかして被害を抑えられないかなって、ずっと考えてたんだ」

いくらある種の悪名が通っている魔理沙でも、ろくすっぽ親交の無い相手から本を盗むような真似はするまい。
しかし、それが本を盗んでいい理由にはならない訳で、部下としてはこれ以上主が思い悩む様子を見ていられなくなったのだろう。
小悪魔が一旦話を切ったので、大妖精は再び疑問の言葉を口にする。

「パチュリーさんに苦労をかけたくない、っていうのはよく分かるよ。けど、それと……」

今こうして連れてこられたのはどう関係があるのか――― それを尋ねようとしたが、それより先に小悪魔が答えた。

「あ、ごめんね。で、その解決策なんだけど……ついさっき、思いついたんだ。それを見てね」

そう言って彼女が指差したのは、大妖精が手にしている”放電現象の全て ~落雷から静電気まで~”。

「……これ?本?」

「うん。正確には、その本の題材……電撃だよ。魔理沙さんが逃げようとしたら、電撃でビリビリっと一発!動きを止めて本を奪還!
 トラップとかを仕掛けるのは、進入経路とかが分からない限り厳しいけど、これならスマートだし遭遇時における確実性は高いと思うの。
 姿を視認出来ない限りは使えないけれど、見つけたのに取り逃がした、っていうのが少なくなるだけで、パチュリー様も大分楽になれるよ」

生き生きと語る小悪魔。興奮しているのか頭の小さな羽根がぴこぴことせわしなく動いていた。
そんな彼女に、大妖精は頷きつつも首を傾げる。

「なるほど、ケガしない程度の電撃でも動きを止めるには十分だもんね。
 けれど……こあちゃん、電撃なんて使えたっけ?今の口ぶりだと、パチュリーさんがやるって訳じゃなさそうだし」

もっともな疑問である。作戦のキモであり最重要部分である”電撃”はどうするのか。
幻想郷に住まう”妖”同士、一応彼女達も趣味の範疇で弾幕勝負を交えた事はある。その時はおおよそドローという結果であったが、詳細は今は省く。
その最中においても、小悪魔が電撃系の魔術、或いは弾幕を使用した記憶が、大妖精には無かった。
奥の手として手段を持っているのだろうか、と考えていた大妖精に、小悪魔はぶんぶんと首を振ってみせる。

「ううん、使えないよ」

ずっ、と椅子から滑り落ちそうになった大妖精。これでは絵に描いた餅のようだ。

「え、それじゃあ……」

「今は、ね。だから、これから電撃を操れるような魔法を覚えようと思うんだ!」

「……ええっ!?魔法を覚える!?」

事も無げに言ってのけた小悪魔に、彼女は驚きを隠せない。

「うん、覚えるの。パチュリー様や魔理沙さんだって、生まれた時から何でも魔法が使えたワケじゃないよ。勉強や特訓をしてできるようになったの。
 私だって悪魔の端くれだもの、覚えようと思えばそれなりに身につけられる! ……はず」

言葉尻にやや自信の無さが見え隠れしたが、彼女は胸を張って答えた。

「そっか……本気なんだ。じゃあ、私も手伝うよ!私にできることなら、何でも言ってね」

「大ちゃんならきっとそう言ってくれると思ったよ!ありがとう!」

大妖精が躊躇いも無く協力を申し出ると、小悪魔は喜んで立ち上がり、その手をとる。
暫し手を握り合っていた二人だが、不意に大妖精が新たな疑問を見つけた。

「……ところでさ。魔法を覚えたいっていう決心は分かったんだけれど、どうしてこんな隅っこで?」

ただ話をするならいつものテーブルでも良かった筈だ。しかし小悪魔は顔を少し赤らめる。

「え、だって……なんていうか、ナイショにしたいの。パチュリー様から見えない所で努力して覚えて、その目の前で初披露してパパッと本を奪還してみせたいなって。
 そしたらさ、何だかカッコいいし、サプライズにもなるし……ね?」

彼女の言い分に偽りは無いだろう。しかし、親しい付き合いである大妖精には分かっていた。あと一つ、パチュリーに褒められたいのだと。
いつの間にか身に付けた魔術で、華麗に泥棒を退治。そのインパクトは強烈であり、殊更初見であればその驚きは数段上だ。
主の為に見えない所で努力を重ね、その成果を存分に発揮した部下。間違い無く、パチュリーは彼女を両手離しで褒めちぎるに違いない。
いっぱい褒められたいが為に秘密にする。その思考がよく理解出来ると同時にとても可愛らしく思えたので、大妖精は敢えてそれをわざわざ拾い上げる真似はしなかった。









魔術師が所有する図書館だけあり、様々な魔術に関する書物も実に豊富だ。
それらの書物――― 出来るだけ初心者向け、簡単そうな物―――を手当たり次第に集め、二人は調査を開始した。
雷属性、というよりは単純に雷撃を操る事の出来るものが理想だ。
”雷で出来た巨大な剣を出現させ、上空から敵の頭上目掛けて叩き込む”というような魔術は、強力ではあるが本来の用途とは違ってしまう。

「ねぇ、こんなのがあるんだけど」

文献を漁り始めて一時間くらい経っただろうか、”雷”やら”電撃”やらの文字に反応した大妖精が何度目かの呼びかけ。

「なになに?」

「えーっと、時を越える術を持った大魔王に唯一対抗し得る方法として伝説の存在となった雷属性上級魔術”インディグネイション”」

「何か凄そうだけど、そんなに大層な魔法じゃなくていいや……魔理沙さんが本ごと真っ黒コゲになっちゃうよ」

「だよね。すぐにパッと出せるようなものじゃなさそうだし」

これには小悪魔も苦笑い。本、というのは魔理沙が盗もうとした本だけで無く、周囲の本棚も含まれているのは当然だ。
詠唱時間も少ない方が良い。長々と呪文を唱えていたらその隙にスタコラサッサである。
ぱらぱらり、とページを繰る音だけが暫く続き、今度は小悪魔が手を上げた。

「あ、何か良さそうなの発見。左手から電撃を放射する”エレクトロボルト”。攻撃力よりも相手の動きを封じる事に主眼が置かれている、だって」

「それいいんじゃない?見せて見せて」

手にしていた本に栞を挟み、大妖精も彼女の横から本を覗き込みながら要点を読み上げる。

「どれどれ……使用する為には、えっと……”プラスミド”と呼ばれる物質を精製し、注射する必要がある。
 これによって自身の遺伝子情報が書き換えられ、超能力のように電撃を操る力が身に付く、だってさ。
 さらに、これを操るためのエネルギーとなる”EVE”という物質を定期的に注射する必要があり……」

「……ごめん、やめよう。何か怖いよ」

「うん……注射は痛いもんね」

それに材料の欄には”ADAM”だの”スパイダー・スプライサーの心臓”だの、見た事も無いような物質名が並んでいる。
能力的には理想的だったが、二人はそれを諦めて再び資料探索へ戻った。

「これはどうかな?雷を発生させる初級魔法”デイン”。修練を積むと”ライデイン””ギガデイン”などの上級魔法に発展し……」

「けど、そこに”勇者の資格が無ければ扱えない”って書いてあるよ」

「こあちゃん、今から勇者になりに行く?」

「三十秒くらいでなれるなら、なろうかな」

あはははは、と控えめに笑い声を上げ、それから揃ってため息。
その後も文献を読み漁って何か無いかと探すものの、あちらを立てればこちらが立たず、なものばかりでどうにも良いものが見つからない。
そもそも、継続的な泥棒の被害を抑えると言う名目上、習得に時間が掛かりすぎるものは都合が悪いのである。
三ヶ月程度なら許容範囲だが、年単位では余りに長い。魔理沙の借り出しはオールウェイズ年中むきゅー、待ってはくれないのだ。

「元々の威力が高めのやつで、真っ黒コゲから静電気レベルまで自由に威力を調整できるようなのが理想だったけど……かなりワガママだったなぁ」

「どうして?」

「どうせなら、強いのがいいなぁって。いざって時に役に立ちそうだし……けど、強いものはやっぱり時間がかかりそうだね」

そんな事を呟きながら、小悪魔は大分残りが少なくなった手付かずの文献に手を伸ばし、ぱらりぱらりとめくっていく。
どれくらい時間が経ったかはよく分からないが、それなりの時間を使ったのは確かだ。
単純作業に疲労も溜まってきて、あくび交じりにページをめくった小悪魔の手が、止まった。

「大ちゃん、これ見て!」

こちらも疲労でぼけっと紙面を眺めるだけの状態になっていた大妖精が、その声を聞いて素早く立ち上がる。
彼女の声色に、これまでとは違う自信のような物を感じたのだろう。

「いいのあったんだね?どれどれ……」

大妖精は、小悪魔が開いていたページの文面を読み上げる。

「えっと、雷属性魔法剣”ギガブレイク”。剣の刀身に最大級の雷魔法を纏わり付かせ、敵に向けて突進と共に一閃を叩き込む。
 竜の騎士が使用出来る最終奥義として伝わり、習得出来た者は数少ない。これもまた勇者の素質が必要……こあちゃん、ひょっとして勇者に憧れてたりする?
 確かにこれすごくカッコいいけど、魔理沙さん真っ二つになっちゃうんじゃ……」

「えっ!?ちょ、そっちじゃなくって。同じ名前だけど違う魔法だよ……こっちは剣だし」

小悪魔は慌てて、見開きのもう片方のページを指で示す。
大妖精はなるほどと頷き、彼女と顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

「あ、なんだ。ごめんごめん、びっくりしちゃった。でもなんで同じ名前の技があるのかなぁ」

「違う人がそれぞれ作って、知らずに同じ名前を付けちゃったとかじゃない?剣と魔法だし。実際たま~にあるらしいよ、パチュリー様が言ってた」

それから小悪魔が該当箇所を指でなぞりつつ読み上げる。

「電荷放出型雷撃魔法”ギガブレイク”。通常の雷系魔法と異なり、対象を挟むような形で空気中にそれぞれ両極の電荷を発生させて、自然現象の雷と同様のステップで雷撃を巻き起こす。
 特筆すべきは、電荷の量や距離・規模を自由に調節出来る、つまり雷撃の威力を使用できる最大電力の範疇内で自由に調節可能な点である。
 また、対象の周囲を囲む、或いは挟む形で電荷を発生させる形になる為、命中率が高い。範囲を調節する事で集団・単体どちらが相手でも使っていける……」

そこまで読み上げ、小悪魔は大妖精の方を向いて再び苦笑い。

「えっと、これって理論的には正しいのかな……詳しくないからイマイチピンと来ないや」

「あ、ちょっと待って」

その言葉を受けて、大妖精は傍らに置いてあった例の放電現象に関する本を開いた。
暫しページをめくり、探していた箇所を見つけると同じようにテーブルで広げ、小悪魔へ示す。

「んと……雷が発生する原理は、空気中のプラス、マイナスの電荷の間の電位差が大きくなって、限界を超えた時に電子を放出する、ってことなの。
 放出された電子が空気中の原子にぶつかるとそれが電離して、そこから陽イオンが発生。
 発生した陽イオンはそのまま飛んでいって別の電子を放出させるの。放出された電子はまた別の原子にぶつかって……その後は繰り返し。
 それが連鎖的に続いていくことでどんどん規模が大きくなって、最終的には雷に繋がるんだよ」

「なるほど、つまり……」

大妖精の説明に頷き、小悪魔はテーブルの上にあった本を数冊手に取る。
一冊を寝かせて置き、その左側に青い本を、寝かせた本を挟んだ反対側に赤い本を置いた。

「この真ん中のが対象、青い本がマイナスの電荷のカタマリで、赤い本がプラス電荷だとするよ?
 この魔法の場合、こうして対象を挟むように大量のマイナス電荷、プラス電荷を発生させるワケなんだね。
 そうすればこの二冊の本の間で電子の放出が雪崩みたいに発生して、結果的に雷が起こる、と……」

ぱちん、と寝かせた本の上で両手を合わせる小悪魔。両側から発生した放電で挟撃するイメージなのだろう。
実際、自然現象の雷においても、積乱雲から発生した電流と地面から伸びる電流、二つが組み合わさって雷の本流となる。

「囲むように電荷を発生させれば広範囲にも攻撃できるし、威力の調整も可能……これいいなぁ、ピッタリだよ。
 けど、これだけ便利で強いなら覚えるのは難しいんじゃ……」

大妖精はそう言って困った顔。確かに、ここまで探した中でも”覚えるのが困難”という点に阻まれたものがいくつもあった。
パチュリーのような熟練の魔法使いが覚えるならともかく、文字通り半人前な”小悪魔”では魔力もそれほど高くなく、相応の苦労を要する。
RPGと同じで、強い魔法にはそれだけのレベルが必要なのだ。かと言って修行する暇も大して無い。彼女には仕事がある。
仕事の合間に修行を積んだとて、覚えられるのはいつになるか。
しかし、今までその点で苦労してきたにも関わらず、当の小悪魔はちっちっと指を振って不敵に笑う。

「ふふ……それがね。この魔法、覚える方法が二通りあるみたいでさ。片方は普通に魔法使いとしての技量が必要なものなんだけど。
 もう一つが……なんとなんと、必要なモノさえ集めれば、私でもすぐに覚えられちゃうの!」

「え、ホントに!?それなら時間はあまりいらない……いやでも、とっても貴重な材料が必要とかだったら?」

「それも心配ご無用!そこらじゅうにありふれてるモノなんだから!」

大妖精の心配を吹き飛ばそうとするかの如く、小悪魔はえっへんと胸を張って答える。

(ありふれてる、モノ?)

一方で大妖精は気になって仕方が無い。強力な魔法なのに、そこらへんにある物を掻き集めれば覚えられる。そんな美味しい話があるのだろうか。

「で、必要なものってなに?」

首を傾げて尋ねると、小悪魔は逆に質問を返してきた。

「大ちゃん、雷を発生させるために必要なモノって何?」

「え」

唐突な質問に一瞬戸惑いつつ、大妖精は答えを探した。
とは言え、散々読んだ本にその答えは出てきていたし、ついさっきまで自ら口に出していた単語だ。

「……電荷?」

「あたり!さすが大ちゃん!」

「……で、電荷を集めるの?」

「うん!」

「………」

どこかへトリップしてしまったかのような会話に、大妖精は思わず下を向いて考え込んでしまった。









その日はもういい時間だったので大妖精は帰宅し、翌日に詳しい話を聞く事にした。
詳細を尋ねようとしても小悪魔は『明日教えてあげる!』の一点張りで、どうにもモヤモヤした気持ちを解消出来ない大妖精であった。
そして翌日。

「こんにちは」

「わ、やっと来た!待ってたんだから!」

彼女が図書館へ続くドアを開けると、すぐに小悪魔が飛んできた。

「パチュリー様、ちょっとお外へ出てもいいですか?」

「仕事は……もう終わらせたんだったわね。いいわよ」

ウキウキ気分でパチュリーから外出許可を貰い、小悪魔は大妖精を連れて図書館の外へ。
彼女の手には、昨日大妖精が返したばかりの、例の雷に関する本。

「ねえ、もう教えてくれてもいいんじゃない?」

廊下を歩きつつ、大妖精は思わず催促した。
電荷とはつまり、素粒子である。プラスは陽子、マイナスは電子の事であり、到底肉眼では確認出来ようも無い。
確かにそこらの空気中に溢れているだろうが、まさか虫網で捕まえるなんて訳には行くまい。

「どうやって電荷なんて集めるんだろうって昨日は気になってて、夜もあんまり眠れなかったの」

言葉通り、彼女の目元にはうっすらとではあるが隈が出来ている。

「え、うそ……ご、ごめんね。そんなつもりじゃ」

「あっ、そんな。いいのいいの、その方が知った時の驚きも大きいし……で、どこに向かってるの?」

思いの他小悪魔がしょげてしまったので慌ててフォローしつつ、大妖精は再び質問。さっきから内装までしっかり紅い廊下をずっと歩いている。
曲がり角をいくつか経たが、どうやら外へ出掛ける訳でも無さそうだった。

「んとね、もうちょっと地下の階に倉庫があるの。倉庫っていうか、押入れかなぁ」

「押入れ?」

会話しつつ、彼女達は階段を下りていく。

「うん。パチュリー様専用のガラクタ置き場みたいなのがいくつかあるんだけど。
 図書館の横とかにあるのは比較的動きが多くて、地下のは滅多に開けないの。今から行くのはそっち……あ、もう着くよ」

階段を下り切った先にはまだ廊下が続いていたが、少し薄暗い上に埃っぽく、あまり人が来ていないのは明白だ。
その廊下を少しだけ歩き、ある部屋の前で二人は立ち止まった。見た感じ普通の部屋だが、それを倉庫代わりにしているという事なのだろう。

「ここだよ……っと、やっぱりカギなんてしてないや」

彼女の言葉通り、ノブを回すとドアはすぐに開く。

「勝手に入っちゃっていいの?パチュリーさんの物置なんでしょ?」

「へーきへーき!だって、ここ一年くらい開けてるの見たことないし」

それならいいのかなぁ、などと考えつつ、さっさと入ってしまった小悪魔の後に続いて大妖精も室内へ。
思わず『失礼します』と呟いて、息を吸い込もうとしたら不意に喉の奥を襲う痒み。

「けほっ、けほ!」

「えほっ……すごいホコリだ。絶対ずっと開けてないよ、やっぱり……ああ、足元気をつけてね」

部屋へ向かう前にエントランスで調達してきたランプに明かりを灯し、小悪魔は大妖精の足元を照らしてやる。
そこら中に箱やら本やら何に使うのか分からないガラクタやらが散乱しており、一様に埃を被っていて明らかに不衛生な空間。
喘息持ちのパチュリーが掃除をさせないという事は、本当に長い間使われていないのだろう――― 大妖精は納得した。

「えっと、多分もうちょっと奥の方にあると思うんだけど」

「うん……それにしても、こんなの何に使うんだろう」

お目当ての物が中々見つからないようで、小悪魔は足元に気を配りつつ奥へ。大妖精もそれに続きつつ、そこらに散らばる不可思議な道具に目を奪われていた。
部屋の片隅に備え付けられた棚。その前までどうにか辿り着いた小悪魔は、戸を開けて中を漁り始める。
一方で大妖精は、ちらちらと閉じたままの入り口ドアに視線を走らせて少し不安な面持ち。
今この瞬間にパチュリーがやって来たらどうしよう――― そんな事を考えているのは明白だ。小悪魔が聞いたら心配性だときっと笑い飛ばすだろう。

「あっ、あったよ!」

しかしそんな折、小悪魔が弾んだ声で報告してきたので大妖精は内心で安堵する。

「見つかったの?よかった……けど何?それ」

室内に灯るのは、彼女達の傍らに置かれたランプのみ。そんな薄暗い空間では、小悪魔が手にしたお目当ての道具もよく見えない。
片手で持てるサイズのようだが、何かに形容する事も難しい、特異な形をしているように見えた。

「んと、あとは……よかった、同じ所に入ってたよ」

どうやらもう一つ必要な道具はあったらしい。それを引っ張り出すと、小悪魔はランプを大妖精へ差し出した。

「大ちゃん、悪いんだけど明かり持っててもらってもいいかな。私はこれを運ぶからさ」

「あ、うん。足元を照らせばいいのかな」

「うれしいけど、前も気をつけてね。変な箱とか積みあがってて危ないから」

頷いて彼女はランプを受け取り、入った時とは逆に先導する立場となって出口を目指した。
慎重に一歩ずつ歩を進め、すぐに後ろを振り返って小悪魔の進路を照らし出してやる。
普通に歩ければ十秒とかからない距離を二分近くかけて進み、二人はようやくこの埃にまみれた空間から脱出した。
地下とあって廊下もそれなりに埃っぽいが、今までいた部屋に比べれば格段に空気が美味しい。

「はー、何だかすごい部屋だったなぁ」

「私もそれなりに紅魔館で過ごしてるけど、ここにちゃんと入ったのは初めてだったよ。けど、ここ以上にまだまだ謎だらけの部屋とかあるみたいだから……」

やれやれ、を息をつく。一段落した所で大妖精は改めて、小悪魔の持つ今しがたまでいた魔窟より持ち出された道具を見やる。
片方は、どうやら御札のように見える。どちらかと言えばカードだろうか。
しかし、もう片方はどうにも形容が難しい。カプセルのようにも見えるし、スプレー缶のようにも見える。有機的なようで、機械的でもある。
サイズ的にはスプレー缶程度だし、円柱に近い形や側面に見える取っ手のような物体もそれっぽい。しかし、上底と下底が丸みを帯びており、さながらカプセルを思わせる。
全体的にグレーの色彩だが、胴の中央部分は真っ黒。そこには線も入っていて甲殻のようでもあり、見ようによってはディスプレイのようでもあった。
要するによく分からない。用途などさっぱりだ。
だが、今の彼女達にとって、道具の用途よりもっと大きな問題があった。

「うわっ、すごいホコリ!手も真っ黒になっちゃったよ」

カードのような物もよく分からない道具も、当然の如く表面が埃にまみれていたのである。それを持ったばかりか、あの魔窟にあった棚をあちこち引っ掻き回した小悪魔の手はかなり汚れていた。

「手、洗わなきゃね。あとその道具も雑巾か何かでふいた方がいいんじゃない?」

「そうだね……んじゃとりあえず、私の部屋に行こっか。道具を持ってるトコ、パチュリー様に見つかりたくないし。
 そこで道具のお掃除と……あと、説明もちゃんとしてあげるからさ」

彼女の提案にも大妖精も頷き、二人は元来た階段を上り始めた。









「うん、きれいになった!」

「ごめんね、手伝わせちゃって」

「いいのいいの。できることなら何でも手伝うって言ったでしょ」

一応、廊下を歩くメイドなどにも見つからぬよう隠しつつ、どうにか二人は小悪魔の自室へ辿り着いた。
各部屋にも洗面所や小さなバスルームはあるのでそこで小悪魔は手を洗い、ついでに雑巾も濡らして道具の埃を落とす。
それほど大きい物でも無い為すぐに完了し、現在に至る。
二人並んでベッドに腰掛け、目の前に部屋備え付けの小さいテーブルを運んで準備万端。

「お茶いれたよ~。これ飲みながら、いよいよ説明しちゃいます!」

「ありがとう。説明、ってことは……」

部屋にふわりと漂う紅茶の香り。差し出されたカップを受け取りつつ、大妖精は待ち切れないと言いたげな表情だ。
欲しいリアクションが得られて満足なのか、小悪魔はニヤリと笑み一つ浮かべてから、例の道具をテーブルに置いた。

「そう!今回の魔法習得のキモとなる、ナイスな魔道用具を詳しく優しくコンパクトに説明しちゃうコーナー!
 名付けて”なぜなにコアクマ”!よい子のみんな~!集まれ~!!」

「わ~い!……って、どこかの番組みたいな」

しっかりノってやりつつ苦笑いの大妖精。これまた期待通りのリアクションで、小悪魔はご満悦の表情。

「んじゃ早速なんだけど、まずはこっちから」

彼女が手に取ったのは、丸っこい形状をした方。つまり、謎に包まれた方である。もう片方も謎な事には変わりないが。

「これはね、物理的に収集不可能なモノを集められる道具なの。内部に魔力がちょっと入ってて、収集したいモノに合わせてその都度性質が変化、欲しいモノを吸入してくれるの。
 物理的に不可能なだけで、ちゃんと存在するモノじゃないと集められないよ。逆に言えば、確実に存在する物体なら回収可能!」

小悪魔の説明に、大妖精は首を傾げる。普段、小悪魔ほど魔法に触れないものだからすぐには理解しかねた。

「ん~、物理的に不可能なものを集められる……例えば、どんな?」

「色々あるよ。水蒸気とか、熱とか、分子レベルの物質……酸素とか、窒素。光線も集められるよ。微生物は分かんないけど。
 集めたいモノを指定できるセレクターもあるから。デフォルトでも結構豊富だけど、魔法がそれなりに分かれば拡張もできるんだって。
 詳しい原理は分からないけれど、全部片付いたらパチュリー様に聞いてみよっか」

「へぇ……手で拾って集めるわけにはいかないようなものも集められるんだ。すごいね、魔法って」

「でしょ~」

何となく照れる小悪魔。そんな折、大妖精がポンと手を叩いた。

「あっ。もしかして、それで……」

「その通り!これを使って、電荷を集めます!ちゃんと”エレクトロ”っていう電気を集められるセレクターがあるんだ」

正確には電荷を集めると言うより、陽子及び電子を集めて内部で帯電させるという方が正しいのだろうが、詳しい理屈は重要では無いのでさて置く。
要するに、この道具があれば電気を集める事も可能なのだ。
何にせよ、大量の電荷(=陽子・電子)を集めれば電荷量も大きくなるのだから、内部にはそれだけ大きな電力を蓄えられる。
小悪魔の説明を受けて納得した大妖精だったが、新たに疑問が浮かんだので再び尋ねた。

「それって、普段はどんな事に使う道具なの?」

「ん~、もっぱら魔法に関する研究とか、そういうのじゃないかな。何にせよ目に見えないモノを集めて、溜めておけるっていうのは便利だろうし」

「パチュリーさんの私物なんだよね、それ。研究とかに使うなら、どうしてあんな所でホコリをかぶってたのかな……」

「もう必要ないんだと思うよ。パチュリー様くらいの魔法使いになれば、道具に頼らなくても物質を集めて適当な入れ物にストックするなんて簡単だろうし」

確かにパチュリーは様々な魔法を操る。火や水、電気関連の魔法だっていくつも使えるだろうし、それならその元となる物質を集めるなんて朝飯前だ。

「スイッチを押せば、後は勝手に集めたいモノを吸い込んでくれるよ。ただ、範囲がかなり狭くって……この道具の周囲20cmくらいだったかな。
 だから、集める時は私たちが持って動く必要があるんだけどね」

小悪魔はそう言って、一旦言葉を切った。
大妖精が重ねて質問する様子を見せなかったので、小悪魔はもう一つの、カードのような道具を手に取る。

「んで、こっち。今説明した道具とセット……ってワケじゃないんだけど、合わせると役に立つ道具。
 こっちにも似た性質の魔法がカードにすき込んであってね、目的の物質が近くにあると、光って教えてくれるの」

電荷を集めるのに、何の情報も無いのでは少しずつしか集められないが、沢山ある場所が分かれば少しは効率が上がる、と踏んだのだろう。
小悪魔はさらに説明を続ける。

「よく見て……ほら、一枚じゃなくって何枚にも重なってるの、分かる?一枚一枚に違う魔法がかけてあるの。
 この赤いやつは熱源探知、青いのは水源探知……みたいな感じ。帯電してる電荷をサーチしてくれるのは、この黄色いやつ」

説明しながら、彼女はシールのように何枚も重なってくっついたカードを次々と剥がす。
お目当ての黄色いカードを見つけると、それ以外のものを全て重ねて戻した後、一番上に黄色いカードを重ね合わせた。

「これでよし。近くに電荷があったら光って教えてくれるよ。量が多いほど激しく、短い間隔で光るんだ。あんまり多いと、音も鳴るはず」

「……あれ?何も起こらないけど」

小悪魔は笑って言うが、大妖精は首を傾げた。彼女が得たばかりの知識では、量は少なくても電荷はそこら中に存在する筈なのだ。
そんな彼女の疑問に気付いたか、小悪魔は補足説明を始めた。

「ああ、ごめんね。いつでもどこでも光ってたらサーチしづらいし眩しいから、電荷に限らず空気中に含まれる程度の量だと反応しないの。
 明らかに通常空気中に含まれる量よりも多かったら反応するよ。
 それに多分、さっき言った通り帯電状態じゃないと反応しにくいかも。見せてあげたいな……えっと、ちょっと待っててね」

すると彼女は席を立ち、壁際のクローゼットへ。扉を開けて中を漁ること十数秒、一枚のセーターを取り出して戻ってきた。

「はい、じゃあこれ持ってて」

小悪魔は大妖精にカードを渡すと、セーターを着た。

「んじゃ、今から脱ぐから。私のそばにそれを近づけてみて」

頷いて、大妖精はカードを小悪魔の近くにかざす。
それを確認した小悪魔はセーターをゆっくり脱ぎ始めた。ぱち、ぱち、と微かに静電気が起こる音。
と、その時であった。
大妖精がかざしていたカードが、淡く発光したのだ。
中心からカードのふちへ向かって波紋が広がるような形で、弱い光が走り、消える。その繰り返し。

「あっ!光ったよ!」

「ね?すごいでしょ」

両腕を挙げるような格好でセーターを脱いだ小悪魔が笑った。静電気の影響で、彼女の髪はセーターにくっついて逆立っていて、それを見た大妖精も思わず笑う。
セーターを腕から外し、慌てて髪を整える。それが終わる頃には、カードの発光も止まっていた。

「こんな感じ。あ、今の静電気も集めちゃえばよかったかな?まあいっか」

膝の上でセーターを畳みつつ、小悪魔はそう言って説明を締め括りにかかった。

「これで少しでも帯電した電荷の多そうな場所をサーチして、電荷を集められたらなって。まだ分からないこととか、ある?」

すると大妖精は手を挙げた。

「えっと、道具の用途とかは分かったよ、ありがとう。けど、まだ質問あるなぁ。
 電荷はどれくらい必要なのかとか、集め終わったらどうやって魔法覚えるのかとか……」

「あ、そうだっけ。肝心な部分を説明してなかったよ。ごめんごめん」

ぺろりと舌を出し、小悪魔は陳謝してから再度説明開始。説明を聞く内に少し冷めてしまった紅茶を一口飲み、大妖精も耳を傾ける。

「覚える時に用意できた電荷の量に比例して、最大威力が大きくなるみたい。多分、実際の電撃の威力よりも多く集める必要はあるんだろうけど……具体的な量は目安でしか分からないや。
 ただ、普通に相手をシビれさせるくらいの電撃を覚えるにしても、結構多めにいるんじゃないかな。
 私個人としては、どうせなら強いのを覚えたいからなるたけ多く集めたいけど……」

「うん、いいと思うよ。十万ボルトの電撃を操るこあちゃんとか、きっとかっこいいよ。それに調節できるなら強いに越したことはないよね。私も協力するから」

「ありがとう!自然現象として起こる場合よりも多くの電荷がいるから強くするならそれだけ時間がかかるけど、そこは効率を考えるなりして上手いこと集めよう。
 それに、時間がかかるって言っても普通に覚えるために修行するよりはずっと短くて済むはずだし、とにかくやってみなくちゃ」

「そうだね。あと、いざ集まったら魔法はどうやって覚えるの?」

大妖精の質問を受け、小悪魔は人差し指を唇に当て、記憶を探る。

「えっと……確か、専用の魔法陣と呪文を描いて、真ん中に集めた電荷を放出可能な状態で置き、銅板をしいて……ん~、もっかい読まなきゃ思い出せない。
 めんどくさいから、これはいざ覚えるぞ!って時に実演するってコトでひとつ」

「了解!」

「よーし、じゃあ早速集めるぞ!」

「おー!」

号令に合わせ、拳を振り上げて気合を入れる。偶然部屋の前を通りかかった十六夜咲夜がそれを聞いて首を傾げたという事実を、二人は知る由も無かった。









ばたばたばた。

「ふぅ、ふぅ」

ばたばたばたばた。

「ひぃ、ひぃ」

ばたばたばたばたばたばた。

「はぁ、はぁ……ちょ、ちょっと待って」

「う、うん」

息を切らせた大妖精が待ったをかけると、同じく肩で息をする小悪魔もそれに応えた。

「さっきから部屋の中で走り回ってるけど、これで集まってるの?」

「ど、どこにでも存在してるはずだから、少しは効果がある……と思う」

いざ電荷を集めようとして、二人はどこで集めれば効率が良いのかが分からなかった。
空気中にも電荷、正確には電荷の性質を持つ素粒子は存在するので、とりあえずそれを集めようという話になったのだが―――

「で、でも。部屋の中でばたばた走り回ってても、集まる量なんてたかが知れてる気が……ぜぇ、ぜぇ」

「そうだけど……堂々と道具を持ってうろつくワケにもいかないし……ふへぇ」

部屋中に存在する粒子を集めようにも、吸入してくれる範囲は手元だけ。ならばと走り回ってみたが、どう考えても手間に対する効果が見合っていないのであった。
これなら下敷きを擦って発生した静電気でも集めた方が遥かに高効率・低燃費、いわゆる一つのエコである。
彼女達に必要な3R。それはRethink・Recharge・Retry。もっかい作戦考えて体力回復したらやり直せ。

「ちょっと休もうよ。考えれば、何かいい方法あると思うし」

「そうしよ」

もう一度ベッドに腰を下ろす二人。涼しい季節だというのに、額の汗を拭って一息。

「電気、かぁ……どっかにないかなぁ」

「山のにとりさんが発電機作ったっていう話は聞いたことあるけど……」

「うん、知ってる。けど、妖怪の山の方で少しずつ実用化試験を始めるっていう噂だから、分けてもらいに行くのはちょっと無理だよ」

「そうだね、邪魔になっちゃダメだよね」

「自力で探すとなると……何となくだけど、図書館とかもっと広い場所の方が静電気とか多そうな気がするよ」

「それは私も思うんだけど、パチュリー様に見つからないようにどうやって集めようか」

「ポケットに入れとけば……あ、でも結構大きいしね、これ」

「服の下もちょっと厳しいね。明らかに大きく膨らんじゃうから」

「肩パットです、って言い張る?」

「片方だけなで肩を克服しても意味ないってツッコまれるよ絶対。
 じゃあ、私の魔法で胸がやたら大きくなったってコトにして、大ちゃんの胸元に隠すとか」

「……恥ずかしいからダメ。第一、いつ覚えたのかとか、何のために使ったのか訊かれるよきっと」

『いい案だと思ったのになぁ』と呟き、小悪魔は伸び。走り回った疲れは殆ど取れたが、中々アイディアが浮かばないので腰を上げられない。
暫く考える内、壁の時計は午後五時を回っていた。道具を取りに行ったり掃除したりと、やる事が多かった為時間の経過も早い。

「あ、そろそろ帰らなくちゃ」

「もうそんな時間かぁ……じゃあ、明日また来てくれる?」

「もちろん!改めて作戦会議だね」

笑って頷き、大妖精は腰を上げた。小悪魔も一緒に立ち上がり、そのまま玄関までお見送り。







翌日、再び昼過ぎに紅魔館を訪れた大妖精。いつものように図書館へ行くと、もう小悪魔は自分の仕事を終えて待っていた。

「あなたが来る日は、小悪魔が早く仕事を終わらせてくれるの。毎日来てくれると大助かりね」

図書館からの外出許可を貰う際、パチュリーは冗談めかしてそんな事をのたまう。
廊下を歩きつつ『まるで私が普段はサボってるみたいじゃない、パチュリー様のばかー』などと頬を膨らませてぶつくさ言う小悪魔をなだめる大妖精であった。
さて、昨日に引き続き小悪魔の自室。並んでベッドに腰掛け、テーブルに道具を置いてまたしても準備万端。

「んで、どうしよっか」

小悪魔が淹れてくれた紅茶の香りを楽しみつつ大妖精が口を開くと、思い出したように小悪魔がポケットを探り、何やら紙片を取り出す。

「そうそう、そのことなんだけど。昨日ね、またあの倉庫にこっそり侵入して、この道具の説明書を取ってきたの」

折り畳まれた古そうな紙片を開くと、確かに例の回収装置の図が沢山の文章と共に載っている。

「大ちゃんが借りてたあの雷に関する本と併せて読んだんだけど、どうやら同じ電荷でも回収効率に差があるみたい」

「差?」

「うん。普通の電荷、つまりそこら中にあるやつだと、装置の内部で改めて帯電させる必要があるから、集まるには集まるけど電力への変換効率が悪いみたいなの。
 それに対して、最初から帯電状態の電荷を集められれば、そのまま電力になるから効率がいいんだって」

「えっと、それってつまり……」

分かりやすいように脳内で噛み砕こうとした大妖精だったが、それより先に小悪魔が要点を話してくれた。

「空気中の電荷をそのまま集めるよりも、静電気なんかを起こして、そこに集まった電荷を集めた方がたくさん集まるんだって。
 集める側としても、その方が見た目や感触なんかで『ここに電荷がたくさんあるぞ』って分かるから、やりやすいだろうし」

「なるほど。集まった量や場所が分かるカードもあるし」

大妖精は納得したようにポン、と手を打った。静電気が起こっている場所に絞れば、あちこち動き回る必要性も無くなるだろう。

「それじゃあ、静電気が起こってそうな場所を探しに行く?」

彼女が尋ねると、小悪魔は首を横に振った。

「冬ならともかく、まだそこまで空気が乾燥してないから、外とか出てもあんまり意味ない気がするの。
 それよりも……ほら、これを使えば集まるよ!」

笑顔で言いながら取り出したのは、昨日と同じセーター。さらに、プラスチック製の下敷き。
思わず大妖精は苦笑い。

「つ、つまり……私たちで静電気を起こして、それを集めると」

「イエース!その方が多分効率的だよ。そんなに疲れる作業でもないしさ……さ、いくよ!」

大妖精に装置を手渡し、小悪魔は猛然と自らの前髪を下敷きで擦り始めた。
一生懸命下敷きを動かすその何ともシュールな図に、大妖精は笑いを堪える。

「そろそろいいかな……ほら、浮いた浮いた!早く集めて!」

彼女が下敷きを浮かせると、ぱち、と微かな音を伴いながら前髪が吸い付き、逆立つ。
そのくっついた前髪を切り離すような形で、装置を下敷きの下に潜らせる大妖精。

「こんな感じでいいのかな?」

「うん、ちゃんと集まったと思うよ!さ、次は大ちゃんの番!」

「わ、わたしも!?えっと……こう?」

驚きつつ、装置と交換した下敷きを前髪に当て、控えめに摩擦を始める大妖精。しかし、小悪魔が檄を飛ばした。

「ちがーう!気合が足らーん!もっと激しくリズミカルに!!」

「こ、こうっ!?」

言われるがまま、大妖精は腕に力を込める。格段に摩擦のスピードがアップし、小悪魔も満足そうだ。

「いいよ大ちゃん!今の大ちゃんはまさに妖精発電所!」

「ほ、ほめてるんだよねソレ……もういいかな」

急激な運動に少し息を切らせながら、大妖精は下敷きを持ち上げる。すると、彼女の緑色な髪も見事に逆立った。
前髪も綺麗に整えてから家を出た筈なのに、あっという間に乱れてしまったのはご愛嬌。

「あははは、なんか楽しくなってきちゃった。さ、次はまた私かな」

電荷の回収を終え、小悪魔は笑いながら下敷きを受け取る。
必死に下敷きで摩擦し静電気を起こす。そんな子供染みた悪戯のような作業が、妙に楽しく思えた。
むしろ、悪戯染みている事も楽しさの理由なのかも知れない。二人は元来悪戯好きなのだから。
それから暫く同じ作業を続ける二人。

「大ちゃん見て見て!後ろ髪でやるとなんかすごい!」

静電気による吸着でぶわーっと広がる小悪魔の後ろ髪。まるでライオンのたてがみのようで、大妖精は思わず声を上げて笑ってしまう。

「あっはっはっは!なにこれ!」

「笑ってないで集めてよぉ」

「ちょ、ちょっと待って……あっはっはっは!!」

横隔膜を押さえつけながらどうにか電荷の回収作業。今度は大妖精が下敷きを取る番だが、ただやったのでは面白くない。
どうせなら、今の小悪魔に匹敵するようなインパクトを――― そう考えた彼女は、おもむろに下敷きを横の方へ。
頭のやや横で束ねた髪を、下敷きで摩擦し始める。

「?」

首を傾げる小悪魔を尻目に、大妖精は尚もサイドポニーテールの部分を摩擦。
十数秒後、たまたま時計を見ていた小悪魔に声を掛ける。

「ねえ、見て見て」

「あ、終わったの?」

大妖精の声に横を向くと、当の大妖精は束ねた部分の髪を下敷きに吸着させ、上下に振っていた。

「へへ~、なんかウサミミみたいな感じ」

「わぁ、かわいい!」

ぴょこぴょこと動く髪の束を見て、小悪魔は思わず歓声を上げる。

「うー、崩したくないなぁ」

「またやってあげるから、回収しなって」

渋る小悪魔にまたしても苦笑いを浮かべる大妖精であった。
流石に疲れてきたので休憩を挟むが、その間も小悪魔はやたら大妖精の髪にこだわる。

「大ちゃんの髪きれいでうらやましいな。私も横で結んでみようかなぁ」

「もう、くすぐったいよ」

束ねた部分をぴこぴこと動かしてみたり、前髪を持ち上げたりと忙しい。
大妖精にしてみればどうにもくすぐったいが、全く不快には感じなかった。
休憩も終わり、今度はセーターの着脱に際する静電気も集めてみる。

「うひゃあ、パチパチする。今からこれだと冬になったらすごそう」

最初に着、そして脱いだ大妖精が思わず声を上げた。下敷きの時よりも明確に、パチパチと静電気放電の音が聞こえる。
大妖精の身体とセーターの間に装置を這わせるような形で、小悪魔は静電気回収。

「な、なんかこれもくすぐったい……」

身体のあちこちを擦られるような感触に彼女は少しばかり身震い。
順番で考えれば今度は小悪魔が着る番なのだがしかし、そのまま脱いだセーターをおもむろにもう一度着てみる。

「どうしたの?」

小悪魔が首を傾げて尋ねると、大妖精はセーターの襟元を手で寄せながら、ぽつりと一言。

「……これ、あったかいな」

「え、ホントに?」

「うん、すごく。これから寒くなるし、こういうの欲しいなぁって」

そろそろ冬服の準備をしないと、などと考える大妖精に、小悪魔はどこか嬉しそうに言った。

「ね、ね。このセーターさ、実は私が編んだんだよ」

「えっ!これ丸々一着?すごいよ!」

大妖精が素直に驚くと、自ら告白したとは言え彼女は少し恥ずかしげに聞き返す。

「そ、そうかな?」

「すごいって!普通のお裁縫ならともかくわたし、編み物は手袋くらいしかやったことないし……セーターって難しいんでしょ?憧れちゃうなぁ」

「そんな、咲夜さんに教わってやってみただけだから……」

いつしかのお返しとばかりに大妖精が褒めちぎるので、小悪魔はいつしか真っ赤になっていた。
ようやく落ち着いた彼女は、まだセーターを着たままの大妖精に尋ねる。

「で、でさ。その、もし良かったら……気に入ってくれたみたいだし、私が大ちゃんの分も編んであげようか?セーター」

「ホントに!?いいの!?」

「め、迷惑じゃなければ……」

「迷惑なわけないよ、すっごくうれしい!ありがとう!」

思わぬ申し出に、大妖精は大喜びここに極まれりといった体で小悪魔の手を握る。
予想以上の喜びように小悪魔もまた笑顔で、その小さな手を握り返した。

「いつもお世話になってるし、このくらいはさせてほしいなって」

「あ、じゃあ!わたしもこあちゃんに何か編んできてあげるから、交換しようよ!手袋とか、マフラーとか」

「わぁ、いいの!?ありがとう!」

「セーターに見合うか分からないけど、頑張って編むからね」

「私も!」

更なる約束を取り付け、二人は笑い合う。そのまま数十秒、手を握り合ったまま互いに笑顔だ。
しかし、暫くした後でようやく普通の顔に戻った小悪魔が呟いた。

「……で、何してたんだっけ」

「えっと、セーターが……あっ!」



「静電気!!」



ようやく本来の仕事を思い出し、二人は大層慌てた様子で思わず立ち上がる。しかし立っても意味が無い事に気付き、座り直した。

「お、お、落ち着こう、うん」

「そうしよ、うん……とりあえず下敷きも使わなきゃ」

「はい、もう一枚持って来たよ。これでスピード二倍!」

「わお、あったまいい!」

小悪魔がもう一枚持って来た下敷きを受け取り、大妖精も彼女と一緒に頭を猛然と摩擦し始める。
十数秒後、二人揃って動きを止めた。静電気は十分発生しただろう。

「さあ、回収……」

「……ねえ、二人でやってたらどうやって回収するの?」

「あう」

作戦の致命的な穴が露呈し、小悪魔の顔が引きつる。Rethink再び。
しかし彼女は自身の頭の上の下敷きを左手で押さえ、右手で装置を引っ掴む。

「よし、大ちゃんのから集めるよ!下敷き離して!」

「う、うん」

「よしオッケー!私のも……よし。次はちゃんと回収役と発電役を分けよう。
 というわけで大ちゃん、下敷きこすりながらセーター脱いで!さあ早く!」

二倍速を諦めない小悪魔の無茶振りに、大妖精は驚きの表情を隠せない。

「ちょ、そんなアクロバティックな」

「やればできる、やらなきゃできぬ、洗えば食える!」

「むしろ遅くなるって……こ、こうかなぁ」

「下敷きもっとスピードアップして!」

「片手で脱ぎながらじゃ限界が……ちょ、くすぐったいってきゃああ!」

セーター周りの静電気回収に伴うくすぐったさで力が抜けたか、下敷きを落としてしまう大妖精。

「あー落ちちゃった!大ちゃんペナルティってことで、紅魔館住人の誰かのモノマネしてください!」

「なんで!?」

本来の目的に沿っているのか忘れているのかよく分からない大騒ぎ。
絶えない笑い声とドタバタ騒ぎに、再び部屋の前を通りかかった咲夜がまたしても首を傾げた。









その日以来、大妖精は以前にも増して紅魔館へと足を運ぶようになった。
基本的にはこれまで通り図書館で読書に興じるのだが、二日に一回くらいは小悪魔と共に静電気発電&回収のサイクルに勤しむ。
殆ど遊び感覚だったので別段面倒にも感じなかった。お茶とお菓子を持ち込んで、雑談したり図書館から持ち出した本を読みながら下敷きを擦る日々。
傍から見ればシュールだが、彼女達にとっては楽しい時間であった。
最初の作業から一週間程経過した頃、大妖精はずっと気になっていた事を尋ねてみた。

「ねぇ、今どれくらい集まってるの?電荷」

すると小悪魔は、

「えっと……ちょっと待ってね。ここを押せば……」

と言いながら、装置の端の方についていたスイッチをポチッとやる。
すると、装置中央の黒い部分が、微かではあるが明るくなったような印象を受けた。

「ちょっと覗いてみて。たまにだけど、静電気みたいな短い電流が走るのが見えるから」

どうやらあのスイッチを押すと、溜め込んだ対象物が模式的に確認出来るらしい。

「どれどれ?」

大妖精が覗き込んでみると、確かに時折ぱちんと鳴ったかと思うと白く短い光が走るのが見えた。

「あっ、ほんとだ」

「ね?静電気を起こすにもギリギリってくらいの量みたいだから、まだまだ時間はかかりそうだなぁ」

「いいよ、わたしはちゃんと最後まで手伝うから。ゆっくりやろ?」

励ますような言葉を向けてくれる大妖精に、小悪魔は笑顔で頷いた。
時間を掛け過ぎてもいけないが、焦ってもどうにかなるものでも無い。自分達のペースで確実にやればいい。そう思っていた。
そう、思っていたのだが。







――― 三日後の事だった。
この日も昼過ぎに自宅を出、大妖精はのんびりと歩いて紅魔館へと向かう。
よく晴れた日だったが、遠くに雲も見える。
不意に頬を撫でた向かい風。何だか湿った感触に、大妖精はぴくりと顔を上げた。
相変わらず雲の少ないご機嫌な空模様だったが、ふと彼女は足を止める。

(今の風の感じ……)

それから暫し、大妖精は何やら考え事を展開。
しかし一分も経たぬ内に足が止まっている事に気が付いて、慌てて再出発。こんな自分でも待ち人がいるのだからぼやぼやしてはいられない、と反省した。
十分弱で紅魔館へと辿り着き、彼女は図書館へ。この日は本を読む日だ。
パチュリーへの挨拶もそこそこに、大妖精は小悪魔と共に本棚の森へと分け入って行く。
適当に面白そうな本を見繕って、大妖精はテーブルへと戻ろうとしていた。
しかし小悪魔はまだ満足いく本を見つけられないのか、

「先に行ってて、すぐ行くからさ」

そう言って本棚の下に残った。
頷き、先にパチュリーのいるテーブルへ戻った大妖精を見送ってから、彼女は再び本棚の間を散策し始める。
時折足を止め、綺麗に陳列された本の背表紙を眺める。そんな折、彼女は『そうだ』と呟いて手を打った。

(せっかく魔法を覚えようとしてるんだし、それっぽい本でも読んでみようかな)

魔法に関する書物のコーナーも当然ある。一口に魔導書と言っても色々あるので、本棚単位辺りでさらに細分化されはいるが。
善は急げとばかりに小悪魔はその魔法関連書籍の存在する方向へと足を向けた。
確かこの先だったはず――― 二つ向こうの本棚を見据える。
あたりをつけた本棚が目の前まで迫り、小悪魔はそのまま本棚の前を曲がろうとして―――

「!!!!」

その足が止まった。







(誰かいる!?)

反射的に本棚の影に身を隠す。口元に手を当てて息を押し殺し、再び確認するタイミングを窺う。
この日、図書館への来客は大妖精一人。パチュリーが本を取りに来た可能性だってあるが、それはすぐに否定した。
パチュリーの服装はどちらかと言えば白基調だが、今ちらりと見た人物は明らかに真逆、黒かった。
となれば答えは一つしかない。小悪魔はそーっと本棚の影から顔を半分出し、様子を探る。いわゆるリーンというやつだろうか。
中身が少しだけ入っていると分かる大きな袋を手に、本棚を物色する黒い影。

(魔理沙さんだ……)

パチュリーにとっては親友にして本の仇という何とも微妙な間柄の白黒魔法使い。
そう、書籍泥棒の現場に居合わせてしまったのだ。幸い、魔理沙の方は小悪魔に気付いていない。
もう一度身を隠し、ゆっくり息を吸う。心臓の鼓動は明らかに早くなっていた。
現行犯で見つけてしまった以上、見逃すつもりなど毛頭無い。パチュリー繋がりで彼女とも割と親交のある小悪魔だが、それとこれとは別だ。
しかし、今の小悪魔に魔理沙を確実に捕獲出来る術は無い。その為に雷撃魔法を習得しようと日々静電気を集めている真っ最中なのだ。
必死に頭を回転させ、彼女は何か術が無いかと探る。再び本棚の影から顔を覗かせると、まだあちらは物色中でこちらに半分背を向けている。
状況はこちらが圧倒的有利、しかし力量ではあちらが上。どうする。どうする。

(直接捕まえるのは……厳しいな)

距離を目視で測ると、15mあるかというくらいだ。飛び掛って直接押さえ込むにしても、ここから助走をつけて行ったら射程内に捉える前に足音で気付かれる。
飛んだとしても、足音が羽音に変わるだけであまり状況に変化は無い。
スニーキングで忍び寄るか。しかし魔理沙は本を探している最中、面白そうな本を求めていつ後ろを向くか分からない。
無理せず応援を呼ぶか。しかしパチュリー達のいるテーブルまでは結構な距離、その間に場所を移動される恐れが大きい。
となれば道はただ一つ。

(……やるしか、ないよね。弾幕ごっこもご無沙汰なのに)

音を立てぬよう、手の中に青いクナイ弾を二発出現させる。
狙撃だ。

(屋内で風はないから狙いやすいけど……)

彼女の心配は、一撃で相手を無力化出来るかという事だった。無力化と言っても物騒な意味では無く、ただ逃げ足を鈍らせる事が出来ればいい。
そうすれば騒ぎを聞きつけたパチュリーが飛んで来るだろうし、直接確保もかなりしやすくなる。
小悪魔はそっと本棚の影から、少しずつ身をさらけ出していく。さらに半歩身体を外へ出し、狙いを定める。
心臓は今や早鐘の如くビートを刻み、この音でバレてしまうのでは無いか、とのいらぬ危惧を小悪魔へと抱かせた。
本棚の上の方を見上げながらゆっくりと歩く魔理沙。震える指先を呼吸で押さえつけ、機会を窺う。

(とまれ、とまれ、とまれ……っ!)

クナイを指先で摘んだ右腕を少しずつ後ろへと引き、投擲体勢。秋も深まる時期だと言うのに頬を伝う汗。
と、その時――― 何か気になる本を見つけたらしい。魔理沙の足が、止まった。

(――― 今しかない!!)

止まる呼吸。耳の中に広がる静寂。指先の震えも収まった。
かっと目を見開き、小悪魔の右腕が一閃、振り抜かれた。
放たれた二発の弾丸は図書館の埃っぽい空気を切り裂き、確実に魔理沙の背中目掛けて飛んで行く。

(当たる!)

勝った、と思った。
だが小悪魔は忘れていた。魔理沙が人並み外れた聴力、そして反射神経の持ち主である事を。それが彼女の強さの一因である事を。
魔理沙は微かに、何かが風を切る音を聞いた。それは迫り来るクナイでは無く、小悪魔が腕を振り抜いた音。
誰もいないと思っていたのに。湧き上がる嫌な予感。反射的に彼女は膝を折り、尻餅をつくように体勢を低くしていた。
コンマ一秒前まで彼女の帽子があった場所―――立っていた時の背中の位置―――を、二筋の青いラインが通過していった。

「あっ!」

思わず声が漏れた。外れたクナイは二発とも本には当たらず、本棚の枠に突き刺さる。
瞬時に膝をスプリングのようにして立ち上がり、魔理沙は素早く後ろを向いた。
呆然と立ち尽くす小悪魔の姿を見て、ばつが悪そうに舌を出す。

(あぶねー、ニンジャかよ)

彼女が動く様子を見せないので、魔理沙はいつもよりかなり軽い袋を担ぎ上げ、床を蹴った。

「ちょ、ま」

「……流石にヒヤッとしたが、まだまだだな!パチュリーによろしく!」

「ま、待ちなさいっ!!」

いつの間にか箒を取り出して跨り、小悪魔からしてすぐ前方の空中にいた筈の魔理沙は、一瞬の内に彼女の頭上を、背後の本棚ごと飛び越えていた。
体中のバネを抜かれたかのようなショックから立ち直り、全身に力が戻った小悪魔はすぐ彼女を追うために飛翔、飛び去った方向を向く。

「うそ……」

だが、そこにはもう誰もいなかった。
いくら見渡しても、返って来るのは本棚のくすんだ茶色い景色と、一切の静寂だけ。

「そ、そん、な……」

「何があったの!?」

否、静寂では無かった。騒ぎを聞きつけたパチュリーが、本棚の間を縫ってやって来るのが見える。
とりあえず床に降りようと思った。ゆっくり羽を動かして降下する。
だが、先とは打って変わって全身に力が入らず、着地の際にふらりとよろけて本棚に手を着いてしまった。
すぐにパチュリーが、その後ろから大妖精もやって来る。

「……魔理沙がいたのね」

散らばった本。本棚に突き刺さったクナイ。そして何より小悪魔の表情。パチュリーは瞬時に状況を理解していた。

「……はい……けど、に、逃がしてしまい、ました……」

震える声で呟く小悪魔。それも、分かっていた。
仕方の無いことだとも。小悪魔を無能などとは毛ほども思わないが、魔理沙相手ではいくら何でも分が悪い。

「そう。でも、気にしないでいいのよ」

「で、でもっ!!」

だが急に小悪魔が大声を出したので、思わず肩を竦ませた。
目の前にあるパチュリーの顔が、ぐしゃりと滲むのが分かった。それでも彼女は大きな声でまくし立てる。

「わ、私が先に、魔理沙さんを見つけて……き、気付かれてなかったんです。
 なのに、なのに、つかまえられなくて、本もとられてしまって……も、もう、なんて、あやまったら」

「自分を責めないで。あなたはよく頑張ってくれたわ。だからもういいの」

「でも、でも……わ、わたし……いや……もういやっ……!」

いつの間にか、小悪魔がぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、パチュリーの方さえも見る事が出来ずに俯いていた。
ばったり鉢合わせた、とかならまだ言い訳は出来る。力量差が大きいのは周知の事実だからだ。
だが、完全に気付かれること無く、少し離れた位置とは言え背後まで取ったのに、おめおめと逃がしてしまった。
その事実は小悪魔にとってあまりに不甲斐無く、悔しく、情けなく、もういっそ処断してくれと懇願したくなるレベルであって何度謝り倒しても気の収まるものでは無い。
いつしか彼女の涙が床に小さな水溜りを作っていた。大妖精が見ている事も忘れて泣きじゃくる小悪魔は、袖で涙を拭うと乱暴に頭を下げる。

「し、しつれい、しますっ!」

「ちょっと、待って!」

「こあちゃん!」

そのまま彼女は、涙で滲んでろくすっぽ前も見えないまま走り出した。
二人の声が追いかけてくるのが聞こえる。パチュリーも大妖精も、自分の事を心から気遣ってくれているのは分かっていた。
しかし、今すぐその胸に飛び込んで泣き明かしたくなる自分を蹴り上げて、聴こえない振りを貫いたまま小悪魔は図書館から飛び出していった。
やっと開け放たれたままのドアに辿り着いた二人。大妖精が続いて外へ出ようとしたが、パチュリーが手で制した。

「……今は、一人にしてあげて」

「は、はい……」

その言葉に頷く大妖精。それを見たパチュリーは、無言でドアをきちんと閉めた。







壁掛け時計が午後五時半を示す。パチュリーならば特に気にする事の無い時間だが、大妖精にしてみればそろそろ帰宅の時間という合図だ。
小悪魔が去ってから二人はそのまま読書に興じていたが、どちらも活字を目で追うだけの作業で、内容は殆ど入ってこなかった。

「すみません、そろそろ失礼いたします。お邪魔しました」

「ええ……気をつけてね」

声を掛けると、パチュリーが顔を上げて会釈。小悪魔の話題は意図的に避けているようにも見える。
しかし読書の時間中、内容は頭に入らなかったが、大妖精は代わりにずっとある事を考えていた。

「あの、パチュリーさん」

「うん?」

もう帰るものだと思っていた大妖精に再び声を掛けられたので、少々驚きつつパチュリーは顔を上げた。

「帰る前に、その……こあちゃんにもう一回、会わせてもらうことってできませんか?」

「小悪魔に?」

どこか面食らったような顔のパチュリー。慌てて大妖精は続けた。

「えっと、今日の内にできたら伝えておきたいことがあると言いますか……」

大妖精は上目遣いでパチュリーを見やる。言い辛い願いであるが故、はっきりとした口調で言い切れない。
しかしその言葉を受けたパチュリーは、ふっと笑って席を立った。

「いいわよ、ちょっと待ってなさい」

「え、いいんですか?その、もし無理そうだったら……」

構わないのですが、と続けようとして、パチュリーがそれを手で遮った。

「心配しなくても、あなたが帰るって聞いたらあの子はすっ飛んでくるわよ」

ひょいと肩を竦めて、彼女は図書館から出て行った。
果たしてパチュリーがいなくなってから二分も経たぬ内に、廊下からばたばたと足音が聞こえてきた。
勢い良くドアが開かれ、転がり込むような勢いで小悪魔が姿を現す。

「だ、大ちゃん!ごめんね、せっかく来てくれたのに。もう私は大丈夫だから、心配しないでね」

早口で言い、笑顔を見せる。が、その目はしっかりと充血しており、まだ涙が少し溜まっている。
ちくちくと痛む胸中を顔に出さないようにしつつ、大妖精は口を開いた。

「う、うん。それでね、帰る前にちょっとお願いが」

「なに?何でも言ってよ」

ずいっと身を乗り出す小悪魔。大妖精はまだパチュリーが帰って来ていない事を確認し、それでも少し声のトーンを落として言った。

「そのさ、例の電荷を回収する装置と、レーダーになるカード。あれをさ、少しの間貸してほしいんだ」

「え、あれを?いいよ、私の部屋に置いてあるから行こ?」

やはりと言うか、彼女はすぐに承諾した。その言葉に頷き、大妖精は小悪魔に続いて図書館を出る。
ドアを出て少し歩いた所でパチュリーがやって来たので、二人揃って頭を下げた。
暫く歩き、いつの間にか図書館に続くお馴染みの場所となりつつあった小悪魔の自室。
大妖精が部屋の前で待っていると、小悪魔が小さな手提げ袋に道具を両方とも入れて渡してくれた。

「はい、両方とも入ってるよ。これなら隠さずに持って帰れるしね。ところで、何に使うの?

少し気になっていた質問をぶつけると、大妖精は控えめな笑顔でそれに答えた。

「うん、ちょっと電荷を効率よく回収できそうなところに心当たりがあってさ。試しに行ってみようと思って」

「え、じゃあ私もついて行こうかな」

小悪魔はそう言うが、大妖精は首を横に振った。

「う、ううん。ちょっと遠いし……こあちゃんにはお仕事もあるから、迷惑になっちゃうよ。わたしに任せて、ね?」

すると彼女は少しばかり残念そうな顔をしつつも頷いた。

「大ちゃんがそう言うなら、そうするよ。お願いね」

「うん、それじゃあわたしはこれで……」

「あ、送ってくよ」

それから二人は連れ立って紅魔館の外へ。大分日も短くなり、辺りは既に大分暗くなっていた。
手を振って見送る小悪魔と美鈴に手を振り返し、大妖精は低空飛行で自宅を目指し始めた。
その道中、手提げの中を確認する。確かに、回収装置とカードの両方が入っている。
確認を終えると空を見上げ、彼女は来る途中の事を思い出していた。

(わたしの感覚が正しければ……)

妖精は、自然の具象。いずれもこの広大な大地から生まれた存在。
種類にもよるが、妖精達は皆自然現象に対しては敏感だ。
幻想郷にも簡易的な天気予報は存在するが、大気の妖精の力を借りているとも噂されているくらいだ。
何の妖精なのかいまいちはっきりしない大妖精ではあるが、彼女にも自然の変化、とりわけ大気の感触や風の変化から気象情報を読み取る力は確かに存在する。
流石に確実とまではいかないのが世の常ではあるのだが。

(もしかしたら、近い内に)

三日、いや二日後か。
何も無ければ、当てが外れたと言って道具を小悪魔へ返し、今まで通りやればいい。
だがもし当たっていたら―――

(そうであってほしいようなほしくないような……ううん、やっぱり当たっててほしい)

自分は、悲しみの涙をこぼした親友の為に、とても大きな事がしてやれるかも知れない。











人が何か大きな事を成そうとする際、空が晴れていれば『天も後押ししてくれている』と感じるだろう。
逆に曇天であれば、前途多難である事が予想される。あくまで精神・感覚の問題ではあるが、実際侮れない。
しかし、この日の大妖精に限って言えば、今まさに灰色の雲が立ち込める空模様こそ、己の成すべき事を後押ししてくれる存在なのであった。

(やっぱり……)

あれから二日後、彼女の予想は的中した。
時刻は午後二時過ぎ、自宅の窓から空を見上げる。全体的にグレイで塗り潰された中、妖怪の山の辺りは明らかに濃い暗雲が立ち込めている。

(あの辺かな……行かなきゃ)

大妖精は持ち物を確認する。例の装置とカード。
傘を持って行くべきか少し迷ったが、やめた。身軽な方が何かと良いだろうし、それに魔法の力で動く装置に耐水性が無いというのも考え難い。
しっかりと戸締りをし、落っこちてきそうな空の下、大妖精は自宅を飛び出した。まだ雨は降っていない。
湖沿いを飛んで行き、真っ直ぐに山の方向を目指す。
遠くから響いてくる轟音。驚く代わりに彼女は表情を引き締めた。

(鳴ってる……ってことは)

あの日、泥棒を目の前にして捕らえられなかった小悪魔。
己の不甲斐無さに涙を流した彼女の姿を見て、大妖精はただ、思っていた。
――― 今すぐにでも、彼女に魔法を習得させてあげたい。

(あそこには、絶対にある)

雷撃魔法の習得には大量の電荷を要する。ゆっくり集めるつもりでいたが、あれ程の悲嘆に暮れた泣き顔を見せられては、そうも言ってはいられなくなった。
電荷が大量に集まる場所。静電気とは比べ物にならないくらいの量が、自然と集合する条件。
この天気は、まさに大妖精にとっては渡りに船と言える状況。小悪魔へ向けて言った『心当たり』。

(とてつもない量の電荷が、集まってるはず)

――― 静電気のスケールを極限まで大きくした、自然放電現象。人はそれを雷と呼ぶ。







雷雲とは即ち積乱雲である。地表と大気中の温度差から生じる上昇気流によって発生するものが殆どだ。
その発生条件から夏場に多いが、地形や場合によっては秋や冬でも発生する可能性は十分にある。
ここ数日晴れが続いて季節の割に暖かかった事と、近付く冬の影響により上空は空気が冷たく、結果的に温度差が大きくなった事が発生の原因か。
しかし理屈などどうでも良く、今の大妖精にとっては積乱雲が目の前に発生しているという事実が重要なのである。
何せ、雷とはどでかい静電気放電。それを発生させる積乱雲は電荷のカタマリと言っても差し支え無い。
下敷きを擦り続ける方法の何ヶ月分を、あっという間に回収出来る見込みがあった。

(危ないだろうけど……中に、入ろう)

危険は承知だが、大妖精は積乱雲への突入を決意していた。中にいれば、それだけで電荷を大量に回収出来る。
通常の雲よりも雲底がかなり低くなる積乱雲だからこそ出来る芸当だ。
彼女は一旦妖怪の山麓まで辿り着いた後、ひたすらに上空を目指して羽ばたく。
暗黒とも形容出来る雲の底部が、すぐ目の前に感じられた。実際の距離は2kmあるかといった程度で、辿り着くのに不可能な高度では無かったのも幸いだ。
今にも落雷やスコールを叩きつけられるのではないか。そんな微かな恐怖を振り払い、大妖精はひたすらに上を目指した。
やがて、本当に眼前に迫る雲底。内部からは時折地響きのような轟音が聞こえてくる。しかし、どこまでも黒く、深いそれを見つめる大妖精の目は闘志に満ちていた。

(ここまで来たら、やるしかない!)

一度止まる。回収装置のスイッチが入っている事を確認し、大妖精は心の中でスリーカウント。

(いち……)

脳裏に浮かぶのは、他の誰でもない小悪魔の顔。

(にー、のっ)

「さんっ!」

瞬間、マックススピードで大妖精は積乱雲へと突入した。
幻想郷、妖怪の山上空。巨大な積乱雲が発生し、いつ集中豪雨や落雷が巻き起こってもおかしくない状況。
このような状況下で、暢気に空を飛ぶ者など居はしない。だから、






「きゃあああああっ!!」






雷鳴に掻き消されたその悲鳴は、誰の耳にも届かなかった。









――― その、一時間ほど前。
この日、大した仕事が残っていなかった小悪魔は、午後一杯を読書に充てるつもりでいた。
さて、と席に座り、手にした本を開く。
しかしその時、どこか遠くから微かに重低音。本日何度目かの音に、彼女は首を傾げた。

「今のは……やっぱり」

プリズムリバー邸でベースギターを思いっきりかき鳴らしたとて、紅魔館、ましてや窓も無い図書館まで音が通るとは思えない。
そう言えば、昼食時に窓の外から見た空はやたら曇っていた。

「パチュリー様、今日は」

「ええ、どうやら雷が来ているみたいね。季節外れと言うか、何と言うか……」

「でも思ったよりうるさくないですね。そんなに大きくないんでしょうか」

「それは図書館の防音機能が為せる業よ、小悪魔。試しに、窓のある部屋……いえ、廊下でいいわ。行ってみなさい」

そう勧められた以上、行ってみるのがいいだろう。小悪魔は本を置いて立ち上がり、ドアを開けた。
昼間だというのに廊下には照明が灯されている。確かに薄暗い。
少し離れた所にある窓を目指して、彼女が歩き始めたその時。
先とは比べ物にならないくらいの、紅魔館を振動せしめるかと思われる程の轟音が耳を打った。

「わっ」

思わず声を上げてしまう。少し恥ずかしかったが、すぐにあちこちからメイドのものと思しき悲鳴が上がったので、どこか安心する小悪魔。
ようやく辿り着いた窓から空を見上げると、見た感じ灰色一色。雷の発生源は、この方向には無い、とすぐに分かった。
すぐ隣の窓では、数人のメイドである妖精達が窓の外を指差して何やら会話をしている。どうやら、どの辺から雷が起こっているのかを議論しているようだ。
奇しくもたった今、小悪魔自身が考えていた事だったので、せっかくだからと声を掛けた。

「多分、この方向からじゃないんじゃないかな」

小悪魔の唐突な会話参加にも驚かない辺り、彼女達はマイペースだ。

「どうしてですか?」

興味津々といった体で尋ねてくるので、小悪魔は少しばかり得意気になって答えた。

「んとね、雷を落とすのは積乱雲っていう雲で、入道雲みたいにもっと大きな雲なの。
 それに、実際雷を落とすような状態なら、もっと真っ黒になってるハズなんだ。
 こっから見ても、どこもかしこも灰色で黒くないし、普通の曇り空って感じでしょ?だから、雷が起こっているのはもっと違う方向なんじゃないかな」

説明を終えた途端、『おおー!』と歓声が上がる。ぱちぱちと拍手までされ、少しばかり気恥ずかしい。

「すごい、まるでホンモノの先生みたい!」

「かっこいいなぁ」

口々に賞賛してくるメイド達に、彼女は照れ隠しの言葉を探した。

「そ、そんな。こないだ読んだ本に載ってただけだからさ」

手を振って謙遜。とは言え、最近読んだ本から得た知識というのは事実だ。
その本というのは勿論、例の放電現象に関する本だ。

(そういえば、大ちゃんが最初に読んでたんだっけ)

自分がその本を読んだきっかけを少しばかり回想する小悪魔。
しかし―――

「……えっ?」

唐突に、ある一つの仮説が脳内に浮かんだ。
それはある意味で恐ろしいもの。

「どうかしました?」

様々な情報が巡る憶測の世界より彼女を引き戻す、メイドの心配そうな声。
慌てて我に返った小悪魔は、

「う、ううん。何でもないの。それじゃ」

彼女達に手を振り、すぐ図書館へと駆け戻った。

「結構大きかったでしょ?」

そう尋ねてくるパチュリーに『は、はい』と短く答え、小悪魔は本棚の海へと飛び込んだ。
目指すは自然科学関連の書籍類。該当する本棚に辿り着いてからは、すぐ目当ての本は見つかった。
”放電現象の全て ~落雷から静電気まで~”。つい先日まで読んでいた本であるし、戻した場所もしっかり覚えていた。
テーブルに戻るのももどかしく、その場でページを繰る。
暫くぱらぱらと音を鳴らした後、小悪魔の指はあるページを探り当てた。
自然界における雷の発生機構を説明したページ。その中の記述を目で追う。

”雷の根本的な発生機構は、静電気と全く同じものです。積乱雲中に発生した気流によって雲内部の氷の粒などが摩擦され、電荷が発生、帯電されます。
 それが静電気となり、雲の内部に蓄積された後に、地上、或いは雲内部の別の場所との電位差が一定以上になる事で放電されます。”

”摩擦される物体の質量の関係上、積乱雲内部では雲上層に正電荷、雲下層に負電荷が蓄積されます。
 さらに、積乱雲の雲底に負電荷が帯電すると、静電誘導によってそこから近い地表に正電荷が帯電されます。
 積乱雲が下敷き、地上が髪の毛と考えると解りやすいでしょう。
 雲底と地表に異なる極の電荷が帯電され、互いに比例して大きくなり、電位差が限界を越えて大きくなった時に落雷が発生するのです。”

念の為の確認のつもりだったが、小悪魔にとってはまさにビンゴ。
本を慌てて戻し、彼女は相変わらず本の虫なパチュリーの元へ。

「ぱ、パチュリー様!」

「きゃっ!……びっくりした。いきなりどうしたの」

目を白黒させるパチュリーに一言謝ってから、小悪魔は尋ねた。

「あの、お天気を予測することって可能なんでしょうか?」

唐突な質問だったが、パチュリーは別段疑問に思うことも無く、少し考えてから口を開く。

「そうね、可能よ。風向きや強さ、そこに含まれる湿度なんかと雲の発生条件を照らし合わせる事で、ある程度近しい未来の天気を予測する事はできるわ。
 里の方でも、過去の気象データを保管して気象予測に役立ててるっていう話だし。事実、簡単な天気予測ならもう既に実用化されているという話も聞いたわね。
 そういう仕事なら、大気や自然の細かな動きも察知出来る妖精が適任だとは思うのだけれど、実際はどうかしら」

理路整然と語るパチュリー。こういった細かな説明は彼女の性に合っているのだろう。
しかし、それを聞いた小悪魔の顔はますます焦りの色を濃くしていて、思わず彼女は尋ね返していた。

「……どうかした?私、変な事言ったかしら」

「……あっ、いえ!違うんです。どうもありがとうございました!
 それでですね、えっと、その……ちょ、ちょっと出かけてきますっ!!」

「あ、ちょっと!」

疾風のような勢いで図書館を飛び出して行ってしまった小悪魔に、パチュリーは肩を竦めるばかり。

「……きっと雨になるでしょうに。大丈夫かしら?」

一方小悪魔は、普段はきちんと歩いて通る廊下をばたばたと走っていた。
先刻のパチュリーの説明で、彼女が脳内で組み立てた仮説はかなり信憑性を帯びてきている。
突然、道具を借りたいと申し出た大妖精。
予測可能な天気。
しかも、それは妖精が適任。
そして、雷の発生原理。

―――『心当たりがあってさ』。

それらを全て合わせた時、漠然とした”憶測”が”不安”へと変貌した。


――― 大妖精は、雷の発生に際して生じる電荷を回収するつもりなのでは?


確かに、積乱雲内部及び傍では日常で起こる静電気とは比べ物にならないレベルの電荷が発生する。
それを回収出来たら、魔術習得へ一気に近付く、いや、もしかしたらそれだけで希望する量を満たせるかも知れない。
だが、雷は危険だ。高い所に落ちやすいのは確かだが、高くない場所へ落ちる恐れだって十分にある。
それに、もし大妖精がより高効率な回収の為に、積乱雲へと近付いていったとしたら。

(……そんな危ないのだめ!大ちゃんを止めなくちゃ!)

玄関へ辿り着いた。傘立てから傘を二本抜き取り、ドアを開けて飛び出した。
この曇天だ、美鈴に見つかったら確実に引き止められる。だから見つからぬよう飛翔し、高度を稼いでから湖を目指す。
全ては杞憂であって欲しい。自分の為に親友が危険を冒そうとしている、その事実が耐え難い。
その引き金が、先日失敗してあろう事か彼女の目の前で涙した自分自身だったとしたら。
そしてそれが原因で、彼女に危害が及んだら。いっそ死んでしまいたくなる。
大妖精の自宅は湖の傍、紅魔館からも結構近い。地面へ下り立ち、玄関ドアを叩く。
五秒待つ。返事は無い。もう一度、三回セットのノック。
更に十秒待つ。返事は無い。

「大ちゃん、いる?」

声を掛けた。返事は無い。
青ざめる表情。実際見た訳では無い、絶対に見たくも無い場面なのに脳裏に再生される映像。
積乱雲直下を飛行する大妖精。瞬時に辺りは閃光に包まれ、轟音と共に光の奔流が大妖精目掛けて―――。
取れそうな勢いで首を横に振り、消し炭と化すヴィジョンを彼方へ捨て去る。
観念した小悪魔は空を見上げ、積乱雲の位置を探した。
すぐに分かった。妖怪の山のすぐ上の方に、暗雲が立ち込めている。

(山のふもとの辺りに行けば……探しやすいはず)

いるとすればその辺だろうと当たりをつけ、小悪魔は地を蹴った。









舐めていた。というより、忘れていた。
落雷を生じさせ、通常の雨雲の何倍もの雨を短時間で降らせる媒体の内部。
当然の如く、暴風雨渦巻く大嵐のような様相を呈していた。本に書いてあったはずなのに。

(なに……これ……っ!)

その小さな身体を吹き飛ばさんばかりに風は荒れ、横殴りに襲い掛かる雨粒はさながら重機関銃の掃射のよう。
光の殆ど差さない雲の中に時折稲妻が横向きに走り、その内魔王の一人や二人くらいひょっこり出てきそうな、地獄を思わせる光景だった。
顔に叩きつけられる雨の痛みも分からなくなってしまうくらいの恐怖が心に渦を作る。
それでも大妖精は、右手にしっかと握った装置を離そうとはしなかった。

(これだけは……これだけは……!)

その細腕で暴風に抗うのは無理がある。雨で指先は摩擦を失い、いつ風で吹き飛んでもおかしくない。
だが、これを失くしてしまったら全てがおしまいだ。自分じゃない、小悪魔の努力の全てが水泡に帰す。
決して離してなるものかと、冷雨にかじかむ指先に力を込めた。
いつしか雨だけじゃない、雲の上層から運ばれてきたらしい、霰と化した氷の粒も混じって霙(みぞれ)へと進化を遂げていた。
それほど遠くない場所で再び閃光が走り、轟音が全身を揺るがす。

(出なきゃ)

もうここにはいられない。自分の体力が尽きてしまう。
何せそこかしこを稲妻が這い回るような場所だ、この短時間でも多少は回収出来ただろう。
吹き飛ばされない内にここを逃れようと、大妖精は急下降。幸い常に動かしていたお陰で羽が凍り付いてしまうような事は無かった。
足から雲を突き破り、外へ。遥か眼下に見える緑の景色が、離れていたのはほんの数分後であるのにとても懐かしく思えた。

(とにかく降りよう)

顔に張り付いた氷の粒を払い落とし、地面へ。その途中、とうとう先程までいた雲から雨が降り始めた。
瞬く間に豪雨へと変貌し、大地を、地表を目指す大妖精を容赦無く叩く。
傘を持ってこなかった事を少しだけ後悔するも、開く暇も無いだろうと首を振る。
昇りよりもかなり短い時間で大妖精は地表へと到達。既に地面はあちこちぬかるみ、水溜りがちょっとした池のような状態だ。

(どうしよう)

このまま帰ったのでは消化不良だ。せっかく雨に打たれているのだ、どうせならこの日一日で大量に電荷を回収し、小悪魔を驚かせてやりたい。
とりあえず状況を少しでもマシにする為、近くにあった木の下へ。
その時、ふと思いついて彼女は後ろを見る。妖怪の山の麓、背の高い木々がいくつも並んでいる。

「そうだ、あの本には……」

そう、書いてあった。

(積乱雲では、雲の下の方にマイナスの電荷が蓄積する。それによって地表付近ではプラスの電荷が大量に集まるはず!)

帯電した物体が傍にあると、帯電した電荷とは対極の電荷が引き寄せられる。多少端折ってはあるがこれを静電誘導と呼ぶ。
積乱雲においては下層に負電荷が生じるので、そこから近い地表には静電誘導の効果によって大量の正電荷が引き寄せられるのである。
これにより雲と地表の電位差が増大し、限界値を超えると雷となって放電される。
先程はともかく、今度はしっかり覚えていた自身の頭脳を褒めてやりたい気持ちになりつつ、大妖精は空を見上げた。

「雲の中に入らなくても、これなら電荷を多く回収できる!よかった……」

希望が見出せた嬉しさからか、思わず声に出た。
もう少しだけ山を登ったほうが、雲底に近くなりそうだ。レーダー代わりのカードを見やると、今の場所でもそれなりの反応がある。
だが、少しでも効率的な回収を望む彼女は、意を決して再び豪雨の中へと身を投じた。







背中を容赦無く叩く雨を振り切り、大妖精は木から木へと場所を移しながら低空飛行を続けた。
カードを見つつ、少しでも反応の大きい場所を求めて。
気付けば、雨は少しだが弱くなっていた。

(そうだ、木の上の方が)

雲に近い方が、電荷は当然多く引き寄せられる。大妖精は辺りを見渡し、近辺で最も背の高い木を見つけた。
濡れた羽を羽ばたかせ、木の上の方まで一気に飛び上がる。手頃な枝にそっと着地し、幹に装置を掴んだ右手を回して身体を支えた。
空いた左手でカードを取り出す。彼女の読み通り、今までで一番強い反応を示していた。

(ここにしばらくいれば、きっとすごい量の電荷がたまるよね)

ようやく一息つける気分になった大妖精は、手で顔にかかった雨粒を拭い落とす。すぐ新たな雨粒が顔に降りかかるが、少しはマシだ。
折からの豪雨もようやく普通より多少強い程度まで弱まった。元より積乱雲の降らせる雨が集中豪雨、長くは続かない。
幹に身体を寄せるようにして少しでも雨避けにする。冷静になると少しばかり寒さが身に沁みたが、さしたる問題では無い。
それより、次に回収した電荷を持って会う時の小悪魔の驚く顔が楽しみでならなかった。何と言うだろうか。
別に褒められたいとかそんなのではなくて、ただ友達の力になってあげたいだけ。笑ってくれたりしたらもう何も望まない。
寒さも忘れて幸せな想像を膨らませる大妖精は、ポケットの中から発せられる音に全く気付かない。
前髪から垂れてくる水滴を指で弾き、ふぅ、とため息一つ。

(ともかく、今日のことは内緒にしよう。大雨に打たれながら集めたなんて言ったら、きっと心配するよ)

ましてや積乱雲に突撃して吹き飛ばされかけたなどとは口が裂けても言えない。
うんうんと一人頷き、さてどのくらい集まったかと大妖精が装置を確認しようとした、その時であった。



「大ちゃん!!」



雷鳴とも風の音とも、ましてや雨音や木々のざわめきとも全く違う異質な音。否、声が聞こえた。
それも、とびっきりに聞き慣れたやつだ。
しかも、幻聴でないのなら自分自身を呼んでいた気がする。

「……え?」

木の上から辺りの空中を見渡す。一見誰も見当たらない。
木の真下か。誰も居ない。
ならば、と視線を地面へと向ける。雨に濡れて渋みを増した茶色い木々が立ち並ぶ中、ここから50mは離れているだろうか。見つけた。
曇り空で暗いとは言え、黒基調の服は山の緑の中で一層目立つ。さらに赤い傘まで差してるもんだから見つけるのは容易かった。

「こあちゃん!?」

何故だ。ついさっき内緒にしよう、と思ったばかりなのに、ご本人登場。
誰にも言わないでこの計画を強行した大妖精にとって、余りに突然の出来事でそれ以上の言葉が出てこない。
赤い傘を差し、何とか雨を凌ぎつつこちらをじっと見つめてくる小悪魔がそこにいた。
彼女の視力は別段悪くないが、飛び抜けて優れている訳でも無い。
だが、大妖精の手にあの装置がある事は分かった。完全に読み通り。

「大ちゃん、なんでこんな無茶なマネするのさ!待ってて、今行くから一緒に降りよう!」

普段は大人しいくせに、こういう時だけ妖精らしく無鉄砲。
自分の為に普段からは想像もつかぬような行為に走り、今木の上で濡れ鼠となった彼女がどうしようも無く愛おしい。
とにかく風邪を引いてしまう、と小悪魔は大妖精を雨の冷たさが及ばぬ所へ動かしたかった。言いたい事はその後だ。

(大ちゃんのばか!嬉しいよ!)

一方で大妖精は、真っ直ぐこちらへ向かってくる彼女を見て何とも言えぬ想いを抱くばかり。
何も言わなかったのに、自分の行為どころか場所まで完全に突き止められ。結果として多大な心配を抱かせてしまった事に今更ながら後悔の念が生まれてくる。
しかし同時に、こんな自分を心配して大雨の中迎えに来てくれた小悪魔の行為がたまらなく嬉しかった。

(これが”以心伝心”ってやつなのかな……)

こうなってしまっては、観念して降りるしかない。とにかく謝ろう。心配をかけてごめんなさい、と。
幸い、電荷の回収自体はかなり進んだ。結果として小悪魔の手助けにはなれたので大妖精は満足していた。
いつしか小悪魔は20mくらいの所まで来ている。これ以上手間をかけさせない為にも降りよう――― そう思ったのだが。

「あれ?」

今になってようやく、ずぶ濡れで足に張り付くスカートのポケットから、断続的に発せられる電子音のようなサウンドに気付く。
発生源は、あのカード。何だろう、とポケットからそれを引きずり出した大妖精の顔が、すっと青ざめた。

(……なにこれ!?)

先程上った時とは比べ物にならないレベルで、カードが激しく発光していた。一定以上の濃度で音が鳴る、とは聞いていたが、その鳴り方も尋常では無い。
これは最早、警告音だ。
思わず空を見上げると、すぐ真上に暗黒を切り取ったかのような積乱雲がそびえている。内部で時折稲妻が走るのが分かった。
すぐさま脳裏に浮かぶ、活字。


”積乱雲の雲底に負電荷が帯電すると、静電誘導によってそこから近い地表に正電荷が帯電されます。”


雷が高い所に落ちやすいのは、落雷が積乱雲中の発生点から範囲内の最も近い場所へ向けて放電するからである。


”雲底と地表に異なる極の電荷が帯電され、互いに比例して大きくなり―――”


大妖精が上っているのは、この辺りで最も背の高い木。そして、真上には電荷をたっぷり詰め込んだ積乱雲。


”――― 電位差が限界を越えて大きくなった時に――― ”


尋常では無いレーダーの反応は、周囲に凄まじい量の電荷――― 正電荷が引き寄せられている証拠。それが意味する事は―――


”――― 落雷が発生するのです。”


ぞくりと身体が震えた、寒さの所為じゃない。妖精としての勘が、警鐘を猛烈な勢いで打ち鳴らす。逃げろ。逃げるんだ。逃げなきゃ。

「こあちゃん、来ちゃだめぇぇぇぇ!!」

「えっ?」

声の限りに叫んだ、次の瞬間。
曇天を撃ち貫くかのような、白い閃光が空を覆う。

「な……」

小悪魔は見た。彼女の叫びが聞こえたと思った瞬間、大妖精のいる木が光を放ったように見えた。
凍り付いたかのような身体が瞬時に解放され、まるで全身がバネになったかのような勢いで、大妖精は木の幹を蹴る。
そこから間、髪入れぬ内に天から降り注ぐ光の奔流。大気に己の軌跡を刻みつけるかのように複雑な軌道を描き、全てを白く塗り潰しながら迫る。



そしてこれら一連の動きは、全て一瞬。彼女達にとっては、瞬く間に視界がホワイトアウトするだけ。



悲鳴を上げる間すら無く、また上がったとしても完全に掻き消すであろう、大地を裂くような爆音が全てを叩き伏せた。










目元を覆っていた腕を素早く外す。耳に残る、鼓膜を易々と貫くような爆音を何とか振り払おうとした。
瞼の裏に残る残像も無視して、目を開ける。辺り一面には、何かを焼き焦がしたかのような臭いが漂っていた。
かなり大きな落雷だったが、少し離れた場所にいた小悪魔にはさして影響は及ばなかったようだ。
だが、そんな事よりもっと重大な問題が目の前にある。

「……大ちゃんは!?」

素早く上を見上げた。大妖精がいた筈の大木は見るも無残に裂け、真っ黒に焦げた姿を晒すばかり。
そこから少し離れた空中に、大妖精はいた。いたのだ。しかし、頭が下に向いている。そして、猛烈な勢いで下降中。
どくん、と心臓が大きく跳ねた。どう見ても、彼女は落下している。

「だ……」

名前を呼ぶ前に、傘を捨てて駆け出していた。足だけじゃ間に合わないと羽を展開し、出し得る限りの速度で落下点を目指す。
このままでは確実に、大妖精は頭から地面に叩きつけられる。いくら雨で柔らかくなった土壌でも、20mクラスの衝撃を取り去ってはくれない。
自分しかいない。誰も助けてくれない。自分が行かなければ、親友の命は雨に溶けて土へと流れ出す。その事実を受け止める暇も無く、小悪魔は走る。
ひたすらに走る。走る。飛ぶ。飛ぶ。また走る。間に合え、間に合え、お願いだから間に合って神様仏様パチュリー様誰でもいいからあの子を助けて!


違う。


何度も言わせるな。


助けるのは、自分だ。



「だいちゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」



叫んだ。叫ぶと同時に、両足が地を蹴っていた。両腕を限界まで伸ばす。
微かに上昇。目の前を通過しようとする大妖精の身体が、確かに腕に触れた。
全身の力を込めてその身体を引き寄せる。同時に、これまで生きてきて無いくらいに羽を動かし、上へ。
ほんの少しでも上向きの力を発生させ、衝撃を和らげないといけない。
この子が助かるなら、無事に済むなら、今ここで羽が千切れ飛んだって構わない。
腕に掛かる凄まじい重力を、羽と腕だけで支える。
落下による加速度に耐えられず、沈んでいく二つの身体。自然と自分の身体を下へと潜り込ませていた。
そして―――

「うぅっ!!」

背中から脇腹にかけて伝わる衝撃と痛みに、思わず呻き声が漏れた。
がくん、と身体が揺れる。背中から一気に着地の振動が全身を駆け巡り、脳髄にまで達して意識を一瞬彼方へと飛ばした。
接地したくらいでは消え去らない運動エネルギーが、組み合ったままの少女二人の小さな身体を転がしていく。
泥を跳ね上げながらぬかるんだ地面を5m以上転がり続け、ようやく二人の身体は停止した。
雨が未だ降りしきる中、山の麓に静寂が戻る。
泥の中で、ぴくり、と動いたのは小悪魔の肩だった。

「……げほっ、げほっ!」

口の中に容赦無く入り込んだ泥を吐き出し、激しくむせ込む。
ゆっくり身体を起こした。あちこち痛むが、骨折のような重傷は無さそうだ。
特に腕が痛むのは、落下の衝撃を受け止めたのに加え、転がった時に擦りむいた所為だろうか。
段々意識がはっきりしてくると、小悪魔は彼女にとって何より大事な事をようやく思い出した。

「……大ちゃん!?大ちゃん!!」

どうにか腕の中に引き寄せる事に成功した大妖精の身体。しかし、その顔は多少泥が跳ねていても全く意に介した様子を見せず、瞼は閉じられたまま。
指一本動かない彼女を抱き上げ、揺さぶる。

「しっかりして!早く起きてよ!ねぇ!」

肩を揺すり覚醒を促すが、大妖精は一向に応える様子を見せない。穏やかで、どこか青白くすら見えるその顔を見つめながら、小悪魔は彼女の事を必死に呼び続ける。
きっと今にも目が開くに違いない。小説とかなら、このくらいのタイミングで気がつくと相場が決まっているんだ。

「お願い、目を開けて!私を見てよ!大ちゃん!」

ざあざあと雨は降り続き、皮膚に付着した泥を少しずつ洗い流していく。いくら雨水がその顔で弾けようとも、大妖精は眉一つ動かさない。
小悪魔が一旦呼びかけを止めると、雨音以外に響くものの無い、冥界と紛うような静寂に押し潰されそうになる。
このまま黄泉の国へと知らぬ内に放り込まれてしまうのでは――― 急に怖くなって、彼女はすぐに呼びかけを始めた。
その内に、ある恐ろしい想像が脳裏を過ぎり始めた。目の前で横たわる大妖精は、気を失っているのでは無くて、もしや。
頭を振って否定した。そんな筈は無い。その身体を抱き起こす今、腕から、胸から、腿から伝わってくるこの温もりが、今にも失われてしまう。
そんなの認めない。認めてなるものか。小悪魔はより強く、彼女の肩を揺さぶる。

「……大ちゃん……なんで起きないの?早く帰らないと、風邪引いちゃうよ……」

一度は強くなった覚醒を促す揺さぶりも、段々と弱くなり、それに伴って小悪魔の声も弱々しいものへと変わっていく。
穴が開くほど見つめていた筈の大妖精の顔が、滲んでよく見えなくなってきた。最近は泣いてばっかりだ。
恐れていた事が現実へと変わりつつある目の前の光景に、小悪魔はとても耐えられなかった。
抱き上げる腕に力を込め、大妖精の身体をもう少し傍に抱き寄せる。それと同時に、雨水に混じって涙が一粒こぼれて落っこちた。

「ねぇ、大ちゃん……」

ぽたり、とすっかり単純作業となりつつあった、頬への水滴落下。涙が一滴混じってたって誰も分かりっこない。
分かりっこない、筈なのに。人というのは時折とても敏感なものであって。

「……うぅ……っ」

「……え!?」

自分のものでは無い声が聞こえた気がして、小悪魔は目元を拭ってから改めて大妖精の顔を注視した。
その瞼が、少しずつ、少しずつ開いていく。そんな当たり前の事が、奇跡のように感じられた。
生きてるって素晴らしい。冗談めかした文句も額面通りに受け取れるぐらい、今の小悪魔は純粋そのものだった。

「だ……大ちゃん!!私のこと、分かる!?」

上ずった声でもう一度呼びかけた。この日一日で、何か月分『大ちゃん』と呼んだろうか。
焦点の定まっていなかった瞳が、ゆっくりと中央に戻り始める。
そして、はっきりと焦点が定まったその瞬間、彼女の目に確かな光が戻った。

「……こあちゃん?」

「……!!大ちゃん、よかったぁ!!」

いつも通りの呼びかけが、こんなにも嬉しいものだとは。衝動に任せるがまま、小悪魔は彼女を強く、強く抱き締めた。
またしても溢れ出る涙も全く気にしない。泣き虫で構わない。

「わぁっ……っ!わ、わたしは」

「いいよ、もう……なんでもいいよ。大ちゃんが無事だったから、もうなんでもいい」

「……ごめん、ね」

思わず、大妖精は謝罪の言葉を口にしていた。まず謝ろう、とは思っていたが、こんな状況で言う事になろうとは。
意識がはっきりしてくると、大妖精もまた体中が悲鳴を上げている事に気付く。さらに、自分も目の前で涙を流す小悪魔も、泥にまみれているという事にも。
未だ降り続く雨の存在も思い出し、大妖精は口を開く。元々、迎えに来てくれただけの小悪魔を雨に晒すのは嫌だった。

「と、とりあえず……ぬれない、ところに」

「あっ、うん。ごめんね。大ちゃんもちょっと休まなきゃだしね。じゃああの木の下に……立てる?」

「な、なんとか」

どうやら彼女の方も大した怪我は無いようだ。何故か、なんてさしたる考察が出来るほど今の二人に余裕は無いのだから、小悪魔の決死の行動が奇跡を起こしたという事にしておけばいい。
小悪魔が大妖精に肩を貸し、ふらふらと歩いて手近な木の下に座り込んだ。
雨は殆ど入ってこないし、根元には草が生えていたので、直に泥状態の地面に座るよりはずっといい環境だ。

「どうかな、大ちゃん」

「うん、まだ目がチカチカするけど……大分よくなったよ、ありがとう」

先程よりも彼女の言動は落ち着いており、安定している。この分なら、頭を強打したような事も無さそうだったので、小悪魔は胸を撫で下ろした。

「お話できる?」

「……大丈夫みたい」

「よかった。見た感じ大きなケガもないみたいだし、雷に打たれたってワケじゃないんだね」

「う、うん……雷が傍に落ちるって気がしたから、慌てて木を離れたの。
 離れたすぐ後に、わたしがいた木に雷が落ちた……のかな。よく分かんないけど、多分そう。
 真っ白で何も見えなくなったら、頭がクラッとして……気付いたら、こあちゃんが起こしてくれてた」

どうやら、稲妻の閃光を間近で見てしまった事で、目を直撃する多大な光量に耐えられず気を失っただけのようだ、と小悪魔は分析する。

「目、大丈夫?」

「まだ残像っていうのかな、ぼやーっとした影みたいなのはあるけど……休んでたら、結構よくなったよ。多分大丈夫」

「帰ってしばらくしても治らなかったら、一緒に永琳さんの所に行こっか」

「うん……なんていうか、ごめんね。心配かけたし、おまけにわたしのせいでこんな目にまで」

いつも真っ白な小悪魔のブラウスも、今は泥にまみれてマーブルを通り越して八割方土の色。
自身の服を見、それから俯いてしまった大妖精に、小悪魔は慌てて口を開いた。

「な、何言ってるのさ!だって大ちゃん、私のためにわざわざ、危険も顧みないで電荷を集めに来てくれたんでしょ?
 それなら、悪いのは私だよ!むしろ、大ちゃんには何回お礼を言ったって……」

思わず大声でまくし立ててしまい、はっと気付いてテンションを落ち着ける。先刻まで気絶していた相手に大声は良くない。
だが当の大妖精は気にした様子を見せず、回復してから初めて笑顔を浮かべた。

「……そう言ってくれたなら、わたしがここに来たのも無駄じゃなかったよ。ありがとう」

しかし次の瞬間、彼女の顔が笑顔から一変した。

「……あっ!!そ、装置がない!?」

両手を見ても、小悪魔の手元を見ても、今まで二人で必死に静電気やらを集めたあの回収装置が、影も形も見当たらなかったのだ。
魔法習得という大きな目標へ向けて重ねてきた小悪魔の努力が、全て無駄になってしまう。
焦燥感に駆られるまま大妖精は、痛む身体も意に介さず勢い良く立ち上がった。

「わ、わたし探してくる!」

「ちょっと、大ちゃん!無理しちゃダメだよ!」

雨の中へ躍り出る大妖精を追い、小悪魔も立って歩く。

「だって!あれがなくなったら、今までのがんばりが……あっ!」

落下現場の辺りまで歩いてきた大妖精が、急に立ち止まった。

「だから、私は大ちゃんが無事ならそれで……って、どうしたの?」

「あれ見て!」

大妖精が指差す先を、小悪魔も見た。
落下点から10mほど離れた土の上、あの見紛う筈も無い、カプセルのようなスプレー缶のような、あの物体が落ちている。
二人して慌てて駆け寄り、小悪魔が拾い上げた。

「……よかった、壊れてない。無事だよ!スイッチが入りっぱなしになってるけど」

「木の上でもずっと集めてたからね」

はにかむ大妖精に、彼女は装置を示して見せた。

「……どれくらい集まったか、見てみよっか」

「う、うん」

小悪魔が回収のスイッチを切り、代わりに別のスイッチを入れた。
それから二人で装置の胴部分を覗き込む。と―――

「うわぁっ!!」

二人同時に驚きの声が上がった。スイッチを入れて少しした瞬間に、装置の中で光の塊が激しくスパークしたのだから仕方ない。
思わず取り落としそうになった装置を空中でキャッチし、改めて覗き込む。

「だ、大ちゃん……これ……」

「す……すごい量じゃない?」

静電気クラスだった頃とは比較対象にもし難いくらい、内部では激しい帯電・放電のサイクルが起こっていた。
うねるように雷光が弾け、縦横無尽に白い光が這い回る。スケールは小さくとも、紛う事無き”雷”がそこにあった。

「きっと、地表近くの帯電してた電荷だけじゃなくって……雷が落っこちた時に運ばれてきた電荷も吸い込んだんだ」

小悪魔は呆然と、装置の内部に走る稲妻を眺めながら考えを述べた。
大妖精は頷くが、彼女にとってはもう一つ心当たりがあった。言うまでも無く、積乱雲内部の電荷を直に集めた事だ。
これ以上の心配を与えたら小悪魔が倒れてしまうかも知れないので、それは口に出さない。

「こあちゃん、これだけあれば……」

「うん、きっとかなり強力な電撃を操れるようになる!」

大妖精が淡い期待として望んだ通り、この日一日で必要量をクリアーしてしまった。終わってみれば、あっけない。
しかし、それは二人の日常的な作業と、大妖精の決死の回収、そして小悪魔のファインプレーが生んだ結果。
小悪魔は真っ直ぐ大妖精に向き直ると、その目をしっかり見据えて口を開いた。

「大ちゃん……その、えっと……ホントにありがとう。月並みな言葉だけれど、このことは絶対に忘れないから!」

それから笑み。大妖精は面と向かって礼を言われるのがどうしても気恥ずかしかった。が、目は逸らさない。

「……わたしは、ほんのちょっと手伝っただけだから……」

照れ隠しの言葉しか浮かばない自分が少し情けなくも感じる。が、小悪魔はやはり笑っていたので、それで良かった。
と、その時。いつしかしとしと降りになっていた雨が、とうとう止んだ。
二人は空を見上げる。その手には、二人の努力の結晶と言える雷光が渦巻いている。
大妖精と小悪魔が力を合わせて勝ち取ったその輝きに恐れをなしたか。
或いは、自分の為すべき仕事は終わったとでも言いたいのか。
どちらにせよ、あれ程暴れ狂っていた積乱雲は小さくなり、他の雲と交じり合うようにして流れていく。
流れた先ではまだ雨を降らせるだろうが、近い内に消滅するだろう。

「雨、止んじゃったね」

「そうだね。でも、これでゆっくり帰れるよ」

「……帰ろっか」

「うん」

小悪魔は少し離れた場所に落ちていた、開きっぱなしの赤い傘と閉じたままの青い傘を拾い上げる。
幾許明るくなった空の下、二人は泥だらけの肩を並べて歩き始めた。









湿度は高いが、服にこびりついた泥は既に乾き始めている。
関節の辺りでぱりぱりと剥がれ落ちる土に苦笑いを浮かべ、小悪魔はため息をついた。

「う~、大変なことになっちゃったね。大ちゃんも」

「そうだね……じゃあさ、わたしの家に来ない?このまま帰ったらパチュリーさんに怒られちゃうだろうし。
 わたしの責任でもあるからさ、わたしのとこで服洗って、ついでにお風呂にも入って行ってよ」

「え、いいの!?やったぁ!」

大妖精の申し出に喜び、小悪魔はピョンと跳ねる。だが足元はぬかるんだ地面、足を取られかけてズルリ、体勢を崩す。

「きゃっ!」

「うわっ、と……危なかった」

「……ごめんなさい、気をつけマス」

寸前で大妖精がその腕を取って支えたので、泥の重ね塗りはせずに済んだようだ。
それから足元に気を配りつつ山を降りていく二人は、いつしか川の傍に出た。
普段は美しい清流も、今は集中豪雨による増水で酷い有様だ。

「川沿いに下っていけば、湖に近いよね」

「そうだけど、川には近付きすぎないようにしよ、流されちゃう」

互いに頷き、川にあまり近付かぬよう注意しながら、流れに沿って二人は歩を進めていった。
麓でもかなり下の方まで降り、もうすぐ下山完了か、という所まで来た。あとは、川にでも流されない限りは心配は要らない。

「飛んだ方が早かったかな?」

「ううん、大ちゃんも疲れてるだろうし、歩いた方が良かったよ」

そんな会話も飛び出す。
『そうだね』と小悪魔の言葉に同意し、前を向いた大妖精が、不意に何かを発見した。

「……ねぇ、あれ」

「うん?あっ、にとりさんかな。何してるんだろう」

川沿いに住む河童、河城にとりの姿が見える。何やら機械のような物を前にしているようだ。

「せっかくだし、あいさつくらいしてこっか」

「そだね。こんなカッコだと驚かれちゃうだろうけど」

笑い合い、二人はにとりの下へ。

「こんにちは!」

「おや、こんにち……わぁお、随分とハデなカッコだね。しかもペアルックと来たもんだ。
 湖の辺りじゃ泥だらけがイカすのかい?最近の流行って分かんないやね」

手にしたレンチで肩をポンポンと叩きながら、にとりは肩を竦めてみせた。

「あ、いえ、これには深~いワケがありまして。あまり気にしないでいただけるとうれしいです……」

「そうかい、じゃあそうするか」

「ところで、何してらしたんですか?」

大妖精が尋ねると、にとりは急に顔を曇らせた。

「ああ……この機械なんだけど。これ、何だか分かるかい?」

手で示したのは、彼女の横に置かれた大掛かりな装置。台車に乗っているので濡れた地面も心配無い。
当然分からず、二人は首を捻った。するとにとりは少しばかり得意気な顔になって答えた。

「実はさ、これ発電機なんだ。これがあれば、電力のエネルギーとしての実用化が一気に近いものになる!」

「えっ、これが!こんなに小さいんですか……」

「すごいですね」

大きさはせいぜいにとりの背丈くらいで、台車を使えば一人でも運べるレベルだ。
以前、彼女が発電機を作っているという話は二人の間でも出たが、まさかこんなに小さく、しかも完成しているとは思いも寄らなかった。
素直な賞賛の言葉を浴びにとりは照れるが、すぐに元の曇った顔へ。

「そうなんだ……けど、ちょっと問題が発生してね」

「問題?」

小悪魔が尋ねると、彼女はポン、と発電機の頭を叩いて続けた。

「明日さ、この発電機のお披露目をしようと思ってたんだ。川の水を吸い上げられるポンプと一緒にね。
 発電機で作られた電気の力で、ポンプが動く。調整も上手く行ってたんで、きっと成功すると思った。
 大々的に山ん中で告知して、河童仲間に天狗のみんなに雛を始めとする山に住む神々、果ては山の上の神社のご一行様まで見に来てくれるってんで、そりゃもう張り切ったのさ」

「なるほど。でも問題って……予想以上に人が集まることが?」

「違うよ、むしろ研究成果をみんなに見て欲しいから、こちらとしては千客万来なのは大喜びさ。
 ……壊れちまったのさ、コイツが。さっきの雷でね」

レンチでかつん、と発電機を叩く。彼女は再びため息をついた。

「すごい発明だってみんな大喜びでさ、きっと期待して見に来てくれる。なのに、発電機がぶっ壊れてできません、じゃ何て言われるか。
 何とか今直らないかと頑張ってるんだけど、こりゃあ内部までイカれちゃってるから、どんなに少なくても数日はかかる見込みさ。
 このままじゃカッパなのにオオカミ少年……っと、ごめんよ辛気臭い話で。そんな顔しないでおくれよ」

「は、はい……その、ごめんなさい。邪魔してしまって」

思いの外深刻な状況に、思わず二人揃って頭を下げる。
するとにとりはケラケラ笑って、泥まみれなのも気にせずその背中を叩く。

「いいんだよ、むしろいい気分転換になった。どうにもならないなら、せめて気持ちくらいは明るくいたいのさ。
 電気が無くちゃ動かないからしょうがない。それはみんなも分かってくれるよ。
 だから二人とも、あんまり気にしないこった。この事は忘れておくれ。ちゃんと直ったら見せてやるからさ」

へへん、とにとりは気丈に笑ってみせた。
だがしかし、それを聞いた小悪魔は、思わず身を乗り出していた。

「あ、あのっ!」

「うん?」

「で、電気があれば……電気があれば、動くんですか?」

「え?ああ、まあそうだねぇ。発電機が壊れちまって電気が作れないからポンプが作動しない。
 だからまあ、代わりの電気がありゃあ動くには動くだろうが……そこらに転がってるモンでもないし」

ひょい、と何度目かの肩を竦めるポーズ。
一方で小悪魔は、手元を見ていた。そこには、たっぷりの電撃を吸った回収装置。
内部における帯電は雷に匹敵するレベルで、機械を動かすくらい何てことは無いだろう。
ポンプと回収装置とのコネクトくらい、発電機を作れる彼女なら造作も無いに違いない。
つまりこれを差し出せば、にとりを助ける事が出来る。

(けど……これは……)

しかし、小悪魔は内心で首を振る。自分一人で集めた物ならともかく、これには大妖精が大きく関わっている。
いや、関わっているどころか自らに降りかかる危険も厭わずに、小悪魔の為に大量の電力を集めてくれたのだ。

(いくらなんでも、大ちゃんのがんばりを全部あげちゃうワケには……)

助けてあげたいのは山々だが、仕方ない。
後ろ髪を引かれるような思いの中、彼女はふと大妖精の方を見やった。
すると大妖精は、まるで何もかも分かっているとでも言いたげに笑い、手招き。

(え?)

誘われるがまま彼女の傍まで行くと、大妖精は小悪魔にそっと耳打ち。

「……こあちゃんの好きにして。きっと、わたしも同じ考えだから」

驚き、その顔を見る。彼女はあくまで笑顔。
大妖精には、小悪魔の考えている事が手に取るように分かっていた。
その電荷を回収した装置を渡せば、にとりを助ける事が出来ると。しかし、自分一人の物では無いから諦めよう、と。
何故なら、大妖精が同じ立場に立ったなら、全く同じ事を考えただろうから。

(大ちゃん……)

小悪魔の縋るような目線に、再三の笑顔を向け、大妖精は彼女の背中をポンと押した。
意を決したように頷き、小悪魔は首を傾げるにとりに向けて口を開く。

「に、にとりさん!その、これを見て下さい!」

「ん?これは……なんだ、見た事ないけど、機械の類かい?」

「は、はい。魔法の力を借りた、分子回収装置です。
 そのですね、今、この中には……大量の電気が詰まっています。これがあれば、機械は動きますよね?」

「え、それって……私にくれるのかい?その電気を?」

「は、はい!お役に立てて頂ければ!」

にとりはその言葉に驚き、目を丸くした。

「ほ、本当にくれるのかい!?そりゃあ助かるけど……でも、いいの?」

「何がですか?」

「だって、いつもそんな代物を持って歩いてるワケないだろう?何かに使う予定なんじゃなかったのかい。
 しかもそんだけ沢山なら、それなりに重要なファクターになりうると思うんだが……」

鋭いな、と小悪魔は少しばかり焦る。しかし、真実を言えばきっと彼女は受け取らない。

「いえ、その!確かに使う物ではありますけど、急ぎじゃありませんから。けど、にとりさんは今すぐいりますよね。
 だから、使って下さい!遠慮はいりませんから」

言い切り、彼女はにとりの手に装置を押し付けた。
暫し呆然と手の中の装置を見つめていたにとりは、ゆっくり頷いた。

「……そこまで言ってくれてるのに、甘えないのは逆に失礼だね。ありがとう、大切に使わせてもらうよ」

素直に受け取ってくれたので、小悪魔と大妖精も笑って頷き返した。
気付けば、雲で分かり難いが空の端に夕暮れの気配。そろそろ帰ろう、と頭を下げる二人に、にとりはこんな言葉を投げかけた。

「きっとお礼はする。必ずだ。この恩、向こう数百年は忘れないつもりさ」

心の底から安心したような笑顔を見せた彼女に別れを告げ、二人は再び川沿いの道を歩き始める。
やがて平坦な道に出た。どうやら、完全に山を下り切ったらしい。湖まではそれほど遠くない。
湖の方角へと歩を進める途中、小悪魔は隣の大妖精に話しかけた。

「……大ちゃん……その、ごめん」

「どうして謝るの?」

唐突な謝罪に大妖精が訊き返すと、小悪魔は少しばかり俯き加減になりつつも続ける。

「だって……大ちゃん、あんな大変な目にあってさ。もうちょっとで雷に打たれるくらいだった。
 そうまでして集めてくれた電気、全部あげちゃった。大ちゃんはいいって言ってくれたけどさ、でも」

「だけど、そのお陰でにとりさんは明日のお披露目会を無事に行える。こあちゃんが助けたんだよ。
 それに、わたしは好きにしてって言ったし、おんなじ考えだとも言った。何も悪くなんかないし、気に病む必要はどこにもないんだよ」

その言葉を受け、小悪魔の顔にやっと明るさが戻り始める。
そこで、大妖精も質問をぶつけてみた。

「それでさ、わたしも訊いていいかな」

「なぁに?」

「魔法習得に必要な電気だったよね。なんであげようと思ったの?」

ストレートな質問に少し戸惑う様子を見せたが、小悪魔は少しはにかんで答えを口にした。

「だってさ、電気はまた集められるし、泥棒を捕まえる方法や魔法なら他にも有効なものはいくらでもある。
 けど……今のにとりさんを助けられるのは、電気だけ。だったら、あげなきゃ」

何と返されるのかが気になるのか、彼女は窺うように大妖精の顔を見た。
並んで歩き続けていた大妖精はふと足を止め、小悪魔の顔を真っ直ぐ見据えて、優しく笑ってみせた。




「強いこあちゃんもステキだけどさ……やっぱりわたしは、優しいこあちゃんが好きだよ」




言い切ってから恥ずかしそうに頬を染めるも、やっぱり顔を逸らそうとはしない。
小悪魔はその言葉を二、三回心の中で噛み締め、その意味をしっかり理解してから、笑顔を返す。

「……ありがとう、大ちゃん」

「いいのいいのって。さ、早くわたしの家に行ってさ、お風呂入んなきゃ」

「服も洗ってくれるんだっけ。ごめんね、何から何まで。せめて手伝うからさ」

「そう言えば、そのまま紅魔館に帰るの?わたしの服着て帰るなら貸すけど……どうせなら泊まってく?」

「え、ホントに!?甘えちゃっていいかな」

「もちろん……じゃ決定!楽しみだなぁ」

「あ、じゃあ外泊するって事を伝えに行かなきゃ……美鈴さんに伝えれば大丈夫だから、ちょっと紅魔館寄ってもいい?」

「いいよ。でも、こんなカッコじゃやっぱり何か言われないかな」

「大丈夫だよ、美鈴さんは優しいから黙っててくれるって」

会話の中で、いつしか二人は再び歩き始めていた。
積乱雲が去り、少しずつではあるが雲に切れ目が生じ始めた幻想郷の空。
不意に僅かな雲間から顔を覗かせた夕陽が、どちらからともなく手を繋いで歩いていく二人を、そっとオレンジ色に染め上げた。















日常が非日常へと変貌を遂げるのは、いつだって唐突だ。
そして、逆もまた然り。大妖精の家で一泊した小悪魔は翌日の午後には紅魔館へと戻り、溜まった仕事を片付けた。
午前の内に戻れなかったのは、服が乾いて無かったからだ。パチュリーにまず謝ったが、別段怒られるような事も無く。
そのまた翌日には大妖精もいつものように図書館を訪れる。

「大ちゃん、目はもう大丈夫?」

「うん、ゆっくり休んだらもう直ったみたい。体の方もケガらしいケガはなかったしね」

「私も。腕とヒザのすり傷は適当に誤魔化せたし、筋肉痛がちょっと残ってるくらい」

そんな会話があったくらいだ。ここに、彼女達の雷を巡る非日常は幕を閉じた。
かに見えた。
しかし、事態はあの嵐の日から一週間経った時に再び動き出す。

「こんにちは、お邪魔するよ」

大妖精も居合わせたその日の昼過ぎ、にとりが唐突に図書館を訪れた。

「あっ、こんにちは」

小悪魔、そして大妖精も席を立ち、彼女を出迎える。

「先日は本当にありがとうね。これ、返しに来たんだ」

そう言い、彼女は例の回収装置を差し出した。幸い、パチュリーの座るテーブルとドアは離れており、ここからなら見えない。
とは言っても、習得を半分諦めたのだから今更バレてもあまりダメージは無いのだが、道具の無断借用という負い目はある。

「ついでに、何か本でも借りていこうと思って」

「あっ、じゃあご案内します。どんな本をお探しですか?」

にとりの言葉に小悪魔はいつになく司書らしい振る舞い。大妖精はそれを隣で見てくすりと笑った。
『なんか、工学に役立ちそうな本がいいな』との希望を受け、小悪魔を先頭にして歩き出す。大妖精もついでに同行。
三人で本棚の間を巡る最中、ふと気になって小悪魔が尋ねた。

「そういえば。お披露目会はどうなりました?」

「ああ、お陰様で大成功さ。あんなに拍手喝采を浴びたのは初めてだったよ。
 トラブルもなかったから、実用化もそう遠くはないんじゃないかな。
 発電機も修理の目処が立ったし、もう心配はない。二人には頭が上がらないね。
 そうだ、言い忘れてたけど、お礼の一部を今日持って来たから、門番さんに預けてきたよ」

「それはよかった。それにお礼だなんて、ありがとうございます」

「川で獲れた魚とキュウリを大量に持って来たから、みんなで食べておくれ。
 いささか持ってき過ぎた感はあるけど、おたくのメイドさんなら腐らせることもないだろ。
 個人へのお礼は、もう少し待ってね」

まだ何かくれるつもりらしい。流石に恐縮してしまい、二人はさらに頭を下げた。







本を数冊借り出し、終始上機嫌のままにとりは去って行った。

「よかったね、上手くいって」

「そうだね。これなら、私たちの行動も報われるよ」

図書館の奥の方で本を探しながら、二人は顔を見合わせて笑う。
二人が本を探すのは、当初の目的であった書籍泥棒撃退のヒントを求めての事だ。

「代わりに、何か泥棒捕獲テクを考えなきゃなぁ」

「もちろん手伝うよ。もう一回電気でいく?装置も帰ってきたし」

「大ちゃんがまた大変な目に遭いそうだからやめと……ん?」

そんな会話の折、小悪魔はにとりから受け取った装置をじっと見やる。

「どうかした?」

大妖精が尋ねると、彼女はそれを大妖精へ示しながら呟いた。

「……これさ、電気がまだ残ってる」

「え、ホントに?」

「うん。あんな沢山じゃないけどさ、それなり……強めの静電気レベル」

プレビューモードにすると、白く短い光が時折内部を走るのが見えた。耳を澄ませば、ぱちん、ぱちん、と音まで聞こえてくる。

「にとりさん、全部は使わなかったんだね。これって、戻すならちゃんと放電しなきゃかな」

大妖精はそう言って考えるが、小悪魔は全く別の事を考えていた。

「……ねぇ大ちゃん、ちょっと思い付いたことがあるんだけど」

「え?」

声に誘われるまま、彼女は顔を上げる。そこで見た小悪魔は、まさに”素敵な玩具を手に入れた悪戯っ子”の顔をしていたそうな。











それからさらに数日。
図書館で一人静かに、パチュリーは読書に耽っていた。
この日も大妖精が遊びに来ていたが、小悪魔と一緒に図書館の外へ行ってしまったので今は一人だ。
元々静かなのに数少ない会話発生源の二人がいない事で、図書館は無人に近い静寂を極めていた。

(静かね)

ぽつりと一瞬そんな事を思い、彼女は再び活字の世界へ。
その時、遠くでドアの開く音。どうやら名無し二人が帰ってきたようだ。
特に注意を払う事も無く、パチュリーは読書を続行。
かつ、かつ、と遠くから聞こえていた足音がぴたりと止んでも彼女は気に留めない。
読書をしている間のパチュリーは凄まじい集中力で、周りの事なんて殆ど分からなくなる。
だから、低空飛行で足音を消し、ゆっくりその背後に忍び寄る大妖精の姿にも気付けない。離れた本棚の影から様子を窺う小悪魔の事など尚更だ。
そっとパチュリーの背後を取った大妖精は、小悪魔に目配せ。頷いた彼女は、ぴっ、と人差し指で何やらパチュリーを指差すような動作。

(いいよ!)

(OK!)

続けざまに彼女が出したOKサイン。音を立てぬよう頷き返した大妖精は、唐突に右手をさっ、と上げた。
彼女はパチュリーに手を触れるような事はしていない。ただ、その後ろで右手を上げただけなのだ。
しかしその瞬間、顔の横で束ねたパチュリーの髪の束が、ぶわっと浮き上がった。

「……くっ、くく……」

離れた場所で見ていた小悪魔は、必死に笑いを押し殺していた。大妖精が左手を上げれば、もう片方の束ねた髪も浮き上がる。
そのまま両手を指揮者のように動かせば、二つの束はあっちへびよよん、こっちへぶわわん。
さながら砂塵舞う中東の町でターバン姿のアヤしい男が吹き鳴らす、ブビブビ的な笛の音に合わせて壷より出でる蛇のよう。

(パープルスネーク、カモーン……なんつって)

自身も湧き上がる笑いに顔を歪めながら、大妖精はさらにダイナミックな動き。
足の動きに合わせて服の裾もふわふわと動くし、体を揺らせば後ろの髪まで左右になびく。
一度腕を下ろし、身体の中央付近から持ち上げるような動きで腕を上げる。すると今度はパチュリーの後ろ髪が見事に逆立つ。
いつしかの小悪魔が見せた芸当のようで、完全に大妖精の笑いの沸点をぶち破った。

「……ぶっ、くく……」

「あ、ふぅっ……」

ぴくぴく肩を痙攣させる二人。笑いを爆発させられないのがもどかしくてたまらない。
そして、これだけのサイレント劇場が背後で展開しているにも関わらず今まで気付かなかったパチュリー。流石は本の虫。
しかしここでとうとう、自分の髪がやたら重くなったり、かと思えば軽くなったりと不安定な事に気付いてしまう。

「……?」

不審に思い、横を見やる。そこには空中都市マチュピチュやモロッコでも見られないくらいの神秘の世界が広がっていた。
荒れ狂う竜巻の如くにぐねぐねうねる、己の髪。ウロボロスの渦と呼ぶに相応しい、畏怖を感じさせるその佇まいに、パチュリーも思わず五体投地―――



「きゃああああああああ!!??」



とはならず、久々に声帯を酷使しての三桁ホーンな悲鳴を大々的に放つ事となるのであった。
悲鳴を上げた。つまりバレた。となれば、もう笑いを押し殺す意味は無い。

「ぶっ……だあっはっはっはっはっはっはっは!!!」

「あーっはっはっはっはっはっはっは!!!」

続けざまに少し離れた本棚の影、そしてパチュリーの背後より湧き上がる大爆笑。
これがホントの五体投地だと言わんばかりに埃っぽい床へ全身を投げ出し、肺の中の空気を全部使ってひたすらに笑い声を上げる。
押し殺していた分反動は凄まじく、出し切れない笑いのエネルギーは床をバンバンと思いっきり叩く事で発散。
横隔膜が音を立てて壊れそうなくらいに、ただひたすら笑う事で己の幸せを叫ぶ二人であった、が。

「………」

「あっはっはっは……あは、は」

「あ、あはは……」

その笑いは段々乾いたものへと変化していった。それもその筈、何かに勘付いたらしいパチュリーが、じとーっとした目でこちらを見ていたからである。
じと目はインドア娘の十八番。存分に本領を発揮するパチュリーの目線は、凄まじい威圧感を孕んでいた。

「……え、えーっと……」

「ご、ごきげんいかがですかパチュリー様。笑うのは健康にとってもいいのですよ」

口ごもる大妖精に代わり、二人の傍へやって来た小悪魔が襲い来る威圧感からの回避を図る。
するとパチュリーは不気味なくらいニッコリと笑みを浮かべて囁いた。

「ええ、その通りね。今の私はちょっとアクティブな気分だから、誰かさんのお尻を蹴っ飛ばしでもすればきっとステキに笑える気がするの」

「……逃げろっ!!」

「う、うん!!」

「待たんかぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

目配せ一つ、小悪魔と大妖精は散り散りになって図書館の中へ逃走。
すぐに追いかけ始めるパチュリーの怒号は、まるであの日の雷のようで。
萎縮した二人はあっという間に御用となった。







「はぁ、すぐ捕まっちゃった。修行が足りないや」

「でも、それ以外は大成功なんじゃない?」

「そだね、だからいっか」

顔を見合わせて互いにニヤリと笑み。
名無し二人がいるのは、図書館の一角。しかし、普段はあまり書物の動かない物理・熱力学関連の本棚の辺りだ。

「まあ、完全に背後を取られたのは不覚だったわ。実力の向上を認めて、オシオキは無しにしてあげる」

すぐに謝ったので尻を蹴られはしなかったものの、罰としていくつかの本棚の整理を命じられた。
小悪魔にしてみれば普段の業務とほぼ変わらず、単なる残業くらいなのでむしろ尻を蹴られずに済んだ分ラッキーであった。
大妖精が手伝ってくれている分楽であるし、彼女が横に居るなら全く辛いとも感じない。適当に雑談しながらやっていればすぐだ。

「けどさ、あんなに上手くいくなんて思わなかったよ。他にも色々使えそうだし」

「うん。何だかんだで、いい能力だよそれ」

頷き、小悪魔は指をパチンと鳴らす。すると、その手の周りでパチリ、と火花が弾けた。
―――にとりから受け取った装置に残っていた、少しばかりの電荷。
小悪魔はそれを用い、当初の予定通りに雷撃魔法を習得した。
一度は獲得出来た、あの途轍もない量の電気があれば、ちょっとした雷を落とすくらいは容易かっただろう。
しかし今回習得に際して用意された電力は非常に少ないもので、操れる電荷も精々やや強めな静電気を発生させるのが精一杯なレベル。

「強い魔法はパチュリー様の方がずっと似合ってるよ。私にとっては、これくらいがちょうどいいや」

だが、小悪魔はそう言って満足気だ。その最初の活用法として、彼女はパチュリーへの悪戯を敢行したのであった。
その方法とは、大妖精の全身をコーティングするように、どちらかの極に帯電した電荷を発生させて貼り付ける。
彼女がパチュリーの背後に回ったら、今度は大妖精とは対極の電荷を発生させ、パチュリーに貼り付ける。
後は大妖精が動けば、異なる極の電荷によって発生した静電気で髪やら服やらが引き寄せられ、ぶわぶわと踊るという訳だ。
下敷きと髪の応用編とも言えるこの方法は、電気の仕組みを理解しなければ行えない、何とも知的な進化を遂げていた。

「放電しちゃわなくてよかったね、パチッて。そしたらすぐバレちゃってたよ」

大妖精はそう言って息をつくが、小悪魔はちっちっと指を振る。

「だいじょぶだいじょぶ。放電に至らない、至っても分からないくらいに少ない電荷に調節してあるからね」

「さすが!」

えへんと胸を張る小悪魔に、大妖精は小さく拍手を贈った。
それから再び作業を開始し、この一角は完了。

「次はもう少し離れた場所だね」

「うん、行こう」

パチュリーから受け取った地図を見、二人は移動を開始した。
特に会話も無く、てくてくと歩いていく。
しかし、いくつか本棚の脇を通り抜け、もう少しで目的の場所だという所で、不意に小悪魔が足を止めた。

「しっ!」

「?」

人差し指を唇に当て、『静かに』のポーズ。大妖精は首を傾げると、彼女はそっと耳打ちした。

「何か聞こえない?」

「……言われてみれば」

大妖精も囁き返す。こつ、こつ、と断続的に聞こえる、木を軽く叩くような音。

「……足音だよ、これ」

「パチュリー様……いや、違う!」

はっと気付き、小悪魔は音の方向を頼りに次の本棚の影から様子を窺う。
そこには―――

「……いた!」

「魔理沙さんだ……ってコトは」

「うん、またしても泥棒の現行犯だよ!」

頻繁に耳打ちを繰り返し、互いに現状認識。
懲りずに(というか本人は失敗した事が無いと思っているようなので)図書館へ不法侵入してきた白黒魔法使いは、やはりと言うか本を物色中。

「どうしよう、パチュリーさんに……」

「……ううん、今から呼びに行ってたら見失うかも。今度こそ、私がやるよ」

「だ、大丈夫?」

「任せて!」

先日の出来事を思い出した大妖精は不安げな面持ちだが、小悪魔は自身ありげに頷いた。
魔理沙はと言うと、目の前の本棚には興味を引かれなかったのか、角を曲がって別の本棚を見に行く。

「行くよ」

「うん」

姿が完全に見えなくなってから、二人は後を追った。
角を曲がると、魔理沙はすぐに見つかった。壁際の本棚をチェックしている。
不意に彼女は足を止め、本の背表紙を見つめる。

「獲物が見つかったみたい……大ちゃん、見ててね」

角から様子を窺う大妖精は尚も不安を隠せないが、小悪魔はニヤリと”悪魔の微笑み”。
それから彼女は、音を立てぬようにカスッと指を鳴らした。

「あっ、盗む……」

大妖精は見た。魔理沙が、本棚へ向かって手を伸ばすのを。

「大丈夫だから」

小悪魔が優しく、落ち着けようとするかのように囁いた。
そして、魔理沙の手が本に触れようとしたその瞬間―――



「……させません」



――― ぱちり。

「……つっ!?」

弾けるような音と共に、魔理沙が急に本棚の前から飛び退いた。
驚いた表情で自分の手を見つめていたが、すぐに同じ本へと手を伸ばした。
だが、

「ってぇ!」

またしても、ぱちり。指先に走った、短く鋭い痛みに思わず声が出た。
首を傾げ、別の本に狙いを変える。しかし、それでもぱちり。

「……っだぁ!何なんだよもう!」

再三の痛覚刺激にとうとう堪え切れず、大声を出してしまう魔理沙。

「え、ちょっと!?」

大妖精もまた、驚きの声を上げた。何故なら隣に居た小悪魔がふらりと角から出、彼女の方へ歩いて行くのだ。
かつん、と靴を鳴らして小悪魔は仁王立ちを決める。

「……私の視界に入ったからには、好きにさせません!」

突然の、しかも堂々とした登場に、魔理沙は大層驚いた様子だがすぐに不敵な笑みに戻った。

「こないだのリベンジか?変なギミックでも仕込んだのか知らんが……逃げ足なら誰にも負けないぜっ!」

そう叫ぶなり、空っぽの袋をポケットに押し込んで、床に置いていた箒へ素早く手を伸ばす。

「逃げちゃうよ!?」

大妖精は焦ったが、小悪魔は尚も動じない。

「……無駄です」

彼女がそう呟いたのと、

「……いっでぇ!!」

再三の”ぱちり”と共に、魔理沙がそう叫んで箒を文字通り放棄、投げ出したのは、ほぼ同時だった。

「今だよ大ちゃん!」

「え!?う、うん!!」

「それーっ!!」

「どわああああ!!」

小悪魔の号令に合わせ、二人で一斉に飛び掛かる。
どたーん、と図書館ではご法度なレベルの騒音が鳴り響き、先程からの大声と相まって異常に気付いたパチュリーがすぐに飛んで来た。

「ちょっと、何が……あぁっ、魔理沙!それにあなた達!?」

現場を見るなり、彼女は驚愕そのものの表情を浮かべる。
悔しそうな魔理沙の背中を椅子にして優雅にお嬢様座りの小悪魔と、控えめに足を取り押さえる大妖精。傍には主に放棄された箒が、拗ねるように床へ転がっていた。

「パチュリー様、やりましたよ!!」

元気いっぱいに小悪魔が報告。

「くっそぉぉ……冬の空気に嫌われちまったみたいだ……」

一方で観念したようにそう呟くと、魔理沙は床に突っ伏した。









すぐにパチュリーは咲夜を呼び、ルパンと銭形的な関係が始まって以来、初の御用となった白黒ルパンを連行させた。

「私は泥棒じゃねぇぞ!仮に泥棒だったとしても、泥棒と言う名の怪盗だぜ!!」

「尚悪いわ!!咲夜、ひったてい!」

「はっ!」

魔理沙の捨て台詞を時代劇風に切り捨て、二人がドアの向こうに消えてからパチュリーは小悪魔達へと向き直った。

「……さて、と。二人とも、本当にありがとう。まさか初めての魔理沙捕獲を成し遂げてくれるなんて」

「いえ、そんな……ところであの、魔理沙さんはどうなるんですか?」

面と向かった礼はやはり照れてしまう。それを誤魔化す意味も少し含んで、大妖精は尋ねた。
するとパチュリーは小悪魔にも負けないくらいの悪戯っ子スマイルでそれに答える。

「ん~?別に痛めつけたりなんかしないわよ、友達だし。ただ、罪の清算はしなくっちゃね。
 というわけで、先日貰った魚がまだいっぱいあるから、魔理沙には生魚風呂にでも浸かって、汗を流して貰おうと思うの」

汗は汗でも冷や汗が流れそうな風呂だ。今度は小悪魔が手を上げる。

「だ、大丈夫なんですかソレ……お魚ももったいないような」

「大丈夫よ、食べ物を粗末にはしないわ。後でちゃんとおいしく頂くから。加熱すれば大丈夫でしょうし。
 だから、この話はオフレコよ?私と咲夜と、あなた達だけのヒ・ミ・ツ」

ぺろりと舌を出すパチュリーに、思わず苦笑いの名無し組。心の中で魔理沙に合掌。
すると、今度はパチュリーの方が二人へと質問をぶつけた。

「ところで、どうやって捕まえたの?良かったら参考にさせて欲しいのだけれど」

「あ、それはですね……いたっ!」

これまでの努力を嬉々として語ろうとした小悪魔だったが、不意に声を上げ、手元を押さえる。
指先に残っていた静電気が放電したらしい。同時に響いた、ぱちりという音をパチュリーは聞き逃さなかった。

「……小悪魔、手を」

「え?は、はい」

言われるがまま、小悪魔は押さえていた右手を差し出す。
彼女はその手を優しく取り、自身の髪へ近づけた。

「?」

さらり、とした柔らかい感触が、小悪魔の指先にも伝わる。
それからパチュリーは、自身の髪へつけた小悪魔の手をそっと引き離す。
指先に引っ付いたままの髪が数本、ふわりと舞い上がった。

「あ……」

パチュリーは、ふっと笑ってから握っていた手を離し、その手で小悪魔の頭を優しく撫でてやる。

「……さっきの悪戯で気付くべきだったのでしょうけど……成長したのね。流石は私の助手、かしら?」

どうやら全てを悟られてしまったようだ。小悪魔は観念すると同時に、この上無く照れくさい気持ちに襲われた。
かぁっと赤くなる顔を誤魔化すように、彼女は首を横に振る。

「い、いえ……あの、その……大ちゃんの、おかげなんです」

「えっ!?」

いきなり名指しされ、大妖精は大層驚いた様子。しかし、それでもパチュリーは笑みを崩さず、もう片方の手で大妖精も撫でてやった。

「分かってるわよ。どっちかだけじゃない、二人が力を合わせて勝ち取った成果。本当によくやってくれたわ」

母親というのは、こんな温かさを持った女性の事なんだろう――― 不意にそんな事を思ってしまうくらい、大妖精の頭に添えられた手は温かだった。
顔を真っ赤にして棒立ち状態の名無し二人を見て、くすくすと笑い声を上げてからパチュリーは手を下ろす。

「後で咲夜に言っとくわ。今日の夕食は、小悪魔の分をとびきり豪勢にするようにね。
 もし良ければ、あなたも一緒にどうかしら。同じように、ご馳走を用意させるから」

「わ、わたしも……ですか?」

急に大妖精の方を向くので、彼女は本日何度目かの驚き。

「そりゃそうよ。勿論無理強いはしないけど……」

「大ちゃんのおかげなんだから、一緒に……ね?」

小悪魔にも手を引かれ、大妖精は少し恥ずかしげながらも頷いた。

「は、はい。それでは、わたしもお言葉に甘えさせていただきます」

「決まりね。じゃ、咲夜に伝えてくるわ。ついでに、魔理沙の様子も見てこよっと。
 そうそう、もう本の片付けはいいから。魔理沙捕獲の功績を称えて免除。好きに過ごしていいわよ。
 それと最後に。後で、小悪魔が使った魔法を私にも教えて頂戴。色々使えそうだし」

「はい!」

二人が返事を返したのを聞き届け、パチュリーは鼻歌交じりに上機嫌で図書館から出て行った。
名無し二人だけが残された図書館。互いに向き合い、まず口を開いたのは大妖精だった。

「……やったね!静電気だけで泥棒を捕まえちゃうなんて、すごいよ!さっきのも、すごくカッコよかった!!」

本棚をコーティングするように負電荷、魔理沙をコーティングするように正電荷。
魔理沙が触れて放電される度に新しく電荷を貼り直し、逃走手段封殺の為に箒にも負電荷を貼っておく。
パチュリーへの悪戯のさらなる応用だ。今度は放電が発生するくらいに電荷量を増やしたのがミソ。
そして作戦の成功を予感し、思わずカッコつけてしまった台詞の数々だが、終わってみれば見事に決まっていた、気がする。
今更少しばかり恥ずかしくなったが、大妖精が絶賛してくれたのでそれで良くなった。

「あ、ありがとう。みんな、大ちゃんのおかげだよ」

「そんなの……こあちゃんが頑張ったからだよ」

「でも……っと。じゃあ、パチュリー様が言ってた通り、二人で頑張ったからってことで」

「うん!」

ひとしきり笑い合って、息をつく。時計を見れば、そろそろ午後五時。だが、今日は大妖精は帰らない。
まだ一緒にいられるというのが嬉しくて、つい小悪魔はこんな事を尋ねてしまう。

「ね、ね。こないだ、カッコいいよりも優しいのがいい、って言ってくれたよね」

「え?うん、そうだよ」

「じゃあさ、さっきの私がカッコいいって言ってくれた大ちゃんは、どっちのがいいの?」

普段なら恥ずかしくてまずこんな事は訊けない。が、気分の昂りが彼女を饒舌にさせていた。
大妖精は考える間も取らず、すぐに口を開く。

「そんなの決まってるよ!」

「え……ど、どっち?」

鼓動を早める心臓を押さえつけ、小悪魔は尋ね返した。
すると大妖精は、ニッコリ満点笑顔できっぱりと言い切る。



「カッコよくて優しいこあちゃんが一番好きだよ」



――― 言葉は用いず、はにかんだ笑顔で小悪魔はそれに応えた。
――― パチパチと弾けるような、刺激的な悪魔は好きですか?
ネコロビヤオキ
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コメント



0.1770簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
終始ニヤニヤしっぱなしだったw

ところで妖精の家って、多種族には見つけられるんでしょうか?
大妖精が小悪魔に「特別だよ」とか言いつつ見つけ方を教えたとかだとかわいい
5.100名前が無い程度の能力削除
こんな小悪魔は大好きです!
にとりの発電機が直ったら、楽に電荷溜められるんじゃないかなー。
7.100名前が無い程度の能力削除
ちくしょうかわいい
9.100名前が無い程度の能力削除
バイオショックw
10.100桜田ぴよこ削除
みんなが優しい幻想郷ですね。大妖精と小悪魔がとってもかわいいです。
11.100名前が無い程度の能力削除
ここまで理系なSSは始めてだw
「好き」が百合っぽくなく、仲のいい二人が微笑ましいです。
パッチェさんの母性もいい!


さて、私は生魚風呂に入ってる魔理沙でも見に行ってきます
12.80コチドリ削除
こあチュー、ゲットだぜ! 大ちゃん、君に決めた!

ネコロビヤオキさん×大妖精×小悪魔=計り知れない破壊力。
そんな認識を持つ俺にとって、この作品を読まないという選択肢は無かった。
なんだけど、ちょっと冗長に感じちゃったかなぁ、今作は。
やっぱり雷関連ですよね。発生メカニズムやら電荷収集魔法具、雷魔法の使い方なんかの説明が長い。
お話の本筋は大こあの友情物語だと自分は思っているんで、その長い説明が作品の面白さをアップさせているのかと
問われれば残念ですけど否定的にならざるを得ない。薀蓄系ならまた違ってくるのでしょうが。

作品に説得力を持たせるのはとっても大事だとは思うのですが、この作品に限っていえば
そこら辺の補足はもっと簡潔でも良かったんじゃないかなと思います。個人的にはね。
キャラの描写に関してはいつもの作者様だ。つまり大好きってこと。
大ちゃん、こあちゃん、パチェさん、にとりや魔理沙、みんなみんなね。
次回作、楽しみに待っています。
18.100ユウ削除
相変わらず大ちゃんとこあが可愛い。実に微笑ましいです。
保護者的なパチュリーも良かった。
毎回、ネコロビヤオキさんが描くあたたかい幻想郷には癒されますね。
これからも応援しています。
23.90名前が無い程度の能力削除
やっぱり王道展開ものはいいなぁ。
24.100名前が無い程度の能力削除
大こあは恋の静電気。友情と恋人の間ぐらいの関係に見えますよ!
二人の会話が甘すぎる!
27.100名前が無い程度の能力削除
貴方の大こあは相変わらず可愛い!
31.80ワレモノ中尉削除
読み応えのあるお話でした。
友人のために危険も顧みない大ちゃんとこあ、とても格好良かったです。
35.20名前が無い程度の能力削除
ちょっと冗長すぎて、ほのぼのとしてもシリアスとしても中途半端な印象を受けます
音ゲー好きなので頑張って欲しいですが、タイトルとの関連性もほぼゼロなのも気になる
36.無評価ネコロビヤオキ削除
あれ、コメント返してなかった!?ごめんなさい。今年のコメント、今年の内に。

>>3様
思う存分ニヤけていいのよ。笑顔になって頂けるお話を書きたいと常日頃から思っております故、こちらとしても願ったり叶ったり。
妖精の家は諸説ありますからね、確かに仰る感じだと本当に可愛い。

>>5様
大ちゃんが、そして小悪魔が大好きであるが故生まれたお話なので、そのコメントが本当に嬉しく感じます。
発電機は確かにそうなんですが、小悪魔自身はどうも静電気で満足しておられる模様。

>>7様
何かに打ち勝った!わぁい!とまあそれはともかく、有難う御座います。これからも可愛い子を書きたい。

>>9様
すげぇ、まさかこのネタが通じるとは。ワンツーレンチネタを入れる予定もありましたが割愛。

>>桜田ぴよこ様
いやマジで嬉しいなぁ、可愛いって言って貰えるの。自分の力と言うよりは大ちゃん達が元々可愛い所に要因がありそうですが。

>>11様
理系……とは言っても調べればあっと言う間に出てくるくらいの知識ですが、そう感じて頂けたのであれば目論見通り、なのかしら。
というか自分が書きたかったモノを全部拾い上げて下さったあなたのコメントが泣くほど嬉しい。
生魚風呂は、風呂上がりにイカスミを一気飲みする所までがワンセットなので、宜しければご一緒に。

>>コチドリ様
いつもいつもいつも有難う御座います。
そして毎度毎度的確なコメントをどうも有難う御座います。
確かに正直、ある程度は専門的な用語や知識が出てくる作品とは言え詰め込みすぎたきらいはありました。
噛んで含める、とまでは言わないものの、分からない部分があってはならないと考えているので、説明がくどくなってしまう事が多いようです。気をつけます。
良かったら見捨てないであげて下さい。

>>ユウ様
なんと、過去作品も読んで頂けているお。有難う御座います。
上のコメントにもちらりと書いていますが、やっぱり笑顔になれるお話が書きたいんですハイ。
それは読者の方もそうですし、幻想郷の皆様にも。

>>23様
変化球が投げられない自分は、直球を極め……あれ、前にも書いたっけ。まあいいや、これからもこんな調子で頑張ります。

>>24様
絶妙な関係よのォ。とにかく傍から見てて可愛く思えるような会話をと。ビリビリ。

>>27様
そりゃあもう好きなキャラツートップですもの。これからも書くよ!

>>ワレモノ中尉様
今回も本当に有難う御座います。長い作品だからなぁ、読み応えがある、となるか冗長と取られるか。
多くの方に前者のように思って頂けるようになれば、きっと作者としてもっと成長したと言えるのでしょう。

>>35様
えー、そのですね。あなたのコメントが、”2010年度 ネコロビヤオキの心を打ち砕いたコメント大賞”に選ばれました。ぱちぱち。
特に”関連性ゼロ”のとこ。確かにjubeatの”GIGA BREAK”が根底にあります。ですが、決してタイトルだけ引っ張ってきただけではありません。
この曲を何度も聴き、その中で浮かんだ妄想を基に何度もお話を広げた結果生まれた作品です。要するに、この作品のBGMと言っても過言ではありません。
それをそのように言われてしまっては、作品を丸々否定されたに等しいのでありまして……。
要するに、自身の妄想や伝えたい内容をお伝え出来なかった自分の力量不足が悪いんですハイ。
次はあなたをきっと唸らせます。