藍、藍、見て見てすごいわ、見てる!?
雪景色の中を一台の車が前進していく。
よりによって白い車を選ぶものだから、この状況下で見にくいことこの上ない。
はいはい、すごいですね。すごいです。
藍は大声で叫ぶ。
すると、運転者<ドライバー>は気を良くしたのか、ぐいぐいとスピードを上げる。
藍は別に心配していたわけではなかったが、後始末等の事由を遠慮し、儀礼上「あんまりスピード出さないでくださいね」と聞こえるように怒鳴る。
窓からにょっきりと手が生えたかと思うと親指を立てた。
<I AM OK>
肌色のサインが雪の中にまぶしかった。
藍は苦笑する。
減速を始めた車が、じょりじょりとかき氷を削るが如き異音を立てた。
じゃあ、車を止めるわよ、見ててね、見ててね(ドヤ顔)
まばゆい新雪をかき分け蹴散らしながら、車は尾灯を燃やしぐっと速度を落とす。
そして、静止する、と思われた瞬間、八雲私有道路33番コースにおいて車は滑稽な軌道を描き、運転手の紫ごと道路横の湖に沈んだのであった。
「年寄りの冷や水」
でかでかと藍の自室の壁に書かれた標語は決して自己啓発のためだけのものではなかった。
がりがり、と机をえぐる勢いで書き物をしつつ藍が溜め息を吐く。
すると紫が外から大声で藍を呼ぶ。
藍の可動式の耳がうるさそうに伏せた。
「藍、来て頂戴。すごい発見をしてしまったの」
「何ですか……?」
紫の横にある白い車を見た途端、藍の眉根に皺が寄る。
またこれかよ。
いい加減にしろよな。
紫と来た日には、外の世界で自動車というものに触れてからこの調子で仕方ないのだ。
F-1だ、F-1だなどと訳の分からぬことを四六時中抜かし、どこからかそれを持ってきたかと思えば、幻想郷の事もそこそこに五速だオーバーだと日がな乗り回しては藍に観覧の役目を押し付ける。
「これよ」
紫がなにやら奇妙な形に編まれた鎖を取り出した。
「こ、これは?」
「私としたことが迂闊だったわ」
紫はふっと白い溜め息を吐く。
寒いし、早く帰りたいな、と考える。
「チェーンよ」
「チ、チェン?」
「チェーン。これは文明の利器よ……、よくよく考えたら雪道のことなんて何も考えてなかったわ」
「はあ」
紫が指差す白い車には既にチェーンが着けられていた。
手際のいいことだ。
「雪道にはこれをつけるものなのよ」
「そういうものなのですか?」
そういうものなのよ、と微笑む紫の手には運転教本と書かれた書物が収まっている。
「もう帰ってもいいですか」
そう言いかけた、藍の後ろから耳をつんざく甲高い声が聞こえる。
「キャー! やばいやばい、やばい、紫超やばい。これアタシにプレゼント!?」
幽々子だった。
この寒い中、季節感のかけらもないのか薄い着物一枚ではしゃぎ回る幽々子を見て紫は「相変わらず可愛いわね」と微笑む。
「残念だけど、これはプレゼントという訳には行かないわ。これはあなたとドライブするための車だから」
「えー!! 何、それ。ヤバクナイ? ちょっとヤバクナイ? ドライブとか、聞いたことないんですけど。ってか、そこに立ってんの藍ちゃんじゃない!? え、いつからいたの? やばいやばいやばい。超久しぶりー、相変わらず耳超可愛いーーー。触っていい? ねえ、触っていい? 触っちゃうね」
こいつも一緒かよ。
世の中どうなってんだ。
耳を触られ、露骨に不快感を表す。
紫の友人に幽々子というのが居るのだが、この二人が揃って自分に迷惑がかからなかった試しがない。
「はい、注目」
紫が言った。
「今日は幽々子に快適なドライブを楽しんでもらおうと思ってるわ。名づけてサイレント・セレナ(静かな車)大作戦」
「サイレント・セレナ……?」
「何それ! 紫ったらネーミングセンスやばすぎ!!」
紫がぱしぱし、と手を叩いて笑う幽々子を車の助手席に乗せた。
「それじゃ、ちょっと行ってくるから」
シートベルトを締める紫に藍は頷く。
自分も付いて来い、とか言われなくて本当に良かった。
「じゃあ、行くわよ」
「ヤッバー、超すごい、これ動いてる!?」
馬鹿笑いをする幽々子の声が雪景色の中に消えていく。
寒いし、早く家に帰ろう。
踵を返したところで紫の声が聞こえる。
「藍、見て、見て! すごいわよ!」
振り返る。
すると今度は尾灯を煌かせた車がブレーキをかけ、安定した挙動で雪道に静止する。
紫、かっこいい! 今、停まったよ! すっごーい!!
「藍、どう!?」
いいんじゃないですかね。すごいですね。チェーン。
怒鳴り返す。
すると満足したらしくまたしても車の走り出す音が聞こえる。
よかったですね。
すごいですね。
チェーン。
次第に遠ざかっていく車。
一瞬のうちに右からやって来た雪崩が車を崖へと押し流した。
素直な点数
頭パッパラパーだよね。
でも次もやってほしい不思議!
一つだけ解るのは文才があるのにネタがない典型のような・・・
いや、もう何も言うまい
だが、満点はやれんww
ちぇぇぇぇぇぇぇん