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五月雨の降る頃に~上白沢慧音の日記より~

2010/11/30 20:21:11
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温かく、しとしとと降り注ぐ五月雨の中、
私達は炎の前にいた。
雨の中、煌々と燃え盛る炎を前に、
彼女は小さく、
「もう、慣れてしまった、」
と、笑いながら呟く。
か細いのどから紡がれるその声は、
燃え盛る炎に照らされたその顔は、
余りにも――

『五月雨の降る頃に~上白沢慧音の日記より~』

6月10日、天気:雨
寺子屋の仕事が終わり、空の色が朱から黒へと変わり始める頃に
私は今日も妹紅の家へと向かった。
竹林の中にひっそりとたたずむ一軒家、いや、いっそ掘っ建て小屋と言った方がしっくりくるような家に、鍵なんてものは存在しておらず、私は今日も勝手に上がらせてもらった。
そこまでは別に問題なかったが、どうやら当の家主が留守らしく、家は閑散としていた。
私は自分でお茶を一杯淹れ、そして飲んで一息ついた後に、夕餉の支度に取り掛かった。
妹紅は自分の体に関してかなりおざなりな所があるので私が管理してやらねば。
しばらくして夕餉を作り終えはしたのだが、妹紅は未だに帰って来ない。
まぁいいか、そう思った私は鍋に蓋をし、火を落としてから家を出た。
今日は特に変わったこともなく、書くことはこのくらいだ。
強いて挙げるとするならば、いつも私が来ると寄ってくる妹紅の飼い鳥が、姿を見せなかった事位か、まぁ今日は雨だし、そんなこともあるだろう。
明日も寺子屋がある、早起きの為に今日はもう寝よう。

6月11日、天気:雨
今日も雨だった、いや、正確に言うなれば『雨だ』か、
昨日から降り続いている雨は、今になってもやむ気配はなく、サァサァと心地いい音を鳴らしている。書き物をするのには丁度いい音だ。
さて、今日も今日とて、私は妹紅の家へと向かった。
時刻は昨日と同じ頃で、これは最早私の日課である。
肝心の家主、妹紅だが、今日はいた。
会って一番に、昨日勝手に来ては勝手に帰った事を叱られた。
どうやら私が来たのに会えなかった事で、少しむくれている様だ。こういうところは見た目相応の少女で、実に可愛く思う。
それと昨日の夕餉の感謝と、「美味しかった」との素直な感想を頂いた。
妹紅が美味しいと言ってくれたのならば、作ったかいがあるというものだ。私はそれに素直に「ありがとう」と告げ、今日も夕餉の支度をし、出来上がった物を2人で食べた。
食事をしながら少し会話をしたが、昨日何処に行っていたのか聞きそびれてしまった。明日にでも、聞こうと思う。

6月12日、天気:晴れ
今日は少し疲れる事があった、
帰ってきたのも今しがたで、もうだいぶ遅い時間だ。
今日はもう寝る事にしよう、今日の事は明日の日記にでも書くことにする。

6月13日、天気:曇り
今日は特に書くこともない、実に普通の一日だった。
なので、予定通り昨日の事を書こうと思う。
昨日、いつも通り妹紅の家へと向かっている途中、妖怪に遭遇した。
別に珍しい事でもないし、私は慌てず冷静に退治したのだが、少し時間を割かれてしまった。
そして、竹林に入る時、私は辺りを覆う異臭に気がついた。
焦げ臭い匂いがする、と言う事は恐らく…気がついたとき、私は走りだしていた。
そして、妹紅の家に辿りつき、大急ぎでその門戸を開いた。
妹紅は居間でぐったりと倒れ込んでいた。その肌には傷を確認できないが、纏っている服や、彼女の身長程もある長い白髪に、焦げ跡を確認することができた。
いつも通り、輝夜と死合っていたのだろう。
私が小さく彼女に呼び掛けると、彼女はひたすら明るい口調で返してきた。
私の予想に外れは無く、輝夜と殺し合いをしていたらしい。今日はどこがやられた、けどこっちもやり返してやった。そんな事を明るい口調で、妹紅は喋っていた。
一先ず夕餉を済ませた後、焦げだらけだった妹紅の髪が気になった私は、それを整えてから出ることにした。
先ほどから変わらない妹紅の口調、しかし、どこか無理するようなその明るさに、私は得も知れず、哀しい気持ちになった。
彼女、妹紅は死がない、だがそれはあくまで死が無いのであって、そこに痛みが残る事を、私は知っている。
本当ならば、彼女達に殺し合いなどして欲しくは無いのだ。しかし、同時にこれからも続けて欲しい、という感情も存在している。
死がない妹紅は、既にその生きる意味を無くしてしまった。
そして、彼女に生の実感をもたらしているのは、既に輝夜と殺し合う事だけだ。
そんな事を考えながら竹林を歩いていると、また妖怪に襲われた。
輝夜と妹紅の殺し合いのお陰で活性化していたのだろうか。
結局家に帰るまでに三度ほど妖怪に遭遇した。

6月15日、天気:雨
良くない事とは、得てして重なるものであると人はよく言う。
私はそんな事は無いと思っているが、今日ばかりはそんなものなのかも知れないと考えてしまう。
昨日、妹紅の飼い鳥が死んでしまった。
私が妹紅の家にたどり着いた時は、か細いながらもまだ生きていたが、
しばらくしてから、生に執着し、もがくように亡くなって行った。
妹紅は、その鳥を日ごろから可愛がっていた、鳥籠などないのによくこの家にやって来ていたし、よく懐いていた。
そして妹紅は、また残されてしまった。
静かに悲しんだあと、荼毘に付そうと妹紅は言った。
外に出て、木を集める。雨が降っていたが、濡れるのを構う事無くただ落ちた木の枝をj拾っていく。
それが十分な数集まり、妹紅の家の裏手で籠のような形に配置すると。鳥の死体を静かにその中央に添えた。
木は生木だし、雨も降っていたが彼女の術で起こした炎は消えることなく、ゆらゆら揺れている。
彼女は火を手繰る手を、休めることなく動かしていた。
そして、雨の中、煌々と燃え盛る炎を前に、
彼女は小さく、
「もう、慣れてしまった、」
と、笑いながら呟く。
か細いのどから紡がれるその声は、
燃え盛る炎に照らされたその顔は、
余りにも――哀しそうに映った
私は何も言わず、彼女の事を後ろから抱き締める。
少し吃驚したようだったが、彼女はそのまま、
声も上げず、
涙を流すことなく、
静かに、泣きだした。
荼毘に付し終えた後の灰は、竹林の入り口付近にある橘の樹の下に埋めた。
また、次の生命へと、命が循環する事を、私は祈っていた。
今日は寺子屋が休みであったので、私はそのまま妹紅の家に泊まり、翌朝帰宅した。
昨日の彼女を見て私は強く思うところがある。
彼女は、いつまでたっても子供のままだ。
いかに永い時を過ごそうとも、
いかに強力な力を得ようとも、
親の愛をしらず、
草木を愛で、
鳥獣と戯れる、
彼女はそんな子供なのだ。
だからこそ私は彼女の事を守ってやりたいと思う。
そして、そんな彼女だから私は彼女の事を、
たまらなく愛しく思うのだ。


     了
お久しぶりの投稿となります。
今回はけねもこの話を書いてみましたが、いかがだったでしょうか。
さて、今回はちょっと暗い話にしました。何故かと言うと自分の中のけねもこのイメージがこんな感じだからです、色で言うならモノクロ、セピア、そんな感じです
最後の方で少し触れていますが、自分は妹紅の事を『東方で最も人間らしい人間』だと考えています。次点が魔理沙。今回、そう言った妹紅と『人間を守ろうとする』慧音が少しでも表現でき、皆様にも共感していただけたら之幸で御座います。
では今回はここら辺で、次は何書こうかなぁ…
UGA
http://twitter.com/UGA_MM
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コメント



0.440簡易評価
6.90奇声を発する程度の能力削除
何とも言えない切ない気持ちになりました…
9.90名前が無い程度の能力削除
切なさで何も言えない……