※このお話は蛮天丸による秘封シリーズとは別次元のお話です。
「帰ってきた――」
そこでメリーは凍りついた。
黄色くて耳の長い、ちょっとうさぎに似たぬいぐるみが蓮子の腕の中で、いびつに形を変えていた。ドアを開けたメリーがぽかんと口を開いて部屋の入口に立ちつくしていて、蓮子はぬいぐるみを抱っこしたまま、メリーを呆然と見ている。
気まずい沈黙、そして数秒の間。やがてメリーが口の端を引きつらせて笑みにならない笑みを作った。
「ま、まあ蓮子にも女の子っぽいところがあっていいことね、さよなら」
「待ってメリー! 違うの、これは違うのぉおおぉおぉ――」
目にも留まらぬ速さで踵を返すメリー、そして真っ赤な顔でメリーを追いかけながらも、黄色いぬいぐるみを手放さない蓮子。「ぬいぐるみラバーズ蓮子」はメリーの記憶に果てしなく深く刻まれた。
「まさか、ぬいぐるみに先を越されるとは思わなかったわ――こんな、黄色いぬいぐるみにっ!」
「ああっ、ピカちゃんを殴らないで!」
黄色いぬいぐるみに重い拳を叩きつけようとするメリーの脇から「ピカちゃん」を取り戻す蓮子。その動きはまさしく電光石火。
「れ、蓮子、ついさっき見たばかりの私のぬいぐるみに名前まで付けて――!」
「い、いいじゃないの! 名前くらい」
ある冬の土曜の夜、蓮子は「帰るのが面倒くさい」と言ってメリーの家に泊まることにした。家に着くなり「食事は私が作るから、食材買ってきて」とメリーに買い物を押しつけたのだった。そうしてひとり寂しくスーパーで買い物をすることになった。
――なによ、蓮子は私と一緒にお買い物したくないの……? ああ、あそこの夫婦が仲良く長ネギを見ているわ。ああ、私も蓮子とあんなふうに――!
スーパーで若い夫婦は蛇睨みらしき殺気を感じたという。
場面を戻し、メリーとの会話の中でも「ピカちゃん」をもふもふする蓮子。顔を「ピカちゃん」の頭に埋めている蓮子。「ピカちゃん」は40センチくらいの大きさのぬいぐるみ。黄色くて耳の長いうさぎのようなぬいぐるみ。断じてネズミじゃないわ、とは蓮子の談。
「誰もそんなぬいぐるみの正体なんて聞いてないわよ」
「あなた、自分の部屋に置いてあるぬいぐるみのことも知らないなんて……!」
「偶然もらっただけのものに興味なんてわかないわよ」
「かわいそうなピカちゃん……私だけがあなたの悲しみを理解できるのね」
「私をその、ピカなんとかのひどい飼い主みたいに言うのはやめてくれる?」
「ピカちゃん! ……事実ひどいわよ。それにぬいぐるみはペット以上の存在よ」
まだほのかに顔が赤い蓮子が顔を半分ぬいぐるみに埋めながら、上目遣いでメリーを見る。さっきの恥ずかしさが残っているせいか、若干涙目。その姿、まるで純真なる少女そのもの。
それに気づいた瞬間、メリーに電流、走る――!
――か……可愛い! なにこれ可愛すぎ! そんなどうでもいいぬいぐるみより蓮子の方がずっとずっと可愛い! 作りものの可愛さと本物の可愛さとの境界を今ここに見た!
突然メリーのブルーの瞳が爛々と燃え上がる。
「いいわ、コレイイわ……!」
「メリーもわかってくれたの?」
蓮子がぱっと顔を輝かせてぬいぐるみから顔を離す。それはまるで大好きなケーキを与えられた子どものよう。純粋に煌めくその黒い瞳が眩しすぎて、メリーは思わず目を細める。さっきの雷で若干、脳回路がショートしてしまったらしい。
「うん、うん……スゴイ、たまらないわぁ!」
「じゃあ、メリーもこれ抱いてみて!」
とす。メリーの膝に乗る「ピカちゃん」。
…………。
むぎゅぅあぁああうううう。
「やめてえええぇぇ! ピカちゃんが張り裂けて死んじゃうう!」
「こんなもの、こんなものぉ!」
その日、ぬいぐるみの背丈が五センチほど伸びた。
「はあはあ……メリー、あなたどうしたっていうのよ……」
「ふう、ふう……悔しい、悔しいわ! まだハンサムな男性といちゃつくならともかく、どうしてこんなぬいぐるみに!」
「ハンサムって、メリーあなたいつの時代の人よ。あとなんでそんな限定が入るの?」
「そのぬいぐるみ、高く見積もっても定価4000円程度……悔しい!」
「質問は軽くスルーするのね」
「私の蓮子を奪っていいのは、私が惚れるほどのハンサムな男性と決まっているのよ!」
「ちょっと、話が飛び過ぎ――」
「黙らっしゃい」
再びぬいぐるみを抱いている蓮子にメリーが詰め寄る。
「今、はっきりさせるわ。私とそのピカなんとか」
「ピカちゃん! いい加減覚えてよ」
「とにかく、私とそのぬいぐるみ、あなたはどっちと結婚する気なの!」
「えっ」
メリーの質問に麻痺したように動きが止まる蓮子。メリーは荒い息を吐きながら蓮子の答えを待っていたが、やがて自分の質問の意味をもう一度よく考えてみた。
――あれ? 結婚?
その言葉の意味を理解したとき、メリーは鋼鉄の尻尾で叩かれたように愕然とした。どうやらメリーは大爆発したらしい。
一瞬の間のあと、激しく後悔しはじめるメリー。何を訊いてしまったのだろう、あんな質問をしたらドン引きされるに決まっている、私に変な趣味があると思われる、蓮子にこれからずっと冷たい目で見られつづける、秘封倶楽部が終わるかも、もしかしたら学校を退学させられるなんてことも――。
様々な悪夢がメリーの目の前を回りはじめたとき、蓮子が口を開いて言葉を口にした。
「なに言ってんの。私、このピカちゃんと結婚するのよ」
「えっ」
「ピカちゃんのお嫁さんになるわ」
「な……なっ……」
金色の髪をぷるぷるとプリンのように震わせるメリー。蓮子はまた顔を赤らめてぬいぐるみに顔をうずめた。
「だって、こんなに可愛いんですもの!」
「なな……な……」
メリーのショートしかかっていた脳内で思考が駆け巡る。
――なにこれなにこれ。え? 恥ずかしげもなくこんなこと言えてしまうもの? しかもわりと本気(マジ)で言ってるし、心の底からそんなこと思ってる? それとも人間の結婚相手は別にいて、このぬいぐるみとは一生の付き合いをする的な意味?
頭はぐるぐると回りつづけ、そして長い思考の末、メリーはついにひとつの結論を出す。
――ところで「メリー」って答えが返ってこなかった……。
「あれ、メリー? どうしたの。メリー? メリー――!」
メリーは目の前が真っ暗になった。
◆
「まあ、すぐに意識を取り戻してくれてよかった」
「私としたことが、情けなかったわ」
食後のお茶を啜りながらメリーはぼんやりと言う。
「はあ……でも、あなたのような女の子って本当にいたのね。噂では聞いたことあるけど、まさか私の身近にいる人だとは夢でも見たのかと思ったわ」
「可愛いものを見るとつい見境がなくなっちゃうのよね。だから家にぬいぐるみを置けないのよ」
「うん、あの様子なら一日中ぬいぐるみといちゃいちゃしてそうだもの」
「そうかもね、ほんと」
蓮子はお茶をぐっと飲み干して、椅子から立ち上がった。
「じゃあ、ちょっとお風呂借りるわね」
そう言ってネクタイを外してテーブルの上にぽんと投げる。上のボタンをすっと二、三個外しながら蓮子は脱衣所へ向かった。メリーは頬を桃色に染めながらそれをぼんやりと眺めていた。
――ああ、おふろ……。
風呂場のシャワーの音がメリーの耳に響いた瞬間、メリーは慌てて立ち上がり、ベッドルームに向かって客用の布団を取り出し、そして自分のベッドの横に敷いた。メリーの頭の中も若干桃色に染まっているようだった。
蓮子が風呂から戻り、メリーは「ベッドルームに行ってていいわよ」と言いながら彼女の横を通り過ぎて風呂に向かった。その際、ふっと蓮子の体から湯気が出ているのを見て、メリーは小さくため息をついた。
メリーはさっさと風呂をすませてしまった。
――ふふ、夜はこれからってね。待ってなさい、蓮子!
体を拭くのもそこそこに急いで寝間着に着替え、バスタオルで頭を拭きながらメリーはひたひたと自分のベッドルームへ向かう。なぜかメリーの胸の鼓動が少し強くなっていた。
――大丈夫、焦ることないわ、メリー……。
やがて彼女はベッドルームのドアの前に立つ。ごくり、とつばを飲み込み、深呼吸をした。やたら長い深呼吸。えい、と自分を押し出すようにしてメリーはドアを開いた。
「あがったわよ、蓮子」
「ああ、おかえり」
蓮子はまだ起きていた。メリーはほっと息をつく。
蓮子は客用ではなくメリーのベッドの上で脚を曲げてぷらんぷらんと行き場もなく揺らしていた。メリーが来るまで退屈していたらしい。
メリーはぎこちなく笑いながら蓮子に言う。
「じゃあ、蓮子――」
「私、そろそろ眠くなったから寝ていい?」
「え、ええ」
蓮子はメリーが頷いたのを確認して、さっさとメリーのベッドの中に入って横になって目をつむった。
――あれ、こんなはずじゃ……。
メリーの肩ががっくり落ちるような感覚がした。そしてもうひとつおかしな点に気づく。
「蓮子」
「ううん? なに?」
蓮子が目を開けてメリーを見た。
「それ、私のベッド」
「知ってる」
「いや……知っているなら、なおさらなんだけど」
「私はお客様だから、一番いいベッドで寝る権利があるわ、大丈夫」
「大丈夫じゃない、問題よ。私があなたを招いた記憶もなかったし」
「まあまあ、一日くらいはいいじゃない」
蓮子はいたずらっぽく笑って目をつむった。問答無用のサインだろう。
さっきまでのメリーの桃色思考はかくんかくんと落ちて、とても残念な青色に変わってしまった。
――ブラボー……。
メリーは心の中で蓮子の行動の色々に唸った。髪を乾かすことを忘れていたので、メリーの頭はもじゃもじゃになりかかっていた。
髪を乾かしてベッドルームに戻り、落胆しつつメリーは部屋の電気を消して、客用の布団に潜り込んだ。そして真っ黒な部屋の中、布団の中でもぞもぞしながらあれこれ考える。
――なによう、蓮子ったら、やたら私に冷たいじゃないの。
あれこれといっても蓮子のことしかない。
――買い物も一緒に行ってくれないし、あのぬいぐるみに抱きつきっぱなしだし、お風呂も一緒に入ろうとか言わないし、あっさり寝ちゃうし、おまけに私のベッドをとっちゃうし……ひどいわひどいわ……。
少し涙が出そうになるので、もう一度布団でもぞもぞして涙を抑える。
――ふう、せっかく蓮子が私の隣で寝ているっていうのに、なんで私はこんなことしか考えてないのかしら。もう今日はだめね、また次の機会を期待して、今日は早く寝ましょう……。
メリーは一度だけ首を蓮子の方に向けた。蓮子は安らかな呼吸をしていた。寝ているかもしれないし、寝ていなくてもじきに眠りにつくことだろう。せめて私の方を見ているかしら、というメリーの期待も虚しく、蓮子の顔は天井に向いていた。
「うう……」
落胆の声が漏れ、メリーはぐったりと布団の中で目をつむった。
しかしメリーは三十分たっても、一時間たっても眠れそうになかった。それどころか、だんだんそわそわと落ち着かない気持ちになってきた。腕が少し震えているような気もする。
――あ、あれ……これって……。
しかしメリーはそれを気のせいだと思いこもうとする。一度開いた目をもう一度ぎゅっと閉じて眠りにつこうとする。けれど今度は十分もたたないうちに体が震えはじめてきた。今度は気のせいではない。
暗闇の中でメリーは恐怖にぞっとする。体の震えがだんだんと大きくなってくる。
「う……あ……」
メリーは震える体を無理やり起こし、腕を蓮子の方に伸ばす。やっとの思いで蓮子が寝ているベッドに手を辿り着かせ、そしてぎゅっと「それ」をつかんだ。
「ごめんなさい……蓮子……」
メリーは「それ」をつかんだまま、倒れるようにして引き寄せた。
「うわっ!」
蓮子が短くも大きな悲鳴を上げて、飛び上がるようにして体を起こした。
「なに、何が起きたの!?」
寝ぼけまなこで蓮子は右左を見渡す。明かりをつけようと思ってもスイッチが近くになかったので、蓮子はベッドの上で窓のカーテンを開けてもう一度部屋の中を見渡す。すると、メリーがベッドのすぐ下で倒れているのが蓮子の目に入り、蓮子は一瞬ぞっとする。けれど、すぐに呆れの巨大なため息を吐くことになる。
メリーはベッドのすぐ下でピンク色の毛布をさすっていた。
「あの、もしもし……メリーさん?」
「ふえん、怖かったわ、パーパーパパ」
「……私の話、聞いてる?」
「うん、もうあなたを離しはしないわ、絶対に」
蓮子の声がまったくメリーの耳に入っていないようだった。すりすりと毛布を撫でつづけるメリー。目をつむってはいたが、幸せそうな笑みを浮かべていた。蓮子はもう一度大きなため息をつき、叫ぶようにしてメリーの耳元で声を出した。
「おおい、メリー!」
蓮子の声でメリーがはっと目を見開いた。
「……蓮子?」
「うん。私蓮子、今あなたの上から見ているの。ちなみに時刻は12時13分14秒」
「……」
「うん、寝起きかつあの出来事がなかったら、あなたの家から帰っているところだった」
何ごともなかったかのように目をそらして無理やり口笛を吹こうとする蓮子。しかしその音は間の抜けたロケットのような音しかしなかった。
メリーの顔がみるみる赤くなり、そして思わずメリーは叫んだ。
「待って蓮子! 違うの、これは違うのぉおおぉ……」
こうして「ピンク毛布ラバーズメリー」は蓮子の胸に果てしなく深く刻まれ、ついでに一晩にして二人はお互いの弱みを知ってしまったということになった。
「はあ……他人にこの事実が知られることがこれほど恥ずかしいことだとは思わなかったわ」
「私のさっきまでの気持ちがわかった?」
「うん、ごめんなさいね……」
「素直でよろしい」
メリーと蓮子はベッドに腰掛けてお互いの傷を舐めあう。
「それにしてもマイ枕を持参する話は聞いてたけど、マイ毛布があるとは思ってなかったわ。あなた、高校の旅行とかどうしてたの?」
「似たような毛布を探してそれを切り取って持っていったわ」
「うわ……そこまでするんだ」
少し引き気味の蓮子に、メリーが顔を赤らめながら言い訳する。
「寝る前にこのパーパーパパを撫でないとどうしても寝られないの!」
「おまけに毛布に名前つけてるし。ぬいぐるみよりもひどいんじゃ」
「うう……普通に引かれると結構傷つくわ」
「はいはい、ごめんなさい。私の件もあったしね。でも、人が寝ている間に毛布を奪い取るのはやめてよ。すごく驚いて本当に怖かったわ」
「……ごめんなさい」
しょんぼりするメリー。蓮子は軽くため息をついてメリーの頭を撫でる。
「そういうところは可愛いわよね、メリーって」
「なんか褒められている感じがしないんだけど」
「はいはい、じゃあそろそろ寝ましょうか」
そう言って蓮子はベッドから立ち上がって、客用の布団に入ろうとする。けれど、布団に座ろうとした瞬間、蓮子の手はメリーに掴まれた。
「ちょっとちょっと、なに?」
「蓮子……怖いわ」
「……へ?」
「さっきのことが怖くて、もうパーパーパパだけじゃだめなの……!」
「ええ、子どもじゃないんだから……あとその名前ダサい」
蓮子はあからさまに面倒くさそうな表情になる。けれどメリーは離すわけにはいかなかった。
――ふふ、これを逃す手はないわ……さあ蓮子、私と一緒に寝るのよ……!
蓮子のついでの一言には耳を貸さなかった。
蓮子は面倒くさそうにしていたが、メリーがぐいともう一度手を引っ張ると、しかたないように頷いた。
「わかったわよ……今日だけね」
「ああ、ありがとう、蓮子……」
――キタ!
とはおくびにも出さず、メリーは無邪気に喜ぶフリをして蓮子を自分のベッドに寝かせた。それからカーテンを閉め、蓮子の隣にメリーも体を並べ、上からパーパーパパと掛け布団をかけた。
蓮子は気恥ずかしそうに窓の方に顔を向けて寝ている。メリーは蓮子の後ろ姿をじっと見つめながらそっと蓮子の背中に顔をうずめた。
「ひゃあ!」
蓮子が小さく悲鳴を上げる。けれどすぐに何もなかったように一度体をもぞりと動かしただけで何も言わなかったので、メリーはそのまま蓮子の背中に顔をあてたままにする。
――あ、蓮子……いい匂い……。
いつもの蓮子の髪の匂いとは違い、メリーの使っているシャンプーの匂いも少し混じってそれがメリーにとって新鮮だった。体もメリーの石鹸を使っているせいか、また少しさっぱりしたような、それでも甘いような香りがした。
――それにあたたかい……。
ただ顔をうずめているだけではもったいない気がして、メリーは腕を伸ばし、蓮子の体に思い切り抱きついた。
「うわあ!」
また蓮子は体を震わせて悲鳴を上げ、そしてくるりとメリーの腕の中で体の向きを変えた。
「ちょっとメリー!」
「蓮子の抱き心地ってとってもいいわ」
「私はピカちゃんじゃないのよ」
「いいの、ピカなんとかよりもパーパーパパよりもいいと思うわ」
「……だから、ピカちゃんだって何度言えば……」
蓮子が呆れたようにため息をついた。それから目を上げたとき、蓮子の目とメリーの目が合う。二人の鼻と鼻があと数センチで触れるほどの距離。
一瞬の間、そして蓮子の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
「う……め、メリー……」
「蓮子」
メリーがそっと笑って蓮子に囁いた。
「私、蓮子をこうやって抱いていれば、もうピカちゃんだってパーパーパパだって、何もいらないわ。それだけでいい夢が見れる気がするの」
「……!」
ぼんっ、と蓮子の頭が爆発するような音があたりに響いたようにさえ感じられた。
「わわ、私……!」
うまく言葉を口にできず、蓮子は再び体を反転させた。メリーはその姿を見てふふ、と小さく笑いを漏らす。
「も、もう、明日も授業があるんだから、早く寝ましょう! 今はそれだけ!」
蓮子はそう言ってあとは口をつぐんでしまった。またベッドルームの暗闇を沈黙が埋める。けれどメリーにはわかっている。
メリーはそっと蓮子の背中に耳を当てる。柔らかい肌の下から、とくんとくんと早い鼓動を打つ心臓の音がする。そしてそれは同じように激しい鼓動を打つ自分の心臓とシンクロしているように感じられた。
メリーはもう一度ぎゅっと蓮子を抱きしめ、彼女の背中に顔をうずめて、そっとつぶやいた。
「うん、おやすみ、蓮子」
そうしてメリーは静かに目をつむる。ひとつのベッドの中で、蓮子と二人で寝られる幸せを噛みしめながら。
――こうやって寝られるなら、スーパーで一緒に買い物をしなくても、一緒にお風呂に入れなくても――
そこでメリーの思考が途切れ、彼女は静かに夢の世界に入る。
夢の世界に入る直前、夢と現の境界線上で、メリーは蓮子の声を聞いたような気がした。
「おやすみなさい、メリー……いい夢を……」
ギャグとしても面白かったし、2828させていただきました
ぎりぎり今日に間に合ったようで良かったです
蓮子がもう可愛すぎる
タイトルにハートブレイクショットされて開いてみたら大満足です。
あったかい話が読めて良かったです!
投稿日時、あと三秒でアウトだったんだ…
おめっとさん
何故3が5に視えたんだ…?
甘甘ですねえ。