私は地霊殿の主、古明地 さとり様のペットである。
数多いるペットの中の、その中にいる一人である。
この日私は、地霊殿の一室でそのさとり様が残した書置きを偶然見つけた。
『地上の医者から薬が来てるから、各自名前を見て受け取りなさい』
さとり様は優しいお方だ。数多いる私たちペットの健康管理にも十分に気を遣ってくれる。
この薬はたぶん、疫病予防とかそういう類の薬だ。私も以前口にしたことがある。
正直言ってあまり美味いものではないが、健康のためには仕方がないのだろう。
さて、その書置きの近くには、地上からの手紙等を貼り付けておくメッセージボードがあった。
そのメッセージボードに一つだけ薬の入った袋が画鋲で留められている。
メッセージボードの半分くらいは何も掲示がなくて、隣に画鋲だけが規則正しく並んでいた。
恐らくこの画鋲の数だけ薬入りの袋が貼ってあったのだろう。つまり受け取っていないのはあと一人だけという事になる。
こういった配布物の受け取り忘れは間々あることで、それが原因で私たちペットが叱られることも少なくない。
掲示をしていたのにどうして気がつかなかったのか。他の者も教えてやらなかったのか。
さとり様は私たちの足並みが乱れることを嫌う。
一人のミスはみんなでカバーしなさい。これはさとり様が口をすっぱくして、私たちにいつも言っている言葉だ。
そういうわけで私は、この袋を見つけてしまった以上無視をするわけにはいかない。
それに、一人だけ薬を貰えず病気にかかるようなことになったら悲しいではないか。
画鋲を外して袋を手に取り、まずは名前を確認した。
『霊烏路 空』と書かれている。
…………。れいうじ うつほ。聞いたことのある名前だ。
だがいかんせんここ地霊殿はペットが多すぎて、私も全員の名前を把握しているわけではない。
というか自分の名前すら覚えていない者も多いくらいだろう。ペットなんてものは所詮その程度のオツムなのだ。
かくいう私もこの霊烏路 空という人物が出てこないのだから、あまり人のことは馬鹿にできないが。
しかし持ち主がわからないからといって、そこで自分の役割を放棄するのはあんまりだ。
わからないことを考えていても仕方がないので、とりあえず行動に移すことにする。
地霊殿のペット事情に詳しいのはやはりお燐だろう。
彼女は気さくな性格で頭もよく、私たちペットからも、そしてさとり様からも一目置かれている存在だ。
彼女とコンタクトが取れれば、まず間違いなくこの薬の持ち主がわかる。
私は彼女を探すため、灼熱地獄跡へとやってきた。
お燐の仕事は死体を灼熱地獄跡まで運ぶこと。だからここにいることが一番多いのだ。
しかし今は不在のようだった。周りの火焔猫や地獄鴉にも聞いてみたが、お燐の居場所を知っている者はいなかった。
仕方がないので自分でお燐を捜しに行くことにする。ああ、そうだお燐のことを聞くついでに薬の名前についても尋ねればよかった。
あれだけ人数がいれば、一人くらいあの名前に覚えがあったのかもしれないのに。
灼熱地獄跡から地霊殿を通り抜けて、地底の賑わい旧都を駆ける。
相も変わらず賑やかな場所だが、お燐はあまりこういうところにはいない。
彼女は奔放な面こそあるものの、基本的には真面目な性格だ。仕事を放って遊びに繰り出すなど考えられないだろう。
ここは素通りで構わない。だから私は駆けていたのだ。
が、遠くから誰かに呼び止められた気がして、私は思わず足を止めてしまった。
「さとりのとこのペットじゃないか。どうしたんだ、こんな所で?」
杯を片手に酒を呑む鬼、私を呼び止めたのは勇儀さんだった。
「はっは、いくら私がへべれけでも、あんたがさとりのペットだってことくらいわかるよ」
言いつつ手にした杯を傾けて、勇儀さんは笑った。
勇儀さんはペットの間でも有名だ。地霊殿に招かれる数少ないお客さんの一人だから。
いつもどおりにお酒くさい点から判断すると、今は宴会から帰る途中だったのだろう。だというのにまだ酒を呑んでいる。
これからどこに行くのか、と尋ねると次の宴会だよと答えてくれた。
「ペットのための薬? へぇ、さとりのやつ、そんなものまで買ってるのか」
驚いたように勇儀さんがそう言う。
聞くところによると地霊殿の財政は徐々に、徐々にではあるが傾き始めているらしくて、
さとり様は倹約を心がけるとこの間勇儀さんと話したばかりだそうだ。
資金繰りが難しくなるのも無理はない。私たちペットは地霊殿でそれぞれ役割を担っているが、それが直接収入に繋がるということはない。
ペットの数が増えれば増えるほど、さとり様は財布の紐を締めなくてはならなくなるのだろう。
ただの一妖怪である私にも、分け隔てなく接してくれるさとり様。なんだか申し訳ない気分になってくる。
「はっはっは、そんな顔しなさんな。さとりはあんたのそんな顔が見たいわけじゃないんだからさ」
勇儀さんの豪快な笑い声に少し救われたような気分になった。
いつだったかさとり様も言っていた。あなたたちペットといるときが、一番心が和らぐんだと。
こんな私でもさとり様の支えになれているのかもしれない。そう考えると、ちょっとだけ元気が出てきた。
「お燐? ああ、そういえば見たかもしれないな。ネコ車を押しながら地上へ駆けてったよ」
やはりお燐は地上にいるらしい。
働き者の彼女のことだ。今日も遅くまで帰ってくることはないだろう。
勇儀さんに別れを告げて、ここからは空を飛んで地上を目指す。
薬の名前については聞かなかった。ペットのことなんか分かるはずもないし。
橋姫を見下ろしながら洞窟を進んでいくと、前方に光りの煌めきのようなものが見えてくる。
地上から風が吹いてきた。出口までもう少しだ。
とその時、私はまたしても誰かに呼び止められた。
「こーら。どこに行くの? もうこんな時間なのに」
私を呼び止めたのは、さとり様の実の妹であるこいし様だった。
こいし様はたいそうご機嫌な様子で、空を泳ぐみたいに逆立ちしながら、私ににこやかに声をかけてきた。
こんなところで何をしてるんだろう。
「私? 私はね、あなたみたいに外へ出ようとする子を呼び止めてあげてるんだよ。
なんてったって、今日は満月なんだから」
言われて風の吹き込んでくる地上への出口をよくよく見てみると、確かに外はもう夕焼けだった。
太陽のない地底で暮らしていると時間の感覚がなくなってしまうから、
寝て覚めて地上を覗きに行ったら夜だった、なんてことは日常茶飯事である。
こいし様の話によると、満月の夜は地上の妖怪たちが活発になっていて、いつも以上に危険らしい。
それを知ってわざわざ私たちを守ってくれるなんて、こいし様は優しいお方だ。
「ほらほら、分かったら早く地霊殿に帰りなさい。
あなたたちがみんな揃ってることを確認しないと、お姉ちゃんが心配するでしょう?」
さとり様が心配そうにしている姿は私も見たくない。
きっとこいし様も同じ気持ちなのだろう。つくづく私たちは主人に恵まれたと思う。
しかし、いくらさとり様と言えども、私たちペット全員の区別がついているとは考えにくい。
所詮私たちは畜生なのだ。妖怪変化ができるものも少数いるとはいえ、火焔猫も地獄鴉もみんな見た目はほとんど変わらない。
一人くらいペットがいなくたって、どうせわからないんじゃないか。
「そんなことないよ。お姉ちゃんはね、ペットのことはぜーんぶ覚えてるの。
見た目の違いだって、心の違いだって、みぃんな覚えてるんだから」
心の違い。
その言葉がなんだか私の心の中で響き渡った。
他人の心を理解できるさとり様。
普通の人物には見えない私たちの違いを、さとり様は文字通り心を汲み取って理解している。
だからさとり様からすれば似たような存在など有り得なくて、全てのペットを覚えているのだろう。
きっと、私みたいなペットだって。
「あははっ、何言ってるの? お姉ちゃんがあなたのことを忘れるはずないじゃない。
他のみんなだって、きっと同じ気持ちだよ」
声をあげて笑うこいし様。
言われてみれば確かにそうだ。私もペットのみんな、仲間たちのことを悪く思ったことはない。
数が多くてたまに誰が誰だかわからなくなるけど。この薬みたいに。
……ああ、そうだ。お燐のことをこいし様に聞かなくては。
「お燐? あの娘はエレベーターのほうにいるはずよ。
私一人じゃあっちとこっちは見てあげられないからね、向こうはお燐に任せたの」
ああそうか。そういえば最近そんなものができたんだった。
お燐はきっとこいし様の言いつけを守って、エレベーターのところで睨みを利かせているのだろう。
なんだ、そういうことなら初めからじっとしていればよかったのか。
自分の空回りっぷりに苦笑いしながら、私は感謝の言葉とともにこいし様に別れを告げた。
結局私はスタート地点の灼熱地獄跡に戻り、そこで再びお燐を探した。
すると今度は簡単にいつものツインテールを見つけることができた。
「おお、あんたどこに行ってたの。探したんだよ」
お燐も私を探していたらしい。そうか、私が持ち場を放棄していたせいで仕事が滞ってるんだな。
しかし私の用件が先だ。私は懐に入れっぱなしだった袋を取り出して、この薬の名前について尋ねた。
するとお燐は、一瞬怪訝そうに眉をひそめたあと、可哀想なものを見るような目で私を見つめてきた。
「はぁ……。全くアンタってやつは、この名前が誰かわからないのかい?」
心底あきれたような顔でお燐がそう言う。
一体何がおかしいのか。この名前の持ち主は、そんなに有名なやつだったのか。
「いやいや、そういう問題じゃなくてさ。……あんた、自分の名前、言ってみな」
自分の名前を言えだなんて。
いくら私でもそれくらいはできる。お燐は私よりも賢いけど、そんな言い方をされるとは思わなかったな。
馬鹿にされているようで何だか気に食わなかったが、私ははっきりと答えてやった。
「私の名前は、お空だよ」
数多いるペットの中の、その中にいる一人である。
この日私は、地霊殿の一室でそのさとり様が残した書置きを偶然見つけた。
『地上の医者から薬が来てるから、各自名前を見て受け取りなさい』
さとり様は優しいお方だ。数多いる私たちペットの健康管理にも十分に気を遣ってくれる。
この薬はたぶん、疫病予防とかそういう類の薬だ。私も以前口にしたことがある。
正直言ってあまり美味いものではないが、健康のためには仕方がないのだろう。
さて、その書置きの近くには、地上からの手紙等を貼り付けておくメッセージボードがあった。
そのメッセージボードに一つだけ薬の入った袋が画鋲で留められている。
メッセージボードの半分くらいは何も掲示がなくて、隣に画鋲だけが規則正しく並んでいた。
恐らくこの画鋲の数だけ薬入りの袋が貼ってあったのだろう。つまり受け取っていないのはあと一人だけという事になる。
こういった配布物の受け取り忘れは間々あることで、それが原因で私たちペットが叱られることも少なくない。
掲示をしていたのにどうして気がつかなかったのか。他の者も教えてやらなかったのか。
さとり様は私たちの足並みが乱れることを嫌う。
一人のミスはみんなでカバーしなさい。これはさとり様が口をすっぱくして、私たちにいつも言っている言葉だ。
そういうわけで私は、この袋を見つけてしまった以上無視をするわけにはいかない。
それに、一人だけ薬を貰えず病気にかかるようなことになったら悲しいではないか。
画鋲を外して袋を手に取り、まずは名前を確認した。
『霊烏路 空』と書かれている。
…………。れいうじ うつほ。聞いたことのある名前だ。
だがいかんせんここ地霊殿はペットが多すぎて、私も全員の名前を把握しているわけではない。
というか自分の名前すら覚えていない者も多いくらいだろう。ペットなんてものは所詮その程度のオツムなのだ。
かくいう私もこの霊烏路 空という人物が出てこないのだから、あまり人のことは馬鹿にできないが。
しかし持ち主がわからないからといって、そこで自分の役割を放棄するのはあんまりだ。
わからないことを考えていても仕方がないので、とりあえず行動に移すことにする。
地霊殿のペット事情に詳しいのはやはりお燐だろう。
彼女は気さくな性格で頭もよく、私たちペットからも、そしてさとり様からも一目置かれている存在だ。
彼女とコンタクトが取れれば、まず間違いなくこの薬の持ち主がわかる。
私は彼女を探すため、灼熱地獄跡へとやってきた。
お燐の仕事は死体を灼熱地獄跡まで運ぶこと。だからここにいることが一番多いのだ。
しかし今は不在のようだった。周りの火焔猫や地獄鴉にも聞いてみたが、お燐の居場所を知っている者はいなかった。
仕方がないので自分でお燐を捜しに行くことにする。ああ、そうだお燐のことを聞くついでに薬の名前についても尋ねればよかった。
あれだけ人数がいれば、一人くらいあの名前に覚えがあったのかもしれないのに。
灼熱地獄跡から地霊殿を通り抜けて、地底の賑わい旧都を駆ける。
相も変わらず賑やかな場所だが、お燐はあまりこういうところにはいない。
彼女は奔放な面こそあるものの、基本的には真面目な性格だ。仕事を放って遊びに繰り出すなど考えられないだろう。
ここは素通りで構わない。だから私は駆けていたのだ。
が、遠くから誰かに呼び止められた気がして、私は思わず足を止めてしまった。
「さとりのとこのペットじゃないか。どうしたんだ、こんな所で?」
杯を片手に酒を呑む鬼、私を呼び止めたのは勇儀さんだった。
「はっは、いくら私がへべれけでも、あんたがさとりのペットだってことくらいわかるよ」
言いつつ手にした杯を傾けて、勇儀さんは笑った。
勇儀さんはペットの間でも有名だ。地霊殿に招かれる数少ないお客さんの一人だから。
いつもどおりにお酒くさい点から判断すると、今は宴会から帰る途中だったのだろう。だというのにまだ酒を呑んでいる。
これからどこに行くのか、と尋ねると次の宴会だよと答えてくれた。
「ペットのための薬? へぇ、さとりのやつ、そんなものまで買ってるのか」
驚いたように勇儀さんがそう言う。
聞くところによると地霊殿の財政は徐々に、徐々にではあるが傾き始めているらしくて、
さとり様は倹約を心がけるとこの間勇儀さんと話したばかりだそうだ。
資金繰りが難しくなるのも無理はない。私たちペットは地霊殿でそれぞれ役割を担っているが、それが直接収入に繋がるということはない。
ペットの数が増えれば増えるほど、さとり様は財布の紐を締めなくてはならなくなるのだろう。
ただの一妖怪である私にも、分け隔てなく接してくれるさとり様。なんだか申し訳ない気分になってくる。
「はっはっは、そんな顔しなさんな。さとりはあんたのそんな顔が見たいわけじゃないんだからさ」
勇儀さんの豪快な笑い声に少し救われたような気分になった。
いつだったかさとり様も言っていた。あなたたちペットといるときが、一番心が和らぐんだと。
こんな私でもさとり様の支えになれているのかもしれない。そう考えると、ちょっとだけ元気が出てきた。
「お燐? ああ、そういえば見たかもしれないな。ネコ車を押しながら地上へ駆けてったよ」
やはりお燐は地上にいるらしい。
働き者の彼女のことだ。今日も遅くまで帰ってくることはないだろう。
勇儀さんに別れを告げて、ここからは空を飛んで地上を目指す。
薬の名前については聞かなかった。ペットのことなんか分かるはずもないし。
橋姫を見下ろしながら洞窟を進んでいくと、前方に光りの煌めきのようなものが見えてくる。
地上から風が吹いてきた。出口までもう少しだ。
とその時、私はまたしても誰かに呼び止められた。
「こーら。どこに行くの? もうこんな時間なのに」
私を呼び止めたのは、さとり様の実の妹であるこいし様だった。
こいし様はたいそうご機嫌な様子で、空を泳ぐみたいに逆立ちしながら、私ににこやかに声をかけてきた。
こんなところで何をしてるんだろう。
「私? 私はね、あなたみたいに外へ出ようとする子を呼び止めてあげてるんだよ。
なんてったって、今日は満月なんだから」
言われて風の吹き込んでくる地上への出口をよくよく見てみると、確かに外はもう夕焼けだった。
太陽のない地底で暮らしていると時間の感覚がなくなってしまうから、
寝て覚めて地上を覗きに行ったら夜だった、なんてことは日常茶飯事である。
こいし様の話によると、満月の夜は地上の妖怪たちが活発になっていて、いつも以上に危険らしい。
それを知ってわざわざ私たちを守ってくれるなんて、こいし様は優しいお方だ。
「ほらほら、分かったら早く地霊殿に帰りなさい。
あなたたちがみんな揃ってることを確認しないと、お姉ちゃんが心配するでしょう?」
さとり様が心配そうにしている姿は私も見たくない。
きっとこいし様も同じ気持ちなのだろう。つくづく私たちは主人に恵まれたと思う。
しかし、いくらさとり様と言えども、私たちペット全員の区別がついているとは考えにくい。
所詮私たちは畜生なのだ。妖怪変化ができるものも少数いるとはいえ、火焔猫も地獄鴉もみんな見た目はほとんど変わらない。
一人くらいペットがいなくたって、どうせわからないんじゃないか。
「そんなことないよ。お姉ちゃんはね、ペットのことはぜーんぶ覚えてるの。
見た目の違いだって、心の違いだって、みぃんな覚えてるんだから」
心の違い。
その言葉がなんだか私の心の中で響き渡った。
他人の心を理解できるさとり様。
普通の人物には見えない私たちの違いを、さとり様は文字通り心を汲み取って理解している。
だからさとり様からすれば似たような存在など有り得なくて、全てのペットを覚えているのだろう。
きっと、私みたいなペットだって。
「あははっ、何言ってるの? お姉ちゃんがあなたのことを忘れるはずないじゃない。
他のみんなだって、きっと同じ気持ちだよ」
声をあげて笑うこいし様。
言われてみれば確かにそうだ。私もペットのみんな、仲間たちのことを悪く思ったことはない。
数が多くてたまに誰が誰だかわからなくなるけど。この薬みたいに。
……ああ、そうだ。お燐のことをこいし様に聞かなくては。
「お燐? あの娘はエレベーターのほうにいるはずよ。
私一人じゃあっちとこっちは見てあげられないからね、向こうはお燐に任せたの」
ああそうか。そういえば最近そんなものができたんだった。
お燐はきっとこいし様の言いつけを守って、エレベーターのところで睨みを利かせているのだろう。
なんだ、そういうことなら初めからじっとしていればよかったのか。
自分の空回りっぷりに苦笑いしながら、私は感謝の言葉とともにこいし様に別れを告げた。
結局私はスタート地点の灼熱地獄跡に戻り、そこで再びお燐を探した。
すると今度は簡単にいつものツインテールを見つけることができた。
「おお、あんたどこに行ってたの。探したんだよ」
お燐も私を探していたらしい。そうか、私が持ち場を放棄していたせいで仕事が滞ってるんだな。
しかし私の用件が先だ。私は懐に入れっぱなしだった袋を取り出して、この薬の名前について尋ねた。
するとお燐は、一瞬怪訝そうに眉をひそめたあと、可哀想なものを見るような目で私を見つめてきた。
「はぁ……。全くアンタってやつは、この名前が誰かわからないのかい?」
心底あきれたような顔でお燐がそう言う。
一体何がおかしいのか。この名前の持ち主は、そんなに有名なやつだったのか。
「いやいや、そういう問題じゃなくてさ。……あんた、自分の名前、言ってみな」
自分の名前を言えだなんて。
いくら私でもそれくらいはできる。お燐は私よりも賢いけど、そんな言い方をされるとは思わなかったな。
馬鹿にされているようで何だか気に食わなかったが、私ははっきりと答えてやった。
「私の名前は、お空だよ」
うん、まぁ、いつもそう呼ばれてたんじゃ、忘れても仕方ないな。
頭はよわいけど、その行動は全て純粋に優しさから生まれている。
なんと素敵な空回りでしょう。
お空だけに(ぼそ)
おくうかぁいいよおくう
結構、文中で考えてることまともなのに
お空可愛いなw
もう、頭をこづいた後に思い切り撫で回します、自分がお燐だったら。
おおらかで寛容な地霊殿。そりゃ平和に育ちますわー……w
この一文が何ともw
オチにほっとして和みました