カラン、カラン。
ガラッ、と立て付けの悪い扉が開くのと同時に「客が来たことを知らせる」ベルが涼やかな音を立てた。
僕はこの音が好ましかった。聞いたこともなかったのに、何故か懐かしさを感じさせるからだ。
どうやら元は“外の世界”のもののようだ。
ということはこの綺麗な音色も幻想になってしまったのだろうか。
もしかしたら外の世界の店の主人は皆、客が来たのを第六感で察知する程度の能力でも身につけているのかもしれない。
そうだとしたらまあ、このベルが必要無くなるのも仕方ないのか。
勿体無いな――ただし、少々欠陥品のようで僕はため息をついた。
「いらっしゃいませ―――なんだ、君かい。今度からはそのベルを鳴らさないでくれるか。
それは客人用でね、僕は店主として出迎えてしまうんだ」
「へえ」
およそ『客』には見えぬ少女はくちびるを歪ませてにやり、と笑う。
「いいじゃないか、別に。もてなされるのは大歓迎だぜ」
「客が来たことを知らせる」ものの割には、どうやら相手の判別はつけられないらしい。
ベルを鳴らして入ってきたのは見慣れた大きな三角帽子だった。
「それで、今日はどうしたんだい」
帽子を被ったままお気に入りの壺に腰を下ろしている魔理沙に問う。
もちろん壺は売り物だが、この子に言って聞くわけが無い。注意はするが、内心諦めている。
もはや彼女専用の椅子と成り果てていた。
僕の質問に対しんー、と生返事を返した後に勢いよく壺から立ち上がる。
金色の髪がふわりと舞って小さな背中に降りるのを視線の端に留めつつ、成る程、何も言わない方がいいのかもしれない、と考えていた。
僕が座るなと言うから座るのか。
僕が下りろと言うから下りないのか。
彼女は筋金入りのひねくれ者であるからして、言われた事に素直に従うような事はそうそうないだろう。
自分から壺を下りた魔理沙は、無意識の内に術中に嵌まっていたのだ。
「よし、次からはこれでいこう」
「な、香霖。そういう事は喋ったら意味が無いんじゃないか?」
いつのまにか苦笑いの魔理沙が目の前に立っていて、すぱん、と手に持った帽子で殴られた。
しまった、口に出ていたようだ。
「…僕としたことがしくじったな。さぁ、ところで何の用だ。
まさか殴りに来ただけじゃないだろうな?」
そりゃよっぽどの暇人か、大層な馬鹿だな、と魔理沙が言う。
「お望みとあらば何度でも殴ってやるぜ。そんな趣味はないけど。
あのさ、今日はこいつの修理を頼みたいんだ」
魔理沙がスカートから取り出したものを慣れた動作でこちらへ投げる。
「っとと、…八卦炉か。この間も点検したばかりじゃなかったか?」
つい一週間前ぐらいに一度見たはずだ。たいした異常はなく、煤を掃除した程度だった。
「ちょっと調子が悪いんだよ。乙女にはいろいろあるもんだ」
スカートのしわをのばしつつ魔理沙が言った。
八卦炉はぱっと見たところおかしな所は無い。炉の中を確かめてみた方がいいかもしれないな。
…しかし、目の前の少女が乙女とはこれ如何なるものか。
少なくとも健全な乙女は異性の目の前でスカートに手を突っ込んだりしないだろう。
魔理沙の服は大概僕が仕立てたものだが、まぁ、スカートの中に収納を作った僕にも原因がある。
正しくは脚に八卦炉や瓶や細かい道具を収納できるベルトを付け、それをスカートで覆い隠しているのだ。
よって必然的に、道具を取り出す際はスカートに手を突っ込む形になる。
やましい考えは無い。断じて無い。
変な思考を頭を振って取り払い、作業にとりかかる事にした。こういうのは早い方がいいだろう。
「……なあ、魔理沙」
「なんだよ?」
「いや、どうしてそこに座ってるのか聞きたい」
何故か、僕の膝の上に座っている魔理沙に問うと「だって壺に座られるのは嫌なんだろう」と当たり前のように返してきた。
ふわふわした髪が頬に当たってどうもくすぐったい。
言動が生意気な割には、借りてきた猫のようにちょこんと膝の上に座っていた。
八卦炉の点検をするのには正直邪魔だったのだが、彼女には退く気はさらさら無いようだ。
カチャカチャ、と無機質な音ばかりが店内に響く。
こういう時にこそ、あの涼やかなベルの音が聴きたいものだ。
古い扉の上の方に無理やり紐で括り付けられたベルを見上げるが、悲しきかな、チリンとも揺れない。
魔理沙も魔理沙で黙ったままで、時折髪をいじったりこちらの作業を見ていたりと退屈そうにしている。
いつもなら魔理沙一人いれば騒がしい程なのだが、今日に限って何も喋り出さない。
一応作業中だからと気を遣っているのだろうか――いや、それは無いな。
「静かだな」
そんな事を考えていた矢先、魔理沙がぽつりと呟いた。
「うちはいつもこうさ。君が静かなんだ。
疲れてるのなら終わるまで寝ててもいい、奥に布団があるから」
「な、ね、眠くなんかないぜ。話題が無いだけで」
話題か。交流も広くトラブルメーカーの魔理沙が話題が無いと言うのも珍しい話だったが、
僕も暇つぶしの手段を持ち得ていないわけでは無い。
「そうか…じゃあ、『り』から始めようか。林檎」
「…はぇ?」
「しりとりだよ。しりとりの『り』から。昔君とよくやっただろう?」
魔理沙は何で急にしりとりなんか、という顔でこちらを見た。
炉の中を分解しつつ、たまにはいいじゃないか、と僕は返す。
まだ魔理沙が幼い頃に、同じように彼女を膝に乗せてしりとりをしたものだった。
親父さんに内緒で里を抜け出しては僕の店へやって来て、少し経つと暇だ暇だと僕の膝へ上がってくる。
あの頃はまだ語彙が少なく、長い時間は続かなかったものだ。
膝の上の温もりに、何だかそれを思い出したのだ。
「……ふうん。まったく覚えてないぜ」
ぼふっ、と背中を倒して僕に寄りかかると、魔理沙は眉をひそめ口を尖らせた。
「…仕方ないから付き合ってやるよ。胡麻」
その態度に僕は思わず笑った。
「それはどうも。繭」
「揺り籠」
「語呂」
「ロケット」
「月にでも行きたいのかい。鳥」
「もう御免だね。栗鼠」
「雀」
「め…メディスン。ああっと、今の無し。め、目印」
「し、し…鹿、でどうかな」
ゆっくりとしたテンポで、時間が流れていく。
結局、八卦炉を修理し終えるまでずっとしりとりは続いていた。
日はすっかりと暮れてしまって、窓の外には星空が輝いている。
いい加減言葉遊びも限界が来た頃、直し終わった八卦炉を魔理沙に手渡す。
「ほら、これで大丈夫なはずだ。後で試してみてくれ」
未だ僕の膝の上から動かないままで、おお、さんきゅ、と魔理沙が言う。
長時間乗せていたため実際しびれてきているのだが、今更どうでもいい気がしてきた。
「魔理沙、そろそろ降参しないかい。さっきから相当詰まってるじゃないか」
「香霖が降参したら終わってやるぜ。ほら、次は『い』だろ。早く」
い、い…。
「椅子」
「『す』!?また『す』かよ!?何でお前はさっきから『す』ばっか私に回すんだよ!」
「そりゃ、しりとりで君に負けるわけにはいかないからね」
さすがに大人気ないと思うが、後半戦は意識的に語尾を『す』で回していた。
それなのにここまで続けた魔理沙はすごいけれど、彼女にしりとりで負けるのはいただけない。
まったく変な意地だ。
が、ここで負けたら僕は一体何で魔理沙に勝てばいいのか。
しかし魔理沙も負けず嫌いだった。
うーん、うーんと必死に言葉を搾り出している。
「あ、」
しまった、何か思いついたのか。
これ以上続くと僕も危ないのである。
魔理沙はぴょんっ、と勢いよく膝から飛び降りると少し強張ったような表情でこちらを振り返った。
段差の上の僕と下の魔理沙とで、ちょうど同じくらいの目線で向かい合う形になる。
しばらくそのまま口をもごもごとして、頬がかあっと目に見えるほど赤くなった。
「…魔理沙?」
「…す、す、だよな。うん、すで始まる言葉。他にないんだから仕方ないよな。
香霖に負けるのは癪だから言うだけであって」
「『す』で合ってるよ。ちなみにあと十秒で時間切れだ」
じゅう、きゅう、はち、と声に出して数え始める。我ながら大変子供っぽいとは思う。
魔理沙といるとなんだかそういうふうになってしまうのだ。
当の本人はと言うと「な、な、」と顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせている。
酸素が足りていなさそうだ。しかし何をそんなに恥ずかしがっているんだ、この子は。
「あと五秒」
ごー、よん、さん、にー、いち。
「ああもうっ、言えば、言えばいいんだろっ!いいか、一回しか言わないからな。
香霖、す、す、す――――」
カランカランッ。
「こんばんは香霖堂さん、お邪魔しま―――お邪魔、しましたわ。どうぞごゆっくり」
夜に映える銀の髪の従者が扉を半分ほど開け、そのままガラガラと閉めた。
取り残されたベルの音だけがカラン、と寂しげに音を立てる。
その一部始終を背中で聞いていた魔理沙は呆然として、少し経ってからはっと何かに気付いたような顔をした。
咲夜が扉を開けていた三秒ほどの間に忍び込んできた冷たい空気はヒートアップしていた僕らの頭を少し冷やしたようで、
冷静になってみれば、猫のような金の瞳は思ったよりずっと近くにあった。
それを認識した目の前の少女は先程以上に真っ赤になって、いつの間にか触れていた細い指先まで熱くなっている気がする。
「…おい、魔理沙、今のは―――」
魔理沙はぷるぷると震えて、妙にゆっくりと僕から離れていった。
泣きそうな目、耳まで真っ赤にして、右手には……八卦、炉?
「待て、魔理沙っ!あれほど店の中では撃つなと」
「こ、香霖のす、す」
まばゆい光が僕の視界を埋め尽くした。
どうやら、修理の効果は上々のようだ。
「…す、すっとこどっこい!ばかあっ!」
僕が最後に聞いたのは、半分泣いたような魔理沙の声だった。
ガラッ、と立て付けの悪い扉が開くのと同時に「客が来たことを知らせる」ベルが涼やかな音を立てた。
僕はこの音が好ましかった。聞いたこともなかったのに、何故か懐かしさを感じさせるからだ。
どうやら元は“外の世界”のもののようだ。
ということはこの綺麗な音色も幻想になってしまったのだろうか。
もしかしたら外の世界の店の主人は皆、客が来たのを第六感で察知する程度の能力でも身につけているのかもしれない。
そうだとしたらまあ、このベルが必要無くなるのも仕方ないのか。
勿体無いな――ただし、少々欠陥品のようで僕はため息をついた。
「いらっしゃいませ―――なんだ、君かい。今度からはそのベルを鳴らさないでくれるか。
それは客人用でね、僕は店主として出迎えてしまうんだ」
「へえ」
およそ『客』には見えぬ少女はくちびるを歪ませてにやり、と笑う。
「いいじゃないか、別に。もてなされるのは大歓迎だぜ」
「客が来たことを知らせる」ものの割には、どうやら相手の判別はつけられないらしい。
ベルを鳴らして入ってきたのは見慣れた大きな三角帽子だった。
「それで、今日はどうしたんだい」
帽子を被ったままお気に入りの壺に腰を下ろしている魔理沙に問う。
もちろん壺は売り物だが、この子に言って聞くわけが無い。注意はするが、内心諦めている。
もはや彼女専用の椅子と成り果てていた。
僕の質問に対しんー、と生返事を返した後に勢いよく壺から立ち上がる。
金色の髪がふわりと舞って小さな背中に降りるのを視線の端に留めつつ、成る程、何も言わない方がいいのかもしれない、と考えていた。
僕が座るなと言うから座るのか。
僕が下りろと言うから下りないのか。
彼女は筋金入りのひねくれ者であるからして、言われた事に素直に従うような事はそうそうないだろう。
自分から壺を下りた魔理沙は、無意識の内に術中に嵌まっていたのだ。
「よし、次からはこれでいこう」
「な、香霖。そういう事は喋ったら意味が無いんじゃないか?」
いつのまにか苦笑いの魔理沙が目の前に立っていて、すぱん、と手に持った帽子で殴られた。
しまった、口に出ていたようだ。
「…僕としたことがしくじったな。さぁ、ところで何の用だ。
まさか殴りに来ただけじゃないだろうな?」
そりゃよっぽどの暇人か、大層な馬鹿だな、と魔理沙が言う。
「お望みとあらば何度でも殴ってやるぜ。そんな趣味はないけど。
あのさ、今日はこいつの修理を頼みたいんだ」
魔理沙がスカートから取り出したものを慣れた動作でこちらへ投げる。
「っとと、…八卦炉か。この間も点検したばかりじゃなかったか?」
つい一週間前ぐらいに一度見たはずだ。たいした異常はなく、煤を掃除した程度だった。
「ちょっと調子が悪いんだよ。乙女にはいろいろあるもんだ」
スカートのしわをのばしつつ魔理沙が言った。
八卦炉はぱっと見たところおかしな所は無い。炉の中を確かめてみた方がいいかもしれないな。
…しかし、目の前の少女が乙女とはこれ如何なるものか。
少なくとも健全な乙女は異性の目の前でスカートに手を突っ込んだりしないだろう。
魔理沙の服は大概僕が仕立てたものだが、まぁ、スカートの中に収納を作った僕にも原因がある。
正しくは脚に八卦炉や瓶や細かい道具を収納できるベルトを付け、それをスカートで覆い隠しているのだ。
よって必然的に、道具を取り出す際はスカートに手を突っ込む形になる。
やましい考えは無い。断じて無い。
変な思考を頭を振って取り払い、作業にとりかかる事にした。こういうのは早い方がいいだろう。
「……なあ、魔理沙」
「なんだよ?」
「いや、どうしてそこに座ってるのか聞きたい」
何故か、僕の膝の上に座っている魔理沙に問うと「だって壺に座られるのは嫌なんだろう」と当たり前のように返してきた。
ふわふわした髪が頬に当たってどうもくすぐったい。
言動が生意気な割には、借りてきた猫のようにちょこんと膝の上に座っていた。
八卦炉の点検をするのには正直邪魔だったのだが、彼女には退く気はさらさら無いようだ。
カチャカチャ、と無機質な音ばかりが店内に響く。
こういう時にこそ、あの涼やかなベルの音が聴きたいものだ。
古い扉の上の方に無理やり紐で括り付けられたベルを見上げるが、悲しきかな、チリンとも揺れない。
魔理沙も魔理沙で黙ったままで、時折髪をいじったりこちらの作業を見ていたりと退屈そうにしている。
いつもなら魔理沙一人いれば騒がしい程なのだが、今日に限って何も喋り出さない。
一応作業中だからと気を遣っているのだろうか――いや、それは無いな。
「静かだな」
そんな事を考えていた矢先、魔理沙がぽつりと呟いた。
「うちはいつもこうさ。君が静かなんだ。
疲れてるのなら終わるまで寝ててもいい、奥に布団があるから」
「な、ね、眠くなんかないぜ。話題が無いだけで」
話題か。交流も広くトラブルメーカーの魔理沙が話題が無いと言うのも珍しい話だったが、
僕も暇つぶしの手段を持ち得ていないわけでは無い。
「そうか…じゃあ、『り』から始めようか。林檎」
「…はぇ?」
「しりとりだよ。しりとりの『り』から。昔君とよくやっただろう?」
魔理沙は何で急にしりとりなんか、という顔でこちらを見た。
炉の中を分解しつつ、たまにはいいじゃないか、と僕は返す。
まだ魔理沙が幼い頃に、同じように彼女を膝に乗せてしりとりをしたものだった。
親父さんに内緒で里を抜け出しては僕の店へやって来て、少し経つと暇だ暇だと僕の膝へ上がってくる。
あの頃はまだ語彙が少なく、長い時間は続かなかったものだ。
膝の上の温もりに、何だかそれを思い出したのだ。
「……ふうん。まったく覚えてないぜ」
ぼふっ、と背中を倒して僕に寄りかかると、魔理沙は眉をひそめ口を尖らせた。
「…仕方ないから付き合ってやるよ。胡麻」
その態度に僕は思わず笑った。
「それはどうも。繭」
「揺り籠」
「語呂」
「ロケット」
「月にでも行きたいのかい。鳥」
「もう御免だね。栗鼠」
「雀」
「め…メディスン。ああっと、今の無し。め、目印」
「し、し…鹿、でどうかな」
ゆっくりとしたテンポで、時間が流れていく。
結局、八卦炉を修理し終えるまでずっとしりとりは続いていた。
日はすっかりと暮れてしまって、窓の外には星空が輝いている。
いい加減言葉遊びも限界が来た頃、直し終わった八卦炉を魔理沙に手渡す。
「ほら、これで大丈夫なはずだ。後で試してみてくれ」
未だ僕の膝の上から動かないままで、おお、さんきゅ、と魔理沙が言う。
長時間乗せていたため実際しびれてきているのだが、今更どうでもいい気がしてきた。
「魔理沙、そろそろ降参しないかい。さっきから相当詰まってるじゃないか」
「香霖が降参したら終わってやるぜ。ほら、次は『い』だろ。早く」
い、い…。
「椅子」
「『す』!?また『す』かよ!?何でお前はさっきから『す』ばっか私に回すんだよ!」
「そりゃ、しりとりで君に負けるわけにはいかないからね」
さすがに大人気ないと思うが、後半戦は意識的に語尾を『す』で回していた。
それなのにここまで続けた魔理沙はすごいけれど、彼女にしりとりで負けるのはいただけない。
まったく変な意地だ。
が、ここで負けたら僕は一体何で魔理沙に勝てばいいのか。
しかし魔理沙も負けず嫌いだった。
うーん、うーんと必死に言葉を搾り出している。
「あ、」
しまった、何か思いついたのか。
これ以上続くと僕も危ないのである。
魔理沙はぴょんっ、と勢いよく膝から飛び降りると少し強張ったような表情でこちらを振り返った。
段差の上の僕と下の魔理沙とで、ちょうど同じくらいの目線で向かい合う形になる。
しばらくそのまま口をもごもごとして、頬がかあっと目に見えるほど赤くなった。
「…魔理沙?」
「…す、す、だよな。うん、すで始まる言葉。他にないんだから仕方ないよな。
香霖に負けるのは癪だから言うだけであって」
「『す』で合ってるよ。ちなみにあと十秒で時間切れだ」
じゅう、きゅう、はち、と声に出して数え始める。我ながら大変子供っぽいとは思う。
魔理沙といるとなんだかそういうふうになってしまうのだ。
当の本人はと言うと「な、な、」と顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせている。
酸素が足りていなさそうだ。しかし何をそんなに恥ずかしがっているんだ、この子は。
「あと五秒」
ごー、よん、さん、にー、いち。
「ああもうっ、言えば、言えばいいんだろっ!いいか、一回しか言わないからな。
香霖、す、す、す――――」
カランカランッ。
「こんばんは香霖堂さん、お邪魔しま―――お邪魔、しましたわ。どうぞごゆっくり」
夜に映える銀の髪の従者が扉を半分ほど開け、そのままガラガラと閉めた。
取り残されたベルの音だけがカラン、と寂しげに音を立てる。
その一部始終を背中で聞いていた魔理沙は呆然として、少し経ってからはっと何かに気付いたような顔をした。
咲夜が扉を開けていた三秒ほどの間に忍び込んできた冷たい空気はヒートアップしていた僕らの頭を少し冷やしたようで、
冷静になってみれば、猫のような金の瞳は思ったよりずっと近くにあった。
それを認識した目の前の少女は先程以上に真っ赤になって、いつの間にか触れていた細い指先まで熱くなっている気がする。
「…おい、魔理沙、今のは―――」
魔理沙はぷるぷると震えて、妙にゆっくりと僕から離れていった。
泣きそうな目、耳まで真っ赤にして、右手には……八卦、炉?
「待て、魔理沙っ!あれほど店の中では撃つなと」
「こ、香霖のす、す」
まばゆい光が僕の視界を埋め尽くした。
どうやら、修理の効果は上々のようだ。
「…す、すっとこどっこい!ばかあっ!」
僕が最後に聞いたのは、半分泣いたような魔理沙の声だった。
ともあれ、ほの甘いお話ごちそうさまでした。
という台詞が静かに聞こえ何やら印象深かった
てか、気づけよ霖之助w
とりあえずじーじぇーですぜ!
そして…瀟洒過ぎるぜ…
魔理霖最高~!w