旧都を抜けて私は地霊殿についた。
こういうときに私の小さい体は役に立つ。
屋敷の住人にばれないように、こっそりと私は地霊殿の探索を開始した。
聞いた話によると、地霊殿はこの一帯で一番大きな屋敷だ。
私の探し物もそこにあるかもしれない。
そう思い忍び込んだのだが。
これといってめぼしいものは・・・
「!」
テーブルの上に大きなチーズの塊が・・・
おっ、美味しい・・・!
つい口いっぱいにチーズを詰め込んでしまった。
「あら、かわいらしいお客さんですね」
誰だ!っと、しまったこれでは声をあげることもできない。
「この館に住む古明地さとりよ」
この屋敷の主なのか?
いやそれより、目の前の彼女は私の内心の質問に答えた?
「そうよ。私はさとり、心を読む妖怪よ」
心を・・・ということは今考えていることも読まれているのだろうか。
「そのとおり」
それは・・・
チーズを食べたままでも喋れて便利だ。
「ええ食べていていいですよ、言葉を介さなくても伝わりますので、今ミルクをお持ちいたしますね」
いや、私はいわゆる不法侵入者だぞ。
追い出される理由はあっても歓迎される理由はない
「こんな愛らしい来訪者を歓迎しない理由がありませんので」
さてどうしたものか。
私は宝塔を探してここまで来たのだが。
「宝搭ですか?」
ご存知ないか?外見はランタンのようなものなのだが。
「地底で聞いたことはありませんね、地霊殿にもそのようなものはないハズですよ」
やはり、あるとしたら地上のようだ。
ああ、ミルクありがとう。
「あなたは随分すんなりと信じますね」
どういうことだ?
「言葉通りの意味ですよ、私は人の心を読むことができる、だからこそ都合のいい言葉を返すことができる」
その考えはなかった。
私はあなたを疑っていないな。
あなたが親切だからか。
それとも私にとって、あなたという人が好ましいからか。
どちらにせよ。
私はあなたが好きなのだ。
恐らく、言語を介したやりとりというものが私達、動物がベースの妖怪にとって好ましくないからだろう。
「どういうことですか?」
私達はあくまで動物なため、人間の言語はそもそもあわないのだ。
どうしても煩わしいものを感じてしまう。
それはまわりくどい言い回しだったり、嘘だったり、だ。
一方でその言語がなければ意思の疎通も難しいわけだ。
人間との意思の疎通ができるせいで、多少感化されているのだろうな。それがたとえ間接的でも。
「なるほど」
ああ、だからこそ、あなたとの意思の疎通は心地よいのだ。
煩わしいものがないのだから。
「あなたは知らないかもしれませんが私は地底ではかなり嫌われ者ですよ?」
動物の妖怪でなければそれこそ嫌われるだろう。
私が普段煩わしいと思う虚構や、まわりくどい言い回しがあなたには一切通じないのだから。
個人として自立し過ぎているから伝えたくないようなことが発生するのだ。
力の強い妖怪ならともかく、人間や私達動物の妖怪はもともと群を成さなければ生きていけない。
だからこそ人間は意思の疎通が発達したのに、完全な意思の読み取りを前に嫌気を感じるようになってしまった。
あなたを嫌うような妖怪や人間は個人を強く持ち過ぎているのだ。
個人はその感情より群のことを考えなければいけないのに。
「あなたはどうなのですか?」
私は複数いる群の中の一人で、毘沙門天に従う者の一人だ。
「ではさっき私を好きだといったのは?」
それは・・・
群の意思だろうか。
確かに他の者であろうとあなたを好ましいと思うだろうが。
だけど私があなたを好きだと思ったのに。
その気持ちを他の者に盗られるのは、悔しいな。
つまり、私も相当人間に毒されているらしいな・・・
「そのおかげであなたが私を好いてくれるなら、それは私にとって幸せなことですよ」
・・・あなたは、素敵な人だな。
「ありがとうございます。あなたは群れにとって素敵な賢将だと思いますよ」
『しょう』とは私の上司を指す言葉だな。
それに私は賢くなんかない。
賢い将なら群れを捨ててでも、あなたに仕えたいなどとは思わないだろうから。
「私のところにきますか?私はあなたみたいな方が来てくれるのは嬉しいですよ。あなたの思慮深いところはうちのペットたちにも見習って欲しいところです」
他に誰かいる?
「たくさんいますよ。物忘れが激しくて猪突猛進な烏とか。知恵が働いて欲望に忠実な猫とか」
なるほど、それはなかなか大変そうだな。烏に猫か・・・
「私を好いて集まってくれた子たちだから」
そうだな、きっといい者たちなのだろう・・・
さて、随分と長居をしてしまったようだ。
「もっとゆっくりしていってもいいのですよ、まだチーズも残っているはずですし」
その言葉はとてもありがたいのだが、私のご主人の探し物の最中なので、一度合流しなければいけない。それに私一人のんびりしているわけにもいくまい。
それに、こちらに宝搭がないということは地上で既に見つかっている可能性も十二分に考えられる。
「そうですか」
さとり嬢。
「なんですか」
初対面の私がこんなことをあなたに思うのは酷くおかしなことかもしれないが、この思いに嘘はつけない。
それは心を読めるあなたが証明してくれるはずだ。
私はあなたが好きだ。
あなたと共にありたい。
「ありがとう」
これが私の気持ちだ。
『ちゅ』
今すぐには無理だが。
この先数十年、いや数百年になるかもしれないが。
私は必ずあなたに仕える。
「わかりました。楽しみに待っていますね」
それではさよならだ、さとり嬢。
「さようなら、小さな賢将さん」
魔界の手前、聖輦船にてご主人と合流することができた。
どうやら宝塔は無事見つかったらしい。
やはり、地上にあったようだ。
地底は幻想郷の端にあるせいか、どうもダウジングが効きづらくなるらしく人海作戦での捜索になったが、私が地底に行った理由はとくになかったようだ。
私は、私の定位置であるご主人の尻尾からぶら下がったカゴの中にすっぽりと入った。
我が親愛なる上司にして大将ナズーリンよ。
「なんだいあらたまって」
どうすれば大きくなれる?
「大きく?」
私はどうしても人の形の大きな体が必要なのだ。
烏や猫に食べられないように。
「永く生きて力を蓄えるのが一番じゃないかな」
私は少しでも、早く大きくなりたいのだ!
そう愛する者のために!
~Fin?~
それにしても口一杯に頬張るってハムスt(ry
あ、あと幻想卿→幻想郷ではないでしょうか
もはや何も言えません。お見事でした!
「え、ナズーリン浮気!?(違」などと思ってしまったよw
してやられたぜw
こんなたくさんの方に読んでいただけるとは思ってもいませんでした。感激です。
1>>
へけっ!げっ歯類なのだっ、ってことでひとつ。
2>>
おうふ。誤字でございます。ご指摘ありがとうございます。幻想卿、サー幻想って何者でしょうね。
3>>
お手本とはちょっと照れますね。驚いていただけたならなによりです。
5>>
さとナズ・・・そういうのもあるのか(ごくり)
8>>
好きな地霊殿でなんか書きたいと思ってたらこんな発想になってました。登場したのはさとりだけですけどね。
9>>
そりゃもー、素敵な笑みを浮かべ穏やかな眼差しで見つめる母親のようなさとりんですよー。画力があったら絵にしたいぐらいです。
17,21>>
書いてる段階でそんな反応を期待しながら書いてました。ありがとうございます!
25,28>>
とても光栄です。上手くまとめることができました。ありがとうございます。
35>>
最初は、ナズーリンと同じような振る舞いで書くからキャラとしては微妙かな。と思ったんですが。書いてるうちに愛着がわいちゃって。いつの間にやらかっこよくてかわいいです。
猫に烏、どっちも天敵だ・・・がんばれw
良かったです。
出会いからさとりの部下になるという決意までがあまりにも早すぎる気もしましたが、見事に引っかかったのでこの点数で。
ナズの教育次第ですかねーww
43>>
10年単位でがんばんなきゃいけなそうですよねー大変だww
48>>
二回目読むとまたちょっと雰囲気が変わるんで、もしよろしければ試してみてくださいww
52>>
あざーっす!そろそろ調子に乗ってますww
54>>
実は人語は喋れないのですよー言葉にしてるのは「ちゅ」だけですね。ナズの影響で心の声はこんなしゃべり方になっておりまする。展開が早いのは初投稿の時に書いた妹紅の話が長すぎて読みにくかったので、今回はかなり短く削ったのですよ。ほんとはト○とジェ○ーぐらいのサーチイズデストロイなお燐との追いかけっことか、こいしちゃんってどんな子なのよーとか書きたいことはたくさんあったんですけど、大幅にカットしましたーおかげで多少は読みやすい作品になったかとー
一本取られました。100点です。
そして最後まで読んでからタイトルをよく見ると、既に伏線があったのか、と驚きました。
がんばれば素敵な生活が待ってそうですもんねー敵は多いですがww
61>>
見事とは恐縮です。ありがとうございます!
64>>
タイトルの隠れた意味は『ナズーリン(ダウザー)の、ねずみ(小さな小さな賢将)』ですね。こっそりと張った伏線だったので気づいていただけたのは嬉しい限りです。ありがとうございます!
特に『しょう』には感服しました。
いやー、面白い。
文章も読みやすく、流れも自然でわかりやすかったです
> それに、こちらに宝塔がないとうことは
ないということは でしょうか?
二度読んでいただきありがとうございます。一度だけではよくわからないことや微妙な言い回し、言葉の意味など二度読むといろいろ変わってきますので、その変化を楽しんでいただけたら幸いです。『しょう』の部分は本来表記が星or将のはずのところをひらがなにしているので、鋭い人にはここでバレるのかなあと思い、微妙かとも思ったのですが驚いていただけたならなによりでございます。
75>>
素敵とは気持ちのいい言葉ですね。ありがとうございます。次もまた読みやすいように書けるようがんばらせてもらいます。『内藤琴葉(ないとうことは)既に見つかっている可能性も十二分に考えられる。』いったい何事でしょうね?きっと一緒に地霊殿に忍び込んだねずみの内藤琴葉が烏か猫に見つかってひどい目にあってるということなのではないかと。
すいません嘘です誤字です。訂正しておきました。ご指摘ありがとうございます!
見事なミスリード、感服いたしました。
ミスリードっていいね!
騙して悪いような気がしつつも嬉しいという複雑な気持ちでございます。
80>>
どうもどうもです
81>>
べ、別にチーズをくれたぐらいでアンタについていったりなんかしないんだからねッッ!
とは思ったんだ。
思ったんだけど、『しょう』で呆気なくタグを信じてしまったww
ちくしょうww
あざっす!
88>>
デレ期のナズって書きづらくってちょっとナズっぽくなくなっちゃいましたー
『しょう』はもちろん『将』ですし、タグの順番通り、さとり→ナズーリンの順で登場しましたよ(にやにや)
どもです!
コメントかなり遅れてごめんなさい。気に入っていただきなによりです!内容は1発ネタに近いものなので、今後も同じような気に入っていただける作品をあげれるかはわかりませんが。がんばります!ありがとうございます!
良かったです。。
コメント遅くなりごめんなさい。喜んでいただけたようでなによりです(笑)