「だーっれだ!」
ふと、そんな言葉とともに視界が遮られた。
いったい今回はどんなことを思いついたというのやら、読書中の私にこんな悪戯をしてくるやつなんて、彼女以外にいるはずもないわけで。
「……なにしてんの、小悪魔」
「ありゃ、よくわかりましたね妹様。わざわざ声まで変えたのに」
「私にこんな子供っぽい悪戯しかけるのなんて、どこをどう探したって小悪魔ぐらいのもんだよ」
「やった、褒められちゃいました!」
「いや、馬鹿にしてる」
「なんとっ!?」
なんともわざとらしく驚く彼女にため息をつきつつ、私―――フランドール・スカーレットは読書を再会した。
こうやって地下の図書館に足を運ぶのも日課になりつつあるし、そのたびに彼女に会うんだからもはや彼女の扱いにもなれたものだ。
それでも時たまペースを握られるけど、それはそれ、これはこれということで、ここはひとつ。
「小悪魔、仕事は?」
「あはは、今は休憩時間でして、ちょっと暇なんですよ」
「本でも読んでればいいんじゃないの?」
「それも魅力的な提案ですけどね、今の私は妹様を眺めていたい気分なのです」
なんともまぁ、素っ頓狂な返答をしたもんだ。
怪訝そうな表情で視線を向けてみても、彼女はにこやかな笑顔で私の隣の席に座りやがるのである。
「言っておくけど、今日の私は読書の気分だから、相手してあげないよ?」
「ふふ、先ほども申し上げたとおり、今日の私は読書よりも妹様を眺めていたい気分ですので」
「妹様の邪魔はしませんよー」なんて手をひらひらとさせて、彼女はそんなことをのたまった。
いつものこととはいえ、やっぱり小悪魔は変なやつだと思う。
基本的にまじめなやつなんだけど、三度の飯より悪戯が大好きなんて公然とのたまうトラブルメーカー。
飄々として雲のようなところのある彼女に、私はいつも翻弄されっぱなしなのだ。
でもまぁ、それを不快だと思わないくらいには、彼女との付き合いも長いのだけれど、それはさておき。
「まったく、……好きにすれば」
「はい。それでは、お言葉に甘えて」
まったく、何がそんなに嬉しいのか私にはわからない。
ちらりと小悪魔を盗み見てみれば、やっぱりニコニコと笑って嬉しそう。
一瞬、視線を向けていたことに気づかれたみたいで不思議そうに首を傾げられ、なんだか気恥ずかしくなった私は逃げるように読書を再開する。
ぺらり、ぺらり。ぺらり、ぺらり。
そんな風に、本のページをめくる音だけがこの空間を満たした。
最初は見られていることに気恥ずかしさを覚えていたのだけれど、本に集中しだすとそれも大して気にならなくなる。
それは、文字の一つ一つを追うたびに、私の意識が本の世界に引っ張られていくからか。
それとも、もっと別の違う理由なのか。
それはともかくとして、小悪魔がちょっかいをかけてくると思って警戒していたのだけれど、今のところそんな様子もない。
珍しいこともあるものだけど、今回は本当にただ眺めるだけに徹するらしかった。
ちらりと、ページを追う振りをして一瞬だけ小悪魔を視界に映せば、どこか微笑ましそうにこちらを見つめているだけ。
その表情は、果たしてどんな風に形容すればいいのだろうか。
母性的といえばいいのか、それとも女性的と表現すればいいのか。
それともあるいは、年下の子供の面倒を見るお姉さん、と表現しても差し支えないかもしれない。
なんだか、それはそれで恥ずかしいと思えばいいのか、それとも子ども扱いするなと憤りを覚えればいいのか微妙な気分だけど。
「ねぇ、小悪魔」
ため息をつき、ページをめくりながら彼女に言葉をかける。
ちらりと視線を向けてみれば、私から声をかけられるとは思わなかったみたいで、不思議そうな表情で目を瞬かせていた。
「どうなさいました、妹様?」
「うん、私のことなんか眺めてて楽しいのかなーって思ってさ。暇でしょ?」
「あぁ、そのことですか」
合点がいったといった風に、小悪魔はくすくすと笑った。
正直、私のことなんか眺めてても面白くないと思っていたんだけど、彼女の様子を見るにそれなりに楽しんでいるみたい。
私には、彼女の感じているその楽しさとやらがわからないんで首を傾げるしかないんだけど。
「妹様には経験ありません? こう、なんとなーくそんな気分になる日とか」
「いや、ないから聞いてるんだけど」
「ありゃりゃ、そうですか。私は眺めてるだけで満足なんですが、そーですねぇ」
うーんと、なにやら考え込んだ小悪魔。
とりあえず、小悪魔は暇してないみたいなんで私が気にする必要はなくなったんだけど、何故に彼女が考え込み始めたのやら。
そうして、彼女は何を思いついたのかニマァと嫌ぁな笑みを浮かべておいでだった。こう、なんと言うか悪代官みたいな感じの。
うん、ものすっごい嫌な予感しかしない。
「妹様、もしもお嬢様が居眠りしているところを見つけたら私みたいに眺めてみるといいですよ」
「なんでさ?」
「ふふ、そうしたら今の私の気持ちもお分かりになると思いますよー」
「……なーんか、釈然としないんだけど」
彼女のことだ、何かしら企みがあることは間違いないんだろう。
だって、小悪魔だし。きっと私には理解できない変な企みでも思いついたに違いない。
いや、正直な話そんな企みに向かう思考は心底理解したくはないけども。
「っと、そろそろ休憩時間も終わりですね」
「あれ、意外と短いね?」
「いつもこんなものですよー。それでは妹様、ごゆっくり」
にこやかな笑顔を浮かべて席を立ち、彼女は上機嫌にこの場を去っていった。
スキップしながら去っていくその後姿を見ながら、私を眺めていたのが楽しかったのか、それとも思いついた企みが成功するかどうか楽しみなのか判断に迷う。
「まったく、相変わらず掴みどころのないやつめ」
呆れたようにため息をついて、読書を再会する。
小悪魔の真意は相変わらず読めないけれど、気にしていたって仕方がない。
こうやって本を読み進めていけば、彼女が何を考えているかなんて気にもならなくなるだろうし。
ぺらり、ぺらり。ページをめくる。
再び読書に没頭し始めた私は案の定、彼女が何を考えているのかも気にならなくなって、文字を追うたびに本の世界へとのめりこんでいくことになったのだった。
▼
そんなことがあった図書館の帰りのことである。
今日読んでた本の続きを求めて、借りっぱなしらしいお姉様の部屋にまで足を運んだ。
いつもならこの時間は部屋にいるはずだし、ノックもせずにドアを開けた私の目の前に飛び込んできたのは、テーブルに突っ伏して眠りこけるお姉様の姿だった。
「あーあ、こんなところで寝ちゃってさぁ。いい年したレディが聞いて呆れるというか……」
まぁ十中八九、昼間に博麗神社に行ってるのが主な原因なんだろうけれど。
夜に眠る吸血鬼って正直どうなんだろうか? 確かに、お姉様は巫女のことがお気に入りみたいだけど、ものには限度というものがあるわけで。
「まったく、お姉様はしょうがないなぁ」
呆れたように言葉をこぼして、ベッドにあった毛布をかけてあげる。
これから寒くなる時期だから、吸血鬼だって風邪にかからないとはいえ寒いものは寒いわけで。
以前、小悪魔からお姉様が風邪を引いたって言う話を聞いたような気がするけど、それはこの際気のせいだったってことでここはひとつ。
毛布をかけたらわずかに身じろぎしたけれど、それも少しだけで起きる気配はない。
その様子をぼんやりと眺めていると、なんとも幸せそうな寝顔で暢気な寝息を立てている始末。
テーブルの反対側にすわり、頬杖をついてそんなお姉様の様子を眺めている自分。
―――もしも、お嬢様が居眠りしていたら私みたいに眺めてみるといいですよ?
不意に、小悪魔の言葉が脳裏によみがえる。
結局、あの子が何を考えているのかわからないままだったけれど、こうやって眺めていれば何かわかるのだろうか?
コチコチと、柱時計の音が室内に響き渡る。
今この時間は咲夜は休憩のはずだし、しばらくはこのまま眺めてみるのも悪くないかもしれない。
小悪魔が何企んでたのかわかんないけど、たまには小悪魔の企みに便乗するのも悪くないかも。
そうやってずっと眺めていたのだけれど、不思議と飽きが来ない。
幸せそうな寝顔を眺めているのも悪くないし、時々髪をくるくるといじってやればへにゃっと緩んだ笑顔を浮かべるお姉様っていうのもなんだか新鮮だ。
普段、お姉様のこういった表情はなかなか見れないもんだから、なんだか得した気分。
うん、確かにこんな風に眺めているのも悪くないかも。
「んにゅ?」
「あ、起きた」
いったいどれだけ眺めていただろう。
眠そうな目をこすりながら身を起こしたお姉様は、私の顔を見るなり顔を真っ赤にして思いっきり後ずさろうとして、椅子に引っかかってすっころんだ。
おぉ、面白い反応だなぁ。
「な、なななななな何でフランがいるの!?」
「うん? お姉様が私が今日読んでた本の続き借りてるって聞いたから、それを取りに来たついでにお姉さまの寝顔眺めてた」
「な、なんですってー!!?」
ニヤニヤしながらからかうように言葉をつむいでやれば、顔を真っ赤にして声を上げるお姉様。
寝起きで頭が回ってないのか、あるいは寝起きを私に見られた気恥ずかしさからか。
どっちにしてもまぁ、なんともかわいらしい反応だこと。
多分、小悪魔が狙ってたのってコレだったんだろうなぁ。
……相変わらず、いい性格してるわね、本当。
「それにしても、ずいぶんとおねむなのねぇお姉様ってば。そんなに眠いなら、私が頭を撫で撫でしながら一緒に眠ってあげましょうか?」
「フラン、姉を馬鹿にするのもいい加減になさいッ! 是非ッお願いしますッ!!」
「って、お願いすんの!!? お願いしちゃうのそこで!!? しかも土下座ってどうなの!!?」
なんかすっごい情けないお姉様の姿を見た気がしたけど、きっとこれも寝起き故の弊害に違いない。
……うん、そういうことにしておこう。お姉様の名誉のために。
そんなわけで、そこまでされて断るわけにも行かず、結局私はお姉様と一緒のベッドで眠ることになった。
なんだか複雑な気分だったのだけれど、頭を撫でられていたお姉様が心底嬉しそうだったから、まぁいいかと笑う私だったのである。
▼
「だーっれだ!?」
「いや、だから小悪魔でしょ?」
そんなわけで翌日、今日もまた目隠ししてきた小悪魔を軽くあしらいつつ、図書館で読書に励む私だった。
あっさり見破られたことがそんなに不満だったのか、むーっと頬を膨らませるその様子はなんだか子供っぽい。
「何故にわかりますか妹様」
「だから、こんなことするのあんた以外にいないでしょうが」
「わかりませんよー? もしかしたら咲夜さんとか……」
「いや、絶対にないよ」
そんな相変わらずなやり取りの後、小悪魔は私の隣に座り込んだ。
ニヤニヤと笑っているところを見る限り、昨日何があったのかはうすうす感じてるみたい。
何しろ、朝からお姉様は上機嫌だったし、昨日の会話を考えれば小悪魔が答えに行き着くのはある意味で自然だったのだ。
「それで、どうでした?」
「そうね、案外眺めてみるだけって言うのも悪くないわ」
昨日は二回もお姉様の寝顔を拝めたことだし、なんだか得した気分だ。
小悪魔が、今もこうやって私のことを眺めているのもわかる気がする。
不思議と、暖かな気分になれるのだ。それが、親しい人物の表情であるならなおさら。
「ありがと、小悪魔。いい勉強になったわ」
「あはは、私は特に何もしてないんですけどねぇ。それで、かわいかったですか?」
「うん、小悪魔には見せてあげないけど」
そんな風に言葉にし合って、私たちは笑いあう。
今日もまた、彼女は私のことを隣で眺め続けるのだろう。
私がお姉様の寝顔が好きなのだとしたら、きっと小悪魔は本を読んでる私の横顔が好きなんだろう。
だとすれば、である。
私がお姉様の寝顔が好きなように、小悪魔が私の読書中の横顔が好きなように。
私が好きな小悪魔の顔は、きっと今のように楽しそうに笑う彼女の笑顔に違いないのだ。
なにはともあれ、今日も今日とて紅魔館は平和である。
たまには、こうやって眺められているというのも、悪くないのかもしれない。
ふと、そんな言葉とともに視界が遮られた。
いったい今回はどんなことを思いついたというのやら、読書中の私にこんな悪戯をしてくるやつなんて、彼女以外にいるはずもないわけで。
「……なにしてんの、小悪魔」
「ありゃ、よくわかりましたね妹様。わざわざ声まで変えたのに」
「私にこんな子供っぽい悪戯しかけるのなんて、どこをどう探したって小悪魔ぐらいのもんだよ」
「やった、褒められちゃいました!」
「いや、馬鹿にしてる」
「なんとっ!?」
なんともわざとらしく驚く彼女にため息をつきつつ、私―――フランドール・スカーレットは読書を再会した。
こうやって地下の図書館に足を運ぶのも日課になりつつあるし、そのたびに彼女に会うんだからもはや彼女の扱いにもなれたものだ。
それでも時たまペースを握られるけど、それはそれ、これはこれということで、ここはひとつ。
「小悪魔、仕事は?」
「あはは、今は休憩時間でして、ちょっと暇なんですよ」
「本でも読んでればいいんじゃないの?」
「それも魅力的な提案ですけどね、今の私は妹様を眺めていたい気分なのです」
なんともまぁ、素っ頓狂な返答をしたもんだ。
怪訝そうな表情で視線を向けてみても、彼女はにこやかな笑顔で私の隣の席に座りやがるのである。
「言っておくけど、今日の私は読書の気分だから、相手してあげないよ?」
「ふふ、先ほども申し上げたとおり、今日の私は読書よりも妹様を眺めていたい気分ですので」
「妹様の邪魔はしませんよー」なんて手をひらひらとさせて、彼女はそんなことをのたまった。
いつものこととはいえ、やっぱり小悪魔は変なやつだと思う。
基本的にまじめなやつなんだけど、三度の飯より悪戯が大好きなんて公然とのたまうトラブルメーカー。
飄々として雲のようなところのある彼女に、私はいつも翻弄されっぱなしなのだ。
でもまぁ、それを不快だと思わないくらいには、彼女との付き合いも長いのだけれど、それはさておき。
「まったく、……好きにすれば」
「はい。それでは、お言葉に甘えて」
まったく、何がそんなに嬉しいのか私にはわからない。
ちらりと小悪魔を盗み見てみれば、やっぱりニコニコと笑って嬉しそう。
一瞬、視線を向けていたことに気づかれたみたいで不思議そうに首を傾げられ、なんだか気恥ずかしくなった私は逃げるように読書を再開する。
ぺらり、ぺらり。ぺらり、ぺらり。
そんな風に、本のページをめくる音だけがこの空間を満たした。
最初は見られていることに気恥ずかしさを覚えていたのだけれど、本に集中しだすとそれも大して気にならなくなる。
それは、文字の一つ一つを追うたびに、私の意識が本の世界に引っ張られていくからか。
それとも、もっと別の違う理由なのか。
それはともかくとして、小悪魔がちょっかいをかけてくると思って警戒していたのだけれど、今のところそんな様子もない。
珍しいこともあるものだけど、今回は本当にただ眺めるだけに徹するらしかった。
ちらりと、ページを追う振りをして一瞬だけ小悪魔を視界に映せば、どこか微笑ましそうにこちらを見つめているだけ。
その表情は、果たしてどんな風に形容すればいいのだろうか。
母性的といえばいいのか、それとも女性的と表現すればいいのか。
それともあるいは、年下の子供の面倒を見るお姉さん、と表現しても差し支えないかもしれない。
なんだか、それはそれで恥ずかしいと思えばいいのか、それとも子ども扱いするなと憤りを覚えればいいのか微妙な気分だけど。
「ねぇ、小悪魔」
ため息をつき、ページをめくりながら彼女に言葉をかける。
ちらりと視線を向けてみれば、私から声をかけられるとは思わなかったみたいで、不思議そうな表情で目を瞬かせていた。
「どうなさいました、妹様?」
「うん、私のことなんか眺めてて楽しいのかなーって思ってさ。暇でしょ?」
「あぁ、そのことですか」
合点がいったといった風に、小悪魔はくすくすと笑った。
正直、私のことなんか眺めてても面白くないと思っていたんだけど、彼女の様子を見るにそれなりに楽しんでいるみたい。
私には、彼女の感じているその楽しさとやらがわからないんで首を傾げるしかないんだけど。
「妹様には経験ありません? こう、なんとなーくそんな気分になる日とか」
「いや、ないから聞いてるんだけど」
「ありゃりゃ、そうですか。私は眺めてるだけで満足なんですが、そーですねぇ」
うーんと、なにやら考え込んだ小悪魔。
とりあえず、小悪魔は暇してないみたいなんで私が気にする必要はなくなったんだけど、何故に彼女が考え込み始めたのやら。
そうして、彼女は何を思いついたのかニマァと嫌ぁな笑みを浮かべておいでだった。こう、なんと言うか悪代官みたいな感じの。
うん、ものすっごい嫌な予感しかしない。
「妹様、もしもお嬢様が居眠りしているところを見つけたら私みたいに眺めてみるといいですよ」
「なんでさ?」
「ふふ、そうしたら今の私の気持ちもお分かりになると思いますよー」
「……なーんか、釈然としないんだけど」
彼女のことだ、何かしら企みがあることは間違いないんだろう。
だって、小悪魔だし。きっと私には理解できない変な企みでも思いついたに違いない。
いや、正直な話そんな企みに向かう思考は心底理解したくはないけども。
「っと、そろそろ休憩時間も終わりですね」
「あれ、意外と短いね?」
「いつもこんなものですよー。それでは妹様、ごゆっくり」
にこやかな笑顔を浮かべて席を立ち、彼女は上機嫌にこの場を去っていった。
スキップしながら去っていくその後姿を見ながら、私を眺めていたのが楽しかったのか、それとも思いついた企みが成功するかどうか楽しみなのか判断に迷う。
「まったく、相変わらず掴みどころのないやつめ」
呆れたようにため息をついて、読書を再会する。
小悪魔の真意は相変わらず読めないけれど、気にしていたって仕方がない。
こうやって本を読み進めていけば、彼女が何を考えているかなんて気にもならなくなるだろうし。
ぺらり、ぺらり。ページをめくる。
再び読書に没頭し始めた私は案の定、彼女が何を考えているのかも気にならなくなって、文字を追うたびに本の世界へとのめりこんでいくことになったのだった。
▼
そんなことがあった図書館の帰りのことである。
今日読んでた本の続きを求めて、借りっぱなしらしいお姉様の部屋にまで足を運んだ。
いつもならこの時間は部屋にいるはずだし、ノックもせずにドアを開けた私の目の前に飛び込んできたのは、テーブルに突っ伏して眠りこけるお姉様の姿だった。
「あーあ、こんなところで寝ちゃってさぁ。いい年したレディが聞いて呆れるというか……」
まぁ十中八九、昼間に博麗神社に行ってるのが主な原因なんだろうけれど。
夜に眠る吸血鬼って正直どうなんだろうか? 確かに、お姉様は巫女のことがお気に入りみたいだけど、ものには限度というものがあるわけで。
「まったく、お姉様はしょうがないなぁ」
呆れたように言葉をこぼして、ベッドにあった毛布をかけてあげる。
これから寒くなる時期だから、吸血鬼だって風邪にかからないとはいえ寒いものは寒いわけで。
以前、小悪魔からお姉様が風邪を引いたって言う話を聞いたような気がするけど、それはこの際気のせいだったってことでここはひとつ。
毛布をかけたらわずかに身じろぎしたけれど、それも少しだけで起きる気配はない。
その様子をぼんやりと眺めていると、なんとも幸せそうな寝顔で暢気な寝息を立てている始末。
テーブルの反対側にすわり、頬杖をついてそんなお姉様の様子を眺めている自分。
―――もしも、お嬢様が居眠りしていたら私みたいに眺めてみるといいですよ?
不意に、小悪魔の言葉が脳裏によみがえる。
結局、あの子が何を考えているのかわからないままだったけれど、こうやって眺めていれば何かわかるのだろうか?
コチコチと、柱時計の音が室内に響き渡る。
今この時間は咲夜は休憩のはずだし、しばらくはこのまま眺めてみるのも悪くないかもしれない。
小悪魔が何企んでたのかわかんないけど、たまには小悪魔の企みに便乗するのも悪くないかも。
そうやってずっと眺めていたのだけれど、不思議と飽きが来ない。
幸せそうな寝顔を眺めているのも悪くないし、時々髪をくるくるといじってやればへにゃっと緩んだ笑顔を浮かべるお姉様っていうのもなんだか新鮮だ。
普段、お姉様のこういった表情はなかなか見れないもんだから、なんだか得した気分。
うん、確かにこんな風に眺めているのも悪くないかも。
「んにゅ?」
「あ、起きた」
いったいどれだけ眺めていただろう。
眠そうな目をこすりながら身を起こしたお姉様は、私の顔を見るなり顔を真っ赤にして思いっきり後ずさろうとして、椅子に引っかかってすっころんだ。
おぉ、面白い反応だなぁ。
「な、なななななな何でフランがいるの!?」
「うん? お姉様が私が今日読んでた本の続き借りてるって聞いたから、それを取りに来たついでにお姉さまの寝顔眺めてた」
「な、なんですってー!!?」
ニヤニヤしながらからかうように言葉をつむいでやれば、顔を真っ赤にして声を上げるお姉様。
寝起きで頭が回ってないのか、あるいは寝起きを私に見られた気恥ずかしさからか。
どっちにしてもまぁ、なんともかわいらしい反応だこと。
多分、小悪魔が狙ってたのってコレだったんだろうなぁ。
……相変わらず、いい性格してるわね、本当。
「それにしても、ずいぶんとおねむなのねぇお姉様ってば。そんなに眠いなら、私が頭を撫で撫でしながら一緒に眠ってあげましょうか?」
「フラン、姉を馬鹿にするのもいい加減になさいッ! 是非ッお願いしますッ!!」
「って、お願いすんの!!? お願いしちゃうのそこで!!? しかも土下座ってどうなの!!?」
なんかすっごい情けないお姉様の姿を見た気がしたけど、きっとこれも寝起き故の弊害に違いない。
……うん、そういうことにしておこう。お姉様の名誉のために。
そんなわけで、そこまでされて断るわけにも行かず、結局私はお姉様と一緒のベッドで眠ることになった。
なんだか複雑な気分だったのだけれど、頭を撫でられていたお姉様が心底嬉しそうだったから、まぁいいかと笑う私だったのである。
▼
「だーっれだ!?」
「いや、だから小悪魔でしょ?」
そんなわけで翌日、今日もまた目隠ししてきた小悪魔を軽くあしらいつつ、図書館で読書に励む私だった。
あっさり見破られたことがそんなに不満だったのか、むーっと頬を膨らませるその様子はなんだか子供っぽい。
「何故にわかりますか妹様」
「だから、こんなことするのあんた以外にいないでしょうが」
「わかりませんよー? もしかしたら咲夜さんとか……」
「いや、絶対にないよ」
そんな相変わらずなやり取りの後、小悪魔は私の隣に座り込んだ。
ニヤニヤと笑っているところを見る限り、昨日何があったのかはうすうす感じてるみたい。
何しろ、朝からお姉様は上機嫌だったし、昨日の会話を考えれば小悪魔が答えに行き着くのはある意味で自然だったのだ。
「それで、どうでした?」
「そうね、案外眺めてみるだけって言うのも悪くないわ」
昨日は二回もお姉様の寝顔を拝めたことだし、なんだか得した気分だ。
小悪魔が、今もこうやって私のことを眺めているのもわかる気がする。
不思議と、暖かな気分になれるのだ。それが、親しい人物の表情であるならなおさら。
「ありがと、小悪魔。いい勉強になったわ」
「あはは、私は特に何もしてないんですけどねぇ。それで、かわいかったですか?」
「うん、小悪魔には見せてあげないけど」
そんな風に言葉にし合って、私たちは笑いあう。
今日もまた、彼女は私のことを隣で眺め続けるのだろう。
私がお姉様の寝顔が好きなのだとしたら、きっと小悪魔は本を読んでる私の横顔が好きなんだろう。
だとすれば、である。
私がお姉様の寝顔が好きなように、小悪魔が私の読書中の横顔が好きなように。
私が好きな小悪魔の顔は、きっと今のように楽しそうに笑う彼女の笑顔に違いないのだ。
なにはともあれ、今日も今日とて紅魔館は平和である。
たまには、こうやって眺められているというのも、悪くないのかもしれない。
ただ相性が合わなかっただけだと思いますよ?
なにはともあれ今回もほのぼのした紅魔館をありがとうございます。
万人に好まれる作風なんて有り得ませんし、貴方は貴方が書きたい幻想卿を素直に著していくべきだと思います。
余計なお世話とは承知ですが……(汗
これからも頑張ってください
(`・ω・)
ほのぼのしてますのぅ…。小悪魔かわいいよ小悪魔。
こぁーっこぁっこぁっこぁっこぁっこぁ!
この笑い方が似合うこあが大好きです。
ほのぼのも好きですが、フランを振り回してこその、この笑い方で笑う小悪魔だと思うのでギャグの方も楽しみにしている人がいることをお忘れなく。
これからも楽しみにしています。
そして、それと比べてフランが恵まれない、不憫だ。と感じる人がいるでしょう。
しかし、「ちょっと悪乗り気味の小悪魔と振り回されるフラン」は、あなたの今までの作品でずっと続いているスタイルです。
こう言ってはなんですが、前作を見て「小悪魔が生意気、フランが不憫、不快」と言うのは今更でしょう。
そこまで深く思い悩むことはないと思います。
あなたはこれからもあなたらしい作品を書いてくだされば、一読者、ファンとしては嬉しい限りです。
出過ぎたコメントを致しました。不快に感じた方は申し訳ございません。
これからどうするかまでは口出しできる立場でないのでこれ以上なにも言えませんが
何にせよ頑張って下さい
それはそれとして、相変わらずカリスマないなお嬢様……
以上が私の感想です。ここから先は、あとがきで言及されている内容について。
作品へのコメントには「批評」と「感想」があります。前者は論理的に作品の長短を分析したものであり、これを無視するのは作者としてあるまじき行為です。それに対して後者は、あくまでその読者の趣味から述べられたものです。
両者の境界は非常に曖昧で一概に断じることはできませんが、少なくとも「小悪魔が~」というコメントは、作品構成上のミスを指摘するものではないように思えます。「感想」に対するスタンス――端的に言えば重視するか軽視するか――は作者によって違いますのでこれ以上に踏み込んだことは言えませんが、よければ参考にしてください。
他の方も書かれていますが、こういった創作作品には
好みや相性があって、万人から好かれるものなんてないと思ってます。
私はこれからも、今までの様な貴方の素敵な作品を楽しみにしています!
作者様のこあ、私は好きなのですが、ネットでは本当に広い価値観を持つ方が読みますから、
難しいですね。
でも、私も含め作者様の作品が好きな人たちは自由に書いてほしいと思っている人たちもきっといますよ。
これからも素敵な創作を読ませてください、よろしくおねがいします
普段がはっちゃけてるから、こういうあたたかい作品がはえると思いますしね
自分は白々橙さんの作品大好きです
で、後書きの件。上記のコメにも既に書かれていることですが、
どんなに頑張っても万人受けするものっていうのはないと思うので、
自分のやりたいようにやっていけばいいんじゃないでしょうか?
以下、あとがきの件。
何よりも言えることは『あなたの作品はあなたのもの』です。嫌う人のためにそれを封印するより「これが私の作品だ!」と開き直った方が『白々橙さんらしい作品』になると思いますよ。
少なくとも私は『白々橙さんの作品を読む』のであれば、『万人受けを狙っただけで白々橙さんらしくない作品』よりも『万人受けしなくてもいいから白々橙さんらしい作品』の方が読みたいですね。無論、最終的にはご自身の判断次第ですが。
これからも頑張ってくださいませ。
他の方が仰っているように、万人に受ける作品はとても難しい物だと思いますので、白々橙さんが書きたい作品を書かれるのが一番ではないかと思います
長文失礼しました
白々橙さんの作品大好きです!
今後の作品も楽しみにしています。
ネガティブな感情ほど人にぶつけたくなるもんで、
あまり気にしないほうが良いかと。