「いーっ、だ!」
お燐は私に向かって口の両端を指で精一杯横に広げて見せて、ふん、と言った後、どこかへ行ってしまった。
「……あ。あーあ、またやっちゃった。どうして私ってこうなんだろ」
お燐が私にあんな態度を取ったのは私のせいだ。
私と居たくないくらいに怒ったから、あんな顔を私に。
ふう。
ふぅ、ふふふ、うふふふ。怒ったお燐の顔、可愛かったなぁ。
あんな可愛い顔見せちゃうから、つい怒らせたくもなっちゃうよね。
さとり様は
「分かっていませんね、あの子は困って泣きそうになった顔が一番可愛いんですよ」
って言ってたけど、私は怒った顔の方が好きだな。
目を吊り上げて、私を睨んで、私だけのためにこう言うの、「ばーか」って。
私は雷に打たれたみたいな気分になって(いつのまにかお燐は居なくなってるんだけど)、それが癖になっちゃって。
最初は私の性格のせいで怒らせてたけど、最近は神様の力なんて手に入れちゃったから、それに輪を掛けてひどくなったみたいで、前にも増して怒らせる回数が増えて来てる。
よく友達続けて貰えてるねって、周りの地獄鴉は言うけど、皆お燐を分かってないよ。
お燐は一度友達って認めたら絶対に見捨てる事なんてしない。
私みたいな(性癖的に)どうしようもない妖怪でも友達だって言ってくれるの。
この前の異変の時だって私をどうにかしようって、必死になって説得したり、力づくで止めようとしてくれたりして、かっこ良かったなあ。
私に負けてぼろぼろになっても、「絶対諦めない!」って言ってくれて。
これで惚れない奴は居ないでしょ。やっぱりヒーローって言うのはああじゃなくちゃ。
まぁ、最近は早くその性格をどうにかしないと、死体と一緒に燃やすぞって言われちゃうんだけどね。
燃えないけど。
本当にお燐には悪いとは思ってるんだけど。
明日謝っておこうかな。
・・・
次の日、私はお燐の行きそうな場所を探した。
「うーん、ここにも居ないかぁ」
灼熱地獄跡を探しても見つからない。あと居そうなのは、地霊殿くらいかな。
とりあえず地霊殿に行ってみよう。
中庭を抜けて地霊殿に着いた。
居た、お燐だ。
「お燐ー」
「何だよ」
明らかに不機嫌な顔と声。ああ、不機嫌そうな顔も可愛いなぁ。
じゃなくて。
えーと、とにかく謝らなきゃ、えいや。
「ごめーん!!」
「うわー!」
ドーンと私はヤタガラスダイブをお燐に決めていた。
「普通に謝れ!普通に!」
「ご、ごめん、だって気持ちが謝らなくちゃって思ったら、目の前が見えなくなって、そうしたら」
「あー、もう分かったから」
よし、今のうちに謝っちゃおう。
「この前はごめん!許してくれる?」
「そのセリフは聞き飽きた。何回目だと思ってるのさ」
「う、ごめん」
いつもはこの辺で許してくれるんだけど、最近、怒らせすぎちゃったかな。
「大体お空は物忘れが激しすぎるんだよ、何回あたいを怒らせれば気が済むのさ」
「だ、だって」
「だってじゃない。とにかく今回は絶対に許さないよ」
それだけ言うと、お燐は私なんて知らないって感じで歩き出す。
「そ、そんな、待ってよ!」
急いで立ち上がって、お燐を引き止めようと手を伸ばす。
「触るな!」
思わず伸ばした手が止まって、すぐにまたお燐はまた歩き出した。
「ま、待ってよ、お燐。ねえ」
やだ、待ってよ。
私お燐に見捨てられたら、どうしたら良いか分からないよ。
ずっと友達だって言ってくれたじゃない。
「やだ、行かないで」
呼んでもお燐は止まってくれない。
私、見捨てられたんだ。
・・・
「誰です、こんなところで座り込んでるのは」
さとり様の声だ。でもそっちを向く気になれない。
「えーと、お空、ですよね」
私は膝を抱えて、下を向いたままうなずいた。
「何か有ったの?そう、お燐と喧嘩しちゃったのね」
首を横に振る。
「あら。そう、見捨てられちゃったの」
きっとお燐は私に愛想を尽かしてしまったんだ。
「とにかく、こっちへいらっしゃい。きっと今のあなた、ひどい顔よ」
私の顔なんてどうでも良いのに。
さとり様は無理やり私の手を引いて、洗面台のところまで連れて行った。
水を出して、首を突っ込んだ拍子に声が出た。
「ひぐっ」
泣いてる事なんて、さとり様は分かってるだろうけど、声に出るのが嫌だったから止めようとした。
でも、止めようとしたらお燐の怒った顔と、触るなって言った声が私の中から出て来て、止まらなくなった。
「ひぐ、えっぐ、うえ」
さとり様は私の背中をさすってくれた。
「良いんですよ、辛い時は泣いても」
そう言われたら泣かないわけにも行かないから。
口を開いて泣いたら、しょっぱい味がした。
・・・
「落ち着いたかしら」
「はい」
あれからさとり様の部屋に連れて行かれて、落ち着くからってミルクティーを出されて、それを飲んだ。
「まぁ大体の事は分かりました。悪いのはあなたですよ、お空」
さとり様に心を読まれて私は答える。
「はい」
お燐をあそこまで怒らせて、呆れさせたのはきっと私くらいだと思う。
いくら謝っても許してくれないくらいに。
「ふむ。では十分反省しているようですし、お燐と仲直りする方法を教えてあげましょう」
さとり様は私を見てから言った。
でも、私はお燐に謝ったけど駄目だった。
「無理ですよ」
「そんな事はありませんよ、大体あなたはお燐をよく知っているはずなのに、この方法を思いつかないなんて」
「え!?」
もう方法なんて無い筈なのに。
びっくりしてさとり様を見る。
「お燐は懸命にやってる子を、過去に何かしたから、上手く行かないから、と言う理由で見捨てるような子ですか」
「そんな事しないです」
「そうでしょう、では簡単ですよ。あなたの欠点を直す努力をすれば良いんです」
「で、でも」
自分の事だから、頑張ってこの性格と欠点を直そうとしたけど、何回やっても駄目だった。
「欠点や性格が直るものでは無い、確かにそうかも知れません。ですが結果として直る必要は無いのです」
「え?」
「言ったはずですよ、『上手く行かないから』と見捨てるような子ではないと」
「あ」
さとり様が何を言いたいのか分かった。
「そう、お燐が許してくれるまで、直す努力をし続ければ良いのです。もちろん、努力する振りだけではいけませんよ、あの子はそう言う所には敏感ですから」
「そっか」
言われてみれば単純で、謝る事だけ考えてた私が馬鹿みたいだった。
「確かに相手に謝るのも大事です。が、謝る事にだけ気を取られてしまっては、得てして同じ事を繰り返してしまうものです」
「そうですよね、私もう一回頑張ってみます」
お燐が許してくれるって言うのなら、頑張れる。
「そうと決まれば、私も協力しますよ」
「本当ですか」
「ええ、まずは礼儀作法からしてあなたは疎かにし過ぎる。過度な作法は禁物ですが、逆に言えば過度な無作法も禁物なのです」
「そ、そこからですか?」
礼儀作法と聞いて早くも挫けそう。
「お燐に見捨てられたままで良いのですね?」
「うぅ。いいえ、頑張ります!」
・・・
「えぇと、ドアの叩き方は2回がトイレで、3回が知ってる人の部屋で」
「部屋の前でぶつぶつ言って何やってるのさ」
「あ」
お燐だ。あれからずっと口を聞いてくれなかったけど、初めてお燐から話し掛けてくれた。
「あの、私ね」
嬉しくて、思わず言い掛けてさとり様に言われた事を思い出す。
『良いですか、あなたが欠点を直している事をお燐に直接話すのはいけませんよ』
『何でですか?』
『あなたの場合、得意気に話す傾向が有るのでそれを自慢と取られる危険が有るからです。だから、私から言われてやっていると言いなさい。ですが嫌々やっているような事を言っては駄目ですよ』
「何?」
お燐が聞いて来た。
「あのね、あれからさとり様に礼儀作法を教わってるの」
「ふーん、何でまた」
声はあんまり嬉しくなさそうだけど、話し掛けて来てくれただけでも進歩してるのかな。
「さとり様が、礼儀作法が出来ればそこから自分が無意識に他人の気にする事をやっているか分かるからって。あ、あの、私もね、そう言うの、気にした方が良いかなって思って」
「そう」
「う、うん。駄目かな」
また怒られるんじゃないかって思うと聞かずにはいられない。
「いや、良いと思うよ」
それから軽く肩に手を置いて、
「頑張ってね、お空」
それだけ言って、お燐は私に手を振って歩いて行く。
短かったけど、でも、頑張ってね、は優しい声だったから。
もしかしたらって、確かめたくて。
「うん、私頑張るから!だから、その、もう一回友達をやり直して」
そこまで言ったけど、お燐の方から
「ばーか。友達でしょ、ずっと」
って言われて。
「うん、そうだよね。私ったら忘れっぽくって、駄目だね」
って言って。それだけの事で嬉しくて。
あ、これって、さとり様に聞いてなかったけど。
嬉しい時も、泣いて良いのかな。
お燐は私に向かって口の両端を指で精一杯横に広げて見せて、ふん、と言った後、どこかへ行ってしまった。
「……あ。あーあ、またやっちゃった。どうして私ってこうなんだろ」
お燐が私にあんな態度を取ったのは私のせいだ。
私と居たくないくらいに怒ったから、あんな顔を私に。
ふう。
ふぅ、ふふふ、うふふふ。怒ったお燐の顔、可愛かったなぁ。
あんな可愛い顔見せちゃうから、つい怒らせたくもなっちゃうよね。
さとり様は
「分かっていませんね、あの子は困って泣きそうになった顔が一番可愛いんですよ」
って言ってたけど、私は怒った顔の方が好きだな。
目を吊り上げて、私を睨んで、私だけのためにこう言うの、「ばーか」って。
私は雷に打たれたみたいな気分になって(いつのまにかお燐は居なくなってるんだけど)、それが癖になっちゃって。
最初は私の性格のせいで怒らせてたけど、最近は神様の力なんて手に入れちゃったから、それに輪を掛けてひどくなったみたいで、前にも増して怒らせる回数が増えて来てる。
よく友達続けて貰えてるねって、周りの地獄鴉は言うけど、皆お燐を分かってないよ。
お燐は一度友達って認めたら絶対に見捨てる事なんてしない。
私みたいな(性癖的に)どうしようもない妖怪でも友達だって言ってくれるの。
この前の異変の時だって私をどうにかしようって、必死になって説得したり、力づくで止めようとしてくれたりして、かっこ良かったなあ。
私に負けてぼろぼろになっても、「絶対諦めない!」って言ってくれて。
これで惚れない奴は居ないでしょ。やっぱりヒーローって言うのはああじゃなくちゃ。
まぁ、最近は早くその性格をどうにかしないと、死体と一緒に燃やすぞって言われちゃうんだけどね。
燃えないけど。
本当にお燐には悪いとは思ってるんだけど。
明日謝っておこうかな。
・・・
次の日、私はお燐の行きそうな場所を探した。
「うーん、ここにも居ないかぁ」
灼熱地獄跡を探しても見つからない。あと居そうなのは、地霊殿くらいかな。
とりあえず地霊殿に行ってみよう。
中庭を抜けて地霊殿に着いた。
居た、お燐だ。
「お燐ー」
「何だよ」
明らかに不機嫌な顔と声。ああ、不機嫌そうな顔も可愛いなぁ。
じゃなくて。
えーと、とにかく謝らなきゃ、えいや。
「ごめーん!!」
「うわー!」
ドーンと私はヤタガラスダイブをお燐に決めていた。
「普通に謝れ!普通に!」
「ご、ごめん、だって気持ちが謝らなくちゃって思ったら、目の前が見えなくなって、そうしたら」
「あー、もう分かったから」
よし、今のうちに謝っちゃおう。
「この前はごめん!許してくれる?」
「そのセリフは聞き飽きた。何回目だと思ってるのさ」
「う、ごめん」
いつもはこの辺で許してくれるんだけど、最近、怒らせすぎちゃったかな。
「大体お空は物忘れが激しすぎるんだよ、何回あたいを怒らせれば気が済むのさ」
「だ、だって」
「だってじゃない。とにかく今回は絶対に許さないよ」
それだけ言うと、お燐は私なんて知らないって感じで歩き出す。
「そ、そんな、待ってよ!」
急いで立ち上がって、お燐を引き止めようと手を伸ばす。
「触るな!」
思わず伸ばした手が止まって、すぐにまたお燐はまた歩き出した。
「ま、待ってよ、お燐。ねえ」
やだ、待ってよ。
私お燐に見捨てられたら、どうしたら良いか分からないよ。
ずっと友達だって言ってくれたじゃない。
「やだ、行かないで」
呼んでもお燐は止まってくれない。
私、見捨てられたんだ。
・・・
「誰です、こんなところで座り込んでるのは」
さとり様の声だ。でもそっちを向く気になれない。
「えーと、お空、ですよね」
私は膝を抱えて、下を向いたままうなずいた。
「何か有ったの?そう、お燐と喧嘩しちゃったのね」
首を横に振る。
「あら。そう、見捨てられちゃったの」
きっとお燐は私に愛想を尽かしてしまったんだ。
「とにかく、こっちへいらっしゃい。きっと今のあなた、ひどい顔よ」
私の顔なんてどうでも良いのに。
さとり様は無理やり私の手を引いて、洗面台のところまで連れて行った。
水を出して、首を突っ込んだ拍子に声が出た。
「ひぐっ」
泣いてる事なんて、さとり様は分かってるだろうけど、声に出るのが嫌だったから止めようとした。
でも、止めようとしたらお燐の怒った顔と、触るなって言った声が私の中から出て来て、止まらなくなった。
「ひぐ、えっぐ、うえ」
さとり様は私の背中をさすってくれた。
「良いんですよ、辛い時は泣いても」
そう言われたら泣かないわけにも行かないから。
口を開いて泣いたら、しょっぱい味がした。
・・・
「落ち着いたかしら」
「はい」
あれからさとり様の部屋に連れて行かれて、落ち着くからってミルクティーを出されて、それを飲んだ。
「まぁ大体の事は分かりました。悪いのはあなたですよ、お空」
さとり様に心を読まれて私は答える。
「はい」
お燐をあそこまで怒らせて、呆れさせたのはきっと私くらいだと思う。
いくら謝っても許してくれないくらいに。
「ふむ。では十分反省しているようですし、お燐と仲直りする方法を教えてあげましょう」
さとり様は私を見てから言った。
でも、私はお燐に謝ったけど駄目だった。
「無理ですよ」
「そんな事はありませんよ、大体あなたはお燐をよく知っているはずなのに、この方法を思いつかないなんて」
「え!?」
もう方法なんて無い筈なのに。
びっくりしてさとり様を見る。
「お燐は懸命にやってる子を、過去に何かしたから、上手く行かないから、と言う理由で見捨てるような子ですか」
「そんな事しないです」
「そうでしょう、では簡単ですよ。あなたの欠点を直す努力をすれば良いんです」
「で、でも」
自分の事だから、頑張ってこの性格と欠点を直そうとしたけど、何回やっても駄目だった。
「欠点や性格が直るものでは無い、確かにそうかも知れません。ですが結果として直る必要は無いのです」
「え?」
「言ったはずですよ、『上手く行かないから』と見捨てるような子ではないと」
「あ」
さとり様が何を言いたいのか分かった。
「そう、お燐が許してくれるまで、直す努力をし続ければ良いのです。もちろん、努力する振りだけではいけませんよ、あの子はそう言う所には敏感ですから」
「そっか」
言われてみれば単純で、謝る事だけ考えてた私が馬鹿みたいだった。
「確かに相手に謝るのも大事です。が、謝る事にだけ気を取られてしまっては、得てして同じ事を繰り返してしまうものです」
「そうですよね、私もう一回頑張ってみます」
お燐が許してくれるって言うのなら、頑張れる。
「そうと決まれば、私も協力しますよ」
「本当ですか」
「ええ、まずは礼儀作法からしてあなたは疎かにし過ぎる。過度な作法は禁物ですが、逆に言えば過度な無作法も禁物なのです」
「そ、そこからですか?」
礼儀作法と聞いて早くも挫けそう。
「お燐に見捨てられたままで良いのですね?」
「うぅ。いいえ、頑張ります!」
・・・
「えぇと、ドアの叩き方は2回がトイレで、3回が知ってる人の部屋で」
「部屋の前でぶつぶつ言って何やってるのさ」
「あ」
お燐だ。あれからずっと口を聞いてくれなかったけど、初めてお燐から話し掛けてくれた。
「あの、私ね」
嬉しくて、思わず言い掛けてさとり様に言われた事を思い出す。
『良いですか、あなたが欠点を直している事をお燐に直接話すのはいけませんよ』
『何でですか?』
『あなたの場合、得意気に話す傾向が有るのでそれを自慢と取られる危険が有るからです。だから、私から言われてやっていると言いなさい。ですが嫌々やっているような事を言っては駄目ですよ』
「何?」
お燐が聞いて来た。
「あのね、あれからさとり様に礼儀作法を教わってるの」
「ふーん、何でまた」
声はあんまり嬉しくなさそうだけど、話し掛けて来てくれただけでも進歩してるのかな。
「さとり様が、礼儀作法が出来ればそこから自分が無意識に他人の気にする事をやっているか分かるからって。あ、あの、私もね、そう言うの、気にした方が良いかなって思って」
「そう」
「う、うん。駄目かな」
また怒られるんじゃないかって思うと聞かずにはいられない。
「いや、良いと思うよ」
それから軽く肩に手を置いて、
「頑張ってね、お空」
それだけ言って、お燐は私に手を振って歩いて行く。
短かったけど、でも、頑張ってね、は優しい声だったから。
もしかしたらって、確かめたくて。
「うん、私頑張るから!だから、その、もう一回友達をやり直して」
そこまで言ったけど、お燐の方から
「ばーか。友達でしょ、ずっと」
って言われて。
「うん、そうだよね。私ったら忘れっぽくって、駄目だね」
って言って。それだけの事で嬉しくて。
あ、これって、さとり様に聞いてなかったけど。
嬉しい時も、泣いて良いのかな。
5. 17. >一緒に悪戯して怒られたり、泣いたり、笑ったり。
お互いに良い友人だと良いなと思います。