私の名は藤原妹紅という。
遥か昔に、なんかまぁ、話すと長くなるぐらい色々な事があり、私は不老不死の肉体を得ることとなった。それ以来、妖怪のように隠れ住むようになり、それからもまた、あれこれあって上白沢慧音と出会った。
輝夜と幾度となく殺し合い、刺客を送られてくる日々は充実してはいたが、慧音と過ごす穏やかな時間も決して嫌いではない。いや、どっちかっていうと好きなんだと思う。元々が貴族の娘だからかもしれない。
それはひとまず置いておくとして、既に外は真っ暗で何も見えないような時間帯、私の住む庵には現在慧音がいた。基本的に慧音は一日に一度、最低でも三日に一度はここを訪れる。ただ、満月の日は絶対に来ようとしない。
理由を問い質したこともあるが、その時の慧音というと。
「その、妖怪の姿はあまり見られたくないんだ……化け物みたいで、恥ずかしくて……」
と、視線を逸らして恥ずかしそうに言うもんだから、思わず私は――
可愛さのあまり抱き締めてしまった
いやだって、普段真面目で説教垂れて年上ぶってるあの半獣が照れて視線逸らしたりしてるんだから。もうそのギャップに萌えたとしても誰が咎めようか。
抱き締めて頬擦りして可愛い可愛いと連呼してしまった程だ。
が、どうも何かがお気に召さなかったのか、慧音は――
私の首の骨ゴキャッと折りやがりました
いくら人間の姿といえど慧音は半獣のワーハクタクなのだ。妖力も持ってれば身体能力も通常の人間と比較にならない程ある。
まぁ、私は不死身だから何も問題はないんだけれど、身体自体は普通の人間と一緒。手加減ってものをして欲しかったりする。
ともあれ。そんなこともあって、私はそれ以降この事については触れないようにした。不死身でも痛いものは痛いのである。
さて、そんな事は本当にどうでもいいので置いといて。
現在、慧音は私の淹れたお茶を飲みながら、溜め息吐いたり片手で肩を叩いたりしている。何ともおばさんくさいなぁ……なんて思っても口には出さない。痛いの嫌だし。
「ねえ慧音。どうしたの?」
「いや、どうもしないが……どうかしたか?」
そう訊き返す慧音はキョトンとしている。どうやら今の行動は無自覚らしい。さっき言った通り、痛いの嫌なんで直接的には聞かない。
「だって溜め息吐いてるし。疲れてるの?」
「別に疲れてなどいないが……そう見えるか?」
またも同じような感じで、質問に質問で返してくる。
行動どころか、自分の身体の状態に無自覚らしい。まったく、他人の事にはよく気がつく癖に、自分の事になるととんと無頓着になるんだからこの子は…………。
「見える。ていうかそうとしか見えないわよ、アンタ」
「きっと気のせいだ」
とか言いながら、慧音はまた肩をトントンと叩いている。
「さっきから何度も同じような事やってるから説得力ないわよ。ほら、今叩いてた。気のせいじゃないわ」
「偶然さ。心配かけて済まないが、私は大丈夫だ」
あーそうだった。慧音は自分関連の事になると途端に頑固になるんだった。こうなった慧音は頑なで、今まで一度しかこの頑固さを砕いた事はない。首の骨折られて痛かったけど。
「だーかーらー、気のせいじゃないんだってば! ハッキリ言うけど、今日の慧音は変よ。だってお茶飲みながら溜め息吐きつつ自分の肩叩いてて。おばさんくさいったら――」
あ、と思った時には遅かった。おずおずと窺った慧音の顔は――
どっかのメイド長ばりにとても素敵な笑顔でした。
硬直した私の両頬に手を添えた慧音は、ものの見事に首を直角に曲げてくれました。あーもう、私って馬鹿なのかなぁ。
「ちょっと痛いわよ慧音!」
生き返って即座に私は文句を言ってみることにした。ちなみに、ちょっとどころじゃないんだけどね、首の骨折られて死ぬのって。
「お前が変なこと言うからだろう。……けど、心配かけて済まないとは思っているし、同時に嬉しくもある。その、悪かったな。不本意だが、疲れてる事は認める」
何か思い当たることがあったのだろうか。さっきの怒りは何処へやら、慧音は素直に謝ってくれた。
「え、あ、うん、あははは……。うん、私も正直に言い過ぎたね。ごめん」
思ったより簡単に折れてくれた慧音に、むしろこっちが驚いた。
とりあえず「思っても口に出さないで欲しい」って視線は無視しておくと、私は改めて尋ねてみる。
「それで、何があったの?」
「この間、私の見守る村に飢えに狂った妖怪が出たんだ。幸い早く駆けつけたお陰で犠牲者や怪我人は出なかったんだが、結構強い妖怪だったんだ。戦ってる内にかなり家屋を壊してしまったらしく、退治して周囲を見ると、結構とんでもない事になってたんだ…。戦闘でかなり消耗してたが、すぐに村そのものの歴史を弄って元通りにしたんだが……どうやら、その時に消費した体力や妖力が戻ってないようだ」
そういえばこの間、麓の村からずがーんやらどかーんやらとんでもない轟音がしてるなーなんて思った時があったけど、あれ慧音だったのかーそーなのかー。
しかし慧音。いくら歴史弄って元通りに出来るとはいえ、もっと周囲に気を遣いなさいよね……。他人に気遣うことは出来ても、集中して熱くなると途端に目の前しか見えなくなっちゃうんだから。
それがこの子の良いところだとは思うんだけど、村を守ってるならもちっとどうにかした方がいいと思うなぁ……って、私もあんまり人の事は言えないけどね。
輝夜や輝夜の刺客と戦うたびに周囲一帯を焦土と化しては慧音に歴史弄って元通りにして貰ってるし。怒られるけど。
「ふぅん……大変だったんだね。身体はまだ疲れたまんまなんでしょ? それなら私なんか構わずに家で寝てればいいのに」
「いや、私もそう思うんだが……」
「だが?」
「一日か二日に一回はお前に会わないと落ち着かないんだ」
あーもうっ。言ってくれますねこの子はっ。生真面目な慧音の事だから、絶対天然。決定っ。
ぶっちゃけ可愛い。遠まわしに私に会わないと寂しいって言ってるようなもんだ。このまま抱き締めて頬擦りして押し倒してもにょもにょもにょハァハァ。
「おーい妹紅ー。どうしたー?」
と、そんな百合の花咲き乱れる妄想やってたら怪訝な顔した慧音が目の前にいた。
「へ? ああ、いやうん何でもないわよ別に。うん。あはははははは……」
とりあえず笑って誤魔化してみるが自分でもわかるぐらい顔が熱い。私の顔は真っ赤になっている事だろう。あー何やってんだ私。
「あーそうだ。疲れてるならマッサージしたげようか?」
とりあえず照れ隠しにそんな事を言ってみる。知識としては一応あるけどやった事はない。
「マッサージ……って、出来るのか?」
「勿論! どーんと任せなさい! 天国にも昇る心地よさ味あわせてあげるから!」
なーんて、ついつい胸叩いて大見栄まで切ってしまいましたとさ。
「ふふふっ、そうか……それじゃお願いするよ」
そんな私の様子がおかしかったのか、慧音は微笑んで了承してくれた。うん、慧音の笑顔はやっぱりイイと思う。
「それで妹紅。まずはどうするんだ?」
「まずは定番の肩揉みからね」
私はそう言って正座した慧音の後ろに回りこむ。
そして肩を揉み始める。まずは掌全体を使って肩を包むように揉む。それから首の付け根に親指を当てて、ぐっぐ、と刺激する。
「予想通り、結構凝ってるじゃない。どう? 気持ちいい?」
「ああ、ああ凄くイイぞ…………、あふぅぅ……」
そう言う慧音の声はとてもリラックスした感じが窺える。両手で湯呑みを持って「あ~」なんて声出してるもんだから、つい言ってしまった。
「あ~って慧音、まるでお婆さんみたいよ?」
両手塞がってる私に対して、慧音は無言で、振り向かずに素敵な肘打ちを鳩尾にくれました。
「ぐぇっ~~~~~ッッ!?」
と、私はみっともなく呻きながら転げまわる。ごろごろごろごろ。どたばたどたばた。
「けほっ、けほっ……ちょっと何てことしてくれんのよーっ」
「今言ったこと、もう1回言えるかな? も・こ・う?」
「イエ、ゴメンナサイスミマセンデシタケイネサンワタシガワルカッタデス」
あまりにも素敵で迫力のある笑顔がとても怖かったので、私は素直に謝った。この時ばかりは、かの紅魔館の完璧で瀟洒なメイドに勝るとも劣らない素敵な笑顔なんじゃないかなーとか思った。口の中の鉄の味はとりあえず無視しておくとしよう。
「で、でもどう? 悪くないでしょ?」
鳩尾を押さえつつ、にこやかに聞いてみる。
「それは認めるが、今後は口を慎むようにな」
「はーい。で、次なんだけど。ちょっと立って端っこに寄ってくれる?」
「ああ、構わないが……どうするんだ?」
「布団敷くのよ」
自慢じゃないが、私の住んでるこの庵はそんなに広くない。布団を二組敷けばいっぱいいっぱいなぐらいだ。布団を敷くには必然的に端っこに寄ることになるのだ。
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!」
んで押入れに向かったところで突然慧音が叫び声を上げた。そっちを見るとなんかめちゃくちゃ驚いてた。
「ふ、布団って妹紅! 確かに夜だし私たちは親しいが、だからと言って女ど――」
「いや、腰のマッサージするんだけど?」
中々に愉快な想像をしてくれたようで、真っ赤になって慌てふためいてる慧音がそこにいた。なんか非常に如何わしい事言おうとしてたから落ち着いて対処してしまったが、そのまま何を言うのか聞いてみたい気もした。
確かに慧音はそんじょそこらの女の子より綺麗だし、真面目で結構からかい甲斐もあるし、たまに可愛い事言って私を萌えさせてくれるけど今みたいな状態の事なんだけどハァハァハァハァ。
「わーっ、妹紅鼻血鼻血! 垂れる垂れる!!」
「へ?」
そこでやっと自分の惨状に気がついた。どうやら慧音を観察して萌えてたようだ危ない危ない。
慌てて上を向く。
「慧音ちり紙頂戴、ちり紙、早く早くー」
「ああ、ちょっと待ってろ」
なんか凄く情けない気がした。
で、そんなこんなで鼻血も数秒で止まったので、急須と湯呑みを片付けて布団を敷く。
「それじゃあ、うつ伏せに寝てちょうだい」
私の指示に慧音は「ああ」と短い返事を返してから布団の上にうつ伏せになり、枕の上に顎を乗せて枕を腕で囲うようにしている。
ちなみに慧音は今日はいつも履いてるぶわっと広がったスカートではなく、短い動きやすそうなスカートだ。んでえーっとなんてったっけなぁ……あーそうそう、”すとっきんぐ”とかいう黒のピッチリしたのをその下に穿いている。
なんでも香霖堂で売ってた、外の世界の品物らしい。保温性もあって動きの妨げにならないから慧音は気にいってるそうだ。
しかしこうして見ると……短いスカートから伸びるスラリとした脚が、黒のすとっきんぐで引き締まって見えて非常に魅惑的だ。思わず撫でたくなる。
「ひゃっ!? こ、こら妹紅! 腰じゃなかったのかなんで脹脛さすってるんだやめろこらちょっとうひいぃぃぃぃぃ……」
むしろもう撫でてたよあっはっは。
「へ? あー御免御免。ちょっとした冗談よ」
うん、我ながら惚れ惚れするぐらいの居直りっぷりだ。
あっはっはと誤魔化し笑いする私を、慧音は姿勢そのままで顔だけこっちに向けて赤い顔で睨んでいる。
その眼からは「次やったら首刎ね飛ばすぞ」という意思がありありと出ている。こりゃマジっぽいなぁ。
「もうしないから、前向いてゆっくりしてていいわよ」
こうしてても埒があかないので先に進むことにしよう。慧音は「本当だな?」と念を押してきたが、私は「ほんとにしないって」とおどけた調子で答えた。
すぐに慧音のお尻の上に跨いで膝立ちになり、両手を拳にして親指を立てて親指を腰に宛がう。
む、こう見ると慧音のお尻って意外と大きいなじゅるり……おっと、ここでまたお尻撫でたり揉んだり真ん中に指げふんごふんしたりするわけにはいかないなでなでもみもみ。
「うひゃあああああああああああああああ!? やめていやあ妹紅やめろ殺すぞいーーーーーーーやーーーーーー!!」
真っ赤なお花が咲いて私の意識は途切れました。
生き返ってみると、真っ赤な顔して返り血で真っ赤な服に涙目の慧音が、真っ赤に染まった布団の上で荒い息を吐きながら座っていた。中々に倒錯的な光景で、私は暫し呆然としてしまった。
それから慧音は、歴史弄って布団と服の血を消してから、私に小一時間ほど説教してくれました。さすがに私も罪悪感あったから文句言わずに素直に受け止めた。
「うぅ、御免なさい……。今度は絶対しないから」
「……本当だな? 本当に何もしないな?」
私が無言で小さく頷くと、慧音は「まったく妹紅は……」とぶつぶつ言いながらもさっきと同じ体勢になってくれた。うん、やっぱり慧音は優しい。
「どう? 気持ちいい?」
腰をぐっぐ、と指圧しながら聞くと、慧音は「あー気持ちいいぞー」ととてもリラックスした声で応えてくれた。さっきはあんなことして怒られてちょっとへこんでたのに、慧音のこの声を聞くと嬉しくなってしまった。私は相当現金なヤツなのかもしれない。
「妹紅ー」
「何ー?」
「もうそろそろいいぞー」
確かに、腰に固い感じはもうないので、私は膝立ちのまま後ろに下がる。
「ありがとう、妹紅。お陰ですっかり身体が軽くなったよ」
慧音は満面の笑みでそう言ってくれた。うぅ、なんかめちゃくちゃ可愛いんですけど……うわーヤバイ、自分でも分かるぐらい顔が熱い。
「どうした? 顔が赤いぞ」
怪訝な顔をした慧音が顔を覗き込んでくる。
「いやいやいや何でもないわよ。うん、大丈夫だからあは、あははははははは……」
赤い顔を見られるのが凄く恥ずかしいので、私は2、3歩後ずさって顔の前で腕をぶんぶん振る。
だというのに慧音は、ほら遠慮するな。と、私の近づかないで欲しいって意思表示を無視して、後ずさった分だけ近づいてくる。
で、私がまた後ずされば、慧音もその分だけ近づくってことを数度繰り返すと、当然壁に行き着くことになる。背中に当たる、硬くて冷たい壁の感触が、否が応にも逃げ道がない事を伝えてくる。
相変わらず怪訝な表情の慧音が、思いっきり顔を近づけて私の顔を覗き込んでくる。
私は「はは……はははは……」と、無駄に乾いた笑いを零しながら必死に目を逸らす。こういうのって一旦意識するとどうにもならないんだなぁ……なんて悠長に考えてる場合じゃない。
どうにかしないと私の理性が持たないかもしれない。うん、本音言うと慧音が可愛すぎて堪らんハァハァ……あーもうそうじゃなくて……そうだ、こうしよう。
「ね、ねえ慧音。足ツボマッサージしようか?」
「……? いや、もう十分マッサージで身体は軽くなったからいいぞ。それより、さっきから変だぞ。風邪でもひいたか?」
確かに不老不死とはいえ、病気にはなる。回復力は尋常じゃないから大抵どんな病気でも一日二日で完治するけど。
「いやいや大丈夫だから。大丈夫だから足ツボマッサージしよう。うんそうしよう。ほらほら布団に戻って戻って」
「お、おい妹紅。もういいって言ってるだろう」
「いーからいーから」
怪訝な表情を崩すことのない慧音を私は強引に回れ右させて布団に戻らせた。ふぅ危ない危ない……。
いや、言っただけで足ツボマッサージなんで出来ないんだけどね。ツボの名前多すぎて覚えられないし。さてどうしよう。
「それで、私はどうしたらいいんだ?」
「あー……えーっと、足伸ばして楽に座って」
ああ、と頷いて慧音は座って背中を斜めにし背中を支える為に両腕をつっかえ棒のように伸ばして布団の上に置き、足を前に投げ出した。
ふと気づいたけど、慧音は足を閉じずに開いてる。その為、スカートが突っ張ってしまってなんだかヤバイ。屈んで覗き込めば簡単に見えてしまう。
覗きこみたい衝動に駆られるが、そこをぐっと我慢する。
「それじゃ始めるわよー」
出来るだけ平静を装ってそう宣言する。
小さくコクッと慧音が頷くのを確認してから、左手を慧音の右足の下に滑り込ませて持ち上げる。
それから右手で拳をつくり、親指を立てる。そのまま恐る恐る足の裏の中心に宛がい、ぐっと力を込める。
「んぐぅっ……」
すると慧音が小さく呻き、眉間に形のいい眉を寄せて右目を閉じていた。
確か、痛いとその箇所に通じるところが悪くなってるって話だったっけ……と、おぼろげながら以前に読んだ書物に書いてたことを思い出した。
そういうわけで気にせず続ける。
ぐっぐ
「うぐっ……」
ぐっぐっぐ
「くぅっ……んんっ……」
ぐっぐっぐっぐ
「んん……んふっ…ふぁっ、あぐぅ……」
ぐりぐりぐり
「んあっ! ふぁっ、あう、ぐく……あぁぁっ!?」
ぐりっぐりっぐりっ
「ひあっ!? ふぅんっあっんぐっあうぅっ」
――えーっと……慧音さんが大変危険な声をさっきから出しておられます。
痛みに耐えてる声だと思うんだけど、聞きようによってはとても如何わしい。というか私には途中からそうとしか聞こえてなくて理性が色々まずい。
さっきの事もあるから、私は必死に荒い息とか鼻血とか諸々耐えて、ただただ足ツボマッサージに専念する。
ぐっぐ、ぐりぐりぐりぐり、ぐっぐっぐ
「ふぁうぅっ、ぅぅぅぅぅぅ……あーもうダメ痛い痛い痛い痛い痛いぃーーーーーーーーッッッ! 妹紅もうやめて限界痛い痛いいーーーーたーーーーーいーーーーーッッッッ!!」
限界を超えたのだろう、慧音が泣き叫びだした。
驚いて視線を足の裏から慧音の方へと上げる。そこには眉間に皺寄せて目を瞑り、涙をぽろぽろと流しながらぷるぷる肩を震わせる慧音がいた。
私は慌てて立ち上がり、傍へと駆け寄る。
「御免ね慧音。そんなに痛かった?」
「うぅ……痛いなんてもんじゃないんだぞ……ぐすっ。妹紅のばかぁ……」
大粒の涙を瞳から零しながら、震える声で慧音はそう答えてくれた。まさかあの慧音が泣くとは……それ程に足ツボマッサージは強烈なものだったのか。
そんな事考えてる間にも慧音はわんわん泣き叫んでいる。心なしかっていうか確実に精神年齢落ちてる。まるっきり子供だ。
ヤバイ可愛い。このまま見ていたい。そんでもって抱き締めたいあぁ慧音慧音慧音慧音ハァハァハァハァ
いや待て落ち着け。泣かしたの私なんだった。それを思い出した途端、罪悪感がこみ上げてきた。
「御免ね、私が悪かったから。もうしないから泣き止んで。ねっ?」
「ぐしゅ……ほんとに? ほんとにもうしない?」
「うん、しないしない」
そうやってあやして数分、慧音はやっと泣き止んでくれた。まだ俯いてぐしゅぐしゅ鼻鳴らしてるけど。
「どう? 落ち着いた?」
私がそう聞くと、一瞬止まって数瞬の後慧音はパッと顔を上げた。そのままポーッとして動かなくなった。
「おーい。どうしたの慧音ー。おーい?」
顔の前で手を上下に振ってみるが反応がない。如何しようもないので待ってみる。
一分経過。半開きの口が動き出す。
二分経過。私を指差す。
三分経過。小刻みに震えだす。
四分経過。あっあっあっあっ……と喉から搾り出すように短く同じ言葉を繰り返す。
五分経過。顔がみるみる内に紅潮していく。
突然、すっくと無言で立ち上がり、クルリと反転して駆け出そうとする。
「あうっ」
よっぽど慌てていたのか、布団に足を取られ顔面から慧音は畳の上に倒れこむ。
「どうしたの? 慧音」
「うぅぅ……妹紅の前で醜態晒してしまった…………」
倒れた姿勢そのままに、慧音はそう言った。なるほど、冷静になってからさっきのが恥ずかしくなったのか。
確かに。私が慧音と同じようになったら、きっと恥ずかしくて逃げ出すだろうなー。
ともあれ、私は傍に寄って慧音に手を貸して立ち上がらせた。
立ち上がらせたけど、慧音は赤い顔して俯いたまま、何も言わない。銀髪の隙間から覗くうなじも真っ赤になっている。両手はスカートの裾を握ったまま動かない。
私は何を言うべきか迷ってるので何も言えない。
それにしてもさっきの慧音可愛かったなぁ。あーでも今の真っ赤になって俯いてる慧音も違う意味で可愛いなぁ。抱き締めたいなぁ。もう泣き止んでるし一応元の状態には戻ってるし……
我 慢 し な く て い い よ ね
そうと決まれば話は早い。未だに動かない慧音の左肩にそっと右手を置く。
慧音の身体がビクッと跳ねる。
―――どうしたの? 慧音
顔を左右に二回ずつ動かす。きっと”なんでもない”っていう意思表示なんだろう。
―――大丈夫、大丈夫だから
―――何も怖いことはないから
優しく、優しく抱き締める。
驚いたのか、慧音は顔を上げて私に視線を合わせる。
―――ただ、快楽があるだけだから
そう言った私は口の端を持ち上げ、笑みの形にする。それに合わせて目も同じように笑みの形にする。
そのままクルリと反転し、慧音を抱き締めたまま布団へと倒れこむ。それから――
「あーんもう慧音可愛いったら可愛いわーーーッッ! もう最高食べちゃいたいくらいっていうか今から食べるッッッ!!」
「え、あ、わ、わわ、わわあぁぁぁぁぁーーーーーーッッッ!! ちょっと待て妹紅落ち着け落ち着いてーーーーーーッッッ!!」
どうやら慧音は完全に元に戻ったらしい。所謂ショック療法とかいうやつかな。
けどもう遅い。既に腕は私の内側でしか動かないし、足も外側から押さえ込んでるので動きはしない。
それでも慧音は逃げ出そうと、ほとんど動かない腕を足を必死に動かそうとしている。あんっ。腕が胸の上でもぞもぞ動いてるぅっ。
「あんっ。あぁもうっ、慧音ったら口ではそんな事言いつつ積極的じゃないの」
「違う違う違うはーなーせーっ!!」
「何言ってるのよ、今更やめられるわけないじゃない。それとも、私にこういう事されるのは、嫌?」
やめるつもりもないしね、と心の中で小さく呟く。
「嫌……というか、困る……。私は、妹紅の友達、だから……」
前髪で顔が見えないぐらい慧音は俯き、そう言ってきた。それは私だって一緒……あー、まぁちょーっと違うかもしれないけど。
「それは私だって一緒。私は慧音が大好きで、とても可愛いと思ってるから。それじゃ駄目?」
そう言うと、慧音は「あ……う……」と声を漏らし、返答に困っているようだ。
数秒の後、慧音はふるふると小さく首を横に振った。
あと、もう一息。
「そ・れ・に……さっきまで泣いて私にあやされてたのは。どこの誰だったっけー?」
そう耳元で囁くと、元々赤かった慧音の顔が火がついたように、更に真っ赤っ赤になった。弱々しいがもぞもぞ動いていた手足も止まる。
思い通りの反応を返してくれる慧音を見ていると、更に私の劣情――ああいや慕情? 愛情? が燃え上がる。ぶっちゃけ言うと鼻血出そう。出そうなので欲求に従うことにした。
「えいっ」
ちゅっ
顔を真っ赤にして硬直している隙に、私は不意打ちで唇を奪った。
「んむーーーーーーーっ!?」
突然の私の接吻に余程驚いたのだろう、慧音は塞がれた口の中で叫んでいる。
まだ混乱している間に無理やり舌を挿し入れる。
薄く目を開けると、慧音は驚きで目を見開いている。多分、抵抗という抵抗もしないだろう。
そう判断した私は目を閉じ、神経を舌に集中させる。
口内全体に舌を這わせる。歯茎をなぞり歯の内側も外側も丹念に舐め上げる。そして動かない慧音の舌に自分の舌を絡める。ぬるぬると、ざらざらとした質感と柔らかい舌の感触が気持ちよく、私の脳を痺れさせる。
もう一度薄く目を開くと、慧音の目も先ほどと違い、とろんとしている。それに気を良くした私は再度目を閉じ、舌を蠢かせる。クチュクチュと厭らしい音が脳内に、周囲に響く。
―――慧音の口の中ってとっても甘い
その甘さが私の劣情を刺激し、更に激しく舌を蠢かせる。
クチュクチュから、グチュグチュに音が変わる。より粘着質な音へと。既にお互い口の周りは唾液でべとべとだ。
そうやって慧音の唇を貪っていたが、息苦しさが限界に達して私は唇を離した。銀色の糸がお互いの唇に橋を架けていたが、それもぷつっと切れる。
慧音はとろんとした目つきに朱に染まった頬のままぼっとして、身じろぎひとつしない。
私は何も言わず、慧音の服に手をかけた――
「やっほー妹紅ー! 暇だから殺しに来てあげ……」
――ところで乱入者が現われた。
思わず顔を上げ、入り口に目を向ける。
そこには扉を開けた格好のまま硬直した輝夜がいた。
私も突然の出来事に固まってしまう。慧音もまったく動かない。気づいてなさそうだ。
「えーっと……。お邪魔だったみたい……ね。私帰るからごゆっくりー」
永遠に続くかと思われた沈黙も、輝夜が動いたことで破られた。
扉はゆっくり、音もなく閉じられた。そこでようやく私も動くことが出来た。
「ちょっと待てや輝夜ーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!」
飛び上がり、急いで追いかける。
外に出た時、輝夜は既に上空をふよふよ飛んでいた。
慌てて飛び上がり、急いで輝夜の前に回り込む。
「ちょっと待ちなさい!」
「あら、私の事なんか気にせずに楽しんでれば良かったのにー」
「いや誤解……いやいや五階も六階もない上に誤解でもないんだけど……ああとにかく! 今見たこと忘れなさい!!」
「どうして?」
「いやどうしてって……。あんたの事だから言いふらすじゃない」
「いいじゃないのー。皆祝福してくれるわよ?」
そう言って、この性悪女はころころと笑っている。ええい冗談じゃない。そりゃ別に誤解じゃない事実で、慧音を押し倒して色々しようとしてたけど、それを言いふらされては堪らない。
そんな事されては外出られないし、なにより慧音も困るだろう。
「とにかく! 私と弾幕勝負しなさいっ。私が勝ったら蓬莱の姫、蓬莱山輝夜の名に誓って言いふらさないと約束しなさいっ! いいわねっ。私が負けたら言いふらすなりなんなり好きにすればいいわっ!!」
「いいわよ。どうせ私が勝つに決まってるんだから」
かくして、私は私と慧音の名誉? の為に輝夜と勝負をすることとなった。
空が白み始める頃、激闘の末に私は愛と友情と努力で勝利をもぎ取った。
……20回ぐらい死んだ気もするけど。
ともあれ、ふらふらよれよれと必死に空を飛んで何とか庵に辿り着いた。
「た、ただいまー……」
搾り出した声でそう言い、扉を開けた。
「おかえり妹紅」
するとそこには慧音がいた。
うん、まぁ昨夜は遅かったからいてもおかしくはない。
ただ、なんで慧音はエプロン着てらっしゃるんでしょうか。
しかも素肌の上に
そう認識した瞬間、私は盛大に鼻血を噴いて吐血してぶっ倒れた。
ああ、意識が遠くなっていく――
そして意識が落ちる寸前、おぼろげに短い会話を聞いた。
「紫さん、と言ったか。妹紅が大変なことに……」
「そうねー。確かに大変ね。くすくすくす……」
そして起きると、ひっきりなしに顔見知りが訪れては「おめでとう」と言ってくれた。
喜ぶべきか悲しむべきか、判断は未だつかない。
ここは非ネチョ指定ですから。ただし個人的にはよくやった!と言いたい。
あと、あまあま(*´ω`*)
勝っても輝夜なら喋る気が。。
楽しかったです♪
やりすぎっ これわやりすぎですよ
ブフゥッ(鼻血
甘くてステキでした
おお、これぞまさにフェニックス!!(意味無し
最近妹紅×慧音が自分の中で結構上位になりつつあるからこういうSSは大好きです。
激しくGJ!
ラブコメ。いいね、ラブコメ。
キスシーンの表現に関しては……正直多少やりすぎたとも思ったんですが、自分で読んで妙に気に入ってしまった上に、今更ソフトに書き直すわけにもいかないのと今後への戒めとしてそのままにしておこうと思います。
あと甘いのは4年前に書いてたSSが基本的にこんなんばっかだったせいです(苦笑
今後はこういった甘いラブコメ以外にも手を出していこうと思ってますので、投稿した際にはまたお願い致しますm(_ _)m
やっぱりモコ×けーねはヤクいぜ!
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