Coolier - 新生・東方創想話

東方狂想曲 第二番

2005/04/25 07:34:29
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夜。冷たい風が頬を撫でた。見上げればいつもの様に月が冷たい光を放ていた。一瞬、その光に身を引き裂かれて見るのも面白いと思ったが、すぐに馬鹿馬鹿しいと却下した。
後ろをついて来た従者が、尋ねる様に私の名を呼んだ。どうやら何かを心配しているようだ。この従者はとても有能なのだが、鋭すぎるのが欠点と言えば欠点だった。
確かに、ここ最近変事が起きていた。人里や、森、原野で、人や妖怪にかなりの血が流された。
そして、冥界では魂魄妖夢が、竹林では魔理沙とアリスが襲われた。皆酷い傷を負ったが、助けに入った西行寺幽々子のおかげで命だけは無事だった。聞いた話では、魔理沙とアリスは無事に復帰したそうだ。この惨事の特徴は、全て満月の夜に行われたことだ。
次の満月まで、日が無かった。

「お嬢様、もうじき人里です。」
「あのワーハクタクの動きはどう?」
「ご安心を。別の場所で小さな騒ぎを起こしておきましたから、出払っているでしょう。」
「そう。じゃあ今日こそはあのワーハクタクの邪魔をされずに食事が出来そうね。」
「そうですね。いい加減街道を通る人間を襲うのにも限界が来ていましたから。良からぬ噂が立ち、しかも夜雀の馬鹿が便乗して殆ど人通りが無くなってしまいましたからね。」
「あの夜雀は?」
「自分がいかに馬鹿な事をしたか、身をもって教えました。ただ、教えた後すぐに無駄になりましたけど。」
ああ、あの時のフライドチキンか。最近食べた物の味を思い出す。悪くなかった。
「しかし、ただ食事を取るだけで何故私がこんなに苦労をしなくてはいけないのかしら。」
「それは、慧音のせいでしょう。近頃何故か一緒に藤原妹紅が行動をしていますから、追い払うにも一苦労しますしね。」
「人間を守るとか言って、事あるごとに私の食事を邪魔するなんて、本当に良い根性してるわ。」
「ま、まあ、彼女も彼女で必死なんでしょう。この前負傷して、人里の守りを途中で放棄して人間を危険に晒してしまった事に負い目を感じているみたいですから。」
「ん、私はあのワーハクタクが怪我をしたなんて聞いてないわよ。」
「その事を申し上げれば、お嬢様は怪我をして動けない慧音の息の根を止めに行ってしまうでしょうから。」
「ふうん、私とワーハクタクを天秤にかけてワーハクタクを選んだのね。」
「そ、そんな、天秤なんて、滅相もございません。比べる基準が違いすぎます。私はタダ・・・」
慌てて言い繕う咲夜を見て、内心笑いながら前方を見る。人里が見えてきた。

「ふう、ご馳走様。」
「お嬢様、今日は何時にも増してお食事になりましたね。」
「ええ、取れるときに食事は取っておかないと。それにこの人間、結構美味しかったし。」
「フランドール様にお土産として持っていきますか?」
「いえ、そんなもったいない事するわけが無いでしょう。その内また美味しくいただきに来るわ。」
「では、いつも通り脈と心臓音を確認しておきます。まあ、ただ気絶しているだけでしょうから、何も期待できませんが。」
そう言い、咲夜が確認を取るのを黙って眺めていた。同族を増やすことに失敗し続けて早何年であろうか。
丁度咲夜が心臓音を確認しているときだった。何やら只ならぬ気配を感じた。
「そこの貴方達、何をしているの!?」
声がする方向に身構えた。
「事の次第じゃタダじゃって、何だレミリアと咲夜じゃって、貴方達何やっているの!?」
霊夢だった。あまり出くわしたくないタイミングだった。
「何って、見て分からない?」
「見て分からないから聞いているのよ!!」
促されるように咲夜の方を見る。私の目に飛び込んできたのは、気を失っている女性のマウントポジションを取り、上着を全部めくり上げて、胸に顔を当てている良く知っているはずの従者だった。
「そうね、確かに分からないわよね。」
何やら従者の格好をした奴が非常に気まずい顔をして、私のほうを見てきた。
「私、知らないわよ。こんな変態。」
「お、お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「さあ行きましょう、霊夢。私達が襲われる前に。私、怖いわ。襲われたら私を守ってくれる、霊夢?」
「ちょっと、押さないでよ。何処に行く気なの、ってあれ如何する気なの?」
「知らない知らない、あんな変態知らない。それよりこんな所でこんな時間に出会えるなんて、何か運命じみた物を感じるわ。きっと私達、運命の赤い糸でしっかり結ばれているんだわ。もう時間も遅いし、私の家か霊夢の家に行きましょう。そして運命を確かな物に築き上げましょう。」
「お、お嬢様ぁぁぁぁぁぁ・・・。」
Gロボ泣きをして崩れ落ちる変態を尻目に、私は霊夢との愛を築き上げる為にその場を立ち去ろうとした。
そうよ、今日こそは霊夢と愛を遂げるのよ。今の私達を妨げる物は何も無いはず。さあ霊夢、行きましょう。私達の世界へ。
「ちょっと待たんかい!人を何処に連れて行こうとするのよ。それにあそこに居るのはどう見たって咲夜でしょうが。」
「あら、私、咲夜なんて名前知らないわ。さあさあ、霊夢。恥ずかしがらずに行きましょう。私達の夜明けはすぐそこよ。」
「お嬢様ぁぁぁぁぁ・・・・私という者がいるのに・・・・如何して紅白なんかを・・・・」
「何が私達の夜明けよ!!ってちょっと人の話を聞け!!こら咲夜、この馬鹿を何とかしてよ!!」
ふふふ、助けを呼んでも無駄よ。貴方の運命は私のもの。さあ、夜は始まったばかりよ。

結局その後、キレて見境無く暴れだした霊夢を鎮めるために、私の愛のプランを一時凍結しなければならなかった。霊夢が暴れた影響で、町の一区画が瓦礫と化したので、今は人里に割りと近い森に退避している。抜け殻と化した咲夜を運ぶのは苦労した。
「まったく、これじゃあ明日の食事は絶望的ね。あのワーハクタクが鬼のような形相をしているのが目に浮かぶわ。」
「あんたが悪いんでしょうが。最初からちゃんと説明していればこんなことにはならなかったんだから。」
「だから、霊夢にお願い。明日の私の食事に協力してくれないかしら。別に難しいことじゃないのよ。ただ、ちょっと霊夢の血を分けてくれるだけでいいの。私はそれだけでも三日三晩飲まず食わずでいいくらい、満足よ。」
「だから、それが嫌だって言っているんじゃない。って言うか、あんた人の話を聞いてくれる!?」
「別に、霊夢さえよければ明日だけとは言わないわよ。毎日霊夢の血がほんの少しでも飲めるなんて、夢のようだわ。あまりの嬉しさに、千人切りを達成して、私の霊夢に対する愛は天下無双よって叫びたくなるわ。」
「するな!!って言うか叫ぶな!!いい加減人の話を聞け!!」
「安心して、霊夢。私達の前にはもう壁は無いわ。私達の愛の力で全て乗り越えてきたのよ。さあ、霊夢。私の方は、何時でも良いわよ。」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!絶っ対に嫌だ!!死んでも嫌だ。あんたを選ぶくらいならゲッター線による進化を選ぶわ。」
「そ、そんな・・・霊夢・・・嘘でしょう?」
「嘘も何も、あんたが勝手に脳内変換をしているだけでしょう。ふざけるのもいい加減にして!!」
「そ、そうね。そうよね。御免なさい、霊夢。どうやら私、急ぎすぎたみたいね。まだ、私達には時間が必要なのね。いいわ、霊夢。私、貴方の事ずっと待っているから。」
「結局、最後まで人の話を殆ど聞いていないのね。いいわ、そっちがその気なら私も考えがあるから。」
そう言って、霊夢が身構えた。怖いほど顔から表情が消えた。霊夢が本気を出している証拠だった。
「貴方との短い付き合い、今日で終わりにさせてもらうわ。」
「まったく、すぐに怒り出すんだから貴方は。悪い癖よ。もっと心を大きく持ちなさい。」
「っつ!いきなり真顔に戻らないでよ。大体、誰のせいよ、誰の!」
まったく、からかい甲斐がある娘だ。これだから止められない。
「それはそうと、霊夢は何故あんな裏路地なんかに居たのかしら。それが非常に気になるわ。」
「な、何よ、いきなり。レミリアには関係ないわよ。」
「あら、霊夢。あの路地には遊郭が軒を連ねていることを、私が知らないとでも思っているの?」
「ち、違うわよ。断じて違うわ!!」
「そっか、もう霊夢も大人なのね。ついに神社の賽銭じゃ食べていけなくなって、自分の体を売らなきゃならないなんて、不憫だわ。」
「だから違うって言ってるじゃない。頼むから人の言うこと聞いてよ。」
「私、そんな霊夢のために一肌脱ぐわ。今だったら、通常価格の二倍で買ってあげるわよ。」
頭に衝撃が来た。どうやら霊夢がチョップを繰り出してきたらしい。
「それ以上言うと、殴るわよ。」
「そう、これが霊夢の愛情表現なのね。嬉しいわ、初めて好きって言われた。記念碑の名前、何にしようかしら。」
「何で人の言う事為す事全部いいように曲解するかな、あんたは!?」
胸倉を掴んで、怖い顔をして迫ってくる霊夢もまた、良いと思った。何をやっても素敵よ、霊夢。
「ああ、何時に無く激しい愛情表現ね。やっぱり霊夢ってサドだったのね。でも、困ったわ。私あまりそういうのは苦手なのよね。そういうサドプレイをしたいのなら、役に立たない門番を貸してあげるから、そっちでお願い。あの娘、今はいい感度に仕上がっているわ。だから私達は普通にいきましょう。」
「もう・・・いい・・・好きに・・・して・・・」
霊夢は力なく項垂れた。もはや言い返す力も残っていないようだ。今日も私の勝ちね。
「で、結局のところ何だったの?」
「ああー、何でも良いわよー、別にー」
「ふうん、変態親父集団の隠れ家を探していたの?」
「な、何でレミリアがそれを知っているのよ!?」
「私のところも何度かやられているからよ。特にメイドが沢山居るからね。咲夜なんか酷い物よ。下着と言わず、身に着けるものなら何でも盗まれているから。」
「やっぱり紅魔館でも。」
「しかし、咲夜の衣装一式を身につけて踊り狂っていた奴らを見た時の咲夜が、一番見物だったわ。」
「皆まで言わなくても、いいわ。大体予想が付くから。」
「それにしても、何度潰しても何処からとも無く湧いて出て来るわね。しかも、どんどん巧妙になっていくから始末に終えないわ。」
「やっぱり、背後に居る奴を何とかしなくちゃならないのかな。」
「黒幕に関しては、大体見当をつけているから、その内に。」
あっちの世界に行っている咲夜に活を入れた。そろそろ帰るころだと思ったからだ。
「それじゃあね、レミリア。今度からはいい加減、あの手の冗談は止めてくれる?こっちの精神がもたないわ。」
「あら、霊夢。いつ私が霊夢への愛が冗談だって言った?」

満月の夜となった。いつに無く物々しい警備が館全体に敷かれた。やはり、襲撃者の来訪に備えてのことだろう。私としては、別段気にすることでは無いのだが。
私は、テラスから外に出た。玄関や門などでは警備の目がうるさい。彼らの気持ちも分からなくないが、他人にとやかく言われるのは好きではなかった。
丁度塀を越えたときだった。咲夜が居た。
「あら、咲夜。メイド長がこんなところで油を売っていていいの?」
「お嬢様のことですから、外出の準備を整えてお待ちしておりました。」
「ふうん、止めないのね。」
「お嬢様の性格はよく分かっていますから。待つくらいなら自分の方から仕掛けるおつもりでしょう。」
「何でもお見通しって言う訳ね。でも、館の方はいいの?」
「具体的な指示は出しておきました。後はパチュ様の指示に従うようになっています。それと、人里の近辺ではまだ怪しい存在は確認されていません。ここから人里との間にある森の方から探されてはいかがでしょうか。」
「まったく、有能な従者ね、貴方は。いいわ、勝手にしなさい。」
一礼して、咲夜は私の後をついて来た。自分の行動が、全て咲夜に予測された事は面白くなかったが、闇雲に探すという、非効率的なことをしなずにすむ事を率直歓迎した。
森を探し終え、人里に近い場所に探索箇所を移そうとしたときだった。咲夜に情報が届いた。紅魔館で使っている諜報担当のメイドだった。本来は、家出したフランドールを探させる為に組織された物だが、使われずに放置してあったところを咲夜が有効利用していた。この前のワーハクタクの注意をそらしていたのも、彼女らだった。
「お嬢様、どうやら動き出したようです。」
「それで、居場所は?」
「詳しい位置はまだ。人里で慧音達と一戦交えた後、逃走したようです。ただ、西行寺幽々子が後を追っているようで、ここから西の森に入っていくのを確認されています。」
「それだけで十分。行くわよ、咲夜。」

森が見えてきた。急ぎ気配を探る。咲夜が声をかけてきた。その理由は、聞かなくても分かった。所々破壊の後が転々としていた。それらを辿って更に奥を目指す。一際大きな爆音が聞こえてきた。どうやら、間に合ったようだ。せっかくの獲物を、他人に取られたくなかった。
爆音を頼りに木々の間を擦り抜け、そして樹が途絶えた。
西行寺幽々子が倒れていた。身構えながら、素早く状況を判断する。立っている敵は二人。倒れているのは西行寺幽々子と、原形をとどめていない元人間。敵はこっちに気づいているようだった。
咲夜が、少し私の前に出た。盾になるつもりか。それを咎めようとした時、敵が舌打ちをしたのが聞こえた。
咲夜がナイフを投擲したのと同時に、衝撃波が襲ってきた。構わず咲夜の襟首を掴み、ギリギリで避ける。
二人はもう既に居なかった。

その後、ボロボロに打ち倒されていた幽々子を、咲夜の勧めで永遠亭に運んだ。確か、いい腕をした宇宙人の薬師が居たはずだ。
幽々子を運び終えた後、その日は永遠亭に泊まることになった。紅魔館に帰る前に日の出を迎えてしまうからだ。愛用の日傘は持ってきていなかった。
部屋を借り、眠りに付いた。気が付くと、かなり日が高くなっていた。
「おはようございます、お嬢様。」
「おはよう、と言うべきなのかどうか迷う時間帯ね。これは。」
「お食事、いかがなさいますか。ここの主に言えば、人の血以外なら出してもらえると思いますが。」
「人の血以外は、摂取してもあまり意味が無いのだけどね。まあ、いいわ。取れるときに取っておきましょう。空腹感くらいなら、誤魔化せるかもしれないし。」
咲夜が立ち上がり、人を呼びに行った。
一人になり、昨日のことを考えた。
まず、幽々子のことだった。なぜ、幽霊が傷を負って倒れていたのか。普通、幽霊は傷を負わない。傷を負ったように見えても、外見が損傷しているように見えているだけで、時間がたてばすぐに元に戻る。ならば、術的な攻撃を受けたのか。確かにそれならば幽霊に傷を負わせることは可能である。しかし、それは傷口が二度と再生しなくなるだけで、何か違っている気がした。第一、痛みを感じない幽霊が苦痛で呻くということ自体、おかしい事だった。
ならば、敵の能力か。そう思えば、ある程度は納得できないことも無い。今までの、咲夜の話も合わせて考えると、空間を使う、格闘を使う、そしてこれは完全に推測だが、幻想卿に生きる存在に苦痛をもたらし、死に至らしめる程度の能力という事になる。
そこまで考えて、馬鹿馬鹿しくなって止めた。それに、何か違うという気もした。
次に考えたのは、敵だった。あの場には三人居た。一人が囮をやり幽々子を誘導した。そして、三人で囲み確実に始末しようとした。一人殺られたが、ほぼ目的は達成できそうだった。しかし、予定外の乱入者に戸惑い撤収した。殺りそこねたが、妥協できる範囲だったのだろう。しばらく、幽々子は目を覚ましそうに無い。
前々回では一人。前回では取り逃したのを含めて二人。今回は三人。順当に考えれば今回は三人と言うことになるが、どこか何得できなかった。敵はあと何人いるのか。予想がまるで付かなかった。
咲夜が戻ってきた。幻想卿生まれの妖怪兎も一緒だった。どうやら、何かを胃袋に入れることが出来そうだった。

丁度広間で食事を終え、食後のお茶を楽しんでいるときだった。魔理沙とアリスが入ってきた。
「珍しいぜ。宇宙人の家で吸血鬼を見るなんて。どうゆう風の吹き回しだ?」
「会って早々、お嬢様に対して無礼を働くか、お前は。」
「別にいいわよ、咲夜。礼儀但しい魔理沙なんて、陰謀を感じるだけよ。」
何やら色々言いたそうな魔理沙を脇目に、話しがしやすいほうに向き合った。
「貴方達は何故ここに?」
「先ほど幽々子が倒されたって聞いたから、魔理沙と一緒に様子を見に来たのよ。どうなの、怪我の具合は?」
「何とか一命だけは。幽霊に使うのもおかしい話だけど。私達がもうちょっと来るのが遅かったら、危なかったわね。三人がかりだったのに、よくがんばったわ。」
「三人!?まだそんなに居たんだ。」
「どういうこと?」
「昨日の晩、私達も一人と殺りあった。それと、人里の方で二度襲撃があったみたいだ。しかし、何か昨日の奴、何か殺る気が無かったな。まるで、時間稼ぎをしているみたいだったぜ。」
「まあ、そのおかげで私達は大した怪我を負わずに済んだんだけど。」
「お嬢様、先ほどの連絡では紅魔館も襲われたとのことです。ただ、被害は殆ど皆無で、パチュ様とフランドール様が迎撃に当たったとの事です。」
「よく、被害が出なかったわね。」
「ええ、門番が倒されている間に、体勢を立て直したとの事ですから。」
「それって、普通は被害って言うもんだぜ。」
「そう、被害は無かったのね。人の留守を狙うなんて、いい根性しているわ。まあ、損害が無かっただけでも、良しとしておきましょう。」
「どいつもこいつも、酷いぜ。」
何か理解できない事を、魔理沙は言った。どうやらかなり疲れているようだ。
「やっぱり幽々子を確実に消す気だったのね。しかも用意周到と来たものだわ。」
「幽々子、何度もあいつ等の邪魔をしていたから。いい加減目障りに思われたかも。」
「幽々子様が、如何したって!?」
振り向くと、妖夢がおぼつかない足でやって来た。
「妖夢、もう起きていてもいいのか?」
「教えてくれ。幽々子様はどうなされたのだ?」
一同の顔に、気まずい表情が浮かんだ。
「別にたいした事じゃないわよ。ただ、大怪我をして意識が無いだけよ。」
「な、それは本当か、レミリア。」
言うや否や、青い顔して妖夢が慌てて部屋を飛び出していった。相変らず足はフラフラしていたが。
「お嬢様!!」
「いずれ分かることよ。ここで黙っていてもあの娘の為にならないわ。一時的な安っぽい感情に流されて誤魔化よりは、本当のことを言ったほうが親切っていうものよ。」
「それも、そうだな。しかし、まさか超我侭吸血鬼に諭されるとはな。明日あたり隕石が降るぜ。年の功ってやつか?」
そう言う魔理沙は笑っていた。魔理沙は笑うと、白い歯を見せ、少年のような表情になる。
それが気に入っていた。何となく、魅かれるものがあるからだ。
窓の外を見た。まだ日が高かった。後ろで咲夜が魔理沙を切り刻もうとして、アリスが必死に止めようとしている地獄絵図をよそに、ぼんやりと考えにふけた。

三日後、こっそり館を抜け出した。まだ日が出ていたが、日が沈んでからだと咲夜の監視が強くなる。咲夜の同伴無しでというのが、八雲紫と会う条件だった。理由は大方予想できる。
しばらく野原を飛んでいると、空間の裂け目が目の前で出来た。下を見ると、紫が立っていた。降りて来いと言うことだろう。
「意外と早かったのね。まだ、そっちに藍を使いに出してからそんなに経っていないわよ。」
「せっかく貴方がその気になってくれたんですもの、三度寝されて音信普通になる前に会っておかなきゃ世紀が変わってしまうわ。」
「酷いわね。せめて年号くらいにして欲しいわ。それで、早速だけど本題に入るわ。いつあのメイドが現れるか分からないから。」
「家のメイドは皆、質が高いから。とりあえず、神出鬼没が一流の第一条件なの。ベルを三回鳴す間に来なくてはメイド失格ね。後はメイド忍法の極意をマスターして、敵地に単独潜入し、任務追行できれば上出来よ。」
「それって、メイド?」
「何を言っているのよ、遅れているわね。いい、今の御時世、ステルスミッションができないメイドは、ただのメイドなのよ。ただのメイドなんかに、どれほどの価値があるって言うの?」
「もう、いいわ。私が悪かった。だから、本題に入りましょう。それで、貴方が知りたい事なんだけど。」
「何か知っているの?」
「ええ、この前から幻想卿を騒がしている奴の居場所でしょう。私を誰だと思っているの。」
「変態親父どもや黒白魔法使いを使って、霊夢が下着を盗まれて非常に困っている姿や、下着がどの様に使われているかを知った時の様子をこっそり盗み見して楽しんでいる変態。このごろはタンスの奥底に式神達にも知られずに、霊夢やその他の人たちの下着を溜め込んでいつか有効利用しようと画策している、ど変態。それから、」
「ち、ちょっと待って。なんで貴方が知っているのよ!?」
「言ったでしょう。私のメイドは全員一流よ。」
ふふふ、この幻想卿で私が知ることが出来ない事は、ほんのちょっとなのよ。
「じゃあ、なんでわざわざ私を頼るの?お抱えのメイドに調べさせればいいことじゃない。」
「駄目よ。常に監視の目は霊夢に行っているんだから。そうね、大体諜報能力を、霊夢に九割、人里に五部、後は咲夜が使ったりと色々よ。霊夢の九割は絶対に動かせないから、残りの人員で何とか探させているんだけどね。今度ばかりは、危険すぎて思うようにやらせられないわ。」
「霊夢に割り振っている分を動員すればいいことじゃないの?」
「さっきも言ったはずよ。絶対に動かせないって。霊夢がその日、何時、何処で、何をしていたかを始め、何を食べたのか、クシャミを何時したか、トイレには何回いったとか。ふふふ、霊夢の全ては私のものよ。」
「ああ、もういいわ。それ以上聞くと、頭が痛くなりそう。早いところ要件をすましましょう。」
「そうね、グズグズしていると貴方が咲夜に八つ裂きにされてしまうからね。貴方が下着の件の黒幕だと知ったときの咲夜は、それはもう凄かったから。貴方が皆を困らせて楽しむ代わりに、毎日がサバイバルになっていたでしょうね。」
そう言うと紫に苦い表情が浮かんだ。自業自得よ。
「それで、あなたに情報を与える事なんだけど、確かに精確ではなく漠然とした地域のことしか分からなかったけど、それでもタダ働きっていうのは趣味じゃないのよね。」
「分かっているわよ。貴方に貸しを作っておくのは気が進まないから、取引と行きましょう。この中から好きな物を選んでいいわ。どれも盗れたてのホヤホヤよ。」

その日の夜、咲夜が居ないことに気が付いた。嫌な予感がした。急ぎ片っ端からメイド達を締め上げ、吐かせた。どうやら、咲夜に厳重に口止めされていたらしい。吐かせるのに手間取った。
咲夜は、紫とのあの会話を聞き、そして一人で飛び出していったらしい。出て行ってから、ずいぶん時間が経っていた。一人で、相手をするつもりか。
急ぎ、紫の言っていた場所へ向かった。焦りだけが時間と共に積もった。
もう少しで着くという頃だった。急に悪寒がした。本能が命じるままに体を飛ばした。次の瞬間、私が居た空間がひしゃげた。
下を見ると、誰かが立っていた。表情に狂気の色が浮かんでいた。
「悪いな、まだあんたの出番じゃない。もう少し付き合ってもらうよ。」
足止めのつもりか。なら、まだ咲夜は生きている。
「私の邪魔をするなんて、いい度胸ね。退きなさい!!」

「やあ、意外と早かったな。あんたの力を少し過小評価しすぎていたかな。」
足止めを、体に傷を負うのもかかわらず、力で強引に潰した。
「しかし、何とも無茶な戦い方をするもんだ。そんなにここに来るまでの時間が惜しかったのか?」
潰した後、怪我の処置をする暇を惜しんで、移動した。そして、こいつに出会った。
「そんなにあのメイドが大事だってわけか。泣かせる主従関係じゃないか。」
「能書きはいいわ。咲夜は何処?」
この得体の知れない奴のペースに合わせる義理は無かった。こいつも、速攻で潰す。
そんな私の表情を読み取ったのか、冷笑を浮かべた。
「おいおい、すこしは落ち着けよ。じゃなきゃ、あのメイドみたいになるぜ。」
瞬時に体が強張った。聞いてはならぬ物を聞いてしまった気がした。
「なあ、あんた。」
敵が、手に持っていた物こちらに見せてきた。
「これが何だか分かるか?」
赤い液体が滴り落ちる、丁度手のひらに乗るサイズの物。それ以上は理解できなかった。
何も分からなくなった。ただ、何処からともなく咲夜が私の名を呼ぶ声が聞こえ、正気に戻った。
気づけば、敵を切り刻んでいた。念入りに、何度も何度も。もはや原型を予測すら出来ないくらい、引き千切っていた。
持っていた物を確認しようとした。何かの間違いかもしれない。しかし、見つからなかった。そして、すぐ近くにこの肉片が持っていた物を持っている奴が居た。
「いや、すごいすごい。あっという間だったよ。よほどコレがお気に召さなかったのかな。」
何も考えなかった。何も、聞きたくなかった。それでも、何処からか咲夜が私を止める声が聞こえる気がした。それで、何とか理性だけは保てていた。気づくと、新手が距離を取っていた。恐らく新手を睨みつけ、踏み出そうとしていたのだろう。
「ますます聞いてみたくなったよ。コレの持ち主だった奴の豚みたいな悲鳴を、君が上げるのを。きっといい声で鳴くんだろうな。」
崩壊しかかった理性を、咲夜の声だけを頼りに何とか繋ぎとめた。その声も次第に弱くなっていく。
永遠とも思える短い時間を、まるで楽しむかのように敵は見ていた。そして、手の物を見せてきた。
「いやしかし、何ともいえない見せ物だったよ。君にも見せてあげたかったな。生きたままメイドから心臓を抉り出すのをさ。あの豚みたいな金切り声は最高に良かったよ。」
もう、何も聞こえなかった。自分の声も、敵の声も、そして咲夜の声も。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
吼えた。体の奥底から、本能が命じるままに吼えた。そして、何も無くなった。

目の前の獲物を潰した。しかし、その先を見ると二人立っていた。右。体を八つ裂きにした。左の奴が打ち込んで来た。無視して首をねじ切った。
更に奥を見ると、逃げる奴と阻もうとする奴三人が見えた。構わず先頭に居た奴の体を左右に分断した。残りの二人が腕を突き出してきた。左の奴。突き出した腕ごと体を潰してやった。突如私の左腕が潰された。右の奴。再生が何故か遅いのを気にせず、残った腕で心臓を抉り取った。
見れば、逃げた奴はかなり遠くに行っていた。そして、その他の奴が時間稼ぎのために等間隔に配置されていた。
一人ずつ短時間で殺した。そして、追いついた。物凄い速さで逃げているが、逃す獲物ではなかった。
追いつき、アキレス腱を切り飛ばした。転がる体を足で押さえつけ、心臓に狙いをつけた。
何処からか、私を呼ぶ声が聞こえてきた。しかしその声には、もう憶えが無かった。
腕を振りかざす。こいつで最後の獲物だ。
もう一度、声が聞こえてきた。そして、急に足で踏んでいる奴の顔が、メイドの様な顔に変わった。構わず、腕を降り下げた。誰であろうと、獲物に変わりは無かった。
最後にメイドの顔が目に飛び込んできた。涙に濡れるその瞳は、必死で私に何かを訴えていた。何かを思い出しかけた。しかし、止めなかった。服を裂き、肌を切り裂く細かい感触が一瞬で伝わってきた。後一秒後には狩は終了する。刹那、足の下に居るのが誰なのか思い出した。咲夜だ。しかし、もう腕は止められなかった。衝撃。気がつけば、地面に横たわっていた。
一瞬、何がどうなったか分からなかった。そして、咲夜を思い出す。
咲夜は胸の回りを赤く染めていた。身が凍った。咲夜の肌を裂く感触を思い出す。
「しっかりしなさい。心臓を切り潰していたら、あの程度の出血ではすまないはずよ。」
声の主を探すと、西行寺幽々子が立っていた。しかし、その顔は幽霊にしては血の気が無さすぎた。息もかなり荒い。
「また、貴様か。この死に損ない。ここからが良いとこだと言うのに。」
咲夜に駆け寄りながら、この声の主も探した。幽々子と睨み合う様にして、三人立っていた。
咲夜は辛うじて生きていた。どうやら間一髪のところで、幽々子が私を吹き飛ばしたらしい。しかし、その拍子で傷口が広がっていた。あまり、ほっといて良い出血ではなかった。
「お、お嬢様・・・正気に・・・戻られたのですね・・・」
「喋らないで、咲夜。すぐに医者のところに運んであげるから。」
そう言って、気づいた。この三人をどうにかしないことには、咲夜を運べないことに。まだ連中の内の一人は幽々子と喋っていた。
「まったく、つくづく邪魔な奴だよ。もうちょっとでいい器を手に入れれたのにな。自分の手で愛する従者を殺して、そのショックで精神に多大なダメージを与える。前もって大きなショックを与えておけば、それで殆どの奴が駄目になる。こんなにすばらしい計画を手間と労力と限られた力と時間を使ってお膳立てして、成功の一歩手前まで来たのにな。貴様のせいで五百年物の吸血鬼という器を手に入れ損ねたよ。」
要するに、いつの間にか幻覚に惑わされていたと言うことか。そして、そのせいで咲夜をこの手で失いかけたと言うのか。
立ち上がり、歩き出した。
「まったく、いい加減意志の弱い生物に憑依して操るのにも限界を感じてきたところだったのにな。」
「言ったはずよ。貴方の好きにはさせないって。」
幽々子とのお喋りに夢中になっているのだろう。私にまだ気づかなかった。もう、かなり距離を詰めた。
「ああ、そうだった。貴様は私の敵になるのだったな。ならば、後の禍根ここで確実に絶ってくれるわ。」
飛んだ。右側に居た奴を、引き裂いた。ようやく敵は私に気がついたようで、急いで迎撃をしてきた。左に居た奴が、衝撃波を飛ばしてきた。構わず突っ込んでいこうとして、嫌な予感がよぎった。身をねじり、横に避けた。衝撃波と同時に敵が回りこんでいた。幽々子と喋っていた奴だ。こいつ等のボスか。
敵の大将格と睨み合った。さすがに隙が無かった。それでも構わず踏み込んだ。今までに無い衝撃に吹き飛ばされた。同じタイミングで腕を繰り出したらしい。
咳き込みながら、それでも素早く起き上がった。こっちの攻撃は、腕を薄く切り裂いたに過ぎなかったようだ。
向こうの方で幽々子がもう一人と殺りあっていた。しかし、立っているだけで精一杯の幽々子に勝ち目は無かった。
「自分の心配をしたらどうだ?」
敵の視線が私を見ていないことに気がついた。私の後ろ。咲夜が倒れていた。
「まあ、せいぜい楽しませてくれよ。」
目を敵に戻すと、虚空から腕が数本出ていた。
衝撃波が一斉に襲ってきた。たまらず倒れた。しかし、立ち上がらなければならなかった。立たねば次は咲夜が狙われる。
「そうだ、死ぬまでそうやって従者の身代わりをしろ。ボロ雑巾のようにくたばれ。」
断続的に強い衝撃波が襲ってきた。何とか頭と急所だけは腕で防いでいたが、腕の感覚が無くなった。再生がだんだん間に合わなくなってきて、体全体が引き裂かれたままになった。出血とダメージで意識が遠のいた。体の感覚は既に無い。それでも立ち続けた。
不意に、咲夜の姿が浮かんだ。笑っていた。私は咲夜に謝った。私のせいでこんなことになったと。それでも咲夜は笑っていただけだった。つられて私も笑った。二人で最後にこうしていたのは何時だっただろうか。
急に咲夜の姿が薄れていった。死ぬのか。そう思った。

いつの間にか、月を見上げていた。月。少し欠けていた。何故私がこうしているのか、考えられなかった。
ふと、さっき何を見ていたのか気になった。思い出せない。再び目を閉じようと思った。
「だめよ、そのまま寝てしまっては。風邪引くわよ。」
どうでもいいと思った。このまま、眠れればどんなに気持ちいいだろうか。
「動けるんだったら、私がこいつ等を引きつけておくから咲夜と幽々子を運んで欲しいんだけど。」
咲夜。その名前を聞いて、全てを思い出す。慌てて体を起こして咲夜を探そうとした。体の反応は、恐ろしく悪かった。全身の感覚がまるで無い。
咲夜は私の後ろに倒れて居た。まだ、胸が上下しているのを確認して安堵した。
次に声の主を探した。八雲紫が敵と睨み合っていた。傍らにはボロボロになった幽々子が倒れていた。
「ふん、舐められたものだな。私達とと殺りあい、その間にこの死に損ないどもを逃がすだと。させるとでも思ったか。」
「私を誰だと思っているの。伊達にスキマ妖怪を長年やっていないわよ。そのくらい、寝ながらでも出来るわ。」
「ならば、やって見せろ。できればの話だがな。」
そう言って奴は私達の方を見た。私と同じことをするつもりだ。何とか咲夜と幽々子を連れてここから離れなければ。
幽々子を運ぼうとした。担ぎ上げると、ほとんど身動きが出来なくなった。それでも、咲夜の元までたどり着いた。しかし、そこで力尽きた。気に入らない笑い声が聞こえてきた。無性に悔しかった。
「一人で来たのが運の尽きだな。式神も連れてこないとはな。その付け上がった代償、払ってもらおうか。」
紫が私達ごとスキマに身を隠そうとした。だが、敵の方が一瞬早かった。衝撃波が紫の体を打った。倒れはしなかったが、開きかけたスキマは霧散した。
「貴様はここで朽ち果てろ。ちょうどそこの吸血鬼のようにな。」
この後に展開される凶事は簡単に予想できた。動かない我が身を呪った。
虚空から腕が数本出てきた。せめて咲夜だけはと思い、咲夜の体を自分の体で覆った。

閃光が走った。顔を上げると、出ていた腕が光の中に消えて行くのが見えた。
「ここでクタばるのは、手前の方だぜ。覚悟しな!!」
「レミリア、咲夜、紫、大丈夫!?」
「幽々子様、ご無事ですか!?」
反対の方向を向くと、息を切らしている魔理沙とアリス、そして妖夢の姿が見えた。
「ゆ、幽々子様、大丈夫ですか!?返事をしてください!!」
あわてて、妖夢が幽々子の元に駆け寄った。アリスは私のほうに寄って来て、魔理沙は紫と一緒に敵と睨み合っていた。
「ひ、酷い。すぐに永遠亭に運ばなきゃ。」
「私の事はいいの。それより咲夜の事をお願い。もう、あまり時間が無いわ。」
そう言うと、アリスが妖夢の元に何かを言いに行った。恐らく、妖夢に幽々子と咲夜を運ばせる気だろう。
そのままアリスは、戦列に加わった。もう既に、派手に暴れている魔理沙の援護を始めた。どうやら、今ここで、何をやらなくてはならないのかを分かっているのだろう。得体の知れない奴を、これ以上野放しにするわけにはいかない。
大将格じゃないほうが、紫の攻撃で吹き飛んだ。辺りに肉片が散乱する。大将格の方も時間の問題であろう。この時点で私に出来ることは何も無かった。しかし、咲夜のお礼をしなければ気がすまなかった。
残っている魔力を掻き集めた。狙うは一瞬。
アリスの攻撃で、敵がバランスを崩した。待ち望んでいたチャンスを逃がす訳が無かった。
「紅魔:スカーレットデビル!!」
殺ったかどうかを確認することなく、意識が飛んだ。

一週間後、私は永遠亭に出向いた。咲夜が目を覚ましたとの連絡が来たのだ。
永遠亭に入ると、咲夜の部屋に良く知っているメンバーが皆揃っていた。幽々子はもう起きて行動できるようだ。
「どうしたの、皆して集まったりして。」
「今日ここに居れば貴方に会えると思ってね。敵の正体、大体だけど掴めたわよ。」
どうやら、紫が何か分かったらしい。私は咲夜の傍に腰を下ろした。咲夜は申し訳なさそうな顔をしていた。
「で、あの胸糞悪い連中の正体が分かったって本当なの?」
「ええ、この間直接あって確信したわ。」
「どこのどいつだ、この下らない事ばかり起こしている奴は。今すぐにでもぶっ飛ばしてきてやるぜ。」
「落ち着きなさい、魔理沙。まだ場所までは突き止めていないの。」
一同に、少し落胆の表情が浮かぶ。それでも、正体が分かっただけでもマシだ。
「それに、相手は恐らく生物じゃないわね。物ね。」
「「物!?」」
全員が驚きの声を上げた。驚くなと言う方が無理な話だ。
「そうよ、物よ。ただし、かなり強力な魔法が付加されたマジックアイテムよ。前に一度どこかで見かけたときに、気になって覚えていたの。今回のは、何か別の強力な力が色々付加されていたけど本質的な魔力の波動は変わっていなかったわ。」
「どういうアイテムなの?」
一応魔法使いとして気になるらしく、アリスが聞いた。
「私が知る物は、簡単に言えば近くの生物の意思を勝手に乗っ取り、暴れさせるという呪いのアイテムよ。もっと簡単に言えば、バーサーカー量産アイテム。嫌いな国に送って皆狂わせて同士討ちさせるといふうに使う、戦略級マジックアイテムよ。」
なにやら、魔理沙が難しい顔をして考え込みだした。
「私が見たときは、厳重に封印されていたのに、どうしてかこの幻想卿に出てきたと言うわけね。」
「しかしあいつ等、変な技を幾つか使ってきたわよ。それもそのアイテムの影響?」
「いいえ、その呪いの道具にそんな機能はついてなかったと思うわ。恐らく、後で付加された機能ね。ただの人間に色々な能力をつけるのは。」
「後で付いたって言ったって、どうやって?それに、誰が何のために?」
「私が知るわけ無いでしょう。ただ、端的な事実を述べているだけよ。」
結局、手詰まりと言うわけか。
「な、なあ、紫。そのマジックアイテムってこんな形をしていなかったか?」
魔理沙が手で何かの形を再現した。
「ええ、そうよ。魔理沙、何で貴方が知っているの?」
「い、いや、その、偶然だよ、偶然。こう、たまたまどこかで聞いたんだ。気にするな。」
と言いつつ、慌てて退席しようとする魔理沙の退路を、妖夢と幽々子が塞いだ。
「さて、じっくり聞かせてもらおうかしら。ねえ、魔理沙。死後の世界って信じる?」
「な、何怖い顔をして迫ってくるんだ、レミリア。私は何もしていないぜ。」
「信じるの、信じないの、どっち?早く言わないとあっちの世界で確認させるわよ。」
「分かった、言う。言うからそのよく何でも切れそうな伸ばした爪を首から退けてくれ。」
爪を引っ込め、魔理沙を部屋の中央まで引きずって来た。皆で魔理沙を取り囲んだ。
「あ、あのな。あのマジックアイテムなんだけどな。私が封印を解いて持ってきたんだ。」
やっぱりそうかと言う表情が皆の顔に浮かぶ。浮かばせたと同時に数発蹴りを入れるのも忘れていなかった。
「だ、だけど、今はもう私の家には無いぜ。家が吹っ飛んだ拍子にどこか飛んでいっちまった。探しても見つからなかったし。だから、私は悪くない。悪くないからもう蹴らないでくれ。」
「あんたが持ち出さなきゃこんな事にはならなかったんでしょうが。大体、いつも言ってたでしょうが。あんな風にアイテムを付き重ねるなって。グチャグチャに積み重ねている間に怪しげな力が付加されたのよ。しかも吹き飛んだことで、たぶん一番何らかの影響を与えたのよ。結局魔理沙が全部悪かったんじゃない。」
「しかも、野ざらしになっている訳だから、当然満月の光を浴びたいだけ浴びているわけね。満月の日にあれだけ強力な力を出せるわけだわ。」
「最早人間だけとは言わずに、幻想卿自体にも何らかの干渉を行えると見て間違いなさそうね。魔理沙が家なんか吹き飛ばさなきゃこんな事にはならなかったのに!!」
「家が吹き飛んだことについては、私は何も悪くない。大体、吹き飛ぶような実験は何もしていなかったんだからな。」
「すぐに、人のせいにする。魔理沙がドジった以外に何があるって言うのよ。」
気が付くと、そそくさと部屋を出て行こうとする紫の姿があった。当然背後からCQCをして、部屋の中央に持ってきた。
「あ、あれなんだけど、暇だったからつい魔理沙をからかって見ようと思って、液体の中身をちょっと替えてみたのよ。タダのちょっとした冗談じゃない。魔理沙、許して。」
「「お前が元凶か!!」」

夕方、退院許可の出た咲夜を連れて帰ろうとした。門を出たところで、同じく退院許可の出た幽々子と妖夢、そして痣だらけになった紫と出会った。
疑問に思っていた事を、幽々子に聞く事にした。
「貴方、これからもあんな無茶をして行くつもり?」
幽々子は答えなかった。このことについて、誰にも何も言われたくないらしい。要するに、これからも死ぬ気でいるつもりだ。
「貴方は先に発たれる辛さが一番分かっているはずでしょう。妖夢の事、少しは考えてあげたら。」
やはり、何も答えなかった。決意は変えられないようだ。妖夢は悲しそうな表情をしていた。
今まで黙って様子を見ていた紫が、口を開いた。
「幽々子、あの晩の事、覚えているわね?」
「ええ、紫。忘れるわけが無いわ。」
「じゃあ、貴方が私に助けられた事も覚えているわね。」
ええ、と小さく幽々子が頷く。頷きながら紫を睨んだ。
「覚えておいて。貴方は私に命一つ分の借があるってことを。」
無言のまま、幽々子は紫を睨み続けた。
「必ず返してね。それだけは絶対に覚えておいて。」
そう言うと、紫はスキマに帰っていった。幽々子達もこの場を後にした。
少し信じられなかった。あのスキマ妖怪が幽々子に死ぬ事を禁じた事を。

誰も居なくなり、咲夜が声をかけて来た。
「お嬢様、申し訳ございませんでした。無許可での単独駆動をし、あのような失態をしてしまった事については、弁解の余地も有りません。どのような処罰も受けます。」
「咲夜、何を。」
「私が先走って捕らわれた上に、お嬢様の身を危険を晒してしまっては、もはや紅魔館のメイドとしてやっていけないでしょう。」
咲夜の表情は、苦渋に満ちていた。
「私は辞めるだけでは、気が治まりません。どうぞ、好きに処分してください。」
しばらく、沈黙が場を満たした。どうやら、咲夜の決意は変えられそうにない。
「咲夜、今言った事、本気?」
短く、肯定を意味する言葉が聞こえてきた。
「分かったわ。じゃあ、私の好きにしていいのね。一応言っておくけど、貴方を殺しそうになった事、貴方に謝らないわよ。貴方が招いた結果ですから。」
俯いた咲夜から、表情を読み取る事は出来なかった。それでも、咲夜の心情はよく理解できた。
「咲夜、貴方に処分を下します。」
「はい、お嬢様。何とでも。」
「二度と私から離れない事。以上。」
「お嬢様、それでは」
「勘違いしないで。貴方なら私についてくる事がどれだけ大変か、知っているでしょう。」
「そ、それはそうですけど・・・」
「それに、貴方には休みを与えないと言っているのよ。どんなに体が辛くたって私についてきてもらうわよ。」
「今までに一度も休みを貰った覚えはありませんが。」
ああ、もう。うだうだ言わずに黙って頷きなさい。
「ああ、もういい。単刀直入に聞くわ。」
「は、はい。」
「咲夜は私が嫌いなの?」
「い、いえ、そんな、滅相もございません。」
「じゃあ、別にいいじゃない。黙って私について来ればいいの。分かったわね。」
そう言い、踵を返して紅魔館に帰ろうとした。今は咲夜と顔を合わしたくなかった。
「お、お嬢様。待ってくださいよ。お嬢様!!」
こんな夕日、さっさと暮れてしまえ。そう、心の中で叫んだ。
お久しぶりです。最早何も言えません。謝るところだらけなので、弁解の余地が有りません。
それでも読んでいただいた方々にお礼を申し上げます。
気分が滅入っているときに中継ぎの話を作るものじゃないと、つくづく痛感しています。反省しています。
投稿してから改めて見るとレミリア様が、少しだけ壊すはずが酷く壊れていました。本当にレミリア様ファンの方々申し訳ありませんでした。それと紫ファンの方にも謝罪をします。幽々子様あまり出番無かったし。
次回はもっとがんばりますので、どうぞよろしくお願いします。
それでは、また。
ニケ
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