Coolier - 新生・東方創想話

魂魄異伝~妖々夢福~ 第三幕

2005/04/25 06:08:19
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*このSSは2話のコメント欄に書く予定でしたが、
結構なボリュームになってしまったので、本編として書くことにしました。
よって今回は妖夢以外の視点で物語が進みます。ご了承くださいませ。*





「妖夢・・・ 早く帰ってきて・・・」

妖夢はいないし 私はこんなんなっちゃって ご飯の用意などできるはずもない

「みょん・・ おなかすいた・・・」

いや 食べなくても死ぬわけじゃあないし むしろ趣味の領域ではあるはずなのだけど・・・

「習慣って、怖いわ~。みょん」

朝起きて朝ごはんが食べれないことが こんなに悲しいことだったなんて

いつもならこの時分 妖夢が『幽々子様、ご起床くださいませ、朝餉の用意が整いました。』

って言いながら お味噌汁のいい匂いを引き連れて 寝室へ入ってくる頃合なのに

こんなことになるなら 妖夢のこしらえてくれた桜餅 少しは残しておくべきだったわ・・・

「どうしよう・・・」 

1・・・可愛らしい西行寺幽々子福は 突如 みょんなアイデアを閃く

2・・・ゆかりが来て 助けてくれる

3・・・カリスマがない 現実は非情である

「みょん・・私が丸を付けたいのは2だけど 期待はできそうにないわね・・・」
 
普段 夕刻まで寝ているゆかりが 今日に限って 朝一番に起きて

その上 このタイミングで 英雄箪の主人公のようにジャジャーンと登場して
 
『きゃあああ! ゆかり~! 大好きよ~!』 『食べて食べてー! デザートは私よー!』

と間一髪 朝ごはんをご馳走してくれるなんて いくらなんでも都合が良すぎる

逆に ゆかりも既に 食いっぱぐれてるかもしれないわ

『最近、藍が冷たいの・・』 って 嘆いていたし・・・

・・でもでも 妖夢は今 ゆかりのところに行ってるはずよね

ゆかりには 絶対に妖夢を核心に近づけないようにって 言ってあるから

ゆかりが知らないの一点張りで寝入ったあと 諦めて ここに戻ってくるかも・・・

・・いやいや だめね・・ あの子は一本木すぎるもの

絶対に無理だと思い知るまでは ぼろぼろになりながらも 初志貫徹に努めるでしょうし

「はあ・・妖夢が戻るまで、まだたっぷりかかりそうね~。みょん・・」

お昼過ぎには 事を察したゆかりが ここへ来てくれるかもしれないけれど

それまで 腹具合がもつかと聞かれれば 答えは ノー

あまりの空腹に 転げ回り のたうちまわった末に 無残に散ってしまうのね

ああ なんという悲劇・・ かわいそうな私・・・

でもね・・・

できる女は 切り札の準備を怠らないものなのよ!

「やはり答えは・・・・1しか無いようね!みょん!

 ふふ・・こんなこともあろうかと・・・裏に柿を植えておいてよかったわ~」

妖夢は美観を損ねるって言ってたけれど 薔薇園に咲く一輪のタンポポにはまた違った良さがある

それに加えて 美味しくいただけるんだから 妖夢も 本質を見る目を養わなきゃだめよね

「みょん。きっと美味しい実をつけてくれてるわ~」

冥界の 一年中咲く妖桜から接いだ幽霊柿 一年中実を付けてくれるから 頼りになるわ

「今すぐ食べてあげるわよ~。」

わくわくしながら柿の木を目指す あなたも私に食べられるのを わくわくしながら待ってなさい

「みょん。ええ~と、この辺に~・・・あ、あった・・?」

目に飛び込んできたその光景は あまりに残酷だった

「っきゃああああああああああああああああ!!???」

無意識に口から 否 魂から溢れ出る 血の叫び

「柿が・・なってない・・なんで!? 

 一年中実を付けてくれるはずなのに!

 それに・・あんなに・・・あんなに手塩にかけて育てたのに! 妖夢が!」

翌日に飽きて妖夢に押し付けたのだが 私に任せられた以上 放棄することはあり得ない

「あう・・ なんで、なんで・・」   

・・ああ そうか 

今年の冬に夏さながらの暖気を集めたり そのすぐあとに突然涼しくなったり・・

不自然に自然界の法則を乱したせいで きっと 柿にも負担がかかっていたんだわ

ここに咲き誇る桜達は皆 西行妖の眷属 だけどこちらはただの幽霊柿

いくらその桜から接いだといっても 異常気象を乗り切る根性は無かったのね・・・

そう 原因は私・・・ でも でも・・・!

「嘘だわ・・こんな、ひどい仕打ち・・・」

理解しながらもなお 目の前の現実を受け入れられず 

柿の木の周りを おぼつかない足取りでとてとて回る

「みょん!」

それが報われたのか それとも 憐れんだ神の気まぐれなのか

確かなことはわからないけど でもそこには存在していた

今この瞬間において あらゆる宝石よりも高い価値を持つであろう輝き そう 柿が

一番高い枝に 一つだけ ひっそりと・・・

「嗚呼っ! 生命の賛歌!」

なんだか 矛盾している気がしないでもないけど

これは幻ではない 確かに存在しているのだ

「・・待って! 逃げないで! そこにいて!」

冷静に考えれば 柿が逃げるはずもないのだけれど

もはや 冷静な思考など不可能 そして 野暮というものよ

あそこまでいけば 渇きを癒せる

即座に 行動を開始した

「んしょ!んしょ!みょんこらしょ!」

木登りなどしたことは無いけど 自分でも驚く程の力が体にみなぎり

硬く太く高くそびえ立つ柿の木の幹を なおも加速しつつ するすると登っていく

「みょおおおおおおおー!! 柿、とったどー!!」

ああ・・・ 私のかわいい柿ちゃん・・

「柿ちゃん・・・ さようなら、大好きだったわ。 ・・いただきます!」

がぶり

「み゛ょん! ちょっと渋いぃ・・ でも、おいしい!」

もりもりもり・・・

「渋い!おいしい!渋い!おいしい!おいしぶー!」

無我夢中で柿を貪る私 渋さなど意にも介さない

しかし 蜜月とは あっという間に過ぎるもの

気がつけば 愛しい柿は ヘタだけになっていた

「ああ・・ 柿ちゃん・・ なんて儚い・・・

 あなたは今この瞬間、確実に桜よりも美しかったわ・・」

当然 満腹には程遠い だけどこの柿は 己が持つ役割を十二分に果たしてくれた

ありがとう・・・

「みょん。さてと・・・」

目当ての柿も食べ終わったし 降りて他を当たろうかしらね

「あれ」

地面が遠い・・・ 見下ろせば 地面は遥か眼下 あんな遠くに・・

「私、どうやって登ってきたんだっけ・・」

確か 一際ささくれ立った木の皮を目標にして・・ 足を こう・・

「・・・届かない」

場所を変え 角度を変え 出来得る限りのアプローチをかける

「みょん・・どれも届かない・・」

ああ! なんてこと! 降りられないわ・・

今の私は空を飛べない 大事なものと引き換えに 手放してしまったから

そして今の私の体型は なんというか 犬のような猫のような大福餅のような

ジャストフィットする生物は 私の記憶には無いけれど

とりあえず 小型の愛玩動物 という形容が最もしっくりくるサイズだ

加えて 間接構造は自分でもよくわからないけれど 手足がやたらと短い

「よく登ってこれたわね・・私・・」

自分はそこまで 食い意地が張っていたのかと 思わず恥じ入る

とにかく もう一度 諦めずに足を伸ばしてみる

「むぐぐぐっ」

足が攣りそうなほどに伸ばしたが やはり届かない

「みょん・・どうしよう、降りれない・・」

絶望で目の前が真っ白になる

一応 最悪 自由落下という手も あるにはある

私は幽霊 こんなんなっても幽霊は幽霊

痛いけど これ以上どうかなるということは無い だけど 痛いのは イヤ

「うう・・」

私にひと時の幸せと 永劫の苦難を与えてくれた柿の木を 零距離でじっと見つめる・・・

「なんでこんな、イジワルするのよぅ・・」

イジワルというか 私が勝手に 恥ずかしい失態を犯してしまっただけなのだけれど

そんな些細ことは この際 棚にでも上げておくとする

「みょん。確かに、あなたの子供達のほとんどが実を結べなかったのは、私のせい・・

 でも、悪気は一切無かったのよ!?」

むしろ・・・ 地上での役目を終えたあなたに

もう一度 ここで花開く機会を与えてあげたのも 私なのだから

「ねえ、なにか応えてよ・・」

私の剣幕も 何処吹く風と言った感じに 柿の木は ふてぶてしいほどに堂々と そこにそびえ立つ

「ねえ・・・」

なおも 直立不動 この柿 只者ではないわね! 敵ながら 天晴れだわ!

「みょん・・」

さすがに悲しくなってきた

「だぁれか~! たぁすけてぇ~!」

結局のところ いくら叫んだって ここは二百由旬四方のど真ん中

妖夢はいないし チンドン屋もシーズンオフの今

その願いを 聞き届けてくれる者なんているはずもなく ただ空しく響きわたるだけ

「妖夢うぅ~!」

まだしばらくは 戻らないだろうし それでいい

きっぱり諦めてもらうために とことんまで奔走してもらったほうがいいから

「ゆかりいぃ~!」

「はぁ~い。」

いるわけがない 今ごろお布団の中で 色々当てられない夢でも見ているのだろうから

って ええ!?

「ゆ、ゆかり・・?」

「そうよ、あなたの紫よ。おはよう、幽々子。」

「みょんっ! ゆかりぃ!」

「うわっと、全くもう、いきなり飛びついてこないでよ、危ないわねぇ・・」

「すんすん・・ だって、お腹すいて、降りられなくて・・、みょん。」

「あらあら、かわいそうな幽々子。」

「ところでゆかり、こんな時間に起きてるなんて、珍しいわね~?」

「いーえ、寝てるわよ? ここは私の夢の中であり、あなたの現実。

 夢と現と線引きなんて、そんなものよ。」

「みょん、ということは、今からゆかりに色々当てられないことされちゃうのかしら~?」

「さあ、どうしようかしら? 鬼の居ぬ間に、というのも良いわね。」

「みょん、そうそう。昨晩、妖夢が行ったでしょう?うまくやってくれた?」

「・・ええ。もちろんよ。他でもない、幽々子の頼みだもの。」

「そう、よかった・・」

「それよりも、あなたのことよ。

 不自由してるだろうと思って、心配になったけど、眠かったから夢の中で会いに来たの。

 そしたら、おもしろいことになってたから。」

「おもしろいことって、いつから見てたの~?」

「幽々子が短い足を必死に伸ばそうとしてた辺りからね。」

「なんで、その時に助けてくれなかったのよ~。」

「がんばる幽々子の姿がかわいくって・・・

 もっと眺めていたかったけれど、木に向かってぶつぶつ独り言を言い出した辺りから、

 流石に居た堪れなくなってきてね。呼ばれて出てきちゃったわ。」

「ゆかりのばかっ、こわかったんだからねっ、みょんみょん!」

「うふふ、ごめんなさいね。

 お詫びに、ご飯をご馳走するわ。」

「みょおおおおおおおん! ゆあき~ん! 最萌え~!」

「誰がゆあきんか。まったく、幽々子ったら、調子いいんだから。」

「みょん。ささ、いきましょ~。お台所は、あっちよ~。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「すぅすぅ すぴー」

本当に 気持ちよさそうに寝ている

「この小さな体のどこに、あんなに入るのかしら」

先ほどの 見事としか言いようの無い 底抜けの食欲を思い出す

まあ もうお昼前 朝昼兼用ってことかしらね 二で割っても一食分の倍はあったけど・・

「お料理なんて久しぶりだったけど、なんとかなるものね。」

材料をまとめてぶち込んで 火にかけて 境界をいじっただけなのだけれど

私の能力を使えば 味付けの黄金比など 簡単に再現できる

それが料理と言えるかどうかは 定かではないけれど・・・

「幽々子が美味しそうに食べてくれたから、まあ、いいわよね。」

「すやすや・・・みょん・・」

「いったいどんな夢を見ているのかしら?」

「うーん・・ゆかりぃ・・」

「あら?夢の中にも私が出てきてるのかしら?」

「もう食べられないけど~、おかわり~」

「うふふ」

この幸せそうな寝顔を もっと見ていたいけれど

いつまでも そうはしていられないわね・・

「じゃあね、幽々子。」

「みょん・・ゆかりぃ・・だめぇ・・」

「あらあら、そんな後ろ髪を引かれるようなこと、言わないでちょうだいな。」

「ちゃんと・・足は洗わなきゃ・・だめだったらぁ・・」

「ははは」

こやつめ!


魂魄異伝~妖々夢福~ 第三幕


幽々子を 洗濯鼻バサミの刑に処したあと 私は白玉楼の庭に出てきていた

桜並木を眺めながら 白玉楼の出口へと向かう

「いつみても・・・ここの桜は節操無く見事ねぇ。」

手入れする者が居ない今 美しくも やや鬱陶しいほどに 降り積もる桜花

「・・・痛」

唇の端が切れていた いつの間にか 乾燥していたらしい

少しにじみ出た血をなめとり 唇を湿らす

「・・ねえ、桜。あなた達は、咲き続けているの? それとも、散り続けているの?」

応えは無い あるはずも無い

しかし これが答えだと言わんばかりに 彼らはなお一層 見事に咲き誇り 儚く散り行く

「成る程ね。私も、あなた達くらい、潔ければね・・・」

儚いからこそ 潔いのか

友を得て 従者を ・・否 家族を得て 恵まれすぎた時を経て

私はすっかり 臆病になってしまった

そんな臆病な私が 今 一世一代の大勝負に出ようとしているなんてね・・

「柄でも無いことを、しようとするから・・」

怖い

「まったく、自分でも何を考えてるか、わからないわ・・」

怖い なにもかも 失うことになるかもしれない

舐めても舐めても 唇が渇く 

もう口の中に 一滴の唾液も残っていないのか

舐めた舌が 唇が 赤いぬめりを延ばしながら かさかさと音を立てる

「本当、こんな小心者が・・分不相応にも程があるわね。」

私なんかよりも 妖夢の方が ずっと苦しむはずなのに

「妖夢は立派ね・・ あれで半人前だなんて、幽々子は厳しいわ・・」

確かにまだ 勇敢と 無謀を 取り違えていたり 危なっかしい節はあるけれど

こんな 臆病で矮小な妖怪よりは ずっと立派

「報われない、いつまでも報われないわね、妖夢。本当に、幸せな主従・・」

その幸せを 私は壊してしまうのかもしれない

「ごめんなさいね・・幽々子。」

あなたに黙って あなたの全てをチップにしてしまった もう 戻れない

だけどわかって・・ これからも 幸せな日常が続いていったとしても・・

そこに 妖夢の笑顔と・・

「あなたの本当の笑顔が無ければ、意味がないのよ・・」

考え事をしながら歩いているうちに 白玉楼の出口が見えてきた

幽々子はこの庭を二百由旬と言うが もちろんそんなには無い

それなりに広いが 終わらない夢など無いように

優雅な桜並木は終りを告げ その先に 現実の重さを隠喩するかのような 無骨な石段が続く

ここから先は 生者の世界だ

「死者の世界は、あんなにもいきいきとしていたのに。

 生者の世界が、こんなにも生きた心地がしないなんて、なんとも皮肉ね・・」

できることなら戻りたい なにもかも忘れて 幽々子を抱きしめたい

だけど それだけはだめだ そこまで腐ってはだめだ

妖夢の頑張りを 無駄にするわけにはいかないし 自分の心には 嘘をつけない 

それにもう とっくに賽は投げられている あとは進むだけだ

「またね・・・幽々子。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


私は普段 移動の際には隙間を使う

さらに 今日に限っては 夢と現の境界を再度操り 目を覚ませば そこはマヨヒガの家の布団の中だ

だが今日は 今日だけは それをせず ゆっくりとマヨヒガへ向かっている

マヨヒガへ辿り付いてしまったら そしてそこに 既に妖夢が到着していたら・・ 

回り始めた運命の歯車は止められない すぐにでも運命の瞬間が始まってしまうと思うと・・

少しでも ほんの少しでも 時間稼ぎがしたかった

以前 藍を一人で白玉楼へ遣いに出させた時 

なんであんなに遠いのだろうかと ぼやいていた事が思い出される

「藍ったら、まったく。もうちょっと正確に物事を伝えなきゃ、だめじゃないの。」

・・解かっている 頭では解かっている その道程が決して短くないことは

でも 今日は 今日に限っては こんなにも 短い・・・

いつの間にか 眼下に広がるマヨヒガの地

「これ以上は、見苦しいわね・・・」

覚悟を決して マヨヒガの結界を越える

主の帰還を歓喜するかのように 空気が震える

この瞬間 私がマヨヒガへ戻ったことが 藍に悟られただろう

藍が妖夢と一緒に 私を待っていたとしたならば

きっと その旨も伝えられてしまったはずだ

何にせよ もう 後戻りはできない 

「あとは、なるようになるわ・・」

目をつぶり 夢と現の境界に干渉する 

一度 深く 真っ暗な底まで潜る ややあって 少しずつ浮き上がる

「ん・・・・」

「お目覚めですか、紫様。」

「ああ、藍。おはよう・・」

「おはようございます。そしてお帰りなさいませ。」

正座をし 三つ指をついてお辞儀をする藍を横目に 窓を見やる 

妖しく差し込む月明かりが 今時分が夜であることを 如実に物語っている

陽はとうに没してしまったようだ 少し余計に寝てしまったようね 

「・・妖夢は、来ている?」

「はい。しかし紫様はお休み中でしたので、床の間に通して、そこで待たせてあります。」

そう 無事に戻ってこれたのね 良かった・・

「今すぐに、行くわ。」

「それでは、湯の用意をいたしましょう。」

「いえ、いいわ。ただでさえ待たせているのだから、悪いじゃない。

 ・・それに、どうせ汚れるもの。」

「どこかにお出かけになられるのですか?」

「詮索は無用よ。」

「失礼いたしました。」

「・・多分、一悶着あると思うから。」

「! あの庭師との間になにかあるのですか?」

「藍。詮索は無用と言ったはずよ。」

「失礼いたしました。

 ・・しかし、よもや紫様の身に危害が加えられるようなことがあれば、

 この八雲藍、こみ上げる脱衣の波動を制御できる自信がありません。」

・・・あなた ほんとに主人思いの従者を気取りたいのかと

ただ自分が 機に乗じて スッパしたいだけと違うのかと 小一時間問い詰めたい

今度 時間があるときにでも 問い詰めよう

「あなた、私をみくびっていない?

 一庭師風情が、私をどうにかできるとでも思って?」

「失礼いたしました。 しかし・・」

「藍。いいのよ。

 そういえば、橙は?」

「外で遊んでいるはずですが、暗くなったのでそろそろ戻ると思います。」

「そう。なら、ちょうどいいわ。

 お茶を出したら、あとは橙を迎えに行って、もう少し一緒に外で遊んでいなさいな。

 あなた達は夜目が利くから、夜も昼も関係ないでしょう?」

「わかりました。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「待たせたわね、妖夢。」

「紫さま、こんば・・おはようございます。」

「ええ。おはよう、妖夢。
 
 で、首尾の方は?」

「はい。

 博麗へ赴き、預かっていた御札について、聞いて参りましたが、

 修行不足故、今一つ噛み砕くことができず、今一度、馳せ参じた次第です。」

見れば 体に目立つ怪我はないものの

衣服のあちこちに 損傷があるのが見て取れる

「やはり、ままならぬものだったでしょう?」

「はい・・

 精進が足りず、危うく志半ばにして果てるところでした。

 この靴下に窮地を救っていただけなければ、私は博麗の結界の露と消え、

 ここには居なかったでしょう。」

妖夢が指し示すのは 白楼剣の柄に結い付けられた巾着・・・ というか靴下

この子はまた 珍みょんなことをしているわね

しかし おかしい

この靴下は御札の禍が妖夢に降りかからぬよう 処方したものだ

それ以上の役割は果たさない

まして 霊夢の結界を破るなど とてもじゃないが 出来ようはずがない

おそらく この子 自分でも気づかぬうちに 一皮向けたのね・・

うれしい誤算だわ

「それは良かったわ。

 じゃあ、御札はまた私が預かるわね。」

巾着を妖夢から受け取り 靴下に戻して御札を取り出し 靴下は床脇棚に放る

「ありがとうございました。

 して、その御札は、その、どういうことなのでしょうか・・・

 随分、・・忌まわしいものであると、聞き及んだのですが。」

「ええ、それについてだけどね・・」

どう切り出すかと思案していたところ 

藍が音も立てず ふすまを開け 盆を持ってすすすっと部屋に入ってきた

私と妖夢の前に お茶とお茶請けを置く 

「粗茶ですが」

「あ、ありがとうございます。」

「ありがとう。 ・・・!」

靴下を回収し また音も無く すすすっと部屋を出て行く

しかし私は見た 見てしまった

その目にらんらんと燃える 決意の炎を

同じ決意でも 妖夢のものとは 完全に異質

解放への焦がれと うしろめたさが同居する 背徳の炎

藍・・ヤル気ね ・・・まずい 非常にまずい

「さすがですね・・・」

「へ?」

「いえ、こうやってもてなしながらも、決して警戒を緩めず・・・

 なにか一つでも粗相があれば、すぐにでも私の首を掻けるのだぞ、と。

 全身からかもし出す殺気が、そう語っていました。

 従者とは、かくあるべきなのですね。また一つ、勉強になりました。」

「いやまあ。そうね。精進しなさいな。」

妖夢はなにか勘違いをしているようだけど そういうことにしておこう

「・・悪いんだけど、お茶、早く飲んじゃいなさい。」

「え、あ、はい。いただきます。」

「それ、飲んだら、外行くわよ。できるだけ急いで。」

「へ?どうしてですか?」

「はじめての視聴者がいるから、テンコのテンションが上がっているの。

 危険だから、早く避難しましょう。」

理由はそれだけじゃないけどね・・

「はあ・・?」

部屋の外から 舌打ちが聞こえたような気がしたが 聞こえなかったことにしておこう

「いいから、早く。」

「わかりました。それでは、失礼して・・・」

私と妖夢は 一心不乱に お茶請けを口に押し込み お茶でそれを流し込む

「・・ご馳走様でした。 けふっ・・ う、ご無礼を・・」

「はい、お粗末様。

 それじゃあ、外へ行きましょう。」

私が手をかざすと そこに隙間が展開する

「さ、入って!」

その刹那 突然 空気がずしりと重くなる

バカな! 早すぎる!

次の瞬間 部屋に妖気が充満する あえて言うなら ピンク色の・・・

まずい! ショータイムだわ!

「なっ!?」

「早く!」

間に合って!

「は、はい!」

大きな音をたてて ふすまが開け放たれるのと

私と妖夢が隙間に飛び込むのは ほぼ同時だった


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「間一髪だったわね」

「あの、いったいなんだったんですか・・?」

「いいの。気にしないで。」

あぶないあぶない・・

「はあ・・」

なんとか 酸鼻の極みを回避することは成功した

あとは 私だ・・

「さて、この御札のことだったわね。」

「はい。」

「あなたにこれを持たせ、霊夢の所まで行かせたのは、あなたの覚悟を試すためだったの。

 そしてあなたは見事、やり遂げたわ。」

だけど・・・ もう一度だけ あなたを試さなくてはならない

「自分の力だけでは及ばなかったのが、悔やまれますが・・・」

「・・いいえ、妖夢。あなたはよくやったわ。

 そして、最初にも言ったわよね。真実はそれにあると。」

この子は どこまでも謙虚で そしてまっすぐで・・・

「はい。」

「これは、霊夢から聞いたとおりだと思うけど、

 厄を他の誰かに転嫁し、身を守る外法で組まれた御札よ。」

故に恐ろしい この子が 憎しみにとらわれる瞬間を見るのが

「はい。そのように聞き及びました。」

「あなたが聞きたいことはわかるわ。

 この御札が何を意味するのか。

 即ち、誰が作り、誰が使い、誰に来るはずの厄を、誰に背負わせたのか・・」

ここが正念場よ・・ あなたも 私も・・

「・・ずっと、気になっていました。」

「あなたは今から真実を知る。

 最初から答えはここにあったの。

 あなたの覚悟、それだけが、此岸と彼岸を繋ぐ最初で、最後の鍵。」

「・・はい」

「まず、これを作ったのは、私。」

私は ひたすらに 穴を掘っていた

「!」

「もう、あなたも薄々、感づいているんじゃないかしら?
 
 認めたくなくとも、認めなくてはならぬ現実がある。」

重くのしかかる絶望に 耐え切れずに

「う・・」

「誰の厄を取り払ったかは、まだ言えないけれど・・」

そのあとに どれほどの後悔が 押し寄せるのかも考えず

「・・・」

「その誰かのために、この厄を被ったのは、幽々子よ。

 だから、あんなことになってしまった。」

ただ その穴に 希望の種を 植えたかった・・

「そんな・・そんな・・・」

「そして、心して聞きなさい、妖夢。

 この御札を使って、転嫁される先を幽々子に指定したのは・・・」

「ああ・・あ・・」


だが私は 果たしてその穴に 希望の種を植えることができたのだろうか



それとも 知らずに 自分の墓穴を掘ってしまっていたのだろうか
















「・・・・私よ。」


一方その頃 幽々子福は二度目の危機に瀕していた








・・・・・・・・・・・・・・・・


或いはの話 副題「脱ぐは一時の恥、脱いだら一生の恥」

「ふぅぅぅ・・ はぁぁぁ・・ おのれ! どこへ逃げ失せた!

 スッ○゚はなんのためにある!? 見せるためじゃあない! 見せつけるためにあるッ!!」

「らんさま、ただい・・・」

バックアタックだ!

「あ」

「っみゃああーーーーー!? なにしてるですかー!!」

「ちぇん!見ないで、見ないでえ!

 あああ!でもやっぱり見てーーー!!」

「らんしゃまの、らんしゃまの・・・ 東方露出狂ー!!」

橙の先制攻撃!

「うぐっ!」

藍の防弾ガラスのハートにクリティカルヒット!

「テ・・・」

「ら、らんしゃま・・・?」

「テンコーーーーーーーーーー!」

喰らいボムサクセス!開き直り○ッパテンコ発動!

橙、被弾
ブラボー様
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コメント



0.1270簡易評価
21.100名前が無い程度の能力削除
ギャグだと思って読み進めていた。いきなりシリアスになった。
燃え殺す気か!orz
シリアスだと思って読み進めていた。いきなりギャグになった。
笑い殺す気か!orz=3
安心して読めません!頼むからもう少し落ち着いてください!
。。。。ふー読み終わった。→コメントで爆死。
即死コンボか!周到すぎるぜ旦那!あんまりだ!
真面目なところ、先がめっさ気になりますよ!
24.80名前が無い程度の能力削除
ついに大詰め!な雰囲気ですね。
本来厄が誰に来るのか、なんとなく読めていますが、それは野暮ですね。
果たして妖夢は紫の試験をパスできるのか、
果たして幽々子は元に戻れるのか、
果たして3人に本当の笑顔が戻るのか・・
最後まで楽しみにしています。
25.90名前が無い程度の能力削除
どうしても重くなりがちなシリアス展開の話の中に、
巧みに笑い(とジョジョネタ)が盛り込まれている、とても見事な作品と思います。
話の展開も、どうやら核心に近づいてきた様で目が離せません。
次回、楽しみに待っています!