Coolier - 新生・東方創想話

瀟洒な従者とれみりゃ様

2005/04/23 07:45:20
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幻想郷の、平和な朝。

「なぅ~~~~~~~……」

紅魔館のメイド長専用の部屋の、大方3割を占める机に、だらしなく頬をつけ、ため息ともとれない微
妙な息を吐く。

彼女の名前は十六夜咲夜。
通称、咲夜さんと親しまれる彼女は此処、紅魔館のメイドたちを束ねるメイド長だ。
完璧で瀟洒、得意なことは主に掃除。
そんな彼女は今、ある問題に突き当たっていた。



元々その問題に突き当たったのは紅魔館の主であり、つまりは咲夜さんの主である吸血鬼、レミリア・
スカーレット嬢に出会って仕える様になり、暫く経ってからであった。

彼女、レミリアは非常に特異的な吸血鬼だった。
生血を啜る、という点は他の吸血鬼となんら変わりない。少食、ということを除けば。

だが、

レミリアは満月になると、反則的なまでの破壊力を発揮する。
唯でさえ並のレベルで無い弾幕が、更にレベルアップするのだ。
避けられる者などそうはいない。

これはこれで問題ではあるが、咲夜さんが突き当たっている問題は、もう一方。

レミリアは新月になると、幼年化する。
つまり、精神的破壊力が絶大なものとなるのだ。
これに幾度、臨死状態にされたことか。

咲夜さんが危惧しているのは、ここ。

今日は新月。

もうレミリアお嬢様は幼年化、俗に言う「れみりゃ状態」になっているだろう。
そのれみりゃ様に逢ったら、再び臨死状態に陥ってしまうかもしれない。

瀟洒な自分が、人前で。

今までは時を止めたり機転を利かしたりしたおかげで、何とか修羅場を脱してきたが、毎回毎回、本当
にギリギリなのだ。

この間なんかは、パチェリー様がいなかったら完璧に見られていただろう。
似たもの同士、困ったときは助け合いましょう、ということだそうで。
どういう訳かさっぱり判らず、後で小悪魔に訊いてみたら、

「ヴワル魔法図書館で、魔理沙さんに秘密で幼年化する薬を飲ませたら、あまりの破壊力にパチェリー
 様自身がKOされてしまったんです。」

だそうだ。

「はぅ~~~~~~……」

だが、今回もパチェリー様が助けてくれるとは限らない。
そう思うと気が重くなるのだった。


コン、コン。


突如鳴り響いたノック、

「さくや~、いるの~?」

次いで聞こえたその聞き覚えある可愛らしい声に、咲夜さんは

「はっ、はいぃ!!」

激烈なリアクション、椅子から立とうとして、あまりの勢いに椅子が吹っ飛んだ。
ガンッ、と椅子と壁がぶつかる鈍い音、

「ひえッ……!」

外からは、その音に驚いたのか、小さな悲鳴が聞こえてきた。

「あっ、え…っとその、この音は……お嬢様、なにか御用事で?」

前半はパニくった状態、途中で時を止め、自分だけの世界で平常心を取り戻してから、後半はできるだ
け冷静に。そう心がけた咲夜の言葉に、レミリア…もとい、れみりゃは

「あ、う…とね、さくやに遊んでほしくて…」

どこか遠慮がちに言葉を綴った。

「ああ。」

咲夜さんは複雑な気持ちでその言葉を受け取った。

「いい…ですよ。」

喜び半分、焦燥感半分。
あやふやだった咲夜さんの言葉に、それでもれみりゃは、

「ほんとっ!?じゃあ入っていい!?」

それだけで喜びに満ち溢れた顔を想像出来る声で。


バタン!


咲夜さんが返答する隙も与えずにドアを開けた。

「さくや~鬼ごっこしようよ、鬼ごっこ!!」

予てから咲夜さんと何をして遊ぶか決めていたらしい。
部屋に入ってくるなり、いきなりこんな狭い部屋ではできないような遊びを提案する。
その無邪気で可愛げのある顔は、咲夜さんを、一発でコーナーまで追い詰めた。

(ああっ、お嬢様!そんな顔なさらないで下さい、私の方が大変ですからぁ~~!!)

心の中ではそう思ってはいるものの、それを表面上に出さずに

「それでは廊下に出ましょう。この部屋は狭いですから。」

最も最適と思われる対処法を返す。
流石だ、咲夜さん。「完全で瀟洒な従者」の肩書きは伊達じゃない。

「うんっ!」

素直に従うれみりゃ様。
こういう従順というか、率直というか、そういうところも咲夜さんを追い詰める要因のうちの一つであ
る。
飛ぶように、いや、実際には飛んでいるのだが、まあ、それ程の速度で廊下に出たれみりゃを追う様に
咲夜さんも廊下に出る。

「じゃあ、まずさくやが鬼ね。10数えてから追っかけてきてね。」

「はい、わかりました。それでは…、い~ち、に~い、さ~ん、…」

数を数え始めた咲夜さんを満足げにしばし眺めてから、ふと、物凄いスピードで廊下を滑空し、逃げ始
めた。

「し~い、ご~お、ろ~く、(ああ、お嬢様、そんなスピードで何かにぶつかったらお怪我なされてし
 まいます!!)」

目の前の曲がり角を、物凄いスピードを嘘だと思えるほど、実にスムーズに曲がる。

「し~ち、は~ち、く~う、(危険です!お嬢様ぁ~~~!!!)」

そして、れみりゃは見えなくなった。

「じゅう!!」

この瞬間を待っていたかのように、咲夜さんは爆速ダッシュ。

(お嬢様ぁ~~~!!危ないですからぁ~~~~~!!!!!)

れみりゃの身を危惧したからこそ、この速度が出せるのだと思う。

(最近はいろいろと危ない輩が多いのですよ~~~~~!!)

実際紅魔館には危ない輩はいない(と咲夜は信じている)のだが、冷静になれなくなっている咲夜さん
にはその事実を確認できない。
と、目の前にれみりゃの姿を補足。
一気に加速し、追いつこうとする、が、再びの曲がり角、そこをスムーズに曲がれるかどうかが分かれ
目となった。
幼年化しているとはいえ、空中旋回能力はれみりゃの方が上だった。
角を曲がったれみりゃを遠くに見つめながら咲夜さんは

「クッ、仕方ない!!」

スペル発動。

「時符[パーフェクトスクウェア]!!」

時間が止まり、すべてが彼女の支配下に。

即行で角を曲がり、れみりゃを再び発見、その細い胴を両腕でしっかり掴んでから、時を動かした。

「ひゃっ!?」

れみりゃの上げた素っ頓狂な声、こちらを向いたときの訳がわからない、というような顔。

咲夜さんはやっと、自分で自分を窮地に追い込んでしまったことを知る。

「時間とめるなんてズルイよぉ~~、さくやぁ~~~…」

むくれ顔になりながら、その瞳に零れないのが不思議なほど涙を湛え、咲夜さんの腕を強く握り締めて
言った、何気ないその言葉。
それの所為で咲夜さんが、脳内の煩悩を必死で押し殺しているのをれみりゃは知る由も無い。

(お、お嬢様ぁ~!!抱きしめたい!抱きしめたい!…けど、うわああああ~~~~~~!!)

「ねぇってば、さくや~~。」

必死で煩悩と戦っていた咲夜さんは、時間を止める余裕も無く、

「うっ、あ、はい!す、すみませんでした…」

平謝りに謝る。

「そうじゃないの~~。」

咲夜さんの瞳を真摯に見つめながら、れみりゃは首を横に振る。

「鬼ごっこしたらのどかわいちゃった。」

なんだ、そういうことか。

「え?それでは…紅茶でも淹れましょうか?」

普段のレミリアは紅茶を好んで飲んでいる。
それなられみりゃも、という思考が働いての提案だった。

「こーちゃ?」

まるで、その単語を始めて聞いたかのように首をかしげる。
れみりゃ状態の彼女に、レミリア状態の時の記憶は無い。
もちろん、その逆もそうだ。
その事実は、何年も前に確認したはずなのに。
人間何がなんだかわからなくなると、大切なことを忘れてしまう。
咲夜さんも、論外ではない。
しまった、という顔でれみりゃをみながら、しかし有言実行、厨房へ向かっていった。
その後を、れみりゃがトコトコとついて行く。

「ねーねーさくや~、こーちゃって何~?」

咲夜に回答を求めるように上目遣いでこちらを見ている様は、正直言って、核爆弾より威力が強い。

(お嬢様!どこでそんなコト覚えてきたんですかぁ~~~!!)

無論咲夜さんにはクリーンヒット。

「紅茶というのは、まあ西洋版のお茶だと思って頂ければ。」

必死で冷静を保ちながらの回答は、随分と範囲が広くなってしまった気もするが、れみりゃは納得した
ようにへぇ~、と頷いている。

「ここが厨房ですよ、お嬢様。」

そう言って目の前の厨房のドアを開け放ち、れみりゃは咲夜さんよりも先に中に入る。

「うわぁ~~~、何ここ!?」

普通の幼児と同じで、れみりゃも好奇心旺盛だ。
目の前の収納棚を開け、中からフライパンを取り出す。
用途がわかっている訳ではないが。

「お嬢様、紅茶を淹れるのにフライパンは必要ありませんよ。」

咲夜さんの言葉に、れみりゃは

「ふぇ?…じゃあどうやって、こーちゃ、いれるの?」

心底不思議そうに首をかしげる。
あはは、と咲夜さんは笑い、近くの棚からティーバックを一袋取り出した。
浮かび上がり、咲夜の紅茶を淹れる手つきを真剣に眺めているれみりゃを、できるだけ意識しないよう
に、マグカップを手に取る。
マグカップに先ほどのティーバックを入れ、お湯を注ぐ。
暫く経ち、カップの中の液体が紅く染まってくると、

「うわぁ~~~!!すご~い!」

れみりゃは感嘆した声を上げた。

「希少品を入れますか、お嬢様?」

軽い気持ちで聞いてみる。
案の定れみりゃは、

「きしょーひん?」

と、聞き返してきた。

「はい。入れますか?」

もう一度問うと、れみりゃはしばしの間考え込み、そして、

「うん。いれる。」

決心を固めたらしい。
その答えを聞いた咲夜さんは、近くの棚を開け、「希少品」とラベルの貼られたビンを取り出す。
その中には紅く、鮮やかな色彩を放つ液体。
咲夜さんが時を操り、いつまでも鮮度を保つようになっている液体。
密封されているビンを開け、スプーンを突っ込み、一すくい紅茶に入れた途端、
元々紅かった紅茶が、更に紅くなった。
この館と同じ、紅の異彩。

「それでは私の部屋に行きましょうか。」

湯気の出ているマグカップを御盆に乗せ、厨房をあとにする。
厨房から咲夜さんの部屋まではあまり離れていない。
ものの30歩程で、そこに着いた。

「はい、どうぞ。」

咲夜さん専用の椅子にちょこんと座り、机の所為で頭にかぶっている帽子しか見えないれみりゃに、咲
夜さんは紅茶を差し出した。

「ん、ありがと、さくや。」

両手でマグカップを手に取り、ちびちびと飲み始める。
どうやら熱いようで、恐る恐る舌を紅茶につけては、あつっ、と言って引っ込めてしまう。

(はぅあ~~~~…)

そんなれみりゃを眺めながら、咲夜さんはとんでもない疲労感に襲われていた。
確かにれみりゃの世話をするのは普通の人でも大変である。
咲夜さんの場合、更に「萌え」的要素まで含まれてしまうため、とんでもない事になってしまう訳だ。

(お嬢様…可愛いですぅ~~~!)

そんなことを考えながら咲夜さんは、

「さくや~?」

いきなり現実に引き戻される。
見ればれみりゃがどうしたの?と言いたげな顔をしてこちらを見ていた。
どうやらいつの間にか口元が緩んでいたらしい。

「いえ、何でもありません。」

急いで緩んだ口元を引き締めなおし、れみりゃに言う。

「さくや~、はい。」

そう言ってれみりゃが突き出してきた小さな手の中には、いつの間にか空っぽになったマグカップが。
はいはい、とそのマグカップを受け取った咲夜さんに追い討ちをかけるように、れみりゃが

「ねぇ~~、ご本読んでぇ~~~?」

ねだる。
咲夜さん以外でも、この攻撃とも取れる言葉に対抗できる人は少ないと思う。

「え?それはちょ…っ……と…」

流石に瀟洒でいられる自信が無い為、断ろうとするが、

(むぉっ!!)

れみりゃの潤んだ赤い瞳を見た瞬間、その決心は、音を立てて崩れ去った。

「だめ…なの?」

その最後の一押しで、咲夜さんは完全に陥落した。

「う…わかりました…」

こうなってしまったものは仕方ない、頑張ろう、うん、頑張ろう。
別の決心を固めた昨夜さんに、

「このご本~~。」

容赦なく攻撃をいれる。
れみりゃがやっとこさ抱えられるほどの大きさの、しかし薄いその絵本、

「…[メイドと血の懐中時計]…?」

を咲夜さんに手渡した。

「え~と…じゃあ、読みますよ?」

紅魔館にこんな絵本、あったっけ、などと疑問に思いながらも、しかしお嬢様の選んだ本だ、あらかた
ヴアルから入手したんだろう、という思考の働きのほうが強かったため、そう言った、が。

「ちょっとまって~。」

何を思ったか、れみりゃは、本を開いて口も開きかけた咲夜さんを静止させ、

「えっ!ちょッ!えぇぇぇえぇえ~!お嬢様ァ~~!?」

砕けた正座をしていた咲夜さんの膝の上に、ちょこんと座った。
咲夜さんにしてみれば、嬉しい誤算。いや、嬉しい迷惑、と言った方がいいだろうか。
まあどちらにせよ、一世一代のピンチに立たされた事は確かだった。

「えへへ~~。」

なんだか嬉しげにそこに座っているれみりゃを見、自分の顔が上気していることに気づき、

時を、止めた。

(…このお方は私を萌え殺す気か!?)

自分だけの世界で、誰も答えてくれない質問を、自分の心に投げかける。
答えはもちろん、否。
これが「れみりゃ」のキャラクターであり、本性なのだ。
「レミリア」の時からは想像がつかないほどかけ離れてはいるが。
「レミリア」に仕えると、私は誓った。
「れみりゃ」を世話する、とは誓っていない。

だが。

れみりゃを見ていると、心の底が、カッと熱くなるのだ。
絶対にこの方を護る、そういう意味での熱。
悲しませたりは、しない。


「昔、ある館に一人のメイドが仕えていました………」

だから、咲夜さんは時を動かし、本を読み始めた。

―………

―……

―…

さながら、その時間は永劫の様だった。

「…といういわれで、その時計は[血の懐中時計]、と呼ばれるようになったのです。」

その最後の一文を読み終えたとき、れみりゃは、

「すぅ~~、くぅ~~…」

平穏な、眠りに落ちていた。

(…可愛い。)

その穏やかな寝顔を見つめながら、咲夜さんはそう思った。
心は、嘘のように、漣すら立っていなかった。
来るもの全てを、すっぽりと綺麗に包み込める。
そう本気で思った。

ガバッ!!!

れみりゃが急に飛び起き、

「うわわッ!?」

咲夜さんは混乱に陥った。
だめじゃん。

「う~ん……」

体を伸ばし、寝起きの欠伸をしながら、

「ねえさくや~。」

「?」

「めーりんのとこ、遊び行こ~~?」

予想だにもしなかったことを言う。
起きてから口頭一番、そんなことを言われても困る。
だが、完璧に不意を突かれていた咲夜さんは、

「えあ、はい。……ってえええええええ!?」

そう答えることしかできなかった。
見ると既にれみりゃはドアを開けた後。
咲夜の方を一度振り返り、

「早く早く!」

促してから、身を翻した。

「え?あ、ちょっと待ってください、お嬢様ぁ~~~~!」

なんか今日はこんなことしか言ってない気がする。




既に、日は沈んでいた。
自分の活動時間帯になって気分がいいのか、スキップのように地を蹴りながら、美鈴のいるはずの場所、
紅魔館の門へ向かう。
ただ、あくまで「スキップのように」である。
途中に高く跳躍して軽々宙返りをしている辺り、れみりゃが人間でないことを如実に物語っている。

「め~り~ん!遊び来たよぉ~~!」

目の前に確認できる一人の門番の姿、
振り返ったその門番に、

「ど~ん!」

無邪気にそう言いつつ、突進。

「お、お嬢様!?」

驚きの声とは裏腹に、流れるような動きでれみりゃの突進を受け止めた門番、紅美鈴は、

「と、咲夜さん?」

キョトンと、その2人の珍しい来訪者に、それぞれの呼び名を吹っかける。
もっとも「お嬢様」は呼び名ではないが。

「どうしたんですか?珍しいですね。」

「め~りん、遊ぼ~よ~!」

「へ?」

「ねえってばあ~~。」

そんな、簡単な言葉のやり取りをしながら、

「じゃあ、その前に私の家でお菓子でもどうです?ちょうど良い羊羹が手に入ったんですよ。」

美鈴が提案、

「うんっ!食べる!!」

即座にれみりゃが応答。

「それじゃあ、……」

突然背中に感じたかなりの寒気、というよりは殺意、

(ひぇ!?)

恐る恐る後ろを振り向く、と、いつの間にかエフィクトに時計が出現している咲夜さん。
その手には、持てるのが不思議なほどの本数の銀製、ナイフ、ナイフ、ナイフ。
十六夜咲夜、本気モードの臨戦態勢。
その眼は、

(お嬢様に何かしたら、許さないわよぉ~~?)

そう語っていた。
もっと酷い事だったかもしれない。
とにかく、身の危険を感じた美鈴は、
 
「お、お嬢様、や、やっぱりお外でいた、頂きませんか?」

動転丸出しで、ずっと腰元に抱きついたまま離れないれみりゃに向かっていった、が、

「なんで~~?」

こちらの事情がわからないから、仕方ないといえば仕方ない。
だが、こちらは命がけなのだ。
絶対に八つ当たりとか、そんな感じの感情で殺される。

「と、とにかく…お星様を見ながら羊羹食べるってのも、なかなか良いと思いまして、あははは…」

それでも、

「え~、めーりんの家に行ってみたい~…」

れみりゃは頑なに言い張るだけ。
もう一度恐れて嫌がる心を必死で励まし、咲夜さんの様子を伺う。
…先ほどよりも、やばくなっている感じ満々だ。
眼が紅く変色しかかっている。

(嗚呼、数分前の平和な時間、カムバァ~ック!!!)

そんなことを願っても、如何せん自分が敵に回している人しかそんな事はできないだろう。
不可能な話だ。

「お、お嬢様!」

咄嗟に、閃いた、一つの(恐らく)名案。
それを、全く躊躇せずに、口に出した。

「咲夜さんが、御病気ですよ!?」

「ええええええええええええええええええええええ!!!???」

効果覿面だった。
れみりゃは美鈴の腰元を神速の速さで離れ、

「さくや~~~~!!??」

近くでエフィクトを展開していた咲夜さんに、先ほどとは比べものにならないスピードで、突っ込んで
いった。

「!!??」

咲夜さんは、エフィクトを引っ込め、渾身の力で突っ込んできたれみりゃを、その体で、受け止めた。

(美鈴めぇ~~、覚えとけ…じゃなくて、…ありがとぉ~~~!!!)

腹部に走った鈍い痛み、れみりゃが顔を擦り付けてくる感触、様々な感情が渦巻く中、咲夜さんは、そ
のまま失神した。


――――――――――…………



ふと、咲夜さんは目を覚ました。
頭の上には小さなろうそくランプ。
幻惑的な、されど存在感のある光を発していた。
寝返りを打つ。
と、自分がベッドに寝かされている、ということにようやく気づいた。

「めーりん~、この羊羹、おいし~。」

「そうですか。お気に召されたようで、何よりです。」

隣の部屋から響いてきた声。
なんだかちょっぴり疎外感があった。

「…さくやは大丈夫なの?」

唐突に出された自分の名前に、一瞬動きが止まる。
そのまま耳を澄ますと、

「ええ、大丈夫ですよ、きっと。」

この「きっと」がいけなかったのか、

「ふみゅ…」

れみりゃの目が潤んできた、らしい。

「うわっちょっと、泣かないで下さい!」

美鈴の焦った様な声から、それは容易に想像できた。

「ふえぇ…」

これは、従者としてほうって置けまい。
そう、従者として。

「め~い~り~ん~……」

ドアを開け、幽鬼の様にゆらりと底に佇み、

「いや、これはですね、その、あっ…と」

必死で弁解の言葉をつぐむ美鈴に、

「問答無用!!お嬢様を苛めるなぁ~~!」

「ひええええええええ~~!!」

咲夜さんの瞳が紅く染まった。




「…お嬢様?大丈夫ですか?」

近くでうずくまって泣いていたれみりゃを抱き落こし、やさしく声をかけた。

「ぐずん…ざぐやぁ~~…」

れみりゃの目の周りは、泣き腫らしたのか、赤くなっていた。

「うう…私の心配もして欲しいです…」

生傷だらけの美鈴のぼやきを無視し、いつの間にか手中に収まっているハンカチで、とめどなく溢れて
来るれみりゃの涙を拭う。

「お嬢様、屋敷の戻りましょうか。」

「うん…」

今の2人には、それだけの会話で充分だった。
言葉でなくとも、心で、つながっているから。
強く、強く。
誰よりも。
強く。



「おはよう、咲夜。」

「おはようございます、お嬢様。」

紅魔館に、再び朝がやってきた。
長い夜が明け、朝日が昇る。
それは変え難い事実であり、自然の摂理でもある。

「?どうしたの、咲夜?凄いくまね。」

「あ、いえ、これは別に。」

流石にれみりゃが寝付くまでずっと一緒に絵本を読んだりしてあげていた為、寝不足になったとは言え
ない。

「?まあいいわ、紅茶を入れて頂戴。」

「はい、わかりました。」

幼稚なれみりゃは既に威厳あるレミリアに戻っている。
これでやっと平和な日常が戻ってくると思うと、気が楽になる。
しかし、どこか自分はれみりゃの世話をすることを楽しみにしている。
そんな自分は何なのだろう。

「何ボー、としてんのよ、咲夜。紅茶。」

「え?あ、はい只今!!」

平凡な、日常。
それは掛替えの無いものであり、とても大切なものでもある。
生涯このお方についていくこと、いけること、
それが私、十六夜咲夜にとっての、平凡な日常なのだから。       完
決してロリではないと言い張ってみます、雪羅奈界です。
完璧に、完膚なきまでにレミリア様に対する皆様のイメージをぶっ壊してしまいました。
申し訳ないです。
そういえば、「レミリアは新月の日にはれみりゃ(幼年)化する」と始めに提唱した人は誰なんでしょう?
その人を尊敬したいです。
ええ、ほんとに。

私信>他の方々から比べたらまだまだ未熟者故、どうしても卑下してしまう、というか自分の執筆したSSが低レベルのように感じてしまうんです。他の方々に負けぬよう、日々精進していきたいです。頑張ります。

四月二十七日…本文、空欄を詰める。コメント、書き直し。
雪羅奈界
[email protected]
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コメント



0.3610簡易評価
13.100シゲル削除
れみりゃ様可愛いですねぇ♪
いえいえそんなことは無いと思いますが。
22.90東方が大好きな程度の能力削除
れみりゃ最高
29.80名前が無い程度の能力削除
 咲夜さんッ! いくられみりゃ様状態とはいえティーバッグの紅茶を出すとはどういうことですッ!?(ぇー

 そんなことはどうでもいいとして、れみりゃ様、可愛すぎます。咲夜さんじゃなくても悶絶必至です。美鈴、さり気にれみりゃ様のお気に入りになっているのにもかかわらず、不遇な境遇なことで…、そしてパチュリー、アンタひっそりと何しているんですかッ、是非僕にも見せt(ロイヤルフレア

 本当は本人の気持ちの問題なんで僕がとやかく言うべきじゃないのかも知れませんが、そう卑下しないでください。僕はこの作品好きですよ。次回作に期待したくなるくらいに。
34.90刺し身削除
なにこの破壊力。
とりあえずこの凶器はお持ち帰りさせていただk(マイハートブレイク
37.70名前が無い程度の能力削除
何か特別な事件が起きるわけでもなしに、淡々と、ただ淡々と、
咲夜さんとれみりゃ様の日常を描いた良作と思いました。
………にしても、れみりゃ様の言動の一つ一つが破壊力高すぎ…
64.100名前が無い程度の能力削除
もう死ねるほどの精神破壊力をもつれみりゃ様
69.100名前が無い程度の能力削除
マイハートブレイクされました