僕はいつもと同様、そこへ向かう。
ゆかりの切れた仏の眠る場所へ。
此処へ来ると、僕にはいつも思い出す事がある。
「正直者」の彼らが遺した手記の事を。
彼らの最後の記録、いや、記憶の事を。
ただ、そのことについて深く考えたところで答えは決して出ないことも、僕は判っている。
それでも僕は、此処で名も知らぬ者を弔う度にその思考がもたげる鎌首に捕らわれてしまう。
彼らは、外の世界の住人。
僕らを、この郷を形作る幻想を視る者。
刻の流れに飲み込まれ、過去と言う幻想に成ったもの。
外の世界で姿を失くした過去が、この幻想郷で形を成す。
それは記憶にあるもの、記録にあるもの、記憶にも記録にも無いもの、すべて。
この世界の幻想も、もしかしたら別の世界として存在しているのかもしれない。
……逆に。
逆に、外の世界の過去が、幻想で無くなったら。
外の世界のものによって記録が実体を持ち、幻想で無くなったら。
記憶が再現され、幻でなくなったら。
過去が現在に作りだされ、想いを失ったら。
幻想郷はどうなってしまうのだろう?
幻想を失った此処は、その姿を保っていられずに消えてしまうのかもしれない。
仮にそうなったとしても、博麗神社はきっと残るのだろう。
けれど、その時に此処の歴史は遺されるのだろうか。
そして、僕らは。
歴史。
彼ら正直者たちの持ち込んだ外の世界の書物には、歴史についてこうも記されていた。
「歴史は、悪魔が10秒前に作ったものに過ぎないかもしれない」
成る程、確かに少し離れた人里近くに庵を構える白沢ならば、そのような事も出来るだろう。
外の世界で言われるものと、彼女の持つ力は若干の齟齬があるように感じるが、なんてことは無い。
災厄や病魔を退けるとされている力も、数多くの妖怪の知識についても、どちらも歴史を用いたのだろう。
嗚呼。
こんなところにも、幻想の幻想たる所以がある。
本来の、失われた記憶が別の形で記録として残り、現実との差異を生む。
ならばその記憶は何処へいったのだろう?
いや、そもそも記憶なんてモノは存在するのだろうか。
もし存在するとするのならば何処にあるのだろう。
僕たちは――本当に存在するのだろうか?
今、彼らがここに眠る事は僕が知っている。
彼らの存在したという歴史は僕の記憶の中に刻み込まれている。
……記憶や僕が、幻想でないならば。
ふと、思う。
彼らは僕が記憶しているから、その存在がそこに知られている。
そしてここは、人の立ち入る所ではない。
今の彼らは、僕がいるから初めて存在しているのかもしれない。
だとすると、幻想郷も誰かに知られることで、初めてその姿を保っているのかもしれない――
取り留めの無い思考の渦に飲まれたまま、黙々と埋葬を続ける古道具屋の店主。
墓標は、近い時期に幻想郷に迷い込んだ者同士が比較的近い位置で一団を作っている。
それはまるで、そこに眠る彼らが同じ一族である事を主張するかの様に。
その一団の中の一つ。
かなり旧く見える八つの墓。
そのうちの七つは妖怪に遺体を持っていかれ、今は僅かな遺品のみが眠る。
すべての埋葬と墓薙を終えた青年は、最後にそこに花を添える。
自称墓守は今日の対価をその手に持って、一人立ち去る。
ずっと彼を見つめていた存在に気付く風も無く。
彼の頭上高く、怪しげな空気を纏いながら空間の狭間に腰掛けた少女。
含みを持った笑顔で――呟く。
「結構いいところまできてるのよね」
その視線の先には、青年の帰っていった道。
「ここが誰の見ている幻想なのか。そこまでたどり着ければあとちょっと。いつか気がつくかしら?」
ゆかりの切れた仏の眠る場所へ。
此処へ来ると、僕にはいつも思い出す事がある。
「正直者」の彼らが遺した手記の事を。
彼らの最後の記録、いや、記憶の事を。
ただ、そのことについて深く考えたところで答えは決して出ないことも、僕は判っている。
それでも僕は、此処で名も知らぬ者を弔う度にその思考がもたげる鎌首に捕らわれてしまう。
彼らは、外の世界の住人。
僕らを、この郷を形作る幻想を視る者。
刻の流れに飲み込まれ、過去と言う幻想に成ったもの。
外の世界で姿を失くした過去が、この幻想郷で形を成す。
それは記憶にあるもの、記録にあるもの、記憶にも記録にも無いもの、すべて。
この世界の幻想も、もしかしたら別の世界として存在しているのかもしれない。
……逆に。
逆に、外の世界の過去が、幻想で無くなったら。
外の世界のものによって記録が実体を持ち、幻想で無くなったら。
記憶が再現され、幻でなくなったら。
過去が現在に作りだされ、想いを失ったら。
幻想郷はどうなってしまうのだろう?
幻想を失った此処は、その姿を保っていられずに消えてしまうのかもしれない。
仮にそうなったとしても、博麗神社はきっと残るのだろう。
けれど、その時に此処の歴史は遺されるのだろうか。
そして、僕らは。
歴史。
彼ら正直者たちの持ち込んだ外の世界の書物には、歴史についてこうも記されていた。
「歴史は、悪魔が10秒前に作ったものに過ぎないかもしれない」
成る程、確かに少し離れた人里近くに庵を構える白沢ならば、そのような事も出来るだろう。
外の世界で言われるものと、彼女の持つ力は若干の齟齬があるように感じるが、なんてことは無い。
災厄や病魔を退けるとされている力も、数多くの妖怪の知識についても、どちらも歴史を用いたのだろう。
嗚呼。
こんなところにも、幻想の幻想たる所以がある。
本来の、失われた記憶が別の形で記録として残り、現実との差異を生む。
ならばその記憶は何処へいったのだろう?
いや、そもそも記憶なんてモノは存在するのだろうか。
もし存在するとするのならば何処にあるのだろう。
僕たちは――本当に存在するのだろうか?
今、彼らがここに眠る事は僕が知っている。
彼らの存在したという歴史は僕の記憶の中に刻み込まれている。
……記憶や僕が、幻想でないならば。
ふと、思う。
彼らは僕が記憶しているから、その存在がそこに知られている。
そしてここは、人の立ち入る所ではない。
今の彼らは、僕がいるから初めて存在しているのかもしれない。
だとすると、幻想郷も誰かに知られることで、初めてその姿を保っているのかもしれない――
取り留めの無い思考の渦に飲まれたまま、黙々と埋葬を続ける古道具屋の店主。
墓標は、近い時期に幻想郷に迷い込んだ者同士が比較的近い位置で一団を作っている。
それはまるで、そこに眠る彼らが同じ一族である事を主張するかの様に。
その一団の中の一つ。
かなり旧く見える八つの墓。
そのうちの七つは妖怪に遺体を持っていかれ、今は僅かな遺品のみが眠る。
すべての埋葬と墓薙を終えた青年は、最後にそこに花を添える。
自称墓守は今日の対価をその手に持って、一人立ち去る。
ずっと彼を見つめていた存在に気付く風も無く。
彼の頭上高く、怪しげな空気を纏いながら空間の狭間に腰掛けた少女。
含みを持った笑顔で――呟く。
「結構いいところまできてるのよね」
その視線の先には、青年の帰っていった道。
「ここが誰の見ている幻想なのか。そこまでたどり着ければあとちょっと。いつか気がつくかしら?」
何だか、形容し難い、不安感の様なものをおぼえる作品ですねぇ…
文章が巧いぶん、なおさらに。