急げや急げ
日の出と共にマヨヒガを出たというのに
気がつけば 陽は南中にさしかかろうとしている
「意外と、遠いな」
以前 幽々子さまと一緒に 博麗神社へと赴いたことがあった
確か 春を集めて・・西行妖を咲かせようとして だけど 紅白達に阻まれて・・
あれの直後だったか ・・だが今回は一人だ
幽々子さまの寄り道がない分 早く着けるはずなのだが
今は その一人の旅路が とても遠く 長く感じられる
魂魄異伝~妖々夢福~ 第二幕
『ぐぅ~・・・』
「こら、鳴き止め! ・・・うう、おなかすいた・・・」
こんな急を要する事態のさなかにおいても 腹は減る
「情けない・・・」
精進が足りないぞ 魂魄妖夢・・・
「今は、腹ごしらえなど、している場合ではない。」
言い聞かせるように言って さらに先を急ぐ
目的地まで あと少しだ
・・・・・・・・・・・・・
「しかし、なんだってこんな端っこにあるんだろうか。この神社は・・・」
こんな急いでいる時に限って・・・
鳥居の前まで来て 不意にそんなことを思う
「ま、いいか・・ お邪魔します。」
「誰っ!?」
一歩踏み込んだ瞬間 お社の奥から血相を変えて紅白が飛び出してきた
はて こいつは こんなに尖っていただろうか・・・
「誰とはご挨拶ね、霊夢。私よ。魂魄妖夢。 ・・しばらくね。」
「えーと、ああ、あの食い意地張った幽霊の従者の」
「みなまで言うな。」
「相変わらず、主煩悩なことで。」
「なんとでも言え。幽々子さまはそうするに値する主人だ。
ただし幽々子さまを愚弄することは許さない。決して。」
「ま、いいわ。 ところで・・・」
「ん?」
「今日はここに厄祓いにでも来たのかしら?」
「・・・なぜ?」
「あんたが境内に踏み入った瞬間、結界が歪んだの。」
「すまないが、結界のことは、よくわからない。
それより、見てほしいものがある。」
「ええ。わかっているわ、そのぼろぼろの御札でしょう?
・・これはまた、厄介な禍を持ってきてくれたものね。」
「禍?これが?」
「ええ、そりゃもう大層な禍よ。
ここの結界は幻想卿を覆うものとはまた別物だけど、それなりに強固に出来ているわ。
その結界に影響を与えるとは、ただごとではないわ。」
「だけど、これは紫さまより預かったものよ。ここへ持っていけと。」
「紫が?まったく、あのスキマ、なに考えてんだか・・、とにかくよ、それ、今すぐ祓うわよ。貸して。」
「待て。これは私に必要なものなのよ。今、手放すわけにはいかない。」
「あんたねぇ、あのスキマの言うこと鵜呑みにしないの。どうせ、からかわれてんのよ?」
「・・お前に紫さまのなにがわかる。」
「よーくわかっているつもりよ。物臭、足臭、胡散臭、くさいくさいの三拍子じゃない。」
「む・・・物臭なのと、胡散臭いのは認めるが、足は臭くない。ほら、靴下。」
「いらないわよ!」
「あげないわよ。・・正直、処分に困ってるけど。」
「なんなのよ、もう!ちょっと、寄せないでよ!なんだってそんな物持ってるのよ・・」
「御札と一緒にもらったのよ。幸せになれるらしいわ。」
「あんた、絶対、バカにされてるって。」
「紫さまはそんなお人ではない。・・こんな大事に至ってまで、お戯れをされるお方ではない。」
「話がよく見えないけど・・あんた、死んでいたかもしれないのよ?」
「なに?」
「むしろ、そんな禍を抱え込んで、よく無事でいられたものね。感心するわ。」
「・・・禍って言うけど、この御札は一体なんなの?」
「そんなことも聞かされずに持たされたの?」
「詳しくは聞いていないわ。」
「ほんと、あのスキマ、今回ばかりはたちが悪すぎるわよ。」
「悪意をもって託されたとは、思えない。締める所は締めるお人よ。」
「私には悪意の塊にしか見えないけど?」
「お前は紫さまの一側面しか知らないのよ。」
「さあどうかしらね。生死の沙汰ですら暇つぶしとしか考えてないようなやつよ。
最大限に警戒して然るべきだわ。」
「・・とにかく、私にも事情がある。これは手放せない。」
「知らないわよ、どうなっても。」
「もとより覚悟の上よ。」
「そう、まあいいわ、あんたのことだし。
で、悪いんだけど、早々に出て行ってくれないかしら?」
「なによ、ヘソ曲げたの?」
「違うわよ。 言ったでしょう、その御札がここの結界に悪影響を与えているって。」
「そうだったわね。」
「現にそこの鳥居にも相当な負荷がかかっているわ。
鳥居は結界の最も重要な媒体なんだから、倒壊したりしたら、大変なのよ。」
「ぬ・・・それはすまない。」
「いいから、早く、出るの。」
「わかった、出るわよ、自分で歩けるから、ひっぱらないでよ。」
「ふぅ・・少し歪みが残ってしまったけれど、概ね正常に戻ったようね。
あとで補修しておかなくちゃ。」
「すまない・・しかし、禍、禍、というが、私は特に何も感じないんだけど。」
「あんたの頭が春過ぎるんじゃないの?
それとも、半人半霊たる所以かしら?」
「そんな鈍くもないし、便利な体じゃあないわよ。
まあ、半身には呪いは効かないと思うけど、生身の方が参るわ。
・・で、この御札は、一体なんなの?」
「貸して。」
「祓うなよ。」
「まったく、それが人に物を頼む態度かしら?」
「頼む。お前にしか頼めないんだ。」
「しかたないわね・・ どれどれ」
「よろしく頼む。」
「・・・」
「どう?」
「・・成る程、これは凄いわ。
この御札は厄除け・・護符の一種ね。」
「ほう」
「といっても少々特殊・・・ 厄が憑かないようにするのではなく、
厄の対象を別の場所へ逸らして、この御札に守護された者には厄が来ないようにする印が組んである。」
「それはつまり・・・」
「そう、誰かを身代わりにして己の身を守るという、外法よ。
というより、むしろその性質を活かして暗殺などに使われたりすることが多いわ。
大勢の厄を、一人に集めたりしてね。」
「・・そんな恐ろしいものなのか。」
「まあ、符術としては割りとポピュラーよ。私は決して使わない部類だけど。
・・・これは、使用済みだけどね。」
「そうなのか。それを作って、 ・・使ったのは・・紫さまなのか?」
「それなんだけどね、私にはどうも、腑に落ちないのよね。」
「どういうこと?」
「私が凄いと思ったのもそこなんだけど、
これは厄を転嫁する印の他に、もう一種類別の印が刻まれているのよ。」
「それは、どんな?」
「厄を、封じ込める印よ。それも、信じられないぐらいに高等な。」
「封じ込める? 厄を転嫁するものなのに、そんなものつける必要があるの?」
「そうね、こんなもの使うやつの心理はわからないけど、普通はつけないでしょうね。
さっき言った通り、これは暗殺とかに使われる種類だもの。
そこにこの厄を封じこめる印があると、本来の効果が薄まってしまうから。」
「ふむ ・・どういった意図があるんだろうか?」
「・・転嫁される先の人物に行く厄を、できる限り、小さくするために、かしら。
わけがわからないわ。矛盾しすぎね、いろいろと。
そういうところは、紫っぽいけど・・・」
「やはり、違うか?」
「でしょうね。これ程の印を組むのは並大抵のことではないわ。
私の使う術の内幾つかも、これと似ているけど、これはそれ以上。
しかもそれが、二重、四重に相乗するように組まれている。
それも御札全体に、隙間無く、これでもかと言うぐらいびっしりと。」
「愚問かもしれないけど、それは大変なことなの?」
「例えるなら、針に糸を通すような綿密な作業を、延々と、延々と繰り返す。
それこそ、一千本、一万本、と。 そこまでやって、この御札に組まれた無数の印の中の一つよ。」
「想像もつかないわ・・・」
「しかも、それを全て台無しにしている。
この御札が厄を吸うだけの護符であったなら、それこそ目玉が飛び出るぐらいの価値があるのに。
常軌を逸しているとか、そういうレベルじゃないわね。狂気の沙汰よ。
そんな究極的に無駄で面倒な作業をあの物臭妖怪がすると思う?なんのために?」
「・・成る程。」
「作ったのは、まず紫じゃないと、私は思うけどね。
それに、こんな存在意義のわからないもの、なにに使うってのよ。まあ、使用済みだけど。
紫なら、暗殺なんてケチなことしないだろうし。」
「確かにそれは、そうね。」
「あとは、なんだか・・・
すごく、不自然なのよね。釈然としないというか。
それが、なんでかは、わからないんだけど、不自然なの。」
「ふむ?・・そうなのか。」
「・・でも、今問題なのはそんなことじゃないわね。」
「む?」
「気が変わったわ。この御札は、なんとしてもこの場で祓って滅却する。」
「・・・何度も言わせるな。それはだめだ。」
「その御札に封じられている厄は相当なものよ。
きちんとした手順を踏まずに破かれでもしたら、幻想卿中に未曾有の禍が降りかかるわ。」
「心配は要らない。私が管理する。」
「だめね。全く頼りにならないわ。
あんたはその重大性がまるでわかっていないもの。
なんとしてでも、渡してもらうわよ!」
台詞の終りと同時に 私の足元の空間に歪みが発生する
「うわ!?」
間に合え!
「封魔陣!」
「くっ!」
咄嗟に後ろに跳び退り 直撃は免れたが
術の影響で周囲に満ちた浄の気は避けようがない
私の半身に激しい熱さと痛みが走る
以前にも この術を仕掛けられたことがあった
だが これほどの威力はなかったはず・・
「・・そうか」
おそらく ここの結界と共鳴して威力が上がっているのだろう
「ならば!」
とにかく ここから離れなければ 話にならない
この場に留まっていては それだけで私の半身が成仏してしまいそうだ
応戦するにしても 社から離れた場所だ
「逃がさないわよ!」
踵を返して逃げに転じた私に 霊夢が放った二つの陰陽玉がまとわりつく
一つは まるで私の逃げ道を塞ぐように目の前に回りこみ
もう一つは 私の出方を探るかのように 一定の距離を保っている
「せぇえええい!」
気合一発 白楼剣を逆袈裟に斬り上げ 目の前の陰陽玉を弾き飛ばす
瞬間 二つ目の陰陽玉が真後ろから高速で飛来する
機!
あまんじてその一撃を受け それに吹き飛ばされる勢いを利用してさらに距離を稼ぐ
さすがに 射程範囲外まで逃げおおせたのか 結界を出て追いすがって来る霊夢
なんとか結界から引き離した とりあえずは これで絶望的な不利は無くなった
しかし・・
「ぐっ!」
交差させた白楼剣と楼観剣を盾に 出来る限り衝撃を緩和させたが
増幅された陰陽玉の威力は殺しきれず 受けた両手に痛みと痺れを覚えた
まともに受けていたならば まず致命傷は免れなかっただろう
「言い分も聞かず、殺す気か・・!」
「あんたを黙って見過ごして、その御札の禍が幻想卿にばら撒かれれば
多くの人が命を失うことになり兼ねない。 それだけは未然に防ぐ。
たとえ、それがあんたの命を奪うことになったとしてもね!」
言いながらタメの無い動作で千本が放たれる
これは急所さえ外せば大した脅威ではないが その速度と形状から弾くのが難しい
故に多少体制を崩してでも 回避に徹する必要が出てくる
霊夢本人は ・・まだ間合いの外だ 一度は剣を交え こちらの得手不得手は知られている
まず向こうから必要以上に接近してはこないだろうし こちらの接近もそう簡単には許さないだろう
半身の妖弾で反撃したいところだが 肝心の半身は先ほどの影響からまだ立ち直れていない
なにより 矢継ぎ早に放たれる千本の回避をするだけでイッパイイッパイだ
一撃必殺の威力を殺がれ 一撃よりも手数で攻める戦法に切り替えてきたのだろう
実際それはこちらとしてはかなり辛い 既に私の腕に 肩に 足に 幾らか被弾している
致命箇所への被弾こそ許してはいないが しかしこれはただの千本ではなく清められた千本だ
被弾した箇所から 毒針のようにじわじわと私の体力を奪っていく
後手に回ればますます不利だ なんとかして反撃の糸口を・・・!?
「な・・!」
周囲を見やれば 大量の御札が私を包囲するように配置され 結界を形成しているではないか
千本は布石で これが狙いか
千本は使用者の腕にもよるが 基本的に主力武器にはなりえない
別の決め手を狙っていたことぐらい 少し頭を巡らせればわかっていたことだ
「陽動に紛して搦め手を攻めるのは、卑怯でもなんでもない、戦いの基本でしょう?」
「くそぉ!」
霊夢のやり方を非難しようとは思わない
むしろ戦場では 生き残ることへの執念のみが美徳なのだから
この剣を初めて握らされたときから その重さの意味を いやと言うほど教え込まれた
それなのに むざむざ遅れをとった
自分のあまりの不甲斐なさに対して 悪態が漏れる
「今、御札を渡せば、まだやめられるわ。」
「くどい!」
声を荒げてみたものの 完全な劣勢であることにかわりはない
敵の術中にはまり その上情けまでかけられるとは・・
「私は・・ こんなにも無力なのか・・!」
「しかたないわ。私とあんたでは、もともと相性が悪いもの。」
確かにその通りだ 私は半分とは言え幽霊 そして相手は巫女 劇的に相性が悪い
「・・あんたは、よくやったわよ。自分を責めないで。それを、渡しなさい。」
もう半ば詰んでいる 結果はほぼ見えた
命を粗末にしたくはない この御札にどれほどの意味があるのかはわからない
命を賭すほどのものなのかどうか だが少なくとも私の命はこの御札一枚よりは重いはずだ
「・・わかった・・・」
死んでも 永らえても どうせ奪われるなら・・
懐に入れた御札を取り出し 霊夢に差し出そうとしたが そこで手が止まった
・・・・待て この御札はなんのためにある? なんのために預かった?
「なにをしているの? 早く! それを・・」
そうだ・・・ 幽々子さま・・・・!
「やっぱり・・」
あの決意はどこへ行った あの覚悟はもう萎えたのか
己を顧みず 幽々子さまのために命を尽くすのも また良しとする程の覚悟が真にあるのならば・・
屈するな 敵に ・・己に!
「だめだ!」
一念・・・・無量劫!!
「きゃっ!?」
一面に紙吹雪が舞う
刹那の間に振り抜かれた白楼剣と楼観剣 その切っ先から伸びた剣閃が篭目状に展開し
結界を成していた御札を 悉く斬り払ったのだ
「あんた、とことんまで・・!」
「なめるな、巫女!」
油断して近づいてきていた霊夢目掛けて疾走する
懐に入りさえすれば こちらに分がある
霊夢を間合いに捉えるまで あとほんの少しだ
再び 大技を放つのに必要な準備動作をとる猶予は与えない
かと言って ちょっとやそっとの技では この決死の突進 止められやしない!
「克った!」
「甘いわよ!」
あと一歩というところで 突如もう一つの結界が全方位から襲い来る
「なんだと!?」
いつの間に・・!
「なにがなんだか全くわからないって顔ね。・・・二重結界よ。
相手を決して逃がさないように、より確実に仕留めるための、二段構え。」
「・・最初の結界が、全部ではなかったのか。
お前が無防備に近づいてきたのは、油断していたからではなく
これに、絶対の自信をもっていたからなのね・・」
大技を全く警戒していなかったせいもあり 今度こそ完全に結界に捕らわれた
「もう、抵抗はしないの?」
「それができないことは、術をかけたお前が一番良くわかっているだろうに
こんなことになるなら、もう少し結界について学んでおけばよかったわ・・」
うちでは昔から 結界に関することは 紫さまに任せきりだからな・・
「あんたの覚悟、見せてもらったわ。
だけど、現実は残酷。どれほどの覚悟があろうとも、あとには結果だけしか残らない。」
結界が収縮を開始する
なんとかして打破しようにも 体も半身も 結界に力を奪われて動かせない
このまま結界に飲み込まれて ・・終りか
「ふふっ・・」
「あら?気でも触れたかしら?」
「違うわよ。いや、まあ、あるいはそうなのかも知れないな。
あんなに意気込んで出てきたのに、こんなところで呆気なく、終わるなんてね。
あんまり、可笑しくて。」
「諦めが良いのね。 そう・・・あんたはここで死ぬ。
そして成仏する。白玉楼に立ち寄らず、涅槃へ一直線よ。」
「・・悔いは無い、と言ったら嘘になる
だけど、幽々子さまのため、この命尽くせた」
「・・・」
「幽々子さまは、それをきっとお許しにはならないだろうけれど
紫さまにも、申し訳ないことをしてしまったけれど」
「私は・・」
「お前にも、負けてしまったけれど・・・
己には、最後まで・・ 最後まで、負けなかった。」
「事情は知らないけど、私は許さない。紫も、幽々子も。
なんの罪も無い、何も知らないあんたを、けしかけて、私に殺させた。
私は、絶対に・・・許さない。」
「霊夢、幽々子さまには・・決して・・・」
「! ・・あんた・・どうして、そこまで・・」
幽々子さま・・・
魂魄妖夢は どうやら ここまでのようでございます
情けない従者で 本当に申し訳ございません
紫さま・・・
どうか どうか 幽々子さまを よろしくお願いいたします・・・
「・・さようなら、妖夢。どこまでも、実直で、勇敢な従者・・・」
息をするのも苦しい程の圧迫感 結界の内壁がいよいよ鼻先にまで迫ってきた
「さようなら・・幽々子さま・・・」
『カッ!』
「私の結界が!?」
「・・う?」
呼吸が出来るようになった 体も半身も動く・・
私はまだ ・・半分生きている!
・・・結界が消えた!?
「霊夢!この期に及んで、情けなど!」
「違うわよ! なんなの、その光・・」
「これは・・」
見れば 私の懐から猛烈な光量が漏れ出している
光源を探して懐をまさぐる
探り当て 取り出してみたそれは・・
「これは・・紫さまの、靴下・・?
っていうか、靴下から後光が!? うわっ、眩しい! 目が、目があああ!」
「ギャー! 放射能よ!
確かに臭くないなとは思ったけど、あの時既に鼻がやられてたんだわ! 私達、溶けて死ぬのよ!」
「だから違うとあれほど!」
・・・・・・・・・・・・・・
「ほら、あれよ。
マヨヒガの物を持ち帰れば、幸せになれるっていうじゃない。」
「では、この靴下が・・紫さまが、私を窮地から救ってくれたのか。」
「なんかむかつくわねー。私の結界が靴下に破られたなんて。
よっぽど臭かったのね。」
「いや、だから。」
「臭いものには真っ先に蓋をするべきね。教訓にするわ。」
「・・・で、そろそろ、仕切りなおすのか?」
「もういいわ、興が削がれちゃったわよ。」
「いや、もう一度よ。お前に情けをかけられたようで、納得いかない。」
「じゃあ、降参。」
「なんでよ。」
「己の身も顧みずに特攻してくるやつなんか、恐ろしくって相手にできますかって。
あんたが勝手に覚悟を固めるのはいいけど、私にはそんな覚悟無いわよ。」
「む・・・、無謀な特攻をしたつもりはない。」
「あきらかに、無謀だったわよ。修行が足りていないわ。精進しなさい。」
「あー、それ腹立つ。お前みたいな万年グータラに言われたら、すごい腹立つ。」
「それ、紫と幽々子に言っておいてあげるわね。」
「待ってください。お情けを。」
「さて?どうしようかしら?」
「くっ、この! 立ち会え!お前を殺して私も死んでやるー!?」
「落ち着け!このキれ味抜群のみょん侍め。 わかったわよ。多分言わないわよ。
それにもうあんたと戦う理由は無いっての。」
「多分じゃなくて、絶対だかんね!」
「うい」
「返事は、はい!」
「はいはい。」
「で、戦う理由がないってことは、御札は持って行っていいのね?」
「まあ、あんたに任せて心配なさそうだしね。
あんた、さっき、その御札から何も感じない、って言ってたじゃない。
多分それも、その靴下によるものよ。」
「この靴下が・・お前の言う禍から、私を守ってくれていたのか。」
「多分ね。禍と幸福は対を成すもの。うまい具合に中和してくれてたんじゃないの?」
「紫さまには、足を向けて寝れないわね。」
「靴下だけにね。
おそらく、そこまで考えて、あんたにそれを持たせたんでしょうね。」
「さすがは紫さま。
しかし、なんで靴下なのか。」
「さあ?マヨヒガの主が身に付けているものだから、その分ご利益も大きいってことじゃない?」
「成る程。」
「まあ、その靴下を一緒に持っている限り、御札の方も安全ってことかしらね。」
「では、肌身離さず持っていなければいけないわね。」
「いっそのこと、履いちゃえば?」
「へ? い、いや、それは・・」
「・・哀しむわね・・紫。」
「なっ! いやいや、ほら、私には自前もあるし!
・・そうだ、巾着にしてしまおう。 この紐で・・・よし。
中に御札を入れてっと。」
「さながらお守りね。」
「ああ。あとは、絶対に落とさないように、白楼剣の柄に結びつけて・・・
うん。これでよし!
お守りの後光もあいまって、なんだか神々しいかな。」
「妖夢、本質を見なきゃだめよ。それは紫の靴下よ。
私には最悪な光景に見えるわ。」
「・・言わないでくれ・・」
・・・・・・
「ところで、あんた、怪我は?」
「ああ、さっきの千本のか。もう、治ったようなもんだ。治療ならいらないよ。」
「ええ?まだそんなに経ってないのに。」
「生身のどこかが欠損するとね、
補助的に半身の一部が損傷箇所にあてがわれるのよ。
ほら、半身も少し小さくなってるでしょ。傷が完全に治ったら、元にもどる。
あまり大きな怪我だと、どうしようもないけど。」
「へえ、便利な体ねえ。」
「弱点も多いってことが、思い切り露見したけどね。」
「そりゃあ、万能なんて、ありえないわよ。人間だって、そう。」
「ああ。だからこそ、技を磨くんだ。」
「そうね。・・で、あんたはこれから、どうするの?」
「紫さまは、ここに来れば真実の一端を掴めると言っていたが・・・
いまいち、よくわからなかった。」
「その、真実とかって、ずっと気になってたんだけど、
いったいどんな事情があるの?」
「む・・それは言えない。」
まさか幽々子さまがあんな あんなみょんなお姿になられてしまったなどと・・・
「そう、まあいいわ。深入りしたくないし。」
「とにかく、私はマヨヒガへ行くわ。
この御札のことは一応わかったから、それがどういうことなのか、聞くために。」
「ええ、そうね。できれば報告よろしく。
場合によっちゃあ、紫をぶん殴りにいかなくちゃいけないから。」
「物騒だな。」
「いつものことよ。」
「そういえば、お守りの光が収まってる。」
「そうね、靴下の光が収まっているわね。
あんたが窮地を脱したから、待機モードに入ったんじゃない?
で、またピンチになったら、強烈モードになると。」
「強烈モード言うな。」
『ぐぅ~・・・』
「う」
「私じゃないわよ? 妖夢、主人が主人なら、従者も従者ね。」
「幽々子さまを愚弄するな!
そして私は、朝から何も食べてないだけだ!」
「あらま。幸せじゃお腹は膨れないのね。
少し遅めだけど、あんたが来たせいでまだお昼食べてないのよ。
今からなんだけど、食べていく?」
「む・・・そうね。
では、戴いていくとするわ。」
幽々子さま・・・
魂魄妖夢 未だ解決の糸口すら掴めません
ですが 少し体を休めたら すぐにまた 幽々子さまのために奔走いたします
あと少しだけ 待っていてください幽々子さま
きっと 元に戻してご覧にいれます!
一話のあとがきや今回のを見ると、むしろ基本はシリアス?
戦闘シーンの緊迫感がたまりません。巧いですねぇ…
にしても、あれだけ絶望的な状況を靴下が打開してくれるとは…(笑
次回も楽しみに待っていますッ!