夜。
わたしはこっそり地下室からぬけだした。
お姉さまに迷惑をかけるのは少し嫌だったけど
今夜だけはどうしても、お外に出たかった。
いつも同じような天井
いつも脅えてるみんな
変わらないまいにち
変われない…わたし
10年目の誕生祭
100年目の暴走
200年目の監禁
300年目の絶望
400年目の諦観
494年の…停滞
おもいでは遥かな昔にお姉さまたちと遊んだ、雨上がりのみずうみに架かったにじ
おひさまのひかりでキラキラと輝いた湖面に映る、なないろの波紋のように、わたしのこころをさざめかせる。
壊したくなんかないのに
滅ぼしたく……ないのに
こんなわたしにやさしくしてくれた名前も知らないメイドが、
にっこり微笑みながら最期にわたしにそぅっと教えてくれた。
「フランドールさま、今夜はとっても、綺麗な、特別な、 ふる よる、なん、で す よ…」
わからない
わからない
どうしてこの子は殺された相手に
そんなにも嬉しそうに
ふうわりとほほえむの?
あなたは もう死ぬ 助からないよ なのに… 死ぬことがこわくないの?
死んだら さむくて 凍えるように さむくて とても寂しくなるんだよ?
もう にどと おひさまのもとで あたたかく ひなたぼっこをすることも
もう にどと 月夜のみずうみで ひそやかに 月の光を浴びて泳ぐことも
わたしと違って 死んでも あなたたちは なんにも得られず
ただ
すべてを失うだけなんだよ?
呆然と冷たい床を見おろし続け、彼女の崩壊していく一部始終を見届けた。
なみだはでなかった。
そんな人間らしい機能は、夜のちからと引き換えに
お姉さまに、とうの昔に奪われてしまったから。
哀しいのかな
悲しいのかな
……確かめて、みたい。
わたしは、なんなのかを――
「ねえ、あなた。その を見れば、わたしのなにかが、変わるのかなぁ……?」
知りたくなった。
なにもかも諦めていたこころに、ひとしずくの温かいなにかが…ぽちゃん、と落ちた。
真紅のどろりとしたくらやみに、熱い、熱い、灼炎の波紋が走った。
「………………よし」 温度を失っていた筈のこころとからだに満ちるあついなにか。
……。 極寒の地に埋もれていた「害為す魔の杖」につめたい滅び以外の想いが流れていく
………それは、禁忌
………………わたしみたいな、わるいあくまが抱いてはいけない想い
………………………くらいせかいを、焼き尽くす、あつい、あつい、ほのおのけん
――――禁忌 レーヴァティン…
………
………………
………………………
「……まぶしい、な」 宵の口らしき夜空にはちらほらと星が瞬いていた。
夜の草木がむわっとするような青い空気を出していた。
それは、むせぶような生命のかおり。
地下室に反響していた気が狂いそうな哂い声以外のおとがする。
遠い昔に聴いたおと、確かそれは夜の虫の音だ。
「……」 しばらく目を閉じてぼうっと立ち尽くし、夜風に身を任せる。
――うん、だんだん思い出してきた。
「……せかいは、ひろい」 少し、嬉しくなった。背中の羽根がしゃらんと涼やかなおとを奏でた。
――どこにいけば、彼女が教えてくれた綺麗なものが見れるだろう。
「こわい。けど……」 忘れかけていた自由なこころが、ぶるりと震えた。
――だいじょうぶだ。彼女が綺麗だね、と褒めてくれたこの…なないろのつばさが導いてくれる
「――きっと」 鈴なりに両のつばさに吊り下げられた宝石が、ゆめのような不思議な音色を出して羽ばたいている。
いこう
おもいでになってしまった
あの子が待つ
その場所へ
きっと
あの子の教えたかったものは
そこにある
だって――
今日は、とっても綺麗な、星降る夜なのだから――
私はまだ会えてないへたれシューターですけど(笑)
しかしこれ読んでダークをイメージした私はだめかもしれん……