Coolier - 新生・東方創想話

アポロ異聞 1 -嵐の前の静けさ-

2005/04/13 02:08:31
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 風が吹いた。
 
 湖のほとり、カエルの尻を弄ぶお馬鹿な少女の犠牲に端を発した不審な連続暗殺事件。最初の贄はストーリィ進行上さほど意味を持たぬ無邪気な氷精であった。そして次に犠牲になったのは…人知れず真の黒幕に挑み、志を果たすことなく無念に斃れた凍れる復讐者――白い巨人。白い恋人たちが望んだのはちっぽけなしあわせ。未練は白く美しい微細な結晶となりて幻想郷の大気に残された。それは儚い儚い…手の平の上でじんわり溶け崩れる…風花の飛沫。風花は紅魔館の上空にわだかまる紅霧の結界に弾かれることなく密やかに寂しげに吹きぬけた。一陣の涼風に乗って幻想郷中を駆け抜ける想い。そよぐ春風に舞う…真っ白い…冬の忘れ形見。無残に散ってしまった罪無き二人の哀しい想いは、天地を隔てる境界線を跨ぎ世界の果て――遥かな終焉の地、白玉楼にまで届きゆく。
 
 
 
 
 
 ………
 
 ………………
 
 
 
 
「ルナサ姉さん、風が」
「――ああ。これは…」
「~♪ あはははは! たのしー♪」
 バララララララ……
「……メルラン。無駄弾を使うな」
「そうよ、メル姉。慌てなくてもこれから…」

 幽冥楼閣、冥界の門を仰ぎ見る現世側、四柱の楔(くさび)
 雲海に打ち込まれた巨大石柱にそれぞれ腰掛け、幻想郷でもトップクラスのスペシャリスト達は雲海に閉ざされた地表を睥睨する。
 片膝をついて糸のように目を細める長女、危うい足場で両手を広げながらくるくる回る次女、顔を伏せてうずくまり狡猾な眼光を彼方に注ぐ三女。
 哀しい風花が長女ルナサ・プリズムリバーのきりりと切り揃えられた金髪を揺らす。
 ルナサの髪に触れると、その儚い白は役目を終えたかのように――じんわり染み入るような余韻を残して消えていった。

 
 
 壱の柱――目を閉じて風に吹かれるまま、ヴァイオリンケースをそっと胸に抱き、長女ルナサは黙想する。
 弐の柱――よくわからない理由で次女メルランは眼下の雲海に向けてイングラムM(Merupo)11・トランペット偽装短機関銃を撃ちまくる。それはもう、気分良く哂いながら。
 参の柱――抜け目無い三女が、背中に負った死の改造キーボード(超小型ロケットランチャー)を湿った風から庇うように姉たちのほうへと向き直る。
 四の柱――地獄のちんどん屋、トライアーミー、葬霊楽団などなど。幾多の殺し名を持つ暗殺請負人プリズムリバー三姉妹にとって、その空席に触れることは暗黙の禁忌。詮索するものには美しく不吉な演奏と共に確実な死が贈られるのだ。

 
「これから~ これから~ あははははは」
「姉さん五月蝿い」
 ポロロン……      ドウッ
 不快そうな口調で呟くや否や、リリカはキーボードに偽装したランチャーの鍵盤を軽やかに掻き鳴らした。
 <攻撃目標座標軸入力OK、射出後オートパイロットにて自動追尾設定> 
 本来楽器に備わっている筈の無い攻撃機構がリリカの演奏? でのっそりと目覚めた。間を置かず上部のハッチより一筋のキラキラした絹糸に繋がれた有線誘導座薬型ミサイルが撃ち放たれる。ついでに美しいピアノの音色も(まあ一応楽器だから)。姉に向けて微塵のためらいもなく、ごく自然に射出された座薬弾は、メルランの死角になるいやらしい方角からジグザグの撹乱機動を行ない、親愛なる姉の急所を貫かんとする。

 
「あはははは……   ポッ!!」
 
 
 狂人が片手で保持したトランペットをさっと一振り。その挙動はまるで銃器(楽器)の重さを感じさせない素早い動作であった。なにを考えてるのかさっぱり読めない笑顔のまま、メルランは照星を用いず無造作に榴弾をポインティングし
 ――最小限の破壊力でトリガーを引き絞る。

 ダララッ

 それは敵を油断させる為に頭がおかしいふりをしていたのかと疑うような一連の早業。しかも精密極まりない冷静無比な熟練射撃。
 機関銃弾はシュルシュル白煙を曳き迫り来る破滅のかたまりにボボボ、と間抜けな音を立てて全弾命中。
 
 ―――平和な空の上に訪れた一瞬の間――――爆散。
 
 
 ……。無言でにやりと口元を歪め、互いの殺人(演奏)技量を称えあう仲良し姉妹。
 
 
 
 
「二人とも遊びはそこまでにしておきなさい。どうせすぐに幽々子お嬢様から、我ら幽霊楽団にお呼びがかかるのだろうから」
「は~い」
「あはは」
「…まったく。まともなのが私だけだと、なにかと苦労が絶えないわ…」

 バサ バサ バサ  ――ルナサの背後1200mになにかの羽音。

「……!!」 この距離では聴こえる筈も無い小さな異常音。常人ならあまりに微弱な気配に気づきもしまい。だが――


 ガチャ! ガコン、ジャキィッ 
 
 幾千幾万も反復してきた偽装解除手順。ルナサの精密機械のような操作によりヴァイオリンケースが通常ありえない作動音を立てて展開、細まった先端よりおひさまの光を鈍く反射するフラッシュハイダーが不吉な音色を奏でながら正体を現した。
 ――この偽装ヴァイオリンのベースになっているのはSIG-SAUER LP(ルナサ・プリズムリバー)3000。ぱっと見では死神の本性を見破ることが困難な偽装を施した、幻想郷でもTOPクラスの精密射撃が可能な狙撃銃。
 それはスコープをあえて使用せず、目を糸のように細め風の音を読み、遥か遠方のターゲットを知覚する、ルナサ本人にしか扱えぬ『ルナサ専用カスタムスナイパーライフル』なのだ。



「……(くいっ)」――――ガァァーーーーン……

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   
 ……
 …………バスッ
 
 
 
 
 ハルヲツタエニ、キ、マシタ…  (ヒュルルルルーー)  サヨナラ サヨナラ サヨナラ…

 
  
   
 
 
 
 
「……。私の後ろに……立つな」――ふぅっ。
 ヴァイオリンケースから覗く黒い銃口に立ち昇る硝煙を、気だるげに吹き散らすルナサ。

「……」
(…さすが。超長距離のスナイプでは私なんか及びもつかないわね。まあ、私の場合至近距離で思う存分相手を蜂の巣にするほうが性に合ってるんだけど。あはは。でも、やっぱり姉さんは敵に回したくない姉ナンバーワンよね~)
「……」
(さ、さいあくだ…。あんたが一番やヴぁい性格してるって。メル姉はいつもアレだから分かり易いけど、ルナサ姉さんはなんの前触れもなくキレるからなぁ…。ううー…怖っ)
 
 天空の花の都に嫌な沈黙が訪れた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「――風が、吹くわね…」
「……」
「……」
 ばさり
 目にかかった前髪を物憂げにかきあげ、びくびくする妹たちを尻目にルナサは訥々と言葉を紡いだ。
 先程撃ち落とした中立勢力に属する春の精らしき者の存在など、始めから無かったかのように。
 彼女はとても無表情に、けれどもあの哀しい風花から受けた切ないこころ…胸に宿った万感の想いを込めて、ただ一言、最後に空へと囁いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――幻想郷に、と。



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ルナサが贈った言の葉は、次第に強くなり始めた風に吹かれて大空に拡散していった。
 
 …風が吹いている。
 
 なにもかも、綺麗に押し流す、風が。
 
 
 
 
 
 
 
 そう

 幻想郷を揺るがす暴力の風は、既に吹き始めていたのだ――

















 
  

 
  
    
   ・‥‥…━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

          アポロ13異聞    激怒の幻想郷

  ╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥‥・・ 






















 ドグォオゥッ…!!
 
 ――テーブルを殴打する音。
 
 ……
 …………
 
 渾身の力で振り下ろした拳は、焼き固めた黒檀の豪奢なちゃぶ台をまるで安物の塗炭板のように粉砕した。
 後に残されたのは着弾点から内側に向かってバキバキにへし折れ、もはや円卓としての用を為さなくなった無残な残骸。されど腹立ち紛れに放った拳は、怒りの行き場を失いぶるぶる震え、いまだ憤りを持て余す。
 
 
 
「――おのれ、おのれおのれおのれッ!!!! 紅魔館の卑劣なマフィアどもめ……。いわれ無き罪を我ら白玉楼に押し着せ、紫さまの英断で手打ちになったはずの抗争を再燃させる大義名分と為すとはッ! しかも…そのために自領の無辜の民をスケープゴートに仕立て上げ、こそこそ血祭りにする腐れきった手練手管。正々堂々の風上にも置けぬ…まさに、卑劣極まりなし…っ!!」
 
 拳を震わせ大喝する少女。名を魂魄 妖夢という。

「ふふ、妖夢。そんなに熱くならないの。確かに今回はあいつらに機先を制された形だけど、そういきり立つ必要も無いわ」
「ですが! 幽々子さま…これ程まで露骨に宣戦布告されて引き下がるなど…幽冥楼閣二百由旬、数限りない邪悪な亡者どもを幻想郷…いや、全宇宙に比類なき卓越したカリスマで治める冥府の雄、華胥の亡霊姫『西行寺 幽々子』の名折れではありませんか!?」
 激する妖夢をまぁまぁと白蝋のような御手で制し、暢気に茶を啜る主君。
 その落ち着き払った態度を内心頼もしく思いながらも、庭師兼実働部隊ぶっこみ隊長魂魄 妖夢は己の主君たる西行寺 幽々子に進言する。
「幽々子さま、どうかご命令を。あなたがひとこと命じてくだされば、この妖夢。ただちに冥府六道の亡者どもを率い紅魔館に攻め上がり、ヤツラのそっ首を挙げてみせましょう!」
「…いや、兵隊なぞ不要。わたし自らすぐさま単身敵地に赴き、半分所持するこの命に代えてでも必ずや御主命を果たして御覧に入れます!」
 燃え上がる闘志。滾る血潮。魂魄 妖夢は破壊したちゃぶ台を踏みしだき、両手の二刀を天に掲げ熱弁する。
 そんな真っ直ぐな性格をした妖夢を微笑ましく見守るのは、彼女の主君――西行寺 幽々子。

「いやいや妖夢。まだ私たちが動くべき時ではないわ。いい? 妖夢。古来から伝わる諺にこんな言葉があるのよ」
「ことわざ?」
「ええ、諺。そう――」
 ずずずー
 茶を啜る。
 
 ……
 …………
 
 いらいら
 
 焦れる妖夢。言葉を切って暢気そうに茶を嗜む主君に斬りかかろうとする衝動を必死に押さえつける。
 本来妖夢はそれほど好戦的な性格ではないのだが、こと幽々子に関わる侮辱については話は別。
 だが幽々子の矜持を護るために激してるのに、いつのまにかその攻撃衝動が幽々子に向きそうになってるあたり、まだまだ師匠魂魄 妖忌の域には程遠いと言えよう。

 ずずー
 いらいら
 
 ……
 …………
 
 ……
 …………
 
 
 ホウッ  茶を飲み干し、しあわせそうにひと息。
 ……。   やっと本題にはいるのか、と姿勢を正し拝聴する構えをとる妖夢。
 

「お茶菓子と玉露、おかわり」
「はい只今」
 湯飲みを受け取り、いそいそと台所に立つ妖夢。
 
 ~~♪ えーっと、たしか去年戸棚の奥に隠しといた桜餅がまだ50個ぐらいあったなぁ……って
 
 ダダダダダダ
 
 ずだん!
 
「違うでしょう! ことわざですよ、こ と わ ざ !!」
「あら、そうだったかしら」
「そうなんです!!」
「ふぅん。まあいいわ。で、なんのことわざ…いやいや妖夢。冗談だから二刀を首に当てないで」
「……はっ。こ、これはご無礼を!」
「ふー、肝が冷えたわ。あっ…! なんかあんこう鍋が食べたくなってきたわね…」
 チャキッ
「ええと、そうそう。こういう諺があるのよ。――慌てる食い逃げはうぐぅと鳴く――てね」
「? それってどういう意味なんですか、幽々子さま」
「んー、要するにせこせこ食い逃げしなくてもいいようにー店ごと支配下に置いちゃえ、てこと?」
「……なんで疑問系なのかは置いといて、そのことわざと今の状況は全然関係無い気がするんですが…」
「甘いわ妖夢。大望を抱かず目の前にあるせせこましい問題にばかり囚われるようでは――妖忌が泣くわよ」
「!!」
「心配せずとも、既に手は打ったわ。今回の先鋒には……あいつらを使います」
 ぽややんとした表情に刹那、凄惨な陰がよぎる。
 幽々子が口にした符号《あいつら》
 白玉楼に於いてその言葉が意味するものは、ただひとつ。
 遅ればせながらその意味に気づき、ごくりと息を呑む妖夢。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 かこーん
 
 和風庭園に獅子脅しの落ちる音が反響する。
 いっぱいまで水を湛えた竹筒が自然石にあたり、中身をさぁさぁぶちまけた。
 
 
 
 
 ……
 …………
 
 
 静寂に沈む西行寺邸
 
 
 ……
 …………
 
 
 
 
「……血の雨が、降りますね……」
「ふふ、そうね……」

 艶然と微笑む華胥の亡霊姫、西行寺 幽々子。
 敵味方お構いなし、騒動と災厄の象徴たる三姉妹を繰り出すことに一抹の不安を覚える魂魄 妖夢。
 
 
 
 けれども
 
 気がついているのだろうか、妖夢は。
 
 これから巻き起こるであろう殺戮の暴風(カリギュラ)、屍山血河(ブラッディレイン)に想いを馳せ
 
 自分の口元を薄っすらと不吉な笑みが覆っていることを……
 
 
 
 
 
 
 
 《序章:白玉楼にて  完。 次章:紅魔館 へ続く》
 
 
 











アポロ13。フラッシュ、ネタばれ無し特別編です。
みょんな方向に爆走しつつあります。
生暖かい目で許してくれると幸いです。
しかし…こんなズレ切った物語、見てくれるひと、居るのかね…。_| ̄|○ 勘違い野郎ですいません

運命のナガレ、すべてを把握している製作者のnのひとにも楽しんで頂けたらなぁ、と書きました。
今後の展開、かなりヴァイオレンスになるかも。まあ、相変わらずこいつらの狙いはANAなんですが…。
この物語の幻想郷では、座薬とANAが蔓延する荒廃世界です。世紀末ともいう。

色々忙しく書く時間あまり取れないんですが、例大祭ぐらいまでに完結できたらなぁ…と願う。
あくまで願望ですが_| ̄|○
しん
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コメント



0.1200簡易評価
1.無評価nの人削除
おお、なんでしょうかこの殺気は^^;
もうガスガス突っ走ってください!イケるところまで!
10.30名前が無い程度の能力削除
私が見ております。(笑
イクとこまで行っちゃってください。(笑
14.80大根大蛇削除
今後の展開が、これほど気になる作品も久しぶりです…
ルナ姉がメチャメチャかっこええ!!
妖夢ハマり過ぎ! さすが、ポン刀標準装備なだけはありますなぁ…
次回は紅魔館みたいですが、はてさて、どうなる事やら。
そして、永遠亭のあの人達(元凶?)も、その内に出てくるのでしょうか…?
次回が楽しみですッ!