「…………
………
……
…っふあぁ~~~あー……
……よく寝たわ… ……お昼は…過ぎてるみたいね……
…もう随分と、日も傾いてるし……
…とりあえず……お嬢様が起きる前に…掃除と洗濯は済ませとかないと…
…………
…………
…何で私の部屋に、龍の置物だとか、青龍刀だとか、いかにも中国好みな物が置いてあるわけ……?
……
て言うか……
…ここって…
…中国の部屋じゃないのッ!!?
な、何で私が中国の部屋で寝てたの!? 一体、どういう……?
……落ち着け、落ち着きなさい、十六夜 咲夜………
落ち着いて思い出すのよ…
昨日は、確か、『祝!最萌2決勝戦 紅魔館対決パーティー』をやって、
私と中国が主役、って事で、皆から散々お酒を飲まされて…
…え~~と…… それから……
…先の記憶が無い……
ま、まさか………!!
だ、大丈夫。ウン、大丈夫よ……! 下着だってちゃんと着けて……
て、アレ? ………胸が…
…………
やだ、嘘、やった――――――――ッ!!
そりゃ毎日、バストアップエクササイズやら何やら色々やってたけど、本当に効果があるなんて!!
これでもう、パッドがどうだとか、あらぬ噂を立てられる事も……
……なんか、髪の毛まで随分と伸びてるんだけど………
いくらバストアップの為とはいえ、永遠亭の医者から貰った、怪しげなサプリメントまで飲んだのはまずかったかしら。
それにしても伸び過ぎね。これじゃまるで…
まるで……
…………
えーと、鏡、鏡は何処かしら?
無いわねぇ~。鏡くらい、分かり易い所に置いときなさいよね、中国。
あ、あったわ。
…………
………って
ハイイィィ――――――――――――――――――――――――――ッッ!!??」
“せか中”
「な…何で……!?
何で私が、中国になっちゃてるのよ!!?
……そうか
あのスキマね。
詳しい理屈は分からないけど、あいつが私と中国の境界をいじくったんだわ…!
準決勝で私に負けた腹いせ………はありえない、か。
そんな器の小さい奴じゃない。それは断言できる。
恐らく、ただ単に思いつきで、面白そうだから、とか、そういう理由でしょうね……
………なおさらタチが悪いわ…
今すぐ元に戻させたいけど、あいつの居場所なんて分からないし、メイド長の仕事も放ってはおけないし…
仕方ない。お嬢様や皆には事情を説明して、暫くはこのままで生活するか…
…………きょぬーな生活を体験する、ってのも悪くはないし」
「あれ、珍しいですね、中国様。こんな時間にお屋敷の方に来るなんて… 何かあったんですか?」
「あ、小悪魔。ちょっと厄介な事になっちゃって… 実は私…」
「あ~~らら? 門番如きが、こ~んな所で何してるのかしら~~~?」
「あ、咲夜様。」
「あ、私…
…じゃなくて、貴方、中国でしょう!? 一体何を…」
「はぁ~? 何言ってるのかしらぁ、この門番は。中国はあんたでしょう?
私は咲夜。
紅魔館のメイド長にして、レミリアお嬢様の完全で瀟洒な従者。
十六夜 咲夜よ?」
「ッ……!! 中国、貴方まさか、この機に乗じて、私の立場を乗っ取るつもり……?」
「さぁ~って、何の事だか、私にはサッパリ?」
「……いい度胸ね。分かったわ。貴方がそういうつもりなら………
こちらも容赦はしないッ!!
受けなさい! 幻符「殺人ドール」ッッ!!
って、あれ…? 何で何も起こらないの……?」
「な~にやってるんだか。
『中国』であるあんたが、『咲夜』のスペルカードを使えるわけが無いでしょう?」
「なっ…!」
「見せてあげるわ。これが本当の、幻符「殺人ドール」よッ!!!」
「っ!!
きゃあぁぁぁあああ―――!!!」
「あーら、意外と可愛い悲鳴を上げるのねぇ、『中国』ったら。フフフ…」
「くっ…」
「……どうしたのよ、騒がしいわね。読書の妨げになるから、もう少し静かにしてちょうだい」
「あ、パチュリー様! 大変なんです、咲夜様が中国様を虐めて…」
「ああ、なんだ。いつもの事じゃない」
「助けてあげないんですか!?」
「大丈夫よ。咲夜だって、殺しはしないわ…」
「それはそうでしょうけど…!」
「放っといてもいいでしょう、別に。中国なんだし」
「…まぁ、確かに、中国様ですしね…
って、そうじゃないですよ!?
いくら中国様だからって、たまには助けてあげないと、可哀想じゃないですか!」
「……でも、面倒だし………」
「あ~らら、可哀想な『中国』。この『咲夜』に虐められてるっていうのに、誰も助けてはくれない。
『中国だから、弄られても仕方ない』
『中国だから、ネタにされるのは当然だ』
『中国だから、虐めたって別に大丈夫でしょ』
『中国だから』という理由で、皆が無茶する。ネタにする。
名前すら呼んでくれない。
それに比べ、『咲夜』は…
『咲夜さん』だなんて『さん』付けで、
『咲夜さんは格好いい』だとか、『咲夜さんは瀟洒だな』とか…
くっ!! 『咲夜』!『咲夜』!『咲夜』! どいつもこいつも『咲夜』!
なぜだ!なぜ『咲夜』を認めて『美鈴』を認めないんだ!!」
「中国、貴方……」
「私に向かって、その名を呼ぶな! 『中国』は、あんただと言ったろう!?
そう、私は最早『中国』ではない!
ネタにされ、弄られる『中国』ではないッ!!
私は『咲夜』だ!
皆から愛され、敬われる『十六夜 咲夜』となったのだッ!!
私は見返してやる。『中国』をネタキャラにした、この世界全てを!!!」
「…そうね。私、いえ、私達は、『中国』の気持ちなんて全然考えてなかった。
弄られる『中国』を、当然のものとして考えていた。
……今、自分自身が『中国』になって初めて解った。『中国』がどんなに苦しんでいたかを…
ごめんなさいね、美鈴…………
なぁんて…
反省する様な殊勝な人間に……
紅魔館のメイド長が務まるかぁ―――ッ!!」
「あびすぱぁぁあッッッ!!??」
「中国様が咲夜様をブッ飛ばしたー!?」
「っフ~~ぅ… 流石に格闘戦をやるには、この体は強力ね。
そこまでふっ飛ばせるとは思わなかったわ」
「な、殴ったね? 親父にもn……
じゃなくて。
あれだけの話を聞いた後で殴りますか、フツー!?」
「だまらっしゃい! 貴方の事情なんて知ったこっちゃないわ。
重要な事はただ一つ、
貴方が私を怒らせたって事よッ!!
覚悟は出来てるんでしょうね、中国……」
「フンッ! 咲夜さんこそ、さっき痛い目にあったのを、もう忘れたんですか!
行きますよ! 傷魂「ソウルスカルプチュア」ッ!!」
「遅いッ!」
「なぁ!? これだけの斬撃が、かすりもしないなんて……!」
「どれだけ高性能の機体であっても、乗っているのがお笑い三等兵じゃ、その真の力は出せない様ね。
そして、その逆もまた然り……ッ!!」
「ちゅ、中国様の髪が金色に光って、逆立ってる!? 一体、何が…」
「むぅぅ、これは、気功絶技「崇羽亞砕野陣」!! まさか、この目で見られる日が来ようとは…」
「し 知っているのかパチュリー様――っ!!」
「……小悪魔、貴方、話し方がおかしくなってない?」
「……パチュリー様こそ」
崇羽亞砕野陣(すうぱあさいやじん)…
中国拳法の特徴が、『気』を使う事にあるのは周知の事実であるが、その『気』を高める為の奥義が『砕野陣』であり、
その『砕野陣』を極限まで極めたものが、『崇羽亞砕野陣』である。
『崇羽亞砕野陣』を完成させたのは、明代末期の2人の拳法家、童 羅厳(どう らごん)と房 王龍(ぼう おうりゅう)と言われる。
彼らは、かたや平民、かたや王族の出と、身分の違いがありながらも、互いを好敵手と認め合い、
切磋琢磨し、ついには『砕野陣』を超えた『崇羽亞砕野陣』の境地に至ったと伝えられる。
一説では、『おだやかな心をちながら はげしい怒りに目覚める』事が『崇羽亞砕野陣』を会得する為の条件と言われている。
『砕野陣』の習得自体が非常に困難な事であり、更に『崇羽亞砕野陣』に至ると言うのは、殆ど不可能と同意語である。
『崇羽亞砕野陣』を習得した者は、四千年に及ぶ中国拳法の歴史の中で、童 羅厳と房 王龍を含め僅か五人だけであり、
この事実からも、『崇羽亞砕野陣』を会得する事が如何に困難かを窺い知る事が出来る。
正に、中国拳法の秘儀中の秘儀、と言えよう。
ちなみに、数年前に某少年誌で連載され、大人気となった格闘漫画が、
この『崇羽亞砕野陣』に関する逸話を基にしている、という事は言うまでもない。
(民○書房刊『世界の中国で、哀をさけぶ』より)
「中国様… おそろしい方です……………!!」
「ええ!! この私が神に感謝することがある 彼女が敵ではなかったことをね」
「ななななななな何で!? 私にも使いこなせなかった『崇羽亞砕野陣』を、咲夜さんが使えるんです!?」
「乗り手の違い、って事じゃないの?
自分でも感じるわ。本当に凄い力。並以上の妖怪でも一撃ね、これは。
でも、
あなただけは〝VIP待遇〟よ… 特別よ…
一撃… ニ撃… 三撃… 四撃…
何発でも食らわせてあげる。
『咲夜』の体は頑丈ゆえに何度も…
ふき飛ぶ」
「クッ、むざむざやられはしない!
『咲夜』にはコレがある! 時よ止まれッ! 「咲夜の世界」ッッ!!」
[時は止まる]
「あーはっはっ! いくら強大な力を手にしても、時が止まっちゃえば関係無いでしょう!?
残念でしたね~、咲夜さn
「五月蝿い」
「じゅびろッッッッッ!!!!」
「目の前で無防備な姿をさらさないでよ。ついつい殴っちゃったじゃない」
「あ…が…がが…… な、何で…」
「動けるのかって? 当然でしょう。私が今まで、何度 時を止めてきたと思ってるの?
『止まった時の中で動く感覚』なんて、とうの昔から身に染み付いてるわ」
「ず、ずるいです、そんなのぉ~~」
「さて、と。次は何を見せてくれるのかしら?」
「あ、あうぅ…」
「もうネタ切れ?
そう。
そうなの。
なら…………
死になさい………!」
「……!!
スンマセンでした! 調子に乗りすぎました! ごめんなさい!
だから、ちょっと待って…
ス、ストップ、咲夜さん!! プリーズ、ストーッp
[そして時は動き出す]
[エピローグ]
「いつの間にか、咲夜様が吹っ飛んでる――!?」
「……て言うか、ピクリとも動かないわね、咲夜」
「しっかりして下さい、咲夜様~!」
「う… ………… う」
「良かった…
気がつきましたよッ! 咲夜様ッ! 良かった………… あ… 危なか…」
「違うのよ……… 小悪魔…… これは『空洞』 ……
………なのよ」
「………………… え …………」
「『空洞よ』……
すでにいないのよ 中国はもう…
・・・・・・・・
どこにも「空っぽ」なのよ 行ってしまった……
・・・・ ・・・ ・・・ ・・・・・・・
もういないのよ!
咲夜(わたし)の魂が『咲夜』の体の中に入れてしまうぐらいッ!お互いの体を行き来できるくらい すでにッ!!
「空洞」なのよ…」
「え? 咲夜様、どういう…」
「……説明してくれるわね、咲夜」
「はい、パチュリー様。実は…………
…………というわけだったんです」
「咲夜と中国が入れ替わってたなんて… なるほど、道理で言動がおかしかったわけね。
で、中国の魂が『咲夜』の体から出て行った今、咲夜の魂は、無事 元の体に戻れた、と」
「そういう事です」
「まぁ、なんにしろ、レミィが起きてくる前に片がついて良かったわ」
「本当です。掃除も洗濯もしなきゃいけないっていうのに、
とんだ無駄な時間を使ってしまいました(後で、時を止めて取り戻すけど)。
まったく、入れ替わりなんて、もうこりごりですっ!」
「ふふっ、咲夜ったら……」
「あのぉ~、綺麗にオチがついたところに申し訳ないんですが…
中国様の魂は、一体、何処に行ったんですか…?
体の方は、ピクリとも動かないんですけど……」
[死亡確認]
============================================================================================
[オマケ]
「幽々子さま」
「なぁに、妖夢?」
「新入りです」
「あ、どうも初めまして。紅美鈴っていいます。 よろしくお願いします……」
「…………」
「あ、あの… 何でまた、そんなに、ジーッと見つめるんですか。えと、幽々子…さん?」
「……………」
「あの…」
「ねぇねぇ妖夢」
「何ですか?」
「今日は龍料理よ♪」
「…本気ですか?」
「せっかく珍しい食材が入ったんだし~」
「はぁ… 仕方ないですね… 分かりました。
と言うわけで新入り、あなたを今日、西行寺家の食卓へ招待するわ」
「それって、客として、ですよねぇ…?」
「勿論…
…餌としてよ」
「あ、ああああ、ちょと、ちょっと待って!
あれ、て言うか、私もう幽霊だし、えと、これ以上は死なないってゆーか……」
「ん~…
私の楼観剣って、一振りで『幽霊10匹分の殺傷』力があったりするんだけど…」
「……えぇと、とりあえずご挨拶は済ませましたし、今日はこの辺で…」
「待ちなさい。
と言うわけで…
お決まりの科白だけど……
・・・妖怪が鍛えたこの楼観剣に
斬れぬものなど、あんまり無い! 」
「いーかげん こーゆーオチはイヤ―――――――!!!」
「龍料理っ♪ 龍料理っ♪(はぁと)」
………
……
…っふあぁ~~~あー……
……よく寝たわ… ……お昼は…過ぎてるみたいね……
…もう随分と、日も傾いてるし……
…とりあえず……お嬢様が起きる前に…掃除と洗濯は済ませとかないと…
…………
…………
…何で私の部屋に、龍の置物だとか、青龍刀だとか、いかにも中国好みな物が置いてあるわけ……?
……
て言うか……
…ここって…
…中国の部屋じゃないのッ!!?
な、何で私が中国の部屋で寝てたの!? 一体、どういう……?
……落ち着け、落ち着きなさい、十六夜 咲夜………
落ち着いて思い出すのよ…
昨日は、確か、『祝!最萌2決勝戦 紅魔館対決パーティー』をやって、
私と中国が主役、って事で、皆から散々お酒を飲まされて…
…え~~と…… それから……
…先の記憶が無い……
ま、まさか………!!
だ、大丈夫。ウン、大丈夫よ……! 下着だってちゃんと着けて……
て、アレ? ………胸が…
…………
やだ、嘘、やった――――――――ッ!!
そりゃ毎日、バストアップエクササイズやら何やら色々やってたけど、本当に効果があるなんて!!
これでもう、パッドがどうだとか、あらぬ噂を立てられる事も……
……なんか、髪の毛まで随分と伸びてるんだけど………
いくらバストアップの為とはいえ、永遠亭の医者から貰った、怪しげなサプリメントまで飲んだのはまずかったかしら。
それにしても伸び過ぎね。これじゃまるで…
まるで……
…………
えーと、鏡、鏡は何処かしら?
無いわねぇ~。鏡くらい、分かり易い所に置いときなさいよね、中国。
あ、あったわ。
…………
………って
ハイイィィ――――――――――――――――――――――――――ッッ!!??」
“せか中”
「な…何で……!?
何で私が、中国になっちゃてるのよ!!?
……そうか
あのスキマね。
詳しい理屈は分からないけど、あいつが私と中国の境界をいじくったんだわ…!
準決勝で私に負けた腹いせ………はありえない、か。
そんな器の小さい奴じゃない。それは断言できる。
恐らく、ただ単に思いつきで、面白そうだから、とか、そういう理由でしょうね……
………なおさらタチが悪いわ…
今すぐ元に戻させたいけど、あいつの居場所なんて分からないし、メイド長の仕事も放ってはおけないし…
仕方ない。お嬢様や皆には事情を説明して、暫くはこのままで生活するか…
…………きょぬーな生活を体験する、ってのも悪くはないし」
「あれ、珍しいですね、中国様。こんな時間にお屋敷の方に来るなんて… 何かあったんですか?」
「あ、小悪魔。ちょっと厄介な事になっちゃって… 実は私…」
「あ~~らら? 門番如きが、こ~んな所で何してるのかしら~~~?」
「あ、咲夜様。」
「あ、私…
…じゃなくて、貴方、中国でしょう!? 一体何を…」
「はぁ~? 何言ってるのかしらぁ、この門番は。中国はあんたでしょう?
私は咲夜。
紅魔館のメイド長にして、レミリアお嬢様の完全で瀟洒な従者。
十六夜 咲夜よ?」
「ッ……!! 中国、貴方まさか、この機に乗じて、私の立場を乗っ取るつもり……?」
「さぁ~って、何の事だか、私にはサッパリ?」
「……いい度胸ね。分かったわ。貴方がそういうつもりなら………
こちらも容赦はしないッ!!
受けなさい! 幻符「殺人ドール」ッッ!!
って、あれ…? 何で何も起こらないの……?」
「な~にやってるんだか。
『中国』であるあんたが、『咲夜』のスペルカードを使えるわけが無いでしょう?」
「なっ…!」
「見せてあげるわ。これが本当の、幻符「殺人ドール」よッ!!!」
「っ!!
きゃあぁぁぁあああ―――!!!」
「あーら、意外と可愛い悲鳴を上げるのねぇ、『中国』ったら。フフフ…」
「くっ…」
「……どうしたのよ、騒がしいわね。読書の妨げになるから、もう少し静かにしてちょうだい」
「あ、パチュリー様! 大変なんです、咲夜様が中国様を虐めて…」
「ああ、なんだ。いつもの事じゃない」
「助けてあげないんですか!?」
「大丈夫よ。咲夜だって、殺しはしないわ…」
「それはそうでしょうけど…!」
「放っといてもいいでしょう、別に。中国なんだし」
「…まぁ、確かに、中国様ですしね…
って、そうじゃないですよ!?
いくら中国様だからって、たまには助けてあげないと、可哀想じゃないですか!」
「……でも、面倒だし………」
「あ~らら、可哀想な『中国』。この『咲夜』に虐められてるっていうのに、誰も助けてはくれない。
『中国だから、弄られても仕方ない』
『中国だから、ネタにされるのは当然だ』
『中国だから、虐めたって別に大丈夫でしょ』
『中国だから』という理由で、皆が無茶する。ネタにする。
名前すら呼んでくれない。
それに比べ、『咲夜』は…
『咲夜さん』だなんて『さん』付けで、
『咲夜さんは格好いい』だとか、『咲夜さんは瀟洒だな』とか…
くっ!! 『咲夜』!『咲夜』!『咲夜』! どいつもこいつも『咲夜』!
なぜだ!なぜ『咲夜』を認めて『美鈴』を認めないんだ!!」
「中国、貴方……」
「私に向かって、その名を呼ぶな! 『中国』は、あんただと言ったろう!?
そう、私は最早『中国』ではない!
ネタにされ、弄られる『中国』ではないッ!!
私は『咲夜』だ!
皆から愛され、敬われる『十六夜 咲夜』となったのだッ!!
私は見返してやる。『中国』をネタキャラにした、この世界全てを!!!」
「…そうね。私、いえ、私達は、『中国』の気持ちなんて全然考えてなかった。
弄られる『中国』を、当然のものとして考えていた。
……今、自分自身が『中国』になって初めて解った。『中国』がどんなに苦しんでいたかを…
ごめんなさいね、美鈴…………
なぁんて…
反省する様な殊勝な人間に……
紅魔館のメイド長が務まるかぁ―――ッ!!」
「あびすぱぁぁあッッッ!!??」
「中国様が咲夜様をブッ飛ばしたー!?」
「っフ~~ぅ… 流石に格闘戦をやるには、この体は強力ね。
そこまでふっ飛ばせるとは思わなかったわ」
「な、殴ったね? 親父にもn……
じゃなくて。
あれだけの話を聞いた後で殴りますか、フツー!?」
「だまらっしゃい! 貴方の事情なんて知ったこっちゃないわ。
重要な事はただ一つ、
貴方が私を怒らせたって事よッ!!
覚悟は出来てるんでしょうね、中国……」
「フンッ! 咲夜さんこそ、さっき痛い目にあったのを、もう忘れたんですか!
行きますよ! 傷魂「ソウルスカルプチュア」ッ!!」
「遅いッ!」
「なぁ!? これだけの斬撃が、かすりもしないなんて……!」
「どれだけ高性能の機体であっても、乗っているのがお笑い三等兵じゃ、その真の力は出せない様ね。
そして、その逆もまた然り……ッ!!」
「ちゅ、中国様の髪が金色に光って、逆立ってる!? 一体、何が…」
「むぅぅ、これは、気功絶技「崇羽亞砕野陣」!! まさか、この目で見られる日が来ようとは…」
「し 知っているのかパチュリー様――っ!!」
「……小悪魔、貴方、話し方がおかしくなってない?」
「……パチュリー様こそ」
崇羽亞砕野陣(すうぱあさいやじん)…
中国拳法の特徴が、『気』を使う事にあるのは周知の事実であるが、その『気』を高める為の奥義が『砕野陣』であり、
その『砕野陣』を極限まで極めたものが、『崇羽亞砕野陣』である。
『崇羽亞砕野陣』を完成させたのは、明代末期の2人の拳法家、童 羅厳(どう らごん)と房 王龍(ぼう おうりゅう)と言われる。
彼らは、かたや平民、かたや王族の出と、身分の違いがありながらも、互いを好敵手と認め合い、
切磋琢磨し、ついには『砕野陣』を超えた『崇羽亞砕野陣』の境地に至ったと伝えられる。
一説では、『おだやかな心をちながら はげしい怒りに目覚める』事が『崇羽亞砕野陣』を会得する為の条件と言われている。
『砕野陣』の習得自体が非常に困難な事であり、更に『崇羽亞砕野陣』に至ると言うのは、殆ど不可能と同意語である。
『崇羽亞砕野陣』を習得した者は、四千年に及ぶ中国拳法の歴史の中で、童 羅厳と房 王龍を含め僅か五人だけであり、
この事実からも、『崇羽亞砕野陣』を会得する事が如何に困難かを窺い知る事が出来る。
正に、中国拳法の秘儀中の秘儀、と言えよう。
ちなみに、数年前に某少年誌で連載され、大人気となった格闘漫画が、
この『崇羽亞砕野陣』に関する逸話を基にしている、という事は言うまでもない。
(民○書房刊『世界の中国で、哀をさけぶ』より)
「中国様… おそろしい方です……………!!」
「ええ!! この私が神に感謝することがある 彼女が敵ではなかったことをね」
「ななななななな何で!? 私にも使いこなせなかった『崇羽亞砕野陣』を、咲夜さんが使えるんです!?」
「乗り手の違い、って事じゃないの?
自分でも感じるわ。本当に凄い力。並以上の妖怪でも一撃ね、これは。
でも、
あなただけは〝VIP待遇〟よ… 特別よ…
一撃… ニ撃… 三撃… 四撃…
何発でも食らわせてあげる。
『咲夜』の体は頑丈ゆえに何度も…
ふき飛ぶ」
「クッ、むざむざやられはしない!
『咲夜』にはコレがある! 時よ止まれッ! 「咲夜の世界」ッッ!!」
[時は止まる]
「あーはっはっ! いくら強大な力を手にしても、時が止まっちゃえば関係無いでしょう!?
残念でしたね~、咲夜さn
「五月蝿い」
「じゅびろッッッッッ!!!!」
「目の前で無防備な姿をさらさないでよ。ついつい殴っちゃったじゃない」
「あ…が…がが…… な、何で…」
「動けるのかって? 当然でしょう。私が今まで、何度 時を止めてきたと思ってるの?
『止まった時の中で動く感覚』なんて、とうの昔から身に染み付いてるわ」
「ず、ずるいです、そんなのぉ~~」
「さて、と。次は何を見せてくれるのかしら?」
「あ、あうぅ…」
「もうネタ切れ?
そう。
そうなの。
なら…………
死になさい………!」
「……!!
スンマセンでした! 調子に乗りすぎました! ごめんなさい!
だから、ちょっと待って…
ス、ストップ、咲夜さん!! プリーズ、ストーッp
[そして時は動き出す]
[エピローグ]
「いつの間にか、咲夜様が吹っ飛んでる――!?」
「……て言うか、ピクリとも動かないわね、咲夜」
「しっかりして下さい、咲夜様~!」
「う… ………… う」
「良かった…
気がつきましたよッ! 咲夜様ッ! 良かった………… あ… 危なか…」
「違うのよ……… 小悪魔…… これは『空洞』 ……
………なのよ」
「………………… え …………」
「『空洞よ』……
すでにいないのよ 中国はもう…
・・・・・・・・
どこにも「空っぽ」なのよ 行ってしまった……
・・・・ ・・・ ・・・ ・・・・・・・
もういないのよ!
咲夜(わたし)の魂が『咲夜』の体の中に入れてしまうぐらいッ!お互いの体を行き来できるくらい すでにッ!!
「空洞」なのよ…」
「え? 咲夜様、どういう…」
「……説明してくれるわね、咲夜」
「はい、パチュリー様。実は…………
…………というわけだったんです」
「咲夜と中国が入れ替わってたなんて… なるほど、道理で言動がおかしかったわけね。
で、中国の魂が『咲夜』の体から出て行った今、咲夜の魂は、無事 元の体に戻れた、と」
「そういう事です」
「まぁ、なんにしろ、レミィが起きてくる前に片がついて良かったわ」
「本当です。掃除も洗濯もしなきゃいけないっていうのに、
とんだ無駄な時間を使ってしまいました(後で、時を止めて取り戻すけど)。
まったく、入れ替わりなんて、もうこりごりですっ!」
「ふふっ、咲夜ったら……」
「あのぉ~、綺麗にオチがついたところに申し訳ないんですが…
中国様の魂は、一体、何処に行ったんですか…?
体の方は、ピクリとも動かないんですけど……」
[死亡確認]
============================================================================================
[オマケ]
「幽々子さま」
「なぁに、妖夢?」
「新入りです」
「あ、どうも初めまして。紅美鈴っていいます。 よろしくお願いします……」
「…………」
「あ、あの… 何でまた、そんなに、ジーッと見つめるんですか。えと、幽々子…さん?」
「……………」
「あの…」
「ねぇねぇ妖夢」
「何ですか?」
「今日は龍料理よ♪」
「…本気ですか?」
「せっかく珍しい食材が入ったんだし~」
「はぁ… 仕方ないですね… 分かりました。
と言うわけで新入り、あなたを今日、西行寺家の食卓へ招待するわ」
「それって、客として、ですよねぇ…?」
「勿論…
…餌としてよ」
「あ、ああああ、ちょと、ちょっと待って!
あれ、て言うか、私もう幽霊だし、えと、これ以上は死なないってゆーか……」
「ん~…
私の楼観剣って、一振りで『幽霊10匹分の殺傷』力があったりするんだけど…」
「……えぇと、とりあえずご挨拶は済ませましたし、今日はこの辺で…」
「待ちなさい。
と言うわけで…
お決まりの科白だけど……
・・・妖怪が鍛えたこの楼観剣に
斬れぬものなど、あんまり無い! 」
「いーかげん こーゆーオチはイヤ―――――――!!!」
「龍料理っ♪ 龍料理っ♪(はぁと)」
さすが中国、詰めが甘いぜ。でも大好き。
一度は勝った気になっていながら、完膚無きまでにやられてしまうのが愛らしいです。これぞ中国。
パッドの有無を公言しなかったのは、同僚に対する精一杯の情けだったのでしょうか。