Coolier - 新生・東方創想話

望むは過去、狂うは今

2005/04/10 08:22:09
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変わるはずが無いと思うしかなかった。風。昨日までと同様に駆け抜けていく。
しかし、何か漠然とした不安がいつまでも消えなかった。
これまでにも何度も事件が起きていた。なにせ、この幻想郷には暇で無駄に力を持て余している連中が無駄にいるのだ。かく言う、私の主もその一人ではあるが。
また、お嬢様が良からぬ事を企んでいなければいいのだが。そう考えることにして、朝の仕事に取り掛かった。
冥界の朝に、風が舞った。

満月。狂気の力はこの冥界にも例外なく降り注いでいた。
結局、お嬢様はいつもの悪ふざけをするだけだった。それは迷惑極まりないものだが、特に変わった様子は無かった。
不安。自分の予想が外れて一段と大きくなる。
満月の夜にお嬢様が悪事を働く以外に、一体この幻想郷に何があるというのだ。そう思い、脳裏に紅白の巫女や黒い魔法使いなどの面々が浮かぶ。苦笑し、別にトラブルを進んで起こすのはお嬢様だけではないと思い直し、見回りに出ることにした。満月の狂気に当てられ、狂って暴れるやつが毎回出るのだ。

冥界の入り口に差し掛かった時だった。
影。身構える。しかし、こちらをよそに影は月を見上げていた。
「何者だ!」
しかし問いには答えずこちらを見て、にやりと笑っただけだった。
「貴様!!」
跳躍。しかし、薙いだ白銀は宙をきった。右。わき腹に衝撃を受け、吹き飛び、倒れた。跳ね起きようとして、膝をつく。喘ぎながら口に中のものを吐き出し、何とか立ち上がった。
睨み合う。隙だらけなのに踏み込めない。息遣いが荒くなってきた。先のダメージだけが原因ではない。完全に、相手に呑まれていた。それでも何とか踏みとどまり、相手の圧力に全力で抵抗した。
「少しは、楽しめそうかな。」
言葉と同時に、風が来た。正面。際どいところで左にかわす。さらに風。右手の刀で受け止める。衝撃で手が痺れたが、刀は落とさなかった。
立ち位置が、逆になっていた。あの衝撃が素手によるものだと、ようやく理解する。恐ろしく強い。格の違いを痛感した。
相手の圧力と焦りに負け、踏み込んだ。左の刀を突き出す。空を薙いだ。全身に衝撃。視界が回り、地面が目の前にあった。立ち上がろうとして、全身に激痛が走る。血反吐の様なものを吐き出し、貪る様に空気を吸う。
何とか首だけは、相手に向けた。月光の下に、姿を現していた。女。不意にあの不安の正体を悟った。女の表情は、狂気に歪んでいた。
「もう少しあなたで楽しみたいけど、いい?」
手を突出し、握った。肌に粟が立つのを感じ、転がる。少し遅かった。左腕が刀ごと、ぐちゃぐちゃに潰された。
「っっっっっっっっっ!!」
声にならない声を上げ、のたうちまわる。女の狂気がさらに押し寄せてきた。体中に足がめり込んできた。体中の感覚が消えた。ただ揺れる視界の中、意識が遠のいていくだけだった。
「あなたには、厭きた。」
私を玩具にするのを止め、唐突に女は言った。
「この奥にいる、白玉楼の主だったらもっと楽しめるかな?」
その言葉が、遠のいた意識を呼び戻した。この女はあまりにも危険だ。お嬢様でも危険だ。何としてでも止めねば。しかし、体はほとんど動かなかった。
「じゃあ、てきとうに朽果てて。」
そう言い、女は館へと歩き出した。止めなきゃいけない。必死だった。気がつけば立ち上がっていた。右手に刀。まだ戦える。立ち上がれる限り、戦える。
女は歩くのを止め、こちらを見ていた。
「まだやるの?あなたには厭きたんだけど」
刀を、片手で正眼に構えた。
「本気?力の差は思い知ったでしょ?」
刺し違える。それしか頭に浮かばなかった。刺し違えても、お嬢様のもとには行かせない。
衝撃がきた。派手に吹っ飛ばされ、背中から地面に落ちた。体を起こし、立ち上がる。
「そう、本気ね。気に入らない。」
また手を突出し、握った。今度は刀だけが握りつぶされた。
「どう、これであなたは戦えなくなった。」
私は女を射殺すつもりで、睨み付けた。
「気に入らないわね、あなた。後悔しなさい。」
今まで以上の衝撃が三つ同時に来た。数メートル吹っ飛び、二度バウンドして止まった。血反吐の様なものがこみ上げ、吐いた。体は今にもバラバラになるはずなのに、痛みは無く、宙を浮いている感じがするだけだった。それでも、立ち上がった。
「いい加減、諦めたら。あなたには勝ち目は無い。あなたに何ができるの?」
「私は、立ち上がれる限り戦う。そう決めた。」
「その体で、武器もなしに、どうやって?」
「まだ私の心の刀は、折れていない!!」
「は?」
「この身が砕けるまで、幽々子様をお守りすると決めた。だから私は立ち上がってみせる!!」
「救いようの無い馬鹿ね、あなた。」
そう言う女の眼差しは、哀れなものを見ている目だった。不意に女の気配が変わった。どうやら本気のようだ。
「消えなさい、あなた。目障りよ。」
何がどうなったか、よく分からなかった。ただ、気がついたら空を見ていた。満月。前にお嬢様に直視してはいけないと注意された事を、ぼんやりと思い出した。体は動くか。どうにか起き上がろうとして、上体を起こしかけ、蹴り上げられた。倒れたところに、腹に衝撃が来た。何かが破れる感じがした。体は、もう動かなかった。
「簡単に、楽になれると思わないで。」
目を閉じた。心の中でお嬢様に、自分の不甲斐無さを謝った。

轟音が鳴り響いた。爆風が、頬を打つ。
何事かと思い何とか目を開けると、女は離れた位置で、身構えていた。そして、お嬢様の姿。女から私をさえぎる様にして、睨み合っていた。
まずい、いくらお嬢様でも。そう思い、口を開こうとして、咳き込んだ。
「妖夢、動けるのなら下がっていなさい。」
そう言ったが、私の状態を悟っているようで、さらに前に出た。守るはずのお嬢様に、守られているのか。
「私の妖夢に、ずいぶんな事をしてくれたわね。」
「その娘が望んだこと。あなたを殺るなら、私を殺せとな。良い盾を持ったな。潰すのにかなりの時間と力を用したぞ。」
「黙りなさい。ここは冥界。生きて帰れると思わないことね。」
両者の気が、膨れ上がった。一触即発。息がとても苦しくなってきた。
「あなたなら、楽しめそうね。」
女が先に動いた。突出した手を、握った。しかし次の瞬間、吹き飛んでいた。落下した姿勢から身を転がし、追撃を回避する。跳ね起き、お嬢様に肉迫する。肉弾戦に持ち込むつもりだ。しかし、突出した拳が空を切る。四たび轟音。数メートル吹き飛んでいた。体を起こし、睨み合うその顔に、さらなる狂気が浮かぶ。不安。何をする気だ。お嬢様の顔に苦い表情が浮かぶ。周りの空間が歪んで見えた。動きを封じられたようだ。女がほとんど動けないお嬢様に向けて、手を突出す。お嬢様も意を決して全力で女を撃とうとしている。再度睨み合った。
まずい、どちらかが、確実に、消し飛ぶ。動けない自分を呪いつつ、辺りを見回す。私の刀。すぐ近くに、ひしゃげて転がっていた。しかし、体は動かなかった。不意に涙が出た。悔し涙だった。今だけ、今だけでいい。後はどうなってもいい。だから、今だけ動いて!
気がつくと、刀を片手に、立っていた。そうだ、私の心の刀は、まだ折れていない。
睨みあっている女を、睨んだ。突進する。女が私に気がついた。後、五メートル。腕をこちらに向けてきた。後、三メートル。女の顔が狂気と驚愕に歪む。後、一メートル。お嬢様の、悲痛な叫びが聞こえた気がした。
そして、私は確かな手ごたえを感じ、何も、見えなくなった。

光。満月が目に飛び込んできた。次に、矢のように流れていく竹林が見えた。そして、お嬢様の顔。普段や有事でも決して見せることの無い、必死で、何かに追われているような、焦った顔。まるで、もっと速く飛べない自分を呪っている様だった。ようやく、ぼんやりと、お嬢様に抱き上げられていることに気がついた。何をそんなに必死になっているのか、なんとなく考えた。しかし、うまく頭が働かない。
私が目を開けたことに、お嬢様は気がついた。何か話しかけられているようだったが、うまく聞き取れなかった。しかし、
「あなたは死んで消滅するだけ。でも、あなたに死なれて、置いていかれる身のことも少しは考えたの?」
お嬢様には珍しい、かなり感情的なこの言葉だけは、何故か聞こえた。
満月。何かが狂い出したこの幻想郷の満月を、いつの間にか見つめていた。
体の、破れた場所は、どうしようもなく、広がっていた。
お嬢様。そう声をかけようとして、不意に、視界が、消えた。
初めまして、初投稿です。
まず始めに、お詫びを。全国の妖夢ファンの方、どうもすみませんでした。カリスマのある幽々子様の姿を考えていたら、妖夢のピンチに颯爽と現れて助けてくれる姿しか思いつきませんでした。と言う訳で妖夢にはボロボロになってもらうしかなかったのです。本当にすいませんでした。あ、一応、妖夢はまだ生きているはずなのでご安心を。変な敵はあまり気にしないでください。
さて、カリスマのある幽々子様を考えるプロジェクトなのですが、あまりにも評判が悪くない限りはもう少し続けて行きたいと思っています。また、なにぶん初めてのことで至らぬところが多々ありますので、意見や感想、指摘などをしてもらえたらと思います。どうぞご協力お願いします。誤字脱字は勘弁してください。
次回までには、もう少しカリスマのある幽々子様の姿を考えて見ます。それでは。
ニケ
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コメント



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2.無評価七死削除
第一話目にしても後3倍は読みたい所でござる。
10.40無為削除
妖夢の「お嬢様」という呼び方に違和感が。いやまぁ、些細な事なんですが。

冥界に殴りこんだのがめーりんに見えたのは私だけでいいと思います。