(動く!)
美鈴の「もう一つの知覚」がそれを察知するのと完全に同時に、雷鳴のような気合が放たれた。
「ぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
動き出すその瞬間と言うのは、動物が最も隙を曝け出す時のひとつ。その刹那のタイミングを見事に貫いた気合に呑まれ、なまじ同期していたフランドール達の動きが揃って止まる。その隙を逃すことなく、美鈴は既に次の行動に移っていた。空中という上下のない戦闘空間を利用し、下方に飛んで正対していたクラブのフランドールの視界から消え、死角から瞬く間にその眼前へ距離を詰める。
「っ?!」
少女は慌てて、杖を握っていない左手から虹色の魔力球を大量に放って弾幕とした。
「くっ…!」
美鈴はたじろぎ、一瞬動きを止め、慌てて魔力球をすり抜けにかかった。。その無防備な背中へ、残り二人の魔杖が左右から薙ぎ払われ…たその瞬間。全力をただ移動のみに注ぎ込み、彼女は上へと飛んだ。そう、それは誘いの隙。美鈴を薙ぎ払ったはずの双つの魔器の軌道の先には、クラブのフランドールの姿があった。全てを滅ぼす黄昏の光は、自らの分身さえその対象外とはしない。弾幕と共に、跡形すら残らなかった。
「これでふたつ…後、ひとつ!」
上空から二人を見下ろし、内心とは反対に余裕たっぷりに美鈴は言い放った。内心ではガクブルものであることを知られてはならない。地力は向こうの方が上なのだから、常に精神的には優位に立っておかねば負ける。いや、いずれにせよ負けるだろうが、その先に進みかねない。考えたくもない。…自分を家族のように慕ってくれている少女と戦うばかりか、侮辱までせねばならないとは…心にふと生まれたその想いを、彼女は渾身の力で押し潰した。一時の情に惑わされて大道を見失ってはならない。
そして、残り二人となったフランドール達が再び動き出す。先ほどより用心しているらしく、ゆっくりと周囲を旋回しながら美鈴を窺っていた。美鈴の実力がどの程度なのかが読めないのだろう、その瞳には疑惑の色がある。…とにかく、少女の精神をかき乱さねばならない。例え実戦経験がなくとも、冷静になってその本能の声に従うようになってしまえば、まるで歴戦の戦士のように彼女は戦えるに違いない。彼女は紅魔、永遠の夜を征く絶対の狩猟者なのだから。
二人のフランドールが、前方と左上から同時に無数の魔力球とレーザーとを放った。それをぎりぎりまで、ぎりぎりまで引き付け、美鈴は右へと飛んだ。次の瞬間、彼女のいた場所を二方向から紅の光と七色の魔弾とが貫いて行き…そして、いきなり虹色の眩しい光があたりを貫いた。
「な、何…っ?!」
凄まじいばかりの光に視界を奪われ、予想外の事態に一瞬怯んだ二人のフランドールに、短いながら致命的な隙が生まれた。その瞬間に、もう一足を飛んで近距離から叩き込まれた多色の爆発がハートのフランドールを襲う。
「華符『セラギネラ9』!」
美鈴が左手で瞬時に取り出し、渾身の魔力をこめて解き放ったスペルカードからは美しくも危険な数々の魔性の花が溢れ出し、ハートのフランドールを花幻の中に飲み込んで行った。
あっけに取られて立ち尽くすフランドールを見つめながら、美鈴は後ろ手にしたスペルカードに更に力を注ぎ続けた。まだだ、まだ足りない…。
「そっか…スペルカードを身代わりに置いたんだ」
ふと、フランドールが呟いた。その瞳に理解の色が浮かぶ。見抜かれたか…カード自体は跡形もないのに。なかなか洞察力の高い…美鈴の額に、再び汗が新たに浮かんだ。そう、その通りだった。彼女は飛び退いた際に、フランドール達の攻撃の交錯する地点に、少しアレンジを加えた彩光乱舞のスペルカードを残しておいたのだ。破壊力はほとんどない代わりに、より強い閃光を放つものを。それはフランドールの魔力に反応して炸裂し…そして、今の結果となったわけである。
「ふふ…壊れないどころか壊される相手なんて久しぶり。しかも、それが美鈴だなんて」
少女の手の中で、もはや用をなさなくなったフォーオブアカインドのスペルカードが燃え尽きる。そして、両の翼がちらちらと二度瞬いたかと思うと、その手に次のカードが現れた。
「さーて…今度は私に近づけるかな?禁弾『スターボウブレイク』!」
見る間に辺りが七色の魔弾で覆い尽くされた。果たしてこれをすり抜けられるか…いや、やるしかない。美鈴に選択の余地など始めっからない。そう考えれば気楽なものだ。
「いやいや、気楽なんかじゃ絶対ないから」
そんな呟きを発した彼女を、虹の奔流が呑み込んだ。
美鈴の「もう一つの知覚」がそれを察知するのと完全に同時に、雷鳴のような気合が放たれた。
「ぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
動き出すその瞬間と言うのは、動物が最も隙を曝け出す時のひとつ。その刹那のタイミングを見事に貫いた気合に呑まれ、なまじ同期していたフランドール達の動きが揃って止まる。その隙を逃すことなく、美鈴は既に次の行動に移っていた。空中という上下のない戦闘空間を利用し、下方に飛んで正対していたクラブのフランドールの視界から消え、死角から瞬く間にその眼前へ距離を詰める。
「っ?!」
少女は慌てて、杖を握っていない左手から虹色の魔力球を大量に放って弾幕とした。
「くっ…!」
美鈴はたじろぎ、一瞬動きを止め、慌てて魔力球をすり抜けにかかった。。その無防備な背中へ、残り二人の魔杖が左右から薙ぎ払われ…たその瞬間。全力をただ移動のみに注ぎ込み、彼女は上へと飛んだ。そう、それは誘いの隙。美鈴を薙ぎ払ったはずの双つの魔器の軌道の先には、クラブのフランドールの姿があった。全てを滅ぼす黄昏の光は、自らの分身さえその対象外とはしない。弾幕と共に、跡形すら残らなかった。
「これでふたつ…後、ひとつ!」
上空から二人を見下ろし、内心とは反対に余裕たっぷりに美鈴は言い放った。内心ではガクブルものであることを知られてはならない。地力は向こうの方が上なのだから、常に精神的には優位に立っておかねば負ける。いや、いずれにせよ負けるだろうが、その先に進みかねない。考えたくもない。…自分を家族のように慕ってくれている少女と戦うばかりか、侮辱までせねばならないとは…心にふと生まれたその想いを、彼女は渾身の力で押し潰した。一時の情に惑わされて大道を見失ってはならない。
そして、残り二人となったフランドール達が再び動き出す。先ほどより用心しているらしく、ゆっくりと周囲を旋回しながら美鈴を窺っていた。美鈴の実力がどの程度なのかが読めないのだろう、その瞳には疑惑の色がある。…とにかく、少女の精神をかき乱さねばならない。例え実戦経験がなくとも、冷静になってその本能の声に従うようになってしまえば、まるで歴戦の戦士のように彼女は戦えるに違いない。彼女は紅魔、永遠の夜を征く絶対の狩猟者なのだから。
二人のフランドールが、前方と左上から同時に無数の魔力球とレーザーとを放った。それをぎりぎりまで、ぎりぎりまで引き付け、美鈴は右へと飛んだ。次の瞬間、彼女のいた場所を二方向から紅の光と七色の魔弾とが貫いて行き…そして、いきなり虹色の眩しい光があたりを貫いた。
「な、何…っ?!」
凄まじいばかりの光に視界を奪われ、予想外の事態に一瞬怯んだ二人のフランドールに、短いながら致命的な隙が生まれた。その瞬間に、もう一足を飛んで近距離から叩き込まれた多色の爆発がハートのフランドールを襲う。
「華符『セラギネラ9』!」
美鈴が左手で瞬時に取り出し、渾身の魔力をこめて解き放ったスペルカードからは美しくも危険な数々の魔性の花が溢れ出し、ハートのフランドールを花幻の中に飲み込んで行った。
あっけに取られて立ち尽くすフランドールを見つめながら、美鈴は後ろ手にしたスペルカードに更に力を注ぎ続けた。まだだ、まだ足りない…。
「そっか…スペルカードを身代わりに置いたんだ」
ふと、フランドールが呟いた。その瞳に理解の色が浮かぶ。見抜かれたか…カード自体は跡形もないのに。なかなか洞察力の高い…美鈴の額に、再び汗が新たに浮かんだ。そう、その通りだった。彼女は飛び退いた際に、フランドール達の攻撃の交錯する地点に、少しアレンジを加えた彩光乱舞のスペルカードを残しておいたのだ。破壊力はほとんどない代わりに、より強い閃光を放つものを。それはフランドールの魔力に反応して炸裂し…そして、今の結果となったわけである。
「ふふ…壊れないどころか壊される相手なんて久しぶり。しかも、それが美鈴だなんて」
少女の手の中で、もはや用をなさなくなったフォーオブアカインドのスペルカードが燃え尽きる。そして、両の翼がちらちらと二度瞬いたかと思うと、その手に次のカードが現れた。
「さーて…今度は私に近づけるかな?禁弾『スターボウブレイク』!」
見る間に辺りが七色の魔弾で覆い尽くされた。果たしてこれをすり抜けられるか…いや、やるしかない。美鈴に選択の余地など始めっからない。そう考えれば気楽なものだ。
「いやいや、気楽なんかじゃ絶対ないから」
そんな呟きを発した彼女を、虹の奔流が呑み込んだ。
続きが楽しみです。