初めてその姿を見た時から、私は、ひと目で心を奪われた。
最初に見たのは、神社の上空を通りかかった時だった。境内で一人、修行に励む姿を見た時、
私は思わず見とれてしまった。―――闇夜のように綺麗な、漆黒の髪。動作に合わせて揺れる、
赤い髪飾りと衣服。
顔は可愛い方だと思う。でも、際立つ程という訳ではない。
それでも、私は彼女に惹かれた。
「……またあんた?」
目の前にいる彼女は、うんざりしたような、苛立たしげな声を放つ。
「毎度毎度、私の前に立ちはだかって。そしていっつも、やられてばっかじゃない。少しは学
習したらどうなの?」
彼女を見かけた神社は、博麗神社という事を私は知った。そして、彼女がそこの巫女である
事と、彼女の名前が博麗霊夢という事も。
霊夢。―――彼女に相応しい名前だな、と私はその時思った。
幻想郷の夜を支配する、漆黒の黒。その黒の中に咲く、類稀という程ではないけれど、でも
確かに美しく凛と咲く紅の花。
その姿は、さながら闇に落とされたひとつの夢。
いつか、彼女―――霊夢と戦う瞬間が訪れる、そんな予感。
私の予感は、間もなく当たる事になる。
「……確かに、私はあなたに負けてばかりね。それは認めるわ。」
うんざりとした眼差しでこちらを見つめる霊夢に、私は、微かな笑いをもって応じる。
「でも、私も認めたんだから、あなたも認めて欲しいものね。」
「何を認めろって言うの?」
気の強い台詞が、霊夢から返される。
そう、その眼差しだ。私は、改めて自覚する。―――私が霊夢に惹かれた最たる要因こそ、
彼女の強い双眸だった。溢れんばかりの生命力に満ち溢れて。意志の強さを雄弁に物語る、確
かに輝く光を宿して。何に惑わされる事なく、真っ直ぐに前を射抜く強さが、そこにあって。
一度見たら、決して忘れられやしない。それが、彼女の双眸。
「私があなたに勝ち続けているという事実だったら、とっくに認めているわよ?アリス。」
「認めて欲しいのは、そんな事じゃないわよ。」
彼女の口から私の名前が出て、自然と私の気分は高揚する。
「いつもいつも、圧倒的に勝っている訳じゃない事を認めて欲しいの。何回か、あなた窮地に
陥ってたわよね?私の攻撃で。辛うじて勝って、それでも強がりを言うあなたの姿、なかなか
良かったわよ?」
「―――あれはたまたまよ、いつもじゃないわ!!!」
案の定、霊夢はきっとして言い返してくる。
「大体、辛勝でも勝ちは勝ちよ。相手を窮地に陥れておきながら、それでも勝てないあなたに
言われたくはないわね!!!」
「相変らず、威勢がいいのね。」
私は、くすくすと笑いながら戦闘体勢をとる事にする。
「でも、それがいつまで続くか楽しみだわ。―――いつも必ず自分が勝てると思っているその
自信が打ち崩された瞬間の、あなたの顔。本当に楽しみ。」
「言ってくれるじゃない。」
霊夢も、微かに笑いながら戦闘体勢になった。
「あなたの連敗記録、伸ばしてあげるから。覚悟する事ね。」
空を支配するのは、漆黒の黒。
これから空間を支配するのは、私と彼女がそれぞれ放つ攻撃技。それによって巻き起こる、
激しい爆風と土煙。―――まごうことなき、喧騒。
けれども、激しい戦闘の動きの中で揺れてこそ、彼女の紅は最も美しい輝きを放つと私は思う。
私と彼女の棲む世界は違う。
彼女と話が出来るのは、せいぜい、こうして戦っている時くらいだから。
彼女が私の事を認識してくれるのは、せいぜい、こうして戦っている時くらいだから。
だから、私は今宵も彼女と戦うのだ。
彼女の姿をを私の心に、永遠に刻み込むために。
彼女の心に、私という存在を永遠に刻み込むために。
間もなく、幻想郷で私と彼女が描く弾幕が上がる。
~~fin~~
これ良いよう・・・
アリス頑張れ。
いかにも人の目を見れなそうなこの不器用っぽさこそ愛しのアリス('∀`)