翌日。とりあえず『分からない事があったら人に聞く』を実践してみようかと思い、まずは紫様も一目置いている紅白巫女……霊夢の神社までやって来たんだが。
「すか~、すー」
恐らくは掃除の途中だったのだろう竹箒をほったらかして、軒先で涎を垂らして何ともだらしなく昼寝している紅白を見ていると、尋ねに来た相手を間違えた感がひしひしとするのは……私の気のせいだろうか。
その時不意に、私の頭の中に『類は友を呼ぶ』という言葉が浮かんだ。
そういえばこの紅白は、月の異変の時に紫様と組んでいた事さえあったな。
……他を当たるか……。
そう思った時、むっくりと霊夢が起き上がった。
「んー! あー良く寝た。あら、紫のとこの狐じゃない。何の用よ?」
「あ。別に大した様じゃないんだが……とりあえず、涎くらいは拭いた方が良いと思うぞ」
こんな様子を見ていると、かつてこんなのに負けた自分が情けなくなってくるな……。
「え? あー」
その言葉に袖口で涎を拭う。あーあーあ、シミになっても知らんぞ……。
まあ折角来た事だ、聞くだけなら只だし聞いてみるか。それに仮にも巫女だ。禊なり儀式なりで、それなりにはやっているだろうし。
「実は一つ相談したい事があってな。紫様と橙の事について……」
「へー。まあ掃除の途中だけど面白そうだから聞いてあげるわよ。で、なんなの?」
好奇心以外には何も感じ取れないような、楽しそうな目でこちらを見てくる紅白。
……流石に身内の恥をさらすのは抵抗があるな……ええい、聞くは一時の恥だ。大体、このまま放置して終いには『服を着るのも面倒になったわ、藍~』などとおっしゃられたら目も当てられない。
……自分で想像してみて、ありえないとも言い切れず怖くなったが。
「おほん。実は我が家では橙や紫様を風呂に入れるのに難儀している訳なんだが、それに対して何か良い解決作は無いだろうが、と思ってな……」
そうして、橙の水嫌いと紫様の風呂不精(別に紫様の場合は、風呂に限らず寝る事以外は不精だが)について軽く説明する。
「でだ。人間の女子は基本的に毎日風呂に入っているだろうし、何か良い解決法は無いかと思って訪ねに来た訳なんだが……って、なんでこっちを見ない?」
話の途中で、何故か霊夢は困ったように髪をかきあげながら目を逸らした。
そして、バツの悪そうに私の方を向く。
「あー。あのさ、期待してるところ悪いんだけど私もそんな風呂好きじゃないわよ。二日に一回、魔理沙の所に風呂に行くだけだし」
…………は?
いや、待て。女子の中でもその程度の回数の者はそりゃいるだろう。別に平均より回数が少ないからと言ってどうこういうつもりは『普通の人間に対して』なら私もないぞ。
「こらこらこら、お前は巫女じゃないのか!? 巫女は常に体を清めておくの位、常識だろう! 大体他人の家に風呂に入りに行くって、ここの神社に風呂は無いのか!?」
「別に毎日入んなくたって大丈夫だし。それにねー、お風呂はあるんだけど、使ったら洗わなきゃいけないでしょ。魔理沙の所だったら露天だから洗わないでも良いし」
こりゃ……駄目だ。流石は紫様と対等に付き合えるだけの事はある。
紫様と霊夢の組み合わせをして「だらけ組」などという、極めて不名誉な呼称をあの黒白の魔法使いは付けたそうだが……全くもって否定できない。
「ええい、それでも早朝の禊とかはあるだろうに!」
「早朝~? そんな朝早くなんかには起きないわよ、寝不足は体に悪いって言うし。ああ、でも禊はやるわね、くそ暑い夏場の真昼間とか限定だけど」
それは禊とは言わん! というつっこみを入れる気もなくなった。どうやら博麗霊夢というのは、本格的に『巫女』というよりも『紅白』らしい。
これ以上の話は無意味と悟り、縁側から立ち上がる。
ああ、完膚なきまでに時間の無駄だった。
「あらもう帰るの?」
「聞きに来る相手を間違えたらしい。他を当たるわよ……」
そうしてさっさと神社を出ようとすると、後ろから声を呼び止められる。
「ただねー、猫の方はさておくとしても紫の不精は絶対にどうにもならないわよ。永遠亭の薬師呼んだって無駄だと思うけど」
「ええいやかましい! 私の主人を悪く言うんじゃない!!」
本当の事だけに他人に言われると余計に腹が立つ。
『そんな事ない』と言えないあたりが、紫様の式としては何とも悲しいが。
「さて。次はどこに向かった物か。どちらもさっきの紅白よりはまともだと信じたいが……お」
思案しながら人間の里の上空を飛んで行た時だった。
恐らく買出しなのだろう、二つ三つの袋を持って飛ぶ犬メイドの姿。
ただ正直な所、私はこのメイドは苦手だ。犬は全般的に苦手な私だが、犬っぽい人間もどうやら同じらしい。そんな事を考えていると、いつの間にかメイドは私の前までやって来ていた。どうせまた時間でも止めたんだろうか。
「おぉっと。変な移動の仕方をしないで貰いたいな、人間かどうか今一良く分からないの」
「失礼ね、ちゃんとした人間よ。で、私に何か用かしら?」
用なら無論……と口を開こうとして、ふと思った。
確かこのメイドは悪魔の従者だったはずだ。向こうもそう思っているだろうが、誰かに仕える者にとって、自分の恥は主の恥でもある。
まあ少なくともこのメイドはそのように見るだろう。物を訪ねに来て挨拶も碌にしないのでは、後で私だけでなく紫様まで笑われるもんだ。というか私だったら笑う、間違いなく。そして橙に
『いいか? 自分の恥は主人の恥にもなるんだ。だから、常日頃から行動には気をつけるようにな』などと教えるだろう。
「おほん。これは失礼した……紅魔館の従者頭である十六夜咲夜殿とお見受けするが相違ないだろうか? 我が名は、八雲紫様の式で八雲藍。十六夜殿の知恵を拝借したい事がありお屋敷に向う途中でお会いした次第。こちらの礼を失する発言があった事をお詫び申し上げる」
そう言って帽子を取り礼をする。耳がはっきりと見えるが、まあ仕方が無い(人前で耳を見せるのは恥ずかしいんだ……)
私の挨拶に一瞬面食らったようになったメイドだったが、すぐにこちらの意図を理解したのだろう。
「いいえ。こちらも急に眼前に立つ失礼を致しまして申し訳ございません。我が主人レミリアお嬢様の側近で、メイド長の十六夜咲夜でございます。それで本日はどのようなご用向きで?」
流石というか、一瞬で合わせてきた。
そして。
「……ぷ……ははははは!」
「今さらこんな挨拶したってねぇ……ふふ」
見事に同時に噴き出した。
そりゃそうだ、こういうのは初対面でやるもんだろう。そして、初対面が弾幕ごっこだった以上、今さら無意味だ。何となくノリでやってみたが、これほど間抜けな物も無い。付き合ってくれたメイドの方に感謝しよう。
「いや、馬鹿やってすまん。まあ帰り道の道中で構わないから話を聞いてくれたら助かるんだが。後、荷物持ち位なら手伝おう」
帽子を被りなおして、再度尋ねる。当然さっきまでのはもうやめだ。
「別にその位なら構わないわよ。ただまあ、持ってくれるっていうならありがたくお願いするわ」
それからさっきのは中々面白い冗談だったわよ、と笑いながら言ってくる。どうやら瀟洒な見かけ通り洒落も十分に通用するらしい。……まあ字も似てるからなぁ。
とりあえず荷を半分持ち、里から遠ざかる。
「で、話って?」
「ああ、別に大事な訳じゃあ無い。実は……主人の風呂嫌いについての解決法は無い物かと思って思案していてな。何か良い方法でもあればと思って尋ねに来た訳なんだが……」
その言葉の途中で、私はある事に気が付いた。
紅魔館の主レミリア・スカーレットは吸血鬼だ。……考えてみたら、流水がダメな吸血鬼の主人が風呂好きな訳が無いじゃないか。別に流水じゃないから、入ることはできるだろうが……。
「水が苦手なのを無理にお連れする訳にも行かないでしょう。私ができるのは、お嬢様にそれとなく促す事だけよ。ただそれでも、お嬢様は週の半分は確実にお入りになるから私は困らないけれどね」
ほぉ、それは凄い。一体どんな風に促して水嫌いの主人を風呂に連れて行ってるのかは、興味があるな。上手くすれば紫様や橙にも応用が効くかもしれん。
「一体どんな風に促すんだ?」
別に私としてはさらっと尋ねたつもりだったが、何故かメイドは顔を赤くさせた。
ん? なんだ、どうした?
<後編に続く~>
しかし霊夢よ、二日に一回は巫女としてどうかと思うぞ。
しかも魔理沙の家に・・・!!まさか一緒にはいtt(夢想封印)
後半の咲夜さんの話期待してまってます。
というか、後ー編ー!!
楽しみにしてますわ♪
すいませんすいませんすいません、長らくお待たせしました、本当ごめんなさい(汗汗汗)
「買い出し」の方が良い気がします。てことで後編読んできますね。