なんでもない午後のひととき。
「チルノさん。私が思うに」
ふと、氷イチゴを食べていた冬の妖怪・レティが氷の妖精・チルノにいった。
「あんたは注意深さがたりないわね」
「なにさ?」ブルーハワイを食べていたチルノが、唇をまっさおにしながらいった。「どこがそうだっていうのよ!」
たとえば、とレティ。
「こないだは氷風呂だと思ってうっかり湯風呂に飛び込んで、溶けそうだったじゃあないの」
「あ、あれは……っ、そう、ガマン強さをきたえたのよっ!」
「へぇぇ? その前は、カエルだと思って大妖精を氷漬けにしたりしてたわよねぇ」
「あ、あれはっ……しょうがないでしょ、同じような色してるんだからっ!」
やれやれ、と言いたげに肩をすくめたレティ。「どうやら、口で言ってもわからないようね」
「だったら」チルノ。「どうするって?」
「決まってるじゃあないの」レティ、氷点下の微笑。「コレ――よ」
寒気が冷気と衝突して渦を巻き、数え切れないほどの氷の粒となって、飛散した。
「――ちぇっ! 不意打ちとは、こずるいマネ!」
あやうく初弾をかわしたチルノは、もうもうと立ち込める霧に身をひそめ、毒づいた。
「ええぃ――邪魔くさいのよ!」
一声吼えるや、氷精はグルグルと回転し、周囲の靄を吹き散らした。
と、とたんに四方八方から殺到してくる寒気の塊。
「ちくしょうっ」
罵って、すんでで避けるチルノ。
「ひきょうよっ! 出てきなさいよっ!!」
『だから』
東から。
『あんたは』
西から。
『思慮がたりないって言うのよ』
南から。
「!!」
北からは、声ならぬ、礫。
「くううっ」
間一髪で回避はしたが、いったい敵がどこにいるやら、とんとわからぬ。
(どうなってるのよっ)
しかしそのとき、チルノは翻然と悟った。
「! まさか、レティ、あんた……」
『気づいたかしら?』
「そうか……四つ子だったのねっ!!」
『……やっぱりあんたは、もうちょっと痛い目を見たほうが良さそうね』
はらり。はらり。
蒼々と降りしきってくる雪粒。
「なによこれ、こんなもんお前……ううっ!?」
雪片にふれたチルノ、思わず悲鳴をあげて地面に倒れた。
なんとなればこれらの雪は超低温ゆえ、氷精すらも凍てつかせるほどであったがゆえに。
「うぐぐぐう~~……」
次第に雪が降り積もり、力を奪われていく。
万事休す! 氷精チルノ敗れたり!
と、彼女の味覚が、奇妙なものをとらえた。
「! そうか……見破った!!」
チルノ、雄たけびあげて飛び上がるや、みずから巨大な氷柱と化し、
「てっ!」
地面へと突き刺さった。
『痛っ!』
叫んだ声は大地にあらず――冬の妖、レティのものに他ならなかった。
「……よく、気づいたわね」
下っ腹をおさえながら、しかめっ面のレティ。
「地面を舐めたら」チルノ得意顔。「イチゴ味がしたからねぇ」
なるほど、とレティ。「……おやつの前に仕掛けるべきだったわね」
さよう、チルノが迷い込んでいたのはレティの体内であった。
冬の化身ならではのまやかしであったが、チルノの舌に軍配が上がったというわけ。
「少しはわかったかしら? やみくもに暴れるだけじゃあなくて、時には身をかがめて、時を待つのも肝要ってことよ」
と説教してやろうというレティの魂胆も、一本取られたうえは言えたものではない。
「さっ、あたしが勝ったんだから、カキ氷おごってよね」
「さっき食べたばっかりじゃあないの」
「食べたいんだからしょうがないでしょっ」
やれやれ、とレティはぼやいた。またぞろ、腹をくだしても知らないわよ、と。
「まっ」
チルノ、意地悪い笑みで振り向き、
「気の毒なあんたにも、半分わけてあげるわよ――」
おやおや、とレティはつぶやいた。
なんでもない、午後のひととき。
春まだ遠い、冬の一日。
「チルノさん。私が思うに」
ふと、氷イチゴを食べていた冬の妖怪・レティが氷の妖精・チルノにいった。
「あんたは注意深さがたりないわね」
「なにさ?」ブルーハワイを食べていたチルノが、唇をまっさおにしながらいった。「どこがそうだっていうのよ!」
たとえば、とレティ。
「こないだは氷風呂だと思ってうっかり湯風呂に飛び込んで、溶けそうだったじゃあないの」
「あ、あれは……っ、そう、ガマン強さをきたえたのよっ!」
「へぇぇ? その前は、カエルだと思って大妖精を氷漬けにしたりしてたわよねぇ」
「あ、あれはっ……しょうがないでしょ、同じような色してるんだからっ!」
やれやれ、と言いたげに肩をすくめたレティ。「どうやら、口で言ってもわからないようね」
「だったら」チルノ。「どうするって?」
「決まってるじゃあないの」レティ、氷点下の微笑。「コレ――よ」
寒気が冷気と衝突して渦を巻き、数え切れないほどの氷の粒となって、飛散した。
「――ちぇっ! 不意打ちとは、こずるいマネ!」
あやうく初弾をかわしたチルノは、もうもうと立ち込める霧に身をひそめ、毒づいた。
「ええぃ――邪魔くさいのよ!」
一声吼えるや、氷精はグルグルと回転し、周囲の靄を吹き散らした。
と、とたんに四方八方から殺到してくる寒気の塊。
「ちくしょうっ」
罵って、すんでで避けるチルノ。
「ひきょうよっ! 出てきなさいよっ!!」
『だから』
東から。
『あんたは』
西から。
『思慮がたりないって言うのよ』
南から。
「!!」
北からは、声ならぬ、礫。
「くううっ」
間一髪で回避はしたが、いったい敵がどこにいるやら、とんとわからぬ。
(どうなってるのよっ)
しかしそのとき、チルノは翻然と悟った。
「! まさか、レティ、あんた……」
『気づいたかしら?』
「そうか……四つ子だったのねっ!!」
『……やっぱりあんたは、もうちょっと痛い目を見たほうが良さそうね』
はらり。はらり。
蒼々と降りしきってくる雪粒。
「なによこれ、こんなもんお前……ううっ!?」
雪片にふれたチルノ、思わず悲鳴をあげて地面に倒れた。
なんとなればこれらの雪は超低温ゆえ、氷精すらも凍てつかせるほどであったがゆえに。
「うぐぐぐう~~……」
次第に雪が降り積もり、力を奪われていく。
万事休す! 氷精チルノ敗れたり!
と、彼女の味覚が、奇妙なものをとらえた。
「! そうか……見破った!!」
チルノ、雄たけびあげて飛び上がるや、みずから巨大な氷柱と化し、
「てっ!」
地面へと突き刺さった。
『痛っ!』
叫んだ声は大地にあらず――冬の妖、レティのものに他ならなかった。
「……よく、気づいたわね」
下っ腹をおさえながら、しかめっ面のレティ。
「地面を舐めたら」チルノ得意顔。「イチゴ味がしたからねぇ」
なるほど、とレティ。「……おやつの前に仕掛けるべきだったわね」
さよう、チルノが迷い込んでいたのはレティの体内であった。
冬の化身ならではのまやかしであったが、チルノの舌に軍配が上がったというわけ。
「少しはわかったかしら? やみくもに暴れるだけじゃあなくて、時には身をかがめて、時を待つのも肝要ってことよ」
と説教してやろうというレティの魂胆も、一本取られたうえは言えたものではない。
「さっ、あたしが勝ったんだから、カキ氷おごってよね」
「さっき食べたばっかりじゃあないの」
「食べたいんだからしょうがないでしょっ」
やれやれ、とレティはぼやいた。またぞろ、腹をくだしても知らないわよ、と。
「まっ」
チルノ、意地悪い笑みで振り向き、
「気の毒なあんたにも、半分わけてあげるわよ――」
おやおや、とレティはつぶやいた。
なんでもない、午後のひととき。
春まだ遠い、冬の一日。
それはそれで良いものかもしれません。