咲夜が死んだ。
ある日の夜。フランが暴走し、咲夜を殺した。
フランは泣きながら何度も何度も謝った。
殺してしまった咲夜に……ぴくりとも動かない咲夜を目の前にして呆然としているレミリアに……。
レミリアは泣かなかった。
本当は悲しいはずなのに……本当は泣き崩れたいはずなのに……。決して泣くことはなかった。
レミリアは決してフランを責めなかった。
本当はフランが憎いはずなのに、逆にフランを抱きしめて、「ごめんなさい。」と、何度も言っていた。
パチュリーは分からなかった。
なぜレミリアがあの時あれだけ冷静でいられたのかが。
パチュリーは知りたかった。
その理由を……レミリアの心境を……。
あの悪夢の夜から一週間。
パチュリーはレミリアの部屋を訪れた。
理由を知るために、レミリアの心境を知るために、こんな質問をしてみた。
「ねえレミィ、もしあの夜をやり直せたらどうする?」
単純な質問だ。だが今の彼女の心境を探るには最も適した質問だろう。
レミリアは咲夜の形見である懐中時計を見つめながら言った。
「私が咲夜を殺すわ。フランが咲夜を殺す前に。」
意外な答えが返ってきた。普通なら「何を言ってるんだこいつ。」と、なるだろう。
だがあえてパチュリーは次の質問を出した。
「咲夜を助けたりはしないの?」
「咲夜は助からないわ、なぜならすでに死の運命が見えていたから。」
「あなたの能力で死の運命を変えられないの?」
「パチェは運命を誤解しているようね。」
レミリアは懐中時計をしまい、一本の二mくらいの紅い紐を取り出した。
「この紅い紐が咲夜の運命だとするわ。」
レミリアは紅い紐を真っ直ぐ伸ばして、机の上においた。
「運命は誕生から始まるわ。この紐で言うと右端の部分ね。そしてその後はこの紐に沿って人生を歩んでいくわ。でも。」
レミリアは真っ直ぐ伸ばしていた紅い紐を少しぐちゃぐちゃにした。
「人生いろいろなことが起きるわ。でももしこの紐を動かすことができたらその人の人生は変わる。それが私の能力よ。」
「それなら咲夜の運命の紐を動かして死ななかったっていう運命が作れたんじゃないの?」
レミリアは首を横に振った。違うという意味だろう。
「確かにそうなるわ。でもそれは「死」という運命がこの紐の途中にあったらの話よ。ねえパチェ、生命が最後に迎える運命は何?」
生命の最後の運命。答えは簡単だった。
「死……かしら?」
「その通り、「死」よ。死は生物が必ずしも迎える最後の運命よ。」
「でも蓬莱人は死を迎えないわよ。」
「蓬莱人だって最後に待っている運命は「死」よ。でも彼女らは「蓬莱の薬」を服用したために、この紐を進めなくなったのよ。彼女たちは「死」という運命の最終地点に一生たどりつけないの。」
そう考えると、不老不死になることは一番の苦しみなのかもしれない。
「「死」はこの紐の端なのよ。私の能力は「死」に向かうまでの道なら変えられるけど、「死」が最終地点になることと、紐の長さを変えることはできないの。」
「つまり咲夜はあの日あの時間に死ぬって決まってたってこと。」
そこまで運命とは非情なものだったのか。
「その通りよパチェ。咲夜はあの日あの時間に運命の紐の最終地点に……「死」という運命にたどり着いたのよ。人は生まれたときにはもう紐の長さが決まっているの。咲夜の紐はあまりにも短すぎたんだわ。」
「じゃああの日レミィは咲夜の「死」が見えていたの。」
「ええ、見えていたわ。紅茶を入れに来た咲夜にはっきりと死の運命が。私があの時できたのは死に方の変更だけ。」
レミリアはもう一度懐中時計を取り出す。
「だからこそ、咲夜を殺す役割をフランにやってほしくなかった。フランの悲しい顔なんて見たくなかった。」
やっとパチュリーは理解できた。
なぜあの時レミリアは冷静でいられたのか?それは咲夜の「死」を知ってしまっていたから。
なぜあの時フランを責めずに、逆に「ごめんなさい。」と謝ったのか?それは咲夜を死の運命へといざなう役割をフランに負わせてしまったから。
「私は出来なかった。咲夜を殺すことなんて……、そのせいでフランがその役割を負ってしまった。それが悔しくて……。」
レミリアは泣きかけていた。でも泣かない。泣くわけにはいかない。泣いたところでどうなるものでもないから。
「レミィ、泣いていいのよ。咲夜の死を、あの日の後悔を。」
パチュリーのその言葉でレミリアの涙は一気に溢れ出した。
そして誰よりも静かに、誰よりも激しく、誰よりも長く泣いた。咲夜の「死」を
、あの日の後悔を。
運命とは非情だ。行き方は変更できても、長さと到達地点は変えられない。分かれ道があって、それを右に進んだのと左に進んだのでは、その先の運命は全く違うものになる。しかし運命の最終到達地点、死を迎えた人は分かれ道を右に行っても左に行っても「死」を迎えることになる。
「ねえパチェ。」
涙がかれるまで泣き続けたレミリアは、パチュリーにこんな質問をしてみた。
「もし咲夜が私たちと会わなかったら、あの日あの時間にどういう「死」を迎えたんだろう。」
「それは誰にも分からないわ。でももしかしたら、咲夜の運命は「私たちに出会う」という運命までは、一方通行だったのかもしれないわね。」
何年も前、吸血鬼ハンターとしてレミリアのところへ来た咲夜。もしかしたら咲夜は、それ以外の運命の道。運命の分かれ道が存在していなかったのかもしれない。レミリアに出会い、メイド長として紅魔館で働き、そして死ぬ。それが咲夜に用意されたたった一つの運命だったのかも知れない。
もし散歩をしていて、分かれ道を見つけ、どちらにいくか迷ったら、それはあなたの人生の分かれ道だと思ってほしい。
右に行けば右に行った運命が待っている。左に行けば左に行った運命が待っている。
そう考えると、なんだか人生が面白くなっては来ないだろうか。
ある日の夜。フランが暴走し、咲夜を殺した。
フランは泣きながら何度も何度も謝った。
殺してしまった咲夜に……ぴくりとも動かない咲夜を目の前にして呆然としているレミリアに……。
レミリアは泣かなかった。
本当は悲しいはずなのに……本当は泣き崩れたいはずなのに……。決して泣くことはなかった。
レミリアは決してフランを責めなかった。
本当はフランが憎いはずなのに、逆にフランを抱きしめて、「ごめんなさい。」と、何度も言っていた。
パチュリーは分からなかった。
なぜレミリアがあの時あれだけ冷静でいられたのかが。
パチュリーは知りたかった。
その理由を……レミリアの心境を……。
あの悪夢の夜から一週間。
パチュリーはレミリアの部屋を訪れた。
理由を知るために、レミリアの心境を知るために、こんな質問をしてみた。
「ねえレミィ、もしあの夜をやり直せたらどうする?」
単純な質問だ。だが今の彼女の心境を探るには最も適した質問だろう。
レミリアは咲夜の形見である懐中時計を見つめながら言った。
「私が咲夜を殺すわ。フランが咲夜を殺す前に。」
意外な答えが返ってきた。普通なら「何を言ってるんだこいつ。」と、なるだろう。
だがあえてパチュリーは次の質問を出した。
「咲夜を助けたりはしないの?」
「咲夜は助からないわ、なぜならすでに死の運命が見えていたから。」
「あなたの能力で死の運命を変えられないの?」
「パチェは運命を誤解しているようね。」
レミリアは懐中時計をしまい、一本の二mくらいの紅い紐を取り出した。
「この紅い紐が咲夜の運命だとするわ。」
レミリアは紅い紐を真っ直ぐ伸ばして、机の上においた。
「運命は誕生から始まるわ。この紐で言うと右端の部分ね。そしてその後はこの紐に沿って人生を歩んでいくわ。でも。」
レミリアは真っ直ぐ伸ばしていた紅い紐を少しぐちゃぐちゃにした。
「人生いろいろなことが起きるわ。でももしこの紐を動かすことができたらその人の人生は変わる。それが私の能力よ。」
「それなら咲夜の運命の紐を動かして死ななかったっていう運命が作れたんじゃないの?」
レミリアは首を横に振った。違うという意味だろう。
「確かにそうなるわ。でもそれは「死」という運命がこの紐の途中にあったらの話よ。ねえパチェ、生命が最後に迎える運命は何?」
生命の最後の運命。答えは簡単だった。
「死……かしら?」
「その通り、「死」よ。死は生物が必ずしも迎える最後の運命よ。」
「でも蓬莱人は死を迎えないわよ。」
「蓬莱人だって最後に待っている運命は「死」よ。でも彼女らは「蓬莱の薬」を服用したために、この紐を進めなくなったのよ。彼女たちは「死」という運命の最終地点に一生たどりつけないの。」
そう考えると、不老不死になることは一番の苦しみなのかもしれない。
「「死」はこの紐の端なのよ。私の能力は「死」に向かうまでの道なら変えられるけど、「死」が最終地点になることと、紐の長さを変えることはできないの。」
「つまり咲夜はあの日あの時間に死ぬって決まってたってこと。」
そこまで運命とは非情なものだったのか。
「その通りよパチェ。咲夜はあの日あの時間に運命の紐の最終地点に……「死」という運命にたどり着いたのよ。人は生まれたときにはもう紐の長さが決まっているの。咲夜の紐はあまりにも短すぎたんだわ。」
「じゃああの日レミィは咲夜の「死」が見えていたの。」
「ええ、見えていたわ。紅茶を入れに来た咲夜にはっきりと死の運命が。私があの時できたのは死に方の変更だけ。」
レミリアはもう一度懐中時計を取り出す。
「だからこそ、咲夜を殺す役割をフランにやってほしくなかった。フランの悲しい顔なんて見たくなかった。」
やっとパチュリーは理解できた。
なぜあの時レミリアは冷静でいられたのか?それは咲夜の「死」を知ってしまっていたから。
なぜあの時フランを責めずに、逆に「ごめんなさい。」と謝ったのか?それは咲夜を死の運命へといざなう役割をフランに負わせてしまったから。
「私は出来なかった。咲夜を殺すことなんて……、そのせいでフランがその役割を負ってしまった。それが悔しくて……。」
レミリアは泣きかけていた。でも泣かない。泣くわけにはいかない。泣いたところでどうなるものでもないから。
「レミィ、泣いていいのよ。咲夜の死を、あの日の後悔を。」
パチュリーのその言葉でレミリアの涙は一気に溢れ出した。
そして誰よりも静かに、誰よりも激しく、誰よりも長く泣いた。咲夜の「死」を
、あの日の後悔を。
運命とは非情だ。行き方は変更できても、長さと到達地点は変えられない。分かれ道があって、それを右に進んだのと左に進んだのでは、その先の運命は全く違うものになる。しかし運命の最終到達地点、死を迎えた人は分かれ道を右に行っても左に行っても「死」を迎えることになる。
「ねえパチェ。」
涙がかれるまで泣き続けたレミリアは、パチュリーにこんな質問をしてみた。
「もし咲夜が私たちと会わなかったら、あの日あの時間にどういう「死」を迎えたんだろう。」
「それは誰にも分からないわ。でももしかしたら、咲夜の運命は「私たちに出会う」という運命までは、一方通行だったのかもしれないわね。」
何年も前、吸血鬼ハンターとしてレミリアのところへ来た咲夜。もしかしたら咲夜は、それ以外の運命の道。運命の分かれ道が存在していなかったのかもしれない。レミリアに出会い、メイド長として紅魔館で働き、そして死ぬ。それが咲夜に用意されたたった一つの運命だったのかも知れない。
もし散歩をしていて、分かれ道を見つけ、どちらにいくか迷ったら、それはあなたの人生の分かれ道だと思ってほしい。
右に行けば右に行った運命が待っている。左に行けば左に行った運命が待っている。
そう考えると、なんだか人生が面白くなっては来ないだろうか。
最後の文には共感。
題材さえ良ければ、いくらでもいいSSが書けるのでは、と思いました。
キャラクターを殺せば、シリアスになるという安易な考えから書いたような印象を受けました。
「運命」というテーマを扱うにしても、もっと他のやり方があったのではないでしょうか。
最後のまとめ方も作者の意見を述べているだけなので、白けてしまいました。
かなり厳しいことを言いましたが、運命についての考察など面白いところもあったので、これからに期待します。
点を入れるのはもったいないな。