稲刈りも無事に終り、豊穣神、秋穣子が一人もくもくとアンポ柿の準備をしている時の事だった。
突然自室に静葉が入ってきて、穣子の目の前で大きな紙片を広げてみせた。
『新発見!!豊穣神、秋穣子を水に一晩漬け込んでおくと次の日には上等な芋焼酎になっている!!』
そうデカデカと書かれた紙片を静葉は穣子の前で広げてニコニコとしている。
「……何コレ?」
書いてある意味等が解らず、穣子は渋柿の皮を剥く作業を止めて、静葉に聞いた。
「ん?穣子ちゃんならコレくらい出来るでしょ?」
「いやいや、意味わかんないから、どういう原理で私が入っただけの水が上物の芋焼酎になるのよ?」
「……それはほら穣子ちゃんから神様的な汁が出て水をお酒に変えるのよ」
「お姉ちゃん、汁とか言わないで卑猥だから」
「じゃあエキス?……穣子エキスよりも穣子汁の方が語呂がいいと思うなお姉ちゃんは」
「いやいやいや、語呂とかどうでもいいから、お姉ちゃん落ち着いて聞いて?」
「何?」
「そもそもその発想が何なのよ?どうしたのいきなり?」
自分の知る姉はこんな斜め上の発想の持ち主ではなかった。
静かに紅葉を眺めるのが好きな地味な性格の大人しい姉だった、はずだ。
とりあえず、突飛にこんな変な事をやる人物でなかったのは確かだ。
「だって穣子ちゃん今年は天候不良で作物が上手く実らなかったでしょう、お米とか特に」
「……まぁね」
確かに静葉の言う通り、今年は水が必要な時に日照りが続いたり、突然寒くなったり
いざ収穫だ!という時期に長雨が続いたりで例年になく稲の生育、作物の生育が思わしくない状態だった。
人間達に頼まれて作物や稲の生育を確認に行く度に、突き刺さる様な視線を向けられていたのも事実である。
自分の力が及ばず、『豊穣の神のくせに……』という言葉が聞こえてきた時もあった。
「それじゃあ、ただでさえ味噌っかすみたいだった信仰がまた減っちゃうわ」
「アンタもあんまり変わらないじゃない、むしろ私より低いくせに……」
姉の上から目線にイラっとする。
「だからそんな哀れな穣子ちゃんのために考えたの」
「聞いちゃいねぇ……」
「穣子ちゃん聞きたい?」
「聞きたくない」
「そうそんなに聞きたいのね?」
「聞けよ!」
「ふっふっふ、信仰の薄い穣子ちゃんのためにお姉ちゃんは考えたのです」
「……」
穣子は何だかもうどうでも良くなってきて、止めていた手を動かし始めた。
一先ず、後十個皮を剥いたら夕飯の支度をしよう。
「穣子ちゃんの人気を増やして、穣子ちゃんが多くの人に信仰されるようにしよう!ってね」
「…………」
夕飯は何がいいだろうか?
ハロウィンとか言う祭りが近いせいか南瓜の中身がやたらと奉納されてきた。
何だか厄介払いみたいな気もするが甘露煮にでもしよう、甘めに煮込んだホクホクの南瓜は美味しい。
あとは茄子の味噌汁もいいな、茄子のしょうが焼きとか、今日はそのメニューでいこう。
穣子は静葉の言葉を聞き流しながら夕飯の献立を決めていた。
「その一歩がコレなのよ」
ソレに気が付いていないのかそれとも見ぬフリをしているのか、静葉は気にせず語り続ける。
『新発見!!豊穣神、秋穣子を水に一晩漬け込んでおくと次の日には上等な芋焼酎になっている!!』
「………………」
今年は秋の天候がおかしかった、極端に暑かったり、極端に寒くなったりだった。
きっとそのせいで姉の頭もイカれたに違いない。
穣子はそう結論した。
「嬉しさのあまり声もでないのね?安心してコレで穣子ちゃんは人気者よ、幻想郷の人たちは皆お酒好き
だからきっと、多くの人がこの穣子汁を買いに来てくれるわ」
「お姉ちゃん大丈夫、頭?あと汁は止めてっていってるでしょ!」
「……もしかして、気に入らなかった、でもコレは穣子ちゃんの信仰を得るためなのよ!」
「お姉ちゃん 私 そういう変な事で 得られる信仰 いらない」
「……そっか、じゃあ第二案にしましょう」
「まだあるの!?」
「これはね自信作よ、山の頂上にいる早苗ちゃんと相談して決めたのよ」
フフンと胸を張る静葉、しかし早苗の名前が出た瞬間に穣子はもう嫌な予感しかしなかった。
「何でだろう、もう嫌な予感しかしないよお姉ちゃん」
妹の不安そうな声を姉は聞き流す。
「ふふ、見て驚きなさい」
不敵に笑い、静葉は新たな紙片を広げる。
『豊穣の神、秋穣子のおしっこは上等な麦酒だった!!』
室内にパン!、と乾いた大きな音が響いた。
その件を見た瞬間、穣子は条件反射で姉を叩いていた。
「……何をするの、いきなり叩く何て今までなかったのに反抗期?」
「そうね、反抗期でいいわ、叩いてお姉ちゃんの頭が直るなら何回でも叩くわよ私は」
「そ、そんなに気にいらない?早苗ちゃんと考えた時は凄い事思いついたって、二人で話してたのに……」
そうだろうとも、確かに凄い事を思いついたと思うよ……
ベクトルが斜め上で変態的な凄い事を!!
「ねぇ馬鹿なの?死ぬの?どこの世界に自分のおしっこがビールって言われて喜ぶ奴がいるの!?」
「……そう、だよね、……ごめんね」
叩かれた頬を押さえて、静葉はその場に座り込んで俯いた。
叩いたのは少しやりすぎたかもしれない。
普段は良い姉なのだ、今回だって内容はアレだが、自分の事を考えての事だ。
目に涙を溜めて俯く静葉に思わず罪悪感を感じてしまった。
「お姉ちゃんの心配してくれる気持ちは嫌じゃないけど、……少しは常識で考えてよ、お姉ちゃんらしくないよ」
「幻想郷では常識に囚われてはいけないのです!!」
常識という言葉に反応して、パッと顔を上げて静葉はどや顔で言った。
どうやら俯いていた時に見えたと思った涙は見間違いだったようだ。
意外と余裕があって腹が立つ。
「それアンタのキャラじゃないでしょ?ふざけているとはったおすわよ?」
「ごめんなさい、そうよね……、おしっこが麦酒だなんて嫌よね、女の子だもんね」
「……女の子云々以前の問題だと私は思うわ」
「うん、私が間違っていたわ……」
「……まぁ解ってくれればいいわよ」
どうやら正気に戻ったのだろう(多分)。
とりあえず、変な事を姉に吹き込んだ現人神に文句でも言いに行こう。
そう考えていた穣子に静葉は続ける。
「女の子だもんね、麦酒よりもオシャレな葡萄酒がいいわよね」
「何一つ解ってねぇよ!!」
前言撤回!
何一つ理解してない上に何一つ変わっていない。
「でもコレも穣子ちゃんの信仰を上げるためなのよ!!」
バンとテーブルを叩き叫ぶ静葉、衝撃で柿が宙に舞う。
「何でそこで逆ギレすんの!?こんな事で得られる信仰なんていらないってさっき言ったでしょ!!」
「じゃあどうするの!?一生日陰者でいいの!?お姉ちゃんは穣子ちゃんには幸せになって貰いたいだけなんだよ!?」
「アンタも私と信仰そんなに変わんないでしょ!?むしろ私より低いんだからお姉ちゃんがやればいいじゃない!!」
「え?」
穣子の叫びに静葉は少し考えてから真顔で穣子に言った。
「嫌よこんなの恥かしい」
「ぶっ殺すぞコノヤロー!!!」
Fin
突然自室に静葉が入ってきて、穣子の目の前で大きな紙片を広げてみせた。
『新発見!!豊穣神、秋穣子を水に一晩漬け込んでおくと次の日には上等な芋焼酎になっている!!』
そうデカデカと書かれた紙片を静葉は穣子の前で広げてニコニコとしている。
「……何コレ?」
書いてある意味等が解らず、穣子は渋柿の皮を剥く作業を止めて、静葉に聞いた。
「ん?穣子ちゃんならコレくらい出来るでしょ?」
「いやいや、意味わかんないから、どういう原理で私が入っただけの水が上物の芋焼酎になるのよ?」
「……それはほら穣子ちゃんから神様的な汁が出て水をお酒に変えるのよ」
「お姉ちゃん、汁とか言わないで卑猥だから」
「じゃあエキス?……穣子エキスよりも穣子汁の方が語呂がいいと思うなお姉ちゃんは」
「いやいやいや、語呂とかどうでもいいから、お姉ちゃん落ち着いて聞いて?」
「何?」
「そもそもその発想が何なのよ?どうしたのいきなり?」
自分の知る姉はこんな斜め上の発想の持ち主ではなかった。
静かに紅葉を眺めるのが好きな地味な性格の大人しい姉だった、はずだ。
とりあえず、突飛にこんな変な事をやる人物でなかったのは確かだ。
「だって穣子ちゃん今年は天候不良で作物が上手く実らなかったでしょう、お米とか特に」
「……まぁね」
確かに静葉の言う通り、今年は水が必要な時に日照りが続いたり、突然寒くなったり
いざ収穫だ!という時期に長雨が続いたりで例年になく稲の生育、作物の生育が思わしくない状態だった。
人間達に頼まれて作物や稲の生育を確認に行く度に、突き刺さる様な視線を向けられていたのも事実である。
自分の力が及ばず、『豊穣の神のくせに……』という言葉が聞こえてきた時もあった。
「それじゃあ、ただでさえ味噌っかすみたいだった信仰がまた減っちゃうわ」
「アンタもあんまり変わらないじゃない、むしろ私より低いくせに……」
姉の上から目線にイラっとする。
「だからそんな哀れな穣子ちゃんのために考えたの」
「聞いちゃいねぇ……」
「穣子ちゃん聞きたい?」
「聞きたくない」
「そうそんなに聞きたいのね?」
「聞けよ!」
「ふっふっふ、信仰の薄い穣子ちゃんのためにお姉ちゃんは考えたのです」
「……」
穣子は何だかもうどうでも良くなってきて、止めていた手を動かし始めた。
一先ず、後十個皮を剥いたら夕飯の支度をしよう。
「穣子ちゃんの人気を増やして、穣子ちゃんが多くの人に信仰されるようにしよう!ってね」
「…………」
夕飯は何がいいだろうか?
ハロウィンとか言う祭りが近いせいか南瓜の中身がやたらと奉納されてきた。
何だか厄介払いみたいな気もするが甘露煮にでもしよう、甘めに煮込んだホクホクの南瓜は美味しい。
あとは茄子の味噌汁もいいな、茄子のしょうが焼きとか、今日はそのメニューでいこう。
穣子は静葉の言葉を聞き流しながら夕飯の献立を決めていた。
「その一歩がコレなのよ」
ソレに気が付いていないのかそれとも見ぬフリをしているのか、静葉は気にせず語り続ける。
『新発見!!豊穣神、秋穣子を水に一晩漬け込んでおくと次の日には上等な芋焼酎になっている!!』
「………………」
今年は秋の天候がおかしかった、極端に暑かったり、極端に寒くなったりだった。
きっとそのせいで姉の頭もイカれたに違いない。
穣子はそう結論した。
「嬉しさのあまり声もでないのね?安心してコレで穣子ちゃんは人気者よ、幻想郷の人たちは皆お酒好き
だからきっと、多くの人がこの穣子汁を買いに来てくれるわ」
「お姉ちゃん大丈夫、頭?あと汁は止めてっていってるでしょ!」
「……もしかして、気に入らなかった、でもコレは穣子ちゃんの信仰を得るためなのよ!」
「お姉ちゃん 私 そういう変な事で 得られる信仰 いらない」
「……そっか、じゃあ第二案にしましょう」
「まだあるの!?」
「これはね自信作よ、山の頂上にいる早苗ちゃんと相談して決めたのよ」
フフンと胸を張る静葉、しかし早苗の名前が出た瞬間に穣子はもう嫌な予感しかしなかった。
「何でだろう、もう嫌な予感しかしないよお姉ちゃん」
妹の不安そうな声を姉は聞き流す。
「ふふ、見て驚きなさい」
不敵に笑い、静葉は新たな紙片を広げる。
『豊穣の神、秋穣子のおしっこは上等な麦酒だった!!』
室内にパン!、と乾いた大きな音が響いた。
その件を見た瞬間、穣子は条件反射で姉を叩いていた。
「……何をするの、いきなり叩く何て今までなかったのに反抗期?」
「そうね、反抗期でいいわ、叩いてお姉ちゃんの頭が直るなら何回でも叩くわよ私は」
「そ、そんなに気にいらない?早苗ちゃんと考えた時は凄い事思いついたって、二人で話してたのに……」
そうだろうとも、確かに凄い事を思いついたと思うよ……
ベクトルが斜め上で変態的な凄い事を!!
「ねぇ馬鹿なの?死ぬの?どこの世界に自分のおしっこがビールって言われて喜ぶ奴がいるの!?」
「……そう、だよね、……ごめんね」
叩かれた頬を押さえて、静葉はその場に座り込んで俯いた。
叩いたのは少しやりすぎたかもしれない。
普段は良い姉なのだ、今回だって内容はアレだが、自分の事を考えての事だ。
目に涙を溜めて俯く静葉に思わず罪悪感を感じてしまった。
「お姉ちゃんの心配してくれる気持ちは嫌じゃないけど、……少しは常識で考えてよ、お姉ちゃんらしくないよ」
「幻想郷では常識に囚われてはいけないのです!!」
常識という言葉に反応して、パッと顔を上げて静葉はどや顔で言った。
どうやら俯いていた時に見えたと思った涙は見間違いだったようだ。
意外と余裕があって腹が立つ。
「それアンタのキャラじゃないでしょ?ふざけているとはったおすわよ?」
「ごめんなさい、そうよね……、おしっこが麦酒だなんて嫌よね、女の子だもんね」
「……女の子云々以前の問題だと私は思うわ」
「うん、私が間違っていたわ……」
「……まぁ解ってくれればいいわよ」
どうやら正気に戻ったのだろう(多分)。
とりあえず、変な事を姉に吹き込んだ現人神に文句でも言いに行こう。
そう考えていた穣子に静葉は続ける。
「女の子だもんね、麦酒よりもオシャレな葡萄酒がいいわよね」
「何一つ解ってねぇよ!!」
前言撤回!
何一つ理解してない上に何一つ変わっていない。
「でもコレも穣子ちゃんの信仰を上げるためなのよ!!」
バンとテーブルを叩き叫ぶ静葉、衝撃で柿が宙に舞う。
「何でそこで逆ギレすんの!?こんな事で得られる信仰なんていらないってさっき言ったでしょ!!」
「じゃあどうするの!?一生日陰者でいいの!?お姉ちゃんは穣子ちゃんには幸せになって貰いたいだけなんだよ!?」
「アンタも私と信仰そんなに変わんないでしょ!?むしろ私より低いんだからお姉ちゃんがやればいいじゃない!!」
「え?」
穣子の叫びに静葉は少し考えてから真顔で穣子に言った。
「嫌よこんなの恥かしい」
「ぶっ殺すぞコノヤロー!!!」
Fin
とりあえず稔子汁を1リットルいただこうか
果たして本当に穣子汁が出るのかどうか、検証することからはじめようか……。
それにしてもいい姉じゃないかー
アンポ柿とか時事ネタの不作とか、ツボにはまる表現が素敵。
それにしても静葉さんパネェw
穣子汁…!一体どんな味わいなんだ…?
ともあれタグ通りの静葉さんwww
勢いのある秋姉妹に笑わせていただきました。
ノリと勢いがすさまじくもっと長く読んでいたかった、あと葡萄酒は色がおかしいだろww
ただ私が一番惹かれたのはちょっと別の所。
何て言えばいいんでしょうか、穣子さんの佇まいというか醸し出す雰囲気というか。
ちまちまとあんぽ柿の仕込をする彼女。
人間に捨て台詞を吐かれてしまう彼女。
今日の夕飯の献立に思いを馳せる彼女。
神様なのに凄く小市民的な彼女に、僅かな切なさとほのぼのした想いを抱きました。
おそらくこの物語を拝読した時の私の精神状態がちょっと変だったのでしょう、自分でもずれた感想だと思います。
でもそれで良かった。とても癒されました。
ありがとう穣子様、ありがとう作者様。
葡萄酒よりは色とか泡がリアルな麦酒のほうがいいと思う。
今年は暑かったから頭がアレになっててもしょうがないと思うんだ。
ところで、樽買ってきたんだけど販売会場はどこですか?
穣子汁飲みたい人はここにいるよ!
>「でもコレも稔子の信仰を上げる」
稔子になってますw
お姉ちゃんだって信仰が薄い中で頑張って考案してるんだよ! 諦めなければ尿もお酒になるって!