Coolier - 新生・東方創想話

賢将などと呼ばれている彼女でも、たまには一人静かに呑みたい時もある

2010/10/24 23:19:04
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「ナズーリン、ちょっと探してもらいたいものが……」

「ナズーリン、ちょっとお願いが……」

「ナズーリン、ええと……実はですね……」

「ナズ……」

――ぷちっ―― 









「こんちくしょー!」
 闇夜にナズーリンの絶叫が響き渡る。
「お客さん、もうそのくらいにしといた方が……」
 人里からやや離れたうす暗い道の脇にある一軒の屋台。
 つい感情的に命蓮寺を飛び出してしまったナズーリンは、だからと言ってどこかに行くあてがあるわけでもなく、
 ふらふらと里の近くを飛んでいる途中で見つけたその屋台に転がり込んだ。
 この店の店主であるミスティア・ローレライは、今にも暴れ出しそうな一人の客にほとほと困り果てている。
「……女将、この店はネズミに飲ませる酒はないっていうのかい?」
「いや、もう十分すぎるほど飲んでるじゃないですか……」
 すでに彼女は完全に出来上がっていた。
「まったくもぉウチのご主人ときたら……」
 そういってぐいっと一気に目の前の杯を空ける。
 一見、いつものようにしっかりした口調をしているためまったく酔ってなどいないかのようにも見えるナズーリンだったが、
 顔はほんのりと赤く染まり、先ほどの「こんちくしょー」からの一連の会話はすでに今晩7回目である。
 
「うー、大体だねぇ、私は失せ物係ではなくトレジャーハンターなのだよ。わかるかいキミ? トレジャーをハントらよ?」
「はぁ……」
「確かに宝塔は大切なお宝だ。だがね、一週間に十回以上も無くされてはホントにお宝なのかと疑いたくもなるってもんだよ」
「そ、それは確かに無くす方が悪いですね、うん」
「……何だと……君はウチのご主人が健忘症のポンコツだって言いたいのかい! 失敬な奴だなチミは」
 ナズーリンがペチペチとカウンターを叩く。
「ええ~っ、誰もそんなこと言って無いじゃないですかぁ~」
 先ほどからずっとこのような調子だった。

 このような酒を振る舞う店をしているわりに、実はミスティアは酔っぱらいの扱いにはあまり慣れていなかった。
 妖怪が店主をしているような店にやってくる客は、みな大酒飲みのウワバミばかりであり、
 日本酒の1ガロンや2ガロンでどうにかなってしまうような軟弱な客は皆無である。

 だが本日最初の客は、妖怪には珍しくあまり酒には強くないようだった。

「あの、ホントにもうその変で飲むのをやめといた方が……」 
「なに、酒代なら心配いらないよ。ほら、これを君にあげようじゃないか」
 と、尻尾にぶら下げた籠から小さな箱状の物を取り出してカウンターに置いた。
「なんですかコレ」
「バカだな君は。お宝にきまっているじゃないか。私はトレジャーハンターだよ」
「なるほど」
「まあコレが何なのかはさっぱりわからないんだけどね」
「駄目じゃないですか」
「私はトレジャーハンターであって鑑定士ではないからね」
 なぜか得意そうに薄い胸を張るナズーリン。
「なに礼ならばいらないよ。これを売って蔵でも建てるがいいさ」
 恐らくは外の世界の道具なのだろうが、流石にそこまでのお宝には見えないとミスティアでもわかる。
 酒代にすらなるか怪しいものだった。
「え、何? どうしてもお礼がしたいって? ならば女将……チューしてもいいかい?」
「なんでそうなるんですか」
「いや、だって…………ネズミだからね。うふふふふ……」
 自分の発した言葉が笑いのツボにでもはいったのか、ナズーリンは小さく肩を震わせていた。
「えーと、意味がわからないんですけど」
「実はナズーリンというのは世を忍ぶ仮の姿だったのだよ。なんと私の正体はレズーリンだったのさっ!」
 そう言ってカウンター越しにミスティアの服の端をつかんでグイグイと引っ張る。
「痛いのは最初だけだから」
「何がですか~!」
「とっても楽しい事にきまってるじゃないか」
「いや、あの、他のお客様の迷惑になりますからぁ」
「他の客なんていやしないじゃないか。ふふふ、やっと二人きりになれたね……」
「らめぇぇぇ」
 最初から二人きりである。
 いつもならもう少し賑わっているはずのこの屋台だったが、今日はまだ他の客はいなかった。
(誰でもいいからお客さん早く来て~!)



「あらあら、賑やかね」
 ミスティアの心の叫びが通じたのか、待ち望んだ二組目の客がやってきた。
「あ、いらっしゃいま……せぇ……」
 やっとナズーリンと二人きりの空間から解放されたミスティアは、満面の笑顔で新たな客を迎え……
 ようとしたが、その笑顔が一瞬にして凍りつく。
「今日は紫のおごりだからね~」
「はいはい、でも少しは遠慮して食べてね、幽々子」
(トンデモナイ人たちキターーーー!!)
 やってきた客は、『話をややこしくしたくない時にもっとも来てほしくない妖怪ランキング』(文々。新聞調べ)
 において1位と2位の二人だった。
 ちなみに人間部門の第一位はぶっちぎりで霧雨魔理沙が受賞している。

 正直なところあまりかかわりたくないと思っているミスティアであったが、
 客としてきている以上、邪険に扱うわけにもいかない。
 ましてや相手は超のつく大物二人である。
 万が一にも失礼があってはならない。

「お、お客さん! ちょとだけ、ちょっとだけ大人しくしておいて……ってもういない!!」
 放って置いたら高確率でとんでもなく失礼な事をしでかしそうなナズーリンに一言忠告をするべく、
 彼女が先程まで座っていた場所に目を向けたミスティアであったが、そこにはもうナズーリンの小さな姿は無かった。
「やあやあお姉さん達、とても見事なおっぱいだね!」
「あらあら、可愛いお嬢さんね」
 あろうことか二人の間からひょっこりと顔を出すナズーリン。
「ひぃぃぃぃぃ! すいませんすいませんごめんなさいごめんなさい」
 予想外の出来事に、何故か平謝りしてしまうミスティアだったが、そんなことはお構いなしにナズーリンは絶好調だった。
「女将、何をそんなに謝っているんだね。大丈夫、おっぱいの大きな人に悪い人はいないよ。うちにも一人いるがそれはそれは見事なおっぱいで……」
「おっぱいの話なんてしてません! お二人に失礼ですから早くそこからどいてくださいよぉ」
 この二人の機嫌でも損ねた日には、こんな小さな屋台は店主ごと闇に葬られてしまう。
 その恐怖感から、ミスティアはもうおしっこちびっちゃいそうであった。
「まあまあ。私たちなら別にかまわないわ~」
 と、のんびりとした口調で西行寺幽々子が優雅に微笑んだ。
「でもお触りはだめよ~。私の胸は妖夢専用なの♪」
「あら、じゃあ私のは霊夢専用がいいわ」
「なるほど、大きなおっぱいには夢が詰まっている。そういう事だねっ」 

――HAHAHAHA!!

 アメコミみたいな笑いかたをする三人。
 何故か息ぴったりである。
 それを見て、ナズーリンは「ハハハ……」と小さく乾いた笑いを漏らすしかなかった。
「ふふ、今夜は楽しいお酒になりそうね。ねえ女将さんいつもみたいに歌ってちょうだいな」
「……なんかお腹痛いので今日は勘弁してください……」
「ふ、ならば私が歌おうじゃないか」
 そういってすっくと立ち上がッたナズーリン。
「一番。ナズーリン歌います!」
 パチパチパチ。
 紫と幽々子が適当な手拍子を打つとそれに合わせてナズーリンが腰を振りながら歌い出す。
「チューッ、チューチュチュッ、ナズの~お坊さん~♪」
「なんですかその歌……」
「私のテーマソングだ。覚えておきたまえ」
「すいません、そういうJA●RACに怒られそうなのはやめてください……」
「ふむ、若い子にはちゅーちゅーとれいんの方が良かったかな?」
「ホント勘弁してくださ~い」
 
 そして小さな宴は明け方まで続いた。 






――リン………………ナズーリン……。

 誰かが自分の身体を揺すっている。
 それに気づいたナズーリンが目を覚ますともうだいぶ日が高く昇っているのに気付いた。
「ナズーリン、探しましたよ」
「ご主人か……おはよう、いい朝だね。ちょっと頭が痛いけど」
 ナズーリンの小さな身体を揺さぶっていたのは、彼女の主人である寅丸星である。
「もうお昼も近いですよ。それよりもナズーリン……ええと、その……」
「……昨日の事ならもういいよ。私もついカッとなってしまったが一晩で頭も冷えた」
 起き上がったナズーリンが自分の服についた葉っぱや埃を手で掃いながらふと星に目をやると、
 主人の服装に若干の違和感があることに気がついた。
 着ているものはいつもと同じだが、ずいぶんとうす汚れ、所々が擦り切れている。
「どうしたんだいご主人、その格好は?」
「ああ、これは……」
 すると星は袂から何かを取り出した。
「ほら、今回は自分で宝塔を見つけてきたんですよ」
 誇らしげな表情で取り出したものを頭上に掲げた。
 手の平に乗るほどの特徴的なシルエットを持つそれは……。
「ご主人……それは……」
「見つけるのは大変でした……」
 星はどこか遠くを見つめるような顔になる。
「一晩じゅう飛びまわってやっと今朝見つけたのです。あなたにはいつもこんな苦労をさせていたのですね……」
「いやだからそれは……」
「宝塔は里の中にありました。それを持っていた者は自分のものだと主張して聞かず、不本意ですが戦うはめに……」
 と、星が前髪をかきあげると、そこには大きなタンコブが出来ている。
「中々の強敵でしたが、隙をついて宝塔を取り戻すことに私は成功したのです。一発いいのを貰ってしまいましたが」 
「……それは大変だったね……相手も怒っていただろう」
「まさに盗人猛々しいとはよく言ったものですね。逆切れって奴でしょうか」
(まったくこの人は……)
 ナズーリンは大きくため息をついた。
 この現実をどうやって主人に伝えたらいいのか。
 ナズーリンには即座にいい案は浮かばなかった。

(それは里の慧音先生の帽子だ……ご主人……)

 その一言がなかなかナズーリンには言い出せなかった。
 初めて自力で宝塔を見つけ出した喜びなのか、星の顔には今や自信に充ち溢れた笑みまで浮かんでいる。
 この笑顔でいつもいれば信仰もうなぎ登り間違いなしであろう。
 まあ結局彼女は何も見つけてはいないのだが……。
(しかし……どうやったら間違うんだコレ)
 もしかしたらウチの主人は宝塔の形すら正確に覚えていないのではないか?
 と、二日酔いとは違う頭の痛みを覚えるナズーリンだった。
「どうしました? ナズーリン」
「いや、なんでもないよ。先に命蓮寺に帰っていてくれないかご主人」
「ナズーリンは一緒に帰らないのですか?」
 てっきり自分と一緒に帰るものだと思っていたナズーリンに首をかしげる星。
「ちょっと探し物があってね」
「そうですか……ところで……先程から気になっていたのですが」
「なんだい?」
「あそこに寝ている妖怪はなんで裸なんでしょうか?」
 星が指さした先にいたのは、屋台の脇で何故かほぼ全裸に近い状態で寝ているミスティアだった。
「うん? 昨日私が見たときにはちゃんと服をきていたと思うがね」
 ナズーリンには昨晩の記憶がほとんどなかった。
 自分の痴態を覚えていなかったのはナズーリンにとって幸運だったのかもしれない。
「寝るときには何も着ない派の人なんじゃないかな?」
「なるほど」



「やれやれ」
 命蓮寺の方角へと飛び去っていく星を見送りながら少女はまたため息をつく。
 ナズーリンは屋台のそばに落ちていたダウジングロッドを拾い上げた。
 人里の守護者が命蓮寺に殴りこみをかけてくる前に本物の宝塔を探さねばならない。
「まあ私が何とかするさ。……案外もう来ているかもしれないけど」
 その時はその時である。
 他の皆が時間稼ぎでもしてくれていることを期待しつつ、ナズーリンは幻想郷の空に舞い上がった。
 
「まったく、うちのご主人ときたら。私がいないと駄目なんだから」
 小さなトレジャーハンターは今日も呟く。 
ナズーリンはお酒に弱そうな気がする。
星ちゃんはいつも通り。
そんなお話。
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コメント



0.1640簡易評価
5.80ワレモノ中尉削除
苦労人なナズはいいものですね。
それにしても慧音は不憫だ…。
6.100名前が無い程度の能力削除
みすちーがwww
不憫すぐるww
7.100名前が無い程度の能力削除
女将さんw
8.90爆撃削除
やっぱりみすちーがSSにいるだけで安心しますね。
生きててよかったって思います。
レズーリンで吹きました。
13.100名前が無い程度の能力削除
帽子と申したか
15.100奇声を発する程度の能力削除
みすちーも苦労人やねぇ…
26.無評価see削除
コメントくださった方ありがとうございます。
みすちー好きな人って多そうですねw
27.100名前が無い程度の能力削除
レズーリンww
みんな可愛いし笑い所も多いしで面白かったです
みすちーに何が起こったのか詳しくお聞きしたいところですな…!
34.100名前が無い程度の能力削除
慧音完全にとばっちりじゃないのw