残酷表現を含みます。
原作設定を多量に無視しています。
それでも読んでやる、という漢、漢女の御方がいましたら是非是非。
では本編です。
目が覚めると、見知らぬ部屋の中だった。
よくある本の言い回しならば、ここで見える妥当な物は病室の真っ白い天井なのだろうか。
けれど今見えるのは、木目の天井だった。
床には紅魔館にはなかった畳が敷詰められていた。
今自分が寝ていたのもベッドではなく、布団という寝具だ。
本の中でしか見知ったことのないものだったが、和風の建物の中というのはこんな感じなのだろう。
どうしてこんな所にいるのか、まるで心当たりがない。
此処に来た理由の端切れすら記憶の中に見当たらなかった。
…ここに居る原因について出来る限り思考を走らせる。
―――数十秒考えた後、恐らく紅魔館に何か有ったのだろうと思い当たった。
自分は眠る前まで間違いなく紅魔館の地下室にいた。
私がここに居るということは何らかの手段を以て地下室までたどり着いたのだろう。
そうなると紅魔館の住人達との衝突は避けられない。
紅魔館の住人が居なくなったからこそ、私に手を出せたのだろう。
どうせまたお姉様が何かやらかして、周囲から反感を買った結果だと思った。
あの人の事だ。その過程は想像に難くなかった。
きっと完膚なきまでに紅魔館は崩壊している。
私がここにいるのはその余波のようなものだろう。
大方、紅魔館が無くなってその従者等々の処遇は決まって。
私も同じように処遇を決められ、私の場合はここに居場所を移されることを決められたのだろう。
それぐらいの予想を立てることが出来た。
恐らくそこまで遠くはない憶測だと思う。
もうお姉様には会えないのだろうとか、ずっと居続けた地下室には戻れないのだろうなとか、色んな事が想像できた。
けれど。
(どうでもいいかな。そんなの)
それぐらいの感想しか湧いてこなかった。
別に姉が嫌いだったわけでも地下室暮らしに嫌気が指していたわけでもない。
遠巻きに眺める異変などに参加したかったわけでもない。
悲しいとか、そういう感想は一切無かった。
ただ、私が壊れているだけ。
喜怒哀楽。
そんなモノはとっくの昔に壊れていた。
ぐしぐしと頭を掻く。
これから私に起こるであろう事について考えてみた。
監禁、暴力、実験、奴隷。
―――ロクな事が考えつかないので、すぐにやめた。
「おや、目が覚めたか。おはよう」
しばらくすると尻尾が9本もある女性がやって来て、そんなことを言った。
咲夜よりも少しばかり年上の印象を抱いた。
胸も咲夜より大きい気がする。
妖怪に年なんてあんまり関係無い気はするけれど。
「どうした?」
何も言わずにその人を見ていた私を訝しげに見つめ返して、小首を傾げる。
帽子が少しだけずれて、毛並みの良い耳がみえた。
「何でもない」
「ふむ、…意外だな。噂で聞いていた限り、もっと暴れるとか錯乱すると思っていた」
「…そんなの、しない」
「そうか。いや、失言だったね。申し訳ない」
「良いよ、別に」
そういう印象を持たれるのには慣れていた。
そのせいで世話係の妖精メイドも滅多に私の部屋にはこなかった。
「朝ごはんを用意してあるから、おいで」
手招きをしながら女の人がそう言った。
「いいの?」
「あぁ、お前の分もちゃんとあるから何も遠慮はいらないぞ」
朝ごはん、か。
ここでそんなのを用意してもらえる立場だとは思っていなかった。
言われるままに立ち上がる。
廊下を先導する女性の背中についていった。
尻尾が歩くたびに揺れている。なんだか、ふかふかしてそうな尻尾だった。
「あぁ、そうだ」
くるりと女性が振り向いた。
「名前を教えていなかったな。私は八雲藍、この屋敷の主の式神だ。よろしく、フラン」
名前を教えると、また歩いていた方向に歩き出した。
かちゃかちゃと食器と箸が音を立てる。
慣れない箸は使いづらかった。
四苦八苦しながら食べる様を少しだけ困ったように笑いながら藍が見つめる。
「すまないな。主が和食好きなものでな」
「うんん、美味しいし。良いよ」
白米とか味噌汁とかを、スプーンとフォークで食べるのはとても滑稽だと思うし。
藍から色々な事を聞いた。
憶測通り、紅魔館は人妖によって崩壊したこと。
レミリア等紅魔館の住人は処分を受けて紅魔館は既に無いこと。
「ここは、どこ?」
一番気になっていた疑問を口にした。
「ここは幻想郷の辺境にある屋敷だな。普段は境界で隠されているから、知っている者は少ない」
「境界?」
「あぁ、さっき言っていた私の主の能力だ」
「その人が私をここに連れてきたのは、なんで?」
「さてね…私も長いこと式神をやっているが、まだ判らないことの方が多いからなぁ。何か思うことがあってこうしたのだろうが」
懇切丁寧に質問に答えてくれた。
親切だと思うのと同時に、何故私にここまで親切にしてくれるのかと疑問が湧いた。
地下室暮らしの時には話してくれる人自体が居なかった。
血が繋がった肉親と話したことすら、数えようと思えば数えられる程度の回数だった。
そんな事を考えている間に食べ終わった。
「お粗末さまでした。美味かったか?」
「うん、ご馳走様でした」
「それは良かった」
藍は笑顔を見せると食器を片付け始めた。
…だから、なんで私に親切にするのだろう。
立場としては、捕虜のようなものではないのか。
「後で、書庫にでも案内しようか」
「…どうして?」
「地下室を見せてもらった限り本が沢山あったから、本が好きなのだろう?…スマナイな、違ったか」
「本は、好きだけど」
確かに、地下室にいた頃からそれこそ文字に溺れるように読みふけっていた。
それは元から本が好きだったとかそういう事ではなく。
それぐらいしかやることがなかったからだった。
…言いたいのは、本がどうこうとかそういう事じゃなくて。
そういう事じゃ、ないんだけれど。
うまく、言葉が作れなかった。
案内された書庫はとても立派なものだった。
空間を操作していたため私がいた地下室も広かったが、それ以上に広かった。
蔵書量もそれに恥じぬ程の量で、読みつくすのにどれほどかかるのか判らなかった。
今読んでいるのは童話。
―――あるところに悪魔のお城に囚われたお姫様が居ました。
そのお姫様のことを助けようと様々な人々が動きます。
しかし悪魔の力は絶大で、誰も助けられませんでした。
ある高名な騎士が敗れ、ある高名な魔法使いが敗れ、数多くの死が積み重なりました。
誰もがお姫様のことを諦めかけた、そうなった頃に一人の王子様が救い出すために動き出しました。
結果、お姫様は救いだされた。
それまで誰であろうと出来なかったことを単身でやり遂げた王子様。
彼は国に祝福され、住まう全ての者から英雄と讃えられた。
しかし、彼が本当に欲しかったものは手に入らなかった。
彼はお姫様に恋をしていた。だからこそ誰も倒せなかった悪魔に挑んだ。
彼は、お姫様に恋をしていた。彼はただ、お姫様と幸せに過ごしたかった。
しかし、お姫様と幸せに過ごすことはできなかった。
何故か、理由は簡単だった。
悪魔に囚われたお姫様は、心をなくしてしまっていたのだった―――。
子供向けの、挿絵までついた童話にしては珍しい終わり方のものだった。
童話は脚色を加えられてハッピーエンドを迎えるのが相場と決まっているのに。
読んだ後、しばし物思いにふけった。
この結末は誰が幸せになったんだろうか。
死力を尽くして志半ばで力尽きた者たちは何も報われなかった。
悪魔を倒した王子様ですら、その後呪われたように絶望が付きまとっただけだった。
お姫様も、何も判らずに知らない場所に連れてこられただけではないのか。
誰が幸せになったのか?誰も幸せなど掴んでは居ないのではないか。
お姫様を助けだすことは、本当に正しかったのだろうか。
「あら、ここに居たのね」
いきなりの声に顔をそちらに向ける。
見たことのない女性がそこにいた。
髪は藍と同じように金色で、藍よりもずっと長かった。
手に持った扇で口元を隠して微笑んでいるその女性は。
酷く、得体のしれない人だった。
それにしても、居る位置がおかしい。
入り口は一箇所しか無い。
私は書庫の入り口付近で本を読んでいた。
それなのに、この人は私よりも入り口から遠い位置にいる。
流石に誰かが入ってくれば私が気づくだろう。
瞬間移動でも出来なければ、あんな位置に立っていること、なん…、て。
そこでようやく、あぁ。と思い当たった。
よく見てみれば、藍から聞いていた容姿の特徴と合致していた。
藍ぐらいの身長。
白と紫を基調としたゆったりとしたサイズの導師服。
「えぇと…紫?おはようございます」
「えぇ、おはよう。フラン」
もう夕方になってしまったけれどね。
そんな事を付け加えて、紫はもう一度微笑んだ。
昼食を抜いてしまったため、夕食は手をつけるスピードが上がってしまっていた。
「そんなにお腹が減っていたのか…いや、スマナイね。一度呼びに行ったのだが物凄く集中していたようだったから邪魔するのも悪いと思って」
メニューは相変わらず和食で、スプーンやフォークではなく箸を使った。
空腹から半ば貪るように飲み込んでいた。
箸に不慣れなことも助けとなり、ぽとぽとと周りに零したものが多かった。
けれど、紫も藍も行儀の悪さをが咎めようとはしなかった。
食べ終わると、紫に連れられて家の間取りを説明された。
居間、台所、厠、浴室、玄関など。
和風の建物らしく一体建ての平屋らしい。
「これからこの家で暮らしていくことになるのだから、知っておいて損はないわよ?」
とのことだった。
紫は最後に案内した寝室へと入っていった。
その後風呂に入り、何時もの洋服ではなく和風の浴衣に着替えた。
羽根が有っても困らないように小さな切れ込みが入れられていた。
布生地の感触も良く、きっとそれなりに高価な物なのだろうと想像できた。
初めて着た浴衣は、中々過ごしやすいものだと感じた。
暫くすると、藍に連れられて部屋の前に連れていかれた。
「ここが君の寝室だ。また明日起こしに来よう」
「…?ここって、さっき紫が入っていった所だよね?」
「あぁ、そうだ」
「一緒に寝るの?」
「紫様の申し付けでね、そうしたいそうだ」
一緒に寝るということは、言葉通りに一緒に寝るためなのだろうか。
それとも、アッチの方の意味か。
考えながら、襖を開けて中に入る。
おやすみと言い残して、藍がすぐ後に襖を閉めた。
行灯が照らす部屋の中、私と同じような着物を着た紫が布団に腰掛けていた。
布団は少し大きめのもので、枕が二つ並んでいた。
私を見ると、紫は手をさし出してくる。
私は、その自分よりずっと大きい手に手を重ねた。
横になると、紫が布団をかけてくれた。
「今日一日、どうだったかしら?」
「んー…、ご飯が美味しかったし、本も読めたし、楽しかったよ」
「そう…良かったわ。気に入らなかったらどうしようかと思った」
そう言うと、紫はにこりとわらった。
柔らかな笑顔が、優しそうだと思った。
紫が私の身体に手を回す。
体の大きさが全然違うので、軽く手の中に私の身体が収まった。
抱く腕に、一切の悪意はなかった。
―――やっぱり。
何かしら自分の欲を満たそうと思って私を引き取ったのではないようだ。
一日、一切ひどいことはされなかった。
紅魔館が崩壊したと聞いたからには、私には奴隷だとか、見世物だとか、そういう役割を与えられるものだと思っていた。
紅魔館ではずっと厄介者として扱われていた。もしかするとそれ以下だったかもしれない。
気狂いと何度言われたか判らなかったし、数える気にもなれなかった。
いちいちそんなものを数えていたら、それこそ気が狂っていただろう。
…まぁ、気は狂っているのだけれど。そうやって495年扱われていたのだし。
紫の顔を見ると目が合った。
こんなに近くで他人の顔を見るのなんて初めてだったから、少し恥ずかしかった。
照れる顔を隠すようにもぞもぞと布団に潜り込んで眠りにつこうとした。
「おやすみなさい。フラン」
多分生まれて初めて聞く寝るときの挨拶。
その一言は、なんだかうれしかった。
◆ ◆ ◆
「フラン、紫様。朝ですよ」
その言葉と共に身体を揺すられて起きた。
伸びをして、一つ欠伸を噛み殺す。
涙で視界が滲んでしまったが、昨日と同じ二人が傍に居るのは判った。
「ん~…、もう少し寝かせてよ藍…まだ朝じゃない…年寄りには辛いわ~」
「駄目です紫様。ほら、早く起きてください」
「融通の利かない…。あぁ、優秀すぎる式を持つのも考えものだわ」
「何言ってるんですかホント…」
寝ぼけ眼で未だ布団から離れない紫を藍が引っ張っている。
なんだか、家庭的な風景だと思った。
…密かに、こういう風景に憧れていた。
クスリと、自分の口から息が漏れた。
「藍、紫、おはよう」
少し笑いながら挨拶をする。
―――おはよう、と。
返事があった朝はコレが初めてだった。
昨日と同じように朝食を取った。
違ったのは、今日の朝食は紫もいたと言う事。
藍いわく、普段は昼まで寝ているから朝食をとる事自体が稀なのだそうだ。
『フランがいたから紫様は起きる気になったのかもしれないな』
なんて事も言っていた。
…それは、普段一人分で良い物を三人分作る手間を掛けさせたということだろうか。
そう申し訳なく思って、謝った。
『そんな事気にするんじゃない。お前や紫様が美味しく食べてくれれば私は嬉しいから、それでいいんだ』
少しだけ叱られるようなトーンで帰ってきた返事が、これだった。
天気は雨だった。
雨がしとしとと降り続けている、こんな日は、読書日和だなと思った。
昨日と同じように許可をとって書庫に篭る。
昨日は気づかなかったけれど、紅魔館にいたときには与えられなかったジャンルの本が沢山あるのを見つけた。
よく見れば、外の世界の本もたくさんあった。(後で紫に聞いてみたところ、ライトノベルと言うものが大半だそうだ。衰退が激しいため、幻想入りしやすいらしい)
色々な新しい物語には心を惹かれた。
行ったこともないし、やったことも無いような体験が詰まった物語に心が踊った。
一つは、剣と魔法の物語。
一つは、コウコウという寺子屋のような物に通っている人の物語。
一つは、鉄で作られた人形で宇宙で戦う物語。
面白くないものなんて一つもなくて、食い入るように本を読んでいた。
そのお陰で、近寄ってくる紫に気づくことができなくて。
背後から思いっきり驚かされたのは少し恥ずかしかった。
昼食に呼びに来たらしいので、お礼を言ってついて行った。
昼食は、海のものだった。
「幻想郷に海はないのに、どうやってとってきたの?」
「スキマでちょっと外界からね。折角役に立つ能力があるのだもの。使わないと損だわ~」
「紫は外に行けるの?」
「ええ、境界を操れば何処へ行くことも難しくないわ」
紫はすごいなぁ、と。純粋に思った。
使い道の限られた私の能力よりもずっと、その能力のほうが羨ましいと思った。
境界を操るという能力はとても用途の幅が広そうだった。
不思議と羨望よりも強く、尊敬の念があった。
午後からも書庫に篭る。
午後は、藍や紫について考え始めた。
結局昨日は何もされなかった。
初日だから様子見で何もしなかったのだろうか?
こうして初日何もしないことも考えの内なのかな?とか色々な仮説を立てていた。
結局のところ、判らないという結論以外出しようがなかった。
そうしているうちに1時間、2時間、4時間、6時間…と時間が過ぎて。
「フラン、藍が夕食だから来てくれって」
いつの間にか、そんな時間になっていた。
昨日と同じように夕食を取った。
相変わらず美味しい料理だった。
開いた障子から外を見ると、朝降っていた雨は上がっていて綺麗な月が見えた。
「もうすぐ満月ねぇ。良い月だわ」
紫がそんな事を言った。
「そうね、満月になったらお月見をしましょう。丁度中秋の名月、いい時期よ」
少しだけ楽しみができた。
入浴を済ませ、昨日と同じように一緒に寝室に入る。
「おいで」
言われるまでもない。
無意識に手を重ねていた。
やはり昨日と同じように、紫の腕の中に収まった。
紫は、頭を撫でてきた。
慣れない思考に疲れていたのだろうか。すごく眠い。
眼を閉じて、眠る準備をする。
そのまま落ちるように、意識を手放した。
「こんないい子を閉じ込めるなんて、何考えてたのかしらね。あの吸血鬼は」
そんな声が、聞こえた気がした。
◆ ◆ ◆
意識が落ちて、それからずっと眠り続けていたようだ。
一瞬のうちに夜が終わっていた錯覚すら覚えるほどに深い眠りだった。
今日は、起きたら紫が居なかった。
(こんな日もあるのかな)
その程度に思いながら身体を起こす。
用意された朝食の匂いがここまで漂っていた。
(お腹すいたな)
匂いに当てられたのか、ぐぅと音がなった。
厠に寄ると、食卓へ向かっていった。
「藍、おはよう」
「おや、おはようフラン。もう少ししたら起こしに行くつもりだったのだが、お腹空いたのか?」
「うん。匂いがしたから、美味しそうだと思って」
「よし、もう少しでできるから座って待っててくれ」
言われたように食卓についた。
じゅうじゅうと、藍が卵を焼いている小気味いい音を聞いていた。
ふと外を見ると、外はまた雨だった。
読書日和だとかそういう事を思うよりも、見当たらない紫のことが気になった。
考えているうちに、藍が朝食を作り終えて並べた。
いただきますをして、食べ始めた。
「紫はどこへ行ったの?」
「少し仕事だそうだ。詳しいことは聞いていないが、こんな朝早くから行くとなれば重要なことなのだろうな」
「すぐに帰ってくるかな?」
「夜には戻ると聞いているな」
仕事と言われても全然内容が想像できなかった。
お姉様はお嬢様で居ることが仕事みたいな人だったから、妖怪なんて大抵そんなものだと思っていた。
…質問しても良かったけれど、食事時に質問をするのが少し楽しみになってきたのでまた今度にしておいた。
全部一気に判ることよりも、少しずつ楽しみが有ったほうが良いと思った。
また、ご馳走様をしてから書庫に篭る。
仕事のこともそうだけど、紫や藍が何でこんな事をしているのか判らなかった。
何度も考えたように初めはこのような扱いをしてもらえるとは思っていなかった。
紅魔館に恨みがある、または責苦を与えて喜ぶ趣味がある、その程度の目的だと思っていた。
(…ちがうよね)
けれど、今の自分の待遇からすぐにそれは否定できた。
では目的は何か?
食事を一緒に食べて、好きなことをさせ、一緒に寝る。
この三つからはとてもではないが結論は出ない。
迷路じみた思考の出口はどこにも見つからなかった。
昼間、また食事に呼ばれた。
まだ紫は帰ってきていないために二人での昼食だった。
前日、前々日と同じく美味しかった。
「藍の作ったご飯、美味しいね」
「そう言ってもらえると作った甲斐があるというものだな」
「ねぇ、藍」
「ん、どうした?」
「私もご飯作るの手伝ってもいい?」
「ん~…別に構わないが、前言ったようにご飯を作っているのは負担じゃないぞ。そんな事で負い目なんて感じなくていいんだぞ?読書の時間を潰してまで、そんな事しなくていいんだぞ?」
「うん、けど、…」
うまく、二の句が継げなかった。
けれど何かを与えられるだけでなく、何かを返したいと思った。
「…けれど、うむ。そうだな」
一人納得したように藍が手を私の頭の上においた。
「手伝ってくれるというのならそれは嬉しいことだ。美味しいご飯を二人で作って、紫様を驚かせようか」
わしゃわしゃと私の頭を撫でる藍。
不器用な私の感情を汲みとってくれる藍は、優しいのだなと思った。
台所に立つ前に藍から私の体に合うぐらいの割烹着を着せられた。
聞くと、今は自立してマヨヒガというところに住んでいる妖怪の物だったらしい。
藍が作ったらしいそれは、藍の着ているものをそのまま小さめにしたデザインだった。
渡された野菜を水場で洗う。
洗ったものを手渡すと、藍が包丁で皮を向いてゆく。
しゅるしゅると皮が解けていく様子を曲芸のようだと感心して眺める。
手が止まってしまっているのに気づき、再度洗う作業を再開した。
暫しの間繰り返されてゆく単調な作業。
地下室では絶対になかったことだった。
どこか、楽しかった。
傍から見れば、髪の色も相俟って仲の良い母娘のようだった。
降り続いていた雨が激しくなった頃に、紫が帰ってきた。
「へぇ、フランが手伝ったの。…うん、いつもより美味しいわ」
正直な話を言うと、野菜を洗って卵を割って…それぐらいの事しか手伝えなかった。
焼いたり味付けしたりは経験がないと無理そうだった。
私が手伝ったことで味に影響は出ないと思う。
「そうなんですよ。中々手際よく手伝ってくれまして助かりました」
手際が良いとは言えなかったと思う。
藍が一人でつくっていた時の方が、時間がかかっていなかった。
「フラン、今日はありがとうな。また手伝ってくれれば嬉しい」
「…うん、いつだって手伝うから、いつでも言って。藍」
単なるお世辞だって判っていても、言われるのは嬉しかった。
二人の笑顔を見れたことが、この上なく幸せだった。
何時もであれば月がてっぺんに登る頃、紫と一緒に布団に入った。
昨日と同じく慣れないことをしたからなのか判らないけど、結構な疲労があった。
瞼が重く、知らず知らずのうちに降りてくる。
「フラン、疲れてるの?」
「……ぅん」
眠気のせいで、返事すらも小さくなった。
「そっか。ならこの話は明日でいいわ」
「………話?」
「少しだけね。けどいいの。疲れているのなら眠っておきなさい」
「お休みなさい、フラン」
その言葉を聞くと、何処か安心できた。
布団の温もりに身を委ねると、何時の間にやら眠っていた。
◆ ◆ ◆
朧げな意識の中、襖の向こう側から足音が聞こえた。
今日は昨日よりも起きるのが遅かったようで、藍がにこにこしながら起こしに来た。
食事を終えて、書庫に入った。
今日も、夕飯を手伝う約束をした。
昨日のように藍を手伝い、夕飯を食べた。
三人で囲む食卓は、やっぱり美味しかった。
かつての一人で過ごす日常が、成り代わりつつ有った。
夜。
風呂場で体の汚れを落とす。そして、寝室へと入る。
「フラン、昨日言っていた話をしたいのだけど、いいかしら?」
「うん、どんな?」
「私の話ではないのだけれどね。貴女の話。貴女が紅魔館にいた時の話を聞かせてくれないかしら」
「私の?」
「ええ。勿論、嫌なら話さなくても良い」
「…うんん、良いよ」
紅魔館の暮らしというよりは地下室の暮らしだった気がする。
そんなもの聞いても仕方がない気がするのは確かだった。
けれど、紫が聞いてきているのなら是非もなく応えたいと思った。
そのまま淡々と語りだした。
語りだせば早いものだった。
何故かって、多く時間をとって話すほどの複雑な生活ではなかったから。
ずっと地下室で過ごしてきた。
会いに来る人は大抵がお姉様か妖精メイドか咲夜。
たまに美鈴やパチュリー。
それすらも10年に一度有るか無いかだった気がする。
鮮明に回数を数えていたわけではないけれど、誰かに会うこと自体が稀有な体験だった。
仕方ないから、諦めたようにずっと本を読んで過ごしていた。
一般的な知識は人から教えられなかったので、本から教わっていた。
普通は家族と一緒に暮らしていること。
普通は部屋に閉じ込められることはないこと。
普通は子供のときからずっと独りで過ごすなんていうのは無いこと。
たくさんの事を本から知った。
たくさんの事に憧れた。
空を見たかった。木を見たかった。鳥を見たかった。犬を見たかった。
全部、叶うことはなかった。
いつしか自分には、この程度の現実しか無いのだと理解した。
理想が叶うことはなかった。本をひっくり返して振ってみても、何も出てこなかった。
「それだけ。今まで、何もなかった」
壊れた妹だと言って隔離された。
全てを壊してしまうのだとずっと言われ続けた。
それだけを理由に閉じ込められた。
地下室のみが、自分の世界だった。
「全部壊してしまうとか、何でも壊してしまうなんて知らなかった。だって、何も壊したことなんて無いから」
そう、能力なんて一度も使ったことがない。
使う機会がなかった。
部屋の中には何もなかった。
『壊す意味が無いものを壊して何になるの?私、何かを壊したいなんて思ったこと無いよ?』
そうやってお姉様に言ってみたことがある。
何て返されたのかを曖昧にしか覚えていなかったけれど。
確か、良い返事は帰ってこなかった。
『なんで私を閉じ込めてるの?』
そうやって問いかけたことがある。
こっちの返事はちゃんと覚えている。
短かったので、一言一句余すこと無く記憶出来ている。
そう、たしか。
『お前が、壊れているからよ』
そうやって冷たく言われた。
―――そう、そうなんだ。
諦めて悟るしか無かった。
壊れているからこんな所に閉じ込められているんだ。
へぇ…そうなんだ。
ただ肯定して頷くしか無かったことを覚えている。
これ以上無いぐらいの否定だった。
そこから、本当に壊れ始めた。
ぼろぼろと砂糖菓子が崩れるように、或いは他所から水を注がれて爛れながら一粒残さず溶けてゆくように。
今度こそ自覚しながら壊れていくことを受け止めるしか無かった。
そうしなければならなかった。
まともでいたらすべて壊れてしまいそうだった。
自分という人格を守るために他を崩してしまわなければならなかった。
現実を受け止める為だけに、受け入れられるように壊れてしまうしか無かった。
あまり笑えなくなった。
あまり何かに心を動かされることがなくなった。
外に出たいと思わないようになった。
その代わり、寂しいと感じることがなくなった。
それだけの、つまらない話。
「……そう。…そっか」
紫は一人で納得したように頷いた。
顔は笑顔だった。
心なしか、先程よりも曇っている風に見えた。
きっと何も実のある話じゃなかったことに落胆しているのだと思った。
…もう少し、おもしろい話だったらよかったのかな。
そんな事を思っていると、ぎゅうっと音がしそうなぐらい強く、優しく抱きしめられた。
心音が伝わる。
脈拍が届く。
衣服は擦れて、温もりがあった。
「紫?」
「変な事を聞いてごめんね、フラン。…少しだけ、こうさせていて」
手の内に収まったまま、じっとしていた。
頭をなでられた。抱きしめる力が、もう少しだけ強くなった。
柔らかな感触が、心地良かった。
その日は、そのまま眠りに落ちた。
紫の意図がわからなくとも、このままで良いと思った。
このままが良いと、そう思った。
◆ ◆ ◆
数えてみれば早いもので、屋敷に来てから早一月が経った。
朝起きて、一緒に朝食を食べる。
書庫に篭って本を読んだり、たまに紫と話をしたり。
昼食を一緒に食べる。
その後、夕飯の支度を手伝ったり。
夕食を食べて、風呂に入る。
紫と一緒に寝る。
それが、ここに来てからの生活だった。
たまに違うこともあった。
一度、夜に言われたようにお月見をした。
団子も美味しかったけれど、それ以上に月が綺麗だった。
地下室に居るときはその光すら届かないものだった。
藍のお手伝いもだんだんと進展していった。
最近は、包丁を握らせてくれたり。少しずつの進歩があった。
違うことがあった。
それが地下室との違いだった。
なにも変わらない495年は、この屋敷に来た時点で終わっていた。
少し前に、紫に聞かれた。
『フランは、レミリアの元に戻りたいと思う?』
その気になれば何時だって戻してあげられるらしい。
地下室はなにも変わらないから、何時までもそのまま苦しくないだけの生活があった。
けれど、戻りたいと思わなかった。
地下室には紫と藍が居ない。
それを手放すことはしたくなかった。
『ここに居ると、紫は迷惑?そうじゃないなら、ずっとここに居たい』
紫は微笑んだ。
『…いいえ、迷惑なんて無いわ。貴女がいたいなら、いつまででも、ずっと』
「フラン」
名を呼ばれる。
腕の中に入っていった。
抱きしめられると、温もりで包まれる。
それは寝具の保温性なんて関係の無いもので。
ずっとこうしていたいって思えるぐらい心地よいものだった。
紫の意図は相変わらず判らない。
それでも良かった。
私が意図通りに動いていて紫が裏で笑っているとしても。
いずれ裏切られて何かを無くしてしまうとしても。
それぐらいの妥協があっても、いいと思った。
そういった事が続いたある日のこと。
「明日、家を開けるわ」
そんな事を言われた。
「前みたいな仕事があるの?」
「ええ、そんな様なものよ。少しばかり大掛かりなものになるから藍にも着いて来てもらわなきゃいけないわ」
「どれくらいで戻ってくるの?」
「う~ん…、あんまり確かなことは言えないわ。ただ、一日はかかると思う」
眉を八の字に曲げ、困り顔を作っての返答。
本当に憶測が付かないのだろうと判った。
なら、これ以上聞いても意味が無い。
「そっか……………判った。留守番してる」
「ごめんなさいね、藍には、温めるだけで食べられるものを用意させておくから」
多少言葉に詰まった私に少しだけ罪悪感でも感じたのか、紫が軽く謝った。
確かに一月程手伝いをしたおかげで、少し火を使うぐらいのことなら出来るようになっていた。
料理として完成されたものを残しておいてもらえるのなら、特に問題はないだろう。
火をつけて温めることぐらいのことならば、何のこと無くやれる。
けど、言葉が詰まったのはそんな事のためじゃなかった。
『付いて行っちゃ駄目?』
そうやって言えなかった。
きっと、紫なら承諾してくれる気がしたけれど。
困らせてしまう気がしたから。
―――言葉が詰まったのはそんな事のせいじゃない。
紫と藍が居なくなったら、寂しいなと思ったから。
紫の側へ身体を埋めた。
呼応するように私を抱きとめる紫。
温もりを感じながら意識は落ちてゆく。
―――けれど、紫を困らせそうなことはしたくなかった。
この距離を、離したくなかった。
この生活を保っていたかった。
それだけで満足できるぐらい、満たされたものだと思うから。
◆ ◆ ◆
予告通り、起きると屋敷の中には私を覗いて誰も居なくなっていた。
何の憚りもなく紫と藍は朝、もしくは深夜に出て行ったということなのだろう。
小鳥のさえずりが耳に響く。
天気は快晴。
突き抜けるように青い空に、大きな黒い鳥が影絵のように映えていた。
起き上がる。
布団には、私の寝ていた場所以外から熱が感じられなかった。
恐らく出ていってからしばらくは立っているのだろうと察しがつく。
机の上にメモが残してあった。
生活に必要最低限なモノについての書置き。
コレがあれば衣食住に関して、紫が帰ってくるまでには多分事欠かないだろう。
何時ものように朝食を取るべく、食卓へと向かった。
台所には卵や、今朝炊いておいた様に見える米が用意してあった。
多分、手早く調理して食べられるように藍が小分けしてくれたものだろう。
この残滓が、先刻まで少なくとも昨晩まで二人がここにいたという確かさだった。
一人で朝食を作り終えて、食べる。
多少は手馴れたものだ。
食器の位置も大体は判っているし、教えてもらったおかげで焼くのに適した温度も時間も覚えている。
卵焼きをひとつ作ることくらいならば、藍と同じぐらいの腕前を発揮できるようになっていた。
だから今食べている食事は、多分昨日まで食べていたものと遜色ない。
なのに、どこか足りなかった。
何時ものように本を読む。
乾ききった紙の感触が指先にある。
多少の力を込めて紙をスライドさせ、ページをめくる。
その度に文字から世界が広がってゆく。
見たことがなくとも景色が頭に浮かぶ。
春の桜であったり、夏の湖であったり。はたまた秋の紅葉した木であったり、冬の降り積もる雪であったり。
これ以上無い娯楽だと信じて疑わなかった。
なのに、今は。
(なんか、つまんないなぁ)
あれほど地下室に居た時に読んでいた本達。
それなのに、どれほど読んでも以前ほど面白いと感じることが出来なかった。
物語の中で動いている人物たちが、なぜか作り物のように思えた。
酷く、滑稽だった。
何故こんなことを思っているのだろうか。
地下室にいた頃の私なら、絶対に寂しいなんて思わなかった。
本があれば、暇がなければ、苦しくなければ、それで十分だった。
何時からかは忘れたけれど、寂しいなんて思ったことなかった。
けれど今は、その言葉のみが頭の中をぐるぐると廻っている。
きっと、どうかしてしまったのだろう。
屋敷に来てからの生活が、以前の私の何かを壊したのだろう。
いや、恐らくは、直したのか。よく判らないけれど。
本を閉じ。
ごろんと横になる。
天井の木目が見える。円、線が入り交じった文様。ぐちゃぐちゃとかき乱されている私の思考のようだった。
ふと気づけば、昼時だった。
多少お腹がすいていた事もあって、台所に再度向かった。
昼食に用意されているものを温め直す。
ご飯と野菜と、少量の肉を混ぜ、味をつけて炒めた物だった。
炒飯と言うものらしい。
コレは和食ではないらしいが、簡単に作れるからと言う事で藍に作り方を見せてもらったことがある。
まだ作ったことはないけれど確かになんとかコレぐらいならば作れそうだった。
火をつけて熱してゆく。
そもそも、出来上がっている物を温めるだけなのでしくじりようが無い。
しばらくすると、パチパチと音がしてくる。
頃合いを見計らって器に移して食べ始める。
特に差し障りも無く。昼食を終えた。
今日は藍の手伝いがないので午後からも本を読む。
文字が目に入る。それこそ無数と言って差し支えがない程に。
幾らでも広がってゆく世界にいつもなら入り込めるはずだった。
煩雑な思考が、それを許してくれなかった。
もやもやとした気分は晴れない。
それでも他にすることがないから読む手は休めない。
紙の擦れる音だけが耳に届く無音の空間。
地下室にそっくりだった。それこそ、まるで磨き上げた鏡にでも写すように。
この部屋は見飽きた地下室とはあまり似ていない。
灰色の石造りだった壁と天井は木で作られている。
本棚の色も違う。部屋の匂いも違う。
それでも、何処か似ていると思った。
…立ち上がる。
食事へ向かった。お腹がすいていたからじゃなくて、地下を連想させるこの部屋にいたくないと思ったから。
月がのぼる。
雲一つ無いほどに明瞭な風景。
長く地下にいたからなのか判らないけれど、すごく綺麗だと思えた。
澄んだ墨色の空。
輝きがどれだけ小さな星であっても鮮明に見えるほどに。
一つ一つが眩い、統べるような月が更に強く輝いていた。
明瞭な視界はどこまででも見渡せそうだった。
きょろきょろと辺りを見回す。
しかし、今はいくら見回しても視界には私以外が見当たらなかった。
けれど、何処にも誰も見当たらなかった。
行灯がじりじりと音を立てて燃える。
炎が揺れて、影も形を変えた。
横になる。
多少眠くはあったし、少し早いけれど眠ることにした。
目を瞑る。
『お休みなさい』
その言葉がなかった。
くしゃくしゃと髪を撫でてくれる人が居なかった。
抱きとめてくれる腕がなかった。
ひとりで寝ることなんて、ついこの前まで当たり前のことだったのに。
何処か、心に隙間でも空いてしまったような喪失感があった。
…喪失感を仕舞い込んで隠すように、布団を被ってむりやり眠りについた。
―――久々に、夢をみた。
とてもたくさんの種類の夢だった。
夢は眠りが浅い時に見ると本で読んだことがある。
最近夢を見なかったのは、一新された毎日に疲れはてていたからだろうか。
それとも、以前よりもずっとぐっすり眠れる環境だったからだろうか。
ともかく、夢をみた。
そのどれもが。
言い表すのが悍しい程の、悪夢だった。
////
隔離された部屋。
私は冷たい石造りの床の上に拘束されて無造作に転がされている。
縄で手を後ろに回され、身動きがとれないほどにきつく縛られている。
なんとか身体を動かそうとあがくも、うまく動けない。
霞む意識をなんとか保ち、顔を上げた。
部屋の中には何人かの人がいた。
そのうちの一人、鞭を持っている男が私に鞭を振り抜いた。
黒く重い鞭が風を切る。
パァン、と弾ける音。
音と共に、左足の肉が爆ぜた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛゛あああああああああああ!!」
激痛。足を撃たれたはずなのに、痛みが頭上まで突き抜けてくる。
絶叫。普段絶対に用いない大きさの声が己の鼓膜を揺らす。
傷口を庇おうとするも、縄のせいで上手く動けない。
それでも痛みに耐えられず足掻く。石と肌が擦れて擦り切れるのに構わず暴れた。
結果、芋虫のようにうねうねと這いずり回るハメになる。
連中はそれがおかしかったのか指をさしてけたけたと笑った。
笑いながら、壊れそうな左足を思い切り踏みつけられる。
「ぎいィっぅううううう!!」
肉という守りがないため、殺人的と表すのに相応しい痛みが走る。
再度沸き起こる笑い。恐らくは嘲笑。
怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い。
痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイ!
単純な文字の羅列のみで脳内が埋まる。
逃げ出したいけれど、その術が何もなかった。
切迫した私を取り囲んで逃がさないのは笑い声。げらげらと耳に届く、判りやすい狂気の形。
叶いもしないのに、這いずってでも逃げようとした。
きっと、四つん這いで歩くよりも緩慢な、逃げるという行為にはおおよそ見えない速度だっただろう。
げらげらと笑い続ける一人に、ボールでも蹴り上げるかのように左の眼球を蹴られた。
「い゛っぁ゛ぁぁ゛っ!!!!」
一瞬海老反りになり、そのまま後ろへ吹っ飛ぶ。
壁に打ち付けられてぎい、と声が漏れた。
ろくに見えない目で見れば、何人もが笑いながら私の方に近づいてきた。
笑いながら踏まれる。それこそ雨あられの如く何度も。
笑いながら殴られる。箇所を何処も余すこと無く執拗に。
笑いながら、笑いながら。私は笑いながら、何も出来ずに殺されてゆく。
体中が痣で黒く塗りつぶされる。
口から出る胃液とつばが混ざった液体が、次第に真っ赤に変わっていった。
さっきから何度か骨のへし折れる音を聞いた。
悲鳴を吐き出せるほどの余裕がだんだんと失せる。
先程まで見えた左目は、既に使い物にならなくなっていた。
ひゅうひゅうと、弱々しい風のような音は、気道を辛うじて通ってゆく程度の私の呼吸。
―――痛い、もう、やめて。
そうやって、言う気力も残っていないし、言ってもきっと無駄だと。
けれど、最後に蹴り転がされて仰向けになったので、仕方無しに上を見上げた。
暴力が、トドメに入る。
大きな鉄の塊じみたハンマーが腹に叩き込まれる。
残った最後の胃液を、口からではなく腹にあいた穴から臓物と共に撒き散らした。
―――よく見えない目で最後に、頭に叩き込まれる一撃を見た。
べしゃりと音を立てて死ぬ瞬間に夢が終わる。
次の、夢が始まった。
一つは、私は解体される豚の役だった。
泣き叫ぶ私の声が聞こえないような顔で、ざくざくと作業が進んでゆく。
心臓を引きちぎられるところで、夢が終わった。
一つは、私は見世物だった。
再生速度が早いのをいいことに、あらゆる器具で限りない痛みを与えられる。
万力で潰されて、夢が終わった。
一つは、私は奴隷だった。
数えきれないぐらいの人にこき使われて、玩具の様に扱われた。
体中に蛆が湧いた火傷まみれの男に、性の捌け口にされている最中に夢が終わった。
一つ、手を切り落とされてソレを食べさせられた。
一つ、秘所にナイフを突き立てられて、かき回すようにズタズタにされた。
一つ、カゴの中に押し込められて油をかけて燃やされた。
一つ、電流を体中に流されて、熱した電線で目を焼き潰された。
打撃/悲鳴/斬撃/絶叫/痛覚/恐怖/怒号/炸裂/暴虐。
恐怖/嗚咽/慟哭/失禁/狂乱/喪失/自失。
死/死/死/死/死死死死死/死/死/死/シ/死死死死死死死死死死死。
一つずつ、理不尽が積み重なってゆく。
まるでとても楽しいことをしている様に、どいつもこいつも笑っていた。
「狂った子だ。殺せ」
そうやって言いながら、どいつもこいつも笑っていた。
悪意の塊の様に見えた。
私よりも、ずっと悪魔らしいと思えた。
―――最後の一つは、間違いなく最悪だった。
かつての紅魔館の地下室。
私は身体を鉄枷で固定されている。
目の前には咲夜。
それに、お姉様が立っていた。
その概から、幾らでも恐怖が感じられた。
悪意、そう形容することは正しくない。
意識を凍りつかせる程の圧迫。
目の前の姉は私を目の前にしながら何もしない。
無論それは拘束されている私のように何も出来ないからじゃない。
何もする必要がないからだ。
獅子と、その獲物。
関係を表すならばその辺りが相応しい。
出会ったなら、獲物は殺される。
そこに、もしもなんて情け容赦は無い。
確定している未来。
そう、
死ぬ。必ず死ぬ。
この状況下での焦りが、思考を酷く脆弱なものにする。
腕が落ちる。脚が落ちる。目が抉られる。血が噴き出る。
きっと焼ける。きっと凍りつく。爛れてへし折れて自分の体ではなくなる。
薙ぎ倒される。叩き潰される。引き千切られる。きっと身体は脆く四散する。
その程度しか想像できない。きっともっともっともっともっと苦しみがある。
そこまでの事をされても何も不思議はない。
目の前の姉が纏っているのは、殺気。
きっとなんて余地は残さない。
絶対に死ぬ。こうして目の前に向き合ったからには必ず殺される。
肌が粟立つ。
恐怖より毛が逆立つ。
動くことは枷のおかげで元より出来ないけれど、きっと、枷なんて、無くても。
鋭い刃物を突きつけられたわけでもない。
ただ、こちらを向いているだけ。
それだけで、それ程だった。
お姉様が口を動かす。
「気狂いめ」
手を動かして咲夜に合図すると、咲夜はナイフを取り出す。
銀の輝きが、私の左肩に飛び込んだ。
「あ゛あ゛あ゛あああああああアアアアアアアアアアアアア!!」
肩を真っ直ぐに突き刺す。
ナイフが刺さったところから、ぼたぼたと紅色が滲みだして床に落ちた。
「痛っ…イダいよぉ゛!!!やめっ…やめてぇ゛゛」
精一杯の懇願を吐く。
しかし。
「黙れ」
懇願は再度の合図によって遮られる。
咲夜が勢いをつけて刺さったナイフを振り抜くと、左腕がぼとりと落ちた。
もう一度上がる私の口から悲鳴。
「耳障りだと言っているだろう」
二本目のナイフは、喉に突き刺さった。
首が落ちかねないほどの勢いで突き刺さるナイフが血飛沫を上げさせる。
もう悲鳴をあげようとしても、赤い泡がごぽごぽと漏れるだけだった。
「お前は、生まれてくるべきじゃなかったよフラン」
苛立った目を向けられた。
その目は、私の全てを否定していた。
向けられた目が怖くて、否定がただ悲しくて。
涙が、止めどなく溢れてきた。
それでもお姉様は顔色を変えない。
状況は好転するばかりか、凍てつくような声で
「…もういい。せめて私の手で死ね」
そう言い放ち、咲夜を下がらせて近づいてくる。
深く私に食い込んだナイフが揺れるのに構わず、ぶんぶんと首を左右に振って止めるように頼んだ。
懇願は、歯牙にもかけられなかった。
光る槍が手の中に形成されてゆく。
切っ先が心臓に向けられているというのに、何も出来ずにいた。
「さようなら。フラン」
熱を一切宿していないような冷たい目で。
どこにも情けの無い力で私の胸に槍を突き立てる。
刺さる、なんて生やさしいものじゃない。
身体に付いていた肉が根こそぎ持って行かれた。
…そんなに、私を殺したかったの?
…私は、そんなにもいらない子だったの?
そんな思考で、せめて目の前の姉を呪った。
////
目が覚める。外はまだ暗い。
全ての光景が鮮明に脳裏に焼き付いていた。
身体は震えて歯の根が合わない。
力がろくに入らない腕で、必死に自身を抱く。
ちょうど蜘蛛が脚を這わせるようにして、身体をなぞってゆく。
腕はちゃんと繋がっていて何処にも落ちていない。
喉も心臓もちゃんと無事で、ケガはしていない事はすぐに分かった。
殴られる痛みも切られる痛みも嘘だった。
「ひっ…………うっ…っ…えぐっ…」
それでも。
それでも恐怖は脳髄に染み込んだように離れてくれなかった。
現実のものではないと分かっていてもただ怖く。
涙が溢れて止まってくれなかった。
痛かった。怖かった。
けれど、それ以上に悲しかった。
夢のなかで幾度となく繰り返されて今もなお耳の奥で反響しているような言葉。
『壊れている。』と。
私の価値を無にまで落とす一言。
えぐり取られたような心の痛みは、どうあっても否定できなかった。
地下にいた頃慣れてしまったはずの言葉が、どうしてなのかこんなにも悲しかった。
「紫っ…」
名を呼ぶ。
「紫っ…紫っ……ゆかり…ぃ…っ…」
母にすがる幼児のように。
情けなく。ただ、何度も呼びつづける。
「ゆか…りっ……」
今出せる精一杯の、小さな小さな声を身体から搾り出した。
願いは誰にも届くことはない。
いくら呼んでも、一人のままだった。
身を覆い包み隠す悪寒が消えない。
未だ耳に残る笑い声が、まるで耳に縫いつけられたようで。
この部屋には廊下へ繋ぐための襖が一つ。
洋風の建物でいう窓扱いの障子が一つ。
対極に位置するそれらを同時に見張る手段がない。
…ここではダメだ。
見張ることが出来ない死角から何が這い出てくるか判ったものじゃない。
布団を抜け出す。
震える足で転びそうになりながらもなんとか歩き出す。
がちがちと鳴る歯は自分のものではないみたいに言うことをきかない。
汗をかくほどに暑いというのに寒気を感じる矛盾を抱えて、ただ逃げた。
だって、こんなにも。
ずちゃずちゃと音を立てて舐め回す視線が、夢から現に出てきそうに感じられるから。
一歩でも歩が鈍れば、後ろから再三の暴力が来ると感じた。
ある訳がないとどこかで思っていても。
繰り返された一言のせいで、それを全て否定しきれるだけの冷静な思考は既に無かった。
ばかみたいだと思った。
愚直に逃げて逃げて逃げて逃げて隠れ場所を探す自分が酷く矮小な塵のように思えた。
足が震えるせいで何度も転んだ。戸を開けては閉めてを繰り返して安心出来る場所を求めた。
ばかみたいと思っても、ただ怖かった。
◆ ◆ ◆
散々探し回った後、行き着いたのは書庫だった。
それなりに分厚い壁と、一つしか無い出入口はなんとか妥協できる程度の隠れ場所。
それでも、まだ安息には程遠いものだった。
背中にできるだけ壁を密着させ、入り口からできるだけの距離を取る。
「ゆかり…」
返事がないことなど分かりきっている。
それでも呟かずにはいられなかった。
頭を両腕で覆い隠す。
こんなのに一秒だって耐えられないのに、ずっと続いている。
酷い、矛盾だ。
ずっと一人で地下室にいたはずで、あの時はずっと一人で過ごして行ければ良いと思っていた。
なのに今はこんなにも、独りでいるのが怖い。
無制限に押し寄せてくる狂気。
殴られていたり蹴られていたりしたりしていない事なんて何ら重要ではない。
もはや周りの空間全てが敵に思える。
背中を預けている壁すら、何かの合図があればきっと、私の敵になる。
…違う。私の敵になるんじゃない。
敵は周りじゃなくて、私が敵なんだ。
――ずっと、そうやって扱われてきた。
過剰と思える程頑丈な壁と扉と床でどう足掻いても出られないように、閉じ込められてきた。
妖精メイドが私に向ける目は何時だって畏怖だった。
お姉様が私を見る目は侮蔑にすら値しないような、冷たいものだった。
向けられる言葉が無くとも、『気狂い』だとずっと言われていた。
だから閉じ込められた。ずっとそうやって扱われてきた。
ごぷ、と胃から物がせり上がってくる。
夢の中で蹴りあげられる映像と感覚が蘇って、そのまま吐き出した。
吐瀉物が床に水音を立てて落ちる。
口の端から未だに出てくる胃液を拭うことも出来ず、ただ両手で耳をふさいだ。
――『気狂い』と扱われることが余りにも日常になってしまって。
すっかり慣れきってしまった事が、何よりも狂っていたんだろう。
寂しいと感じなくなったことは、神経を侵される程の凍傷を負っていたんだろう。
きっと、凍傷は、ここに来てからの生活ですっかりと溶けきってしまった。
「―――、ゃ」
もう何も見たくなくて目を精一杯閉じる。
固く、もう二度と開かなくてもいいと思える程に強く。
それでも、脳裏に焼き付いてしまった暴力は緩和されることは無かったし、瞼の裏側で延々と再生され続けた。
――例えるのなら、飼い犬のような。
餌を与えられてずっと温かい場所で生きてきた犬は、飼い主が居なくなったらそれだけで生きて行けないだろう。
依存しきっているその受身でしか無い立場は、きっと的確に私を表している。
もう、ここにしか居場所はないんだろう。
ここ以外で生きて行こうなんて、それこそ、幻想。
「―――ゃだ…よぅ」
抑えつけるように必死で自身を抱く。
ますます膨らんでいく恐怖に押しつぶされそうで、ただ怖い。
「―――やだよ…紫…」
意味のない言葉。
何も成さない言葉を、部屋の隅で小さくなって繰り返す。
―――ひとりは、もう、やだよ。
指が皮膚に喰い込む。
血がでるのに構わずに力は緩まない。
怖い。一人が怖い。
藍が居ないのが怖い。紫が居ないのが怖い。
悪寒に身体が震え続ける。
息が荒ぐ。止めることも出来ずに加速してゆく。
ぼたりと、傷口から出た血と共に涙が落ちた。
怖、い。
堪らなく怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い、怖いよ。
助け、て。
「―――フラン?」
声が聞こえた。
疲弊しきった顔を上げる。
求めていた人が、顔を覗き込んでいた。
…初めて会った場所も、そういえばここだったななんて思いながら、
「ゆか、り」
胃酸で焼けた喉で、名を呼んで抱きついた。
きっと、酷い顔をしている。
ずっと泣いていたから、目が腫れてしまっているだろう。
それを、紫は優しく抱きとめてくれた。
「怖、かった…」
まるで、身体相応の子供の様な事を言っている。
紫は抱きしめながら、背中をトントンと叩いてくる。
それだけで、安心できた。
なんとか呼吸が次第に落ち着いてくる。
「…ごめんなさいね。一人にしてしまって」
紫は全然悪くないのに、そうやって謝る。
首を振って、紫は悪くないって意志を伝えた。
もう少し、強く抱きつく。
何よりも、安心できた。
…ただ、嬉しかった。
◆ ◆ ◆
今夜も、同じ布団で眠る。
「…朝は、よく判らないこと言ってごめんなさい。変な夢を見て、怖かった、から」
「いいのよ。泣きたい時くらい、泣いておきなさい」
「…でも、迷惑、かけて」
「そんな事無いし、第一そんな事心配しなくていいの」
あくまで、紫はずっと優しい態度でいる。
それこそこちらが申し訳なくなるぐらいに。
なんで、私にここまで。
「…私は、気狂いなのに」
つい、そう呟いた。
呟きに返す声はなく。
ただ、頭を撫でることが返事だった。
もはや、向けられる善意に罪悪感すら沸いてしまう。
「なんで、私に、こんな優しく…」
「貴女は、気狂いなんかじゃない。ただ、周りがそう扱っただけ」
…何を、言うのだろうか。
気狂いじゃないなんて。
壊れて、いないなんて。
周りから、ただ一人の肉親だった姉からもそうやって扱われてきたのに、今更。
「貴女の周りが冷たかったから、貴女がそう思ってしまっただけ。壊す意外なにももっていなかった貴女にそれ以外何も与えなかった周りが、臆病だっただけ。…それは、とても悲しいこと」
私の顔を正面から見据えて話す紫。
撫でる手が震えていたわけでもない。
口から嗚咽が漏れているわけでもなかったし、涙が流れているわけでもないけれど。
どこか、悲しそうだと思った。
…心配、してくれているのかな。
そんな事してくれる人なんて、今まで居なかったからよく判らないけれど。
「貴女は壊れてなんかないから、…そんな悲しいこと言うのは、やめなさい?笑っていたほうが、きっと楽しいから」
撫でる手が、私を抱きしめた。
静かな部屋の中、紫の心音が私の耳に響いた。
私よりも大きくて、しっかりとした音だった。
こちらからも抱きついて、心臓の音を重ねた。
―――壊れていない。
誰かに、そうやっていって欲しかった。
その言葉をずっと待っていて、その言葉が堪らなく嬉しかった。
「私は、貴方の血縁じゃない。母でも、姉でもない。…けれど、貴女の家族になれないかしら?」
いつのまにやら、重ねた心音はそのリズムまで同じになっていた。
心地よい温もりが、彼女の全てを包んでいた。
紫の考えることはよく判らない。
私に優しくして、何の得があるのかなんて全然想像できない。
本当に、判らないけれど。
―――けれど、それでもきっと。
495年間。欲しかったのは広い地下室でも、たくさんのメイドでも、紅魔館の偉大な悪魔の妹なんて肩書きでもない。
きっと、こういう温もりが、ずっと欲しかった。
恐らく、或いは、こう言ってくれる人を、ずっと待っていた。
「…そうね、今度またお月見をしましょう。他の人も呼んで賑やかに宴会でもしましょう。境界を弄って何処にでも行きましょう。495年間何も出来なかったのなら、一緒に、なんでも楽しいことをしましょう」
…いつか望んでいた夢みたいに幸せな事が自分に有ることが、信じられない。
果てしなく距離のある夢だった。
手を伸ばすことすら、馬鹿みたいだと笑われそうな夢だった。
けれど、今その夢は現になって私の目の前にある。
今の現実こそ、いつしかの夢。
どこまでも純粋でキレイな、少女の夢だった。
―――どうか、この夢が壊れてしまうことのないように。
温もりは一人では得られない。
495年間、ずっと彼女が手にしていなかったものだった。
この現実がずっと続いて欲しいと、それだけを願う。
あまりにも平凡な夢だが、それが有れば彼女には十分だった。
495年間続いた孤独。
495年間ポッカリと空いていたスキマが、今埋まった。
何もかもに安堵して、彼女は眼を閉じる。
抱く腕に限りない信頼を寄せながら、意識が落ちてゆく。
カミサマなんて、いるのかも判らないけれど。
もし、誰かが叶えてくれるのなら、ずっとこの夢のような現実が続いて欲しい。
どうか、ずっと、続いて欲しい。どうか、誰にも壊されないで欲しい。
―――願わくばどうか、私が壊してしまいませんように。
そう願って、彼女は眠りについた。
事実、他の作品にはそう言った酷い表現が有るときは付けています。また、原作を無視しているなら、その
事も必要です。
あと、レミリアを筆頭とする紅魔館メンバーはいったい何をして、幻想郷から処分されたのでしょうか?何故、
フランドールだけが八雲家に手厚く保護される様になったのですか?何故、レミリアはフランドールを「気狂
い」として地下室に監禁したのですか?八雲濫の式の橙が登場していませんが、登場させなかった理由は?
他にも分からない事は沢山有りますが、少なくともこれ等の明確な理由が無ければ誰も納得しないし、良い作
品といえません。
処分とはなんだったのか。紅魔館が崩壊したとは一体なんだったのかが分かりませんでした。
一方で、同じ日常生活の描写が繰り返されるのは、ちょっと退屈です。
テーマ自体はいいと思いますが、その調理法を誤っているという感じ。
内容ですが、話に整合性が欠けている気がします。また、紫の意図や紅魔館で何が起こったのかなどがよくわからず、読後感もあまりよくありません。もう少しボリュームを増やしてその辺りを説明してくれるといいかなと思いました。
ただ、加筆修正すれば化けそうなお話ではあったのでこの点数で。
どうしてフランはまだ外に出ることを許されていないことになっているのですか?
どうしてフランだけ処分されなかったのですか?
紫がフランを助ける義理はあるのですか?
物語が終わってしまったのが残念なところです。
けれど、フランの心情描写はとても良く描けていたと思います。
八雲家での淡々とした生活のなかで彼女の淋しさ、孤独感が
切々と語られているところは、とても好みでした。
そのフランの物悲しさが、藍と紫の母性あふれる優しさを際立たせて
いて良い感じなだけに、物語の背景の説得力がないのがとても悔やまれます。
このフランはとても自分好みなので次回作に期待します。
レミリア達がどうなったとか
設定をしっかりすればきっと良くなると思います。
文章自体は好きですので、これからに期待したい。
フランの一人称かつ心情描写に重きを置く、という為に、あえて多くを語らず、といった手法なのかなとうがってみるテスト。
それでもまあ、確かに気になるところが未消化に終わってる感は否めないし、オチが少々弱いのもあいまって、読後感があまり良くない印象を受けました。
話の構成自体でまず好き嫌いが分かれるんじゃないかな……私は面白かった。
誤字報告
「何時も」は「いつも」だと思われます。
それと、ちょっと細かいですが、三点リーダやダッシュは「……」「――」と二つずつ使うのが正式な書き方です。結構見栄えが良くなる(と思う)ので、オススメしてみたr
狂っているのはフランでも紅魔館の皆でもなく貴方です。
人それぞれの世界観があって新しい見方もあっておもしろいですしね
頑張ってください
で、評価ですがこの話は伏線がかなり拾われてないようですが続きものでしょうか?
伏線をすべて拾って終わらせたほうがいいと思います
フランについて「だけ」の描写はまずまずと思いますが、その他の、つまり紅魔館メンバーの処分と理由についてをはじめとする冒頭の描写がほとんどなされていなかったのが残念です。
もう少し加筆修正や表現や描写の修正をすれば化けるかと思い、この点数で。
突然の状況に状況が把握できない点が多いですが、それはそれで謎を残した方が面白いと思いました。
ただ、それは続きがあるという前提での期待感からくるものだと思うので
話に続きがあるなら非常に楽しみです。
続かないのなら残念の一言。
オチがないのは続きがあるからかもしれないので半分点数を入れとく
一端SS投稿やめて、1年ROMれ
グロ等の注意がなかった事は完全に忘れていました。申し訳ありません、後日注意を入れる修正をします。
紅メンバーや橙が出ないこと、紫の行動など展開について
これは言い訳できる部分はありません。
>26様が言われている事が正解のようなものです。行動理由など自分の中では考えていましたし書いた物もあるのですが残酷表現が強い、五倍程度に尺が長くなる。自分がこのような理由付けのない理不尽な作品が好きだった事もありました。
何よりフランドール・スカーレットというキャラを自分なりに書いてゆく上で不必要だと思いカットし、現在の展開にしました。
そもそも某排水口向きの作品だったかなとも思います。
全て自分が招いたことです。注意無しで作品を読んでしまい不快になった方にこの場で謝罪します。
本当に申し訳ありませんでした。
一読、酷評されるような作品ではないと感じます。
原作を無視している、グロテスクな表現を含む、説明が不足している等は問題ではありません。著者様が読者に対して、上記のような謝罪をする行為が問題だと考えます。
著者様は、自分の好きな登場人物、好きな雰囲気、好きな文体で作品を書かれたのだと思います。創作を行いもしない他人の辛辣、悪辣なコメントに対して、謝罪をすべきではありません。
感想は感想であり、それ以上でもそれ以下でもありません。投稿所のルールを犯しているわけでないのなら、威風堂々としていればよいのではないでしょうか。
それに、ここはアマチュアの書く二次創作を広く募り、誰もが無料で好きに読むことができる場所です。そんな場において、読み手に対する過度な配慮は不要だと思います。
たとえ読み手が不快になろうと、書き手に責任はありません。すべては読み手の自己責任であり、匿名でコメントを残してまで書き手を罵倒する陰湿な行為は、唾棄すべき理不尽な責任転嫁と受け取れます。
そのような誠実さに欠けた意見に、著者様が負い目を感じることはありません。
どうか、今後も己の作風と信念を曲げることなく、少しずつ書き手としてのレベル・アップを図っていってください。
最後になりましたが、わたし個人としては、この作品のテーマは好きです。
フランドールの心境の変化と、新たな家族となった八雲家メンバの愛は、伝わりました。
強いて苦言を呈するならば、もう少し風景や表情などの描写が欲しかったところです。
が、長きに渡って監禁状態にあったフランドールの視点で描かれているので、それも一つの表現手法と捉えれば何ら不都合はありませんね。
是非とも続編など書いてこうなった経緯などが明らかになるといいな、と。
それと、誤字報告です
屋敷の中には私を覗いて誰も
覗いて→除いて
とりあえず私としては大好物だったので面白かったです
一切説明しないというのも間違いではないと思います
フランが紫から受けた安心感、彼女達がいなくなった時の孤独感や恐怖が伝わってくるようでした
グロはセーフの範囲内ですしここで出すのは全く問題ないと思いますよ
残酷表現ありという注意書きはネタバレになっているしいらなかったかなと思いました
中盤までのほのぼのシーンの時この先グロやバッドになるのかと思うといまいち没頭できなかったです
それと橙は紫たちと基本的に別居ですし登場させなくても問題なかったと思います
紫や藍とのシーンはとても良かったですし次作に期待しています
ただ中途半端な終わり方。敢えてなのかカットしたのかは分からないがもう少し結を見ていたかったなあと。
あと作者自身の不器用さには同情せざるを得ない。
話自体はよくできてる
書きたいことをしっかりと描写してるところに好感がもてる。
惜しむべくは背景説明の少なさその一点。
私は注意文のおかげで覚悟完了状態でしっかりと楽しめました。面白かったです圧倒されるような感情の濁流。
こういうのがあるから二次創作はやめられない。
原作と大きく違う点ということで作者側が提示する新しい設定を期待していたのですが、残念です。
途中からこの作品が、紫というキャラを借りた作者さまが哀れなフランドールを癒すのが目的の作品であり、それ以外の設定はどうでもいいことに気づきました。
カットされた部分とやらを公開すれば違うのかもしれない
遅いだろうけど、見てみたいと思った
自分的にはとてもいい作品作品だと思いました。
最初は、輪郭をなぞるようにフランの置かれてる立場を明かしていくのかと思ったので、そこは拍子抜け
個人的に、話の中に極端な悪役と極端に無垢な役を、しかも原作キャラをそこに配置するのは、とても安易な手法だと思う
ここのルールには沿っているけど、二次創作である以上読む側はどうしても原作設定を無視しきれないので、点は半分