「なるほど、事情は分かりました。他ならぬ閻魔様の頼みと有っては、断るわけにも行かないでしょうから」
「すみません、暫くの間お世話になります」
ぺこりと頭を下げる、白に近い銀色の髪の少女。
その傍らには、地底には珍しい幽霊が浮いている。
事の始まりは先週、是非曲直庁より来た一通の手紙。
閻魔・四季映姫様直々の手紙など今まで余り無かったので何事かと思ったが、読んでみれば紹介状らしく、目の前の少女が暫くしたら地霊殿に来るので世話をしてやってくれ、と言う内容だった。詳しい事はその少女に聞いてくれ、とも。
しかし、地底に住んでいる自分が言うのも何だが、ここは妖怪にすら嫌われているような存在の集まる場所だ。
今この少女に聞いた話では、こちらに来てまでわざわざやらせるほど重要な事なのだろうか。
いや、考えてもしょうがない。
あの方は我々の常識外の存在なのだから、私はただ頼まれた事をこなせば良い。
「で、ええと、魂魄さんですか」
「魂魄妖夢です、妖夢とお呼び下さい」
「では妖夢さん、霊を操れるようになりたいと言う事ですが」
「はい、主人である西行寺幽々子様にそのように言われています」
「……なるほど、人魂灯を二度も無くしてしまったと。それであなたの主人に、もう貸す事は出来ないと叱られてしまったんですね」
「な、何故それを!」
目の前の少女はここに来る事になった原因を当てられて驚いている。
「あら、あなたの主人なり閻魔様なりから聞いていないんですか、私の能力を」
「えと、幽々子様からは霊を操る事が出来ると言う話でしたが」
「それは本来の能力の副次的なものに過ぎません」
「え、では」
「では問題です、何故私は言葉を語る術のない霊を操る事が出来るのでしょうか」
「え、え?」
頭の上に疑問符が三、四個浮かんだ状態でいきなり振られた質問に何とか答えようとする。
別に答えなくても構わないのだが、生来真面目なのだろう。面白いから口に出すまでは何も反応しないでおこう。
「物凄い実力者だから、とか」
「外れです、それにそれだと答えになっていません」
「ええと、じゃああらゆる術を扱えるとか」
頭の中に仙術、魔術の類を思い浮べている。
「それも外れ」
また暫く考え込む。
「うーん、超能力者、なんて事は無いだろうしなぁ」
「あら近い」
「え!?まさか本当に超能力者とか」
「超能力にも同じような能力が有りますが、これは私と言う種族固有の能力です」
「そう言えば古明地さんって何の妖怪なんですか?」
「それを言うと答えになってしまうので教えてあげません。まぁ、今日のところは時間切れと言う事で」
「そんなぁ、ここまで引っ張っておいて答え無しですか?」
「地底にいる間に答えが分かると良いですね」
「うぅ、また半人前扱いされてるのかなぁ」
ぶつぶつ、と自分が対等な扱いを受けるに値しないのだろうかと考え込んでいた。
「それと本題に入る前に一つだけ。私の場合霊を操れると言っても先天的、生まれつきの能力によるものが大きいのです」
「では、私には出来ないのでしょうか」
「いえいえ、ペットの中に霊を操れるようになった子が居ますから、その子と同じようにやればきっとあなたにも出来るはずですよ」
「ペット、ですか?」
動物と言葉が通じるだろうかと心配している。
「ああ、大丈夫ですよ、言葉は話せますので」
「それは助かります」
「私よりもその子に聞く方が良いと思いましたので、こちらに呼んでいます。もうそろそろ来るはずですが」
コンコンコンと3回ノックが響く。
「入りなさい」
「お呼びでしょうか、さとり様」
「ええ。こちらは魂魄妖夢さん、是非曲直庁の閻魔様の紹介でこちらに見えています。失礼の無いようにね」
「これはどうも。火焔猫燐と申します」
閻魔様紹介のお客様と言う事もあって、いつもより畏まって深く頭を下げる。
「あ、いえそんなに畏まって頂かなくても大丈夫です」
「ん、そうかい?それじゃよろしくねお姉さん。あたいの事もお燐って呼んで貰えるとありがたいよ」
途端にフランクになるお燐。
「はい、よろしくお燐」
「あの、それでその、ペットって言うのは」
顔を赤らめて、私がお燐を"躾けて"いる姿を想像していた。
「そう言う意味ではありませんよ。今は人の形を取っていますが、お燐の本来の姿は猫ですから」
「あ、そそ、そうですよね!すみません」
と想像していた事を必死にかき消そうとする。
「最もお望みとあれば、そのようにしても構いませんが」
私はお燐の喉を撫でるように手を這わせる。
「な、なな」
「冗談ですよ」
「冗談にしては性質が悪いです……」
「では冗談はこのくらいにして。お燐、あなたは怨霊を操れたわよね」
「はい」
「その怨霊を操る術を妖夢さんに教えて欲しいの」
「あ、閻魔様からの依頼ってそれだったんですね、分かりました!あたいにお任せ下さい」
こぶしを作り、胸をどんと叩いてみせる。
「よろしくお願いします」
・・・
早速当日から、私はお燐について霊の操り方を習う事にした。
「んーとそれじゃあお姉さん、まずそこいらにいる怨霊を操るには、二通りの方法が有るんだ」
「はい」
「一つは霊に語りかける、つまり会話をして理解して貰うって方法。ただ、これには本人の資質とそれなりの時間が必要だけどね。お姉さんは半分霊って事だから、割と早く話せるようになるかもね」
「なるほど。でも、幽霊と話した経験なんて無いです」
幽霊と話すなんて怖い事思いつきもしなかった。
「んじゃもう一つの方法、相手に自分の方が偉いって事を分からせて従わせるんだ」
「そっちの方が手っ取り早そうですね」
「そう、でも怨霊なんかは自分勝手でいつも誰かを恨んで行動しているから、何発かぶん殴ってやんないといけないけどね」
「幽霊は大人しいですけど、怨霊はやはり違うんですね」
「まぁ、怨霊を操れるようになったら、幽霊なんて楽勝だと思うよ」
「さて、それじゃあそこいらに居る怨霊を操ってみようか」
「はい!」
私は気合を入れてお燐が実演する様子を見ている。
「やあやあ、お兄さん元気にしてるかい?何、最近は滅法寒くなって来て怨めしいだって?そうかいそうかい、あたいも猫だしね、その辛さは分かるよ。あそうそう、最近暖かい場所を見つけてさ、ここを真っ直ぐ行って三つ目の角を曲がったところにある場所なんだけどね、一度はまるとこれがなかなか。うん、お兄さんも行ってみると良いよ、それじゃあね」
怨霊は今言われたところへ、ふらふらと飛んで行った。
「こんな具合さ。うん、どうかしたかい?」
「いえその、考えていた事と全然違うなぁと」
正直、霊と話しをするって言うのは何か特別なものなんだと思っていた。
「あはは。何か特別な呪文でも必要かと思った?残念だけど普通に話しが出来るようになればあれで十分なのさ」
お燐が言うには怨霊の今望んでいる事を見抜いて、それに合う条件を引き出して納得させれば良いらしい。
そこは普通の交渉ごとと全く変わらないそうだ。
それに怨霊は年がら年中怨みで頭が一杯だから、嘘を吐かれてもすぐに忘れてしまうとも。
「うーん、やはり私にはこの方法は向いていなさそうです。口下手とは言いませんが、それほど上手と言うわけでもないので」
それに嘘を吐くという事に抵抗も有る。
「そうかい?んじゃもう一つの方法を試してみようか」
「はい」
「それじゃあ相手を説得出来なかった時の荒事だ」
と、いかにも凶暴そうな怨霊に向かって行く。
怨霊がこちらに気付き威嚇したかと思うと、お燐に向かい襲い掛かる。
はっと剣を構えた時には、かかと落とし一閃、そのまま足蹴にされている怨霊がいた。
「なんだいあんた、まだ懲りないのかい?ここで暴れたらどうなるかこの前もこうやって教えた筈だけど、ね」
怨霊は踏まれたまま靴の裏で力の逃げ場を作らせないように捻られる。
「いいかい、ここはさとり様の庭なんだ、勝手な事をされちゃ困るんだよ」
怨霊は震えて、すみませんでしたとでも言うようにコクコクと頷いている。
「よし、それじゃ地底の奥に戻りな」
足を緩めたかと思うと、そのまま前方へ蹴り抜く。地面に何度かぶつかり、怨霊は姿勢を取り戻すや一目散に地底の奥へと逃げて行った。
「と、こんな感じだね」
「すごいです」
素直に感心する。かかとが一瞬上がったのは見えたが、気が付いたら怨霊が踏み抜かれていた。
剣でこそ負ける気はしないけど、恐らく体術では敵わないだろう。
そもそも動きのしなやかさが見ていても全く違う。
そう言えば猫なんだっけこの人。
「必要なのは相手を怯ませるだけのはったりと、組み伏せるだけの腕っ節だね。まぁでも交渉ごとも腕っ節も、要はこっちの要求を通すための手段でしかないんだけどねー」
「そんな事ないです、あれだけの腕前なら十分それだけでやって行けますよ」
だけどそんな私の言葉に返って気落ちしたのか、溜め息をついている。何か自信を失う事でも有ったんだろうか。
「いや何か最近さぁ、ああ言うのやると喜ぶ奴が出て来てさ。素足で踏んで下さいとか言われても反応に困るんだよねぇ、踏むけど」
あ、勿論靴は履いたままね、と付け加える。
「そう言えばこの前私が会った天人も切られて喜んでましたね」
剣が通じないのであれば己の未熟さと割り切れるが、通じてなおもっと切ってと言われると自分の剣が何であるのかを見失いそうになる。
「そう言うの流行りなのかねぇ」
「そうですねぇ」
二人ともたそがれて時間が過ぎて行く。
・・・
地霊殿のお風呂は、それは広かった。悠に百人はゆったりと入れるほど。
「今の時間ならほぼ貸切だから、遠慮せずに使って良いよ」
と言ってくれた。
「でも、これだけ広いと申し訳ない気もするよね」
昼間のように教え・教わる関係ではないので丁寧さを抜いて話す。
「良いの良いの、そぉれ」
お燐はそんな事はお構い無しに早速湯船に飛び込んで水しぶきを上げる。
だが周りをよく確認しなかったのが災いした。
「お燐、ちょっといらっしゃい」
さとりさんが居たのに気付かなかったらしい。
「げげぇ!さとり様」
慌てて逃げようとするお燐だが、時既に遅かった。
さとりさんが何処からか出した縄がお燐の足を捉えて哀れにもびたぁんとスノコにキスをする。
そこにゆらりと近付く影。
ひとつ、ふたつ、みっつ!と鉄拳による制裁がお燐に加えられた。
「あー、痛かったー」
殴られた部分をさすりながら、ぷかぷかと湯船に浮いて泳いでいる。
「周りを見ずに飛び込むからいけないんですよ」
「はぁい、すみませんでした」
泳いでいるお燐が私の前を通り過ぎた時に、あるものがふと目に付いた。
「あれ、そのお腹の傷は?」
「これかい?怨霊相手に色々と試してる時にやられた傷だよ」
「あ、やっぱりそう言う事も有るんだ」
「正確には有ったって言うのが正しいかな、昔はあたいもどうすれば怨霊を操れるか良く分からなかったから、手探りでやってた時が有ってさ、かなり重傷になった事も何度か有ったね」
「この子ったら、一度何かに熱中し始めると周りは見ないし、私の言う事も聞かなくて大変なんですよ」
さとりさんがお燐をジト目で非難する。
「毎日のように怪我をこさえて帰って来る、その怪我が段々酷くなってお医者さんが必要になる、絶対安静が必要な重傷になっても勝手にベッドから抜け出してまた同じ事をやらかす。全く見てるこっちは心配で堪らないのに」
「あははは……」
私にも似たような気質が有るので、人の事は言えない。
「まぁ、結局最後は私が折れて、必ず私が同行する事で手を打たせましたけどね」
「うー、あの時は本当にすみませんでした」
「分かっていれば良いんですよ、分かっていればね」
「分かってます、はい。重々心の中に控えて忘れないようにしてますから」
ああ、何だか良いなぁ、こう言う関係って。
「あ、じゃあ私に教えてる事って、その成果って事?」
「うーん、そうだねぇ、そう言う事になるのかな」
「試行錯誤してようやく形になったものなのに、そんな対価も無しに簡単に教えちゃって良いの?」
「良いんですよ。お燐は得るまでの過程がどうであっても、それを独り占めするような了見の狭い子じゃ有りませんから」
さとりさんが横から、そこは間違い無いと言う。
「それに」
「それに?」
「『周公の才の美有も、驕且つ吝ならしめば、其の余は観るに足らざるのみ』と言います。いかに才能があっても、それに驕り、自らにのみ固執して了見の狭い人物と言うのは見るに値しないものです」
「なるほど、反面教師としては十分ですね」
「ええ、あなたに剣を教えた人も、あなたの主人もそのような事はしないですよね」
「そうですね、絶対にそんな事は」
私の師匠も幽々子様も、決してそのような振る舞いはして来なかった。
それは私も間違い無いと胸を張って言える。それはきっと私が恵まれていると言う事だろう。
「さて、長湯をしてしまいましたので先に上がりますね。明日も早いのでしょうから、ほどほどにね」
「あ、はい」
「はーい」
・・・
二日目はお燐が怨霊の傾向を教えてくれた。
怨霊全てに共通する性質、個体差によって発生する差異、またそれへの対策。
それを繰り返して覚える事にその日は費やされた。
三日目は怨霊との会話の仕方と言うよりは、怨霊がこうしたらこう言う気分になってると言うパターン。
良くまとめられていて、怨霊の挙動だけでほぼ相手の気分が分かるようになっているので、危険な状態と言うのもすぐに分かる。
この辺は主にさとりさんとの共同作業で出来た部分らしい。
四日目になってようやく怨霊と対峙する。
今まで覚えた事を実際に活かす事を最優先に進める。
五日目は凶暴になって手の付けられない怨霊に対処する。
基本的に相手の心を静めるか折れば勝ちだ。
これは得意分野なので割と楽に済んだ。
六日目は怨霊の心を相手にして自分を保つための実験。
これも剣の修行の成果か、数日掛ける予定が一日で終わった。
・・・
地霊殿に来て丁度一週間。
「よし、それじゃ締めだ。あの怨霊を操ってみせな」
「はい!」
見境なく暴れている怨霊に対して気付かれないよう素早く、抜き身の剣をひたりと押し当てる。
「少しよろしいですか、いえお時間は取らせません」
剣に一切の曇りも無く、相手を見る目も決して揺るぎなく射抜くように見つめ、静かにゆっくりと低音を意識して話す。
「よろしければ私に従って頂けると嬉しいのですが」
先程まで暴れていた怨霊が、顔を青くして頷いていた。
良かった、どうやら成功のようだ。
「ありがとうございます」
怨霊は私の後に大人しく着いて来ている。
「一週間でここまでとは上出来だね、お姉さん」
「そう言って貰えると嬉しいです」
「これであたいから教えるのはお終い、後は自分なりに工夫して行くと良いよ」
「はい。ご教授、ありがとうございました」
私はぺこりと頭を下げる。
これで全て終わった。幽々子様からの指示も果たした事になるだろう。
白玉楼にようやく帰れるんだ。
「いやー、それにしてもこれでお姉さんともお別れかと思うと、少し寂しくなるね」
「そうね、私も寂しいかな」
「とか何とか言って、本当は主人のところに戻れるから嬉しい癖に」
「はは、それは否定出来ない」
その夜はお別れ会という事で、皆してどんちゃん騒ぎで過ごした。
・・・
出発の日、さとりさんとお燐が見送りに来てくれていた。
私はお世話になったお礼とお別れの挨拶をする。
「それでは、お世話になりました」
「はい、ここはまた来て良いような場所では無いですけれど、縁が有ればまた会いましょう」
「それじゃあね、今度はこっちから遊びに行くから」
さとりさんの顔を見て思い出した。
「あ、そう言えばさとりさんの能力って結局のところ何だったんでしょう」
「え、お姉さん知らなかったのかい?さとり様の能力はむぐっ」
能力について言おうとしたお燐の口が塞がれる。
「それは、帰ってからご主人か閻魔様にでも聞いて下さい、ここで正解を言うのも無粋でしょう」
何となく、すぐに答えを言わない辺りは幽々子様に似ているような感じを受ける。
「そう言うもの、ですか」
「そう言うものですよ」
「分かりました、では時間も有りますのでこの辺りで失礼させて頂きます」
「はい、ではまた」
「むがげー」
お燐は口を塞がれたまま、またね、と言っているようだった。
では、と軽く一礼すると、地霊殿に背を向けて一気に駆け出した。これも修行のうちだ。
・・・
地霊殿から走り抜け、その日のうちには白玉楼に到着した。
「お帰りなさい妖夢。どうだった、地底の方は?」
「ええ、とても親切にして頂きました」
「そう、良かったわね」
「結局、さとりさんには直接教えて貰えませんでしたが、ペットの猫、と言っても人の形をしている妖怪でお燐と言う方に教えて頂きました」
「あら、ネコがタチに教えるなんてねぇ、誘い受けかしら」
「幽々子様……」
「あ、そう言えば幽々子様、さとりさんの本当の能力って何なんですか?」
私は幽々子様に霊を操れる妖怪が居るとしか聞いていない。
「妖夢はさとりと言う妖怪を知らないのかしら」
「あ、はい。不勉強で申し訳有りません」
「良いのよ、覚えておきなさい妖夢。さとりは山中に現れる妖怪で、出会った人の考えてる事を次々と当てて行ったそうよ。そして不気味に思った人が追い払おうとしても、のらりくらりと立ち回って追い払う事は出来なかった、偶然に頼る以外ではね」
「まるで相手の動きが読めるようですね」
「そうね、さとりは相手の心を読んでそのような事が出来るとされていたようね。ところで妖夢、古明地さとりさんは何の妖怪かしら」
「え、と、話しの流れから行くと、さとりと言う妖怪でしょうか」
「正解」
「でも良く分かりません、何故相手の動きが読めたら霊を操る事が出来るのか」
「簡単な事よ、相手の動きと心を読めるのだから、自分のした事に対して相手が驚いているのか、怒っているのか、あるいは何も感じていないのかと言う反応が手に取るように分かる」
「そうか、後はパターン化するんですね、こうしたらこう動く、ああしたらああ動くと」
「そう、何万、いえ何億かも知れないけれど、細分化した反応を組み合わせる事で相手がどう動くかを作り出す事が出来る。個体差のあるものを除外して、共通の反応だけを突き詰めて行けば」
「心のあるものなら自在に操る事が出来ると」
「あら、妖夢にしては聡いわねぇ、さとりにでもなったかしら」
「怨霊を操る時に教えて貰ったものですから」
大まかに怨霊の傾向と言うものが分かれば、それで自分の考える事が減って余裕も出て、対策も立てやすくなる。
これは弾幕と同じでパターン化の利点だとお燐が言っていた。
ふぅん、と幽々子様は少しだけ感心したようだった。
「そのペットと言うのは随分とお利口なようね。物事の本質を理解して、自分の扱えるように再構築と簡略化をやってのけているんだと思うわ、しかもあなたにも分かるように教えてあげられるなんて」
「何だか私、馬鹿にされていませんか」
「いいえ、あちらがお利口さんだと言っただけよ?」
「はあ、そうですか」
いまいち釈然としない。
「まぁ、つまりはこう言う事よ、妖夢。古明地さとりさんはさとり妖怪で、あなたの考えてた事を全部読んでいたの」
「なるほど、やっと疑問が解けました。ってあれ?全部読めていたって事は」
「そう、あなたのあんな考えやこんな考えが相手に筒抜けだったって事ね」
幽々子様は扇子で顔を半分隠していやーん恥ずかしいなんて言っているが私はそれどころではなかった。
「な、何でそう言う大事な事を先に言っておいて頂けないんですか!今頃あっちでは私の事で」
「だって、それでは人魂灯を二度も失くしておいて私に報告もしなかった罰にならないでしょう?」
弾幕でも一度痛い目を見ないと覚えない事って有るわよねぇと微笑んでいる。
「では私が霊を操れるようになった事は」
「特に意味は無い、と言ったところかしら。人魂灯は必要でしょうから、またあなたに持っていて貰うわ。あ、もちろんまた失くすような事が有って、一日でも報告が遅れたらもう一度地底に行って貰うわね、今度は閻魔様の紹介状無しで」
「そんなぁ」
「大丈夫よ、妖夢。失くしてしまっても報告を素早く上げてくれれば良いの、そうしたら私だって」
「私だって?」
「紹介状くらいは書いてあげるから」
「結局行く事に変わりは無いんですね……」
うなだれて肩を落とす。
幽々子様はいつも通りに笑っていていつも通りに意地が悪かった。
主に、怨霊を操る方法が楽しいです。
話しかけるって。世間話するって。
思ったより、「ああ、こんなもんなのね」感が、なんとも面白い。
1. >お燐も妖夢も、方向性は違ってもどちらも努力家だと思います。
9. >旧地獄と冥界の組み合わせは、なかなか良いアイデアが思い浮かばないのが辛いですね。
爆撃さん >最初は普通に会話なんて出来なくて、ズタボロになりながらも執念で会話していました。
が、慣れると色気を出すのがお燐。
あたいはまだボケ倒せるとか言って、会話を楽しんでやってそうです。