やぁ、私はナズーリンだ。
ネズミの妖怪であり、毘沙門天代理であるご主人『寅丸星』の部下兼監視役、かつ飛行型変形幽霊船『聖輦船』のメンバーでもあり、そして人里に建つ『命蓮寺』の雑用などもこなしている。
つまり、私はダウザーなのである。
肩書きが多いので鬱陶しいかもしれないが、事実なので勘弁願いたい。
ここで、ダウザーとしての最近の戦績を思い出してみよう。
まず、紅魔館の図書館に突如として現れた(いつものことだが)魔理沙を新スペル『巨符・ゴリアテペンデュラム』でブッ飛ばしてみた。
魔理沙が扉を開けた瞬間、馬鹿デカイペンデュラムを振り子のように飛ばしてみたので、魔理沙にぶつかった後、後ろの誰かも一緒にぶつけてしまった。
その時何やら「うーーーー!?」という声が聞こえたような気がしたが、図書館の主が気にしなくていいと言ったので、ほっとくことにした。
あと、こんなこともあったな。
最近になって人里周辺に現れ始めた謎の窃盗集団『エキセントリック少女ガール』とかいう奴らを一網打尽にしたことだ。
まぁ、この時は一輪も一緒にいたので手伝ってもらったわけなんだが。
敵が一斉に襲ってこれないようにペンデュラムを展開し牽制しつつ、私がロッドで殴る、一輪が蹴る、上空に逃げたら雲山が叩き落すの繰り返しで各個撃破していき、壊滅させたわけだ。
他にも、ご主人様が宝塔を無くしたり、ご主人様が槍を無くしたり、ご主人様が靴下を片方だけ無くしたり、ご主人様が部屋に飾っていた馬鹿デカイ私のポスターを無くしたり、ご主人様の部屋にあった掛け軸(えらい達筆で『ナズーリン』と書いてある)を無くしたり、ご主人様が私の部下の小ネズミを無くしたり、ご主人様が一緒に布教に連れて行った聖を無くしたり、ご主人様が船長がカレー用に研いでおいた米を無くしたり、ご主人様がぬえの背中に付いている正体不明の赤いやつを無くしたり、ご主人様が一輪に蹴り飛ばされたり、ご主人様が博麗神社の賽銭箱に書かれている『賽』という字だけ無くしたりしたのを探し出したりしたのである。
そんな輝かしい戦績を打ち出している私であるが。
現在、大変困っているのである。
◇ ◇ ◇
私の朝は、用事が無ければさほど早くない。
寺の中でも割と遅い方に起きる。
それでも、いつまでもダラダラ寝ている訳ではない。
ご主人様や聖とかが相当早いだけである。
障子の隙間からうっすら部屋に入ってくる朝日を感じながら、私はもぞもぞと布団から這い出る。
つい最近まで続いてきた猛暑もだいぶん引き始めてきており、朝方は結構肌寒い。
そんな少し冷たい空気に軽く身震いをして、起き上がった。
うーん、と伸びをひとつ。
どうやら天気は良さそうだな。
まだ少しぼやけた頭で今日の予定をどうするか考えていると。
ふと。
何かが私の寝ぼけた視界を横切った。
最初は何かと思ったが、私はすぐに思い出した。
そういや、昨晩は私の部下の小ネズミたちが全員部屋で寝ていたのだったな。
普段はそれぞれ好きなところで寝ているのだが、昨晩は私の部屋で同じ時を過ごした。
そんな小ネズミたちが目を覚まして、部屋の中をウロウロしてるんだなぁと考え、そちらを見てみた。
だが。
そこには、小ネズミなんていなかった。
いたのは。
私だった。
・・・?
私は眠気眼になっている目をゴシゴシ擦って、もう一度よーく見てみた。
・・・確かに、私がいる。
しかも小さい。
大きさはねんどろいどより少し大きいくらいか?
姿形だけでなく、服装も普段私が着ているのと同じもの。
ロッドも持っており、首にはペンデュラムをかけている。
まさに、ねんどろいど(より少し大きい)版ナズーリンといったところだろう。
・・・。
・・。
いやいや!?
なんなんだアレは?
なんであんなよく分からない生き物が部屋の中にいる?
と。
他のところでも動く気配が。
恐る恐る辺りを見渡してみると・・・。
いる。
沢山いる。
小さい私がいっぱいいる。
数にして、ちょうど私の部下の小ネズミと同じくらいだ。
・・・え?
いま、私はなんと考えた?
『小ネズミと同じくらい』?
・・・ま、まさか。
この生き物たちは、全員私の部下の小ネズミたち?
昨晩まで普通のネズミの姿をしていた小ネズミたちが、私と瓜二つになっているだと?
そんな馬鹿なと思い、試しに近くの小ネズミ(?)に語りかけてみた。
「あ、え、えーと・・・。お、おはよう・・・」
すると、その小ネズミ(?)が私の声に反応し。
一言、鳴いた。
「なずー♪」
そんな、鳴き声まで変わっている!?
しかも、何を言っているのか理解できてしまった。
今のは「おはよう」だ。
ちゃんと私にも理解できる。
本当に、本当にこの子たちは私の小ネズミなのか・・・。
他の小ネズミたち(とりあえず、便宜上『なずりん』と呼ぶことにする)も「なずー、なずー♪」と言いながら、わらわらと群がってきた。
ともかく、一回落ち着けナズーリン。
なずりんたちに待つように指示すると、私は布団を片付け、いつもの服に着替える。
お茶を沸かし、座布団に座って一服。
そして、湯飲みを机に置き、改めて前を見やる。
そこにいるのは、正座して私の方をじーっと見つめているなずりんたち。
よーしOK。
現状は把握した。
それじゃあ、まず最初に一言いわせて貰おうか。
「えぇぇええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!?」
◇ ◇ ◇
今、私はきっと驚愕の表情を浮かべているだろう。
開いた口も塞がらない。
完全に眼が覚めて、思考がクリアになって、ようやく事態の異常さを実感する。
なんだなんだ、この珍現象は?
ドッキリか何かか?
もしかして誰かが「すり替えておいたのさ!」とか言って私の小ネズミを隠したとか?
いや、それならなずりんたちと意思疎通できる説明がつかない。
このなずりんたちは、まぎれもなく私の部下の小ネズミたちなのだ。
なら、何故私と同じ姿をしている?
別に昨日の晩御飯に変なものを食べさせたこととかは無い。
永遠亭で怪しい薬を貰って飲ませたなんて以ての外だ。
昨晩、寝る前までは普通の姿だったのだ。
なら、変わったのは寝ている間だ。
寝ているときに誰かが部屋に侵入してきた気配は無かったはずだが。
もしかして、あの隙間妖怪の悪戯か?
だが、彼女に姿形を変えさせる能力があるなんて聞いたことが無い。
境界が操れるとしても、何の境界を操ったらこんな姿に出来る?
そんなことを考えていると。
なずりんたちがきょとんとした表情でこちらを見つめていた。
そうだ、この子だちに聞いてみよう。
もしかしたら、私の知らない所で何かあったかもしれない。
なずりんたちに何か変わったことは無かったか聞いてみた。
・・・。
・・。
・・・ダメだ、全然身に覚えが無いらしい。
というか、なずりんたちは今の自分たちの状態に違和感を持っていない。
まるで、最初からそうであったかのように。
いかんなぁ、まるで手がかりが無い。
そう困惑していると。
「ナズーリン!さっき叫び声がしませんでしたか!?何かあったんですかー!?」
不味い、ご主人様だ!
私はなずりんたちを見る。
きっと私と同じことを考えているのだろう。
慌てふためきながら「なずー!なずー!」と部屋中を駆け回っている。
おそらく、というか高確率でご主人様になずりんたちを見せたら厄介なことになる。
そりゃもう、色々と。
何処かに隠すか。
だが、押入れはいっぱい。
タンスの中もいっぱい。
机の中にはこんなに沢山入りやしない。
仕方ない。
なずりんたちに指示を出し、私の後ろに待機させる。
どたどたと足音が近づいてき、障子の向こうに女性としては大柄な影が映った。
そのままスパーンと勢いよく障子を開け。
「ナズーリン、一体何が・・・!?」
中の様子(というより、なずりん)を見て、固まってしまった我がご主人様である寅丸星。
「や、やぁ。おはよう、ご主人様」
私はともかく平静に話しかける。
だが、返事もなく未だ硬直中。
口はポカーンと開いたままで、じーっとこちらを見ている。
そんな感じが数秒くらい続いただろうか。
私が何を話そうかと思案していると。
・・・なんか、プルプルと震えはじめた。
「ご、ご主人様?」
声をかけるも、全く反応を見せない。
ただ、少しずつ顔が赤くなっていき、瞳もキラキラしてきた。
それでも硬直したまま一言も発さないご主人様を見て、不審に思ったのだろう。
私の後ろにいたなずりんの内の一匹が。
「・・・なずー?」
と話しかけた。
その一言が、止まっていた時間を動かし始めた。
「ふ、ふ、ふおぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
寅が、吼えた。
いやいや、寅はそんな吼え方しないって。
だが。
その咆哮、この気迫。
並大抵のものではない。
あまりの迫力になずりんたちは一斉に後ろに下がって怯えている。
正直な話、私もちょっと怖かったりする。
だが。
今後ろで震えている我が部下たち。
この子たちのためにも、私が引くわけにはいかない!
芯を強く。
決して折れない心で迎え撃てナズーリン。
ここで逃げ出すようでは上司失格だぞ。
ロッドを構える。
目の前には血走った目と荒い息をしている寅一匹。
実力差なんて明白。
天と地の差を持った相手を前に、一歩踏み出す。
さあ来い、我が主よ。
躾のなっていない上司を更正さすのも部下の務め!
そして。
「ナズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥリィィィィィィィィィィン!!」
「正気に戻れやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
互いに叫び、一気に詰め寄る。
一筋の閃光のように疾走する黄色と灰色。
交差する影。
命蓮寺の一角で、爆発が起きた。
◇ ◇ ◇
(※BGM『小さな小さな賢将』でお楽しみください)
寺の上空。
互いに激しいスピードで交錯する。
「何なんですか!?あの愛くるしくてキュートなナズーリンたちは何なんですか!?ただでさえ私にはナズーリンという嫁にも匹敵する最愛の人がいるというのに、これ以上私を誘惑するだなんて!ハーレムですね!?私とナズーリンたちのハーレム生活ルートなんですね、これは!!」
顔を真っ赤にしながらスゲー笑顔で恥ずかしいこと言っているご主人様が、槍で私のロッドを叩き落そうとする。
「ただでさえ混乱している状況でなんでご主人様は余計に引っ掻き回すような行動をとるのですか!?貴方も主なら少しは落ち着いて行動してくれませんか!?てか、ハーレムルートなんて幻想ですよ!後でいざこざが待ってるに決まってるんですから!・・・まぁ、ここ『幻想』郷ですけど。それより!あの状況を見て少しは疑問を持つなりして下さい!なにいきなり叫んで突っ込んできやがりますか!!」
まともにエモノをぶつけ合っては即負けだ。
パワーも戦闘技量もご主人様の方が上。
こちらが勝っているのは、小回りの利くスピードと、この小賢しい頭だ。
いまのご主人様は、私となずりんのことで完全に舞い上がっている。
ある程度パターン化されてしまっている攻撃を先読みして槍をかわす。
・・・全く、恥ずかしいご主人様だな、色々な意味で。
慕われているのは嬉しいことなんだがね。
ともかく、流石にご主人様に手荒な真似はしたくないな。
狙いは、手。
隙を見て手に打ち込み槍を落とさせる。
そうすれば流石に距離を取らざるを得ないだろう。
その後にペンデュラムを展開して牽制する。
後は何とかして説得して頭を冷やしてもらおう。
そんな風に考えながら交戦していると・・・。
「わぁ!!なにこれー、可愛い!!」
ふと、そんな声をした方を見やると、いたのはぬえと船長だった。
ご主人様に負けず劣らずといったキラキラした笑顔で廊下に出てきているなずりんたちを見つめているぬえ。
その後ろで、ほんのり顔を赤らめ、ぽーとした目でなずりんたちを見ている船長。
そんな2人、特にぬえの表情を見て。
「ぬえの能力っていう線もあったが・・・。どうやら違うようだな」
そうなると、ますます分からない。
何故私の小ネズミたちはなずりん化してしまったのか?
「って、何他の女のほうチラチラ見てるんですか!ちゃんと私の方だけ見ていてくださいよ!」
そんな叫びと共に槍を打ち込むスピードが跳ね上がる。
不味いな、このままだと押し切られてしまう。
こんな状況でアレなんだが、流石は我がご主人様。
私なんぞではとても太刀打ち出来そうもないな。
「ぬえ!船長!」
私の呼びかけにこちらを向く2人。
正攻法でのこれ以上の戦闘は無理だ。
ご主人様には悪いが、あの2人にも協力してもらう!
「ねぇねぇ、ナズナズ!この可愛いナズナズたちは何!?欲しーなー、欲しーなー!」
「・・・いいなぁ、このナズーリンもいいなぁ」
「すまない!今は説明できる状況じゃない!手を貸してくれないか!?まずはご主人様を落ち着かすのが先決だ!!」
その私の叫びに、2人は互いに顔を見合わせ、こくりと頷いた。
「うぅーーー!だからなんでナズーリンは私に集中してくれない・・・、きゃ!?」
その言葉を遮るかのように、私とご主人様の間をアンカーが割って入る。
退くご主人様。
そこに。
「もぅ、なんでトラっちはいつもナズナズを困らせることするかなぁ!!」
ぬえの槍による鋭い一撃が入る。
見た目は華奢な女の子。
だが私なんかよりもずっと起源の古い大妖怪。
そんなぬえの一撃など常人では一溜まりもないだろう。
だが。
そんな一撃を受け止め、あまつさえ弾き返すご主人様。
互いに距離を取る。
「さぁて。なんかよく事情が飲み込めないんだけど・・・。悪いけど私は今回ナズーリンに加勢するわ」
そう言って、アンカーを担ぎ私の前に立つ船長。
その横で槍を構えなおしているぬえ。
ありがたい、この2人に加勢してもらえば流石のご主人様とて・・・!?
次の瞬間、場の空気が変わった。
「・・・そうですか。やっぱり貴方たちは私とナズーリンの間を割って邪魔するわけですね」
ご主人様から発せられる凄まじいプレッシャー。
寅の本領発揮といったところか。
私みたいなひ弱なネズミなんて一瞬で取って食われそうなほどの気迫。
強い意思を感じるその瞳が私を、いや2人を捉えている。
・・・頼むから、その真剣さを普段から出してもらえると助かるのだが。
いや、今はそういう問題じゃない。
完全に目標を私から2人に変更したご主人様。
さっきまでの笑顔が一変、闘志を秘めた戦士の表情となっている。
2人を助っ人に呼んだのは間違いだったか?
「ぬえ、船長。助かったよ。後は私がなんとか・・・」
だが、私が言い終わる前に船長が庇うように腕を横に突き出す。
「ナズーリン。アンタはあのちっこい子たちの所に行ってあげなさい。アンタの最優先事項は多分あっち。星の相手は私に任せておきなさい」
「し、しかし助けてもらって悪いんだが、2人に押し付けるというのは今となっては少し・・・」
「大丈夫だよ」
そう言って、こちらに笑顔で振り返るぬえ。
「トラっちだって大切な寺の一員だもん。手荒な真似は極力避けるからさ。まぁ、ナズナズのことになると我を忘れて暴走するところが少しムカつ・・・っと、心配だからさ。ここから先は任せておいて。私とムラムラの実力は知っているでしょ」
そう言って、ウインク一つ。
そして、再びご主人様に向き直った。
「・・・わかった。すまないがここは2人に任せる!」
そういって私はなずりんたちの所へ向かう。
ありがとう、ぬえ、船長。
このゴタゴタが片付いたら何か奢るよ。
そんなことを考えながら、私は戦線を離脱した。
◇ ◇ ◇
(※BGM『法界の火』でおt(ry )
上空で対峙する1人と2人。
ナズーリンが去った瞬間、一気に跳ね上がる3人のプレッシャー。
先ほどとは別次元の力と力のぶつかり合いが展開される。
もはや異空間といっても過言ではないほどの激しい闘気が密集する。
「『今回』、ですか。貴方はいつもナズーリン側にいるように見受けられたのは私の目の錯覚なんでしょうかね?ムラサ」
「そりゃ、錯覚ね。私は寺の皆には分け隔てなく接しているつもりなんだけど?」
「その割には、最近ナズーリンと出掛ける機会が増えていっているようなのも、私の勘違いですか」
「えぇ、勘違いね」
あっけらかんとした感じで受け答えする村紗。
だが、目はマジである。
「あーあ、2人はいいなぁ。ナズナズと仲良くやっていて」
そう軽く愚痴るように言うのはぬえ。
ホント2人は羨ましいです、ってな感じで喋っているところに。
「おや?そしたら最近夜になるとナズーリンの部屋に向かっている人影は誰なんでしょうか?」
鋭い視線をぬえに移す星。
「知らなーい。私、妖怪だから『人』影なんてできないし」
そう言いながらそっぽ向くぬえ。
だが、その気配は隙あらば槍を叩き込むといわんばかりである。
「・・・で、結局2人は私をナズーリンの方へは行かさないと」
槍を突き出し、凄む星。
それに答えるかのように構えを取る2人。
まるで言わんでも分かってるだろとばかりに。
「言っておきますが、私とナズーリンの間を邪魔するならば、いくら寺の仲間といえどもあまり手加減は出来ませんからね?」
その言葉を合図に。
3人はその身を疾風と変えた。
◇ ◇ ◇
やれやれ、ご主人様にも困ったものだ。
だが、2人が助けてくれたお陰で、なずりんたちの世話に専念できる。
さてさて、なずりんたちはどうしてるのかな?
と。
いたいた。
私の部屋から少し離れた廊下で群がっているのが見える。
そちらの方に向かいながら、よく見ると。
「・・・あれは、聖?」
そう。
なずりんたちが群がっている所にいるのは聖だった。
聖はなずりんたちを見ながら、ボーっと突っ立っている。
流石になずりんたちを見たら、聖とて戸惑うよな。
私は近くに着地して、なずりんたちのところに駆け寄る。
「すまなかったな、みんな。もう大丈夫だ。とりあえず、ご主人様が冷静になるまで何処かに避難したほうがいいな」
そういって近寄っていくと、安心したかのように「なずー、なずー♪」と駆け寄ってくるなずりんたち。
よしよし、皆無事のようだな。
問題が解決したわけじゃないが、一先ず安心した。
そして、そこに立っていた聖に話しかける。
「おはよう、聖。驚いただろ?いや、私もまだ何がなんだか分からなくてね・・・」
と、聖の方を見ると、なずりんを一匹抱きかかえていた。
その頬は赤く染まり、うっとりした目で抱えているなずりんを見つめ。
「か、かわいい・・・」
何かを小さく呟いた。
・・・まさか聖に限って有得ないとは思うが、何かイヤな予感。
「ひ、聖。とりあえず、いま抱えているその子も含めて、何処か違うところに連れて行こうかと思うんだが。一度放してやってくれないかな?」
・・・。
ダメだ、全然聞こえてない。
完全になずりんに心奪われているご様子の我らが聖白蓮。
何がそんなに気に入ってしまったのかは分からないが、今だけは放してもらわないとな。
まだ原因も何も解決してないわけだし。
あと、今の聖を見ていると、なずりんが連れ去られかねん気がする。
私は、一匹のなずりんに指示を出すと、聖の横を通り過ぎ、後ろの方へトテトテ歩かせる。
それと同時に、ポケットに手を忍ばせる。
コレを聖に使うのは心苦しいが、一応念には念をだ。
「聖。悪いがなずりんが一匹、そちらに行ってしまったんだが。一度その子を置いて、後ろにいるなずりんを捕まえてくれないかな」
その言葉に、ハッとなって後ろを振り向く。
そこには、先ほど指示を出したなずりんが一匹。
それを見た聖は、抱えていたなずりんをそっと下ろし、後ろにいるなずりんに近寄っていった。
「なずりん・・・。なずりんと言うのですね。あぁ、可愛い・・・。普段のナズちゃんもですが、こちらのなずりんも・・・」
そう何かを呟きながらフラフラと歩いていく。
今だ!
すまない、聖。
私はポケットから棒状のものを取り出すと、それを口に咥え、フッと吹き付ける。
次の瞬間。
聖はビクッと震えて、その場に倒れこんだ。
ふぅ・・・。
何か意外な方向で役に立ってしまったな、鈴仙から買った睡眠薬入り吹き矢。
◇ ◇ ◇
私はなずりんたちの全員の無事を再度確認した後、これからどうするかと思案していると。
「ね、姐さん?なんでこんな所で寝てるのよ?」
声をした方へ向くと、そこには一輪がいた。
廊下で眠ってしまっている聖を呆然と見ている。
そうだ、これからの行動をどうするか考える上で、一輪に協力をお願いしよう。
彼女なら大丈夫だろう。
「おはよう、一輪。実はこれには色々訳があってね」
そう喋りかけた私に目を向ける一輪。
「あら、おはようナズーリン。なんで姐さんはこんな所で寝ているわけ・・・!?」
そういい終わるか否かのところで、信じられないものを見たといった感じの表情を浮かべる。
まぁ、いくら冷静沈着な一輪でも、これは完全に予想外の光景だろうな。
こんな生物、普通いない。
「ははは、驚いただろう。どうやらこの子達は全員私の子ネズミらしくてね」
その言葉に、我に返った一輪は。
「・・・なるほど、あそこで戦っている3人。まぁ、主な原因は星なんだろうけど。この子たちの所為なわけね」
「事態を素早く理解してくれて助かるよ。ともかく、一度この子たちを何処かに隠したいんだが」
一輪は少し悩むような素振りを見せると。
「じゃあ、私の部屋にでも来る?」
そうだな、まだ先のことを何も考えてない状態で外に出るよりも、一輪の部屋のほうが良いかもしれない。
「すまない。そしたらお言葉に甘えて・・・っと」
その前に。
「先にこの子たちを連れて行っててくれないかい。私は聖を部屋まで運んでから行くよ」
流石に、聖をこのまま放置するのは、少し罪悪感がある。
眠らしてしまったのは私だし、責任を持って運ぶことぐらいはしないとな。
一輪は、足元に群がっているなずりんたちと聖を交互に見て。
「・・・分かったわ。なんで姐さんがそんなことになっているのかは、とりあえず横においておきましょう。先に行ってるから姐さんをお願いね」
さぁ、こっちに来なさい。
そうなずりんたちに話しかけると、部屋の方へ向かっていった。
その後ろをトテトテと着いていくなずりんたち。
ふむ、なずりんたちも安心して着いていっているので大丈夫だろう。
私は聖を担ぐと、その足で聖の部屋へと向かった。
◇ ◇ ◇
聖の部屋へと入る。
机の上に沢山の書物がある以外には、至って普通のキレイな内装ある。
壁にある掛け軸に『南無三』と書かれているところが聖らしい。
さて、布団だけでも敷いておくか。
私は聖を下ろすと、押入れのほうに向かう。
手をかけ、押入れを開こうとしたその時。
視界の隅に、きちんと畳まれた布団一式が置いてあった。
おや、布団は押入れに入れてないのか。
では押入れはいっぱいなのか?
私はダウザーだから収集したものを押入れに入れているからいっぱいな訳だが、聖は何をそんなに入れているのだろうか。
・・・。
人のプライベートを詮索するのはやめよう。
そう考え、布団のほうに足を向けると。
ぽんっ。
何かが足に当たる。
足元を見てみると。
・・・私?
これは、ぬいぐるみか?
先ほどのなずりんのように小さくデフォルメした私を模したぬいぐるみが落ちていた。
ただ。
気にかかるのはぬいぐるみの服装だ。
色やデザインが若干違うものの、普段聖が着ているものに似ている。
誰に作ってもらったかは予想できる。
魔法の森に住む人形遣いを思い浮かべながら、ぬいぐるみを手に取る。
・・・意外とぬいぐるみとか好きなんだな、聖。
そんなことを考えながら、ふと思う。
なんで私のだけが落ちている?
聖のことだから、他のメンバーのもありそうだが。
もう一度、押入れを見る。
・・・。
まあいいか。
私は、押入れの前にぬいぐるみを置くと、布団を敷き始める。
聖を運び、布団の中に入れる。
さて、一先ずこれでいいだろう。
私はそっと部屋を後にし、一輪の部屋へと急ぐ。
未だ激戦を繰り広げているご主人様たちのこともあるし、早くどうにかしないとな。
◇ ◇ ◇
一輪の部屋の前。
ふぅ、ようやく落ち着いて考えられる環境が整った。
朝っぱらからビックリするわ寅が吼えるわ空中戦に吹き矢・・・。
ここまで来るのがイヤに大変だった・・・。
さて、一輪にも相談に乗ってもらって、今後の方針を考えていこう。
ウチのなずりんたちは粗相をしていないかな?
「遅くなってすまない、一輪。ようやく・・・」
私がそう言いながら障子を開けると。
・・・ここにいる物凄い笑顔でなずりんを抱きしめて頬ずりしてる女は誰だ?
とりあえず、障子を閉める。
・・・?
部屋を間違えたか?
いや、ここは一輪の部屋だ。
じゃあ、さっきの一輪に良く似た女は誰だったのだろうか?
ここにきて、まさかの姉妹がいましたとか謎の超展開はいらないぞ。
もう一度障子を開ける。
そこには。
「あら、ナズーリン。ようやく来たわね」
そう言いながらお茶を啜っている一輪がいた。
・・・他に人影は無い。
辺りを見渡しても、なずりんたちが思うが侭にチョコチョコ歩き回ってるだけだ。
あ、お菓子食べてる子もいるな。
きっと一輪がわざわざ出してくれたのだろう。
「・・・?どうしたのよ、そんなところでボーっとして。早く入りなさいよ」
「・・・え?あ、あぁ」
どうやら朝から色々あって疲れているようだ。
これから問題を解決していかなくてはいけないというのに、私がしっかりしないでどうする?
今一度気を引き締め、一輪の部屋にお邪魔した。
◇ ◇ ◇
「・・・別にこのままでいいんじゃない?」
私が一通り説明した後の一輪の第一声が、これだった。
「いやいや、このままでいい訳ないじゃないか」
そう言って、チラリとなずりんたちの様子を見る。
雲山の上に乗って楽しそうになずなずしている光景は、実に微笑ましい。
向こうでは、本棚からマンガを取り出して興味深そうに読んでいる子たちもいる。
一輪の部屋には、主にバトル系のマンガが多い。
使えそうな蹴り技があったら実際に使ってみたりもしている。
ただ、なずりんたちの大きさではマンガの持ち運びも大変そうだ。
数匹で力を合わせて大変そうに読んでは本棚に戻し、読んでは本棚に戻し・・・。
朝から大変だったからなぁ、私もなずりんたちも。
ああいう風に動き回っているなずりんたちを見ていると、こちらまで心が癒される。
平和だ・・・。
いやいや、そうじゃないって。
「朝起きてからのこれまでの珍騒動を振り返ってみても、いいことなんて一つもなかったぞ。問題を解決しないとこれからも多忙な日々が続くだけだ」
「なら、あなたは今、大変?」
・・・。
そりゃ、今は。
なずりんたちだって楽しそうに遊んでいる。
私だって、こうやってゆっくりお茶を飲んでいられている。
平穏そのものだと言っていい。
「でも、それは一輪が冷静に対処してくれているからだ」
「慣れれば、みんなもそうなるんじゃない?貴方らしくもないわね。普段の小さな賢将さまは何処にいったの?気が動転しているのは貴方も同じ。いつものように先を見据える余裕が無くなっているわよ」
ぐっ・・・。
確かに、私はまだ冷静で無いかもしれない。
異変が起きているなずりんたちの上司は私だ。
一番、いまの一輪のように対処しなくてはいけないのは私だ。
それでも。
「考えてもみてくれ、一輪。私は生態学などには詳しくないが、それでも言えることがある。いきなり一つの生物の姿が急激に変化したというのは異常事態だ。長い年月をかけて進化したのとは違う。慧音先生のように変化する妖怪とも違う。一晩のうちに殆ど別の姿になってしまったんだ。あの子たちはまるで違和感を感じてないように振舞っているが、身体になんの影響も無いとはどうしても考えられない。後々になってあの子たちにもしものことがあったら困る」
そう。
私が一番危惧しているのは、なずりんたちが急激に異常な変化を起こして、最悪の場合命の危険に晒されることが無いかということだ。
もう一度、なずりんたちを見る。
眩しいくらいの笑顔を浮かべている部下たち。
長年連れ添ってきた子たちもいる。
新たな出会いで共に生きることを誓った子たちもいる。
そんな可愛い部下たちにもしものことがあってみろ!
私は悔やんでも悔やみきれない!!
俯き、何かを耐えるような表情をしている私に、一輪はあくまでも冷静に問いかける。
「で、貴方はこれからどうしたらいいと思うの?」
・・・。
「そ、それを相談したくてここに・・・」
「貴方の一番危惧していることは」
そう、苛立つように、でも何か励ますように話しかける一輪。
「なずりんたちの異常による身体の悪影響。さて、ここで問題。人間以外でもそういった異常を調べてくれるところは何処?」
いくら気が動転してるといっても、貴方ならそれくらい分かるわよね?
そんな一輪の問いかけに。
・・・。
・・。
「・・・永遠亭」
そうだ。
あそこには月の頭脳とも言われる八意永琳がいる。
あらゆる薬を作る程度の能力。
薬で対処できなければ他の医療技術も使ってくれる。
なにより、妖怪など人間以外でも診てくれる。
立ち上がる。
足に、身体全体に力が宿る。
さっきまで混乱しかけていた頭が、今度こそクリアになる。
はははっ、なにが『正気に戻れ』だ。
いまの私にご主人様を説教する資格なんて無いな。
「こら、みんな。いつまでもなずってる場合じゃないぞ。これから外に出掛けるから全員集合」
その掛け声に、なずりんたちが嬉しそうに集まってくる。
姿は違えど、私の可愛い部下たち。
・・・もう大丈夫だ。
遊んでくれてた雲山に礼を述べ、一輪へと向き合う。
「・・・じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
お茶を啜りながら、そっけなく、でも何処か嬉しそうに答える。
◇ ◇ ◇
「あ、ちょっと待ちなさい」
と。
私がいざ行かんと勇んだところに、思い出したかのように引き止める一輪。
「そのまま大量のなずりんを連れていきなり外に出るのは不味くない?ただでさえ寺の中があんなんだし」
未だに爆音と叫び声が聞こえる障子の向こう。
ツーっと一筋の汗を流す。
確かに。
普段共に過ごしてる仲間たちがあんな状態なんだ。
いきなり人里になずりんたちを連れて出掛ければ、何が起こるか分かったもんじゃない。
「任せなさい。要は目立たないように永遠亭に行ければいいんでしょ」
そう言って立ち上がった一輪は、部屋の奥に向かい、壁を強く押した。
がたんっ。
そんな音とともに、壁が開き、通路が現れた。
「・・・は?」
え、何それ?
そんな表情をしているだろう私に、何事もないように喋る一輪。
「隠し通路。ここから人里の裏に出れるから、こっちから行きなさい」
いや、隠し通路って・・・。
「なんでそんなものが」
「なんでって・・・。緊急用?」
いつからこの寺は忍者屋敷になった?
てか、いつ作った?
なんかある意味寺で一番まともだと思っていた一輪のイメージに、若干ヒビが入った。
それはともかく。
目立たずに寺から出れるのは、今はありがたい。
怪しさ大爆発だが、ここは素直に使わせてもらおう。
なに、ただ人里の裏に繋がっているだけだ。
「迷わないようにね。結構色んな所に繋がってるから。ちゃんと道案内の看板見なさいよ。間違って魔界にでも行っちゃったら大変なんだから」
・・・ごめん、なんだか不安で泣きそうだ。
なんで魔界に繋がってるんだよ。
だが、なずりんたちのためにも行くしかない。
不安を振り払うように頭を振り、暗い通路に足を踏み入れようとしたそのとき。
「・・・全員連れて行くの?」
そんな呟きが聞こえたので、振り向いて答える。
「当たり前じゃないか。全員に異常がないか調べてもらうんだ。いくら全員に同じ現象が起きているとはいえ、一匹調べてもらうより、全員調べてもらったほうがいいじゃないか」
いきなり何を言い出すんだ、と言わんばかりの表情を向けると。
「・・・そうよね。ごめんなさい、引き止めて。いってらっしゃい」
そんな一輪の言動に若干の不審を感じつつも、今度こそ隠し通路に足を踏み入れた。
目指すは永遠亭。
事態が少しでも改善することを祈りつつ、私たちは足を進めていった。
◇ ◇ ◇
永遠亭。
迷いの竹林の奥にある、月の住人たちが住んでいる隠れ家。
・・・というのは昔の話で、今では広く一般的に知られており、兎が大量にいる病院といったところか。
それでも、道中は迷いやすく、永遠亭に住む兎たちか、藤原妹紅にでも案内してもらわないといけないといった、少々不便な立地条件にある。
ただ、八意永琳の腕は確かである。
妖怪など色々な種族を対象としているので、主だった人外はこちらに来る。
まぁ、人里の医者も名医なので、人里に住む人間がこちらに用があることは、ほとんどない。
ただ、鈴仙が薬の訪問販売に来るので、人里の住人も無縁という訳ではない。
偶に永琳自身が人里の病院に情報交換などで訪れることもあるので尚更だ。
そして、いま私がいるのは永遠亭の診察室。
永琳がなずりんたちを一匹ずつ診断していく。
やがて全員の診断が終わり、ただ一言。
「無理ね」
医者が匙を投げるとは、このことだろう。
そうか、やっぱし無理か。
・・・。
いやいや、ちょっと待てや。
「流石にこの珍現象にいきなり対処しろというのは難しいかもしれないが、即答で『無理』はないだろう」
そう詰め寄る私を制するかのように掌を突き出し、続ける永琳。
「普通の聴診器などによる検査、眼検診、血液検査にレントゲン撮影などなど。一通り調べてみたけど、医学的に問題があるとは考えられません。それこそ、この子たちが感じているように、いまの姿でいるのが当たり前のようにね。一晩で急激に身体が変化した理由が全然わからない。この子たち本当に最初からネズミの姿だったの?」
「それは、確かだと思います。師匠」
そう意見を出してきたのは横にいた鈴仙だった。
「寺に訪問販売に行った時も、薬草の捜索で共に行動したときも、ナズーリンさんの部下の小ネズミたちは確かに普通のネズミの姿をしていました。ナズーリンさんと意思疎通が出来るということからも、やはり何かが原因で小ネズミたちがナズーリンさんと瓜二つになってしまったということが有力だと思います」
そう断言するように答える鈴仙を横目で見て。
「・・・うどんげがそこまで言うなら、やっぱしそういうことになりますね。しかし分からないわね。身体の一部分を変化させる薬ならウチにもあるけど。ここまで変わってしまうなんて、医学的には有得ない」
「ちなみに聞くが、身体の一部分を変化させると言うのはどういったことなんだい?」
「猫耳、尻尾生やすとか」
なんでそんな薬があるんだろうか。
もしかして需要があるのか?
好きな人に獣属性付けて悶える輩がいると。
・・・いるんだろうなぁ、幻想郷には。
少し頭痛がしてきた私に対して推論を続ける永琳。
「もし、可能性があるとしたら。相手を変化さしてしまう術とかを使える術師が存在するということ。可能性が無いという訳ではありません。なにせここは幻想郷ですから。そうなると、医学や生物学の観点からというより、魔術などの特殊な能力が原因とも考えられます。心当たりは?」
・・・。
ウチの寺の魔法使いは聖だが。
今日の様子を見る限り、犯人から除外してもいいだろう。
ぬえも違うと思う。
なら、他の魔法使いとかか?
だが、なずりんたちが変わってしまったのは、おそらく寝ている間だ。
魔理沙やアリス、パチュリーがわざわざ夜中にそんな悪戯をしてくるとは思えない。
他の異能力者にこんなことをされる覚えは無い。
心当たりが全く無く、悩んでいる私を見て。
「そりあえず、暫く様子を観てみませんか?健康上に問題が無いのだとしたら、今すぐになずりんたちに何らかの悪影響がでるとは考えられないのですが」
「うどんげの言うとおりね。暫く様子を観てみたらどうでしょう?なんなら、明日あたりに紅魔館に行くとか。魔術が関わっているなら、あの図書館の主も興味を持って調べてくれる」
その2人の提案を聞き。
「・・・そうだな。なずりんたちに悪影響が出ないなら、急ぐ必要は無いかもしれない。暫く様子を観ながら、色々な可能性も考えてみるよ」
そう言って、私は席を立つ。
「本日はお忙しい中、ありがとうございました。部下たちに健康面で問題が無いと分かっただけでも僥倖です」
頭を下げる。
「私は一度寺に戻ります。これからの部下のことについて、寺の者にもちゃんと相談しないといけませんし。なので・・・」
そう言って、永琳の胸のあたりを見る。
「その抱えているなずりん。返してもらえませんか?」
視線の先には、永琳に抱きかかえられているなずりんが一匹。
「えー」
「えー、じゃない!!診察は終わったんだろう!?もう帰るんだから帰してもらわないと困る!その子をどうするつもりなんだ!?」
「どうするって・・・。別にいいじゃない」
「よくねーよ!?う・ち・の、部下なんです!まさか一匹戴けませんかとか言うつもりじゃないんだろうな!?」
「そうよ」
「そーなのかー!?」
畜生、天才の考えていることは分からん!
◇ ◇ ◇
永遠亭、入り口。
診察も無事(?)終わり、帰路につく私たちを鈴仙が見送ってくれた。
「今日はありがとう。また何かあったら宜しく頼むよ」
そう言って、改めて鈴仙に頭を下げる。
「よしてくださいよ。これが私の役目なんですから。ナズーリンさんにも、よく貴重な薬草探しとか手伝ってもらっている訳ですし」
そう困ったような笑顔で答える鈴仙。
鈴仙の言うとおり、私のところに薬草探しの手伝いを依頼してくることがある。
森やら洞窟やら山やら空の上やら・・・。
そんな訳で、鈴仙ともだいぶん面識が多くなってきた。
なので、大体の性格も分かってきた。
分かってきたから・・・。
「なずりん。返してもらえないだろうか」
「・・・やっぱりダメですか」
ダメに決まっているだろう!?
鈴仙に抱えられているなずりんが一匹。
きょとんとした顔で「なずー?」と首を傾げている。
いやいや、首を傾げるな。
いまからみんなで帰るんだから。
「可愛いのに・・・」
そう呟いて、ぎゅっと抱きしめる鈴仙。
分かっている。
君が可愛い物好きってのは分かっている。
そして、何に一番弱いということも。
私は、さげてきたバッグを漁り。
「代わりと言っちゃあなんなんだが」
そう言って取り出したモノを見た途端、鈴仙の目が大きく開いた。
「そ、それは・・・!!」
取り出したのは、一体の人形。
緑を基調とした服。
白いおかっぱ頭。
黒いリボン。
手に持っているのは、二本の刀。
どういう原理かわからないが、ゆらゆら浮いている白い物体。
「君も知っているだろう。あの伝説の一品。『高性能型ジェノサイドみょんみょんver.A』だ」
◆ ◆ ◆
ここで解説。
『高性能型ジェノサイドみょんみょんver.A』
河童の技術に加え、人形遣いの知識も取り入れた、限定10体で販売しようとしていた自宅警備用ロボット(人形)。
何故、冥界の庭師をモチーフにしたかは定かでないが。
その、工学と魔術を取り入れた貴重さ。
なにより、人里でも人気の高い庭師をモデルとしたコレは、販売予約が出た途端、注文が殺到。
あまりの多さに人里の予約受付所が大パニック(てか、乱闘)になったほどだ。
全員、慧音先生の頭突きで沈黙させられたが。
結局、応募式の抽選に切り替わり、選ばれた者だけが手に出来ることとなった。
だが、事件は販売前日に起きた。
みょんを保管していた河童のラボが、謎の亡霊嬢に襲撃されたのだった。
犯人は未だ特定できていない。
だが、その亡霊嬢(笑)は河童を一瞬で戦闘不能に追い込み、すべてのみょんを奪って逃走したのだ。
もちろん、販売は中止。
それは幻の一品となり、今でも人里の都市伝説となって語り継がれている。
◆ ◆ ◆
「な、な、な・・・。なんでそれをナズーリンさんが!」
顔を真っ赤にし、震える指で私が持っているみょんを指す鈴仙。
「なに、簡単な話さ」
そういって、私が説明をする。
「プロトタイプがあったんだ。つまり、製品版ではない『0体目』の試作品」
手に持っているみょんを見ながら、説明を続ける。
「以前、にとりからある依頼があってね。コレはその時の報酬の一部。貴重であり、かつある意味危ない品ではあったんだがね。快く引き取った。いつか何かしらの交渉に使えるのではないかと」
そういって、鈴仙の前にみょんを突き出す。
「だが、私が持っていても宝の持ち腐れだと思ってね。本当に欲しい者の手に渡るほうが、コレも幸せだろう。なに、よく一緒に探索に出掛ける仲だ。君に譲っても構わない。ただ、なずりn「返します」・・・。ありがとう」
即答し、抱えていたなずりんを下ろした鈴仙に、ブツを渡す。
震える手で受け取り、もはや表現の仕様が無い凄まじい表情でその品を受け取る鈴仙。
・・・あ、泣きそうになってる。
そこまで欲しかったか、『高性能型ジェノサイドみょんみょんver.A』。
彼女の言動から、冥界の庭師がお気に入りだとは分かっていたが。
ちなみに、彼女がコレを発売すると公表する前に、にとりからその存在を聞き、事前予約を入れたのも知っている。
「あ、あ、あ・・・。アリがtysんgふぃえういかl;かいj;あ!?」
「いや、落ち着けよ」
興奮しすぎだぞ、鈴仙。
まぁ、ここまで喜んでくれたなら持ってきて損は無かったと思ってしまう。
ただ。
「それを持ったからには気を付けたまえ。あんな騒ぎがあったほどの一品だ。今回はなずりんたちに周りに見聞きしている怪しい人物がいないか見張らせていたから心配は無いと思うが。くれぐれも内密にな」
コレを出す前に、素早くなずりんたちに警戒するよう配置させておいた。
私の近くに駆け寄ってきたなずりんが「なずっ!」と敬礼する。
よしよし。
姿は違えど、その優秀さは衰えてない。
ふと思ったんだが。
もしかして、なずりんたちの能力が上がってないか?
いつも以上に行動が迅速かつ的確のような気がするのだが。
なずりんたちの能力の変化については、今後調べていこう。
それより。
「あと、コードも教えておかないとな」
「・・・(うっとり)」
「聞けやコラ」
「・・・、・・え!?あ、あぁ。すみませんでした。で、なんですか?」
正気に戻った鈴仙が、慌ててこちらに向く。
・・・いや、まだ正気じゃないな。
あまりの嬉しさに、長い耳がピコピコ動いている。
私は一つ溜息をつくと、改めて説明を始める。
「このプロトタイプのみょん。実は事件後に、にとりが面白半分でバージョンアップさせてあるんだ。なんでも、そこに浮いている半霊を模したよく分からない物体が刀と合体してパワーアップするらしいんだ」
簡単に言うと、オーバーソ○ルの様なものである。
自分を自分に憑○合体させるようなものだから、何の意味があるのかは分からないが。
「で、それを行うためにはコードを言わなければいけないらしい。音声認識システムが付いているとかなんとか」
「し、して。そのコードの内容は?」
「確かコードは、『そんな装備で大丈夫か?』だったはず。そう言うと、みょんが『オトウトノカタキヲトルデゲソ』と喋り始めるので、それがコード入力完了の合図だ。あとは勝手に合体する」
ちなみに、いま私が言っても何の反応も示さないのは、最初に持ち主の声紋パターンを入力しないといけないらしい。
まだ入力してないので、それは後で鈴仙が入力すればいい。
「まぁ、そんなところだな。では、私たちはこれで失礼するよ」
「ありがとうございます、ナズーリンさん!本当になんとお礼を申したらよいのやら!」
そう深々とお辞儀をする鈴仙を見て。
診察してもらったこっちが圧倒的感謝を述べられるのもなんだかなぁ。
と、考えながら、私たちは竹林の出口を目指して歩いていった。
◇ ◇ ◇
夕暮れの人里。
診察に随分時間がかかったからなぁ。
様々な検査と結果待ち。
なにより、なずりんの多さ。
まぁ、仕方ないさ。
後ろを振り返る。
私の後ろをわらわらと着いてくるなずりんたち。
幾ら閑散し始めた人里といえども、この集団は目立つ。
唖然とした様子でこちらを見ている人里の人たち。
だが、これから先のことを考えると、別に構わないかもしれない。
なずりんたちが元の姿に戻る可能性が、いまのところ不明だ。
なら、この先ずっと、なずりんたちはこの姿で私と共に歩むことになるだろう。
寺が人里にある以上、この里に住む人々に隠すことは出来ない。
今度、慧音先生にも事情を話して、なずりんたちのことを人里に報告することも、一つの手段だ。
なに、心配はいらないさ。
どんな姿になっても、この子たちは私の大切な部下だ。
だから、私が守らないといけない。
そのための努力なら、どんなことだってやってやるさ。
私の後ろをなずなずついて来る部下たちを再び見やる。
まるで鴨川ホ○モーだな。
なんて思ってしまったのが仇となったか。
前方から、ある集団がやってくる。
あれは伊吹萃香だ。
普段から酔っ払いっぱなしの小さな鬼。
その外見とは裏腹に、想像を絶する力を持つ。
巨大化したり、霧になったりと能力も様々である。
そして今。
その能力の一部を使っている。
萃香の周りに、ちっこい萃香がわらわらと群がっている。
ちょうど、いまの私と同じような状況で。
・・・え?
ま、まさか。
お互い、立ち止まる。
数はちょうど同じ。
距離にして、約9m。
萃香は、相変わらず酔っ払った状態でフラフラとしているが。
分かる。
いまから何が始まるか分かってしまった。
軽い頭痛と共に、後ろにいたなずりんたちに命令する。
ぞろぞろと私の前に行き、隊列を組む。
萃香のほうも、同じように小さい自分を前方に配置する。
まさか、なずりんたちの初陣がこんな強敵になってしまうとは。
だが、対峙してしまったからには、やるしかない。
すでに審判もスタンバイしていた。
いつのまにやら私たちの間にいる褌眼鏡。
まぁ、言動で意思疎通が出来るから、小説よりかは細かな指示ができやすい。
あとは、私の戦略が鍵となる。
さぁ、始まるぞ、みんな!
ホント、今日は最後まで忙しい日だな!
「始めっ!!」
褌眼鏡の叫びと共に。
幻想郷ホル○ー初戦。
『人里○ルモー』の開戦の火蓋は切って落とされた。
◇ ◇ ◇
きっと。
こんな忙しい日々が、これからも続いていくのだろうな。
鬼を相手に一生懸命奮闘しているなずりんたちを見る。
そんな部下たちを愛らしい眼で見ながら、指示を出していく。
どんな姿になっても、彼女らは私の親愛なる部下。
例え元に戻らなくても、私はこの子たちと共に歩んでいく。
とりあえず、まずは寺のメンバーや人里の住人たちに、この珍現象を慣らしていく必要があるな。
さぁ、明日からまた忙しくなるぞ、ナズーリン。
気を引き締めるためにも、この勝負、負けられない!
「最前線は後退!治療部隊前へ!後方支援が前に出てペンデュラムで牽制しろ!残りはサイドに分かれて挟み撃ちにしろ!!」
負けるな、なずりん!
私も負けやしないぞ!
これから先、何が起ころうともな。
かわいいのに
超可愛かったです!だから私にもなずりんを1匹ry
それはそうとわたしにもなずりんを一匹(ry
せっかく面白かったのに、いつの間にかわき道にそれたまま行方不明になった感じでした。
ナズーリン……。いい母親になって……。
おもしろかったっす。
ぜひ私になずりんを一人だけでm(ピチューン×5