ナズ星、星ナズの三発目です。拙作の設定を引いておりますが、そこはまぁ、適当に。
キャラ崩れ・自分設定満載ですので予めご了承ください。
寅丸星です、筍の美味しい季節ですね。
変じゃありませんよ?幻想郷では今が旬なんです。
さっと湯がいて、ワサビ醤油や、岩塩でいただくと堪えられませんね。
お出汁で煮たいところですが、この幻想郷は海のものが手に入りにくく、
鰹節や、昆布も貴重品です。
川魚の削り節や、岩藻を干したものを代用しますが、良く言えば上品、
味わいがやや薄めですね。
八卦炉印の粉末キノコ出汁も使っています。
何でも製造元が安定生産してくれないそうなので、
お店ではあったり、なかったりですが。
でも、お醤油は元の世界より美味しいかもしれません。
粘りが強く、尖った塩辛さがなく、ほんのり甘味があります。
最近はお醤油、味醂とキノコ出汁を使っています。
炊き込みご飯も良いですね。
実は、ナズーリンの好物の一つなんです。
探索行の際、いつもは、小さめのおにぎりを三つ作ってあげます。
全部違う具を用意しますが、筍の炊き込みご飯のときは、
三つともそれにしてくれ、と言います。
以前、彼女の好物のチーズを刻んで混ぜてみたら、実に微妙な表情で
【気持ちは嬉しい、ホントに嬉しいが、これは無い】と言われてしまいました。
その次、刻んだ油揚げを一緒に炊き込んで、山椒の葉をほんの少しだけ
混ぜ込んでみたら、目を丸くして【定番、これ定番にしてくれ、私の筍弁当は
今後、これにして!】と言ってくれました。
私のナズーリン、可愛いナズーリン、いくらでもいくらでも尽くせますよ。
寺の皆も、【今日の夕飯は、筍ご飯ですよ】と朝、言っておくと、なんだかご機嫌ですし。
そんなわけで今日は迷いの竹林に筍の買出しです。
人里のお店でも売っていますが、穴場を知っているんです。
藤原妹紅さん。
迷いの竹林の入り口、ちょっと入ったあたり、小さな庵を構えてらっしゃいます。
以前、筍は採れたてが美味しいと聞いて竹林まで採りに行ったのですが、
その、ちょっと、迷ってしまったんです。
あとからナズーリンにお説教をもらっちゃいました。
私の方向感覚は尋常だと思いますが、ナズーリンに言ったら、鼻で笑われ、
知らないところへは一人で行ってはいけないよ、と諭されました。
子供じゃあるまいし、今でも納得がいきません。
えっと、その時、妹紅さんに出会って、庵まで連れて行ってもらったのがご縁なんですけど。
【貴方ほどの妖力を持つモノが迷うとは】と驚いておいででしたので
少し恥ずかしかった。
ナズーリンに言わせると、【ご主人はそれでよい。瑣末な部分は私が補う。
そのために私は存在するのだ。私は寅丸星の一部分なのだから、なにか
少しでも不安のあるときには、迷わず私を呼んで使役すればよいのだ】
と言います。
ナズーリンは【モノ】じゃないのに。
わざとこんな言い方するんです。
私がナズーリン無しでは生きていられないのを知っているくせに。
ホント、つれない恋人です、ちょっとかじっちゃおうかしら?
失礼。妹紅さんの話でしたよね。
筍採りの話をしたら、今採ってきたばかりのものがあるから分けてあげる、
と言ってくださいました。
形も良く、美味しそうな筍を三つも。
おいくらですか?
拾ってきたようなものですから。
でも、それでは申し訳ありませんよ。
では、しばらくお茶にでも付き合ってください、暇をもてあましていたのです。
昼間は竹林にいて、【永遠亭】を訪れたい人の警護や、竹林で迷った人を
助けたりしているそうです(あっ私もそうでした)。
夜は人里の知人の家に泊まっているとのこと。
私は命蓮寺の話をさせていただきました。
とても可愛くて穏やかな【ヒト】でした。
あの【もんぺ】いいですね。
動きやすそう。掃除、洗濯のとき、山菜採りのときにも楽そう。
今度私も設えましょう。
妹紅さんの【もんぺ】は赤い生地にお洒落な柄、白い髪との対比が映え、
活動的でキュートです。
でも、妹紅さん自身は、人間としての【生命の灯】がよく見えず、輪廻の環から
締め出されているように感じました。
聖のような【元人間】とも少し異なる在り方でした。
二度目に訪れようとした時、ナズーリンが【目印をつけておいた。
人里から一番近い竹林の入り口を目指したまえ。
そこにある大岩に最初の目印がある。
その印の指し示す方角と距離に従って進むのだ。
そうすれば次の印に行き当たる。後は印を辿っていくだけだ。
五つ目で妹紅どのの庵が見えてくるだろう】
一度行ったところですから大丈夫です、と言えない自分が情けない。
最初の大岩に確かに目印がありました。
まさかと思いましたけれど、私とナズーリンにしか分からない印でした。
ナズーリンの血と丹砂を混ぜて呪をかけた顔料。
そして二人だけの暗号で綴られた伝言。
ナズーリンは、また私のために血を流しました。
やり過ぎです。過保護です。
でも、そこまでさせてしまった自分が本当に情けなかった。
それは仕方ないにしても
【ウサギに目を奪われてはいけない】とか
【足元に注意を払いすぎると頭をぶつけるよ】とか
【迷ったら、一旦空へ出て、始めからやり直しなさい】とか、
私をなんだと思っているんでしょう。
まぁ、二回ほどやり直しましたけれど。
帰ってから【血の目印】について問い詰めたら、
「先日、ご主人が洗濯物を干している際、偶然拝見してしまった【ひかがみ】。
筋の割れ具合、溝の色合いがあまりにも美しかったので、鼻出血に及んでしまった。
勿体なかったので流用したまでのこと」
ウソに決まっています。
多分、ウソです。
ウソです、よね?ね?
ナズの【甘やかしスープ】の中でいつも溺れている私です。
失礼。妹紅さんの話でしたよね。
二回目の訪問は、前回より長くお邪魔していました。
【不老不死】の身の上をうかがいました。
妹紅さん、長い間、辛かったでしょうね。
寅丸さん、貴方は不思議な方ですね。つい、色々話してしまいます。
そうなんですか?でも、今も辛いでしょう。
いえ、今はそうでもありません、好きなヒトがいるのです。
それは素敵ですね。
私を分かってくれるヒトがいたのです、そのヒトと添い遂げたいと思うようになりました。
本当に素敵です。
でも、気持ちを伝える勇気がありません。
なぜですの?
だって、そのヒトも女性なのです、これはおかしなことですよね?
あらあら、まぁまぁ、どうしましょう、私の話を聞いてくださいますか?
そこから私とナズーリンのことを半刻ほど語ってしまいました。
寺に帰って、その話をしたら、ナズーリンは少し困った顔をしながら、
「ご主人は存外おしゃべりだな。しかし、その成り行きなら仕方ないか」
納得してくれたようです。
妹紅さんの想い人が【上白沢慧音】さんであること、
毎夜お泊りするのは慧音さんのところであること、
以前、ナズーリンから聞かされた通りだったことを話しました。
でも、妹紅さんは私に直接打ち明けてくれたんです。
「それはご主人だからだね」
私が首をかしげていると、
「貴方は裏表がない。全くもって頼りなさそうなのに、正体不明の包容力と、
決して裏切らないだろうという安心感があるのだ」
「さっぱりわかりませんよ」
ニタッと笑うナズーリン、嫌な予感です。
「仮に私が全裸で束縛された状態で道端に放置されていた、としたらどうする?
ご主人は自分の衣服を被せ、急いで連れ帰ってくれるだろう?」
「あっあたり前ですよ!そんなナズーリンを放って置けませんよ!」
「ふむ、さすがご主人。して、その後は?」
「戒めを解いて、介抱しますよ!」
「なんだ、つまらんな」
「つっ!つまらんってなんです!?」
「偶然にせよ、全裸で身動きできない私と二人っきり。
なにも感じてくれないのかな?なにもしてくれないのかな?クスン」
「わざとらしく悲しそうにしてもダメです!
私はそんな状態でなにかしようなんて思っていませんよ!!」
ふーっと息を吐き出すナズーリン。
ふーじゃないでしょ!ふーじゃ!
「まぁ、つまりそういうことだ。それが寅丸星だということだ」
「わっけ分かりませんよ!私は意にそわない貴方を一方的に好きにする
ことなんか出来ません!
同意の上じゃないと納得できないと言っているんです!」
「優しいなご主人は。同意の上なら良いのだね?」
ほぇ?同意ってそういうことですか?
はっ、いけない、またナズーリンのペースです。
このままじゃいけません、
「では立場が逆だったらナズーリンはどうするんですか!?」
あっ、なんか失敗したかも。ニンマリしてますー!
「お得意の【入れ替え】モノだね。よろしかろう、
全裸で束縛されているご主人と二人っきり、私がなにをするか、説明しよう」
うかー、大失敗です!とてもマズイです!【エロリスト】ナズーリンのお出ましです!
「ストーップ!待って!やめてくださーい!」
「落ち着きたまえよ、
この私がご主人へ、肉体的にも精神的にも苦痛を与えるわけがない。
そのくらいは信用してもらいたいのだがね」
「えっ、でもきっといやらしいことをするんですよね?」
力なく首を振るナズーリン。
「ご主人、私を見くびりすぎだ。私は一切手を触れない。
もちろん専門的な道具も使わない」
専門的な道具ってなんでしょう?すごく心配です。
「束縛のされ方により、突出、あるいは必要以上に露出している部位が異なるはずだ。
私はその部位をじっくり眺めながら、その形状、美しさ、愛おしさを、
微に入り、細に入り、解説し褒め称えるつもりだ、
誠心誠意、気力が尽きる寸前まで、語彙の尽きるまで聞かせ続けよう!」
う、うかーっ!そんな、そんな恥ずかしいこと耐えられません!!
ナズーリンの【エロ】に関してのスタミナと語彙は底が全く見えないのに。
私、恥ずかしくて死んでしまいますよ!!
私が身もだえしていると、
「お楽しみのところ申し訳ないが、少し真面目に聞いてくれ」
おっお楽しみ!ですとー!? 真面目に聞けっ!ですとー!?
「この話の展開、絶対おかしいですよ!なんでこうなるんですかー!」
「こちらが弱いところを晒さねばならない時も、ご主人は決して付け込む
ような真似はしない。
高潔で穏やかな人柄を前にすると誰もが心を開いてしまう、
そのことを伝えたかったのだが」
「ウソばっかりー!ばっかみたいですよ!」
「おっと、それは私のセリフだったと思うが?
しかし、エロ絡みは除けといて、ご主人の人柄にほだされ、
妹紅どのが告白に及んだのは間違いないと思うよ」
「えぅ?またごまかそうとしていますね!真面目じゃないのはナズーリンの方です!」
「待ちたまえ、此度の話、私にも大いに関わりのあることなのだ」
はぇ?ナズーリンにも?
「実は、その慧音先生に呼ばれているのだよ。寺子屋で臨時講師を頼まれてね」
えー、ナズが【先生】ですか? あ、いいんじゃないですか。
もともと教え上手ですし、知識は申し分ありませんし、先生に向いているかも。
【ナズーリン先生】あは、いいですねー。
「スゴイじゃないですか。なにを教えるんですか?」
「将来のある少年少女たちに正しい性知識を伝えるのだよ」
え?貴方なにを言ったの?
「なにを惚けているんだね?私が子供たちの為に性について語るのさ。
場合によっては手取り足取り」
「ダッダメです!絶対ダメです!!」
「ふーむ、否定する理由が分からんね。私にはその能力がないと?」
「そうではなくて!貴方のその、性、の、知識って、あの、あの、
やっぱりダメですよ!」
「納得できないね。理由を言って欲しいな。なにが不満なのかな?」
うー、なんでニヤニヤしているんでしょう。
【意地悪ナズーリン】の顔、嫌いです。
「貴方のそっちの知識って、あんまり【正しくない】と思うんです、
子供たちにはよろしくありませんよ、きっと」
「私が異常性癖だと?」
「そこまでは言ってませんよ!
ただ、ちょっと困ってしまうほど一点集中することがあって、
思いっきり偏って、深みにハマっていく事があるから、刺激が強すぎる
と思うんです」
「ふさわしくない、と。
好ましくない、と。
つまりは嫌いだ、と」
うかー!なに言っているんです!?
「嫌いなんて言ってません!私は良いんです!
貴方の偏りのある愛情も、しつこいくらい一カ所に集中するのも、
なにを始めるか分からないドキドキするエッチなことも、
ぜーんぶOKです!!でも、私だけですよ!OKなのは!!」
ふぇっ、私、なにを言っちゃったんでしょう?
ナズーリンが困った顔になっています。
「ご主人、大変ありがたいが、少し話がズレたようだぞ?」
あーうう、顔が、頭が、熱いです!
とんでもないこと言っちゃいました!
「ご主人の願望はよーく分かった。
白紙委任をいただけるとは望外だったがね」
とても、とても満足げなナズーリン。
いけない、このままでは、あんなことやこんなことやそんなこと、
いろいろされてしまいます!
「あの、あの、ナズーリン?ちょっと待って欲しいんですが?」
満足した顔のまま私をながめ、ふーっと軽く息をつき、
いつもの優しい笑顔に戻ったナズーリン。
あっもう大丈夫です、良かったー。
この笑顔になってくれたら、ほとんど心配いらないんです。
全部分かってくれました、たぶん、そう、たぶん。
この笑顔、大好き。
「性知識の講師の話、ウソなんだがね」
逃げるナズーリンを追いかけ、寺中を駆け回ってしまいました。
聖は困った顔をしていただけのようですが、
一輪から【いい加減にしなー!】と思いっきり怒られてしまいました。
今は私の居室で二人して反省中です。
「さてご主人、話の続きだね?」
なんだか面白くありません、ナズーリンはぜんぜん悪びれていないんです。
うー、頭にきます。いつかヒィヒィ泣かせて、ゼェゼェ喘がせてやりますよ。
【ご主人、もうダメ、もう許して】って言っても許しませんからね。
あれ?合っていますよね?良いんですよね?
「幻想郷の地理について解説を頼まれたのだよ」
ナズーリンの一言で、現実に引き戻されました。
地理ですかー。なーんだ、至極、妥当なことですね。
だって、ナズが知らない土地なんてありませんもの、たぶん。
天狗の皆さんは確かにあちこち飛び回っておられますが、
基本的にネタになりそうな場所、つまりヒトや妖怪のいるところが中心です。
ナズーリンは、失せ物だけではなく、鉱脈、水脈を探しながら、
誰も行ったこともないような場所、生き物がいないような土地も
じっくり調査・探索しているんですから。
何度か一緒に行動したことがありますが、【探索】ではなく【調査】のときの
ナズーリンは別人です。
同じ場所に何時間もじっとしていたり、
ネズミたちと駆け回りながら忙しくメモを取ったり、
見たことのない道具をあちこちに設置したり、
突然火を焚いて煙の行方をぼーっと見ていたり、
谷間に石を何個も投げ落としたり、
飛んでいけばすむところわざわざ歩いたり、
【ここで野宿だ】と言ったはずなのに自分は夜通し宙に浮いたまま
日の出を待っていたり、
正直、ついていけませんし、訳が分かりませんでした。
でもきっと、大気や地脈の繋がりを確認し、植生や生き物の分布も
調べているのだろうと思います。
だって、そういうことを知っていますもの、そのために色々調べているはずです。
【知識】に関わることで、ナズーリンはウソを言いませんから。
幻想郷にきて、まだ短い年月ですが、ナズーリンほど地理に詳しいモノはいません。
ええ、断言します。私は良く分かりませんが断言できます。
私の恋人は理論・知識だけでなく、自身の目で確認し、考察する探求者、賢者なのです。
だから頼りになるんです。だから負けないんです。だから素敵なんです。大好きなんです。
失礼。臨時講師の話でしたね。
夜は、大きめの紙に一緒に地図を描きました、授業で使うんです。
私が勝手に色をつけていたら、ナズは【まぁいいか】と笑ってくれました。
当日は朝から寺子屋にうかがいました。
私はナズーリンに頼み込んで助手をさせてもらうことにしました。
壁に貼り付けた地図の前で、説明にあわせて印を付けたり、線を引いたり、
文字を書いたりするだけですが。
ナズーリンは普段通りの格好ですが、私は抹茶色の作務衣です。
今日の主役はナズーリンですからね。
なるべく目立たないようにしたつもりですが、
男の子たちが【でけー(なにがですか)】とか、
女の子たちが【きれー(あっありがとうございます)】とか言い始め、
なんだかいたたまれないです。
「今日は、ダウジングの達人、ナズーリン先生に来てもらった。
ダウジングとは、広い意味で物を探すことだ」
慧音さんが子供たちに紹介、ナズーリンが進み出て皆に会釈、
「ナズーリン先生は、なくしてしまった物を探すために幻想郷中を飛び回っている。
だから地理に詳しいんだ。
今日は先生が、皆が暮らしている幻想郷の地理を色々教えてくれるよ」
慧音さんからバトンを受け取って、
「さーて、諸君、今日は私、ナズーリン先生が幻想郷の【地理】について授業するぞー」
いつもより高い声で茶目っ気たっぷりに、ニッコリ笑います。役者ですねー。
妹紅さんも来ていました。
今はお部屋の隅で慧音さんと一緒に座っています。
ホント、お似合いの二人です。
ナズは子供たちにも自己紹介をさせ、都度、名前を復唱して
【よろしくな】と微笑みます。
私も【寅丸星です】【星ちゃん、だね?よろしくな】と微笑んでもらいたいです!
失礼、授業中でしたね。
ナズーリンが話を始めたら、皆の目は釘付けです。
誰だってナズの話は無視できませんよ。
子供達が理解しやすいように、最初に人里を中心にした東西南北を
しっかり教えています。
「キイチ君、東はどっちかな?」
えーっと、と考えながら自信なさそうに左側を指差すキイチ君。
「うーむ、惜しいな、そちらは西だ。
キミの頭の中の地図をひっくり返せばドンピシャだ、そら、やってごらん」
キイチ君は頭をぐるぐる回しています。それを見た皆は大笑い。
幻想郷の主だった山、川、森、建物、危険なところは何故危ないのか、
名跡と呼ばれるところはどのように美しいのか、
具体的に、面白おかしく説明していきます。
「そしてこれが命蓮寺、寅丸さんは、いつもはここでお昼寝しているのだ。
おっと、これはここだけの秘密だぞ?」
どっと湧く教室。まぁいいでしょう。
ときに子供をイジり、ときに私をイジりながら、授業をすすめます。
はじめは地図を書き写している真面目な子もいましたが、
いつしか皆、ナズーリンの話に引き込まれています。
休憩を挟みながらも、楽しい授業はもう終わりの時間です。
あっという間でしたね。
「さて、諸君、これでナズーリン先生の授業は終わるが、最後に先生から
諸君にとっておきの良い話をしてあげよう」
これまで楽しい話を聞かせてくれたナズーリン先生が【とっておき】と
言うのですから、子供たちは背筋が伸びます。
「皆が習っている、読み書き算盤、これは基本だ。
まずはこれから始まるからね。
これだけでも生きていくのには困らないが、
心豊かに、もっと楽しく生きたいと思うなら、次を学びたまえ。
君たちが次に学ぶのは【歴史】だ」
ここで間を取るナズーリン。子供たちはキョトンとしています。
「歴史とは、皆のお父さん、お母さん、そしてお爺さん、お婆さん、
そしてさらに昔、その時のヒトたちがどのような生活をして、
どのような出来事があって、どうして亡くなったのか、それを知ることだ」
ちょっと真面目な顔のナズ。皆、しんとしています。いきなり難しいです。
「歴史の中にはすべてが在る。
美味しいご飯の作り方、野菜の育て方、服のあつらえ方、病気の治し方、
家の建て方、他人と仲良くするやり方、喧嘩をした後の仲直りの仕方、
楽しい遊び方、それは全部、歴史の積み重ねなのだ」
「れきしってすげー」
誰かがつぶやきました。
「歴史を勉強するのは難しい、一人で学ぶには時間がかかりすぎる。
誰かに教わるのが早道だが、よほど良い先生でないとキチンと学べない。
歴史を教えてくれる先生は心正しく、強くなければならない。
歴史を守り、伝えていく、これは大変なことなのだ。
私は幻想郷でもっとも優れた歴史学者を知っている。
その方は、学者でありながら、歴史を教えたいと強く願う教師でもある。
あ、教師とは先生のことだよ?」
ナズ、大丈夫ですか?ホント、難しくなってきてますよ?
「すごい先生だぞ。
真面目で、ちょっと堅苦しいが、子供たちが大好きな素敵な先生だ」
何人かが振り返り、慧音さんを見ています。
「そう。君達が教わっている上白沢慧音先生だ。
君たちは幸運だ、ツいている、ラッキーだ。
千年以上学び続けてきた私が言うのだから間違いはないよ。
幻想郷で一番、いや、他の世界を含めても指折りの素晴らしい【先生】から
学べるのだ。
本当にうらやましい」
子供たちは全員、驚いた顔で慧音さんを見ています。
慧音さんは、顔を赤くして下を向いています。
妹紅さんが、そっと腰を抱いて何か囁いています。いー感じですね。
ナズーリンは常に自分の役回りを理解しています。
地理の授業だけではなく、慧音さんの存在を子供たちに強く訴えました。
歴史を通じて人妖の均衡を理解してもらいたいと願う慧音さんは、
そのままだと、ただ口うるさく、難しいことばかりを言う【先生】と
思われてしまうかもしれません。
歴史の大事さ、それを教える慧音さんの素晴らしさを子供に理解させるには
このくらい大げさな言い方が必要なのかもしれません。
たまにやりすぎることもありますが、望まれたことには、期待以上に
応えようとするナズーリン。
その一見、分かりにくい言動の真意が分かった瞬間、じわっと涙が出ます。
このヒト、ホント優しい、切ないほどに。
仏様、罪深いお願いです。
ナズーリンの一番深い心根には誰も気がつきませんように。
私が生きている間はナズーリンを独り占めにさせてください。
お願いします。凄く罰当たりですが、お願いです。
「そして諸君、今日の授業は付録があるよ」
「先生、ふろくってなんですかー?」
「オマケのようなものだ。
ココにいる皆、それぞれ一回だけだが、探し物で困った時、
私ナズーリンが探してあげよう。命蓮寺にくるといい」
ニッコリ笑ったナズーリン。 あう、このヒト、ス、テ、キ。
お昼は慧音さんたちがご馳走してくれました。
通された居間からは支度をしているお二人の様子が良く見えました。
交わす言葉は少ないのですが、阿吽の呼吸というか、
お互い相手のやることを分かっているというか、動きに無駄がありません。
時折、慧音さんがなにか囁き、妹紅さんがクスクス笑いながら言い返しています。
あらまぁ、なんて楽しそう。
川魚の酒蒸し、薄切り筍の味噌焼き、山菜のおひたし、豆腐の味噌汁と白御飯。
豪勢なお惣菜に恐縮です。
お腹一杯食べちゃいました。オイシかったー。
「ナズーリンどの、今日はありがとう。改めて礼を言う」
食後のお茶。頭を下げる慧音さん。
「しかし、最後のアレは言いすぎだよ。明日、子供たちにからかわれそうだ」
恥ずかしそうにしている慧音さん、可愛いですね。
「そうは思わないな、慧音どの。
貴方は類稀な学究の徒にして、一流の教育者でもある。
自覚と自負を持ってしかるべきだ、そうだろう?妹紅どの」
「はい、私もそう思います。慧音はもっと自信を持って良いんですよ」
「二人とも、もう勘弁してくれよ」
か細い声、真っ赤な顔、どうしましょう、抱きしめたくなっちゃいました。
食後、歴史について議論を交わすナズと慧音さん。
どうやら焦点は幻想郷の今後の在り方のようです。
【隔離された世界】が【恒久的に存続】するために必要な条件、
そのあたりのようです。
途中、なん度か妹紅さんがお茶を入れてくれましたが、
二人は気づきもしないようでした。
慧音さんの真剣な顔を優しげに眺めている妹紅さん。
私と妹紅さんは、お互いの想い人の真剣で凛々しい雰囲気にうっとり。
「ナズーリンさん、寅丸さん、よろしければ晩御飯もご一緒してください」
二人の話が途切れた隙を突いて、妹紅さんが言いました。
あら、もうそんな時間?そういえば、日も随分と傾いています。
「妹紅、あまり無理を言っては」
「慧音が楽しそうだから。ナズーリンさんもよろしいですよね?」
慧音さんの制止を妹紅さんが笑って遮りました。
「ご主人、どうする?寺の皆には何も言ってきていないが」
ナズーリン、お耳が【もっと話したい】とぴこぴこしていますよ。
「私はご相伴させていただきますよ。ナズーリンもそうなさいませ。
慧音さん、妹紅さん、お願いいたしますね」
ここは私が意を汲んであげませんとね。
「では私が寺へ言伝に行ってこよう、慧音どのに見せたい本もあるし」
「私は一度、庵に戻るよ。帰りに買い物をしてくるから」
「では妹紅どの、途中まで一緒に行こうか。貴方とも話をしたいしね」
ふんわり笑って応える妹紅さん、うわぁ、このヒトやっぱり可愛いです。
慧音さんと二人になりました。
「寅丸どのは退屈だったんじゃないか?」
「いえ、私、ナズーリンが真剣に話をしているところ大好きなんです」
「お二人は本当に仲が良いのだな。羨ましい」
「慧音さんと妹紅さんも仲がよろしいようですね」
「うーん、そう見えるのかな。しかし、どうなのだろう、よく分からない」
難しい顔になった慧音さん。
「話は聞いたのだろう?アイツは辛く悲しい生を送ってきたのだ。
なんともすさんだ目をしていた。美しい容姿なのに。
はじめは同情だったよ。
慰めてやろうと半ば強引に家に招いたのだ。
私はすぐには気づけなかった。その泣き声に。
たくさん辛い思いをして、たくさん虚しい戦いをして、心が泣いていた。
泣いているのに涙は出ず、喉も嗄れ、ただひゅうひゅうと聞こえるばかり。
ずっと泣いていたのに。
毎夜家に招いて、一緒に食事をして、少し話をするだけだった。
特になにをしたわけでもない。できることもなかった」
いえ、慧音さん、貴方のしたことはとても素敵なことなんですよ。
「来ない夜は探しに行った。
そのうち用事のない日はウチに泊まるようになった。
彼女の部屋も用意した。
少しずつ自分の話をしてくれるようになった。
これまでに二回、私の前で泣いたよ。
一度は声を押し殺し、二度目は大声で。
悲しかった。苦しかった。死にたかった。傍にいて欲しかった。と。
私の能力を使って、悲しい歴史を【喰って】しまおうとも思った。
しかし、近頃の妹紅は泣いてはいない。
私が余計なことをする必要はないように見える」
それは慧音さん、貴方のおかげなんですよ。
「寅丸どの、貴方は分かってくれると思う、私は妹紅がなによりも大事なのだ。
あの娘の生き方が可哀想だと思っていたが、今はそれに耐えてきた心に
惹かれているのだ」
妹紅さんは貴方を尊敬していらっしゃいます。
私も尊敬しています。
「私は妹紅のいない人生が考えられなくなっている。
それに、それに、あの、き、綺麗なのだ、心も姿も」
全面的に同意しますよー。
「晴れわたった満月の夜、明るい月光に照らされ煌めくあの白い髪と、
凛としながらも艶やかで柔らかい面立ち。
その姿で見つめられ、話しかけられると、私は腰が抜けそうになるのだ。
【けーね、あのね】
そう呼ばれると、もうだめだ、いろいろと」
あー、想像するだけでドキドキしてきました、ナズ、ごめんなさい。
「普段は慧音【けいね】と呼ぶのに、二人っきりで静かに語らうときは
【けーね】と伸ばすのだ。
その優しく伸ばす瞬間が甘えてくれているようで、なんとも嬉しいのだ、
こそばゆいのだ、ぎゅるるんなのだ!」
「あの、慧音さん、落ち着いて」
「う、うん。申し訳ない」
居住まいを正した慧音さんがさらに語ります。
「二人で静かに過ごす夜が至福のときなのだ。
満月の夜、私は変化し、歴史を作る。
そのときの私は心穏やかではない。
誰か傍にいると思うと、それだけで気が高ぶってしまうのだ。
だから満月の夜、私はずっと一人だった。
しかし、妹紅だけは平気なのだ。
私にとって特別な存在なのだ。
どんなときでも傍にいて欲しい、こんな思いは初めてだ」
唇を噛み締める慧音さん、なんだか苦しそうです。
「寅丸どの、私は妹紅が好きなのだと思う。それもかなり熱烈に」
え?本気で言っているんですか?真面目な顔していますけど。
百人に聞いたら、五百人が【そうだよ!】と肯定しますよ。
一人一人が出力五倍で肯きますよ。
「慧音さん、そのお気持ち、間違いないと思いますよ」
「そうか、そう思われるか。実はそうではないかと思っていたのだ」
とても嬉しそうな顔。あーはいはい、って感じですが。
「自分で言うのは面映いのだが、妹紅は私を慕っていてくれている、
と思う、たぶん」
はー、この自信の無さ、なんででしょうかね。
妹紅さん、あんなに分かりやすいのに。
まぁ、私もナズーリンの想いに気づけませんでしたから、
偉そうに言えませんけどね。
「妹紅とそういう間柄になれたら、と悩んでいたのだ」
はっきり言ってしまえば、あっさりOKだと思いますがねぇ。
「私から【そうなりたい】と言っても良いのだが、私が求めれば
妹紅は拒まないだろう。気を遣ってその身を差し出すだろう」
は?身を差し出す?なんで一気にそこまで行くんです?途中は?
そこに行くまでが大事でしょ?
「しかし、それは今の立場を利用して無理強いをしているようで納得がいかない。
消極的かも知れないが、あくまで彼女の意思で踏み出して欲しいと望んでいるのだ。
まぁ、【きっかけ】になれば、と色々と誘ってみてはいる、
私もそれなりに工夫しているのだよ」
うーん、難儀ですね。回りくどいような気がします。
好きあっているのに、お互い遠慮が先に立っていますよね。
でも、【誘う】ってなにをなさっているんですか?ちょっと興味ありますよ。
尋ねてみたたら、少し考えてから、
・風呂場から【もこおー、石鹸がなーい】持ってきてもらったときにすべてを見せたり、
・外出時、短めのスカートを穿き【下着を忘れた】と言ってずっとお尻をガードさせたり、
・料理の時の味見、固形物は、口移しを強要したり、
・目に塵が入ったようだ、と言って取ってもらうフリをして思い切り抱きついたり、
・足を挫いたのでおんぶを頼む、と言ったときは上も下も下着を脱いでおいたり、
・寝ぼけたフリをして全裸で妹紅の布団に潜り込んだり、
・虫に喰われた、お尻のちょっと下だ、見てくれないか?と言って、まるっと晒したり、
・胸にしこりがあるような気がする、と言って念入りに触診させたり、
・食べ過ぎて苦しい、と言って腹を直接さすらせ、もう少し、もう少し下だと誘導したり、
あとは、んーと、
腕組みして考えている慧音さん。
えーっと、慧音さん、貴方ってヒトは、ちょっとどうなんでしょう?
ええ、尊敬はしていますけど、そのあたりはいかがなものでしょう?
なんだかとても残念な人に思えてきました。
どうしてそんなことを真面目な顔をして言えるのですか?
そんなことされて戸惑っている妹紅さんを想像したら、気の毒に思えてきましたよ。
「そうか、やはりスケベだったか。上白沢慧音、ただ者ではなかったな」
私の話を聞いて感心しているナズーリン。
外出していたナズと妹紅さんが戻り、今はお二人で晩御飯の支度をなさっています。
晩御飯は水炊きだそうです。豆腐、下茹でした筍、キノコ、青菜、
そして鶏肉をお手製のぽん酢醤油だれ(ごま油入り)で食べるそうです。
今日は食べ過ぎちゃいます、でも、一日くらい良いですよね。
私はナズに慧音さんとのやりとりを掻い摘んで話しているところです。
「相手として不足はないな、ドスケベめ。
実践面でやや遅れをとってしまっているが、なあに、見ておれよ、
すぐ追いついてやるさ、ふふん」
不敵に笑うナズーリン。
あの、カッコつけても全然ダメなんですけど、追いつくって、
なにをどうするつもりなんでしょうか?私ですかぁ?
もー、肝心なのはそこではないでしょう?
「相思相愛か。それにしても迂遠なことだな、スケベのくせに」
もー、気になるのはそこだけなんですか?
「しかし、妹紅どのがあんなに可愛いとは。この私が見誤っていたとは情けない。
悲しい過去を乗り越え、生来の素朴で清廉、一途な心根が今すべての枷から
解き放たれ迸っている、なんと可憐な少女なのだろう。
黒星四つは確実!もう一息で五つだ!」
「ナズーリン」
「う、うむ、星の話はもう無し、だったね。うっかりしていたよ、うん」
もー、いい加減、真面目に話してくださいよ。
私の顔をチラッと見たナズーリンは、優しく微笑んで軽く頷きました。
これでやっと普通です、もー、脱線しすぎです。
「異変絡みで巫女達がこの人里へやってきたそうだ。
妹紅どのへ向かいそうになった連中を、慧音どのが体を張って止めようとしたそうだよ。
結局、誤解だったようだが、それでも、あの、妖怪から見てもバケモノのような
連中を単身で止めようとしたのだ。
【あの人間には指一本触れさせない!】とね。
妹紅どのは、後からそのことを聞いて、嬉しくて眠れなかったそうだ、
自分の気持ちがはっきり分かったのもそのときだと言っておられた。
妹紅どのは強いよ、慧音どのよりはるかにね。
先ほど妖怪退治に明け暮れていた時分のことを少し聞いたのだよ。
ヒトの身では耐えられないような強大な妖術や禁呪、相討ち前提の危険な呪法を
たくさん身につけている。不死の体だからこそ出来たことだが。
スペカ戦でなければ、ご主人でも勝てないと思う」
ナズーリンの【強さ】見極めは、誤ったことがありません。
「もし、戦うことになったら、問答無用で不意打ちをかけるのだ。
宝塔の力を最大にして一気に焼き付くせ、消滅させたまえ。
そして再生するわずかの隙に、全力で逃げるのだ。まともに戦ってはいけない。
それでも追われて戦うのなら、持久戦に持ち込むのだ。
中距離を維持し、術を撃たせろ。大技の隙を縫って直接打撃だ。
術を凌ぎながら体力を削るしかない。
体力が尽きて根負けするまで粘るのだ。
焦ってこちらから不用意に仕掛けてはならないよ。
自沈覚悟の凶悪な呪方に巻き込まれるのがオチだ。
武神の顕現であるご主人の体力はほぼ無限、焦らなければ【負けない】はずだ」
「ナズーリン」
「あ、ああ、すまない。癖が抜けないな」
ナズーリンは、力あるモノと接したとき、敵対した場合の対処を常に考えています。
今までの生活がそうでしたから。
この幻想郷ではもう必要ないことなのに。
ごめんなさい、私がもっともっと強ければこんな苦労はさせなかったのに。
「まぁ、そのくらい強い妹紅どのだ。
もちろん慧音どのも分かっているのだろう、自分より妹紅どのが強いことを。
それでも、立ちふさがったのだ、及ばずとも盾になりたかったのだろう。
あれほど理性的で、冷静なヒトが無意味と分かっていても自分を止められなかったのだ。
本当に大事なのだね、なかなか出来ることではないよ」
うんうんと頷きながら自分で納得している。
「ナズーリン、貴方も私の盾になってくれましたよね」
はっとしたナズーリン、あら、忘れちゃってたんですか?
「い、いや、あのときは別の目的もあったし、その、まぁ、なんだな、様子見だったかな」
頭も要領もいいくせに。
【分かっていて無駄なことをしてしまう。それを愚か者というのだよ】と嘯くくせに。
私だからですよね?
私が危ないかもしれないから来てくれたんですよね?
私、少しはうぬぼれて良いんですよね?
愛しいナズーリン、いつもありがとうございます。
食事の後、ナズと慧音さんがお互いの本を見せあいながら、議論を再開しました。
けれども慧音さん、落ち着きがありません。
私や妹紅さんをチラチラ見ていますし、受け答えがおざなりになっています。
ナズーリンが気づかないわけはありません。
「慧音どの、なにやら気がかりがあるようだな」
「あ、ああ、申し訳ない」
少し下を向いて考え込んでしまった慧音さん。
妹紅さんが心配そうに覗き込みます。
顔を上げた慧音さん、なにやら力が入っています。
「ナズーリンどの、寅丸どの、お二人は【付き合っている】とうかがった。
教えを請いたい。そ、その、女性同士の付き合いとはいかなるものになるのか?
幸せへの道は奈辺にありや!? 頼む!教えてくれ!」
頭を下げる慧音さん、私と妹紅さんはビックリ。
呼吸三つほどの後、一人、冷静なナズーリンが柔らかく告げます。
「表向き、私たちは主従だが、恋人だ。女同士だがね。
私はご主人、寅丸星を愛している。
かけがえのない伴侶であり、私の生のほとんどすべてだ。
そして寅丸星も私を愛してくれているはずだ」
私はぶんぶん頷きます。
人前で言われると恥ずかしいですが、嬉しいー!
「百聞は一見にしかず、これは真理だ。
ご主人、二人にお手本を示してあげよう、これも【授業】だ」
いきなり口づけられました!
驚き、固まった私の両頬を掴み、さらに深く!
なにをするんです!
そんな、歯の裏をごしごし舐めないでぇ、
私の舌を追い回さないでぇ、
私の唾液を啜らないで、そんな下品な音を立てて啜らないでぇ。
あん、乱暴です、乱暴なのに力が抜けていきますよぅ。
えっ!?ナズーリン!?いけません!どこに手を入れているんですか!!
小さな手が作務衣の合わせから潜り込んできて下着を掻き分けています!
きゅっきゅっと揉みながら、探しています、なにを探しているの!?
いけません、ダメですったら、ダメですよ、
「もう少し右です、あん、行き過ぎです、ちょっと戻って、あ、そっちじゃないの!」
「と、まぁ、こんな感じでお互い十分に楽しめるわけだ」
へっ?
冷めた声で我に返りました。
ナズの手はいつの間にか引っ込められていていました。
「先のことは分からない。幸せの道とやらも分からない。
が、なにかあるはずだ。きっとある。
私は【ダウザー】だ、探し出してみせるさ。
いや、二人で探して行くつもりだ」
私は衣服の乱れを直しながら睨みつけますが、全然こたえていません。
ナズ、ヒドいです。
なんだかカッコ良さげなこと言っていますが、ヒドいですよー!
お二人とも目を剥いて、顔を真っ赤にしているじゃありませんか。
なんだかあのまま、うやむやになってしまって、帰り道。
ナズーリンが話しかけてきました。
「怒るのは無しだよ。急所ははずしただろう?」
【急所】ってそういうことだったんですか?
「私がご主人の【急所】を捉えられない、そんなことあり得ないよ」
なんで偉そうなんですか。
「あの二人にはちょっと強めの刺激が必要だ、これできっとうまくいくさ」
その刺激があれだったんですか?
お二人のため、と理解はできますけど、私の気持ちは?私の火照りは?
やっぱりヒドいです。
怒るよりも、悲しくなってきました。
立っていられません。
「ん?ご主人、どうしたんだ?」
うずくまった私に駆け寄るナズ。
「ばか」
「あ?」
「ばかナズーリン」
うずくまった私を抱きしめ、
「星、ごめんね」
「知らない」
頭をなでられたら、涙が出てきちゃいましたよ。
あー、もー、いろいろ情けないです。
翌日の夕方、妹紅さんが寺に来ました。
「昨日はありがとうございました」
私とナズーリンの前でお辞儀をし、
「私、今日、伝えます」
なんと晴れやかな表情でしょう、誰になにを、と問うまでもありません。
良かった、きっと想いは通じます。絶対です。
ナズーリンに向き直った妹紅さん。
「ナズーリン【先生】、私も昨日の授業を聞いていたんです」
「ああ、そうだったね」
「私も、【付録】を頂いて良いんですよね?」
ふぃっ、と悪戯っぽく笑む妹紅さん、まいっちゃいますねー可愛くて。
「そういうことになるな、約束だからね」
「私の肉体は永遠に滅することはありません。
慧音は半獣です。長い寿命とはいっても永遠ではありません。
いつか別れがまいりましょう。
私はその時、一緒に逝きたいのです」
少し間を取ってナズーリンを見つめる妹紅さん。
「蓬莱の薬。効力を打ち消す方法を探してください」
静かな決意ってコレですね。
その気持ち分かっちゃいます。
私もナズーリンが死んだら、急いで追いかけます。
きっとあちらこちらに迷惑をかけてしまうでしょうが、
【転生】が認められている今の世なら、もたもたしていられませんもの。
来世も一緒に居たいから。
「難しいね」
腕組みするナズーリン。
「魂ごと滅してしまうなら、方法はあるが、そうなれば慧音どのを追うことは
叶わないしな。
まぁ、薬の効力なら、薬で消せるかも知れないな。
だとすれば稀代の薬師に依頼するのが近道だが、その薬が自分達の存在を
脅かすものだとすれば、おいそれとは作らないだろう。
仮に作ってあったとしても、厳重に秘匿するはずだ。
さーて、どうやって手に入れるかな。
久しぶりに知恵を絞らねばならないな、相手は【月の頭脳】か、面白い」
不敵に笑うナズーリン、今度はカッコいいです。ええ、ホント。
「妹紅どの、何年か猶予を頂くよ? だが、必ず見つけてみせる、必ずだ」
力強く宣言しました。
ナズーリンがここまで言ったんです、必ずやってくれます。
妹紅さんは、嬉しそうな、泣き出しそうな、なんとも複雑な表情を作ってから、
深々とお辞儀をしました。
お辞儀をしたまま、
「お願いします、よろしくお願いします。ナズーリン先生」
しばらく頭を上げず、【お願いします】を繰り返していました。
そして少し赤い顔のまま、帰っていきました。
「さて、私はこれから見回りだ。晩御飯はいらないからね」
「お待ちなさい。どこへ行くんです?」
すかさずナズーリンの襟首を掴みました。
どこに行くかなんてお見通しです。
「慧音さんのところですね?いけませんよ、覗きは許しませんよ!」
「ご、ご主人!あの妹紅どのが、ついに告白するのだよ?
あの純朴ながら清楚で可憐な悲運の美姫が、恥らいながら生涯唯一の想い人に
胸のうちを告げるのだ。
これは欠席できない【授業】だよ!」
なんだか私も興味が出てきちゃいましたが、やっぱりダメですよ。
「それをあのスケベ岩石頭が受けとめるのだ。
お互い十分気持ちを知っているうえで告白されるのだ。
ムッツリ暴走教師がなんと言って応えるのか、気になるだろう?」
なんという例えでしょう、失礼すぎますよ!誰のことかすぐ分かっちゃいましたけど。
「そしてその後、どのように重想合身(じゅうそうがっしん=イミフメイ)するのか!
開始時は妹紅どのの、がむしゃらな必死の攻撃だろう。
それこそ、今までの想いを叩きつけるような、激しくも拙い攻めだろうね。
しかし、慧音どのが受けっぱなしとは思えない。
どの段階で攻めに転じるのか、
妹紅どのは、攻められたら脆いだろうことは容易に想像できる。
それでも慧音どのの攻撃を切なそうに耐え続けるだろう、
我慢に我慢を重ねた妹紅どのがどこで弾けるのか、
どのように乱れてしまうのか、
なんと叫ぶのか、
あの艶やかな長い白髪が床の上でどのような紋様を描きながら乱舞するのか、
見損なうわけにはいくまいよ!」
あわわわ、そんなスゴいことになっちゃうんでしょうか!?
み、み、みた、いえ、見ちゃいけません!見ちゃ、見ちゃ、見ちゃい、
「ご主人、見ちゃいってなんだね?」
口走っていましたか!私ってばっ!
「でも、でもダメです!今日は二人っきりにしてあげてください!」
私とナズーリンが想いを打ち明けあったあの日、もし誰かに見られていたとしたら。
そんなの絶対嫌です!嫌です!!嫌です!!
「分かったよ、星。涙を拭いてくれ」
苦笑いのナズーリン、私、泣いていたんですか?
「ご主人は良いヒトだ。ま、改めて言うのもなんだがね」
「ナズ、ホントダメですよ?今日はダメなんですよ?」
「信用ないな、ならば一晩中、私を縛り付けておけば良いさ」
「分かりました。縛り付けておきます」
「え、冗談だよ、行かないって、ホントだって」
「いーえ、縛ります。今夜は私の腕の中にずーっと縛り付けておきます」
「へ?あの、それって?」
「服は着たままです」
「私は脱いでもいいの?」
「ダメ」
「けち、けちだよ、ご主人のけち!」
「けちで結構です。決定事項です」
「ま、まぁ、良しとするか。ちなみに向き合うの?背中から抱いてくれるの?」
「その選択は貴方に委ねましょう」
「お、おお?そうなのか、ど、どうするかなー。
や、やはり多少苦しくても向き合った方が嬉しいけど。
あ、背中抱きの時【耳はむはむ】してくれるの?」
「ナズが寝付くまでしてあげます」
「あー!迷う!迷うよー!」
頭を抱えて転げまわっているナズーリン。
とりあえず、今日のところはこのまま放っておいて大丈夫でしょう。
慧音さん、妹紅さん、お二人の未来に幸多からんことをお祈りしますね。
了
色々突っ込む所があって面白かったです!!
突っ込みお待ちしております。
あまあまでナズナズじゃないですか。
前回に引き続き、
かかっ、かっ、かか、かっかか、か可愛すぎますよ きゃーい
こら惚れずにゃおれまい。
次回作も楽しみにしてます。
ナズ以外みんな敬語なせいか全体的に落ちついた感じがしたなぁ
みんなが大人に見えるせいか最後の甘えまくるナズーリンがやたらと幼く感じる
なんていうか、普段のエロ鼠とのギャップが凄く……いいです……
いや素敵な話でした。読めて良かったです。
フェルマーの最終定理クラスの難題だw
書き出しの筍ご飯談議の時点で可愛かったです。
真面目でえろくて可愛くて狡猾で色々ぎゅっとつまったお得セットですね。
そしていつものように、★いくつの話であなたかと思い出してしまいました。
続けてお読みいただき、恐縮です。やっぱり私、ナズ星が大好きなんです。
次作は新聞合戦に巻き込まれたナズが少し意地悪する話の予定です。
6番様
ありがとうございます。「面白かった」これってうれしいです。
13番様
ありがとうございます。ナズは甘えん坊だと思っています。でも、これまで甘えたくても、そうはできなかった。少し緩むと暴発するんじゃないかと。あ、「甘えん坊ナズーリン」これいかがですかね?
15番様
妹紅が求める最後の望みがこれなんじゃないかなと。ナズは今回の目的達成のために、ずいぶんと遠回りな作戦を考えているようです。お目にかける機会があれば……頑張ります。
17番様
ありがとうございます。引き続き読んでくれる人がいるって、幸せ。。。
21番様
えっ!今回は甘さ控えめなんですが…ありがとうございます。
28番様
ありがとうございます。でも、最高って、ちょっと恥ずかしい…
31番様
慧音先生はムッツリです。ええ、絶対です。真面目な顔して、トンでもないHを黙々と施し、後から一人でしみじみ喜びを反芻するのじゃないかと。
32番様
私は背中抱きでOKです。きっと良い夢が見られますもの。ありがとうございます。
34番様
料理好きなんです。でも、あんまり書き込むとウザイし、でも、幻想郷の食生活って、とても興味があります。ナズのおにぎりをニコニコしながら作っている星、ありでしょう?
色々詰め込んでしまうのは、私自身が寂しがりなのだと思います。ありがとうございました。
ありがとうございます。
とても読みがいがありました!
あと命蓮寺組のかわいさにやられました。
ありがとうございます。次も書きます。
46番様
星がナズにメロメロ、実はナズの方が星にもっともっとメロメロなんだと
思っています。その辺も書かせていただきたいですね。ありがとうございます。
星大好きなナズもナズ大好きな星も、慧音も妹紅もラブくて可愛かった!
よし、過去作めぐり行ってくる。
全体的に美しいわ、変態なんだけどなぁ??おかしいなぁ?? お嬢様
数々の暴言変わってお詫び申しあげます。次回も楽しみにしております 冥途蝶
過去作、どぞ、どぞ、ご賞味ください。ありがとうございます。
お嬢様・冥途蝶 様
「変態」=お褒めの言葉、といただております!
次も変態です(ちょっと緩めですが)
もこけねに幸あれ
ありがとうございます。もこけね、実は最もラブラブなカポだと思います。
54番様
えと、次も頑張ります。ありがとうございました。
甘すぎたんだ
どうしてくれる
ありがとうございます。甘さ控えめにしたんですが……
丁寧口調の妹紅も新鮮でよいです。
けーね先生やはりスケベだったとはw
カップルの未来に幸あれ!
原作の台詞を何度か読み返したんですが、妹紅は男口調、とは思えませんでした。
優しくて、寂しかった娘なんだと決め付けました。
スケベ慧音は「そうであって欲しい、むしろそうでなくては困る!」勝手設定でした。
それにしてもバカップルの次は今度は新婚夫婦ですか。お弁当まで作っちゃって。
ナズーリンの慧音先生の紹介の仕方が男前すぎて惚れました。変態があるからカッコいいナズが際立ち、カッコいいとこがあるからより一層変態が際立つ。うん。このギャップが素晴らしい。
やっぱり星ちゃんの墓穴の掘りっぷりが素敵です。だんだんナズーリンに毒されて誘い受け体質になってるんじゃ……最後の【探査】なんて自ら【誘導】までしちゃってww
あと星ちゃんのうかーっが可愛い。
あと【ひかがみ】の説明であらぬ想像をしてしまいましたが、膝の裏のことでしたか。ナズーリンよくわかっていらっしゃる。是非師匠と呼ばせてください。
ゲーム中の台詞を基にしております。後から読んだのですが儚月抄では確かにそうですね。
心を許せそうなヒトたちの前では「女の子」になったらいいなぁと夢想しました。
今後どうしましょう? ご指摘ありがとうございます。
ぺ・四潤様:
キャラの書き分けが甘く、見苦しい点が多々ありすいません。
カッコいいナズーリン、変態ナズーリン、情けないナズーリン、星大好きナズーリン、
この表現が拙作の「キモ」と肝に銘じておる今日この頃です。
実は【ひかがみ】を含めた膝まわりの可愛さに萌えるのです!
脚は太ももとふくらはぎだけではありません!
それをつないでいる膝にこそ美しさが集約されているのです!!!!
あ……ちょっと興奮してしまいました。 ありがとうございます。
途中あるマンガを思い出しましたよ
ホモサピエンスにとってもっとも高度な学問は何か・・・
結論は歴史学。歴史を学ぶには優れた知能、高い好奇心、つまり恵まれた頭脳が要求される、と
いやぁ、終始ニヤニヤさせていただきましたよ
あらあら、過去作もご覧いただき恐縮です。
歴史って面白いですよねー。
なんとなく繋がっている続編ぽいものも書いておりますのよろしければ。
ありがとうございました。
ナズにめろめろな星さんがひたすらかわいかったです。
そして慧音先生どえらいえろいですよ!
妹紅もとんでもない願い事をするなぁ・・・。真面目にどうにかしてしまいそうなナズがパネエです
ちょこちょこ人称を変えて書いてみています。うーん難しいですよね。
慧音先生は何せ【絶倫昇天大王】ですからw
妹紅は幸せにしたいですね、きっとナズーリンがやってくれます。