一応、続き物です。
――― 一体あの子は誰だったんだろう。
あの後、家に帰ってきてから数日たった今でも、
河原で出会い、一言、挨拶を交わしただけ(隠密用装備で)
の少女のことを考えていた。
薄く流れる水の上にそっと浮かんで動くことのない姿。
月明かりに照らされた彼女は今まで見てきた中で一番、
綺麗で、可愛くて、でもどこか寂しそうで、
優しそうで、人形みたいに愛くるしくて、
どことなく、風が吹いて掠れて消える灯火のように、儚げだった。
少女と出会ってから、毎日、毎晩私を苦しめてきた夢は見なくなった。
その代わり、私に友達がいて、毎日楽しく過ごしている夢を見るようになった。
夢は、喜びと安心をもたらすものであって、
対に、今まで感じないようにしてきた寂しさや不安を増長させるものでもあった。
だから、私は叶うことのないこの夢を彼女がもたらしてくれたこの夢に願うんだ。
いつか、私と心から信じあってくれる友達ができますように……。
厚く空を覆う雲が、昼間とは思えない暗さをもたらしている。
空を見て思うは、あの、明るい夜のこと。
―――何だったのかしら、あの子。
数日前に出会った少女のことを考える。
ちょうど私が厄を集めているときにあの子はやってきた。
多分、女の子だと思う。
なぜ多分なのかというと、なんというか、雰囲気がそんな感じだなーというくらい。
女の子らしい特徴は、まぁ、なんというか、発育途上とでも言うべきか。
……私も似たようなものだけれど。
緑の帽子にポケットのいっぱいついたワンピースのような作業服。
胸の真ん中には紐に通された鍵みたいなものがかかっている。
髪も同じく水色で、赤い髪留めで小さなツインテールを作っていて………
変なゴーグルをつけていた。
何だろう、あれは。
形状は鼻から上、額から下の領域、
目を覆う、ダイビングに使うマスクを少しカットして格好よくした感じ。
機械…だろうか。
たまにノイズのようなものが浮かぶことからそう考えるが断定はできない。
機械ということは…河童?
私も山の一員であるから、住んでいる者の事くらいならギリギリわかる。
でも、あの子は見たことがない。
水の妖怪という特性上、河童には川が欠かせない。
だから、河童たちはみんな簡単な服装を好む。
余計なものを着けていて川に流されれば、取りにいくのは簡単だけど、手間がかかるから。
河童たちはみんな、耐水性のある機械や、
日常で必要なものしか作らない。
あんなゴーグル、普通では使い道がないはずだ。
まって、じゃぁ、何であんなものをつけている子がこんなに目に見えるほど近づいてくるまで、
私は気がつかなかったの?
少し、警戒を強めたほうがいいかもしれない。
なんせ、他の人に厄が移らないように細心の気を払っているのに、
気づかれることなく近づいてくることができたのだから。
「っ!?」
目が…合った?
いや、そんなはずはない。
だってあの子は目を覆いつくす大きなゴーグルをかけているのだから、
目を合わせようにもあわせることなど不可能なはずだ。
敵ならここで仕掛けてくる……
考えてみれば、ここまで接近しているのであれば、私が気づかないうちに攻撃を仕掛けてくるはずだ。
ここは、勇気を振り絞るしかない。
自警団に突き出せば問答無用で捕らえてくれそうな人に声をかけるのはなかなかに難しい。
人に会わないように過ごして、
人が幸せになることを幸せと思って生きてきて、それは本当に幸せなことだった。
けれど、自分があの子と話をしたい、とか、
声を聞いてみたい、とか、
知り合ってみたい、とか。
私に欲求があることに驚いた。
だから、私は試してみようと思った。
この心が求めているものは本当にあの子なのかを。
―――すぅ
軽く息を吸い、何気ない感じで挨拶をしてみる。
顔が勝手に綻んでしまったのは仕方のないことです。
「こんばんわ」
あの子はびっくりしたように体を震えさせる。
気づいてないようだけれど、ゴーグルが外れて首元に落ちて、
水色の大きな丸い目が顔をのぞかせていた。
だんだん青くなって、次に赤くなって、思案顔になって、
震えだして、泣きそうになって、また赤くなって。
可愛い子だ、と思った。
私にはそんなにいろいろな表情はできない。
「こっこ…こんばんわ」
心地よい、木漏れ日の中にいるような、
そんなあったかい、安心してすべてを委ねることができそうな、
そんな声。私の心が今求めたばかりだったぬくもりをもった、そんな感じ。
でも、不安や寂しさ、恐怖が混じっている気がするのは気のせいだろうか。
私は他の者と干渉することはできない。
今、ここで幸せを味わって、後に後悔するよりも、
今、ここで飛び立って、この子を遠くから眺めているほうが、
私にとっては最善の答えだと思う。
何事もなかったかのように、表情を顔に出さないように、
私は家へと帰った。
あの子は、今、どこで何をしているんだろう。
日がたった今でも、顔を見たいと思っている私がいる。
声を聞きたい。一緒に話がしたい。
でも、それは無理だ。
私がかかわると、不幸しか訪れない。
あの子には幸せになってほしい。
だから、雲が切れ、差し込んできた光が滝と作る、
この夢のような虹に、叶わないと思っていても諦める事のできないこの夢を祈ってみた。
いつか、私と手をつないで歩ける友達ができますように―――――
描写も丁寧で読みやすくて好きです。是非書き続けてほしいなと思います。
せっかくだから、まとまった文にしてから投稿すると、読む側も負担が少ないかなと。(過去の作品集に戻る手間など)
でも心の奥底では心友の存在を渇望する二人。
第一種~第二種接近遭遇は完了。第三、第四への道筋はもうちょっと掛かるのかな?
素敵なガール・ミーツ・ガールの物語で完結できるといいですね。
これは個人的な感覚なのですが、前作の展開をなぞる形による完全に雛サイドのお話で
今作を展開させてもおもしろかったかな、とちょっとだけ思いました。
とにかく、作者様にとっての『二次にかけた夢はかなう』も達成できるよう願っています。
ヤダ……、上手いこと言ったつもりの俺って気色悪い……。
にとりと雛、臆病な感じの二人が少しずつ距離を縮めていく感じがもどかしくも微笑ましいです。
誤字報告
最新の気を払っているのに→細心の