朝、天狗が博麗神社へと向かうと博麗神社が『海』に沈んでいた。
正確に言うならば、博麗神社があった場所が『海』になっていた。
鴉天狗が、慌てて幻想郷の管理者である隙間妖怪の元へと向かって状況を報告したが、わかったことは博麗神社が消滅したことだけだった。
第一発見者がブン屋の鴉天狗だったこともあり、その号外は幻想郷全土へと広まった。
突然の博麗神社の消滅の報せに、幻想郷の有力者達は驚きを隠せなかった。
博麗神社の存在を疎く思う何某の者の仕業に違いない、とお互いに各々の方法で密偵を送り、それぞれの詳細を探った。
強がりで、それで居て泣き虫の魔法使いは、親友の巫女が居なくなってしまったことで、海の辛さに負けず劣らずの塩水を流していた。
魔法使いの体より流れる小さな海を、『海』は優しく、それで居て嘲笑うように溶かし込んでいった。
魔法使いは、日が暮れるまで泣いて、泣いて、泣いた後、『海』に写った自らの真っ赤な目を鼻でふふっ、と笑って自分の家へと帰っていた。
その光景を黙ってずっと見ていた隙間妖怪も、じきに彼女の寝床へと帰っていった。彼女の影のあった場所にも、小さな海が出来ていた。
次の日、思い思いの思惑便りに密偵を送って言った有力者達は、それがとんだ間違いであったことを思い知らされた。
前日よりも『海』が広がっていたからだ。そのあまりの非常さに、『海』の傍に集まった者たちはそれぞれに怒号や悲しみの声を上げた。
魔法使いや、人形遣いは必死に隙間妖怪に喰らいついた。彼女らが幾ら速く解決法を見つけろ、と煽っても隙間妖怪はじっと黙っていた。
人間の里からも、人間達がやってきてそれぞれに声を上げた。そして、その内怒号を飛ばすのにも疲れた皆は、うなだれながらそれぞれの家へと帰っていった。
海は、そんな彼らを笑って見送った。
次の日、妖精たちがちゃぷちゃぷと『海』で遊んでいるところに、永遠亭の者達が現れた。
その中の医者は、瓶で『海』を一すくいすると、なにやら難しい薬品をかき混ぜたり、よくわからない紙を突っ込んだりした。
助手の兎達にも手伝ってもらい、一日中『海』を調べて過ごした。
どうやらわかったことは、これが文献通りの紛れもない『海』であるということだけだった。
永遠亭の者達は、諦めたように帰っていった。妖精たちも、日が暮れるということで海に手を振って帰っていった。
次の日、すっかり子供達の遊び場となってしまった『海』に地底からの客がやってきた。
火焔猫と鴉は、すっかり『海』のとりこになってしまったらしく、きゃらきゃらと笑いながら『海』の中ではしゃいだ。
覚り妖怪とその妹は、そんな彼女達を悲しげな、どこか諦めた笑顔で眺めていた。
夕日が沈む頃には、遊び疲れて寝てしまった二人のペットを負ぶさって、二人は帰っていった。
次の日、『海』はすっかり広がって魔法の森を沈めてしまった。
人形遣いがすっかり『海』のそこに沈んでしまったことを理解すると、魔法使いはまた大きな声で泣き出した。
自分だけが山へと逃げていたことを後悔するように、人形遣いの幸福を願うに泣いた。
最後には自分も『海』へと飛び込んで、と思い覗き込むと『海』はにっこりと笑った。
その全てを悟りきったような笑顔が怖くて、魔法使いは逃げ出した。
次の日、人間の里の人々が荷物を纏めて海のほとりに立っていた。
隙間妖怪の提案で彼らは外の世界へと行くことになったのだった。
悲しげな声で別れの挨拶をする彼女を周りの人々は何も言わずに黙って見つめていた。
最後の一言を告げると、ふっとそよ風が舞い、人々は其処から居なくなっていた。
『海』は、そよ風ですこしたなびいたかと思うと、いつも通りの静かなそれに戻った。
次の日、幻想郷に残ることを選んだ者達、いや、正確に言うならば幻想郷の外では存在し得ない者達が『海』のほとりへと集まった。
既に、海は赤き吸血鬼の住む紅魔館を明日にでも飲み込む勢いで進んでいたからだ。
幻想郷随一の頭脳を頭脳を持つ者達が、何時間も何時間も必死に議論を重ねた。色々な方法を検討してみた。
しかし、そのどの手段もこの穏やかで暴力的な『海』を退ける手段足りえないことを誰もが知っていた。
その内、誰か一人が泣き出した。それに釣られるように別の誰かが泣き出した。
どれも、身を引き裂かれるような泣き声だった。彼女達は、真に自分たちが無力であることを理解したのだ。
幻想郷の有力者達の流す、そんな強い筈の海さえもお構いなしに『海』は飲み込んでいった。
誰かが、酒を飲もうと提案した。一人が声を上げ、二人が声を上げ、大宴会となった。
その宴会は朝まで続いた。誰も彼も、泣きながら酒を飲み続けた。
次の朝、『海』は少女達を飲み込んで尚、静かに広がり続けた。
次の朝も、次の朝も、その藍色は椀から漏れた水のように広がり続けた。
そして、最後にはどうなったか。それは、誰も知らない。ただ、『彼女』のみが知っている。
正確に言うならば、博麗神社があった場所が『海』になっていた。
鴉天狗が、慌てて幻想郷の管理者である隙間妖怪の元へと向かって状況を報告したが、わかったことは博麗神社が消滅したことだけだった。
第一発見者がブン屋の鴉天狗だったこともあり、その号外は幻想郷全土へと広まった。
突然の博麗神社の消滅の報せに、幻想郷の有力者達は驚きを隠せなかった。
博麗神社の存在を疎く思う何某の者の仕業に違いない、とお互いに各々の方法で密偵を送り、それぞれの詳細を探った。
強がりで、それで居て泣き虫の魔法使いは、親友の巫女が居なくなってしまったことで、海の辛さに負けず劣らずの塩水を流していた。
魔法使いの体より流れる小さな海を、『海』は優しく、それで居て嘲笑うように溶かし込んでいった。
魔法使いは、日が暮れるまで泣いて、泣いて、泣いた後、『海』に写った自らの真っ赤な目を鼻でふふっ、と笑って自分の家へと帰っていた。
その光景を黙ってずっと見ていた隙間妖怪も、じきに彼女の寝床へと帰っていった。彼女の影のあった場所にも、小さな海が出来ていた。
次の日、思い思いの思惑便りに密偵を送って言った有力者達は、それがとんだ間違いであったことを思い知らされた。
前日よりも『海』が広がっていたからだ。そのあまりの非常さに、『海』の傍に集まった者たちはそれぞれに怒号や悲しみの声を上げた。
魔法使いや、人形遣いは必死に隙間妖怪に喰らいついた。彼女らが幾ら速く解決法を見つけろ、と煽っても隙間妖怪はじっと黙っていた。
人間の里からも、人間達がやってきてそれぞれに声を上げた。そして、その内怒号を飛ばすのにも疲れた皆は、うなだれながらそれぞれの家へと帰っていった。
海は、そんな彼らを笑って見送った。
次の日、妖精たちがちゃぷちゃぷと『海』で遊んでいるところに、永遠亭の者達が現れた。
その中の医者は、瓶で『海』を一すくいすると、なにやら難しい薬品をかき混ぜたり、よくわからない紙を突っ込んだりした。
助手の兎達にも手伝ってもらい、一日中『海』を調べて過ごした。
どうやらわかったことは、これが文献通りの紛れもない『海』であるということだけだった。
永遠亭の者達は、諦めたように帰っていった。妖精たちも、日が暮れるということで海に手を振って帰っていった。
次の日、すっかり子供達の遊び場となってしまった『海』に地底からの客がやってきた。
火焔猫と鴉は、すっかり『海』のとりこになってしまったらしく、きゃらきゃらと笑いながら『海』の中ではしゃいだ。
覚り妖怪とその妹は、そんな彼女達を悲しげな、どこか諦めた笑顔で眺めていた。
夕日が沈む頃には、遊び疲れて寝てしまった二人のペットを負ぶさって、二人は帰っていった。
次の日、『海』はすっかり広がって魔法の森を沈めてしまった。
人形遣いがすっかり『海』のそこに沈んでしまったことを理解すると、魔法使いはまた大きな声で泣き出した。
自分だけが山へと逃げていたことを後悔するように、人形遣いの幸福を願うに泣いた。
最後には自分も『海』へと飛び込んで、と思い覗き込むと『海』はにっこりと笑った。
その全てを悟りきったような笑顔が怖くて、魔法使いは逃げ出した。
次の日、人間の里の人々が荷物を纏めて海のほとりに立っていた。
隙間妖怪の提案で彼らは外の世界へと行くことになったのだった。
悲しげな声で別れの挨拶をする彼女を周りの人々は何も言わずに黙って見つめていた。
最後の一言を告げると、ふっとそよ風が舞い、人々は其処から居なくなっていた。
『海』は、そよ風ですこしたなびいたかと思うと、いつも通りの静かなそれに戻った。
次の日、幻想郷に残ることを選んだ者達、いや、正確に言うならば幻想郷の外では存在し得ない者達が『海』のほとりへと集まった。
既に、海は赤き吸血鬼の住む紅魔館を明日にでも飲み込む勢いで進んでいたからだ。
幻想郷随一の頭脳を頭脳を持つ者達が、何時間も何時間も必死に議論を重ねた。色々な方法を検討してみた。
しかし、そのどの手段もこの穏やかで暴力的な『海』を退ける手段足りえないことを誰もが知っていた。
その内、誰か一人が泣き出した。それに釣られるように別の誰かが泣き出した。
どれも、身を引き裂かれるような泣き声だった。彼女達は、真に自分たちが無力であることを理解したのだ。
幻想郷の有力者達の流す、そんな強い筈の海さえもお構いなしに『海』は飲み込んでいった。
誰かが、酒を飲もうと提案した。一人が声を上げ、二人が声を上げ、大宴会となった。
その宴会は朝まで続いた。誰も彼も、泣きながら酒を飲み続けた。
次の朝、『海』は少女達を飲み込んで尚、静かに広がり続けた。
次の朝も、次の朝も、その藍色は椀から漏れた水のように広がり続けた。
そして、最後にはどうなったか。それは、誰も知らない。ただ、『彼女』のみが知っている。
さて、終末に至り、宴会を始めるまでの表現はタグの通りの物悲しさがあって、固有名詞がない点も海からみたら彼女らなどちっぽけなものだと感じさせて大変好みなのですが、一方で結びが言葉遊びだけになってしまっているように思えて個人的にはそこだけが残念です。
どうしようもないモノに対する悲哀とか。
日本が沈没したとか?
誰も何もせず、日常の傍らで町が海に消えてゆく様を描写していたが、シュールで静かな狂気が漂う作品だった。
まぁ過去の作品と比べるのは年寄りの悪い癖かも知れないが…
そこが海になった時点で幻想郷の大部分が水没してしまっている気が。
『海』が何らかのメタファーならばその限りではないのでしょうが、私には読み取れませんでした。
静かにゆっくりと進行する終末。そのイメージは好ましいのですが、上記の理由で物語に
違和感を抱える読者も居るということで。無粋なのかもしれませんが。