夏の暑さから逃れるため、水辺に横たわる。
幻想郷には海が無い。
山からは川が流れているし、霧の湖もある。
水も綺麗で、水浴びをするには文句のないロケーションだ。
でも、幻想郷には海が無い。
海水浴をしたことがある者はほとんどいない。
私も、本物の海を見たことは一度も無い。
外から流れてくるゴミの中に、海の写真が混じっていることがある。
白波が立ち、湖より遥かに荒々しく、青く、雄大な海の写真。
耳に残る潮騒も、砂の熱さも、波の荒さも、夜の海の妖しさも。
どれ一つ、私は知らない。
知ることが出来ない。
だって、幻想郷に海は無いのだから。
水底から空を眺める。
太陽が輪郭を失い、光の塊となる。
陽光が水面に差しこみ、宝石のようにきらきらと輝く。
井の中の蛙、大海を知らず。
この幻想の世界も、それはそれは綺麗なことに違いは無い。
もしかしたら、外の世界よりずっと素晴らしいのかもしれない。
本物の海を見たら、幻滅してしまうかもしれない。
それでも、一度くらいは、本物の海を見ておきたいと思う。
でもどうせなら、幻想の海に負けないくらい、とっても綺麗な海を見たいけどね。
見知った顔が見えたので、浮き上がって水面に顔を出す。
水中から見たので歪んではいたけど、こいつの顔だけは見間違うはずが無い。
予想通りの人物が、水面から付かず離れずの半端な位置から顔を出している。
とうとう愛想を尽かされたらしく、今日は下半身は不在のようだ。
「オフィーリアの真似事?」
「ただの水浴びよ」
水に浸かったまま、紫に返事をする。
行儀が悪いかもしれないけど、人の憩いの時間に来るこいつが悪い。
このまま話をさせてもらおう。
顔に付いた滴を払い、髪を後ろに撫で付ける。
髪が水の中を泳いで、くらげみたいになってるのかしら?
紫は楽しそうににやついたまま、私を見つめている。
訂正。
私の裸に釘付けになっている。
「鼻の下伸ばして、みっともないわよ」
「それは失礼。涼しそうでいいわねえ」
扇子で口元を隠し、ころころと笑う。
えろ婆め。何しに来たんだか。
不審に思っていると、突然扇子をぴしゃりと閉じ、
もったいつけて顔を寄せてくる。
「海を見たいんでしょう?」
心を読んだのか何なのか。
私の考えていた事をぴたりと当ててしまう。
こいつがわけが分からなく胡散臭いのはいつもの事なので、
無駄口は叩かず素直に答える。
「うん」
紫が満足そうに仰々しく頷く。
「見せてあげましょうか」
「出来るの?」
からかわれているだけだと思いつつ。
紫の思わせぶりな仕草に、つい期待してしまう。
こいつの能力を使えば、一跨ぎで海に行く事ができる。
「目を閉じて。 そして、手を出して」
催眠術でもかけられたかのように。
紫の言葉に盲従してしまう。
ちゃぷちゃぷと水の撥ねる音を聞きながら、紫の次の言葉を待つ。
エスコートするように私の手を取り、何かを握らせる。
そしてキスをする。
「目を開けてみて」
紫が何を見せてくれるのか期待しながら、恐る恐る瞳を開ける。
「私からの贈り物よ」
手の中に、海があった。
☆
淡い青。
光の加減により、それが深みを増したり、透明になったり。
光を受け、きらきらと輝く。
雄大な海から生まれた、一滴の海。
期待していたものとは違ったけど。
これはとっても嬉しいプレゼントだ。
「それはアクアマリンと言って、海と同じ輝きを持つ宝石よ」
貰った指輪を左手の薬指に嵌める。
紫は何か薀蓄を話してる様だけど、まるで耳に入らない。
湖の色とはまるで違う海の青。
これは一生の宝物にしよう。
紫はまだどうでもいい講釈を垂れ流している。
サンタマリアだの今では手に入らないだの。
恥ずかしくて口数が多くなってるのかもしれないけど、少しうるさい。
そんなことはどうでもいいの。
もっと他に、言うべき言葉があるでしょ。
紫の口をキスで塞ぎ、そのまま水の中に引き摺り落とす。
紫が文句を口にする前に、私の想いを伝えよう。
紫の目を見て、はっきりと想いを口にする。
「紫、愛してるわ。どちらかが消えてしまうまで、ずっと一緒よ」
「ええ、約束よ。幻想が終わるその時まで」
紫も私も、もしかしたら泣いているかも知れない。
水浸しになったせいで、ばれずに済みそうだけど。
紫が私の薬指に触れる。
この誓いは、きっとどんな魔法よりも強い。
いつまでも、いつまでも一緒にね。
幻想郷には海が無い。
山からは川が流れているし、霧の湖もある。
水も綺麗で、水浴びをするには文句のないロケーションだ。
でも、幻想郷には海が無い。
海水浴をしたことがある者はほとんどいない。
私も、本物の海を見たことは一度も無い。
外から流れてくるゴミの中に、海の写真が混じっていることがある。
白波が立ち、湖より遥かに荒々しく、青く、雄大な海の写真。
耳に残る潮騒も、砂の熱さも、波の荒さも、夜の海の妖しさも。
どれ一つ、私は知らない。
知ることが出来ない。
だって、幻想郷に海は無いのだから。
水底から空を眺める。
太陽が輪郭を失い、光の塊となる。
陽光が水面に差しこみ、宝石のようにきらきらと輝く。
井の中の蛙、大海を知らず。
この幻想の世界も、それはそれは綺麗なことに違いは無い。
もしかしたら、外の世界よりずっと素晴らしいのかもしれない。
本物の海を見たら、幻滅してしまうかもしれない。
それでも、一度くらいは、本物の海を見ておきたいと思う。
でもどうせなら、幻想の海に負けないくらい、とっても綺麗な海を見たいけどね。
見知った顔が見えたので、浮き上がって水面に顔を出す。
水中から見たので歪んではいたけど、こいつの顔だけは見間違うはずが無い。
予想通りの人物が、水面から付かず離れずの半端な位置から顔を出している。
とうとう愛想を尽かされたらしく、今日は下半身は不在のようだ。
「オフィーリアの真似事?」
「ただの水浴びよ」
水に浸かったまま、紫に返事をする。
行儀が悪いかもしれないけど、人の憩いの時間に来るこいつが悪い。
このまま話をさせてもらおう。
顔に付いた滴を払い、髪を後ろに撫で付ける。
髪が水の中を泳いで、くらげみたいになってるのかしら?
紫は楽しそうににやついたまま、私を見つめている。
訂正。
私の裸に釘付けになっている。
「鼻の下伸ばして、みっともないわよ」
「それは失礼。涼しそうでいいわねえ」
扇子で口元を隠し、ころころと笑う。
えろ婆め。何しに来たんだか。
不審に思っていると、突然扇子をぴしゃりと閉じ、
もったいつけて顔を寄せてくる。
「海を見たいんでしょう?」
心を読んだのか何なのか。
私の考えていた事をぴたりと当ててしまう。
こいつがわけが分からなく胡散臭いのはいつもの事なので、
無駄口は叩かず素直に答える。
「うん」
紫が満足そうに仰々しく頷く。
「見せてあげましょうか」
「出来るの?」
からかわれているだけだと思いつつ。
紫の思わせぶりな仕草に、つい期待してしまう。
こいつの能力を使えば、一跨ぎで海に行く事ができる。
「目を閉じて。 そして、手を出して」
催眠術でもかけられたかのように。
紫の言葉に盲従してしまう。
ちゃぷちゃぷと水の撥ねる音を聞きながら、紫の次の言葉を待つ。
エスコートするように私の手を取り、何かを握らせる。
そしてキスをする。
「目を開けてみて」
紫が何を見せてくれるのか期待しながら、恐る恐る瞳を開ける。
「私からの贈り物よ」
手の中に、海があった。
☆
淡い青。
光の加減により、それが深みを増したり、透明になったり。
光を受け、きらきらと輝く。
雄大な海から生まれた、一滴の海。
期待していたものとは違ったけど。
これはとっても嬉しいプレゼントだ。
「それはアクアマリンと言って、海と同じ輝きを持つ宝石よ」
貰った指輪を左手の薬指に嵌める。
紫は何か薀蓄を話してる様だけど、まるで耳に入らない。
湖の色とはまるで違う海の青。
これは一生の宝物にしよう。
紫はまだどうでもいい講釈を垂れ流している。
サンタマリアだの今では手に入らないだの。
恥ずかしくて口数が多くなってるのかもしれないけど、少しうるさい。
そんなことはどうでもいいの。
もっと他に、言うべき言葉があるでしょ。
紫の口をキスで塞ぎ、そのまま水の中に引き摺り落とす。
紫が文句を口にする前に、私の想いを伝えよう。
紫の目を見て、はっきりと想いを口にする。
「紫、愛してるわ。どちらかが消えてしまうまで、ずっと一緒よ」
「ええ、約束よ。幻想が終わるその時まで」
紫も私も、もしかしたら泣いているかも知れない。
水浸しになったせいで、ばれずに済みそうだけど。
紫が私の薬指に触れる。
この誓いは、きっとどんな魔法よりも強い。
いつまでも、いつまでも一緒にね。
「何やってんのよあんたは!
あんた一人好き勝手やって死んだら残された人はどうすればいいってのよ!」
あれwなんか余裕で想像できるのは気のせいだろうかw
いい雰囲気ダナー
お幸せに!