――地霊殿。さとりの部屋。
「あー……お姉ちゃんの第三の目煮込みたい」
「帰ってくるなり物騒なこと言わないで!?」
帰って机に突っ伏して三秒フラット。なかなかの好タイムである。
「あ、ただいま。お姉ちゃん」
「はい。今更ですけどお帰りなさい」
「ロシアに行ってたんだ」
「話はいつも唐突ね。でもこいしが可愛いからお姉ちゃん許しちゃう」
行き先が外国であることをあえて突っ込まないのも姉の優しさである。
「それでね、お土産盗ってきた」
「私の空耳ね、きっと」
「盗ってきた」
「もう一度言わなくてもよろしい」
「ありがとうは?」
「犯罪行為に感謝の言葉はないと思うけどこいしの髪がふわふわだからお姉ちゃん言っちゃう。ありがとう」
ふんわり度二十パーセントアップってところか。もふもふしてそう。もふもふ。
「めっ」
ガッ!
「……」
余りにももふもふしてそうだったから実際に触ろうとしたらこいしに殴られた。ハート型のステッキで。
「こいし。それは?」
「こいしちゃん☆ステッキだよ!」
「そう。普通そういう形状のステッキは、フリフリキューティクルドレスを纏った、肢体が未成熟な女性――俗に言う魔法少女が光り輝くチート魔法を演出させるために使う道具であって、殴打用ではないと思うんだけど」
「こいしちゃん☆ステッキだからだよ!」
「そう。こいしちゃん☆が付けば殴打用になるのね。お姉ちゃんまた一つ賢くなったわ」
タンスに仕舞われてるこいしちゃん☆ぱんつも殴打用になるのかしら。ぜひ殴られてみたいわね。
あぁ、そう言えば――
「こいし、お土産は?」
「あぁ。お姉ちゃん殴るのに夢中で忘れるところだったよ」
出来ればお姉ちゃんを愛でるのにって言って欲しかったな。古明地のMはドMのMなの。
「はい、これ」
そう言ってこいしが取り出したのは、人形。あぁ、マトリョーシカね。ロシアでは有名なお土産だわ。
「マトリョーシカ。ロシアの代表的な木製人形。日本のこけしからヒントを得て作られ、大きさの違う人形を入れ子式にそれぞれの体内に納める」
「まぁ、こいし。よくそんな広辞苑的説明を覚えたわね。いい子いい子」
「やっ」
ガッ
「……」
もふりたかったのに。
――ガチャ
「さとり様ー。うにゅ? 何それ?」
お空が私の部屋に入ってきた。お空はどうやら机の上に置かれたこいしのお土産(盗品)に興味津々の様子である。
「マトリョーシカ。ロシアの代表的な木製人形。日本のこいしちゃんからヒントを得て作られ、大きさの違うお姉ちゃんを入れ子式にそれぞれの胎内に納める」
「さっきの説明カムバック」
しかも、タイナイがさっきと若干違う意味な気がする。けど、こいしのタイナイならいずれにしろ入りたいわね。ヒントになってる訳だし。
「うにゅにゅう! 開けていいですか!?」
お空が目を輝かせて訊いてくる。こういうオモチャを見るのは初めてなんだろう。それにしても澄んだ目に心が痛むのは何かやましいことがあるからかしら。こいしをダシにしたこいしちゃんスープを飲みたいとかそんなことしか考えていないんだけど、うーん。何故かしら。全然心当たりがない。
「うん、いいよ」
こいしが元気よく返事する。あぁ、ダシだけじゃ物足りないわね。やっぱり具も欲しいわ。こいしを丸ごとおいしく頂きたい。
お空がマトリョーシカをどんどん開けていく。心の底から楽しみながら。あれだけ楽しんでもらえるなら、マトリョーシカも本望ね。まぁ、盗品だけど
そうして開けていった結果、マトリョーシカの中にはお饅頭が入ってました、まる。
え? 全然意味が分からないって? ごめんなさい、私も意味が分からないの。
「こいし」
「にゃに?」
「あ、かわい。じゃなくて、これロシアのお土産でしょ?」
「うん。ロシアのお土産だよ」
「なのに、どうして和の趣があるお饅頭が入ってるのかしら?」
「当たり前じゃない。だって人里にあるロシアからのお土産なんだから」
「それロシアに行ったって言わない!」
なるほど。そう言えば人里に外の世界からの異人が紛れて、異文化の店を開いたというニュースを聞いたことある。ロシア人の店だったのか。それで、ロシアの店に行ったことを、こいしは「ロシアに行った」と表現した訳ね。……もう、お茶目さん☆
「そうそう」と、こいしが思い出したように話す。
「お饅頭にも一工夫してあるらしいよ」
「へぇ、何かしら?」
予想としては、お国柄を取り入れたように思われる。
「ハバネロ入れたんだって」
ロシアンのロの字もなかった。
字面ではなくて中身に。
「ん……ハバネロ……?」
「メチャメチャ辛い唐辛子。知らない?」
「いや……知ってるけど……。……お饅頭、さっきお空食べてなかったっけ?」
「え? あ」
記憶によれば、お空は大の辛いもの嫌いのはず。私はこいしと一緒にお空を見る。
……とても可哀想な感じになっていた。体全体がプルプル震え、心を視るまでもなく辛そうだ。この場合、つらいともからいとも読める。それにしても、あれ? 気のせいかも知れないけど、お空の体がなんか輝いてるように見える……?
「あ」
ア?
「び」
ビ……ス……ノヴァ!?
輝きの規模が絶頂を迎えた時、私は必死に自分の部屋から出た記憶しか残っていなかった……。
――こいしの部屋。
「……私の部屋」
「ドンマイ。お姉ちゃん」
「元々はこいしが持ってきたマトリョーシカのせいだと思うけど、こいしのぱんつがいい匂いだから許しちゃう。スーハー」
「えいっ」
ゴッ!
「……こいし。それは?」
「こいしちゃん☆ハンマーだよ!」
「そう。殴打用具にこいしちゃん☆が付くんだもの。そりゃ最強よね。というかよく有ったわね。ハート型のハンマー」
打ちにくいだろうに。
「うぅ……私のせいで、さとり様のお部屋がなくなり、さらに頭から血が……!」
「いや、頭から血が噴き出てるのはこいしちゃん☆ハンマーのせいだからね。お空は気にしなくていいのよ」
結局、私の部屋は消失した。地霊殿が広かったのが幸いして、他の部屋に影響が及ぼすことはなかったけど、しかし、私の部屋は消失した……。
それにしても、若干、ふらつく。あぁ、こいしの血管にチューブ繋げて輸血したい。姉妹だから大丈夫。むしろこいしの血だと思うと私興奮して尚更--
「ふんっ(ゴッ)」
「……何をするのかしら、こいし?」
「いや、なんとなくお姉ちゃんがやましいこと考えてそうだったから」
「失礼ね。結構死活的な問題を真剣に考えていたのよ?」
合ってるちゃあ、合ってる。
「そ、そうだったんだ……。そうだよね……。お姉ちゃん、自分の部屋なくなっちゃっただもんね……。ごめんね、お姉ちゃん……」
肩を落としたこいしに、私は思わず微笑む。なんだかんだ言いつつ、やっぱりこの娘は優しい。
「いいえ、いいんですよ、こいし。間違いは誰にもあります。きちんと悔いて、反省すればそれでいいんですよ?」
「うん……そうだよね。悔いた、反省した。これでよしっ!」
わぁお。こっからいい雰囲気に繋げようかと思ったのに(それでこいしが抱きついてくれる予定だった)、我が妹ながらなんて許しがいのない反省。でも、さっき再度こいしぱんつクンカクンカしたからお姉ちゃん許しちゃう。ドサクサって大切よね。うん。
結局、お空は持ち場に返したけど、何しに来たのかしら。訊いてみたけど、「うにゅ? えーっと、……忘れちゃった」と、小首を傾げていた。よかったわね、あのポーズ。ぜひこいしにやらせたい。
……さて。現在、こいしの部屋。つまり夢のワンダーパラダイス。私は所構わずタンスを開ける。
ゴッ!
「なにやってんの、お姉ちゃん?」
「えっと……トレジャーハンティング?」
この縞パンとか、って、ちょ、痛い! 痛い! 痛い!
「こ、こいしちゃん☆ハンマー禁止っ!」
「えー? しょうがないなぁ……。じゃあ、こいしちゃん☆ドリルを――」
「すみませんでした」
恐ろしい娘。殴打の代名詞にドリルって、最悪の組み合わせじゃない。ハート型のドリルなんて、見た感じすごく傷口広げそう。
「全く……。ちゃんと大人しくしててよ? お姉ちゃん見てると危なっかしいんだから……」
手に持ってるこいしちゃん☆ハンマーよりは危なくないと思ったけど、お姉ちゃんは優しいし、命が惜しいから突っ込まないであげたわ。
……とは言っても暇ね。こいし押し倒すしかやることないじゃない。手に持ってるこいしちゃん☆ハンマーが怖くて手出しできないけど……。
そんな時、ベッドに腰をかけて足をぷらぷらさせてた私に、こいしは先程とは趣の違う表情で話かけた。
「……ねぇ、お姉ちゃん」
「ん? 何かしらこいし」
「昔は、よくこうやって、お互いの部屋行き来して、遊んだもんだよね……」
「……そうでしたね……」
こいしが一人でトイレにも行けない頃だったか。あの時はまださとり妖怪が地上にいて、一族もひっそりと暮らせていた。こいしと一緒に外で遊んだのが昨日の出来事のように思えてくる。そういえば、まだあの時は第三の目を開いていたか……。
「こうやって、また一緒になるのも悪くないね。お姉ちゃん」
「そうですね……」
私とこいしの間に、いいムードが漂う。こいしが立って、こちらへと歩いて来た。そう、こいしはこのまま歩いて、私の胸元に飛び込み、私はこいしを抱えてベッドイン――!
ダッダッダッダッ!
「さとり様! 思い出しましたよ!」
バァンッ! と、いい雰囲気がドアと共にお空に壊された。お願いお空。名前の通りに空気読んで。
それにしても、思い出したって、何を……?
「さとり様のタンスにあったこいし様の下着、ちゃんと戻しときましたからね! だから、こいし様の下着は燃えてませんよっ!」
「…………お姉ちゃぁん……?」
お空が親指を立てて言った後、満面の笑顔で部屋を後にする。彼女にとって、かなりいいことをしたと思っているらしく、遠ざかって行く足音が軽い。
……貴重な洗ってないこいしぱんつを燃やさなかったのはグッジョブね、お空。部屋を燃やした分プラスぱんつ(重罪)の罰を与えようと思ってたけど、燃えてなかったんなら、帳消しね。よかったわね、お空。
って、あれ……? こいし……さん? ソノハートドリルハナンデスカ? え、まさかこいしちゃん☆ドリ――待って待って待って! 悪かった! お姉ちゃんが悪かったから! これからは縞パンは盗むの止めるから! だから振りかぶらないで! おねがっ、あ――。
「あー……お姉ちゃんの第三の目煮込みたい」
「帰ってくるなり物騒なこと言わないで!?」
帰って机に突っ伏して三秒フラット。なかなかの好タイムである。
「あ、ただいま。お姉ちゃん」
「はい。今更ですけどお帰りなさい」
「ロシアに行ってたんだ」
「話はいつも唐突ね。でもこいしが可愛いからお姉ちゃん許しちゃう」
行き先が外国であることをあえて突っ込まないのも姉の優しさである。
「それでね、お土産盗ってきた」
「私の空耳ね、きっと」
「盗ってきた」
「もう一度言わなくてもよろしい」
「ありがとうは?」
「犯罪行為に感謝の言葉はないと思うけどこいしの髪がふわふわだからお姉ちゃん言っちゃう。ありがとう」
ふんわり度二十パーセントアップってところか。もふもふしてそう。もふもふ。
「めっ」
ガッ!
「……」
余りにももふもふしてそうだったから実際に触ろうとしたらこいしに殴られた。ハート型のステッキで。
「こいし。それは?」
「こいしちゃん☆ステッキだよ!」
「そう。普通そういう形状のステッキは、フリフリキューティクルドレスを纏った、肢体が未成熟な女性――俗に言う魔法少女が光り輝くチート魔法を演出させるために使う道具であって、殴打用ではないと思うんだけど」
「こいしちゃん☆ステッキだからだよ!」
「そう。こいしちゃん☆が付けば殴打用になるのね。お姉ちゃんまた一つ賢くなったわ」
タンスに仕舞われてるこいしちゃん☆ぱんつも殴打用になるのかしら。ぜひ殴られてみたいわね。
あぁ、そう言えば――
「こいし、お土産は?」
「あぁ。お姉ちゃん殴るのに夢中で忘れるところだったよ」
出来ればお姉ちゃんを愛でるのにって言って欲しかったな。古明地のMはドMのMなの。
「はい、これ」
そう言ってこいしが取り出したのは、人形。あぁ、マトリョーシカね。ロシアでは有名なお土産だわ。
「マトリョーシカ。ロシアの代表的な木製人形。日本のこけしからヒントを得て作られ、大きさの違う人形を入れ子式にそれぞれの体内に納める」
「まぁ、こいし。よくそんな広辞苑的説明を覚えたわね。いい子いい子」
「やっ」
ガッ
「……」
もふりたかったのに。
――ガチャ
「さとり様ー。うにゅ? 何それ?」
お空が私の部屋に入ってきた。お空はどうやら机の上に置かれたこいしのお土産(盗品)に興味津々の様子である。
「マトリョーシカ。ロシアの代表的な木製人形。日本のこいしちゃんからヒントを得て作られ、大きさの違うお姉ちゃんを入れ子式にそれぞれの胎内に納める」
「さっきの説明カムバック」
しかも、タイナイがさっきと若干違う意味な気がする。けど、こいしのタイナイならいずれにしろ入りたいわね。ヒントになってる訳だし。
「うにゅにゅう! 開けていいですか!?」
お空が目を輝かせて訊いてくる。こういうオモチャを見るのは初めてなんだろう。それにしても澄んだ目に心が痛むのは何かやましいことがあるからかしら。こいしをダシにしたこいしちゃんスープを飲みたいとかそんなことしか考えていないんだけど、うーん。何故かしら。全然心当たりがない。
「うん、いいよ」
こいしが元気よく返事する。あぁ、ダシだけじゃ物足りないわね。やっぱり具も欲しいわ。こいしを丸ごとおいしく頂きたい。
お空がマトリョーシカをどんどん開けていく。心の底から楽しみながら。あれだけ楽しんでもらえるなら、マトリョーシカも本望ね。まぁ、盗品だけど
そうして開けていった結果、マトリョーシカの中にはお饅頭が入ってました、まる。
え? 全然意味が分からないって? ごめんなさい、私も意味が分からないの。
「こいし」
「にゃに?」
「あ、かわい。じゃなくて、これロシアのお土産でしょ?」
「うん。ロシアのお土産だよ」
「なのに、どうして和の趣があるお饅頭が入ってるのかしら?」
「当たり前じゃない。だって人里にあるロシアからのお土産なんだから」
「それロシアに行ったって言わない!」
なるほど。そう言えば人里に外の世界からの異人が紛れて、異文化の店を開いたというニュースを聞いたことある。ロシア人の店だったのか。それで、ロシアの店に行ったことを、こいしは「ロシアに行った」と表現した訳ね。……もう、お茶目さん☆
「そうそう」と、こいしが思い出したように話す。
「お饅頭にも一工夫してあるらしいよ」
「へぇ、何かしら?」
予想としては、お国柄を取り入れたように思われる。
「ハバネロ入れたんだって」
ロシアンのロの字もなかった。
字面ではなくて中身に。
「ん……ハバネロ……?」
「メチャメチャ辛い唐辛子。知らない?」
「いや……知ってるけど……。……お饅頭、さっきお空食べてなかったっけ?」
「え? あ」
記憶によれば、お空は大の辛いもの嫌いのはず。私はこいしと一緒にお空を見る。
……とても可哀想な感じになっていた。体全体がプルプル震え、心を視るまでもなく辛そうだ。この場合、つらいともからいとも読める。それにしても、あれ? 気のせいかも知れないけど、お空の体がなんか輝いてるように見える……?
「あ」
ア?
「び」
ビ……ス……ノヴァ!?
輝きの規模が絶頂を迎えた時、私は必死に自分の部屋から出た記憶しか残っていなかった……。
――こいしの部屋。
「……私の部屋」
「ドンマイ。お姉ちゃん」
「元々はこいしが持ってきたマトリョーシカのせいだと思うけど、こいしのぱんつがいい匂いだから許しちゃう。スーハー」
「えいっ」
ゴッ!
「……こいし。それは?」
「こいしちゃん☆ハンマーだよ!」
「そう。殴打用具にこいしちゃん☆が付くんだもの。そりゃ最強よね。というかよく有ったわね。ハート型のハンマー」
打ちにくいだろうに。
「うぅ……私のせいで、さとり様のお部屋がなくなり、さらに頭から血が……!」
「いや、頭から血が噴き出てるのはこいしちゃん☆ハンマーのせいだからね。お空は気にしなくていいのよ」
結局、私の部屋は消失した。地霊殿が広かったのが幸いして、他の部屋に影響が及ぼすことはなかったけど、しかし、私の部屋は消失した……。
それにしても、若干、ふらつく。あぁ、こいしの血管にチューブ繋げて輸血したい。姉妹だから大丈夫。むしろこいしの血だと思うと私興奮して尚更--
「ふんっ(ゴッ)」
「……何をするのかしら、こいし?」
「いや、なんとなくお姉ちゃんがやましいこと考えてそうだったから」
「失礼ね。結構死活的な問題を真剣に考えていたのよ?」
合ってるちゃあ、合ってる。
「そ、そうだったんだ……。そうだよね……。お姉ちゃん、自分の部屋なくなっちゃっただもんね……。ごめんね、お姉ちゃん……」
肩を落としたこいしに、私は思わず微笑む。なんだかんだ言いつつ、やっぱりこの娘は優しい。
「いいえ、いいんですよ、こいし。間違いは誰にもあります。きちんと悔いて、反省すればそれでいいんですよ?」
「うん……そうだよね。悔いた、反省した。これでよしっ!」
わぁお。こっからいい雰囲気に繋げようかと思ったのに(それでこいしが抱きついてくれる予定だった)、我が妹ながらなんて許しがいのない反省。でも、さっき再度こいしぱんつクンカクンカしたからお姉ちゃん許しちゃう。ドサクサって大切よね。うん。
結局、お空は持ち場に返したけど、何しに来たのかしら。訊いてみたけど、「うにゅ? えーっと、……忘れちゃった」と、小首を傾げていた。よかったわね、あのポーズ。ぜひこいしにやらせたい。
……さて。現在、こいしの部屋。つまり夢のワンダーパラダイス。私は所構わずタンスを開ける。
ゴッ!
「なにやってんの、お姉ちゃん?」
「えっと……トレジャーハンティング?」
この縞パンとか、って、ちょ、痛い! 痛い! 痛い!
「こ、こいしちゃん☆ハンマー禁止っ!」
「えー? しょうがないなぁ……。じゃあ、こいしちゃん☆ドリルを――」
「すみませんでした」
恐ろしい娘。殴打の代名詞にドリルって、最悪の組み合わせじゃない。ハート型のドリルなんて、見た感じすごく傷口広げそう。
「全く……。ちゃんと大人しくしててよ? お姉ちゃん見てると危なっかしいんだから……」
手に持ってるこいしちゃん☆ハンマーよりは危なくないと思ったけど、お姉ちゃんは優しいし、命が惜しいから突っ込まないであげたわ。
……とは言っても暇ね。こいし押し倒すしかやることないじゃない。手に持ってるこいしちゃん☆ハンマーが怖くて手出しできないけど……。
そんな時、ベッドに腰をかけて足をぷらぷらさせてた私に、こいしは先程とは趣の違う表情で話かけた。
「……ねぇ、お姉ちゃん」
「ん? 何かしらこいし」
「昔は、よくこうやって、お互いの部屋行き来して、遊んだもんだよね……」
「……そうでしたね……」
こいしが一人でトイレにも行けない頃だったか。あの時はまださとり妖怪が地上にいて、一族もひっそりと暮らせていた。こいしと一緒に外で遊んだのが昨日の出来事のように思えてくる。そういえば、まだあの時は第三の目を開いていたか……。
「こうやって、また一緒になるのも悪くないね。お姉ちゃん」
「そうですね……」
私とこいしの間に、いいムードが漂う。こいしが立って、こちらへと歩いて来た。そう、こいしはこのまま歩いて、私の胸元に飛び込み、私はこいしを抱えてベッドイン――!
ダッダッダッダッ!
「さとり様! 思い出しましたよ!」
バァンッ! と、いい雰囲気がドアと共にお空に壊された。お願いお空。名前の通りに空気読んで。
それにしても、思い出したって、何を……?
「さとり様のタンスにあったこいし様の下着、ちゃんと戻しときましたからね! だから、こいし様の下着は燃えてませんよっ!」
「…………お姉ちゃぁん……?」
お空が親指を立てて言った後、満面の笑顔で部屋を後にする。彼女にとって、かなりいいことをしたと思っているらしく、遠ざかって行く足音が軽い。
……貴重な洗ってないこいしぱんつを燃やさなかったのはグッジョブね、お空。部屋を燃やした分プラスぱんつ(重罪)の罰を与えようと思ってたけど、燃えてなかったんなら、帳消しね。よかったわね、お空。
って、あれ……? こいし……さん? ソノハートドリルハナンデスカ? え、まさかこいしちゃん☆ドリ――待って待って待って! 悪かった! お姉ちゃんが悪かったから! これからは縞パンは盗むの止めるから! だから振りかぶらないで! おねがっ、あ――。