こいしは目覚めた。
そりゃいろいろな面で目覚めた。
サードアイは閉じっぱなしだけれど、ともかく目覚めたのだ。
なんの話か?
いやいやそれぐらい察して欲しい。
人口が多いほど沢山の水が要る。そりゃ物の道理だ。生き物である以上、水分を摂らねばならぬ、それも道理。
だのに、地底の水源は枯れかけていたのである。しかもそれに付け込んで水商人たちが価格カルテルを始め、地底の水供給は狂った。
地底の管理人・さとりは割としっかりしているようでいて、結構チャランポランなところもあり、水の管理をまともに考えていなかったのだ。
なんという。
なんというズサンな。
あまりにも姉が頼りないから、こいしは無意識に自分が頑張らねばならぬと思ったのかもしれない。
枯れかけた水源をどうにかすること、確保した水を公平に利用すること。
やるべきことはあまりにも多い。
「というわけで、新たな水源を確保するためにペットを貸してほしいの」
「いやけれど、動物たちには水を嫌がる子も多いわけですし……」
さとりの煮え切らない態度。
こいしはにっこり殺意全開。
「あのね。そんなことだから、地底唯一の水源が枯れそうになっちゃうんでしょ。行水ができなきゃ身体から馬小屋みたいな臭いが漂い始めて、地上の人にも嫌われちゃうんだから」
「そんなに臭くなるんですか」
「もちろん。地底って臭いよねーとかネタにされるぐらい臭くなるわ」
「残酷ですねこいしは……」
「現実はもっと残酷」
「わかりました。人化ができる者に手伝ってもらって、水源調査を行いましょう」
「そのあとはちゃんと水利用法の整備を行わないと」
「わかりました。それもやりましょう。けれど、こいし?」
「なにお姉ちゃん」
「私には……その……水源調査のノウハウが一切無いのです」
「そりゃお姉ちゃんが真面目にやってこなかったから」
「だって歩き回らなきゃいけないでしょ? このモヤシボディが悪いんです。このモヤシボディが! 最近とうとう、動悸がするようになったんです。なんという更年期障害!」
「私の無意識が言っている。姉を許すべきではないと……」
「反省していますよ。とはいえ、水源調査に関しては本気でやり方がわかりません」
「ふむ。もう仕方ないか。じゃあそっちは私がやるとして、その有効利用法の検討はお姉ちゃんお願いね」
「それが妥当ですね」
「じゃあ事業予定書とか条例草案とか出してね」
「こ、こいしが何か難しいことを言っています」
オロオロとするさとり。
こいしは溜息を吐いた。
「あのね。私はこう見えても行政は得意なんだからね。お姉ちゃんとのギャップを埋めるためにどれだけ努力しているのかお姉ちゃんは知らないのかしら」
「いや知っていますが……」
「だったら早く作ってよ」
「無理です……」
「はい?」
「だから、地底管理に際してそういう類のものは全く作成してこなかったのです。事実、それで回ってますから」
「どんぶり感情ならぬどんぶり勘定だったわけね。私よりズサンじゃない」
「さとってください」
「勇儀さん、アレはアレで上手いこと鬼をまとめてお姉ちゃんの補佐をしてくれてたのね……」
「フフフ……」
「そうやってカリスマっぽく見せようとしてもダメ」
「ダメですか……残念です」
「しかたないから、勇儀さんに聞いてみようっと……」
召喚要請にしたがって勇儀はすぐにあらわれた。
不機嫌である。水が無ければ酒も造れないのである。
この緊急事態に、酒造所に水が回るはずも無かった。
「ねえ。勇儀さん、地底の水の分配って……どうなってるの?」
「どうもこうもないね、ご存知のとおり、暗黙の了解やらシガラミやらが支配してるよ。私の嫌いな世界だが仕方ない、公共用水のひとつも無いんだから」
「まあ最高責任者たるお姉ちゃんがあの体たらくじゃ仕様がないか。でも今回の件を受けて、これから治水事業をきちんと行うことにしたの。ついてはその監督をお願いしたいんだけど」
「ふむ……。だがあたしは水路とかの作り方や行政の仕方を知らない。計算は大の苦手だし、人を頼ろうにも鬼連中は大体皆そんな感じだし……」
「ううん……仕方が無い、私がやるわ!」
こいしは大喝した。
いつものふわふわした微笑のまま、やる気のオーラを発している。
逆に怖いぐらいである。
しかしこのやる気こそが、地霊殿ひいては地底世界の革命の礎ともいえるものであったのだ。
まず、こいしが着手したのは、個人の思惑が絡まない公平な水分配である。
そのために、水の配分について明文化されたルールを作成しはじめた。
彼女がすることは、要は場所ごとの水供給のバランスをとり、全体の使用量を適切にすることである。
こいしはほとんど一人で、この大仕事をおこなった。
次に行うべきは、地底世界という閉じられた空間での水の有効活用である。閻魔庁から多少の支援があるといっても、大した量ではない。無駄遣いは避けないといけない。
そこで提案したのはリサイクルの概念である。
いままで捨てられていた様々な水――例えば米のとぎ汁――の有効活用は、地底世界に概念的な革命をもたらしたのである。そもそも地底世界の妖怪は捨てられた存在であった。だからか、「もったいない精神」というものに皆欠けていたのである。
世界には思いやりが欠けていた。
こいしだけが――
無意識を操るこいしだけがそのことに気づくことができたのである。
さらに、こいしの偉業はそれだけにとどまらない。
最大の難点は水の確保である。今在る唯一の水源は枯れかけている。代わりが必要だ。
こいしは地底を歩き回った。そして、ある場所で不意に弾幕を地に放った。すると驚くべきことに、地面から噴水のごとく水があふれ出たのである。巨大な地下水脈を掘り当てたのだ。
これで地底世界の水供給は安定した。
地霊殿に限らず地底世界はこうして平和な時代へと移行していったのである。
後日、様々な偉業を成し遂げたこいしは、インタビューされた。
『どうして地下水脈をああも簡単に見つけられたのですか?』
こいしはいつもと同じ微笑を浮かべた。
「別に大したことではありません。無意識の声にしたがって、やるべきことをやっただけですし……
そう、これこそが……! 井戸の開放です!」
どや顔。
そりゃいろいろな面で目覚めた。
サードアイは閉じっぱなしだけれど、ともかく目覚めたのだ。
なんの話か?
いやいやそれぐらい察して欲しい。
人口が多いほど沢山の水が要る。そりゃ物の道理だ。生き物である以上、水分を摂らねばならぬ、それも道理。
だのに、地底の水源は枯れかけていたのである。しかもそれに付け込んで水商人たちが価格カルテルを始め、地底の水供給は狂った。
地底の管理人・さとりは割としっかりしているようでいて、結構チャランポランなところもあり、水の管理をまともに考えていなかったのだ。
なんという。
なんというズサンな。
あまりにも姉が頼りないから、こいしは無意識に自分が頑張らねばならぬと思ったのかもしれない。
枯れかけた水源をどうにかすること、確保した水を公平に利用すること。
やるべきことはあまりにも多い。
「というわけで、新たな水源を確保するためにペットを貸してほしいの」
「いやけれど、動物たちには水を嫌がる子も多いわけですし……」
さとりの煮え切らない態度。
こいしはにっこり殺意全開。
「あのね。そんなことだから、地底唯一の水源が枯れそうになっちゃうんでしょ。行水ができなきゃ身体から馬小屋みたいな臭いが漂い始めて、地上の人にも嫌われちゃうんだから」
「そんなに臭くなるんですか」
「もちろん。地底って臭いよねーとかネタにされるぐらい臭くなるわ」
「残酷ですねこいしは……」
「現実はもっと残酷」
「わかりました。人化ができる者に手伝ってもらって、水源調査を行いましょう」
「そのあとはちゃんと水利用法の整備を行わないと」
「わかりました。それもやりましょう。けれど、こいし?」
「なにお姉ちゃん」
「私には……その……水源調査のノウハウが一切無いのです」
「そりゃお姉ちゃんが真面目にやってこなかったから」
「だって歩き回らなきゃいけないでしょ? このモヤシボディが悪いんです。このモヤシボディが! 最近とうとう、動悸がするようになったんです。なんという更年期障害!」
「私の無意識が言っている。姉を許すべきではないと……」
「反省していますよ。とはいえ、水源調査に関しては本気でやり方がわかりません」
「ふむ。もう仕方ないか。じゃあそっちは私がやるとして、その有効利用法の検討はお姉ちゃんお願いね」
「それが妥当ですね」
「じゃあ事業予定書とか条例草案とか出してね」
「こ、こいしが何か難しいことを言っています」
オロオロとするさとり。
こいしは溜息を吐いた。
「あのね。私はこう見えても行政は得意なんだからね。お姉ちゃんとのギャップを埋めるためにどれだけ努力しているのかお姉ちゃんは知らないのかしら」
「いや知っていますが……」
「だったら早く作ってよ」
「無理です……」
「はい?」
「だから、地底管理に際してそういう類のものは全く作成してこなかったのです。事実、それで回ってますから」
「どんぶり感情ならぬどんぶり勘定だったわけね。私よりズサンじゃない」
「さとってください」
「勇儀さん、アレはアレで上手いこと鬼をまとめてお姉ちゃんの補佐をしてくれてたのね……」
「フフフ……」
「そうやってカリスマっぽく見せようとしてもダメ」
「ダメですか……残念です」
「しかたないから、勇儀さんに聞いてみようっと……」
召喚要請にしたがって勇儀はすぐにあらわれた。
不機嫌である。水が無ければ酒も造れないのである。
この緊急事態に、酒造所に水が回るはずも無かった。
「ねえ。勇儀さん、地底の水の分配って……どうなってるの?」
「どうもこうもないね、ご存知のとおり、暗黙の了解やらシガラミやらが支配してるよ。私の嫌いな世界だが仕方ない、公共用水のひとつも無いんだから」
「まあ最高責任者たるお姉ちゃんがあの体たらくじゃ仕様がないか。でも今回の件を受けて、これから治水事業をきちんと行うことにしたの。ついてはその監督をお願いしたいんだけど」
「ふむ……。だがあたしは水路とかの作り方や行政の仕方を知らない。計算は大の苦手だし、人を頼ろうにも鬼連中は大体皆そんな感じだし……」
「ううん……仕方が無い、私がやるわ!」
こいしは大喝した。
いつものふわふわした微笑のまま、やる気のオーラを発している。
逆に怖いぐらいである。
しかしこのやる気こそが、地霊殿ひいては地底世界の革命の礎ともいえるものであったのだ。
まず、こいしが着手したのは、個人の思惑が絡まない公平な水分配である。
そのために、水の配分について明文化されたルールを作成しはじめた。
彼女がすることは、要は場所ごとの水供給のバランスをとり、全体の使用量を適切にすることである。
こいしはほとんど一人で、この大仕事をおこなった。
次に行うべきは、地底世界という閉じられた空間での水の有効活用である。閻魔庁から多少の支援があるといっても、大した量ではない。無駄遣いは避けないといけない。
そこで提案したのはリサイクルの概念である。
いままで捨てられていた様々な水――例えば米のとぎ汁――の有効活用は、地底世界に概念的な革命をもたらしたのである。そもそも地底世界の妖怪は捨てられた存在であった。だからか、「もったいない精神」というものに皆欠けていたのである。
世界には思いやりが欠けていた。
こいしだけが――
無意識を操るこいしだけがそのことに気づくことができたのである。
さらに、こいしの偉業はそれだけにとどまらない。
最大の難点は水の確保である。今在る唯一の水源は枯れかけている。代わりが必要だ。
こいしは地底を歩き回った。そして、ある場所で不意に弾幕を地に放った。すると驚くべきことに、地面から噴水のごとく水があふれ出たのである。巨大な地下水脈を掘り当てたのだ。
これで地底世界の水供給は安定した。
地霊殿に限らず地底世界はこうして平和な時代へと移行していったのである。
後日、様々な偉業を成し遂げたこいしは、インタビューされた。
『どうして地下水脈をああも簡単に見つけられたのですか?』
こいしはいつもと同じ微笑を浮かべた。
「別に大したことではありません。無意識の声にしたがって、やるべきことをやっただけですし……
そう、これこそが……! 井戸の開放です!」
どや顔。
あんた本当に狂人だよwwww(褒め言葉)
和歌の応答みたいでカッコイイですね><
皆、水入らずの仲になったんだね。
井戸のおかげで。
あとがきのどや顔にイラッときたので10点減点させてもらいます
見事なアンサーだったぜ
お二方含めて面白かったです。
並べて読んだらあわせて三度おいしいぜ
んなわけで、最後で不意打ちを食らいましたww
forAnswerに乾杯だ!
本編よりも後書きのほうが笑ったww
お見事。
その才能が羨ましいです!!
最近絶好調だな
まさかここでこのネタが来るとはw
だめさとりんとこいしちゃんの地底建て直し物かと期待してたのに
流石は「狂人(クレイジー)」、伊達では御座いませんね。