こいしは目覚めた。
そりゃいろいろな面で目覚めた。
サードアイは閉じっぱなしだけれど、ともかく目覚めたのだ。
なんの話か?
いやいやそれぐらい察して欲しい。
ペットが多けりゃ食費がかかる。そりゃ物の道理だ。生き物である以上、食わねばならぬ、それもまた道理。
地霊殿の財政は傾きかけていたのである。
それにペットが多いということはそれだけいろいろと悪い面がでてくる。
例えばペットの糞が最たるものであるが、それ以外にも悪臭、疫病の蔓延を防いだりなどの衛生管理の面でいろいろとやるべきことは多い。
さとりはわりとしっかりとしているようでいて、けっこうちゃらんぽらんなところもあるから、予防注射すら打たせていなかったのだ。
なんという。
なんというずさんな。
あまりにも姉がたよりないから、こいしは無意識に自分が頑張らねばならぬと思ったのかもしれない。
傾きかけた財政とペットの衛生管理。
やるべきことはあまりにも多い。
「というわけで、まずは動物たちをみんなお風呂にいれるべきだと思うわ」
「いやけれど、動物たちには水を嫌がる子も多いわけですし……」
さとりの煮え切らない態度。
こいしはにっこり殺意全開。
「あのね。そんなことだから、地霊殿が臭くなっちゃうんでしょ。こんな馬小屋みたいな臭いだから地上の人にも嫌われちゃうんだから」
「そんなに臭いですか」
「臭い。地霊殿って臭いよねーとかネタにされるぐらい臭い」
「残酷ですねこいしは……」
「現実はもっと残酷」
「わかりました。人化ができる者に手伝ってもらって、みんなをお風呂にいれましょう」
「そのあとはちゃんと予防注射とかも打たせないと」
「わかりました。それも永遠亭の方に頼んでやってもらいましょう。けれど、こいし?」
「なにお姉ちゃん」
「我が家には……、その……残念ながら先立つものがないのです」
「お金がないと」
「そういうことです。ぶっちゃけると」
「そりゃお姉ちゃんがほいほい拾ってくるから悪いんでしょ」
「この右手が悪いんです。この右手が! 時々うずいてどうしようもなくなるんです。十倍アイスクリーム!」
「私の無意識が言っている。姉を許すべきではないと……」
「反省していますよ。とはいえ、いまさらペットを捨てるのも忍びないです。一度飼った以上は最期まで面倒を見るのが飼い主の責任です」
「ふむ。それは偉いと思うよ。じゃあ財政状況の改善とともに、ペットたちの健康にも気を配ればいいわけね」
「そういうことになりますね」
「じゃあ計算書類とか事業報告書とか出してよ」
「こ、こいしが何か難しいことを言っています」
おろおろとするさとり。
こいしはためいきをついた。
「あのね。私はこう見えても計算は得意なんだからね。お姉ちゃんとのギャップを埋めるためにどれだけ努力しているのかお姉ちゃんは知らないのかしら」
「いや知っていますが……」
「だったら早くだしてよ」
「ありません……」
「はい?」
「だからそういう類のものはまったく作成していないのです」
「どんぶり感情ならぬどんぶり勘定だったわけね。私よりずさんじゃない」
「さとってください」
「お燐が裏方でがんばってたのがわかった気がするよ……」
「フフフ……」
「そうやってカリスマっぽく見せようとしてもダメ」
「ダメですか……残念です」
「しかたないから、お燐に聞いてみようっと……」
召喚請求にしたがってお燐はすぐにあらわれた。
額には汗。ゴスロリチックなハンカチで額をふいて恐縮している。
「ねえ。お燐。どうも地霊殿の財政状況があまりよろしくないようだけど……どうなってるの?」
「どうもこうもありません。見てのとおりですよ」
「まあ最高責任者たるお姉ちゃんがあのていたらくじゃ仕様がないとは思うんだけど、お燐はもうちょっとやれると私は思ってたわ」
「その、あたい猫ですし」
「猫だから?」
「猫ってほら、自由ですし」
「じゃあ本当に計算書類とか事業報告書とか、なにもないわけね」
「そのとおりでして……にゃはは」
「たるんでるわ!」
こいしは大喝した。
いつものふわふわした微笑のまま怒りのオーラを発している。
逆に怖いぐらいである。
しかしこの怒りこそは、地霊殿ひいては地底世界の革命の礎ともいえるものであったのだ。
まず、こいしが着手したのは計算書類と事業報告書の作成である。
その後、肥大化した財政赤字のある行政活動に対して適切にメスをいれていく。
財政とは要するに歳入と歳出のバランスをとる作業である。
こいしはほとんどひとりで、適切な配分をおこなった。
次におこなうべきは地霊殿に限らず、地底世界という閉じられた空間での物資の有効活用である。これを閻魔庁あたりからの支援でまかなおうとするとその分余計に財政を逼迫することになる。
そこで提案したのはリサイクルの概念である。
いままで使い捨てだった様々なものの有効活用は地底世界に概念的な革命をもたらしたのである。そもそも地底世界の妖怪は捨てられた存在であった。しかるにもったいない精神というものに皆欠けていたのである。
世界には思いやりが欠けていた。
こいしだけが――
無意識を操るこいしだけがそのことに気づくことができたのである。
さらに、こいしの偉業はそれだけにとどまらない。
こいしが着目したのは核エネルギーの安全な使用法である。現在、お空という個人によって支えられているシステムは非常に不安定であり、正直なところお空は直情型であるから、その点もなんとかしなければならない。
この点については、さとりとこいしが交代で世話をするということで落ち着いた。お風呂には毎日いれてあげて、マッサージ三食昼寝つき。これで地底世界のエネルギー供給は安定した。
地霊殿に限らず地底世界はこうして平和な時代へと移行していったのである。
後日、様々な偉業を成し遂げたこいしはインタビューされた。
どうしてこのような環境保全活動に着手しようと思ったんですか?
こいしはいつもと同じ微笑を浮かべた。
「べつにたいしたことではありません。無意識の声にしたがって、やるべきことをやっただけですし……
そう、これこそが……! スーパーエコです!」
どや顔。
敢闘賞、そしてさらなる研鑽と再来を願います。
スーパーエコが押し寄せまくってハァハァしちゃいまひゅううう!
やっぱり喚くさんは凄い
匿名10点入れようと思ってましたがやめます
こういう一発ネタはわりと好きです、良かったです
それ以外は良かった
気づいた時点で自主的にタイトル変えるべきだろうし、どうしてもこのままが良いなら自分から氏にメールなりなんなりで「事後になって申し訳ありませんが、名前使わせていただきました」と連絡取って許可いただくのが筋だと思う。
もう連絡取っていらっしゃるならいいと思いますが、どうにもあとがきへのツッコミ待ちで氏には何も知らせていないように感じられるので、長々と書かせていただきました。
以上の理由で点数は0で書き込ませていただきます。
台詞と一緒に想像したら思ったより恐かった
それはそうとさとりさんがへたってるとやっぱり可愛い。