「おーもーいー」
八雲紫は苛立っていた。
それと言うのも理由は簡単、外の世界から拝借してきたPCが上手く動かないのだ。
入手してきたのはスペックも申し分ない最新版PC、セットアップも配線工事もプロバイダとの契約も全て式神が完璧にこなした筈。
にも関わらず、この電話線時代を思い出させる動作の重さは一体なんだと言うのか。
紫は右手で頭を掻きながら、マウスをうねうね動かして画面が動くのを待つ。
「……他のサイトはちゃんと繋がるのに」
そうなのだ。
紫が普段見ているサイト『とら○あな』や『メロン○ックス』、他にも『ニコニコ○画』などは極普通に見る事が出来る。
しかし今回の彼女の目当てであるサイト、『東方創想話』だけが異様な重さで彼女の前に立ち塞がる。
せっかく今日はゆかれいむタグがついている作品を読み漁ったり、実際にゆかれいむ作品を投稿してみようと思っていたのに、これではやる気も削げるというものだ。
溜息を吐いた紫が、ブラウザを閉じようと思ったその時であった。
「おや、紫様。如何なさいました?」
障子が開かれ、九本の尾を持つ式神、八雲藍がその姿を現した。
何を隠そう、彼女こそがこのPCの設定を全て行った張本人である。
はじめは紫自らセットアップしようと思っていたのだが、マニュアルに書いてある日本語と言う名のスワヒリ語が解読できず、全権を彼女に委ねる事にしたのだ。
機械音痴な主も安心、一家に一匹八雲藍である。
「如何も何もないわ。創想話が重くて見れた物じゃないのよ。貴女何か設定を失敗したんじゃないの?」
「そんな筈は無いのですが……創想話だけですか?」
「ええ、創想話だけ、よ。せっかく今日はSSを書こうと思っていたのに興醒めだわ」
投稿画面で書くつもりなのかとか、人差し指タイプでどれだけ時間掛かるんだとか、浮かんでくるそんな思考を藍は首を振って吹き飛ばす。
取り敢えずはブラウザを眺めてみるが、自分が使っているPCと比べて別段変わった所は見られない。
しかし確かにマウスを動かしてみるとその不自然な程の重さに驚かされた。
最新版PCに光ファイバー、これで動作が重いとなれば問題はサイトの方にあるように思われるが、実際に藍のPCでは軽々と動作しているというのだからその線も薄い。
だとしたら一体どうして……聡明な式神は顎に手を当てて考え込む。
「紫様、また変なサイトに行ったんじゃ……」
「い、行ってませんっ! 18禁ゆかれいむサイトなんて探してないし、もし行ったとしてもウイルス○スターがあるから安心だわ!」
「その甘い考えが危険の始まりなんですが……まぁ、しかし今回に限っては重くなっているのは創想話だけのようですし、ウイルスとかでも無さそうだなぁ」
紫の閲覧履歴を乾いた目で眺めながら、式神はうぅむと唸る。
ひょっとしたらこれは一筋縄では行かない問題かもしれない。
とりあえず一度自分のPCの画面と見比べるべく、席を離れようとしたその時、藍は一つの事に気がついた。
「紫様、そういえばIE8を使っているんですね」
「あ、あいいーはち?」
「インターネットエクスプローラー8ですよ。Windowsの最新Webブラウザで、インターネットエクスプローラー7の次のバージョンにあたります」
「日本語で話して頂戴、藍」
この機械音痴に聞いても無駄だったか、と藍は小さく溜息を吐く。
最初から今の設定となっていたのか、それとも紫が知らず知らずの内に今の設定にしてしまったのかは定かでは無いが、確実に今開いているブラウザはIE8であった。
それはブラウザにIE7か火狐を使用している藍とは異なっている点、まさかここに原因があるのでは、と藍は己の記憶を手繰り寄せる。
そういえば、昔そそわスレで―――――
「お、軽くなった!」
「え、嘘!?」
聞こえてきた藍の明るい声に、紫は信じられないとばかりにその身を乗り出した。
半信半疑のままマウスを動かしてみると、今までに比べて明らかに軽い。
クリックすればすぐにページに飛ぶし、ドラッグをしても全くラグが無く画面が付いて来る。
それは先程までの創想話がまるで偽者で在るかの如き快適空間であった。
「ど、どうして……? 何か細工したの?」
「細工と言うほどの物じゃありませんよ。ただこの互換表示ボタンを押しただけです」
藍は少しばかり得意げになりながら、ブラウザの右上の方に表示されている小さなアイコンを指差した。
丁度URLの表示の横に在るそれは、一見すると紙が破れているようにも、山が二つあるようにも見える不可思議なアイコン。
まじまじと見つめてみる紫だが、このマークが一体何を意図しているのかが全くもって理解できない。
「これは『互換表示ボタン』と言いまして、古いブラウザ向けに設計されたサイトを表示する際に有効なボタンです。サイトが不自然に重かったり、画像などの位置がおかしかったりする場合、このボタンを押す事で直る事があるんです」
「な、なるほど……つまり創想話は古いブラウザ向けのサイトなのね」
「創想話が創られたのは2003年ですからね。もう7年も前の話です。IE8でこういった歴史の長いサイトを見たい時は互換表示ボタンがある事を知っておくのが大切ですね。勿論ブラウザ事態を変えるという手もありますが、互換表示ボタンはとても簡単なので覚えておいて損はありませんよ」
「ありがとう、流石は一家に一匹八雲藍ね。これで心おきなくゆかれいむSSが書けるわ」
「では私はそのSSが投下されるのを心待ちにさせていただきますね」
ニコリと温和な笑みを浮かべてから、藍はその場を立ち去った。
―――――
数時間後、本日の執務を終え部屋に戻ろうとした藍は、主の部屋から漏れる灯りに足を止めた。
(まだお休みになられていないのか……)
SSを書くのに熱中するのはいいが、生活習慣を崩すのは大きな問題だ。
特に彼女は12時間睡眠が必要な妖怪なのだから尚更と言うもの、藍が注意をしようと障子に手を掛けたその時だった。
障子の隙間から覗き見た主の姿に、藍は言葉を失った。
「……また入ってない」
カチカチカチカチカチカチ。
そこにあったのは、十秒ごとにF5ボタンを連打する八雲紫の姿。
まるで何かに取り付かれてしまったかのように、画面を注視し続けている。
「……また入ってない」
―――――嗚呼、どうやら私は、また一人無垢な少女を魔の道へと誘ってしまったようだ。
藍はこみ上げる涙を必死に絶えながら、そっと障子を閉じた。
ゆかりんの悲哀が涙を誘うぜ・・・
IE8を使っていたころ、紫様と同じような感じで思ってました。
safariに比べ極端に遅かったので、ブラウザの所為だと思って火狐に変えました。
まさか、互換表示なるものがあったなんて。
まぁ、火狐に慣れたので、これからも、火狐を使っていくでしょう。
こんなところを突くなんて、面白かった。
あとゆかりんかわいいよゆかりん
ゆかりん……
お礼に一番いい装備をどうぞ
大丈夫だ、(SSとしても)問題ない
まあ・・・イイ説明だったよ。
携帯からの俺にはなんのことや……いや、確か前PCで来た時重かったような。
まぁそれはいいとして、SSとして楽しめたか、というとちょっと難あり、かな。
なんと言うか、名前ホイホイ過ぎるだろw
ありがとうございます。ありがとうございます……!
さようなら、重力創想話!
こんにちは、快適創想話!
淡々とss仕立てに出来るなんて、素直に関心しました。
しかもかなり読みやすかったです。
ありがとう、助かりました
それにしても、何が入ってないかわからn
そんな点数で大丈夫か?
ゆかりんにとても共感できる。
こんな説明で大丈夫か?
だったら満点だった
自分は前までsleipnil使ってた時すごく重かったです
つい先日firefoxに変えたら改善されたのですが、そういった機能もあったのですね
勉強になります
何となく誤字報告を。
ブラウザ事態を → ブラウザ自体を
何かに取り付かれてしまった → 何かに取り憑かれてしまった
そうだったんだな。
SSとしては普通ですが説明としては分かりやすかったです
ほんとに軽くなった!ありがとうございます!
とまれ、こんな風にSSの形で有益な情報を知らせるというのはなかなか、思いつきそうで思いつけないアイディアですね
これで幸せになれる人が増えるといいですね。
まあいい説明だったよ。小ネタも面白かったしね。
何故なら同様の質問が出た場合はこのSSに誘導すればいいだけなのだから。
sleipnir等のIE互換ブラウザで同様の症状が出てる人にもお勧めしましょうそうしましょう。
まぁ…いい作品だったよ
まあ特殊なSSは一部見れませんが
イーノックさんは優しいのですね
Megalithの作者さんがIE8の表示不具合を修正したから、marvsさんがMegalithを更新すればこの
不具合はなおるよ!
作品も以上に作者様に100点をあげたいっ! 南無三――!
>紫の閲覧履歴を乾いた目で眺めながら
やめーたーげーてー!
入ってないって点数のことか?w
それにPCではGoogle Chromeがメインだから重いとかあまり関係なかった。
とはいえ解りやすい説明だったので100点。
これでIEユーザーの方々が快適に創想話を閲覧できますねっ。
イーノック「大丈夫。(開設記念が万点を越えてるんだから)問題ない。」
互換表示のお知らせを作品の形にするとは。お見事でした。
作者がゆかれいむ書けよ おう 早くしろよ
ゆかれいむを推奨した方がもっと良いよ。
なんてね。
続き期待してます
でもその優しさとSSにしたのは素晴らしいと思います
また、SSとしても秀逸だと思います。
でもこの題材でSSとしてまとめたのは凄いと思いました。